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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E044） |
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午後２時過ぎ……真夏の西日が、岸壁に落とす影の向きを変えつつあった。
人気のない、港の外れのコンテナ置き場。
錆び付いた鉄の塊が、まるで放置された積み木のように佇んでいる。
巨大なトラックやクレーンが、この塊をせわしなく運んでいたのは、何年も前の話。
今はただ……抜け殻のようなオブジェとして、ここに存在しているだけ。
そんな無用の塊を、ねぐらにしている者たちがいる。
日の差さない裏の世界で生きる、貪欲な溝鼠たち。
彼らは表の世界からさらった若い娘たちを、闇の錬金術で物言わぬ彫像へと変える。
それも……生きたまま。
メドゥアス――彼らは自分たちの“組織”を、そう呼んでいる。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第４章 戦いの幕開け ★
第４話 第２ラボの戦い・前編
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表通りからは見えない、コンテナ群の奥に、黒光りする鋼の扉がある。
その扉の前に、引越し社のマークをつけたトラックが、次々に停車する――その数５台。
やがて、重い音を立てて、大きな扉がゆっくりと開いていく。
５台のトラックは、その中へと入っていった。
「――出ろ、女」
トラックの荷台から運び出されたのは、頑丈な鉄パイプでできた、猛獣用のオリ。
今その鍵が外され、中に座っていた者が、黒服の男の声に従って出てきた。
キメの細かい長い黒髪が美しい、長身の女性……腕には手錠をはめられている。
「ずいぶん埃臭いところね……性格が捻じ曲がるわけ――っっ！」
言い終わる前に、男の拳が彼女の腹にめり込んだ。
「黙ってろ……自分の立場がまだ分かってないらしいな？」
「……黙ってて欲しかったら、もっといい待遇を――」
更に平手――風船を割るような大きな音が、暗い車庫に響く。
「……次は角材だ。その可愛い顔を抉って欲しいか？――行け、ナンバー２がお待ちかねだ」
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「……あたしたち、石にされるのかな？」
消え入りそうな、震える声が、鉄格子の奥から聞こえてくる。
ショートカットの小柄な少女――眞希。
彼女の目の前……鉄格子の向こうには、ガラス越しにオブジェと化した少女の群れが。
「させないよ……眞希は、あたしが守るから」
そう言って、震える眞希の肩を抱き寄せる、ツインテールの少女――翔子。
２人はルイたちに会いに町外れの倉庫“センターＤ”に向かう途中で、拉致されたのだ。
そしてそのまま……ラボの横にある、この鉄格子の部屋に閉じ込められた。
眞希はすっかり怯え切っている……無理もない。
黒服の男たちに“誘拐”されただけでも恐怖だというのに、
閉じ込められた部屋の奥には、石像と化した少女たちが見えているのだから。
ショックで失神しなかったのは、翔子の石化を目撃するなど、
過去に似たような経験をして、多少なりとも免疫があった所為だろう。
しかし……ここに閉じ込められたということは、
いずれ自分も、あの物言わぬ少女たちの１体になる可能性があるということ。
親友の翔子がすぐ横にいても、不安が紛れるものではなかった。
その時――横の扉が開いた。
思わず、部屋の隅に後ずさる眞希……今にも泣きそうな目で縮こまる。
翔子はそんな眞希を庇うように、すっくと立ち上がる。
射るような目で、扉を開けた相手を見据える……冷や汗は隠せなかったが。
「そんな目で見るなよ……俺は見回りに来ただけだ」
“牢獄”に入ってきたのは、アイガーだった。
「……あ、あんた……ま、まさか？」
「覚えているのか、俺を？……あの時とは姿が違っているというのに」
「自分を……石像に変えたっていうの？」
「あ、あぅぅ……に、人間じゃないぃぃ……喋ってるよぉ」
「厳密には金属だがな……信じられんか？――ふっ……まぁ、無理もないか」
