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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E045） |
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轟音と共に、火花が散った。
パドルのクロスカウンターが、アイガーに炸裂したその瞬間。
その衝撃は、この第２ラボの配線機器を、ショートさせるのに十分な破壊力を持っていた。
部屋のあちこちから飛び散る火花が、まるでネズミ花火のように跳ねる。
パリン、と音がして訓練室の蛍光灯が砕けた。
アイガーのサイバーナイフに切り裂かれた器具の中には、可燃性のものもある。
真っ暗になった訓練室の端々から、かすかなオレンジ色の光と共に、樹脂の焦げる匂いが漂った。
パドルはその光景を仰ぐように見ていたが、やがて踵を返した――だが、その時。
彼の背後で、復讐者の執念が再び燃え上がった。
「……どこに、行く……？……まだ……終わって、ねぇぞ……！！」
「……しつこいヤツは……嫌われるぜ？」
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第４章 戦いの幕開け ★
第５話 第２ラボの戦い・後編
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轟音と共に、メインラボの電源がショートした。
火花が羽虫のように飛び、予備電源の青白い光に切り替えられる。
「なんだ……今の音は！？」
その隙を狙って、ライカが白銀の兵士――ホルスに仕掛けた。
手首を捻り、肩を瞬時に落として、鮮やかな反転と共に足払い――だが。
ホルスはまるで読んでいたかのように、その攻撃をひらりと交わした。
全身金属の塊だとは思えぬほど、滑らかな動きで。
「抵抗ヲ、確認……報復ノ、許可ヲ」
まるでコンピュータのような口調で、ホルスの唇が動いた。
やや焦ったか、予備電源の灯りに照らされたナンバー２“セラフィ”の額には汗が。
「許可を待つやつがあるか、すぐにやれ！！」
その言葉に反応して、ホルスが右腕を振る――瞬時に形成される、青いサイバーナイフ。
轟音を聞きつけたのか、先ほどライカを殴った工作員も、ラボに飛び込んできた。
さらに、別室から数人の工作員が……メインラボは一気に熱気に包まれた。
包囲された形になり、ライカは面倒そうにつぶやく。
「すぐには……逃がしてくれそうにないわね」
ライカが、敵の位置を確認しようと、目を逸らしたその時――おもむろにホルスが切りかかった。
ブルーメタリックの切っ先が、ためらいもなくまっすぐにライカの喉を狙う。
だがライカは、咄嗟に腕を突き出した――その先には、軽い金属音を立てる手錠の鎖が。
キィンッ、と鋭い音を響かせて、鎖が両断された。
そのまま上体を斜め後ろに捻って、切っ先の追撃から逃れるライカ。
「ありがとね――おかげで自由になれたわ♪」
「こ、この女……狙っていたのか――ナメやがって！」
角材……いや、小さな鉄骨を手にした、工作員の１人が飛び掛る――最初にライカを殴った男だ。
だが――次の瞬間。
「――はごぁっ！！？」
ライカの２段キックが、鉄骨を蹴り上げ、その鉄骨ごと工作員の顔面を捉えた。
工作員のサングラスが粉々に砕け、その顔に鉄骨の端とライカのハイヒールが同時にめり込む。
そのまま……白目を剥いて力なく崩れ落ちる工作員。
「一応、正当防衛だから、そういうことで♪」
「く……何をしているお前たち、さっさと取り押さえないか！」
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（……い、今の音は！？）
サラと引き離され、エミと一緒に別室に移されたルイは、ドラム缶を押し潰すような轟音を聞いた。
今は２人とも、簡易な処置台に寝かされている状態。
