 |
★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E041） |
|
（ ――― ……あら？）
ふと――目覚めたら、朝方でした。
ぼんやりと、薄暗い天井が見えてます。
この暗さだと、まだ午前４時くらいでしょうか。
私にしては、珍しい時間帯に目が覚めたものですね。
いつもは７時頃に、エミちゃんが起こしに来るんですよ。
起きたらもうみんな揃ってて、実は私が１番の寝ぼすけさん。
なのに――今日は１番早く起きちゃいました。
……どうしちゃったんでしょうね？
|
ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第４章 戦いの幕開け ★
第１話 ４人目の少女
|
私が虚無のような闇から、ルイさんたちに呼び戻されて、２ヶ月くらいが過ぎました。
パドルさんの“魔法”で動けるようになって、１ヶ月くらいかしら？
やっと普通に歩けるようになりました……階段でも転ばなくなりましたし。
そう言えば……１０回以上転んだのに、まるで無傷ですねこの体。
いや、痛かったことは痛かったんですけど。
何となく、自分の手を見たりします。
部屋が暗い所為で、かなり黒っぽく見えますが、本当は海のように深い青。
材質は知りませんけど、サファイアに似た石、というのは間違いないみたいです。
そう……石なんですよね私の体って……なのに動ける。
この事実を知って２ヶ月くらいになるのに、まだちょっと夢みたいですねぇ。
（どっこい……しょっと）
ゆっくりと、１分くらいかけて、上半身を起こします。
これでも、私にとってはできるだけ速く動いてるつもりなんですが。
ベッドの横に脚を伸ばし、膝をゆっくりと曲げて、スリッパに爪先を通します。
それから……手摺につかまって、ぐっと立ち上がります。
うーん……まだ体のあちこちに、引っかかるような重さを感じますね。
時折、関節が軽くきしむような音を立てます。
そう言えば、この体は時々暖めてやらないと動きが鈍る、ってパドルさんが言ってましたね。
人間でもそうらしいですけど、私たちみたいな“鉱物娘”でも同じ事が起きるようです。
この部屋は空調が利いているので、冷え切ってしまうことはないのですが、
まだ古い施設にいた頃はエアコンがなくて、夜は夏でも結構冷えてしまった記憶が。
数ヶ月前、冬場にパドルさんに助けてもらったルイさんとかは、
夜になると体が冷え切って、朝まで全然動けなくなってしまったんだとか。
私って、つくづく恵まれてるんだな……って思えるんですよね。
あ、そうだ、せっかく早起きしたのだから、たまには朝のシャワーでも浴びましょう。
……いや、初めてだったかしら、朝シャワーって？
|
|
（――ふぅ、気持ちよかった♪）
朝のシャワーが、こんなに清清しいものだなんて。
これからはもっと早起きしなきゃいけませんねぇ、うん。
そう言えば、私も大分早く、服が着られるようになったかも。
早く、ルイさんやエミちゃんみたいに、スムーズに動きたいものです。
って、あら？――奥の部屋の電気が。
確かあの部屋は、前の施設から連れて来た、まだ意識のない子たちの保管庫。
まだ夜明け前だというのに、誰でしょう？
恐る恐る、灯りが漏れている、奥の部屋の扉を開けてみました。
視界に色とりどりの、彫像のようになった少女たちの姿が飛び込んできます。
まぁ……私だって意識があって動ける点を除けば、彼女たちと同じなのですが。
２ヶ月前まではこの中の１人だったわけですからね。
その時……部屋の中央付近で、膝を付いて座っている人影が見えました。
薄いインナーから、ワインのような赤い体が見えています。
（……ルイさん？）
（……あ、サラさん……眠らないの？）
（珍しく早く目が醒めたもので、さっきシャワーを浴びてきたのですが……）
（――え？もうそんな時間！？）
ルイさんが目を丸くして、立ち上がりました。
まぁ、なんてスムーズな動きなんでしょう――って、そうじゃなくて。
……もしかして、１晩ずっとここに？
（サラさん、今何時ぐらい？）
（えっと……更衣室の時計は、４時半でしたけど）
（あっちゃあ……徹夜しちゃったよ）
１晩ずっと……いたみたいですね。
でも、心なしかルイさん、嬉しそうですねぇ。
