１０年ほど前、あるオカルトテーマが話題となった。

　　――予言（または預言）。

　　代表的なものではノストラダムスの予言詩集（通称“諸世紀”）であるが、もちろんそれだけではない。
　　ヨハネの黙示録、エドガー・ケイシーの透視（リーディング）、マヤ文明の終末観etc.

　　“大世紀末”であった１０年前には、それこそ無数の予言テーマがあった。
　　まさに、１種のブームに等しい賑わいを見せていたのである。
　　社会現象……と言えば大ゲサかも知れないが。
　　（現在でもネタにはなるが、ピークを過ぎたためか当時ほどの賑わいはない）

　　そんな予言テーマの中でも注目を集めたのが、世界的大事件の予言である……まぁ、当然と言えば当然だ。
　　１個人誰それの未来透視より、世界史を揺さぶる事件の方がセンセーショナルだからだ。
　　１９９０年代という時代背景も、それを助長させただろう。
　　代表的な１因はノストラダムスの“１９９９年の詩”であっただろうが、
　　世界情勢や地球環境が、社会不安を拡大させる“火種”を抱えていたことも無視できない。
　　もちろんその火種は当時のみならず、２００８年の現在においても存在するのだが。

　　……だが、結果として、多くの予言は的中することなく終わった。
　　世界は２０００年で終わらなかったし、世界大戦も極移動も起きなかった。
　　ローマ教皇庁は２００８年の今も健在であるし、日本もカリフォルニアも沈没していない。
　　まぁこれもまた、ある意味では当然のことであった。


　　――ただし、その理由（的中しなかったのが当然という理由）だが、
　　世間一般の常識的な意見と、Ｇ-ｍａの見解は若干異なっている。


　　Ｇ-ｍａは簡単に言えば、オカルト肯定派である――但し“信奉派”ではない。
　　混同されがちであるが、肯定することと信奉することは全く違うので、誤解なきよう。

　　……何を言いたいのかというと。

　　ファンタジックなものを想像するまでもなく、生物には神秘的な感知能力があると考えている。
　　証明こそ出来ないが、それを示唆する現象は幾つもあるはずだ。
　　空想科学ファンのＧ-ｍａとしては、そういう神秘性を最大限尊重したいわけである。

　　しかし、精神世界で言われていることの多くを、鵜呑みにするわけでは決してない。
　　鵜呑みにするのは具体的な理由もなく信じることであり、それは信仰と何ら変わりはないからだ。
　　Ｇ-ｍａが関心を持っているのはあくまでも感知能力の可能性であり、宗教ではないのである。
　　……決して宗教的価値観を否定しているわけではない、悪しからずご了承頂きたい。
　　宗教や信仰の話をするために、この雑記を書いているわけではないということである。

　　予言というオカルトテーマは、その“感知能力の可能性”を探るのにちょうどいい分野なのだ。
　　しかしそのためには、予言を“単に信じる”のではなく、“肯定に足る信憑性”を探すことになる。
　　簡単に言えば、空想科学における怪獣の生態分析と似たようなことを、この分野に対して行うのである。

　　言い方を変えれば、その予言が“空想科学的であるか否か”が、信憑性の重要な指針になるのだ。
　　空想科学は空想の中の論理概念であり、証明は出来ないが辻褄の合ったものだと解釈している。
　　人によってはコジツケとも言い訳とも屁理屈とも言うだろうが、
　　元々リアル科学ではないのだから、厳密な証明にこだわる必要はないのだ。


　　……これ以上語ると脱線になるので（爆死）本題に戻ろう。


　　Ｇ-ｍａが何ゆえに、「世紀末の予言の多くが的中しなかったのは当然」と考えるのか。
　　それは決して“予言なんて非科学的なオカルトだから”ではないのである。

　　結論から言えば、世紀末予言の多くには“ノイズ”が大量に含まれていたと考えるからだ。
　　といっても、ＳＦ的な話をしているのではない。
　　予言を“解釈”する際に、知らず知らずのうちに“先入観”を導入していたということである。

