……前編から続く（^^:）


　　地震予言はセンセーショナルな響きが強いので注目を集めやすいが、
　　“天変地異”という終末的なイメージ自体がノイズとなっている可能性がある。
　　典型的なのが１９８０〜９０年代、盛んに関東やカリフォルニアの地震が予言されたことだ。
　　それ以外に、アメリカ東海岸がネタになったことも少なくない。

　　指摘したいのは、その多くが“社会的に有名な”地震地帯であったり、
　　人口が密集した都市域であったり、歴史の長い地域（主にヨーロッパ）であることだ。
　　……当たり前のことだが、地震は必ずしも、都市ばかりを襲わない。
　　関東・東海・カリフォルニア以外にも、地震の巣はたくさんあるのに、何故か対象外だった。
　　イランやトルコなど、数年に１度の頻度で震災に襲われているのに、ほとんど指摘されていない。
　　またアジアの主要都市で、ネタになったのはほとんど東京である。
　　確かに東京の災害リスクは世界最悪とも言われるが、東京だけが危険なわけではない。

　　結論を言えば、これらは全て“西洋終末思想”に影響されたノイズだったと言えるのだ。
　　ハルマゲドンを示唆するような戦争予言が頻繁に言われたのも、同じノイズの例と言える。
　　東京が盛んにネタにされたのも、日本がアジア初の近代大国となったためではないか？
　　現在でこそ韓国や中国が目覚しい成長を見せているが、２０世紀のアジア大国は日本であり、
　　それはヨーロッパ圏の人々に、強い印象を与えたはずである。
　　「有名な地震の巣と言えば関東地方や東海地方やカリフォルニアだ」
　　「大都市の破壊は神の審判として必ず起こるに違いない」
　　「ヨーロッパは黙示録に予言された審判の日がきっと近いはずだ」
　　「地球規模の大変動なのだから、きっとアジアでも大災害が起こるはずだ」
　　暗示が高じて現実になることもあるので一概には言えないが、
　　１９９０年代の予言情報の多くは、黙示録に代表される西洋終末神話や、
　　当時の数々の印象的な世相に、多分に影響を受けた可能性があるのだ。


　　予言という分野は、神話と同様、視点１つで非常に興味深い世界だと思うのだが、
　　世間の目は“オカルト＝胡散臭いネタ”か、“信仰と混同した（あるいは盲目的な）肯定論”か、
　　そのどちらかであることが圧倒的に多いように思えてならない。
　　“神秘的な予感の可能性”を前提として、論理をもって分析する人は実際、どれだけいるのだろうか。

　　Ｇ-ｍａはかつて、ノストラダムスを擁護する雑記を書いたことがある。
　　「無責任な後世の解釈によって、ノストラダムスの名誉が汚されている」と考えているからだ。
　　文献を読めば分かることだが、ノストラダムスはただの１度も、人類滅亡に言及してはいない。
　　黙示録を示唆するような謎めいた詩を書いたのは事実だが、それは後世の解釈で幾らでも変わるものだ。
　　「霊界でノストラダムスから直接聞いた」などというファンタジー全開主張もあるが、
　　ならば何故、晩生の大半を注いだ詩集の作成時、それをもっと分かりやすく示唆しなかったのか。
　　後世の人間は、その気になれば幾らでも捏造することが出来るわけで、全く説得力がない。

　　Ｇ-ｍａは、ノストラダムスは感性鋭い医者として、また敬虔なクリスチャンとして、
　　危惧される未来（黙示録的な裁きを示唆する疫病や洪水など）に備えて欲しい、
　　そのために詩集を残したのだと思えて仕方ないのである。
　　黙示録で書かれたような戦禍が起きれば、当然街は破壊され、多くの市民が家を失う。
　　荒廃した町では疫病が蔓延し、ノストラダムス自身が経験したように、
　　多くの家族が失われる悲劇が現実になることだろう。
　　彼が思慮深く、誠実な医師だったのなら、これほど哀しい未来図もないはずだ。

　　その危惧を神話的に書き綴ったのがあの詩なのだとしたら――もちろん、これもまた解釈に過ぎない。
　　しかし、強引に現代社会にこじつけて細かい展開を云々するより、ずっと有意義ではなかろうか。
　　黙示録にしても、本来は“審判”に残るような、有能な信徒になることを促す神話だったのではないか。
　　“修行の成果”を示す大イベントを用意して、意欲を高める狙いだったのではなかろうか。


