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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E013） |
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（…………ルイ……さん……？…………）
ふと呼びかけられて、あたしは我に返った。
廃棄施設の地下にある、石化少女像の保管庫。
半年前まで、あたしもここに立っていた。
パドルさんに会うまでは、ね……
（あ、ご、ごめんなさいっ！……ちょっと考え事してて……）
そう、あたしはパドルさんと別れた後、ここで呼びかけを続けていた。
数日前に意識を回復したばかりの、サファイア色の少女像。
……って、あれ？今この子……
（そ、そう言えば……今、もしかしてあなたから話しかけてくれた？）
（…………どう……したん……ですか……？…………）
言葉こそ途切れ途切れだけど、前よりもはっきり彼女の心の声が聞こえる。
何よりも、自分から声をかけてくれるなんて、凄い進歩。
それであたしはすっかり、もやもやしていた気分が吹き飛んだ。
隣にいたエミちゃんも、ちょっと嬉しそうな顔になっている。
（ルイさん、今この人、自分から……）
（そうだよね、エミちゃんも分かったでしょ？これは進歩だよ！）
（…………進……歩……？…………）
（あ、ごめんなさい、何でもないの、こっちの話だから♪）
（…………よ、かった…………ルイ……さん…………元気に……なった…………）
良かった、だなんて……
あたしのことを気にかけてくれてたなんて……嬉しいな。
そう言えば……あたしは何で悩んでたんだっけ。
あぁそうか、パドルさんが言ってた、あの話のことか。
この体を使いこなすための方法……いや、方法自体はまだ聞いてないけど。
興味はある、けれど……正直、凄く複雑な気分。
その方法を知ったら、確かにもっと色々なことができるんだろうけど、
それは必然的に、自分が人間じゃないってことを見せ付けられる。
もう人間には戻れないってことは分かってるつもりなのに、凄く寂しい気分になる。
凄く、迷う――――はぁ、どうしたらいいんだろうな。
（…………ルイ、さん…………また……元気……なく、なった…………）
――はわゎっっ！？ き、気付かれてるよあたし！！
ダメだなぁ、せっかくこの子を励まそうとしてるのに、あたしが励まされてる。
……あ、そうだそうだ、この子と言えば。
（え？あ、な、何でもないよ大丈夫……そうそう、あなた名前覚えてないんだよね？）
（…………はい…………）
（じゃあさ、サラさんって呼んでもいい？）
（…………サ……ラ……？…………）
（そう、サファイアっぽいからサラ♪）
（そう言えば、あたしはエメラルドみたいだからエミなんですよね？）
（……ダメだった？）
（……え？あ、いえいえ、気に入ってます凄く♪……本当の名前みたいです）
（…………サラ…………）
（……どうだろう……ダメかな？）
その時だった。
心なしか、この子の体が、輝きを増したように見えた。
今までずっと、青黒い石だったのに……いや、今も石なんだけどさ。
なんていうか、透明感が強まったというか、明るくなったというか……
（…………ありがとう…………嬉しい……です…………）
また……意識が鮮明になったような気がした。
……喜んでもらえたってことなのかな？
そう言えば、エミちゃんに名前をつけてあげた時も、こんな感じだったっけ？
（……良かった、喜んでくれたみたいだね♪……宜しくね、サラさん♪）
（あ、あたしからも……初めまして、じゃないけど……宜しくです、サラさん！）
（…………はい……宜しく……お願い、します…………）
（あ、あはは……お願いしますだなんて……あたしの方こそ）
……うん、今夜は眠れないかもね♪
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１章 動く石化少女 ★
第３話 月夜の怪異
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久しぶりに見る町の上空には、くっきりと満月が浮かび上がっていた。