そう言って、アイガーは低く笑った……その声に金属をこするような残響が混じる。
そう……彼はメタロードと化す前――“人間時代”に１度、２人と会っている。
（参照：第１章第３話）
「ち、近づかないで……う、恨んでるんだからね、あの時のこと」
「……だろうな。 だが、そこは元々、俺がいた部屋なんだぜ？」
「ど……どういうことよ！？」
翔子の問いに、アイガーは無言で“サイバーナイフ”を起動させた。
突如、手の甲から伸びた４本の金色の刃に、翔子は思わず後ずさりする。
「これが――今の俺の力だ」
「……なっ……」
「分かるか？俺は今……その気になれば、いつでも相手を切り裂くことが出来る。
いや――既に１人切り裂いている。そんなヤツを野放しには出来んだろう？」
「……人を……殺したのね？」
「半分は事故だ……もっとも、ここは元々非合法組織だがな」
「事故だって……死なせたことは同じじゃない」
「そうだな……だが、永遠に生き続けるよりはマシかも知れんぞ？」
アイガーの言葉に、２人は硬直した。
彼の言っている意味が、今この場所なら分かるからだ。
「永遠にって……」
「察する通りさ……まぁ、厳密には永遠じゃないかも知れんが、な」
「……あの子たちも……生きているのね？」
「意識があるとは限らんがな……というよりも、既にそういう娘を知ってるだろ？」
「……ルイさんたちのことを、言ってるのね」
「第３３号実験体は、そう名乗ってるのか……まぁ、俺にもアイガーというコードネームがあるしな。
――おっと、時間だ。準備をせんとな」
アイガーはそう言って、部屋を出て行こうとした。
その背中に、翔子が問いかけた。
「待って……どうしてあんた達は……人間を石にしようとするの？
永遠に生きたいから？体を強くしたいから？」
数秒ほど……静かな時間が流れた。
扉を開きかけたアイガーは、振り向かずに言った。
「確かに俺は……もっと強くなるために人間を捨てたが……俺だけの話だ」
「……え？」
「俺に――その問いに答える資格はねぇよ」
そのまま、アイガーは部屋を後にした。
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「お前はここで待ってろ」
サラが通されたのは、ラボのほぼ中央にある、“ギャラリー”だった。
（ま、待ってください……ルイさんやエミちゃんはどこに？）
「あの活性体は“身体検査”を受けてもらう……２人が終わったら、今度はお前だ」
黒服の男はそれだけ言うと、サラの返答を聞かずにラボの奥へと姿を消した。
がちゃり、と重い音がして、ギャラリーの鍵が閉められる音が響く。
（パドルさんの言ってたとおり……私には抵抗できるだけの力がないと分かってるんですね……）
サラは半ば諦めたように、扉から離れた。
腰掛けて休む場所を探そうと、振り向いたその時――初めて部屋の“景色”に気付いた。
（……！！……なんてこと……ここにも被害者がいたなんて）
コンテナの壁をくり抜いて作られたであろう、大きな部屋の中に、物言わぬ少女の石像群。
その数……実に２０体以上はあるだろうか。
自分がいた廃棄施設で見た娘たちに似て、けれども違ったボーズや色合いの彫像たち。
ルイから“組織”がまだ活動していることは聞いていたが、
いざその“成果”を目の前にすると、サラは思わず体が震える気がした。
壁際には、腰から下がない“胸像”も数体、置かれていた。
確信は持てなかったが……それらも多分、石に変えられた少女たちなのだろう。
サラは言葉を失った……残酷な現実を突き付けられた、ショックの所為だろうか。
しばらく何も言えずに立ち尽くしていた……その時だった。
（……あなた……動ける……の……？）
（……え？）
半ば無造作に並べられた、石化少女群の１番奥から、サラに“心の声”が飛んできた。
その方向に視線を向けると、そこにはひときわ光り輝く、金色の少女像が。
体を捩り、腕を曲げ、苦悩に満ちた表情で、静かに立っている。
生気を一切感じない、かっと見開いた金色の目に、もちろん瞳の影は全くない。
（……今の“声”、あなたですか？）
（……声？……出せない……けど……）
（あ……ご、ごめんなさい……心の声というか、私はそう呼んでいるんです）
（……じゃ……あたしと……同じ……だね……でも……動ける……）
（…………本当……動い……てる…………羨ま、しい………な…………）
