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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E043） |
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ふと気付けば――あたしは……１人で町の中に立っていた。
たくさんの人々が、周りを歩いている。
子供の手を引いて横断歩道を渡る、若いお母さん。
携帯電話を耳に当てて、足早に駅へと向かうサラリーマン。
友達と楽しそうに会話してる、学生服の女の子たち。
そんな雑踏の中に、あたしは１人で立っている。
ふと、自分の手を見てみた――やっぱり……真っ赤な半透明の石。
――あれ、おかしいな？
どうしてみんな、あたしみたいなのがいるのに驚かないんだろう。
あたしを受け入れてくれてるってこと？
違う――そうじゃない。
みんな、あたしに気付いていない。
どうして？
――その時だった。
あたしは突然、物凄い不安に襲われた。
とても大変なことが、これから始まる気がする。
伝えなきゃ……ここにいるみんなに。
でも――どうやって伝えたらいいの？
あたし……喋れないのに。
どうしようもない胸騒ぎ……心臓も肺もない石の体に、容赦なく襲い掛かってくる。
あたしに……どうしろっていうの？
伝える術がないこのあたしに……何をしろって言うのよ！！
あたしは思わず、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
人々はそんなあたしなんか見えていないみたいに、相変わらず歩き続けている。
気付いて……逃げて、ここにいたら危ないの、お願いだから！！
（ダメ……そっちに行かないで……逃げてぇぇぇ！！）
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第４章 戦いの幕開け ★
第３話 動き出す宿命
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――――！！？
ふと気付けば――そこはあたしの部屋だった。
（…………ゆ……め……？）
さっき見たのは、夢だったのか。
石の体になっても、夢は見るんだね……ちょっと意外。
でも……ヤな夢だったなぁ。
……人間だったらきっと、全身汗だくになってるんだろうな。
でも……この体は湿り気１つない。
考えてみたら皮肉だよね。
小窓から朝日が差し込んでいた。
夏だから、もう結構日が高い。
耳を澄ませば、近くの木に留まってるのか、セミの鳴き声が聞こえる。
町外れの倉庫を改装した建物だからなのか、車の音とかはほとんど聞こえない。
比較的市街地に近いのに、ちょっとした田舎みたいな雰囲気。
あんな夢見なかったら、もっと清清しい朝だったのになぁ。
……まぁ、アレだよね、悪夢は吉兆ってどっかで聞いたし。
エミちゃんたちはもう起きてるのかな？
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（あれ？ おっかしいな……誰もいないの？）
廊下はひっそりと静まり返っていた。
いつもなら足音とか、談話室のＴＶの音が聞こえるのに。
こうして廊下に立つと、ちょっと不気味。
生気を感じないって、こういうことを言うのかしら。
……あ、そっか。
パドルさんもライカさんも、今日は朝から出てたんだっけ。
忘れてたよ……あたしもズボラだなぁ。
ってことは、今建物の中にいるのは“鉱物娘”だけ。
歩き回らない限り、物音を立てないのは当たり前……声を出せないんだから。
でも……近くにいたら、気配ぐらい感じるはずだけど。
……あ、もしかして“あの部屋”かな？
（やっぱり、ここにいたのね♪）
案の定――奥の部屋に、エミちゃんたちがいた。
まだ動くことが出来ない鉱物娘たちが、置かれている“保管庫”。
（あ、ルイさんお早うございます）
（あ……ごめんルイさん、あたし起こしに行くの忘れてた）
（……ルイ、さん……お早う……）
（あぁ、いいよエミちゃん……いつも起こしに来なくたって全然――え？）
……今、“声”が３つ聞こえなかった？
（もしかして今……スイちゃん喋った？）
