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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E021） |
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俺は今、大きな鉄の扉の前に立っている。
１３号がふてくされた表情で、ぶつぶつと何かをつぶやいている。
コイツは脊髄反射的な行動力が使えるが、いかんせん根に持つ性格があるな。
もっともコイツが下らん落し物をせねば、工作はうまく行ったのだ。
少なくとも俺の所為じゃない。
……あの男の能力は、少々意外だったがな。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第２章 秘密結社メドゥアス ★
第１話 暗黒のラボ
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「ナンバー009“ホルス”帰還しました」
「……ナンバー013“アイガー”帰還しましたー」
［……入れ］
無線の小さな声に従って、俺はその鉄の扉を開ける。
ギギギ、と重い音がして、高さ３ｍはあるだろう扉が手前に開く。
ここは、港の外れにある、寂れたコンテナ群の１角だ。
先の不況で事実上廃棄処分になった、さび付いたコンテナの残骸が、
雑草だらけの荒れ果てた埋立地に何十個も転がっている。
港湾部を挟んで反対側にある倉庫も、多くが放棄されたらしい。
このコンテナ群や向こうの倉庫を管理していた企業は、
生産拠点を中国や台湾に移して、今もそれなりの収益を上げているそうだ。
……まぁ、１度は潰れかけたらしいがな。
そんなコンテナ群の１角、複数のコンテナを積み木のように組んだのが、
俺たち“メドゥアス”が拠点にしているラボってわけだ。
俺たちメドゥアスは、とある興味深い物質の研究を行っている。
……もちろん、非公式にだがな。
そいつは一見、どこにでもある宝石や金属の小片だが、
生物に取り付くと、光を放ってそいつを石や金属に変えてしまう。
同化された生物は文字通りカチンカチンの石像や金属像になってしまうが、
研究チームの報告によれば、石化しても死ぬわけじゃないらしい。
生命反応は完全に途絶えちまうが、その体内から独特のパルス状の電気信号が出ている。
この電気信号は、脳波の信号パターンに酷似しているらしく、意識が残ってる証拠だという。
まぁ俺自身、その意識を感じ取る“能力”があるから、連中の言わんとしてることは分かる。
しかし数ヶ月も放っておけば、その信号は徐々に微弱になり、やがて途絶えるらしい。
金属タイプでおおよそ３ヶ月、鉱物・結晶タイプで６ヶ月といったところだ。
その後は全く反応しない、完全な石像になってしまう。
もっとも、石化するだけでも驚きなのに、意識が残るんだから十分興味深い。
――とか思ってたんだが、最近の研究で、更に面白いことが分かった。
稀に実験体の“脳波”が１年以上持続すると、その１部がなんと活動可能になるそうだ。
完全に石化しているにも関わらず、動くことができるようになるというのだ。
石が動くなんて……にわかには信じられる話じゃない。
何かの１時的な異変か、特殊な外部操作、つまりプログラムじゃないかと勘繰ってたんだが、
今回の工作で、どうやら研究チームの発見は事実だったという確信を俺も持った。
……あの廃校で会った、真っ赤な石化娘のおかげでな。
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「……それで、実験体の確保には失敗したと言うわけか」
「申し訳御座いませんナンバー３……しかし、活性体の証拠を発見しました」
「どういうことだ？活性体は研究チームが発見したばかりだろう？」
「それがですね……その廃校で出会ったのですよ、安定した活性体に」
「何だと！？ それは本当かね！！」
ここはラボの中にある、メドゥアス幹部会の会議室。
俺は早速、昨日得た情報を報告した。
実験体の素体を探して侵入した廃校で、素体になりそうな２人の少女を見つけたこと。
確保しようとして抵抗され、１人をその場で石化したこと。
更なる邪魔が入ったために、実験体も確保できずに撤退せざるを得なかったこと。
そしてそのうちの１人が、明らかに石化変異体の活性体であったこと。
もう１人の大柄な男は、反撃時に石化を図ったが、自力で復元したこと。
この第２ラボの事実上の主である“ナンバー３”は、思った通り目の色を変えた。
「えぇ、確かに見ました……しかも自分の意思で動き、強いテレパシー波の発露も確認しました」
「ほぅ……それが事実なら、我々が求めている理想の存在がそこにいることになるな……」