今夜は妙に明るいと思ってたら、そういうことだったのね。
……に、しても、エミちゃんたら。
（久しぶりに町に出たいって言ってましたよねルイさん……行ってこられたらいいのに）
（え？で、でも、サラさんが寂しがるんじゃ――）
（あたしがいますから、大丈夫ですよきっと……どうですかサラさん？）
（……ルイさんの……やりたいこと……やってください……）
まさか、サラさんまで同意してくれるなんて。
背中を押されるように出てきちゃったけど、良かったのかな？
うーーーーん、風が気持ちいいっ♪
町って言っても、この辺はそんな大都市じゃないから、夜中は誰も通らない。
数分から１０数分おきに軽トラックが通るぐらい。
ほとんどの家の電気は消えてて、自動販売機だけが明々と光ってる。
住宅地の向こう、海岸に近いマンション群が、遠く小さな明りをともしている。
……あたしも家出なんかしなかったら、今もああいう家に住んでたんだろうな……
毎朝、友達と一緒に学校に行って。
休み時間にはみんなではしゃいで、放課後は部活をやって。
夕暮れ時に家に帰るの……ただいまーって。
もう……できなくなっちゃったけどね。
自販機か……家出して喉が渇いた時、良くジュースでも買って飲んだっけ。
歩き疲れて見つけた自販機で、残り少ない小銭を入れて。
プシュッ、とタブを開けて……喉を潤すの。
それも、もうできない……潤いも乾きもない体になっちゃったからね。
そうだよな……もう、あたしは人間じゃない。
人間には戻れない。
分かってるつもりだった。
覚悟を決めたはずだった……動けるならそれでも十分だって。
けど―――今は凄く寂しい。
あの明かりの中に、もう溶け込めないと思ったら、急に哀しく―――
涙は出てこない……というか、流すことができない体質。
動けるというだけで、体は単一の石だから。
そう……石なんだよな。
最初は綺麗だななんて思ったけど……結局は、冷たくて硬い石。
真っ赤に染まってるけど、血の気は全くない――ただの石。
普通に考えたら絶対、生き物だなんて認められないだろうな。
これから――どうすればいいんだろう。
気分が沈む……明るい月夜の晩なのに、あたしの心は真っ暗な気がした。
気がついたら、“校門”の前に立っていた。
どうやら、町外れの廃校みたい。
錠前はさび付いてて、校名の板を貼ってただろう壁には、染みが残ってるだけ。
過疎化が進んで、少子化も進んで、大合併があって。
昔たくさんあった小さな学校や地方の役所は、どんどん廃墟になっていってるらしい。
そうか――この学校も、時代に取り残されたんだな。
まるで、今のあたしみたい。
そうだ、ちょっと探検してみよう。
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薄暗い廊下が、暗闇の中に溶け込んでいっている。
何も聞こえない、夜の廃校。
ただ唯一、あたしの足音だけが、薄明かりの差し込む床に響く。
砂埃を被った、タイル張りの床。
ミニチュアのビルみたいにたたずむ、廊下の脇の下駄箱。
全てがまるでセピア色の写真集のように、時を止めている。
１０年ぐらい前は、ここに子供たちの賑わいがあったんだろうけど……
――戻ってきたのが人間じゃなくてゴメンね。
あたしがきびすを返そうとした、その時だった。
突然、廊下の奥から、足音が聞こえた。
――誰！？
っていうか、隠れなきゃ！！
古い学校には歩く人体模型なんておっかない噂話とかあるけど、よく考えたら今のあたしだって大差ない。
まだ校庭を走る二宮金次郎の方が、ユーモラスかも知れない。
あ、女子トイレがある、ひとまずココに身を潜めよう。
って、女子トイレか……ま、まぁいいや。
３分くらい経っただろうか。
廊下の奥から、２つの人影が歩いてきた。
小声で何か話し合ってる。
「ね、ねぇ翔子ぉ、帰ろうよ……あたし恐いよぉ」
「な、何言ってるのよ眞希ったら……第一、誘ったのはあんたじゃない」
「うぅ……そ、そうだけどさぁ」
どうやら、女の子のコンビみたい。
近くの学校の生徒かしら？
あたしは息を潜めて身を隠す……いや、息してないけど。