（……うん……喋った……よ……声……出せない……けど……）
（凄いでしょルイさん、スイちゃん、もうここまで意識が鮮明になったんだよ♪）
うそ……あたしが“光”感じてから、まだ３日も経ってないのに。
エミちゃんとサラさんの前に立っている、翡翠色の小柄な鉱物娘がスイちゃん。
といっても、まだ彼女は自力で動くことは出来ない……意識を取り戻して２日目だから当然だけど。
表情も固められた時のままで哀しげ……薄い緑色の目に瞳の影はない。
……けれど、その中から感じる“光”は、もう既にしっかりとしていた。
というか、まだ２日目なんだよね……昨日の今日ってヤツ。
サラさんでさえ、２日目はまだ意識の沈黙があったし、エミちゃんもここまで早くはなかった。
あたし自体、最初の頃は何度意識が途切れたことか。
スイちゃんの光……つまり、意識のかけらを感じてから、まだ３０時間も経ってない。
信じられないくらいのハイスピードで、意識の復興が進んでる。
（いや、速過ぎでしょ……やっぱり、サラさんのおかげ？）
（あたしもそう思います……サラさんって、実は凄い人なのかも）
（……うん……サラ、さん……の……おかげ……♪……）
（ちょ、ちょっと……そ、そういう話は勘弁してくださいよぅ）
パドルさんが言うには、サラさんは鉱物娘の精神交流に優れた資質があるという。
放置されて枯れかけた木に“命の水”を与えるように、
冷たい石に閉じ込められた、その精神を癒す能力があるんだって……凄いよね。
そう言えば、エミちゃんも何気に独自の“能力”を発現しつつある。
風を読むというか、空気の流れからその場の状況を感じ取る力があるみたい。
少なくとも、こっちの施設に来てから、エミちゃんの天気予報は外れたことがない。
あたしはもっぱら運動能力だけだもんね……２人が羨ましいよ。
でも……なんだか嬉しい。
スイちゃんも驚くほどのスピードで精神を回復しているみたいだし。
そう言えば、スイちゃんはどんな能力を持つのかな？
はは……あたしもしばらく、この部屋から離れられそうにないや。
やっぱり……悪夢は吉兆なんだろうな、うん。
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（静かですねー）
（声出して喋る人がいませんからね、今日は）
（って、ちょ、もう１３時過ぎてたの？）
（……楽しい……から……大丈、夫……）
時間を忘れて、４人で話し込むこと数時間……気付いたら昼過ぎだった。
５時間以上ぶっ続けだったなぁ……そう言えば、スイちゃんの勢いも止まらないね。
つむぐ言葉こそたどたどしいけど、疲れた感じはしなかった。
でも……まだ４人。
この部屋には、まだ全く動けず、意識が戻っていない子たちが、２８体もいる。
ほとんど全員が、固められてから多分２年以上、石像状態を強いられ続けてる。
この子たちが全員目覚めたらきっと、凄く賑やかだろうなぁ……
（……ルイ、さん……どう、した……の……？）
（え？……ううん、何でもないよ、ちょっと……ね）
（そっか……まだ目覚めてない人がいっぱいいるんですよね……）
（大丈夫ですよルイさん、きっと皆、いつか必ず）
分かってるよみんな……ちょっと感傷に浸っただけ。
みんなで雑談してる未来予想図を、ふと思い描いて――――
――――！！？
な――何、この感覚は！？
（……る……ルイさん！？）
（ルイさん、いったいどうしたのですか！？）
エミちゃんたちが動揺したのも無理はない。
あたしがいきなり、目をかっと見開いて、自分で自分の胸倉を掴んだんだから。
まるで――発作でも起こしたみたいに。
胸が締め付けられるような、物凄い感覚……でも、体の問題じゃなかった。
なんだろう、この感覚……凄く――凄く嫌な予感がする。
（――ちょ、ルイさん、どこに行くんですか！？）
あたしは、思わず部屋を飛び出した。
いつもライトバンが出入りする、大きなシャッターに向かって、廊下を走り続ける。
スリッパ伝いに、石でできたあたしの重い体が、鈍い音を廊下に響かせた。
大きなシャッターの横に、人間のための小さなドアがある。
あたしはためらうことなく、ロックをはずし、ドアノブを大きく捻った。
視界に飛び込んでくる直射日光を全身に浴びて、建物の外へ。
（ルイさん、その姿で外に出たら……！）
