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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E014） |
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小さな窓から、外の大木越しに朝日が入り込んできた。
冷たく冷え切っていた体が、陽光を受けて少しずつ温まり始める。
最初のうちは鈍かった体の動きも、すぐにいつもの反応を取り戻す。
……といっても、まだまだ大したことはできないんだけど。
体の芯まで光が透過するのを確かめるように、あたしは簡易ベッドからゆっくりと上半身を起こす。
かすかにきしむような音を立てながら、エメラルド色の硬い体があたしの意思に応える。
まだ、ルイさんみたいには動けないなぁ……
早く走れるぐらいになれないかな。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１章 動く石化少女 ★
第４話 少女たちの選択
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あたしは、朝が早い。
といっても、単にルイさんより早く起きるってだけなんだけど。
擦り切れた灰色のインナー１枚で、あたしは建物の外に出る。
別に誰も見てないからね……少なくとも人間は。
動物たちは別にいいんだよね。
というか、あたしを見ても警戒しないのが逆にいい。
生き物だと思われてないのかなぁ。
まぁ、濃い緑色の雑木林だから、あたしも景色の１部なのかもね。
あたしの肩に、小鳥が止まってる……なんて種類の鳥だろう？
糞しないでよ？ この建物ってシャワーないんだからさ。
ふと――昨夜の寂しげなルイさんの表情が蘇る。
ルイさんは歩き疲れたって言ってたけど、多分違うと思う。
あんなに寂しそうなルイさんの表情を見たのは初めて。
サラさんが言うまで気付かなかった、あたしも鈍いけど。
そうだそうだ、朝の運動が終わったら、サラさんのところに行かなきゃ。
ルイさんはあたしの憧れの人。
思考を止めて、ただの石像に成り果てていたあたしを、
ルイさんは海の底から引っ張り上げるみたいに救い出してくれた。
動けるようになるまで１ヶ月くらい、毎日地下に降りてきて、あたしの話し相手になってくれた。
体は硬くて冷たい石だけど、とても明るくて、温かい人。
記憶を失った、あたしの名付け親にもなってくれた。
まるで、本当のお姉さんみたいだった。
だから……凄く心配。
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（……あ、ルイさん、お早う御座います！）
（んぁ……おはよーエミちゃん、いつも早いね、あんまり寝てないんじゃない？）
（え？そんなことないですよ、もう全然大丈夫です♪）
建物の中に戻ったら、廊下にルイさんが出てきたところだった。
まだ起きたばかりで、ぼんやりとした感じ……ルイさんはいつもこんな感じだな。
見た感じ、昨夜見た寂しげな雰囲気はなさそう。
でも……何か……
（ルイさん……本当に大丈夫ですか？）
（え？何が？）
（昨夜……その、歩き疲れたって……）
あたしは、あえて“寂しそう”とは言わないようにした。
嫌な思い出だったら、蒸し返さない方がいいし。
その時だった。
ルイさんがいきなり、あたしを抱きしめた。
（――ふぇっ！？ る、ルイさん！？）
（ゴメンね……ちょっとだけ、こうさせて……）
ルイさんのルビー色の肩が、細かく震えていた。
まさか――泣いてるの！？
あたしもルイさんも、涙を流すことはできない。
動けると言っても、体質はほぼ完全に１個の継ぎ目のない石だから。
……ルイさんは何も言わない。
ただあたしを抱いて、細かく肩を震わせて、俯いている。
涙を見ることはできないけど……でも、多分泣いてる気がする。
信じられなかった……ルイさんの肩が、こんなに小さかったなんて。
（ルイさん……）
（ゴメンね……あたし、無力だった……何もできなかった……）
（そ、そんなことないですよ！……あたしを、助けてくれたじゃないですか！）
（ううん……あれは……エミちゃんが強かったから……）
初めて……こんなに自信を失ったルイさんを見るのは。
あたしは……ルイさんが特別な人だと思ってたのかも知れない。
けれど違う……ルイさんも普通の人だった。
体こそ石だけど……どこにでもいる、普通の女の子だった。
普通の女の子と同じように考え、そして悩みながら生きてる。
あたしの方こそ、甘えてただけだったのかも。
無力、か……
今のあたしに……何がしてあげられるんだろう。
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（……そう、だったんですか……）
地下の保管庫。
今も意識が戻らない、石像と化した女の子たちの中で、 あたしはサラさんと会話していた。
サラさんも数日前に意識が戻ったばかりで、まだちょっとたどたどしい。
もちろん、まだ動くことは全くできない。
心の声が聞こえない人だったら、サラさんが意識を持ってるなんて思えないだろうな。