「しかし、その石化変異体はなぜ活動能力を得たのでしょうな？」
「そこまでは自分も把握しておりません……研究チームの報告も全ては知りませんし」
「その活性体は、真っ赤な鉱物タイプだったと言ったな？」
「えぇ、ちょうどルビーに似ておりました……中背で短髪の娘です」
「……第３３番実験体だ」
……ほぅ、“ナンバー６”はあの娘を知っているのか。
そうか、確か６号は……
「６号、彼女をご存知で？」
「ルビーカラーで短髪といえば１人しかいないのでね……元・家出娘さ」
「元々短髪の実験体自体が少ないですからなぁ」
「……あぁ、そう言えば６号は第３ラボの主任でしたね」
「そういうことさ。……気の強い娘でね、確かに実験完了後かなりの間強い意識の発露が確認されていた。
ナンバー２に継続研究を推薦したのだがねぇ……」
「断られたのだろう？反発心が強すぎるという理由でな……２号は大人しい者を好む」
「矛盾していると思うのですがね……大人し過ぎたら活性体にはなれんでしょうに」
確かにそうだった。
ナンバー２……２号“セラフィ”の鬼畜振りは組織でも有名だからな。
恐怖と悲しみに満ちて助けを請う娘を石に変え、
石の中に封じ込まれた娘の意識が絶望で沈黙する過程を眺めて喜ぶような男だ。
この組織自体が非合法とは言え、ああいう男が組織の筆頭格とはな。
「そう言えば９号……もう１つ、気になることを言っていたな？」
「そうだそうだ……我らの工作を邪魔した男の話だ……自力で石化を解除した、と」
「仰るとおりで……どうやら特異体質の持ち主のようですが、詳しいことは――」
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「……まだ気にしているのか？そもそもお前が忘れ物をしなければ――」
「ぐっ……わ、分かっているさ！……だから収まらんのだ！」
「嘘だな、あの男と娘が気になるのだろう？」
第２ラボの廊下で、俺は１３号に話しかけた。
「……９号は気にならないのか？」
「なるさ……だが、怒りではなく興味の方だな」
「俺は気に入らんね……特にあの男……思い出すだけで虫唾が走る」
「後ろから食らったからな、１３号は」
「屈辱だ……今度会ったら……」
「勇み足はするなよ」
１３号は黙っている……どうしても我慢できないらしい。
無理もない、肉弾戦じゃ誰にも負けない自負があるからな。
俺も丸腰じゃ、この男には敵わない。
そうこうしているうちに、俺たちは実験ブースについた。
ここの研究チームから、定期的に情報を仕入れているからだ。
俺は外部工作員だが、“１桁ナンバー”の幹部に当たるから、そういう権限もある。
研究チームの連中も、昨日の話をすれば飢えた魚のように食いつくだろう。
――それにしても……いつ見ても悪趣味な場所だな、ここは。
壁に、オブジェと化した実験体がずらりと並んでいる。
手前ほど、最新の実験体だ……まだ意識のあるヤツもいるだろう。
さっきも触れたことだが、俺たち工作員の多くは“テレパシー波”を感知できる。
手前の何体かの石化した実験体から、苦悩の喘ぎや懇願の声が聞こえてくる。
……悪いが、俺にすがってもらっても困る。
俺は一介の工作員だ、何の権限も持ってはいない。
奥の方には、既に精神まで石化したと思われてる連中が並んでる。
その１部はまるで、トルソーみたく腰から下を削られ、額縁や石柱の台に飾られている。
万が一、いや億が一意識が復興しても、あれじゃもはやどうしようもないな。
そして……その実験ブースから、やや横にそれた所に、ガラス張りの部屋がある。
その中に、数体の実験体が入っている。
まるで、スローモーションのＣＧアニメを見ているかのように、その実験体たちは時折、ゆっくりと動く。
意識の発露は実験体によって違うらしい。
時折活性化するとは言え、意識の分析が不可能に近いヤツもいる。
意識があると思われる実験体も時々、唐突に沈黙する。
あの赤い石化娘――第３３番実験体みたいに、
意識をしっかりと持ち、ほぼ自由に活動できるようなヤツはいない。
まるで、趣味の悪い自動人形のような動きしか、こいつらはできない。
だから今まで、本当に活動能力を得たと言えるのか、半信半疑だった。
研究チームの連中が、変なプログラムでも施したんじゃないか、とばかり思ってたぐらいだ。
当然“あの娘”の、しなやかで表情豊かなアクションとは雲泥の差だ。
――そうよ……動けて何か悪いのっ！？――
あんなに気の強い石化娘は、世界広しと言えど彼女ぐらいだろうな。
「ナンバー９、今回は収穫無しですか？」
「早く新たなサンプルを作りたいのですがねぇ」
研究チームの連中はそう言いながら、最新らしい実験体の体をコンコンと小突く。
その瞬間、低迷していた実験体の精神が活性化され、