組織の研究チームらしい白衣の集団は、身体検査と言って２人を処置台に固定し、
強制的に電流を流すなど、人体実験にも等しい様々なテストを行っていた。
身ぐるみ剥がされなかったのは不幸中の幸いだったが、
少なくともルイのフラストレーションはピークに達していた……そんな最中の轟音。
「……おい、今の音は何だ！？」
「主任、メインラボの電源が落ちました……音は、訓練室からのようです！」
「アイガーのいる部屋じゃないか……あの鋼鉄馬鹿め、何をしでかしたんだ！？」
間もなく、焦げ臭い匂いが立ち込める。
「くそ……出火しやがったか。おい、早く消火を――」
――ドォォォン！！
主任が指示を伝え終わる前に、２回目の轟音が響き渡った。
いや……轟音と言うよりは、何かが爆発したような音だ。
ラボ全体が、まるで地震に遭遇したかのように揺れ動き、遠くから悲鳴が聞こえた。
どうやら……“爆発”に巻き込まれた者たちがいるらしい。
「ぷ……プロパンタンクが、ば、爆発……お、恐らく原因は漏電ですっっ！！」
「なんてこった……処置室以外の防火設備はこんなにズサンだったのか！？」
「くそぅ、ひとまず避難するぞ、全員車庫に移動を……私は研究資料を持ち出してから行く！！」
（ちょ、ちょっと……あたしたちは放置して行くつもり！？――ちょっと、聞いてんのっ！？）
ルイが処置台から半身を乗り出して訴えるが、白衣の集団は聞いている様子がない。
いや――あるいは、他の工作員らのように、ルイたちの“声”が聞こえないのかも知れない。
ルイは渾身の力を込めてもがくが、両腕と両脚、そして腰を固定する無骨な金具はびくともしない。
無理をすれば、手足の方がぽっきり折れてしまうかも知れない……ルイは途方に暮れた。
しかも――更に残酷な事態が、ルイたちを襲った。
処置室の配線がショートし、火花が飛び散った……次の瞬間だった。
（え―――うぁっ、か――あぁぁぁっっ！！？）
出し抜けに全身を突き抜ける、猛烈な電流。
ショートした配線から漏出した高圧電流が処置台の器具を伝い、ルイとエミを襲ったのである。
処置台の周囲に置かれた実験用器具も次々にショートし、小さな爆発とともに火花をまき散らした。
（あぅぅあぁぁぁ！！――る、ルイさ――くあぁっっ！！）
（ぐ、ぅ――か……え――エミ……ちゃ――はぁ、くぅぅぅっっ！！）
更に――どうしようもない事態が重なった。
処置室の天井に、ぴしりと亀裂が走った……その位置はまさしく、２人が固定された処置台の間。
高圧電流に翻弄され、朦朧とする意識の中……ルイは見た。
自分に向かって地響きを立てて落下する、鋼鉄の床材の塊を。
（くぅぅ……っっ……――！！？……る、ルイさんっっ！！）
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「――な、何なの、今の音！？」
別室の“死闘”が引き起こした轟音は、“牢獄”にいる翔子たちにも届いた。
轟音に続いて、更に爆発音と地震のような震動……数分と経たないうちに、焦げ臭い匂いまで漂ってきた。
「ちょ……まさか、ガス爆発！？――冗談じゃないわ、あたしらを焼き殺すつもり！？」
「や、焼き――い、いや……嫌あぁぁぁぁぁぁぁ！！」
「だ……大丈夫だって眞希、大丈夫だから……お、落ち着いて！？」
翔子の言葉に反応し、パニック状態に陥る眞希。
失言に気付いた翔子は必死に弁解するが、親友の混乱は収まらない。
堰を切ったように体を震わせ、赤子のように泣きじゃくる。
「あぁ……ど、どうしよう」
――その時、猛烈な破壊音を立てて、鉄格子の前の扉が破られた。
「な……なんだってのよ、こんな時に！！――え？」
鉄格子の前に転がり込む、真っ青な塊――いや、人の姿をしたもの。
「……さ……サラ……さん？」
（いたたた……あ、翔子さん、眞希さん！？――良かった、無事だったんですね！？）
飛び込んできたのは、ギャラリーにいたサラだった。