（………私……も…………動き……たい………）
（……え？……あ、えーと、そ、その……）
金色の少女像に触発されたのか、周囲の少女像からも“声”が飛んできた。
サラは少し、戸惑った……ここにいる少女像の多くが、意識を維持しているとは思わなかったからだ。
少なくとも自分が置かれていた“あの部屋”では、こういうことは起こらなかった。
――ここの子たちはまだ、意識が残っているんですね……少し、安心しました。
そして……サラは、精一杯の笑顔を返した。
もっとも、まだまだ“自然に笑う”ことはできなかったが。
（……笑った……笑ってる……）
（………凄い………いいな………）
――私に今できることは、話し相手になってあげることだけかも知れませんけど……
それでも、何かしてあげたい……この子たちの心を癒すことができるのならば。
サラは思わず、頭を下げていた……ゆっくりとした動きだったが、引っかかる感覚はなかった。
（初めまして、皆さん……私、サラと言います……少し、お話しませんか？）
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「……お前……あの時の？」
ギャラリーに近い、殺風景な別室……恐らくは“工作員”たちの訓練室なのだろう。
１人、その別室に通されたパドルは、部屋の中央に立っている男に、見覚えがあった。
数週間前……あの廃校で遭遇し、自分を石化しようと図った男。
自分に匹敵する隆々とした体格で短い髪、角ばった顔、猛禽のように鋭い目つき。
その男が今――目の前でステンレスのような質感を持つ“鋼の戦士”と化して、立っている。
「やっとこの日が来たぜ……待ってたんだ、貴様を叩き潰せる日を――いや、切り裂ける日を！」
言うや否や、両腕のサイバーナイフを起動させ、アイガーは臨戦態勢に入った。
そんな“元人間”を見て、パドルはぼそりと、つぶやくように言った。
「金属の体になっても……喋ることができるんだな」
「……何を言っているんだ？ 自分の置かれた状況が分かってるのか？」
「いや……まだ恵まれた境遇だと思ってね」
「！！――くそっ……てめぇ、ナメやがって！！」
ナイフを擦るような歯軋りの音を響かせて、アイガーはおもむろにパドルに飛びかかった。
「その減らず口から――切り刻んでやる！！」
数百ｋｇはあるだろう、アイガーの金属のボディが、
ガシャガシャと遠慮のない騒音を立てながら、１直線にパドルに迫る。
そのまま――斜め下から、右腕のサイバーナイフを突き出し、袈裟掛けに振り上げた。
だが――手の甲と腕、合計６本の刃は、空しく空を切っただけだった。
「ちぃ……てめぇ、逃げてんじゃねぇよっっ！！」
更に１歩踏み込み、今度は左腕を真横に振り抜く――だが、結果は同じ。
決して、スピードが遅いわけではない……ボディの重さを考えれば驚異的な速さだ。
闇雲に大振りしているわけでもない……相手が素人なら今頃細切れだろう。
だがパドルは、その全てを読み切ったように、アイガーの攻撃を交わし続ける。
「いつまでも逃げ続けられると……思うなぁぁっっ！！」
日本刀を思わせる切れ味を持つ、合計１２本の金色の刃が、ヒュンヒュンと音を立てて迫る。
訓練室は決して、何もない空っぽの部屋ではない……工作員が使う運動器具があちこちに置いてある。
だが今やその半数は、本来の用途を果たせない鉄屑と化していた。
アイガーが腕を振るたび、１つ、また１つと、部屋に置かれた器具が両断されていく。
だが――１番切り裂きたい相手には、かすり傷１つ負わせることができない。
アイガーはそのメタリックな顔を鬼のように歪め、銀色の歯を剥き出して吠える。
「くそぉぉぉぉぉぉぉっっ、何故当たらねぇんだぁぁぁぁぁっっ！！！」
大きく振りかぶった１閃を、脳天から叩きつけようとした――その時。
パドルが初めて前に出た――しかも、速い！
だが――次の瞬間、今度はアイガーの口が歪んだ――残酷な笑み。
「ナメるな――俺の武器は、腕だけにあるんじゃねぇんだよっっ！！」
ダークブラウンのシャツの下から、おもむろに突出する――２本の刃。
胸板のすぐ下……脇腹に組み込まれた、第３のサイバーナイフ。
勢いを殺せず、その懐に突っ込んだパドルの両肩に、そのままずぶりと食い込んだ――飛び散る鮮血。
「どうだ――これが俺の力……串刺しになった気分は――――っっ！？」
――――ゴッッ！！