だから、寂しさに押し潰されてまた意識を失わないように、話し相手が必要。
ちょうどルイさんが、まだ動けなかった頃のあたしにしてくれたように。
サラさんは多分、あたしよりも年上なんだろうな。
まだ意識が戻ってから１週間も経ってないのに、もう結構思考が鮮明。
しかも、あたしやルイさんを心配してくれるぐらい気丈。
おしとやかな人みたいで、こんなあたしにも敬語で話しかけてくれる。
あたしと同じように、昔の記憶はほとんど忘れてるっぽいけど、それを悩んでるような印象も受けない……多分。
（ルイさんも普通の女の子だったんです……あたしはそんなことにも気付けなかった）
（……自分を、責めないでください……きっと……ルイさんは、エミちゃんを……責めない、でしょう）
（……ありがとう、サラさん……ご、ごめんなさい、暗い話だったね）
（……私は、大丈夫です……ずっと、暗闇の中に……閉じ込められて、きたから……）
それはあたしも同じ……いや、多分ルイさんも。
石化されても視覚が残る人もいるらしいんだけど、あたしの場合は真っ暗だった。
ルイさんも最初は視覚があったらしいけど、
周りの石化した人たちが反応しなくなってショックを受けた頃から、何も見えなくなってしまったって聞いた。
そっか……サラさんも暗闇の中で生きてきたんだね。
まぁ今は、あたしやルイさんの姿が見えてるみたいだけど。
そんなことを考えていたら……
（……私も……あなたたちの、ように……動けるように、なれる……でしょうか？……）
サラさんがそんなことを聞いてきた。
……なんて、言ってあげたらいいんだろう。
確かに、パドルさんの“魔法”を使ったら、多分動けるようになるんだろう。
けれど……それはもう、人間以外の存在になること。
あたしもルイさんも、そうなることを選んだわけだけど……
今朝ルイさんが見せた“涙”が、そうなることの“重さ”を気付かせてくれた気がする。
考えてみればそうだよね。
もう、人間と同じように生活できなくなるんだし。
友達の輪の中に入って遊ぶことも、一緒に学校に行ったりすることもできないんだから。
そうか……ルイさんは多分、外の世界で改めてそれを見せ付けられたんだろうな。
しかもルイさんはあたしより昔のことを覚えてるから、割り切れないんだろう。
そう思ったら急に、ルイさんが凄く不憫に思えてきた。
昔のことをほとんど覚えてないあたしが、なんだか寂しい気分になるぐらいなんだから、
ルイさんが泣きたくなるぐらい寂しかったのも、今なら分かる気がした。
（でも……動けるかも知れないけど……それは人間の体とは限らないんですよ？）
（……はい……分かってる、つもりです……今の、エミちゃんの、ように……ですよね？……）
うっっ、即行で返されちゃった。
そうか……ある意味、あたしと同じようなものなのか。
昔をほとんど覚えていない上に、意識が戻ったら目の前に動く石の少女がいた。
そんな状況を見せられて、あたしもルイさんみたいになる道を選んだんだもんな……
（このままずっと石の体でも……サラさんは動けるようになりたい？――人間じゃなくなっても）
あたしは、サラさんにそう聞いてみた。
そしてこの言葉は……まだ動けなかった頃のあたしに、ルイさんが言った言葉。
最後はあたしが付け加えたものだけど……重要なことだからね。
（…………………………）
サラさんが黙り込んだ。
３分くらい、沈黙が続いて……またサラさんの中で光のかけらが動いた。
何かを、決意した感じだった。
（…………動けるように、なりたい…………ルイさんや、エミちゃんと……一緒に……）
（……そう、ですか……いいんですね？）
（……もう……人間には……戻れない……違いますか？……）
……気付いてたんだ。
やっぱり、サラさんは気丈な人だ。
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青空のずっと向こうで、小さな飛行機らしき影が、細く白い尾を引いていた。
そう言えばこの体になってから、凄く視界が鮮明。
……いや、人間だった頃の視界なんてほとんど覚えてないけどね。
瞳がない、視線も定かじゃない目なのに、昼も夜もものがハッキリと見えるんだよね。
多分だけど……体全体が、レンズの効果を果たしているんじゃないかと思う。
何しろ、半透明の宝石みたいな体だし。
遠くでセミの声が聞こえる。
そっか……もう、季節は夏なんだ。
汗をかかない体質になってから、季節感が余りなくなった気がするなぁ。
……まぁ、２ヶ月前までは意識もなかったわけなんだけど。
建物のすぐ横の、大木の袂に、ルイさんが座り込んでいる。
視線は分からないけど、遠くを見ているような感じ。
あたしが近づいていったら、ルイさんがふと、こっちを見た。
やっぱり……どこか寂しげな表情をしてる。
（あ、エミちゃん……さっきはゴメンね、いきなりあんなこと……）
（い、いえ、いいんです……あたしの方こそ、ルイさんの悩みに気付けなくて……）
（はぁ……あたしも未熟だなぁ……こんなことで悩むなんて、鉱物娘失格だね）
（鉱物娘……）
何となく、面白い表現に聞こえた……気がする。
でも、間違ってはいないよね。