（――分かってるよっっ！！）
そんなこと、分かってる……でも飛び出さずにはいられなかった。
このどうしようもない胸騒ぎの“答え”が、そこにある気がして仕方なかったから。
夏の日差しを浴びて、コンクリートの地面がかすかに陽炎を作る。
その地面の先……沿道に出る直前に建つ、灰色の可動フェンスの上に、きらりと何かが光った。
それは……桜色の携帯電話だった。
赤と緑と青、３色のガラス玉をつけた、おしゃれなストラップがぶら下がっている。
あたしは、この携帯電話に見覚えがある……ううん、“見覚えがある”なんてものじゃない。
この携帯電話は……あたしが鉱物娘になって、初めて得た、かけがえのない人間の友達の持ち物。
（翔子……さん……！）
（る、ルイさん、一体どうし……そ、それは、まさか？）
（確かその携帯電話、あのツインテールの子の……）
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その時……出し抜けに着信音が鳴った。
翔子さんがあたしに聴かせてくれた、最近流行りの歌。
あたしは歌えなかったけど、翔子さんと一緒にリズムを取って踊った。
今はただ……立ち尽くして聴くことしか出来ない。
あたしは震える手で携帯を取り、通話ボタンを押して、受話器を耳に当てた。
（……しょ、翔子、さん？）
携帯電話であたしの“声”が届くはずもなかったけれど。
『――第３３番実験体だな？』
（―――― …………！！！）
受話器から聞こえてきたのは、感情のかけらもなさそうな、低い男の声だった。
しかも……あたしのことを知っている。
いや……電話を取ったのがあたしだと分かってるってことは――
あたしたちをどこかから見ている。
あたしはただその場で、歯軋りをすることしか出来なかった。
『３０番と３９番もいるのか……ちょうどいい、その２人にも来てもらうか。
石塚翔子と坂本眞希……知っているな？２人を預かった』
愕然とした。
予想はしていたけれど……正直、衝撃の方が勝ってた。
自分でも……肩が小刻みに震えるのが分かった。
（…………………………）
ついに――巻き込んでしまった。
大切な人を……かけがえのない最初の親友を。
――また、止められなかった……なんて無力なんだろう。
『しっかりしろっ、呆けてる場合じゃないぞ！！』
――――え？
今の声は……パドルさん？
携帯電話の向こうで、ガタガタと物音がする。
低い男の叫び声に混じって、聞き覚えのある女性の声。
『――いつまでもじたばたするんじゃないわよ、男なら覚悟決めなさい！』
ライカ……さん。
『……済まんな、ルイ。 俺も偉そうに言える立場じゃない……だが、しっかりしろ』
（……うん……）
（パドルさんたちが近くにいるんですか！？）
（あ、向こうの倉庫、見てください……誰かいますよ！？）
サラさんが青い指で指差した先……１００ｍくらい離れた古い倉庫。
その２階か３階あたりの窓から、埃が噴出した……確かに、何かが動いてる。
間もなく……その窓から金色の髪がちらりと見えた。
パドルさんだ……パドルさんはあたしたちに向かって、手を振った。
そして再び、窓の中に引っ込んだ。
（あんなところに……あいつらが……）
（この場所が……分かっていたというのですか？）
（……違うよ……翔子さんたちの後を、着けてたんだ）
いつかは……バレるのだろうとは思ってた。
あいつらは裏の組織……警察の捜査をごまかせるぐらいなんだから、
こっちの居場所を知ることなんて、簡単だっただろう。
それにしても、人質を取るなんて……とことん最悪。
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間もなく、パドルさんとライカさんが、施設のフェンスの前にやってきた。
ロープで縛り上げた、黒服の男を１人確保して。
（あ、この人、あのコンテナ置き場にいた人だ！）
エミちゃんが、男を指差して言った。
そう言えばあたしも見覚えがある……数日前、コンテナ置き場に行った時、
エミちゃんを襲おうとしていた黒服の男……そう、あたしが最初に突き飛ばした男。
（る、ルイさん！？）
――気がついたらあたしは、男を掴み上げていた。
後で思えば、凄い力……だけど、自分の体重を思えば、当然かも知れなかった。