　　全ての予言は、オリジナルの断片的な情報を“解釈”することで、
　　発表するための最終的な結論が得られる、とＧ-ｍａは考えている。
　　謎めいた詩集や文章のみがほとんど唯一の原本である、ノストラダムスや黙示録然り、
　　「神の声を聞いた」と主張する預言者や、「未来を見た」と言う予言者然り。
　　人間には必ず自我があり、主観がある……抑制は出来ても抹消はできないものだと思う。
　　その自我や主観が先入観を呼び込み、解釈に余分なノイズを入れる可能性が高い、ということだ。


　　例えば、ある有名な予言者が「猛烈な地震で都市が破壊される未来風景を見た」とする。
　　そして「○○年○月○日に、東京でＭ８の直下型地震が起きて１００万人が死ぬ」と発表したとする。


　　この発表を「あの有名な○○氏が言うのだから、きっと起こるだろう」と思ったとしたら、
　　既にその時点で“思い込み”という重大なノイズが紛れ込んでいることになる。
　　それだけではない……○○氏が“その日付”を選んだ根拠とは何なのか。
　　何故東京なのか、何故Ｍ８なのか、何故直下型地震なのか、何故１００万人が死ぬのか、
　　この全ての疑問に対して納得可能な“裏付け”が取れない限り、信憑性の評価はできないのである。

　　○○氏がただ単に、「東京はいつか滅び去る運命にある」と考えていたのが根拠だったら？
　　「東京で起きる地震と言えば直下型地震」「きっとＭ８以上の巨大地震に違いない」
　　そういう思い込みが解釈につながっていないと、何を根拠に断定できるのか。
　　“別の地域で起きる被害地震”ではないと、いかなる理由で言い切ることが出来るのか。
　　とある自称予言者など、“別の地域で起きた地震”を的中例に含めた図太さが失笑ものだ。
　　……この件については後述しよう（^^;）


　　これがＧ-ｍａの考える「空想科学的分析による予言の信憑性」である。
　　「○○氏が大地震の危機を察した」こと自体は、全く否定していない。
　　“空想科学的分析”で予知能力そのものを否定するのは、怪獣映画で怪獣を否定するのと同じだからだ。
　　怪獣映画における空想科学が「怪獣の存在を前提」としているように、
　　予言の信憑性を判断するための分析も「未来予感が可能という前提」から始まっている。

　　ノイズの除去というのは簡単なことではない……ノイズにすら気付いていないことも多いだろう。
　　特にこの分野に対して、肯定と信奉を混同している人々は最もノイズに惑わされ易い。
　　予言発表をレポートする記者等が、ノイズを更に上書きする場合も少なくないだろう。
　　うわさ話に尾ひれが付いて“巨大化”するのと同じ理屈である。
　　ノストラダムス予言詩集の“地球爆発解釈”など、このノイズ巨大化の最たるケースだ。


　　以下は誤解から生まれるノイズのうち、特にＧ-ｍａの関心度が高い“地震予言”について書こう。


　　地震災害はその性質上、他の災害より突発的に起きるように見える所為か、
　　予言テーマの中でもセンセーショナルなネタとして取り挙げられることが多い。

　　ただ残念なことに、この種の情報をレポートする側や“自称”研究者は、
　　往々にして地震や地球科学に対する、基礎的な知識が抜け落ちたまま、
　　ハイライトだけを脚色して発表しているケースが多いのだ。

　　因みに「科学の世界を超えた神の警告だから素直に聞きなさい」というのは宗教なので悪しからず。
　　というか、理屈を無視した精神論を語るなら、科学用語を出すのは詭弁だろう。
　　信仰の力を宣伝したければ、黙示録のように“宗教用語”に徹すれば良いではないか。


