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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E015） |
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私は今、薄暗い部屋に立っています。
まるで、閉館した美術館のギャラリーみたいな場所ですね。
周りには、金属や石や宝石の、奇妙な少女たちの像があります。
でも本当は――像じゃないんです。
彼女たちは数ヶ月前から数年前まで、人間だったはずなんです。
そう――私も含めて。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１章 動く石化少女 ★
第５話 新たなる目覚め
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私が意識を取り戻したのは、１０日ほど前。
長い長い夢から覚めるような。
それでいて奇妙な夢の中にいるような。
……不思議な感覚でした。
遠くから、誰かに呼びかけられている……そんな気がしたんです。
真っ暗闇の中で、私は誰かに縛られているみたいでした。
それでも、声が聞こえる方に向かって、必死で歩いていったんです。
歩いていったといっても、足が動いている感覚はなかったんですけど。
そこには、小さな光がありました。
光は小さく瞬きながら、私を呼んでいたんです。
聞こえるなら……返事をしてくれと。
その頃はまだ、私も言葉を忘れているような状態だったので、
なんて言っていいのか良く分からなかったので、「誰？」とだけしか言えなかったんですが。
それから数時間くらい経ってから、急に視界が開けたんです。
間もなく自分が、薄暗い美術館みたいな部屋に、何も着ていない状態で立ってることに気づいたんですよね。
けれど私の体はとても冷たくて、全く動きませんでした。
瞬きをすることも――いや、息をすることさえも。
それでも何故か、そこに私の意識はあったんです。
周囲には、若い少女の姿をした、像がたくさん並んでいました。
しかも皆……動揺や恐怖の表情を浮かべて立っていたのです。
そこで……かすかな、本当にかすかな記憶が蘇ってきたんです。
そうか――彼女たちは人間なんだ、石に変えられてしまったんだと。
そして私自身も、石像に変えられて、ここに立たされているのだと。
とても静かな……怖いくらい静かな部屋でした。
誰１人として音を出さない……いえ、出せなかったので。
ただほとんど唯一、彼女たちだけが、私の心に直接語りかけてくれたのです。
私の目の前で、２人の少女が、必死に私に向かって念じてくれていました。
けれども……その２人も、普通の人間じゃなかったんです。
１人はルビーのように真っ赤な。
もう１人はエメラルドのように深い緑の。
それぞれ宝石のような光沢を放つ、石の少女たちでした。
不思議なことに、彼女たちは自由に動くことができたみたいです。
ルビー色の少女はルイさん。
エメラルド色の少女はエミちゃん。
どちらも体は石なのにとても表情豊かで、感情も豊かでした。
体は半透明で、滑らかな輝きを放って……とても綺麗でした。
冷たい石のはずなのに、２人はとても生き生きとして見えたんです。
あの２人みたいになりたい……
いつしか、私もそう思うようになって行きました。
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今――私の周りにいるのは、石像と化した少女たちだけです。
誰１人として物音を立てず、動揺に歪んだ表情は全く変わることなく、
こちらから呼びかけてみても何も返って来ません。
本当に……生きているのでしょうか……
もちろん呼びかけるといっても、心の声なのですが。
私自身、意識があるといっても全く動けませんし。
全身が冷たくて硬くて、つま先から指先まで微動だにしません。
けれど……空調機からでしょうか。
かすかに漂ってくるわずかな風が、体を撫でる感覚はあるのです。
ルイさんとエミちゃんは、今は地上階にいるのでしょうね。
ちょっと今は寂しいですが、いえいえ大丈夫です。
２人とも毎日数回は下に降りてきて、話し相手になってくれますから。
おかげで、体は動かない石像ながら、
私は１人でもかなり思いを巡らせることができるほど、意識が活発になってきました。
最初の頃……言葉さえほとんど思い出せなかった頃と比べたら、凄く変わりました。
