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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E063） |
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真っ青な空が突き抜けるように広がる、真夏の正午過ぎ。
普段なら、買い物客や夏休みを楽しむ学生で溢れる、駅前の交差点――だが、
この日ばかりは、常識を粉々に破壊する、想像を絶する非常事態の真っ只中にあった。
ゆらゆらと立ち上る、灰色の不吉な煙。
その足元にあるはずの商店街に、そしてその前の大通りに、黒々とした異形の影が、巨大な塊をなして転がっている。
白昼の都心で突如起きた、同時爆破テロの惨状である。
引き起こしたのは、突如襲来した“金属の怪人”たち。
その首謀者である銀色の怪人“セラフィ”は、
交差点に駆けつけた警官隊を、まるで余興のように壊滅させ、
恐ろしい笑い声を上げながら、次なる舞台へと歩を進めていった。
そしてその奥には、逃げ遅れた市民が、瓦礫によって分断された“陸の孤島”に、
今や“奴ら”の人質のように、閉じ込められていた……。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第６章 牙を剥く闇 ★
第３話 朝陽市の最も長い１日（２）
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眞希は、崩れ落ちた瓦礫の片隅で、震えていた。
彼女の視界の先には、大破した乗用車やバス、そして更にその奥に別の瓦礫の塊が。
そしてその周囲に、逃げ遅れた市民が、恐怖に顔をこわばらせていた。
その数……３０人ほどはいるだろうか。
数人ほどは瓦礫に手をかけ、避難経路を探しているが、まだ見つからないようだ。
しかも……崩れた瓦礫の周囲には、何人かの市民が倒れていた。
明らかに大きな破片の下敷きになっている者もいる。
崩れた瓦礫の奥に呼びかける人がいるところを見ると、恐らくその中にも被害者がいるのだろう。
そんな中……眞希の恐怖を増幅させる光景があった。
「うぁあぁぁぁん、ママぁぁ……！」
瓦礫に半ば埋まり、うつ伏せになっている女性の足元で、泣き叫ぶ小さな少女。
恐らく女性の娘なのだろう……母親の名を呼びながら、泣き続けている。
そして――その少女に向かって歩いていく、明らかに人間ではない異形の存在。
全身まるで、緑色のメッキ加工を施したような、やや細身の“怪人”である。
腕には銀色の“文様”が刻まれ、目はまるでルビーのように輝いている。
それは１０日ほど前……あの“ラボ”で、眞希が会った“金属の怪人”とよく似ていた。
違っていたことは、あの時の怪人が、ステンレスのような質感を持っていたことと、
この怪人より隆々とした体格をしていたことぐらいだ。
緑メッキの怪人は、泣いている少女に向かって、おもむろに話しかけた。
「ふふ、どうしたのかな？……あぁそうか、お母さんが死んじゃったのか♪」
楽しむような怪人の言葉に、眞希は胸が詰まるような気分に襲われた。
何ということを言うのだろう、と。
小さな少女は涙に濡れた顔を引きつらせ、後ずさりをする。
それでも逃げ出そうとしないのは、母親から離れたくないからなのだろう。
「そうだなぁ……お母さんと一緒にいたいよねぇ……その願い、僕が叶えてあげよう♪」
そう言うや否や、怪人はポケットの中から、銀色の小瓶を取り出した。
小瓶の真ん中にある“窓”から、水晶のような小さなかけらが見えている。
眞希は戦慄した……何故ならそれは、あの“廃校”で、翔子を石化したアイテムにそっくりだったからだ。
――逃げて、逃げないと……石像にされちゃう！
眞希はそう言いたくてたまらなかったが、恐怖のためか声が出ない。
そして怪人は非情にも……震える少女の頭上に、そのかけらを落とした。
解き放たれる神秘的な、そして無機質な光。
少女が自分の身に起きた事態に気付き、恐怖に身をよじらせる。
しかし変化は無常にも、小さな少女の自由を奪って行った。
