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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E022） |
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若干広いけど、やや薄暗い部屋。
小窓から外の光が入ってくるけど、部屋全体は照らせない。
部屋の片隅には、用途が良く分からない雑品がまとめて積み上げてある。
元々ここは、この雑品の倉庫だったんだけど、今は片付けられてる。
代わりに、部屋の真ん中に２体の“鉱物娘”が立っている。
――そう、あたしとルイさん。
別にただ立ってるわけじゃないよ。
訓練してるの……もっと速く、もっとスムーズに動けるようにね。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第２章 秘密結社メドゥアス ★
第２話 鉱物娘３人衆
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あたしは今、直立不動の姿勢で瞑想している。
意識を研ぎ澄まして、この硬い体の全身に満遍なく浸透させていく。
ある段階を過ぎると、視界が急に開ける気がする。
目はほとんど閉じているのに、薄暗い部屋の中に立っているのに、まるで光の中にいるような明るさを感じる。
それは、この体全体で、光を受け止めているため。
元々あたしやルイさんは体が結晶質だから、まるでプリズムみたいに体自体が光を透過して、
暗い場所でも比較的はっきりとものを見ることができたのだけど、今やっているのはその特性をさらに洗練させる訓練。
――パドルさんの言葉を借りれば、「全身を高感度センサーにする」方法。
目を閉じていても、体全体がその代わりをしてくれる。
後ろを振り返らなくても、背後の景色を認識できる。
最初は信じられなかったけれど、何度も訓練を重ねて、それが感覚で分かるようになってきた。
指先、つま先、髪の毛の先にまで意識が浸透し、その先端でも体をかすかに撫でる風の流れを感じることができる。
そこは、外の木々の葉が風で揺れる音以外は全くしない、静寂の世界。
けれども今、あたしの意識は最高に研ぎ澄まされている気がする。
やがて、あたしはゆっくりと目を開け、閉じていた手足を開き、持ち上げる。
数日前まで感じていた、引っかかるような重さはない。
この体の比重は人間のそれよりもずっと重いはずなのに、
信じられないほど軽い気がする……そう思うほど、体は滑らかに動く。
片足に重心を移して、そのままくるりと１回転する。
反動でそのまま回るところだけど、途中で足を踏ん張ってこらえ、
今度は反対側に１回転する……人間なら何でもない動きかも知れないけど、
数日前までゆっくりしか動けなかったあたしにとっては、信じられないこと。
重くて硬いはずの石の体が、ここまでスムーズに動くなんて。
心なしか、このエメラルド色の体が、輝きを増したような気がした。
そっか、サラさんが言ってたのは、このことだったのかな。
――出し抜けに、ザザッ、と音が響いた。
すぐ隣で、ルイさんが激しい運動を繰り返している。
さっきあたしがやっていたような運動を、何倍も速い動きで何度も繰り返す。
まるでダンサーみたいに素早く、無駄のない滑らかな動き。
思わず見とれてしまうほどに美しく、しなやかな動き。
この動きだけを見れば、ルイさんの体が、芯まで石でできてるなんて誰が信じるだろう。
（……ふぅ）
息をしているわけじゃないけど、そんな雰囲気でルイさんの動きが止まった。
多分……意識の調整を、しているのだと思う。
（凄い、また速くなりましたねルイさん！）
（えー、大して昨日と変わってないよ、それよりエミちゃんのほうが凄いって）
（え……そ、そんな、あたしなんか……///）
（本当だって、あたしよりずっと上達が早いよ♪）
ありがとうルイさん、素直に嬉しいです♪
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午前中の訓練が終わって、廊下に出た。
そう言えば、サラさんはどうしているだろう。