全てルイさんとエミちゃんのおかげ……感謝してもし切れません。
そして近いうちに私も……動けるようになるみたいなんです。
凄く……楽しみです。
もう人間に戻ることはできないみたいなのですが……仕方ないですね。
動けるだけでも幸運と考えたいです。
そう……まだ石像のままの人たちも多いわけですから。
私自身、ルイさんたちがいなかったら、永久に石像だったかも知れませんし。
それにしても……どうしたら石を動かすことができるのでしょうね。
昔のことはほとんど覚えていませんが、石って凄く硬いはずですし。
まぁ、人間が石になるのも不思議ですから、何か魔法みたいなことがあるのかも知れませんね。
――あ、今、階段の方で足音が聞こえましたね。
このゆっくりした軽い音は……エミちゃんですね。
ルイさんは小走りに駆け下りてきますし。
思えば凄いですね……石の体で走れるなんて。
（――あ、サラさん、今日はどんな具合ですか？）
サラ、というのはルイさんが私に付けてくれた愛称。
本当の名前は思い出せないので、嬉しかったです。
（……えぇ、大丈夫ですよ。昨日より、意識もハッキリしてますし）
（ホントだ……心の声も途切れなくなりましたね♪）
あら？
心なしか、エミちゃんがいつもより輝いて見えます。
（エミちゃん……どうしたんですか？ 昨日より綺麗ですよ）
（え！？……や、やだなぁサラさん……シャワーもないのに、ここ）
「修行の賜物さ、意識が全身の隅々まで及んでる証拠だ」
あ、この人は確か……パドルさんでしたっけ。
エミちゃんの後から重い足音が聞こえてきたので、誰だろうと思いましたけど。
身長２ｍ以上ありそうですよねこの人……大きくて逞しい。
この人が来ると、ちょっとだけ恥ずかしい気分になります。
だって男の人だから……今の私って、その……何も着てないわけですし。
まぁその、全く動けないからどうしようもないんですが。
「うん、かなり意識が鮮明になったね、今日辺りやろうか？」
え？ そ、それってまさか……！
（ついに始めるんですね！ じゃあ、あたし、ルイさん呼んで来ます！）
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ルイさんが、地下に降りてきました。
いつも以上に急いでいたのか、階段下で転んだみたいです。
――ごとっ、と大きな音がしましたので。
（いててて……やっちゃったよ）
（だ、大丈夫ですかルイさん、急いてはことを仕損じますよー？）
（……もう仕損じたよ）
「意識の集中が乱れたな、転ばぬ先の杖を忘れるなよ？」
（……むぅ）
そう言えば、何か修行でもされてるんでしょうか？
さっきからそういう言い回しが……
その時、パドルさんが、私の背中にぴとっ、と手を当てました。
な、何をするつもりなんでしょう！？
（……え？ あ、あの……？）
（あ、大丈夫だよサラさん、気を入れるだけだから）
（あぁそう言えば、あたしもされたっけ）
「これから、君に気を入れる。だから君は、動きたいと強く念じるんだ」
パドルさんがそう言うや否や、体の中に光が入ってきたような気がしました。
背中に当てた手の平から、まず胴体に流れ込み、そして手足、頭部へと何かが浸透していく感じ……
なんていうんでしょう……体が透き通っていくような感じがします。
その感覚に合わせて、私は言われるままに強く念じました。
自分が動いているところを想像できたらなお良かったのでしょうけど、
長い間石像だった私には、それが分からなくなっていたみたいです。
すると……
（――あ、動いた！）
ルイさんの言葉と共に、腕がほんの少し、動いたような気がしました。
私はその方向を見たくて、首を動かしてみました。
――え？ “首を動かしてみました”！？
ほ……本当に、動いてしまいました！！
私……首が回ってます！
う、腕も……ゆっくりだけど動いてます！
し……信じられない……夢みたいです！
今まで……自分の体じゃないみたいに言うことを聞かなかったのに。
（う……動いた……動きました！）
（凄いよサラさん、本当に動いた！）
（まだだよ、まだ念じるのをやめちゃダメだよ……そうだよね、パドルさん？）
「ルイの言うとおりだ……感動に横槍を挟むようだが、そのまま念じ続けるんだ」
（サラさん、歩いてみなよ！）
（……え？ あ、歩くんですか？……ど、どうすればよかったのでしょう！？）
（足を水平に踏み出すんですよ、つま先からゆっくりと前に……）
い、言われるままに、つま先を……う、動きます！
まだ凄くゆっくりだけど、つま先が、膝が、するすると前に……！