　　予言者と言われる人々が、「未来の詳細な光景が見える」というのは、眉唾だとＧ-ｍａは思う。
　　たとえ、彼らが常人離れした鋭い予知能力を持っていたとしても――だ。

　　これもまた推測ではあるが、“見える未来”の多くは夢の如く曖昧で断片的なもので、
　　そこに“解釈”を加えることで、初めて具体的な肉付けが行われるのではないだろうか。
　　しかしそれは同時に“脚色”でもあるために、間違えると本質を見失ってしまうのではなかろうか。
　　慎重に解釈しないと、それがノイズであることに気付かない場合も多いのではないか？
　　だからこそ――的中しない予言があったり、まるでありそうにないインフレ終末論になるのでは？
　　ノイズが多ければ多いほど、的中しなくなるのは理にかなっていると思うがどうだろう。

　　科学というのは、すでに証明されている事象や、想定内の事象しか説明することは出来ない。
　　超光速や反重力や超能力など、想定を超えた事象は本来対象外なのだ。
　　しかし空想科学は違う……ロマンの延長線ではあるが、これらの存在を前提とした論理がある。
　　リアル科学と違って、具体的な根拠と数式によって証明することこそ出来ないが、
　　（リアル科学が無いものと見なしている要素を有ると仮定している時点で証明不可能）
　　その前提や“仮定”によって、論理の辻褄を合わせることは可能だ。
　　そういう意味では、空想科学という分野は、こういったオカルト分野を分析する格好の素材なのである。

　　今回の“予言分析”では、「人間の感性は未来を予想することが出来る」という可能性は否定せず、
　　しかし「現在の行為によって変わり得る因果率の世界で、詳細な未来を完全に当てることはできない」
　　という前提の上で、予言発表の“ノイズ”を抽出するという作業を行ったわけである。
　　何度でも言うが、Ｇ-ｍａは予言という可能性自体は決して否定しない。
　　しかしこれらノイズ（先入観や誤解や思い込み）によって、的中率が低下し得るものであり、
　　またそういう“宿命”から、百発百中ということはまずあり得ない、と考えている。

　　逆に言えば、多少曖昧であっても、そのノイズを極力省くことが出来たなら、
　　その予言――直感的未来予測――は、相応の価値を持つものとして理解されるのではなかろうか。
　　少なくとも……Ｇ-ｍａはそういう日を夢見ているのだが……果てさて。


≪追記≫

　　前編の最後に書いたＪ氏の“予知夢”についてであるが、
　　新たな関連書籍から詳細な情報が得られたので追記しておこう。

　　まず、中国の四川地震（文川地震）を的中させたという事例に、疑惑が存在すること。
　　Ｊ氏は“予知夢”の内容を詳細な文章にして、政府機関やマスコミに送っているそうであるが、
　　四川地震に関しては、事前にマスコミなどがその警告発表を受けとっておらず、
　　Ｊ氏自身の“事後発表”として聞かされたものであったらしいのだ。
　　……つまり少なくとも、問題の予言がどこまでの精度を持っていたかは曖昧なのである。

　　次に、中国ないし日本で９月に起きるという地震について。
　　まず「海南島で起きる」というのはＪ氏本人の警告ではなく、どこかで尾ひれがついたものらしい。
　　それでもＭ９超というのはインフレな気がしてならないのであるが。
　　また日本の方は「東海地方でＭ８．６」という内容で、死者数も中国のものに比べ極端に少ない。
　　いくら日本の方が優れた防災能力を持っているとしても少な過ぎる……何しろ１０００人未満なのだから。
　　因みに中央防災会議などのシミュレーションでは、予想死者数千人〜数万人とされている。
　　加えてこの関連書籍は「中国側では震源など曖昧なのに日本は不気味なほど具体的」と指摘している。
　　Ｇ-ｍａ的には、この辺もノイズではないのだろうかと、勘繰ってしまうのである。

　　Ｊ氏自身は教師らしいが、決して学者の類ではなく、科学的知識がさほど豊富ではない可能性もあり、
　　科学用語を用いた警告発表の際に、誤解をした解釈を行う可能性も少なくない。
　　マグニチュードが地震規模の単位だと分かっていても、どうやって測定するのか知らないかも知れない。
　　あるいはそれが「神の声」だったとしても、何らかのノイズが含まれている可能性は否定できない。
　　そもそも「天声」を完全に翻訳できるのなら、なぜ同じ大事件を予言する者がほどんどいないのだろうか。

　　更に言えば、Ｊ氏の地震予言は、未来に行くほど巨大化の一途をたどっている。
　　２００９年にはＭ８．９の巨大地震が、近畿地方で起きるという。
　　２０１０年にはＭ８．４の巨大地震が、関東地方で起きるという。
　　２０１８年にはＭ１０．６の“史上最悪の”巨大地震が、東海地方で起きるという。
　　２０２６年にはＭ１０．８の巨大地震が、カリフォルニアで起きるという。
　　２０３０年にはＭ９．８の巨大地震と火山噴火が、日本列島を崩壊させるという。

