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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E053） |
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歩行者信号が青に変わる。
陽炎の中、ぞろぞろと歩き出す人々の群れ。
あたしもその中にいる。
あたしのすぐ横には幼馴染の眞希。
２人揃って、ペチャクチャと喋りながら駅に向かう。
駅前のロータリーには２台ほどのバスが停車して、お客さんを待っている。
ロータリーは２ヶ所あって、向こうのロータリーはタクシー乗り場。
白壁の駅舎にはカーブを描いた大きな庇が掛かってて、その下に切符売り場がある。
……ま、あたしらは定期券だけどね。
今日は学校の図書館で眞希と一緒にお勉強……というか実質、涼みに行くようなものか。
今日も朝から突き刺すような直射日光……しっかりクリームを塗ってきたけど大丈夫かしら。
最近、紫外線が徐々に強くなってるって言うしなぁ。
そう言えば、ロータリーの真ん中に立ってるブロンズ製のモニュメントも、色褪せた感じ。
毎週のように酸性雨を浴びてるんだもん、仕方ないよねぇ。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第５章 常識という名の壁 ★
第３話 日常と非日常の狭間で
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「せーんぱいっっ♪」
朝陽中央駅から２駅、坂を上ったところに、あたしらが通ってる私立朝陽学園がある。
その正門前で、ふと聞き覚えのある声がした。
「……あら、春海ちゃんじゃないの」
反対側の道から、手を振りながら歩いてきたのは春海ちゃん。
今日は黒いカラーコンタクトをはめている。
ヘアバンドをしている所為か、丸いおでこが全開。
前髪が長い印象があったから、ちょっと違う雰囲気に見えた。
「先輩も涼みに来たんですかぁ？」
「シーッ、勉強会よ、べ・ん・きょ・う・か・い、いいわね？」
「はーい、分かりましたぁ♪」
図書館は校舎とは別にあって、中等部の生徒も共有している。
蔵書数６万冊は、朝陽市内最大と言われるほどで、実際市立図書館よりも多い。
建物はちょっと古めだけど、開放的な大きな窓があって、周りに大きな木が植えられている。
枝振りの感じから多分クスノキだろうな……幹の周りにもベンチがあって、本が読めるの。
周りを木々に囲まれている所為か、建物の中はクーラーをフル稼働させなくてもそこそこ涼しい。
窓も大きいから、そよ風が室内に入ってくるの……時代を先取りしたエコ建築だよねｗ
建物自体も結構有名みたいで、市の指定文化財らしいんだよね。
学校は制服制だけど、夏休みだから私服の子が多い。
もちろん、あたしも眞希も、春海ちゃんも私服。
その所為か、高校ってより大学みたいな雰囲気が漂っている。
さて、参考書でも探して――と思ったら、眞希と春海ちゃんの姿が見えない。
――あ、もう席を確保して雑談しちゃってるよ……最初からやる気ないわねあの２人。
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あたしが“あの能力”に気付いたのは、１週間前だった。
ちょうど母さんがスーパーのパートで出ていて、あたし１人家にいた時。
いつもならあたしも学校に行ってるわけだけど、今は夏休みだからね。
お昼ごはんでも暖めようと思って、台所に行ったの。
なんかもう暑くてさ……頭ボーっとしてたんだよね、今思えば。
コンロに近づき過ぎて、服に火が燃え移ったの。
もちろんパニック。
服って、乾いてる時はすぐに火が回るんだよね。
家が火事とか、もうそんな状況じゃない……だってあたしが燃えてるんだよ？
死ぬかと思った、本気で……でももちろん、死にたくなかった。
その時だった。
体の中で、何かよく分からないけど、変なエネルギーがむくむくって沸いて来た。
それと同時に、袖や上半身の熱さが、すーって引いていった。
まだ……服は燃えてたのに。
そのおかげで、あたしは少し冷静になって、すぐに火を消そうとしたんだよね。
ガスの元栓を切って、服についた火を消すために、
横のシンクに置いてたボウルに水を入れて、無我夢中で頭から被った。
そんなこんなで……何とか火は消えた。
コンロの端がちょっと焦げたくらいで、大したことにならなかったのは幸い。
……いや、１番大変だったのはあたし自身なワケだけど。
我に返って、燃えた服を処分しようとした時に、気付いたの。
手が真っ白に染まってることに――もちろん、何コレ！？って思ったよ。
あの廃校で、あいつらにやられた時と同じ……白い大理石になってたんだから。
思わず台所を飛び出して、洗面所に飛び込んで、自分の顔を見たの。