俺や１３号にしか聞き取れない、音のない叫びが搾り出される。
（…………いや……死にたく……ない……助け……て…………）
この娘は確か、１０日ほど前に確保した……港に遊びに来ていたのだったかな。
１３〜１４歳といったところか……今は金色の彫像に姿を変えているが。
数ヶ月ぶりの金属タイプだと言ってたな……心までオブジェと化すまで、２〜３ヶ月か。
「そう言えば９号……面白い情報を手に入れたとか？」
「まぁな……あんたら、第３３番実験体を覚えているか？」
「３３番……あぁ、鉱物型の実験体でしたっけね、かなり気の強い娘でした」
「ルビーカラーで短髪でしたね、第３ラボに残してきたのが少々残念です……」
「その第３３番実験体に会った……ふもとの廃校でな」
「……廃校？ 何故３３番がそんな場所に？ ……まさか！？」
「活性体になっていた……しかも、君らの想像を超えた安定した状態でね」
「な、なんですとっ！？ し、しかし何故！？」
「そこまでは俺にも分からんなぁ……だが、実にスムーズな動きだった」
「何故回収してこなかったのですか！？」
「しようとはした……あのスタンガンもあったしな……だが――」
「邪魔が入ったんだよ、金髪の筋肉バカにな！」
俺が言いかけた言葉を、１３号が横から吐き捨てるようにつないだ。
だがなぁ１３号よ……筋肉バカはまずいだろう、特にお前の口からは。
「……まぁ、そういうことだ。そいつもなかなか手強くてね」
「まぁ非合法の研究ですからね、妨害する者がいても不思議ではないですが」
「で、こっちは何か新鮮な情報はあるのかい？」
「その活性体に関して、新たに研究を進めたいことはありますが……」
「ほぅ、どんな研究だ？」
俺が興味を示すと、研究チームの主任――“ナンバー１１”はにやりと笑った。
鬼畜な笑みというヤツだな。
「活性体の強化型とも言うべきものですね……ラットでは成功しました」
「活性体の強化型？」
「……まぁ、百聞は一見にしかずといいますから、どうぞこちらへ」
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ラボの最も奥まった場所に、新たなプラントが誕生していた。
大きいな、初めて見る施設だ……３号はもう視察したらしいが。
「そちらは次段階の研究用に現在調整中のものです……サンプル待ちですなぁ」
研究チーム主任の１１号はそう言いながら、俺と１３号をその横のプラントに案内した。
そこには、隣のプラントの小型版とも言えそうな、
直径１ｍほどの球状の真空容器のようなものが置かれていた。
主任がその容器の真ん中にある、窓のようなものを指差し、にやにやと笑った。
俺はその窓を覗き込んで見た。
――なんだ、こりゃ。
金属の容器の中、中心ほどに金色のラットがいた。
今でこそ多くの人間を使った実験サンプルがいるが、最初はこんなラットだった。
だが、その“金属化ラット”は初めて見るタイプだった。
目が赤い。
充血してるんじゃない……ルビーカラーの鉱物になっているのだ。
背中からは、サファイアカラーの棘が何本も突き出している。
四肢の先に長く伸びた爪は、まるでダイヤのように輝いていた。
「活性体に変化しつつある金属タイプの実験体に、結晶タイプを反応させるのです」
主任が自慢げに解説する。
「運動能力が飛躍的に高まり、この実験体の場合放電能力まで発揮したのですよ」
確かに、この“黄金ラット”は滑らかに動く。
向こうのガラスケースの中で、不規則に揺らめくオブジェたちとは比較にならない。
あの第３３番実験体に匹敵するかも知れんな。
隣に置いてある計測器には、常時１００ボルトを超える電圧が表示されている。
なるほど、だからこんな容器の中に入れているのか。
――素晴らしい。
こいつは、正に“金属生命体”とでも言うべき存在だ。
ただの石化実験体とは、もはや全く次元の違う、新たな生物だ。
もしも人間でこの試みが成功したら……それは人間を超える存在になる。
面白い……これはゾクゾクするほど面白い。
俺は、久し振りに高ぶる思いを抑えられなかった。
これが刺激というものだったか……ふふ、忘れかけていたよ。
是非見届けたいものだ――新たな種が誕生する瞬間を。
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| （第２章第２話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
物語の黒幕である、秘密結社メドゥアスが本格的に動き出す物語。
同時に後に重要な役割を果たす工作員ホルスとアイガーの自己紹介的な話でもある。
極秘裏に作られたラボに「動けない石化被害者」がたくさん置かれているが、
もちろん全員「いずれ活性化する」前提で設定を作っている。 |