ギャラリーに置かれている物言わぬ少女たちから、翔子たちがこの部屋にいることを聞いたのだ。
まだ速く動けない上に、強い力を出すことができないサラは、
自分の体に重い器具を当て、勢いをつけて倒れることで扉を破ったのである。
「眞希、サラさんが来てくれたよ！……眞希？」
ふと気付けば、眞希は泣き疲れたような表情で、失神していた。
はぁ、と小さな溜息を吐く翔子。
「で、でも……どうしてここに……？」
（ハルミさんが教えてくれたんです、翔子さんたちがここにいるって！）
「は……春海って、ま、まさか……あの行方不明の中学生！？」
（え……そ、そうなんですか？）
破られた扉の奥に見えている“ギャラリー”……その１番奥に立つ金色の少女像。
翔子はその少女像に、見覚えがあった……それはまさしく、消息不明だった中等部の少女。
鉄格子を握る翔子の手が、衝撃と怒りでわなわなと震えた。
「……そ、そんな……あ、あの子まで……許せない」
（と……とにかく、ここから逃げ出さないと！……え、えーと、どうしたら……）
「ねぇ、サラさん……手を貸してくれる？」
（……翔子、さん？）
翔子の顔を覗き込む、サファイア色の顔。
ツインテールの勝気な少女は、何かを覚悟したような表情を浮かべていた。
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「……貴様も、只者ではなかったというわけか」
予備電源の青白い灯りと、爆発が引き起こした火の手が交じり合うメインラボ。
ナンバー２が苦虫を噛み潰したような表情で睨むのは、ライカだ。
驚くべきことに、彼女は数人の工作員と、メタロードと化したホルスを相手に、
１人で全く引けを取らない立ち回りを見せていた。
目の覚めるような体術に加え、ラボの器具や備品を利用した巧みな格闘。
ホルスのサイバーナイフがかすったのか、軽い切り傷を負ってはいたものの、
そのぐらいの傷は、彼女にとって大したダメージではなかったようだ。
「あんたの慰み物には、なりたくなかったからね」
「……往生際の悪い女は嫌いだ」
「あんたの好みに従う必要もないもんねぇ♪」
いつもの余裕が消えたナンバー２と対照的に、ライカの表情は不敵だ。
「貴様のような女は、後悔させてやらんと収まらんなぁ――」
にたぁぁ、とまたナンバー２が残酷な笑みを浮かべた。
だが先刻と違い、その目は全く笑ってはいない……むしろ、憎悪に満ちた色。
何かを指示する気か、ゆっくりと左手を掲げるナンバー２。
「……リミッターの解除を許可する――殺れ、ホルス」
――パキィィィンッッ
ナンバー２が左手を勢いよく振り下ろした――その瞬間に金属音が響いた。
まるでヒューズが飛ぶような……スイッチが壊れるような音。
ライカが身構えたその刹那――
「キイイィィィオオォオォォォォォォォッッ！！」
研ぎ澄まされたナタを擦り合わせるような奇声を上げて、ホルスが跳躍した。
青白くきらめくサイバーナイフを、目にも留まらぬスピードでライカの首目掛けて繰り出す。
身を翻してその攻撃を交わすライカ――だが。
「――――っっ！！？」
交わしたはずのライカの肩に、ぱっくりと傷口が開いた。
まるでシルクのような透き通った肌に、真っ赤な飛沫が飛び散る。
「……衝撃波とは、やってくれるじゃないの」
「その減らず口……いつまで叩けるか、見せてもらおうか、女！！」
更に１閃……今度は“弾道”を避けるために、大きく跳躍した。
その背後にあったラボの器具が、まるでまな板に乗った野菜の如く両断される。
更に工作員の悲鳴が……どうやら“カマイタチ”の余波を受けたらしい。
「ひいいぃぃぃっっ、俺の指があぁぁぁぁっっ！？」
「な、ナンバー２、我々を巻き添えにする気ですか！？」
「使い捨ての消耗品になりたくなくば、生き残ればよいことだ……そら、足掻け足掻け！」
動揺する工作員を煽って、狂ったような笑い声を上げるナンバー２。
ライカは出血する肩の傷口を抑えながらつぶやいた。
「……ほんと、救われない人ね」