予想通り――予想したくなかったけど――真っ白な大理石になっていた。
また……パニックになりかけた。
というか、夢かも知れないとか思った……だって石になってるのに動けてたんだから。
まるでルイさんたちみたいに……って思ったら、今度は夢じゃないような気がしてきたんだよね。
そう思ったら、何か凄く冷静になっちゃって……変な話だけどさ。
夢なのか夢じゃないのか、結局よく分からなかったけど、パニクってたって仕方ないな、って。
冷静になって観察してみたら……石になった自分の体は、凄く新鮮だった。
どこを触っても石像みたいな感触なのに、不自由なく動けるんだもん……信じられないよ普通は。
とっても硬いのに、簡単に曲がる手足をじーっと観察してたら、なんか不安より好奇心が勝っちゃってた。
でもさすがに数時間もしたら、不安になってきた。
だってこのままずっと石の体だったら、母さんになんて言えばいいか分からなかったし、
そもそも石の体じゃ、ルイさんたちみたいに声が出せなかったんだよね。
元に戻りたい……夢なら醒めて……そこで初めて、本気でそう思ったの。
そしたらさ……また、すぅーって力が抜けるような感覚がして。
１瞬意識が遠のいたけど、気がついたら、元の姿に戻ってた……ってわけ。
それから３０分くらいして母さんがパートから帰ってきて、
コンロ焦がしたことをたっぷり怒られました……とさ（^^;）
……結局、確証は持てなかったけど、現実だったのかなぁ、って気がして。
だからあの後、あいつらに拉致された時、本当かどうか試してみる気になったんだよね。
そして、本当だと確認できたってワケ。
１時的に、石の体に変身する能力。
なんか体だけじゃなくて、着ている服まで、ちょっと材質が変わっちゃうみたい。
パドルさんが言うには、１度石にされたから、その影響だって。
ってことは……春海ちゃんも変身できるのかしら？
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「せんぱーい、どうしたんですかぁ？」
「え？」
「そーだよ翔子、さっきから春海ちゃんの顔じーっと眺めて」
「あ……ご、ごめん、考え事してた」
……おぅいかんいかん、ボーっとしてた。
最近非常識な経験が多いからなぁ。
あたしや春海ちゃんや眞希が経験したこと、言ったって誰が信じてくれるか……
そう……ちょっと前のあたしみたいに。
ワクワクする反面、凄く怖い。
この前なんか、眞希と２人揃って、石にされかけたわけだし。
ルイさんたちなんか今もなお、石の体で必死に頑張って生きてる。
パドルさんとか、仲間はいるけど…… 一般には理解してもらえない境遇だよね。
興味深くて、刺激的で、怖くて寂しくて切ない。
ルイさんたちと、こんな学生生活送れたら、楽しいだろうなぁ……
「……やぁ、来てたんだね」
「あ、山崎先生、こんにちわです」
あたしが眞希らを促して、ようやく勉強会を始めた頃。
非常勤講師の山崎先生が、図書館を訪れた。
よく見ると、その横に小さな女の子が恥ずかしそうに立ってる。
この子は山崎先生の１人娘、香澄ちゃん……確か、小学校３年生くらい。
そう……あの台風の日、市立病院の前で出会った子。（２章５話参照）
「わぁ可愛い♪……先生、この子は？」
「そっか、眞希は初めてだっけ……先生の娘さんだよ」
「あぁ、紹介するよ……娘の香澄だ、ほら、みんなに挨拶しなさい」
「……こ……こんにちは」
俯き加減で、ぺこりと頭を下げる香澄ちゃん。
「実は家内が今日、仕事でね……やむなく学校に連れて来たんだ。
１人留守番させるのも、心配だからね……前回の件もあるし」
「前回の件、ですか？」
「この前の台風で、家が壊れた話は終業式でしただろう？その時香澄が閉じ込められてね。
何とか自力で這い出したらしいが、本当に不幸中の幸いだった」
「えぇっ！？……い、家が壊れちゃったんですか！？」
春海ちゃんが驚いて声を上げた。
「あ、この子、中等部の日ノ本春海ちゃんです」
「す、すいません……あ、あの、日ノ本春海です」
「あぁ、確かお母さんがＰＴＡの会長さんだったよね、知っているよ。
……今は学校の近くの賃貸マンションに住んでるんだ」
「そうなんですか……大変ですね」
「日ノ本君も色々大変だったと聞いているが……大丈夫かい？」
「え？……あっはい、だ、大丈夫です」
春海ちゃんは１ヶ月ほど、事件に巻き込まれて行方不明になってたからね。
もちろん、“あいつら”が関わった事件だけど、さすがにそこまでは明かせない。
だから表向きには、町外れで保護されて、記憶の１部が抜けてることになってる。
「あ、そうだ、先生仕事があるんじゃないですか？」
「そうだけど……何か質問かい？」
「あ、いやそうじゃなくて……香澄ちゃん、しばらくここにいたらいいんじゃないかって」
「え……良いのかい？そうしてもらえれば、確かに助かるけれど」
「どう？ 眞希、春海ちゃん？」