と、足音が女子トイレの前で止まった。
いやぁ、ちょっと……止まらないでよ！
「女子トイレがあるよぉ」
「そりゃあるわよ、どこの学校でも」
「花子さんとかいるかも」
「バカねあんた、いつの時代の話よ」
花子さんはいないけど、覗き込まれたらパニックだろうな。
ルビーの少女が学校の７不思議に加わるのかしら。
……なんかそれも嫌だなぁ。
「い、行こうよ翔子、あたし恐い」
「まったく、しょうがないわねぇ」
足音が徐々に遠ざかる。
はぁぁ……良かった、覗かれなくて。
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トイレの奥の窓から、満月が見える。
そう言えば、兎の餅つきなんて話があったっけ。
確かに月面には染みがあるけど、兎の餅つきには見えないなぁ。
翔子ちゃんと眞希ちゃん、か……
感慨にふけっても仕方ないよね……夜が明ける前に帰らなきゃ。
エミちゃんとサラさんも待ってるし。
あたしがどっこいしょ、と体を起こした、その時だった。
「きゃあぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！」
突如、少女の甲高い悲鳴が、暗い校舎に響き渡った。
な、何！？ いったい何が起きたっての！？
あたしは思わず飛び出した。
何だろう……凄く嫌な予感がする。
心臓はもうないのに、物凄くドキドキする。
あたしは思わず意識を集中して身構える。
その時、ドタドタッ、と足音が響いた。
１階じゃない……この感じは多分２階！
あたしは階段室に回って、一気に駆け上がった。
上りきった角から、そっと廊下を覗く。
人影は見えない。
けれど、誰かが走るような音が遠ざかっている。
逃げ出したい恐さと、何が起きたか確認したい思いが交錯して、脚が震える――硬い石なのに。
それでも確認したい思いの方が勝っているのか、あたしはゆっくりと歩を進める。
と、その時、奥の教室のドアがガラガラッ、と乱暴に開かれた。
あたしは思わず、柱の影に身を隠す。
教室の中から、黒い影が２つ出てきた。
全身黒ずくめの、大柄な男たち――えっ、黒ずくめ！？
背中に何か担いでいる……よく見ると、それは失神した少女だった。
何か話しているみたい……意識を集中して耳を傾ける。
「だが良かったのか！？こんなところで固めちまって」
「仕方がないだろう、あそこまで抵抗されればな……まぁおかげでこいつは大人しくなった」
「あの娘は置いていくのか？」
「心配いらん……ここは廃校だ、発見される頃には俺たちの行方は迷宮入りさ」
な、何ですって！？
か……固めたって、ま、まさか……！！
黒ずくめの男たちが廊下の奥にある、もう１つの階段を降りていくのを見届けてから、
あたしは教室の中に駆け込んだ。
（――――………………！！）
思わず、思考が止まった。
教室の中央に、大理石のような質感を放つ、少女の彫像が置かれてあった。
恐怖に歪んだ表情。
何かに抵抗するようなポーズ。
もちろん、見開いた目に瞳の影はない。
もはや、疑いはなかった。
これは少女像なんかじゃない。
今さっき、あいつらによって石化された少女だと。
そう―――あたしのように。
思い出したくもない悪夢の記憶が、スライドショーのように蘇ってきた。
憎悪と共に。
あいつら……まだこんなことやってたのか。
同時にあたしは、凄く悔しい気分に襲われた。
何もしてあげられないのかあたしは……経験者だというのに。
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……その時。
（……誰か……いるの……？……）
声が聞こえた。
いや、声と言っても、心の声だけど。
大理石状の彫像にされた、目の前の少女の方から聞こえてきた。
この子……まだ意識がある！！
（……あなた……意識があるのね！？）
（……眞希じゃ、ない………そ、その姿、は……？……）
（……！！……あたしが……あたしの姿が、見えるの？……）
言葉にはならなかったけど、彼女が頷くような気がした。
“眞希じゃない”ってことは、この子が翔子ちゃん……いや、翔子さんなのね。
（……あなたも……石にされたの？……どうして……動けるの？……私も……動きたい！）