（……あ、でもねでもね、収穫あったんだよ♪）
（収穫、ですか？）
（うん……この子なんだけど）
そう言って、ルイさんが指差したのは、
まるで翡翠のような淡い緑色をした、少女の石像。
……もちろんこの子も多分、１年ぐらい前は、人間だったはずですけど。
小柄な子です……中学生、いやいや小学生ぐらいでしょうか？
（徹夜した甲斐はあったよ……かすかに、ほんとにかすかだけど、反応が）
（――え！？反応があったんですか？）
（まだ、言葉にはならないみたいだけど……光ったんだよ、何度か）
光った、といっても、別に発光したというわけじゃないんですよね。
意識がある子は、意識がない子よりも、輝いて見えるんです。
なんていうか……オーラでも纏ってる感じ、といえばいいんでしょうか。
私もこの部屋にいる子たちよりかは、ルイさんやエミちゃんの方が明るく見えますから。
（うわぁ……凄いじゃないですか！）
（でも……また沈黙しちゃったんだけどね……最後に光ったのは１時間くらい前かな？）
（そうですか……また光ってくれるでしょうか？）
（うん、きっと反応してくれるよ、エミちゃんだって最初はこんな感じだったし）
ルイさん、本当に嬉しそう。
ここ数日くらい、ずっと寂しげな感じだったから心配でしたけど。
（はぁ、でもちょっと疲れちゃった……あたし、寝てくる。サラさん、後で起こしてくれる？）
（えぇ、いいですよ。その間、私が今度は呼びかけて見ます）
（あ、そうだね……サラさん、お願いできる？）
（はい、喜んで♪）
（良かった……反応、あるといいね）
|
|
スリッパの音が聞こえなくなると、私はもう１度、部屋を見渡してみました。
様々な色の石像と化した少女が、何十人も静かに佇んでいます。
よくよく見れば、私と似たような色合いの子も、ルイさんに似た色合いの子もいます。
違うのは髪形や身長が私やルイさんとは違っていること、そして――全く動かないこと。
……分かってますよ、動ける方が特別なんだってことは。
――でもいつか、ここにいる全員が、その特別になってくれたら。
さて……始めましょうか。
翡翠色の少女の前に、静かに膝を付き、静かに手の平を組みます。
ちょうど、神様にお祈りをするような姿勢で……瞼を閉じます。
全身が均一の石になっている所為か、完全に目をつぶることは出来ないみたいですが。
心を落ち着け、耳を澄ますように、意識を集中させて行きます。
こうすると、部屋全体の空気の流れが、よく分かるんですよね。
首を動かさなくても、この部屋に立っている子たちの位置が分かるような気がするんです。
そして……私の前に立っている、小柄な少女像の方へ、少しずつ意識を傾けて。
必死で念じるというよりも、その翡翠色の石の中に眠る、少女の心を探すような感じ。
（……あなたは今、どこにいるのですか？……あなたに会いたい、会わせてください）
この施設に来てから、彼女たちを綺麗にしてあげることが、私たち３人の日課になりました。
柔らかい濡れタオルで、彼女たちの埃を拭き取ってあげるんです。
前の施設にいた時はほとんど放置されていたので、ここに来てからは毎日拭いてます。
私たちだって、毎日シャワーを浴びてるわけですから、同じように綺麗にしてあげなければ。
そして、週に１度はシャワー室に運んで、シャワーを浴びさせてあげるんです。
３０人もいるから、ローテーションを組んで、数人ずつということになりますけどね。
……まぁ、週に１度といっても、まだここに来てから１０日くらいしか経ってないわけですが。
（ ―― …… ……？…… …… ―― ）
（―― ……えっ！？）
祈りというか、呼びかけを始めてから、１時間くらい過ぎた時でした。
ふと――翡翠色の少女の体が、淡く光ったような気がしました。
１瞬……本当にほんの１瞬ですけど、確かに今……彼女の中で何かが動いたような気がしました。
（お願い……行かないでください……あなたに会いたい……あなたを探しています）
はやる心を必死で抑えて、あくまでも冷静に呼びかけを続けます。
無理をさせるわけにはいかないですもの……ルイさんなら強く念じたかもですが。
数分ほど……何事もなかったかのような、静かな時間が流れました。
（ ―― ……？…… ……？…… ）
――感じた！
今確かに、この子の感情が見えました。