「私はどうせ地獄行きだ……貴様を土産にして、閻魔大王の片腕になるのも悪くないねぇ♪」
ホルスの体に埋め込まれた、ルビー状の“リベット”が光を放った。
その“点滅光”が、右手の先へと集束していく。
やがて――その指先から、眩い光が視界を引き裂くように解き放たれた。
「カマイタチの次は……電撃だっていうの！？」
ライカは咄嗟に、足元に転がっていた、元は器具の１部だったろう“鉄屑”を蹴り上げた。
ホルスの手から放たれた雷撃が、その金属の棒に吸い寄せられる。
「――――！？」
「あなたは取り合えず……黙っててくれるかしら！？」
その刹那――ライカがホルスの懐に飛び込む。
サイバーナイフが彼女の体を切り裂くよりも速く――その手をホルスの胸に。
シルクのようなライカの掌から、解き放たれる閃光。
――刹那、空気が破裂するような轟音。
衝撃波はない……閃光が収まると、再び断末魔の炎に揺れる、メインラボの風景に。
「なっ！？……今、一体……何をした？」
ホルスの胸から、手を放すライカ……ホルスはまるで、石化したように動かない――いや。
がくり――と、その膝が折れ、まるでエネルギーが尽きたロボットのようにホルスは蹲った。
「あんたの呪縛から……解放してあげたのよ」
「何！？……呪縛から……馬鹿な、あり得ない……あの１瞬でどうやって！？」
「あんたは悪用するだろうからね……へへん、教えてあげないよ♪」
いたずらっ子のように、ナンバー２にあっかんべをするライカ。
肩を負傷しているとは思えない、勝気な態度が、ナンバー２をますます逆上させた。
その白い肌が赤く火照り、目はドラッグでも注入したように血走る。
「……おのれ……おのれおのれおのれおのれ貴様貴様貴様貴様キサマキサマアァァァァァ！！！」
折れんばかりに歯軋りを鳴らし、ナンバー２は手元にあった操作版に手を添えた。
「貴様は絶対……絶対、後悔させてやる！！」
「ちょっと待ってくださいナンバー２、そのボタンはラボの自爆装置――ぐぇっ」
暴走を止めようとした工作員の１人が、ナンバー２に殴り倒された。
その細い腕で殴ったのではない……いつも持っている、携帯式の拡散性ＥＭＰ発生器。
重さ２ｋｇはある、水筒状の金属の塊を、一切のためらいなしに工作員の顔面に見舞ったのだ。
「立場が危うくなったら、全部壊してトンズラする気！？」
「この礼は必ずするぞ女……１０倍にしてな！！」
すぐ背後の扉を開き、１人逃げ出すナンバー２。
周囲の工作員たちも事態の意味を悟り、戦闘を放棄して脱出を図る。
ライカはナンバー２の後を追おうとしたが、複数の小さな爆発に足止めを食う。
「随分細かい演出をしてくれるじゃないの……仕方ない、救出の方を優先すべきね」
身を翻して、来たルートを引き返すライカ。
そして間もなく――短すぎる破局へのカウントダウンが始まった。
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ふと――ルイは我に返った。
目の前に、無骨な鉄骨の塊が見えている。
（……そうか……あたし、落ちてきた天井の下敷きに……――くぅぅっっ）
まだ、先ほどの“電撃”の余韻が、体内に残っているらしい。
電撃を圧倒する衝撃で１度は気を失ったが、その電撃で起こされた形だ。
ルイは体をよじろうとした――が、下半身がぴくりとも動かない。
首を捻ると――腹の上に、天井を支える大きな鉄骨が乗っかっていた。
その重さ……優に数トンはあるだろう。
数週間前、あの台風の日に、背中に受けた民家の屋根より、重いかも知れない。
ルイの硬い体でも、その圧力が分かる気がした。
（どうせなら、このまま潰された方が楽――って、ダメダメ、何考えてんのよあたしは！）
――と、その時ふと、ルイは気づいた。
火災の炎だろうか、オレンジ色の光の中で、それとは違う光が宝石のようにきらめいている。
よく見ると、天井高が１ｍほどになった処置室の其処此処に、トルソー状の少女像が転がっていた。