動けるようになって、３日目になるけど。
サラさんの部屋を覗き込んでみた……あれ、いないや。
どこに行ったのかと思っていた、その時。
（あ、エミちゃん、運動は終わったんですか？）
階段の方から、サラさんの（心の）声が聞こえた。
ふと階段室を覗き込むと、灰色のインナーが中ほどに浮いていた。
……いや別に超常現象じゃないけどね。
サラさんは黒に近い青い体だから、暗い階段室だと、風景に溶け込んで見えるんだよね。
でも体の輪郭は見えてる……１階の光を反射しているから。
（階段……登ってるんですか？）
（はい、地下に行っていたもので……もう３０分くらい奮闘してるんですが）
そう言って、サラさんは苦笑するそぶりを見せた。
そりゃ、まだ３日目だもんなぁ。
むしろ３日で階段を２時間ぐらいで移動できて、
わずかに表情も作れるようになったことの方が凄い……本当に努力家。
あたしもルイさんも、３日目はまだ部屋から出られなかったもん。
そんなことを考えている間も、サラさんは奮闘を続ける。
サラさんは、まだしっかりと念を込めないとほとんど動けない。
つまり、リズムと勢いで体を動かせないから、
上半身をゆっくりと前に倒して、ゆっくりと持ち上げた腕を精一杯前に伸ばして、
できるだけ手すりの上をしっかり掴んで、下半身をゆっくりと引っ張り上げる。
もちろん、片足を上の段に乗せてからだけどね……実際のところ、それだけでも大変。
あたしも半月くらい前までは、こうやって階段を登ってたっけ。
昨日は手すりを掴み損なって転げ落ちかけたけど、今日は大丈夫かな。
あの時はたまたま下にルイさんがいたから、受け止めて事なきを得たけど。
（階段って……難しいですね……人間だと、ごく当たり前なんでしょうけど）
（うん、分かりますサラさん、あたしも少し前までそうでしたから）
（早く……下の人たちとも、会話をしたいものですね）
（あぁ……そうですねー）
そう言えば……まだ全然動けない人が３０人近くもいるんだっけ。
呼びかけても反応がないから、生きてるかどうかも分からないんだけど。
……生きてて欲しい、勝手な願いかも知れないけど。
ふと、あたしの肩を誰かが叩いた。
振り返ると、人懐っこそうな赤い顔。
（ルイさん……）
（大丈夫、いつかかなうよ♪）
（……そう願いたいですね、私も）
……そうだよね、贅沢な願いなんかじゃないよね。
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それから、２時間ぐらい経ったのかな。
あたしたちは今、建物の外にいる。
周りは鬱蒼と茂った雑木林。
上を見上げると、木々の隙間から青空が見える。
ゆっくりと流れていく白い雲……今、正午ぐらいかな。
木々の奥でセミが鳴いてる。
そよ風が木々の葉を揺らし、爽やかな軽い音が流れる。
あたしの横にはルイさんが立ってる。
ぐぐーっと背伸びをして、あたしと一緒にそよ風に当たってる。
石の体なのに、風が体の中を抜けていくみたいな感じ。
自然と一体になるって、こんな感じなのかな。
あたしの後ろにはサラさんがいる。
入口の扉に手をかけて、寄りかかるように立ってる。
結局誰の手も借りずに、サラさんはここまで来た。
そう言えば、パドルさんの手を借りずに、３人一緒に建物の外に出るなんて初めてかも。
あ、またこの前の鳥。
あたしすっかり止まり木状態だね（^^;）
ふと気付いたら、足元にはリスが２匹。
警戒心なんて知らないような顔で、足に寄りかかって日向ぼっこしてる。
……平和だなぁ。
（わー、エミちゃん人気者だね、あたしなんか相手にもされないよ）
（そ、そんなことないですよ、多分風景に溶け込んでるから……）
（いえいえ、きっとエミちゃんの優しさが分かるんじゃないでしょうか）
サラさんまで……もぅ（///）
（風が気持ちいいですね……）
（あ、サラさんも分かる？気持ち良いよねぇ♪）
（ずっと地下室にいた所為かも知れないですね、これが普通なのかも）
サラさんの顔が、かすかに和む。
まだ上手く表情を作れないから、いつもは１見不安げだけど、今は心なしか、微笑しているような気がする。
静かな時間が流れていく。
聞こえる音と言えば、そよ風が木々の間を抜け、枝を揺らし、
葉を軽く撫でていく音だけ……そう、まるで木が歌ってるみたい。