生きてる……この子は確かに生きてます！
（私はサラ……あなたとお友達になりたいです……お願い、あなたに会わせてください）
（ …………サ…………ラ…………？………… ）
――聞こえた、聞こえました！
反復しただけですけど、今確かに、言葉を発しました。
まだ、言葉の意味もよく分からないかも知れません……目覚めた直後の私もそうでした。
それでも構いません……だから、私の言葉を聞いてほしい！
（私はサラ……私も石にされました……あなたの気持ち、理解できると思います！）
（…………サ……ラ…………アナ……タ……ノ……キモ……チ……？…………）
彼女が言葉を反復するのと同時に、彼女の翡翠色の体が点滅したように見えました。
そうそう、それでいいんですよ……そのうちきっと、意味が分かるはずですもの。
|
|
（……アナタ、ハ……サラ……石ニ、サレタ……）
（そう、そうです！ あなたと同じ、だからあなたも頑張ってください！）
最初に光を感じてから、どのくらい経ったのでしょうか。
言葉も出てこなかった最初の頃に比べると、随分意識も鮮明になってきたみたいです。
今、私もの凄く嬉しい……ルイさんやエミちゃんも、こういう気分を味わったのですね。
少し、疲れたような気がしなくもないですけど……いいえ、なんのこれしきですよっ♪
（……アタシ、ト……同ジ……アタシ、モ……石…………）
（……あ、そ、その……ご、ごめんなさい……で、でも……お友達に、なりかたったんです）
忘れていました……そうですね、なりたくないのに石にされたのですよね。
目覚めたら自分が石像だった、なんて……残酷な現実ですよね。
な、なんて言ってあげればいいんでしょうか……
（……アナタ、モ、石……動ク、ノ……？………………ドウ、シテ…………？……）
（……え、えぇと……それは……何て言えばいいのか……）
正直、私も何故動けるのか、良く分かってないんですよね。
パドルさんの“魔法”のおかげですけど、それがどういうものなのかは……
あぁ、ここまで意識を引っ張り出してあげられたのに……
（……アナタ、ハ、サラ………………アタシ、ハ……………………誰……？……）
うぅぅっっ。
そ、そうなんですね……自分の名前を覚えていないのですね。
そう言えば私も、サラという名前はルイさんに付けてもらったんでした。
（お、覚えていないのですね……ご、ごめんなさい）
（――だったらさ、スイちゃんって、どうかな？）
――え？
振り向けば、そこにルイさんが。
（ルイさん……）
（サラさん凄いよ、ほんの数時間でここまで意識を引き出せるなんて！）
（え？……は、はぁ）
（この子が４人目の？……うわー凄い、サラさんが呼び戻したんですか？）
（え、エミちゃん……）
ルイさんの背後には、エミちゃんがニコニコして立っていました。
（ずぅっと集中してたんだねサラさん……エミちゃんが起こしに来たから）
（あ……す、すいません、そう言えば起こすって約束したのに）
（いいですよサラさん、それにサラさんのおかげで４人目が目覚めたんですし）
（……スイ、チャン……？……）
（そ。翡翠色だからスイ……ダメかな？）
（あたしはエメラルド色だからエミってつけられたんだよ、ルイさんに♪）
（そうですよね……私のサラって名前も、自分の名前を覚えてないからルイさんに……）
（サファイア色だからサラ、って付けたんだよね……単純だけど）
（いえそんなこと……本当の名前みたいに定着しちゃいましたよ♪）
（……エミ……ルイ……サラ………………スイ……）
あっ……！
また少し、彼女の体の光が強くなったような気がしました。
（……スイ…………あたしの、名前…………スイ……スイ…………）
（うーん、やっぱり安直かしら？……エミちゃんはどう思う？）
（えー？……こればっかりは本人の意思を尊重した方がいいんじゃないですか？）
（ちょ、余計不安になるじゃない！？）
（あ、あの……どうですか？その……スイちゃんって呼んでも……）
（…………うん……スイ、で……いい…………あたし、スイ…………）
表情は全く変わらないですけど……今この子――スイちゃんが微笑んだ気がしました。
ルイさんやエミちゃんの表情にも笑みが……ルイさんはほっとした感じにも見えますね。
良かった……本当に良かったです。
|
|
「数時間で意識の発現を！？そいつは本当か？」