天井が落ちた拍子に、隣にある“ギャラリー”の壁も破れたらしい。
２体ほどの少女像は、ほとんど手の届く距離に倒れていた。
（この子たちも放置されたんだね……ほんとに酷い連中）
――動けたら、助けてあげられるかも知れないのに。
と……ルイが思った時だった。
彼女はふと、視界の端で何かが動いていることに気づいた。
首を捻ると、白衣の男が倒れていた……白衣に滲む赤いシミが、かなりの重傷であることを伺わせる。
（あいつ……資料を取りに行くとか言って、逃げ遅れたんだね……いい気味）
「ぐ、くぅぅ……嫌だぁ、まだ死にたくない……逃げなければ、早くここから……」
脚が折れたか、動かない下半身を引きずるように這って行く男。
と――次の瞬間、再び爆発音が響いた……どうやら“火元”は１つじゃないらしい。
爆発の衝撃で揺れる処置室……傾いていた試料台らしき器具が倒れ、上に置いてあったものを床にぶちまけた。
そのうちの１つ……灰色の小石のようなものが、コロコロと男の方に転がって行く。
（あれ……あの塊って確か……）
「なっ……ま、待て、来るな、寄るな……嫌だ、ここで石になるのは嫌だぁぁぁぁ！！」
男の絞り出すような叫びも空しく、小石は無情にも男の下半身に触れた――瞬間、発する無機質な光。
もはや言葉にならない男の悲鳴を無視するように、その体が脚から腰へ、見る見るうちに灰色の石に変化して行った。
「う”あ”あぁぁぁぁぁっっ、嫌だ、やめろぉぉぉぉ―――― 」
悲鳴が途中でぷつりと、電源を切るように唐突に途切れた……ルイが見ると、その男はもう石化していた。
既にその目に感情や生気の影はなく、オレンジの光や火花を、ゆらゆらと反射している。
（……無残ね。 そうよ……あたしも、この子たちも、同じ気分を味わったんだから……）
いい気味――だけど、可哀そう……複雑な感情に揺れるルイ。
更にどこかで、小さな爆発音が断続的に響く……建物が全焼するのも、時間の問題かも知れない。
ルイが再び途方に暮れた、その時だった。
――ドオオォォォォンン！！
処置室のすぐ横――メインラボの方角で、ひときわ大きな爆発が起きた。
衝撃で処置室の器具やらトルソー状の少女像やらが吹き飛ばされるように横滑りし、
その多くがルイの上に、折り重なるように倒れてきた。
そしてその中に……半透明にきらめく、水晶状の塊が。
（うわぁっっ！？――えっ、ちょ、一体――！！？―――）
きらめく白色の閃光――ルイの意識は再び、暗黒の中に沈んだ。
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「……あ……れ……？」
ふと――眞希は目が覚めた。
最初、そこは薄暗い、小さな部屋らしきところ……に見えた。
しかし意識がはっきりするにつれ、自動車の後部座席に寝ていることに気づいた。
「――気が付いた？」
眞希のすぐ近くで声がした……彼女が見上げると、ライカの笑顔が。
しかし……その肩には包帯が巻かれ、その上から赤いシミが滲んでいる。
間もなく眞希は、自分の身に起きたことを……そして、それが悪夢でないことを思い出した。
「ら、ライカさん……そ、そのケガ……」
「え？……あぁ、大丈夫よ、眞希ちゃんが心配することはないわ」
「あ、そうだ……翔子は……翔子はどこですか？」
「あ、えぇとね……翔子ちゃんは――って、まだ起きない方が……」
ライカの制止が聞こえないかのように、飛び起きる眞希。
その目はただひたすら、親友の影を追っている――だが。
間もなくその目は、信じられないものを見たかのように硬直した。
車――小型トラックらしい――の外……ほのかなオレンジ色の明かりの近くに、翔子が立っている。
ただし――全身、大理石のように真っ白な姿で。
その影が、何かに気付いたように振り返る……そしてすぐに、眞希の視線を捉えた。
見るからに……済まなさそうな表情をする、“白い翔子”。
「眞希ちゃん……話を、聞いてくれる？」
小刻みに震える眞希の肩に、ライカがそっと手を添える。