　　必ずしもオカルト的な話だけではないのだが、幾つかの実例を挙げよう。

　　●１９８３年関東近畿大地震予言のケース

　　これは、とある“夢予言”を発表してきたＨ氏のケース。
　　彼は１９８０年代の始め頃に、夢によって「未来の巨大地震」を見たのだと言う。
　　そしてそれを「１９８３年、Ｍ８をはるかに上回る地震で関東から近畿が被災する」と解釈した。

　　……しかし結局、それは的中しなかった。

　　省みれば、１９８３年、Ｍ８以上、関東〜近畿、この３つのキーワードは全てノイズだったのだ。
　　当時、Ｈ氏がその説を発表するまでもなく、「近いうちに大地震」という説が氾濫していた。
　　１９２３年の関東大震災から６０年が過ぎていたのも理由の１つであっただろう。
　　自然学者のＳ氏も「極めて近い将来に関東地方でＭ８以上の巨大地震が起きる」と発表していた。
　　結論から言えば、Ｈ氏の発表は結局、これらの世相に影響されたものだと言えるのである。

　　――ただし、１９８３年に全く地震が起きなかったわけではない。
　　否、マスコミが大きく注目する地震が、５月に発生している。

　　大津波により１００人を超す死不明者を出した『日本海中部地震』である。
　　それまでの３０年ほど、死者が３桁に達する震災はなかっただけに、関心は高かった。

　　そしてＨ氏は後に、「私はこの地震を予知し完全に的中させた」と豪語した。
　　恐らく、「１９８３年関東地震予言」を修正し、的中と判断したものだろう……なかなかの図太さである。
　　しかし、言わせてもらうならば日本海中部地震で被災したのは東北である。
　　関東でも東海でも近畿でもなかった……規模もＭ７．７で、Ｈ氏の発表より１桁小さい。

　　Ｈ氏がこの地震の可能性を察し、「関東地震」と誤解して発表した可能性はあるが、
　　自身満面に的中と言える精度ではなかったことだけは間違いない。

　　●１９９４年アルジェリア地震のケース

　　こちらはとある史書研究家が発表した「地震周期説」のデータとして取り上げられていたものだ。
　　「阪神大震災が起こる前、世界でこれだけの地震が起きていた」という形で書かれていたものだが。
　　その中に、こんな１文がある。

　　「１９９４年１０月、アルジェ、巨大地震、大被害」

　　予言とは違うが、これもまた誤解であり、ノイズの１例に当たる。
　　何故なら、そんな地震は起こらなかったからだ。

　　フォローするならば、地震災害自体は起きていた。
　　まさに１９９４年１０月にアルジェリア北部で……規模はＭ５．４、死者１００人を超えた。
　　しかし……被災地はアルジェから離れた地方都市であり、決して巨大地震ではない。
　　Ｍ５．４と言えば、日本周辺でなら年に何十回も発生している規模である。
　　Ｍ５．４は確かに原爆に匹敵するエネルギーだが、兵庫県南部地震（Ｍ７．３）の６００分の１だ。
　　大被害だったことは事実だが、そのイメージが“大都市で巨大地震”という誤解につながったのだろう。

　　これに限らないが、大きな被害を伴う地震が起きるたびに、
　　あたかも想像を絶する巨大地震が起きたかのような報道がなされるのは考え物だ。
　　地震の被害は、決して規模には比例しないからである。
　　車にはねられて軽傷だった人もいれば、棚から落ちた鈍器で亡くなる人もいるように、
　　その場の環境条件次第で、被害の程度は千差万別なのである。
　　Ｍ８の地震で１人の犠牲者も出ないこともあるし、Ｍ５の地震で何百人も死亡することもある。
　　確かにＭ５でも、そのエネルギーは確かに“想像を絶する”が、
　　それは地下で起きている現象としては、ごくごく一般的な状況でもあるのだ。