あたしたちは声を出すことができないから、音がするとしたら足音だけ。
石の体だから、裸足でも靴を履いてるみたいにコツコツと響く。
耳を澄ませばたまに、手足を振った時に体が軽くきしむ音がする。
でも最近はしなくなったかも知れないな。
手首をプルプルと振っても、特にきしむことはなくなった。
それだけスムーズに動けるようになったってことか。
サラさんはまだ、体がきしむような音がするって言ってるけど。
あたしもルイさんも、昔はそんな感じだったからね。
まぁ石が動くわけだから、当然だよね。
パドルさんなんか肉の体（^^;）なのに、時々コキコキと鳴ってるし。
いや、あれはわざと鳴らしてるのかな？
そう言えばパドルさんの体も結構硬かったなぁ……肉なんだよね？
鍛えると肉でも硬くなるのかな……うーん、興味が沸くなぁ。
まぁ、あたしも元は肉の体だったはずなんだけど……ね。
あたしは、リスに気を遣いながら、ゆっくり足を踏み出した。
リスは驚いて飛び退いたけど、すぐに止まって、こっちを眺めた。
「なんだ、こいつ動けるのか」って言ってるみたいな顔してる。
動くんだよー、意外かも知れないけどね。
……あ、そう言えばあたし裸足だったんだ。
足の裏にコロコロと当たる、小石の感触で気がついた。
痛さはないよ、ヘタすりゃこっちの方が硬いしね。
よく見たら、林の中に蝶が飛んでる。
ひらひらと舞いながら、木から木へ、草から草へ。
木の幹の少し上にはセミがいて、大きく胸を震わせて鳴いてる。
意識を集中してその声に耳を傾けた、その時だった。
――ぐぅっ、と、視界が一気に開けたような感覚に襲われた。
たくさんの命に、取り囲まれてるような気がする。
物凄い数の命の感覚……そうか、虫や鳥だけじゃなくて、木や草も命なんだよね。
何千、いや何万という数の命……この雑木林の住人たちに、見つめられている感覚。
……いや、見守られているような、抱かれているような感覚かも知れない。
そよ風が体を抜けていく感覚も、さっきよりもずっとはっきりと感じる。
――これが、自然なんだ。
今、あたしは確信に似た思いに包まれていた。
あたしは、思わずしゃがみこんで、リスに手を伸ばしていた。
（――おいで）
リスがとてとてと駆け寄って、あたしの緑色の掌にちょこんと乗っかった。
この子達が、あたしを受け入れてくれていると、今は思えた。
何だろう……暖かくて、ちょっとだけ切なくて。
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（……ルイさん、どうかしましたか？）
サラさんの問いかけで、あたしは現実感に引き戻された。
数ｍほど横の、細い獣道の先で、ルイさんが無言で立っていた。
また……あの、寂しそうな表情をしていた。
あたしの心の変化を察したのか、リスたちが掌から降りた。
あ、ごめんね、せっかくくつろいでいたのに。
（ルイさん……？）
（あ、ごめん……ちょっとね……）
そう言いながらも、ルイさんは視線を戻さない。
視線の先は雑木林が続いているけど、確かその先は、ルイさんから聞いた話では町があったはず。
いったいどうしたんだろう。
（分からない……けど、嫌な予感がするんだ……）
（嫌な予感……ですか？ 私にはまだ、よく分かりませんね……）
（あたしも分かってないよ^^;……でも、何だろう……胸騒ぎって言うのかなぁ）
何かが起きる前触れなのかな？
言われてみれば、奇妙な感覚がするような。
そう……確かに、町の方からその感覚が流れてくるような。
感覚が流れてくるって変な言い方だよね、何て言ったらいいんだろう……空気？
胸騒ぎか……あたしたち“鉱物娘”にも、そういう感覚があるのかな……
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| （第２章第３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
エミ視点の２度目の物語であるが、“３人娘”が揃うエピソードでもある。
ルイとエミがパドルのアドバイスで“修行”を行う展開になっているが、
実を言うと、それほど特別な能力が備わるわけではない（汗）
ただ「半透明の鉱物の体」を活用するアイデアの１つとして執筆したものである。 |