眞希は今にも泣き出しそうな目で、ライカを見上げた……間もなく、１筋の涙と共に、こっくりと頷く。
「翔子ちゃんが昔、石に変えられたことは知っているわね？……その後、彼女は元に戻れたんだけど、
それからしばらく経って、特殊な力があることに気づいたらしいの」
「……と……特殊な、力……？」
「そう……今、眞希ちゃんが見た光景……１時的に、体を石に変えられる力よ」
まるで諭すように、ライカは静かな口調で眞希に事態の説明を続ける。
……とその時、翔子が小型トラックの横に歩いてきた。
真っ白な大理石を思わせる体……着ている服も、どこか白く、色褪せたような印象がある。
肌も髪も真っ白、そして目も、ルイたちのように瞳の影がない……眞希は反射的に縮こまった。
そんな眞希のリアクションを見て、翔子はただ、無言で微笑んだ……寂しそうな印象は残ったが。
「しょ……翔子？……翔子なんだよね……お願い、何か言って！？」
「眞希ちゃん……悪いけど……翔子ちゃんは今、声を出すことができないの」
「……え……えぇぇぇぇっっ！？」
「落ち着いて聞いてくれる？今翔子ちゃんの体は、ルイちゃんやエミちゃんと同じ状態なの」
（……そうなんだよね……せめて、眞希にこの声が届いたらいいのに……）
「……そ……それじゃあ、翔子は……翔子はどうなるんですか！？」
「大丈夫……時間が経てば、また元に戻ることができるわ。今すぐには無理だけど、今日中にはね♪」
ライカの言葉に、眞希は大きく溜息をついた……だが、少し落ち着いたらしい。
（分かってくれたかな……眞希が壊れちゃうんじゃないかと、ちょっと心配だったけど）
「で、でも……どうして？」
「翔子ちゃんはね……ちょっと無理をしても、眞希ちゃんを助けたかったの。
速く動けないサラちゃんだけでは、あの部屋から２人を助け出せなかったから」
１度石化した経験からか、翔子は意識を集中することで、擬似的な“活性石像”に変身する能力が発現していた。
それは数時間程度の制約ではあったが、その間翔子はルイたちとほとんど同じ体質を身に付け、
かなり無茶な行動を取っても、肉体を傷付けずに済むことが可能になったのである。
ただそんな能力を、恐怖と不安で憔悴した眞希に披露すれば、泥沼に陥る可能性があった。
そのため翔子は、眞希が泣き疲れて失神した“隙”に変身し、サラにも補助金具を探すなど協力してもらって、
かなり強引な形ではあったが、“牢獄”を脱出することに成功したのであった。
（普通の体であんなことしたら、お肌が荒れるぐらいじゃ済まなかったしねぇ）
「……わっっ、翔子の“声”が聞こえるよ、ライカさん凄い！」
因みに眞希は現在、ライカのサポートで、翔子のテレパシー波を受信している。
眞希にテレパシー波を聞き取る能力はないが、ライカを中継することで、どうやらそれが可能らしい。
何しろライカはパドルの相棒的存在――そう、彼女もまた普通の人間ではないのだ。
（それに……今なら、ルイさんたちの気持ちが分かる気がするんだよね）
「ルイさんたちの……気持ち？」
翔子はふと、大理石そっくりに変化した、自分の腕をまじまじと眺めた。
指でおもむろにその腕を突く……コンコン、と、石柱を叩くような音が軽く響いた。
（ルイさんたちは、こんな硬い体で生活してる……特定の人じゃないと声も届かない生活をね）
「……そっか……そうだよね、言われてみれば」
（あ、そうだ、ルイさんを助け出さなきゃ！）
「……え、ルイさん、どうかしたの？」
「えぇ……さっき組織の馬鹿たちが、施設を爆破しちゃってね……巻き込まれたみたいなの」
「えぇっ！？ た、大変じゃないですか！！」
その頃……燃え盛る施設の中心部で、３つの人影が動いていた。
行方不明のルイを捜索する、パドルとエミとサラだ。
ナンバー２の凶行によって爆破され、ねじ曲がった鉄骨をパドルが持ち上げ、
細かい破片を撤去しながら、エミが呼びかける。
更に２人の手前で、サラがルイに向かって、一心に念じかけていた。