本当に信じられません……私、硬くて冷たい石の体なのに……
ルイさんが言ってたとおりでした……これは……奇跡です！
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１時間くらい、経ったのでしょうか。
私は今、地下室の中ほどにある、大きな鏡の前に立っています。
あの“ギャラリー”からここまで、５ｍぐらいなのですけど、必死で念じて、頑張って歩いてきました。
途中何度も倒れかけて、ルイさんやエミちゃんに支えられながら。
５ｍ進むのに、１時間ほどもかかってしまったのですけど、
それでも動けるということがこんなに素晴らしいことだなんて。
鏡の向こうに、全身真っ青な、宝石細工のような少女が立っていました。
ルビー色とエメラルド色の少女に支えられるようにして。
自分が石にされたことは分かっていたんですけど、
石になった自分の姿を見たのは、初めてだったかも知れません。
凄く……複雑な気分でした。
記憶の片隅に残っている、宝石のサファイアにそっくりな色と質感の体。
凄く綺麗な気もするけど、同時にそれが自分自身だという奇妙な実感。
とても生きているとは思えない硬い石像のように見えながら、ここまで自分の意思で歩いてきたという事実。
そして……これからこの体で生きていかねばならない、という事実。
自分で選んだことなのに、急に寂しくなってきました。
まだ自分では変えられない、不安げな自分の表情が、更に寂しさを募ります。
ルイさんやエミちゃんが忠告したのは、こういうことだったのですね。
人間じゃなくなってしまう、ということ。
それでも私が幸運だったのは、ルイさんやエミちゃんという仲間がいること。
最初に動けるようになったのはルイさんだと聞きましたけど、
当時は孤独だったでしょうと思うと、いたたまれない気持ちになります。
今ルイさんが見せてくれる、人懐っこそうな笑顔。
そういう孤独を知っていながら、あんなに屈託ない笑顔を作れるなんて。
自分は真似できないぐらいに強い人なんですね、ルイさんは。
（……サラさん、大丈夫ですか？）
（……あ、はい……大丈夫です、ちょっと想いが色々と……）
（うんうん分かるよ、自分がこんな姿になったなんて、複雑だよね）
そう……彼女たちがいるから、頑張る気になれるんです、私も。
その時、パドルさんが言いました。
「地上に……出てみるか？」
（あ、そうですね、行きましょうよサラさん！）
（え……で、でも……私、まだ時間が……）
（あ、そうか……ここまで１時間かかったし……）
地上……かすかな記憶の中にしか残っていない世界ですね。
はっきりとは思い出せない、夢の中みたいな記憶。
見てみたいけれど……今の状態では……
「サラ、ここに座ってくれるか？」
すると、パドルさんが地下室の奥から何か持ってきて、私の前に置きました。
座るんですか……これに？
イスにしては低く、背もたれのない、金属の箱。
「ルイ、エミ、済まんがフォローしてやってくれ」
まだ思い通りに曲がらない膝や腰をゆっくりと曲げて、私は何とか座ろうと試みてみました。
パドルさんの意図は良く分かりませんけど、生活していくならイスには座れねばならないですし……
３０分ほど四苦八苦して、私は何とかイスに腰掛けました。
けれど十分に腰を曲げられないため、上半身が後ろに反って、
ルイさんに支えてもらわないと、バランスを崩すような体勢に……
するとパドルさんが私の横に来て、ぐっと腰をかがめました。
そのまま私の背中と脚の下に手を差し込んで――
（……え、あ、あの？）
（そうか、こういうことだったんですね！）
あぁ、なるほど……
私はパドルさんに、ひょいっと抱き抱えられてしまいました。
この体勢にしないと、抱え上げられなかったということなんですね。
というか、重くないんでしょうか……私、石の体なのですけど。
パドルさんはそのまま、私を抱えて階段室へ歩いて行きます。
速い――普通に歩いているだけなのに、何故か凄く速く感じます。
この速さで視界が移り変わることが、今までなかった所為なのでしょうね。
少なくとも覚えている限りでは。
パドルさんって力持ちなんですね……重さなんか感じないかのように、
軽やかな足取りで階段を上がって行きます。
パドルさんの前には、ルイさんとエミちゃんのエスコート。
地上の光でしょうか……明るい何かが彼女たちの体に反射して、
赤や緑の光に変わってキラキラと……凄く、美しいです。
パドルさんはそのまま、入口らしき光の長方形へ……
――瞬間、視界が真っ白に。