（そういや、エミちゃんって、草木に紛れたら風景に溶け込んじゃうね♪）
（え？あ、そ、そうですね……緑色だし）
（あたしなんか目立ってしょうがないよ……だってほら、真っ赤っ赤だもん）
「君は秋の風景に溶け込むんじゃないかな？」
（（―――あ））
気付けば、獣道の向こうに、パドルさんが立っていた。
そっか、今日も来る予定だったんだよね。
パドルさんを連れて、あたしはルイさんと一緒に地下に降りた。
サラさんのところに行くために。
「サラ……そうか、そんな名前にしたのか」
（だって何て呼んでいいか分からなかったし……本人だって気に入ってるみたいだし）
（……サラで、いいです……何も、覚えてません、から……）
「ほー、ほんの１日余りで、ずいぶんと意識が鮮明になったんだな？」
（あ、パドルさんもそう思います？そうですよね、あたしは半月ぐらいかかったのに）
（……ルイさん、や……エミちゃん、の……おかげ、です……）
「そうか……だが念のため、もう２〜３日様子を見よう」
えー？ まだ……様子を見るの？
（まだダメなんですか？本人もそれでいいって言ってるのに……）
（……早く……動ける、ように……なりたい、です……）
「うーん、性急な復元で副作用が起きたらまずいしなぁ……まだ意識が十分発露してないし」
そうなんだ。
言われてみれば、そうかも知れないって気がしてきた。
まぁ確かに、あたしも意識が戻ってから１ヶ月くらいは石像のままだったけど……
（で、でも、その様子見が終わったら、処置してくれるんですよね？）
「ん……あぁ、そうだな。 約束しよう」
（……分かりました……じゃあ、我慢……します……）
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（パドルさん……昨日の話、なんですけど……）
１階に上がるや否や、ルイさんがパドルさんに話しかけた。
何だろう……凄く真剣な表情。
「……決まったのか？」
（はい……あの話……是非お願いしたくて）
「…………いいんだな？」
ルイさんがゆっくりと、けれどもはっきりと頷いた。
あの話――体を使いこなす、ってうアレだよね。
ルイさんがどんな能力を得るのか楽しみな反面、ちょっと複雑な気分になる。
昨日はピンと来なかったけど、今日はその理由が分かる気がする。
（あたし、思ったんです……自分は無力だって……翔子さんの時も、何もできなかった）
（……翔子さん？）
（あ、昨夜会った子……石に変えられたの――あいつらにね）
（―――！！）
“あいつら”でピンと来るのは、多分被害者だけだろうな。
あたしたち……ルイさんとあたしとサラさんと、そして今も意識が戻らないあの人たちを、石像に変えた連中。
（翔子さんはなんとか元に戻してあげられたけど……あたしは何もしてない）
ルイさんは、そう言って悔しそうに唇を噛んだ。
そういうことか――何かできるようになりたいってこと。
この石化した体で何か特別なことができるのなら、それで誰かを助けたい。
正義感というよりも、もっと切実な思い。
人間じゃなくなるという経験を、して欲しくないってことだろうな。
（こんなこと、許されていいことじゃないもん……だから）
「最初に言っておくが……この力を得ても、すぐに凄いことができるわけじゃないぞ？
君自身が自分で訓練を積まねば能力は磨かれないし、経験を積まねば十分な結果は現れない」
（はい、もちろん分かってます）
ルイさんの表情は揺るがない。
なんていうか……不謹慎かもだけど、凄くカッコいい表情。
決意が固いってことだよね。
「―――よし」
パドルさんも心なしか、何か溜めていたものを吐き出すように言った。
「俺から言えることは、感覚を掴む要領だけだ……後は自分でやるんだ」
（感覚を掴む、要領……ですか）
「この力は、君自身が、自分の体を掌握できないと使えないんでね……人間で言うなら、
持ってる筋肉や感覚神経を極限まで洗練させるのと同じだ」
（極限まで……）
「君は覚えが早そうだから、コツを掴めばすぐに上達するはずだ」
（あ……あのっっ！！）
気付いたら、あたしは思わずパドルさんに話しかけていた。
（……エミちゃん？）
（あ……あたしにも、それ……教えてください！）
ルイさんの力になりたい。
もう、あたしの胸の中で肩を震わせる、そんなルイさんを見たくない。
わがままだけど、ルイさんの笑顔を見ていたいから。
（エミちゃん……）
（お、お願いします！あたしも……もっと色々できるようになりたいんです）
「――分かった……それじゃあひとまず、瞑想から始めようか」
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| （第１章第５話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2007〜2008年頃に草稿を作成したエピソード。
１話と３話はルイ視点のエピソードだったため、このエピソードはエミ視点で描いている。
彼女も“鉱物娘初期３人娘”の１人であり、物語で重要な役割を果たす存在である。
高校生レベルのルイやサラと違い、エミは小中学生の年代であるため、
心象ドラマをより掘り下げやすいキャラクターでもある。 |