「いいですいいです♪ 妹が出来たみたいだし♪」
「あ、あたしも大丈夫です♪」
「そうか……じゃあ……お言葉に甘えようかな？」
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ということで、あたしたちがいるテーブルは、香澄ちゃんが増えて４人になった。
というか……勉強、はかどりそうにないなこりゃｗ
「香澄ちゃんって、今小学生だよね……何年生なの？」
「……さ……３年生」
「いやーん、かぁわいいっ♪」
「眞ぁ希、そんなに迫ったら香澄ちゃん怖がっちゃうよ？」
「あ、そうか……ごめんごめん♪」
「香澄ちゃん、足は治ったの？」
あたしが聞くと、香澄ちゃんは無言で、こっくりと頷いた。
あの台風の時、捻挫してたみたいだからね。
あれから、大体２週間くらいになるわけだけど。
「そう、良かった♪」
「…………」
「……ん？どしたの？」
ふと気付けば、香澄ちゃんが上目遣いであたしを見つめてる。
何か言いたいけど、言い出しにくいのか恥ずかしいのか、迷ってる感じ。
「……あ、あの……」
「いいよ、何でも聞いて♪」
「…………あ……あの人……」
ははぁ、なるほど……ルイさんのことか。
香澄ちゃんはあの日、土砂崩れで家が壊れて閉じ込められた時、ルイさんに助けてもらった。
信じられないものを見たはずなのに、香澄ちゃんは気丈にも、それをあたしに言ってくれた。
おかげで……あたしはルイさんと再会することが出来た。
そうだよね……香澄ちゃんに感謝しなきゃ。
「あの人って……赤い顔の人？」
香澄ちゃんがこっくりと頷く。
あたしは、にっこりと笑って、言ってあげた。
「大丈夫だよ……無事だから……香澄ちゃんのおかげだね、ありがとね♪」
瞬間、香澄ちゃんの表情が、ぱぁっと明るくなった。
ずっと……気にしていてくれたんだね……優しい子だなぁ。
無邪気な笑みを返す香澄ちゃんの表情は、本当に天使みたいだった。
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「ねぇ、翔子ぉ」
「……何？」
「さっきの話だけどさ……赤い顔の人って、もしかして」
帰り、校門を出たところで、あたしは眞希に話しかけられた。
春海ちゃんもどうやら、同じことを考えてたみたい。
「……うん、ルイさんのこと」
「やっぱり……あの子――香澄ちゃんだっけ、ルイさんと会ったことが？」
「ルイさんが、壊れた家からあの子を助けたんだよ」
「そ、そうだったんですか！？……そ、それじゃ、見られたんですか？」
「ううん、ルイさんと直接会ったのは香澄ちゃんだけ。
香澄ちゃんはその後すぐに救助されて、病院に運ばれたの」
「あ、そっか……そう言えば翔子言ってたもんね、壊れた家の前でルイさんに会ったって」
「香澄ちゃんがそこにいなかったら……あたしも多分、ルイさんと会ってなかった」
「偶然って凄いですね……」
偶然か……偶然だったのかな。
それとも――運命？
分からないけど……でも、１つハッキリ言える。
あの日から……あの廃校でルイさんに会ったあの日から……全部つながってるってこと。
「そうそう翔子、これからどうする？」
「そうねぇ……中央駅の前でお昼食べて、また“あのセンター”かな？」
「えへへ、やっぱりね♪……春海ちゃんも行くでしょ？」
「あ、はい――あ、ええと……どうしようかな」
快諾した――かと思った、春海ちゃんの目が、ふと泳いだ。
……やっぱり、何かおかしい。
“恩人”のサラさんに、あれだけ懐いてるのに。
――あぁダメだ、こういうモヤモヤ、放っとくのはあたしの性格じゃないや。
「……ねぇ、春海ちゃん、ちょっと聞いていい？」
「え？……な、何ですか？」
いきなり真顔で聞かれて、明らかに動揺した素振りを見せる春海ちゃん。
この子、嘘はつけない性格だな……多分。
「何か……知ってるんじゃない？ いつも元気な春海ちゃんらしくないよ」
「………………」
「翔子……春海ちゃん……どしたの？――真面目な顔して」
春海ちゃんが黙り込んだ……うわ、やっぱり図星？
しばらく、真剣な顔で俯いていた、春海ちゃんがふと、あたしの顔を見上げた。
何かを――決心したような顔だった。
「……誰にも言わないって……約束してくれますか？」
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| （第５章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
翔子視点の２度目のエピソードで、疑似メタロイド化能力を獲得した言い訳回想ネタ（爆砕）がメインだが、
台風の日にルイと遭遇した香澄との再会など、幾つかのフラグ回収にも使っている。
後半の春海との会話シーンは、２話でも仄めかしているが、むしろ４話以降のフラグ立てであり、
最終的には６章のハイライトにつながっていく展開になっているのである。 |