「うぁ……あぁ……やっ……いやぁ……ま、ママ――」
ぷつり、と途切れる、少女の悲鳴。
片手を母親の方に伸ばしたまま……少女はクリスタル状の石像に姿を変えてしまった。
絶望感に襲われる眞希……自分が襲われたみたいに、血の気が引いていく気がした。
その時であった。
「おぉ……何と言うことを……この鬼畜が！」
突如として、商店街の暗がりから、怪人に向かって罵声が浴びせかけられた。
眞希が驚いてその方向を見ると、眉間に深いしわを寄せた、７０歳ほどの女性が。
緑メッキの怪人は、薄笑いを浮かべたまま、その女性に向かって歩き始める。
「……鬼畜？……これは何と……僕はただ、この子がいつまでも母親といられるようにしたまで。
たとえ母親が骨となり土となっても、いつまでも一緒にね……あひゃひゃひゃひゃ♪」
常識人なら聞きたくもないような言葉を重ね、狂ったような笑い声を上げる怪人。
そんな怪人に向かって、女性は驚くほど気丈に、非難を続ける。
「そんなこと……ここにいる誰が許すと思っておるんじゃ！？ 戻してやりなさい！」
「い・や・だ・ね♪……誰が許すって？……僕に決まってるじゃないか♪」
「あ……あんたには、聞いちょらんっ！！」
「……ははは……ねぇ婆さん、何か勘違いしているんじゃないかい？」
ひときわ――怪人の笑みが残酷な凄みを増した。
「今ここで……僕以外の誰に、権利があると思ってるんだい？――そんなもの、ありはしないのさ。
ここの支配者は……僕しかいないんだから♪」
次の瞬間――陸の孤島と化した路上で、肉を切り裂く音と、悲痛な悲鳴が響き渡った。
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「観念したまえ……もう、これ以上先には進めぬのだから」
アーケードの入口から、１００ｍほど進んだ場所。
翔子と春海は、崩れた瓦礫の前で、立ちすくんでいた。
２人の背後から、銀色の怪人・セラフィの無機質な足音が迫ってくる。
残響を伴う破壊者の声が、アーケードにこだます。
「いやぁ、どうしてぇ……」
「……これも……全部、仕組んでたっていうの？」
「ククク……我々が、考え無しに行動を起こしたと思っているのかね？
お前たちにもはや、逃げ場などどこにもないのだよ」
追い詰められた少女たちを嘲笑うが如く、セラフィは悠々と歩いてくる。
金色の瞳からぽろぽろと涙をこぼし、瓦礫の前にうずくまる春海。
――やるしかない。
翔子は何かを決心し、セラフィの方に向き直った。
「これ以上来ないで！……春海ちゃんに……春海ちゃんに手出ししないで！」
そして……目を閉じる。
閉じて、強く念じる。
正直、どうにかできる自身なんか、全くない。
けれども、どうにかしなくちゃいけない……あいつの勝手になんか、絶対させない。
それにここでやられたら……眞希も助けに行けないから。
翔子の脚が、腕が、顔が、髪が、そして服が……淡い光と共に白磁に染め上げられていく。
信じられない先輩の“変身”に、春海は思わず目を疑った。
いや……驚いたのは、春海だけではなかった。
「ほぉ……こいつはこいつは……お前にそんな力があったとはなぁ」
少なくとも……“この体”は簡単に破壊できる材質じゃないはず。
１瞬だけでも、あの怪人――セラフィの気を反らせることさえできればいい。
春海と自分が、脱出できる時間を稼げさえすれば。
全身の“変化”が完了したと感じるや否や、翔子は駆け出した。
（春海ちゃんは今のうちに逃げて……あたしが気を反らせてるうちにっっ！！）
「せ……先輩っ！？」
駆けながら、セラフィの動きを凝視する――いや、全身で感じるのに近いか。
翔子はルイから聞いたことを思い出し、見よう見まねで自身に反映させる。
――この体で意識を集中するとね……全身で周囲の気配を感じられるんだよ。
セラフィの腕が動いた――来る！
その指先が瞬時に変形し、鎖鎌と化して繰り出される。
翔子は全身の感覚を研ぎ澄まし、髪一重でその弾道から、身を反らせた。
「何――！？」
更に２波、３波と繰り出される銀色の鎖を僅差で交わしながら、翔子は駆け続ける。
高校に入ってからこそ部活動はやっていないが、中学の時は陸上部だった。