アイガーが勝ち誇った雄叫びを上げる直前――部屋全体に轟音が響き渡った。
「――――っっがぁ――はぁぁぐっっ！！？」
部屋の端――鋼鉄の壁に、派手に突き刺さるアイガーの金属のボディ。
半ば錆び付いた隔壁が、今にも突き破られんばかりに大きくひしゃげ、衝撃が鉄屑を舞い上げる。
壁の中にめり込んだアイガーが我に返ると……部屋の中央に、拳を突き出したパドルの姿が見えた。
その両肩には、確かにアイガーの“暗器”が食い込んだ跡が、真っ赤な証拠を残している。
にもかかわらず……その拳からは、まるでオーラのように白い煙が立ち上っていた。
「……て……めぇ……そ、のまま……突っ込む……なんて………信じ…………られ――」
最後まで言い切ることなく、アイガーはそのまま、ひしゃげた壁の下に、どしゃっと倒れ込んだ。
そんなアイガーを見据え、パドルがまた、ぼそりとつぶやくように言った。
「これが、俺の戦い方なんだよ……覚えときな、兄ちゃん」
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「……随分、悪趣味な部屋だこと」
ライカは１人、メインラボの端でつぶやいた。
先ほど乱暴な工作員に受けた、都合３発の攻撃も、大して効いた感じはしない。
もっとも……本人の目の前で“減らず口”を叩けば、４発目を食らう恐れもあったので、
その工作員が引っ込んでから、つぶやいたのであるが。
「それにしても……角材なんて、またマニアックなモノを持ってるわねぇ、彼♪」
「私に性格が似ているのだろうなぁ……肉を抉る拷問が、好きなのだよ」
ライカがぼそりと言った言葉に返答するように、部屋の反対側から声が響いた。
暗がりの中から、異常なほど色白な肌の男が、ゆらりと姿を現す――ナンバー２だ。
「鉄パイプではアザを作るだけだからな……だが角材を使えば、肉を削ぐことも出来る」
「……あなたが、ナンバー２かしら？」
「コードネームは“セラフィ”だ……以後お見知りおきを、お嬢さん♪」
大げさに手を振って、人を食ったような表情で礼をするナンバー２。
「以後があるのならね……で、ナンバー１はいないの？」
「ナンバー１はラボには姿を見せないさ……私がここの責任者だよ」
「私に用があるんですってね……どんな用なのかしら」
「ここに来る途中、ギャラリーの前を通っただろう？……私は可愛い娘が好きなんだ」
「……それは、褒め言葉と受け取ってもいいのかしらね？」
「１目で惚れたよ……どうだね、私の力なら、その美しさを永遠に保てる♪」
にたぁぁ、と鬼畜な笑みを浮かべるナンバー２。
彼が何を考えているのか……ライカにはすぐに予想が付いた。
「それも魅力的だけど……動けないんじゃ、意味がないんじゃないの？」
「私に従ってくれるというならば……活性能力を与えてもいいんだ……彼のようにね」
ナンバー２が指を鳴らすと、ライカの背後から男が現われた。
ただし、人間ではない……輝くような白銀の体に、ブルーメタリックの文様が入った“金属戦士”。
その表情に感情の発露はなく、まるで人形のように押し黙っている。
「……これじゃ、人形と同じじゃない」
「人聞きの悪いことを言わんでくれ……彼は私のために、全てを捧げたのだよ」
「それが彼の意思だったのなら……何故感情を消したの？」
「私の忠実な部下として生きるのに――感情が必要なかっただけさ」
ナンバー２がそう言ってにやりと笑った直後、白銀の兵士はライカの腕をがっしりと掴んだ。
そのまま、強制的にラボの中央にある、処置台へとライカを連れて行く。
「分かっているはずだ……もはや君に、選択の余地などないということを」
「やっぱり……あなたは私の嫌いなタイプだわ」
「すぐに何も言えなくなるさ……そうだな、君はアメジストが似合いそうだ♪」
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| （第４章第５話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
宇宙人の戦士と金属の怪人の殴り合いがメインの話である（笑）
……メドゥアスのメタロイド研究が「少女を固めるだけではない」ために必要なのだ（汗）
もちろん“被害者”である少女たちの話が主軸なのは変わっていない。
このエピソードでは、“鉱物娘の癒やし担当”サラも重要な役割を演じているのだ。 |