　　空想アニメや特撮映画などにも通じる話であるが、人間はスケール感というのを誤解しやすい。
　　インフレーションな設定や展開が飛び出すのも、この辺に起因していることが多い。
　　空想科学○本などで突っ込まれているようなネタは、この種の災害研究にもあるということらしい。

　　●２０００年世界巨大地震予言のケース

　　とある予言研究者Ｉ氏が、霊感者らしき人物の「予知」として発表したもの。
　　上記した“スケール感の欠如”の最たる事例が、ここにある。

　　Ｉ氏が言うには、その霊感者は「２０００年にＭ１６の地震が起きる」と言ったそうだ。
　　事実であるとすれば、それは“地球爆発予言”に等しいインフレノイズの極致と言っていい。

　　なぜなら、Ｍ１６という規模の地震は、地球では決して起こり得ないからだ。
　　といっても頭ごなしに“無限の可能性”を見限っているのではない。
　　Ｍ１６というエネルギーのスケールが分かれば、誰もが失笑するに違いないのである。

　　マグニチュードという単位は、１増えると３２倍、２増えると１０００倍になる。
　　つまり２００４年スマトラ地震（Ｍ９．３）は、兵庫県南部地震の約１０００倍ということだ。
　　Ｍ１６の場合、Ｍ８の地震より、１２桁も大きなエネルギーになる。
　　スマトラ地震の１００億倍（！）という途方もないエネルギーを、地球で解放したらどうなるのか。
　　想像でしか言えないが……それはもはや地震という規模でも、地殻変動という次元でもない。
　　全ての大陸が粉々に粉砕され、地球が真っ二つに割れるのに匹敵するエネルギー量だろう。
　　もはや人類滅亡というレベルではない……地球が地球でなくなってしまう。
　　そんなエネルギーがどこにあるというのだろう？――それこそ、月でも衝突しない限りあり得ない。

　　参考までに言えば、中生代に起きたという小惑星の衝突では、Ｍ１２の地震が起きたという。
　　Ｍ１６は、恐竜絶滅を誘発したという直径１０ｋｍの天体衝突よりも、更に大きい。
　　エネルギー量は１００万倍だ……直径１０００ｋｍの小惑星が衝突するのに等しい。
　　現在の惑星科学によれば、そんな規模のインパクトが起これば、地球は原形を留められないという。

　　結局そんな地震は起きなかった（起きてたら今頃地球は存在しない^^;）わけだが、
　　恐らくは予言者も研究者も、Ｍ１６がそれほど反則的な規模だと、思っていなかったのだろう。
　　知っていたなら、それがもはや審判の次元でないことが理解できたはずだからだ。

　　●２００８年中国沖地震予言のケース

　　さて、最後はごくごく最近、とある雑誌に掲載された予言の話。
　　南米出身のある霊感者の発表を伝えたレポートである。
　　その霊感者Ｊ氏は、先の四川地震を予知したのだというが、このレポートは未来に関する話だ。

　　「２００８年９月中旬、海南島沖でＭ９の巨大地震が起こり、日本の東海地方でも起こり得る」らしい。

　　時の話はこの際置いておくとして、まず３つのキーワードに、ノイズの可能性がある。
　　未来の話（執筆は2008年8月）だから“起こる前から”否定するのはさすがに乱暴だろうが、
　　それでも“ノイズと疑わしき情報”は、チェックしておくべきだろう。

　　３つのキーワードは、海南島沖、Ｍ９、東海地方である。
　　まず最初の海南島沖だが、ここにＭ９もの地震を起こせるような震源は考えにくい。
　　これがＭ８なら、まだ可能性は否定できなかったのだが。
　　そもそも、何故海南島沖なのか、という疑問もある。
　　ただ地殻構造上は、かの四川地震を起こしたテクトニクスの延長らしく、
　　とある専門家の見解でも、巨大地震の可能性自体はあるようだ。
　　しかしそれでも、Ｍ９というのは幾らなんでも突出していると思えてならない。