認めたくなかったけど、あたしって体重１００ｋｇ以上あるはずだもん……石の塊だし。
（翔子さんと眞希さん……どこに連れて行ったの！？――ねぇ！！）
「く、くく……凄い力だなぁ。１次変異体でもこれだけの力を出せるとは――がっっ」
気がついたら、あたしは男を殴ってた。
コンクリートブロックを投げつけるような音と共に、男が地面に倒れ込んだ。
もう……感情を抑え付ける事なんて、できなかった。
呻き声を上げる男の胸倉を掴んで、溢れる感情に任せて猛烈に揺さぶる。
絶対……絶対許せないんだから！！
「ルイちゃん落ち着いて、失神させたら元も子もないわ」
（分かってる……分かってるけどっっ……！！）
ライカさんがあたしの手に自分の手を添えた。
柔らかいエネルギーが、ライカさんの手から流れ込んだ気がして、あたしは我に返った。
急に力が抜けて、そのままへなへなと、地面に膝を。
何だかもう……真っ白になったみたいな気分。
「それじゃあ……連れて行ってもらえるかしら？ ――それが目的なんでしょ？」
ライカさんが、縛り上げられたままの男に、にっこりと微笑みかける。
目は全然――笑っていなかったけど。
「くふふ……だったら、まずこの縄を解くんだな。俺たちの車に乗ってもらうぜ。
もちろん全員だ……貴様もあの男も、この石娘共もな。断れねぇだろ？
俺をダシにしたと知ったら、人質の娘は１００％石になると思え」
「……でしょうね。 ――いいわ、従ってあげる。 ねぇパドル、準備は出来た？」
「あぁ……いつでもいいぜ」
ちょ、ちょっと……素直に要求を呑むの？
それじゃわざわざ、こいつ捕まえた意味がないじゃないのよ。
（――今は素直に従うんだルイ……君らと合流する必要があったんだ。なに、俺たちなら心配はいらない）
今のは……パドルさん？
（……で、でも……みんな連れて行かれたら、この建物が……）
（大丈夫さ。肝心な部分は奪われないようにしておいたから）
（……そ、そうなんですか！？）
（それよりも……ルイやエミこそ気をつけてくれ。彼女たちを解放するまではな）
（……は、はい……頑張ってみます）
（あ、あの……ルイさん……こ、この声、聞かれてないですか？）
（――心配ないわ、直接回線よ♪）
ふと顔を捻ったら、ライカさんがにっこりウインクした。
パドルさんもライカさんも、考えてみたら色々なことが出来るなぁ……ほんと何者？
（あ、あの……私はどうしたら）
（サラは抵抗しないようにしていればいい……まだ速く動けないのは向こうも分かってるだろう。
素直に従えば、激しく抵抗できない変異体まで手荒に扱うことはないはずだ）
（……わ、分かりました）
「へへ、やっと自由になった――ぜっ！♪」
言うや否や、縄を解かれた男があたしを突き飛ばし、ライカさんを殴った。
なんてヤツ……女の人を笑って殴るなんて！！
（ちょ、ちょっと、何するのよっ！？）
「ダメだルイ、ここは抑えるんだ！」
「……いいのよルイちゃん。さぁ、早く連れて行ってよ、余興は後でもできるでしょ？」
「生意気な女だぜ……まぁ、そいつもそそるがなぁ」
ライカさんの手に、手錠をかける黒服の男……更にパドルさんの手にも。
平気で罪を犯すようなやつに手錠をかけられて連行されるなんて……屈辱だよね。
あたしの手にも、すぐに手錠がかけられた。
冷たい金属の感触……あたしの硬い手首の上で、チャラチャラと音を立てる。
まるで……奴隷にでもなったような気分。
――大変なことに、なったのかも知れない。
今朝見た夢って……このことだったのかな？
悪夢は吉兆だなんて、あたしも馬鹿だったのかも。
でも、待ってて……翔子さん、眞希さん。
２人だけは必ず、助けてあげるから。
今度は――絶対に。
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| （第４章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
いよいよルイたち主人公と、秘密結社メドゥアスが直接対峙することになる（これからだけど）
……といってもパドルとライカ以外に“戦闘力”と言えるものはないので、
彼女たち自身が激しいアクションをするわけではないのだが、
それでも彼女たちが「否応なしに運命と向き合う」物語がここから始まるのである。 |