（あ、あれ……奥から誰か、歩いてきます！）
最初に“変化”に気付いたのは、そのサラだった。
既に、現場の温度は相当な高温だ……普通の人間なら死んでいるか、熱に負けて倒れているだろう。
そんな現場で悠然と歩いてくるのだから、普通の人間である可能性は低い。
３人がサラの指さす方向を見つめていると……やがて、小さな人影が現れた。
（あ、ルイさん……だ……？）
「……な……どうなってるんだ？」
現れた人影は、シルエットこそルイだった。
しかしその体は淡い光を帯び、虹色のグラデーションが幻想的に揺らめいていたのである。
（……る……ルイ、さん……？）
「……ご……めん……みんな……迷惑……かけた……」
（え？ルイさん、今……声が？）
しかも、その“虹色のルイ”は、はっきりと、常人にも聞こえる“声”で喋ったのである。
３人は、ルイに何が起きたのか分からなかった。
「……ルイだよな？…… 一体、何があったんだ？」
パドルらの呼びかけに、ルイらしき虹色の少女は、たどたどしい声で返答した。
「……何が……って……あたしが……聞きたい、よ……」
それだけ言うと、彼女はまるで力尽きたように足がもつれ、倒れ込んだ。
「うぉっ……おっとっと、おぃ、しっかりしろ！」
（ルイさん！？ ルイさん、しっかりして！）
倒れ込んだルイをパドルが抱え上げ、そのまま現場から、ライカたちが待つ車庫へ。
ふと気付けば、ルイの体は、元のルビーのような色合いに戻っていた。
「取り合えず、センターＤに戻るぞ……ライカ、１台目の運転は任せていいか？」
「やるわよ……免許証持ってるの、あたしとあんただけだしね」
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ルイたちを収容し、慌しく車庫を出る、２台の小型トラック。
外に出ると、もう空はワインレッドからミッドナイトブルーへ、黄昏色に染まっていた。
その空にもくもくとわき上がる、濃い灰色の煙とオレンジ色の火の手。
廃コンテナ群の敷地の入口付近では、赤いランプが瞬いていた。
真紅の消防車両に混じって、白と黒のツートンカラーが印象的な車両が大小２台ほど。
（うわぁ……あれって、警察の車じゃないですか？）
１台目の後部座席に座る翔子が、白い顔に不安げな表情を浮かべる。
その横には、同じような表情の眞希が。
「２人は顔を出しちゃダメよ……大丈夫、話は付けてあるから」
「え？……どういうことですか？」
「センターに着いたら話すわ……取り合えず、後ろで待ってて」
間もなく２台の小型トラックは、警察車両の横に停車した。
１台目の運転席からライカが、２台目からはパドルが顔を出して応対する。
「あぁ、やはりあなたたちですか、ご苦労様です」
「後はよろしくお願いしますね、警部」
「了解しました……それではまた、後ほど」
ライカと言葉を交わすのは、刑事らしき４０代後半くらいの男。
どうやら、ライカやパドルとは既に顔見知りらしい。
２台のトラックが公道に出るのと入れ替わるように、パトカーや消防車が敷地に入って行く。
その光景をバックミラーで眺めながら、パドルはつぶやいた。
「さて……俺たちも反省会をしなきゃな……」
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| （第５章第１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
翔子たちを助けて脱出する都合上、第２ラボを破壊する必要があったわけだが、
前編と比べて、２倍近い文章量になってしまった辺り、G-maの構成力の拙さが良く分かるorz
（そしてこのパターンは第６章でも繰り返されるoez）
因みに翔子の疑似メタロイド変身能力は、文章的にご都合的に作った展開に見える（爆死）が、
実はこのエピソードを書く前から設定自体は存在していたものである。
１方ルイが新たな能力を得るプロットは、当時の紛う事なき新設定であった。 |