（……ごめん、ごめんね翔子さん！……あたし……何もしてあげられない……）
（私を……知ってる……の？）
（さっき……女子トイレに隠れてたんだ……そこで、名前を聞いたの）
（……眞希は、どこに……連れて行かれたの？……あいつらは……何者？）
うわぁ……しっかりしてるな、この子は……
自分が石に変えられたのに、友達の心配ができるなんて。
（ごめん、ごめんなさい……あたしも、分からないの）
（……そうか……あなたも……被害者、なんだね……ごめんね）
（そ、そんな、謝る必要なんかないよ！……動けるのに、何もしてあげられないあたしなんかに）
そう……何も、できない……できなかった。
まさか、あいつらがまだ活動を続けていたなんて。
自分は何をやっていたんだろう……余りにも無力過ぎる。
凄く……凄く悔しい。
（私たち……友達に、なれそう……だね……私は、動けないけど……あなた……名前は？）
（…………瑠唯……）
（……そっか……ルイさんか……いい名前…………お願い、私の話し相手に……なってくれる？）
（話し相手……に？）
（私も……眞希を、助けられ……なかった……無力だった……ダメかな？）
そんなことない。
あたしはただ、無言で首を振るしかできなかった。
（ありがとう……私も……ルイさんみたいに……動けたらな……）
あたしは、唇を噛み締めた。
こんな無力感……久しぶりだ。
その時――パドルさんの言葉が、頭の中に蘇った。
「その体を、使いこなしてみる気はないか？」
……使いこなしたい。
この体で色々なことができるなら、その全てができるようになりたい！
人間であるかないかなんて、もうそんなこと関係ない。
翔子さんみたいな人を……被害者を、１人でも減らしたい！
そのためにあたしに何かできるのなら……！
その時、背後で引き戸が開かれる音がした。
「まったく……忘れ物など子供みたい……な！？」
（！！？……し、しまっ――）
戻ってきた黒ずくめの男と、目が合った。
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３ｍほどの距離があった。
あたしと、黒ずくめの男。
どっちも、驚きで立ちすくんでいる。
あたしは、あいつらに発見された驚き。
そしてあいつらは……
「な、何だコイツは……！？」
「まさか、実験サンプルの１体か？……しかし何故動ける！？ 活性体はまだ研究中だったはず……」
どうやら……動ける石化人間がいるのが意外だったらしい。
あたしは精一杯虚勢を張って、男たちに言い返した。
（そうよ……動けて何か悪いのっ！？）
「こいつ、今テレパシー波を！？」
「ほぅ……プログラムではなくて、自分の意思で動けるというのか」
……えっ！？
ちょ、ちょっと、あたしの声が聞こえるなんて聞いてないよ！！
「面白いものを見つけたな……こいつも回収しよう、これは本部へのいい土産になるぞ」
か、回収って！？
じょ、冗談じゃないわよ……ちょっと、あたしに触らないで！！
その時だった。
（ちょ、やめ、何を――――！！？）
全身に激しい“痛み”が走った。
まるで、石にされた体を粉々に砕かれるような、経験したことのない衝撃。
実際に砕けたわけじゃなかったけど……体の中を激しい衝撃が駆け巡っている。
倒れこむ際、男の１人が、その手にスタンガンみたいなものを持っているのが見えた。
（かっ、は―――ぐ――何、を―――！！）
余りの衝撃に、意識や思考が飛ぶ。
しかも、体の自由が利かない……まるで、再び固め直されるような感覚。
嫌だ――またあの……動けない石像に戻るなんて――！！
「予想通りだな、まだ開発中の代物だが、見ろ、効果覿面だ！」
「拡散式ＥＭＰスタンガン……結晶中を乱反射する電磁波が、ここまで効果的とはな」
（……る、ルイさん！！）
翔子さんの――心の、声が――聞こえる。
けど、反応できない――ダメだ、自由が――意識、が――だ、誰か……助け……て……！
――ゴスッッ！
「――ぐぇぶっっ」
――え？ 今……な、何が……？
「意識を集中し直すんだルイ、それで自由は戻る」
言われるままに、意識を集中する。
すると……動かなくなっていた手足に、再び軽さが戻った。