機動性には自身がある――例え、今は硬い石の体でも。
翔子はそのまま――タックルをするように、セラフィのボディに特攻した。
――ゴツッッ、と重く、硬いものをぶつけたような音が響く。
だが――――銀色の怪人は、微動だにしなかった。
（……な……そんな！？）
「意外といい動きをするな……だが所詮は小娘よなぁ」
薄笑いを浮かべて、静かに言い放つセラフィ。
「学校で習わなかったのかね？――金属の方が、石よりも比重が大きいということを」
（…………あ）
特攻が無駄に終わった意味を翔子が悟った直後、セラフィががっしりと、翔子の腕を掴んだ。
そのままぐぃっと……乱暴に吊り上げる。
（っしまっ……うぁっ！？）
「そうか……石化経験者は、その気になれば変身できるようになるのだなぁ」
「……先輩っっ！？」
（ダメ……春海ちゃんは逃げてっ！！）
翔子は腕を掴み上げられた状態で抵抗するが、その白い脚は無常にも敵に届かない。
怪人化したセラフィの肩は異常なほど広く、腕のリーチはまるでゴリラのようだった。
「無駄な足掻きは空しいな、石塚翔子……お前はしばらく、そこにいろ」
そう言ってセラフィは、翔子をおもむろに投げ飛ばした。
そして同時に――銀色の鎖鎌が、アーケードの上部を切り裂く。
（きゃぁあぁぁぁっ！？）
シャッターが下ろされた商店の前に、叩きつけられるように落下する翔子。
そして、更に――
――ズズンッッ！！
（――ぐぁ……ぅあ”ぁっっ！！）
切り裂かれたアーケードの梁が、翔子の胴体を直撃した。
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「…………まさか……そんな…………」
エミをまっすぐに見つめる、ワンピースの女性。
信じられないものを見るかのような、しかし見つめずにはいられないような。
彼女の名は木下恵子――――鉱物娘エミ＝木下恵美の母親であった。
２年近く前に娘が失踪してから、ずっと捜し続けてきた。
マスコミの不明者捜索番組にも訴えた。
愛する娘に会いたくて、苦悩し続けた２０ヶ月余りの歳月が、彼女の髪を変色させていた。
（…………お母、さん…………）
“心の声”で、そうつぶやくのが精一杯なエミ。
だが……恐らく、その“声”は届いてはいないだろう。
今すぐにもその胸に飛び込みたい思いで一杯なのに、動くことが出来ない。
“歩く石像”と化した娘の存在を、どうやって理解させるというのか？
どうすることも出来ない状況……胸が張り裂けそうな気分とは、こういうことを言うのだろうか。
「――――ひゃはははははは！！ こいつは傑作だぜ！！」
ふと出し抜けに、下品な笑い声が響き渡った。
――ズシン、と重い音を轟かせて、金色の怪人が乱暴に、エミの傍らに降り立つ。
かつてのナンバー８“ネメシス”は、振り向いて警戒するエミに、嘲笑うように言い放った。
「……なんだぁ？ どうした、ほれ、感動の再会だろ？ 第・３０・号・実・験・体？」
（…………くっ…………）
「こいつはお涙頂戴のシチュエーションだぁな、こんなところで実の親と会うんだからよぉ♪」
「…………恵美、なの……？」
（…………うぅ…………）
正面と背後、２方向から飛んでくる声が、少女の硬い胸を容赦なく締め付ける。
「どうだよ女ぁ、“歩く石像になっちまった娘”と再会した気分は？」
（…………いや……やめて…………）
自分の背後で、母が明らかな動揺の表情を浮かべたことを、エミは察した。
振り向かずとも、彼女の体は周囲の状況を把握することが出来るからだ。
半透明の鉱物でできているのが、その主な理由である。
だがその能力は、今のエミにとっては、苦悩の上積み以外の何物でもなかった。
「ははははは、随分ショックを受けた顔だな、いいぜ、その表情♪」
（……やめて……お願い、もうやめて……！）
頭を抱えて、崩れるようにエミは膝を付いた――ごつっ、と硬い膝がコンクリートに当たる音が響く。
その音が更に衝撃を誘ったのか、背後の母・恵子は思わず口を手で覆った。
そして――その行為を感じ取ったエミの心を、いっそう深く抉ることに。
周囲の人々は、複雑な表情を浮かべて、事態の推移を見守っている。