　　スマトラ地震の報道で知られるように、Ｍ９クラスの地震には広大な“震源域”が必要だ。
　　本州の半分ほどの面積を持つ地殻内の巨大な断層（プレート境界）が、
　　１０ｍ以上もずれ動いて、初めてＭ９クラスの“超巨大地震”が起きるのである。
　　そしてそんな大規模活動が起こるような場所には、海溝や山脈などの明確な地殻変形箇所がある。
　　日本海溝、千島海溝、アタカマ海溝、スンダ海溝、ヒマラヤ山脈など、いずれもこの種の場所であり、
　　過去にＭ８．５〜９．５という圧倒的な巨大地震を引き起こしてきた“前科”がある。
　　（スマトラ地震の震源に海溝地形はなかったが、巨大地震を起こし得るプレート境界はあった）
　　そういう前科が記録になく、また地殻変形の痕跡もないか少ない場所で、
　　いきなり何の前触れもなくＭ９もの地震が起こることは、まず考えられない。

　　ついでに言えば、第２キーワードである“Ｍ９”にしても根拠薄だ。
　　過去の同業者がやったように、“注目されるために風呂敷を広げた”可能性はないのだろうか。
　　Ｊ氏はいわゆる“予知夢タイプ”らしいが、かつて同じようなタイプだった前記のＨ氏は、
　　発表を行うたびに、半ば乱暴にＭを引き上げた“実績”がある。
　　同じ“未来の運命的地震”でも、当初はＭ８．５程度だったものが、
　　何度目かの“修正予言”では、Ｍ１０以上になっていたことがあるのだ。

　　１００歩譲って、『日本沈没』のような特殊な地殻変動が起きる可能性を考えることも可能だが、
　　そうなるとそれはもはや、普通の地震ではなくなってしまう。
　　ここで指摘したいのが、Ｍ９というキーワードの“Ｍ”つまりマグニチュードである。
　　Ｊ氏が本当に「Ｍ９」と言ったのなら、それは原則的に地震であるということだ。
　　仮に陸塊が陥没するような地殻変動を予知して言ったのなら、大陥没を地震と誤解したことになる。
　　何が言いたいかというと……Ｊ氏が問題の予感を“巨大地震”と思い込んだ可能性だ。
　　都市を破壊するような“大津波”を引き起こすのは地震だけではないからだ。
　　あるいは“Ｍ○○”という、巨大地震自体のセンセーショナルな響きに惑わされた可能性もある。
　　「地震が起きる」と予言しても、本当に地震であるとは限らない、ということだ。

　　そして第３キーワードである東海地方。
　　ぶっちゃけこっちの話は「常に一定の注目を集める地震の巣」であるためと思えて仕方がない。
　　１９９０年代の予言ブーム時、関東やカリフォルニアが盛んにネタにされたのと同じだ。
　　発表した人物が、南米在住というのも意味深である。
　　“地球の裏側で起きる異変”に、暗示的な神秘性を感じていた可能性は否定できない。
　　聞くところによると、Ｊ氏は熱心なカトリック信者だそうだ。
　　ケイシーやノストラダムスと同じく、Ｊ氏もまた信心深いキリスト教徒なのである。

　　そしてもう１つ、この発表を取り上げたとある雑誌の記者は、
　　「最近日本でも異常な変化が起きている」と不安を煽っているが、
　　こういう“疑わしき異変”なら、過去にも似たようなケースは度々あったのではないだろうか。
　　（確か１９９０年代にも、富士山の火山性地震で似たような話があった）
　　レポート内容にしても、その某予言者の発表に便乗したようなネタばかりで、
　　“空前の大変動”を示唆するほどの特殊性がない。

　　だからといって「そんな地震は絶対に起きない」と断定する気はないが、
　　この予言やレポートにも、どうも多くのノイズが潜んでいる気がしてならないのである。


　　……後編（及び追記）に続く（^^;）