数秒くらい経って、目が光に慣れてきました。
真っ白な視界が、やがて緑や青や茶色に彩られて行きます。
そこは、森の中でした。
良く茂った木の隙間からは、真っ青な空と白い雲が。
忘れかけていた……地上の風景。
それにしても―――地上がこんなに明るいなんて。
木漏れ日が私の真っ青な体に反射して、まるで水面みたいに輝きます。
冷たかった石の体の中に……太陽のぬくもりが染み渡っていく気分です。
なんていうか……お日様に命を分けてもらうような気分。
私が人間だったら、今頃感激で号泣してるかも知れませんね。
それぐらい、衝撃的な経験でした。
（……どうですか、サラさん？）
（……凄い……明るい……す、素晴らしいです……！）
（ただの雑木林なんだけどね……でも分かるかも、その気持ち）
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（はい、いいですよー）
（す、すいません、どうも……）
ルイさんが簡易ベッドを広げています。
１階にある、物置みたいな小さな部屋の１つ。
小さな窓の向こうからは、外の光が降り注いできます。
「――どっこいしょ、っと♪」
そのベッドの上に、パドルさんは私を横たえてくれました。
ベッドは枕の部分がちょっと傾いてて、
抱かれる姿勢だった私を、そのままの形で受け止めてくれました。
柔らかい……マットレスの感触。
横になるなんて、何ヶ月……いえ何年ぶりでしょう。
人間なら当たり前のはずのものが、何もかも新鮮に感じます。
懐かしさより新鮮さが強いのは、昔のことを余り覚えてない所為でしょうね。
そのベッドの上で、私はもう１度、自分の手を見ました。
まだしっかり念じないと動いてくれないですが、
真っ青で硬質な、ガラス細工みたいな手が、ゆっくりと顔に近づいてきます。
首を起こすように傾けると、ほぼ全身を見渡すこともできます。
視界に入る胸元からつま先まで、深い青色に染まっています。
今更ですけど、これが私の体なんですよね……
うーん……綺麗だけど、余り生物的には見えませんね。
まるで色つきのガラス瓶みたいな手足。
胴体も人の体というよりは、彫刻と言った方が近い気がします。
そう……今朝まで私の視界の周りにいた、あの意識のない少女たちと同じ。
目の前にかざした手は半透明に透き通っていて、向こうの景色が歪んで、ぼんやりと映りこんでいます。
どことなく夢心地な気分……まだ現実感がないのでしょうね。
――はっ、と我に返ったら、ルイさんとエミちゃんがまじまじと私を眺めています。
そ、そんなに真剣に見つめないでください……は、恥ずかしいです（///）
（うーん、やっぱりスタイル抜群だなサラさんって）
（ほんとですね、背も高いし……羨ましいな）
そ、そんな……褒められるような姿じゃないですよ。
むしろ、私の方が２人に見とれてしまいます。
真っ赤な体が本当に生き生きと輝いて見えるルイさん。
緑の森に溶け込んでしまいそうな、妖精みたいなエミちゃん。
（まぁ、でもこれでひとまず安心だよね）
（そうですねー、３人組になっちゃいましたね♪）
３人組……そうか、私ももう動けるんですよね……あぁ、夢みたい。
まだまだ動きは凄く遅いですし、強く念じなきゃいけないですし、
自分で自由に、ってワケには行かないですが……
少なくとも、もう立っているだけの石像じゃないのですね。
早く２人みたいに、と思う反面、思いがよぎります。
地下室で、今も無言で立ち尽くしている少女たち。
ちょっと……申し訳ない気分です。
彼女たちにも、私のように動ける日が来ればいいのに……
そうですね、自分で階段を上り下りできるようになったら、
彼女たちにまた呼びかけてみましょう。
この自由を……彼女たちにも経験させてあげたい。
体こそ石だけど……動けないのとは全然違いますからね。
そのために、早くこの体に慣れなきゃいけませんね私も。
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| （第２章第１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2007〜2008年頃に草稿を作成したエピソード。
“鉱物娘初期３人娘”の１人、サラが活性化されて本格的に物語の１員となる。
同時に「動けるようになった鉱物娘の初期の代弁者」としても象徴的な存在。
快活なルイやエミに比べて、サラは大人しいキャラクターであるが、
３人の中で１番年上で背も高いため、落ち着いた振舞いをさせるイメージがあった。 |