まだ、体内に衝撃が残っていたけれど……意識もちょっと鮮明になった気がした。
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引き戸の後ろの廊下に、金髪の大きな男の人が立っていた。
黒ずくめの男の１人が、その前にうつ伏せに伸びている。
（ぱ……パドル……さん）
「大丈夫かルイ？ 済まんな、遅れちまって」
「ちっ、貴様誰だ！？ ――来るな！ 来るとこの娘が粉々になるぞ！」
し……しまった！
倒れている隙に、翔子さんの横にあの男が……
（……粉々！？……い、嫌ぁ！）
（……や、やめて！！翔子さんに手を出さないで！）
「……やってみろよ、できるもんならな？」
……って、パドルさん！？ な、何言ってるの？
「……いいのか？ この娘はまだ生きてるんだぞ！？」
（そ、そうだよ！ パドルさんだったら分かるでしょ！？）
「知ってるぜ？ だが破壊なんかできないはずだ……この石はそんなに脆くないからな？」
「くっ……貴様……何故そのことを知ってる？」
「――はっ、お前なんかに言う義理はないねぇ♪」
……そうなんだ？ この石ってそんなに硬いのか。
そう言えば、前に崖から落ちた時も、傷らしい傷がなかったっけ。
小さな凹みが２〜３ヶ所あったけど、１週間くらいで直ったし。
試しにカッターナイフで切りつけてみたりしたけど、ナイフの方が欠けたもんな。
いや……別に変な悩みがあったわけじゃないんだけどさ。
「さて……お前には色々吐いてもらわんと……な！？」
「ふふふ……よし、でかしたぞ！」
（ぱ……パドルさんっ！？）
いつの間にか、倒れてた男が起き上がって、パドルさんにカプセルみたいなものを投げつけていた。
パドルさんの足元から青白い光が放射されて、その下半身を半透明の結晶に変えていく。
そ、そんな……今度はパドルさんまで！？
「……つまらねぇことをしやがって」
「今のうちに吠えるがいいぜ、そのうち何もできなく……なっっ！？」
けれど……予想もしないことが起きた。
パドルさんの石化が、腰を過ぎた辺りで止まった。
黒ずくめの男たちも、信じられないような表情をしてる。
あたしだって信じられなかった……今まで、石化が途中で止まったことなんてなかったのに。
いや、そんなにたくさん見たわけじゃないけど。
「く、くそっ……どうなってやがるんだ！？」
「もういい、ずらかるぞ、こいつが動けないうちに！」
「ちくしょう……貴様覚えてやがれっ！ 今度会ったら固めて砕いてやる！」
そう言い捨てて、あいつらは教室を転がり出すように逃げていった。
そして、パドルさんの方はというと。
腰辺りまで石化していたのが、今度はどんどん元に戻り始めた。
ほんと……いったいどうなってるの！？
石化して２〜３ヶ月くらいまでなら元に戻れるとは聞いたけど、
自分で戻せる人なんて、初めて見たよ。
やがて青白い光がパドルさんの手の平に集まって、そこで小さな結晶を形成した。
パドルさんはその結晶を、胸ポケットから出した、半透明のメタリックな小瓶の中に入れた。
「ふぅ……予想外だったな、逃げられるとは思わなかったぜ、油断しちまった」
予想外だったのはあたしの方だよ。
翔子さんもびっくりしただろうな……さっきから黙ってるけど、
今の光景を見たら言葉失うよね、あたしが呆気に取られたぐらいだもん。
（……ルイさん……大丈夫？……）
そう思っていたら、また翔子さんが語りかけてきた。
ほんとに気丈だなぁ、あたしのことなんか心配しなくてもいいのに。
（え？あ、うん、もう大丈夫……ごめんね、役に立てなくて）
（……そんなこと、ない……ルイさん……凄く、カッコ良かった……）
カッコ良かった、だなんて……そんなこと言わないでよ。
何もできなかったのに。
「ふむ、どうやら彼女も意識はハッキリしているみたいだな、取り合えず良かった」
（……あ、あの……眞希は……）
「君の友達なら心配は要らない、安全なところにかくまっておいたよ」
パドルさんと翔子さんが会話している。
どうやらもう１人の子……眞希さんも助け出されたみたい。
そう、こういうのをカッコ良いって言うんだと思うな……
（……そう、ですか……良かった……）