（本当も本当ですって、サラさん凄かったんですから！）
（あ、いやその……最初に呼び戻したのはルイさんですから……）
（あたしなんかちょっと瞬いただけだよ！？サラさんが呼び戻したも同然だって！）
今はお昼前、ここは談話室。
私はパドルさんや翔子さんたちと会話しています。
「凄いじゃないですかサラさん、ルイさんの話だと、意識が鮮明になるまで何日もかかるんでしょ？」
（そうそう、エミちゃんの時もサラさんの時も、１週間以上かかったんだよ！？）
（ま……まぐれですよぅ）
（ホント！？……ねぇサラさん、どんな奥義を使ったの？翔子さんには黙っててあげるからさ）
「しっかり聞こえてるんだけど……ってか、奥義って何ｗ」
る、ルイさん……その表情、ちょっと怖いですよぅ。
（別に何も……意識を澄ませて、冷たく冷え切ってる心を暖めるような感じで……）
（心を……暖める？ 呼びかけたり念じるんじゃなくて？）
「ほぅ……こいつはもしかすると……なぁ、ライカ？」
「えぇそうね……マインド・ヒーラーの資質を感じるわ」
（まいんどひぃらぁ？）
「何ですかライカさん、そのマインド何とかって？」
「マインド・ヒーリング。“精神回復能力”とでも訳せばいいかしらね。
カウンセラーとは違って、テレパシー波で傷付いた精神を癒す能力よ」
「通常の回復系波動能力……ヒーリングよりもはるかに高度な能力だ。
女神の資質と言ってもいい“慈愛の力”だよ」
（め、女神の資質……サラさんって女神だったんだ？）
（ち、違いますよぅ、人間ですって……いや、はっきりとは覚えてないです……けど）
女神の資質だなんて、そんな凄いもの、私が持ってるはずないと思うんですけど。
でも……パドルさんもライカさんも真剣……うわぁぁ、私どうなっちゃうんですかぁぁ。
|
|
ふぅ……やっと逃げ出せました。
私、ああいう空気って苦手なんですよね。
人間の頃から多分、控え目な性格だったんでしょうねぇ。
“ちょっと疲れたから休みます”って言うまで、逃がしてくれませんでしたよ。
ルイさんも勢いづいて……ライカさんたちはライカさんたちで異様な真剣さでしたし。
冷静なのは翔子さんだけ……思えば度胸のある娘ですよねぇ彼女。
あら？――そう言えば、エミちゃんの姿が見えませんでしたね。
いったいどこに行ったのでしょう……あ、もしかして。
奥の部屋かも知れませんね……部屋を出る時、まだいましたし。
――あぁ、やっぱりいました♪
さっき私と“会話”していた子……ルイさんがスイちゃんと名づけた子。
その横にちょこんと腰掛けて、エミちゃんがスイちゃんをじっと見つめています。
こうして見ると、同じ緑色でも違うのですねぇ。
あの子……えぇと、スイちゃんは白っぽい緑色で不透明ですし。
（……あ、サラさん♪）
（あれからずっと、ここにいたんですか、エミちゃん？）
（うん……なんか、離れられなくて）
（……サラ、さん…………どう……した、の……？……）
（……え？）
（どうしたの、スイちゃん？）
（…………サラ、さん…………さっき、と…………何か……違う…………）
（あぁ、言われて見れば……ちょっと動揺しているような？）
……参っちゃいましたね。
スイちゃんにまで、見透かされてしまったようです。
でも……なんだか嬉しい。
今日目覚めた子が、私のことを気遣ってくれるなんて。
ちょっと、申し訳ない気持ちと半々かも。
（……サラさん、大丈夫ですか？）
（………サラ、さん……笑って……いる……の……？……）
（え？……あ、ご、ごめんなさい、何でもないんです……えぇ、何でも）
この子も……スイちゃんも、動けるようになりますよね。
そうそう、それまでしっかり話し相手にならなければ。
いつの間にか……疲れも消えていました。
|
|
| （第４章第２話へ続く） |
|
【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
サラ視点で描いた２つ目の物語で、彼女の“資質”を仄めかす展開になっている。
余り明確な表現ではないのだが、鉱物娘たちには実は皆、固有の属性能力があり、
エミは自然環境への感知能力、サラは精神感応能力が優れているイメージがある。
ルイには明確な属性能力の設定がないのだが、彼女には類希な身体能力があるのだ。 |