　　未来に行くほど災害規模が巨大化している点は、疑ってかかるべきだとＧ-ｍａは思う。
　　それは過去の予言者の発表でも似たような事例が多く、そのほとんどが外れているからだ。
　　恐らく発表される時点で、災害規模が上書きされている可能性が高いと考えられる。
　　Ｊ氏が信心深いクリスチャンである可能性が高いことも、それを裏付けている。
　　つまり、ヨハネ黙示録などの聖書神話に強い影響を受けていることが考えられるからだ。
　　黙示録には「終末の日には史上最大の地震が起きる」というような記述があり、
　　キリスト教徒の予言者の警告に、巨大地震に関するものが多い背景ではないかとＧ-ｍａは考えている。
　　神話の頃から、地震は最も破滅的な破壊現象と解釈されていたようだ。

　　また文章的にも奇妙に見える部分が少なくない。
　　２０１８年の東海地震は“史上最悪”と言及されているのに、
　　何故か規模も被害も２０２６年のカリフォルニア地震より小さいし、
　　“日本列島が崩壊する”２０３０年の地震が、何故かその“史上最悪の”地震より小さい。
　　更に根本的なことを言えば、Ｍ１０を超えるような地震が日本で起きることはまず考えられない。
　　千島海溝から台湾まで一気に海底断層が動いても、Ｍ１０に届くか怪しいものだ。
　　しかもその地震の死者が数千人程度などということはまずあり得ない。

　　Ｊ氏の予言が的中しない、とは断言しないが、
　　インフレーションな内容を含むものは、ノイズまみれと考えて差し支えないだろう。
　
≪追記２≫

　　結局、Ｊ氏の“９月予言”は的中しなかった。
　　――まぁ、もしも的中したらしたで、秋〜冬の話題を独占する騒ぎになっていただろうが。
　　もっとも、予想の範囲内であったことも確かである。
　　筆者は予言否定派ではないが、元々的中率の根拠に疑惑があったからだ。

　　もう１つ付け加えると、Ｍ９を上回るような地震が起きる場所は、地理的に限られている。
　　Ｍ１０を超えるような場合は十中八九、眉唾と見なして差し支えないだろう。
　　それほどの巨大地震を起こすには、大陸規模の広大な震源領域が必要になるからだ。
　　ましてや「東京直下型」なんて特定されていれば尚更である。
　　東京のような狭い場所で、Ｍ９やＭ１０の地震に相当するエネルギーを解放する余地はない。
　　（日本沈没クラスの地殻変動が起きて、ようやく解放されるエネルギーになる）

　　たとえ「神の審判だから」なんて理由をつけようがつけまいが同じことだ。
　　百万歩譲って「神の意思で東京が破壊されなければならない」のだとしても、Ｍ８で十分である。
　　（Ｍ８クラスの地震は東京でも起こり得るし、実際に過去に起きた可能性が高い）
　　ぶっちゃけＭ９以上はほとんどの場合、発表する側の拡大解釈や誇大妄想と言える。

　　ただ興味深いことに、Ｊ氏の地震予言はＭ６〜７という“現実的”なものから、
　　Ｍ９〜１０という“終末論的”なものまで非常に多彩だ。
　　この辺りが筆者にとってもＪ氏をある程度は評価したい理由の１つであり、
　　「最初から１００％でっち上げ」ではないかも知れないと考えられる根拠なのである。
　　前記したように、「仮に予感が本物でも、ノイズによって違う解釈になる」と考えるので、
　　予感の段階から全否定するのは余りにも一方的だと思うわけである。
　　地震ナマズの逸話のように、動物は変動の前兆を感じ取る可能性が指摘されている。
　　ならば「激変の予感」を感じる力が人間にあったとしても、決して非科学的ではない。
　　問題はその予感を、どこまで正確に分析できるか否かではないか、と思うのだ。

　　皮肉と言うべきか、予言というカテゴリーで、ここまで踏み込む研究家は余り見ない。
　　大抵言葉尻のさわりを追って、的中したか否かを議論するのに留まっているのが実情だろう。
　　――だからこそ、真面目な科学者との間に摩擦が生じるのではないかと思うのだが。
　　「科学と精神世界の融合」などというスローガンが１部のオカルティストの間で持ち上げられるが、
　　両者の研究アプローチの次元が違うことを理解しない限り、歩み寄ることは不可能に違いない。

　　この点については個人的に思うこともあるので、またの機会に語ってみたい。