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「…………翔子、翔子ったら！」
「あ、あれ？……眞希……私…………」
「心配したよぉ、どこに行ったのかと思った……怖かったんだからね」
「ごめん……ゴメンね眞希」
「もう帰ろう？ こんなとこで寝てたら風邪引くよ」
「そうだね…………ねぇ、眞希？」
「ど、どうしたのよぉ、改まっちゃって」
「私ね…………怖い夢を見てたみたい……」
（これで、良かったんですよね……）
西の空に沈みかけた満月……その月明かりに浮かび上がる、廃校の校庭。
そんな片隅で、眠りから覚めた２人の少女が、門扉を開けてそろそろと出て行く。
それをあたしは、２階の教室の窓からじっと見ていた。
「覚えていてもろくなことはない……ルイには酷だったかも知れんが」
（いえ、いいんです……あれは悪い夢であって欲しい……）
寂しくない、と言えば嘘になる。
けれど、多分こうすることが１番良かったんだと自分に言い聞かせた。
記憶の抹消―――完全には消せなかったらしいけど、
２人にとっては、忍び込んだ夜の廃校で見た、奇妙な夢だとしか思わないはず。
黒い魔術師に襲われ、ルビーの少女と出会った、ファンタジックな夢。
ちょっと怖いけど、ロマンチックな夢じゃない。
それでいいんだと思う。
（あたし……帰りますね……なんか疲れちゃいました）
「あぁ、そうだな……ゆっくり休みなさい」
（はい……それじゃ、また明日……あ、もう今日かな……おやすみなさい）
町外れであたしはパドルさんと別れ、帰途に着いた。
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（ルイさん、お帰りなさい！ どうでした、久しぶりの町は？）
（エミちゃん……まだ起きてたの？ もうすぐ夜明けだよ？）
（ルイさんが帰ってくるまで、サラさんと話してようと思ったんです……ごめんなさい）
（あ、いや……べ、別に謝ることなんかないのに）
雑木林の奥の“我が家”に戻った時には、もう東の空がうっすらと明るくなりかけていた。
外の世界から切り離されたような地下施設の奥で、
エミちゃんとサラさんが、あたしの帰りを待っていてくれた。
ちょっと……嬉しかった。
（……ルイさん……どうか……したんですか？……）
（え？な、何が？）
（……ルイさん……ちょっと……寂しそう……）
（あ、そう言えば……何かあったんですか？）
（い、いや、何もないよ？ 大丈夫だから……ちょっと歩き疲れただけだよ）
（……そう、ですか……）
サラさんって……もしかしたら、凄く鋭い人なのかも。
というか、まだ動くことが出来ないのに、あたしの心配なんか……
そう言えば――翔子さんもそんな人だったな……
（疲れたんですか……じゃあ、休みましょうか）
（うん、それがいいかもね……あ、サラさんは……大丈夫？）
（……私は……大丈夫です……ゆっくり……休んでください……）
（ごめんね、サラさん……いや、ありがとう……じゃあ、あたし寝るね）
（はい、お休みなさい！）
（……お休みなさい……）
寝るといっても、普通の人とはちょっと違うんだけどね。
横になって、体の動きを止めて、思考も１時的に止めるだけ。
その間……まどろみのような静かな時間が、ゆっくりと流れていく。
そう……あたしはもう、人間じゃない。
けれども……それは、自分で選んだ道。
でも他の人たちには、できれば歩んで欲しくない道。
そのために、あたしができることをやっていきたい……
多分それが……あたしの存在する理由だと思うから。
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| （第１章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2007〜2008年頃に草稿を作成したエピソード。
ルイが普通の人間である翔子たちと初めて接触するエピソードであり、
「元人間の被害者」にとって重要な出会いとなる物語である。
また秘密結社メドゥアスの工作員が初めて登場する物語であり、
ここに登場する２人が後に大きな役割を果たすことになる。 |