いや……余りにも常識を超えた出来事に、脳の処理が追いついていないのかも知れない。
「さぁて――ここの人間どもも、始末しておくかなぁ……」
ネメシスは低く笑いながら、銀色に光る爪を突き出した……その爪はあたかも、ナイフの如く。
取り残された人々は危機を察し、再び瓦礫の隅に萎縮した――だが。
「…………？…………何のマネだ、第３０号？」
エミは思わず――人々とネメシスの間に、立ち塞がった。
その小さな体を精一杯フォローするように、エメラルド色の両手を大きく広げて。
いや……“思わず”などではない。
守るべき人が……どんなことがあっても、守りたい人がそこにいたから。
“容認できない姿に変わり果てた”自分のことを、気にしている場合ではない。
自分がどんな姿になっても……“あの人”が守りたい人なのは、永遠に変わらないはず。
（……通さないよ……ここは絶対……通さないからね！）
「…………恵……美……？」
「…………身の程を知らぬ奴が……ここにもいたか」
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再び――アーケードの端に生まれた、少女たちの戦場で。
「先輩、先輩っっ！！」
（……な……何してるの……逃げて……！）
「……で、でも――きゃぁぁっ！？」
春海の足に、シュルシュル、と銀色の物体が巻き付いた――セラフィの“髪触手”だ。
そのまま、アーケードの床に叩きつけられるように倒される。
（……は、春海ちゃん！）
「そう簡単に……逃げられると思ってもらっては困るのだがねぇ♪」
ちっちっ、と指を振り、セラフィは不敵な笑みを浮かべた。
銀色の触手が、もがく少女の足から腰へ、そして上半身に絡みついていく。
恐怖に委縮して悲鳴も出せない春海――その時だった。
「――くぅっっ……え？――！！」
突如として、春海の体が、金色に変化を始めたのだ。
「ちょうどいい……君が持っている“真の力”を、私が直々に解放してあげようじゃないか♪」
（……な……春海ちゃんまで！？）
変化は触手が絡みついた部分から始まり、パキパキと音を立てて周囲に広がって行く。
引きつった表情で、再び悲痛な叫び声を上げる春海。
「う、あ、あぁ……い、嫌……イヤァァァァ！！」
（くぅ……や、やめて……春海ちゃんにはまだ、覚悟が……）
翔子が“心の声”で必死に訴える……だが、変化は無情にも進んで行く。
今すぐにでも春海を助けてあげたかったが、腹の上に乗った鉄骨はびくともしない。
“変身”のために重傷を負う可能性こそ回避されたが、身動きが取れなければ何も進展しない。
セラフィは銀色の顔を不気味に歪め、残響の混じる言葉を放つ。
「……何故拒む？ せっかく得た、新たな力だというのに……」
（じょ……冗談じゃないわよ……こんな力、誰もくれなんて……春海ちゃんだって！）
「いや……いやぁ……や、やめ―――― 」
――ぷつりと、“電源を切るように”途切れる春海の悲鳴。
翔子の願いも空しく……春海は彼女の目の前で、再び金色の“金属娘”へと姿を変えた。
着ている服もややメタリックに変色し、体と共にキラキラと輝きを放つ。
（は……春海ちゃん……）
（あ……あ……あぁ……）
金色に染まった手をゆっくりと顔に近づけ、体を小刻みに震わせる春海。
再び瞳の影が失せたその顔を、震えながら翔子の方へと向ける……何とも言えない、哀れな表情で。
（……せ……先輩ぃぃ……あ、あたし……あぅぅ……）
（き……気をしっかり持って春海ちゃん、きっと元に戻れるはずだから！）
「ふん……この力の素晴らしさを理解できぬとは、なんと愚かな……」
言うや否や――セラフィは無造作に銀色の足を上げ、鉄骨の上から翔子を踏みつけた。
衝撃が鉄骨を貫通し、石質化している翔子の白いボディを締め付ける。
まるで体が２つに割れるような痛みが、大理石を思わせる、その白磁の体を突き抜ける。
（――くぁっっ！？……は、はぅ……うぁっっ）
（……！！……せ、先輩っっ！？）
「普通の人間なら……今頃内臓破裂で死んでいるんだぞ……どうだ、これでも認めぬかね？」
そう言って、セラフィは執拗に鉄骨を踏みつける……そのたびに、衝撃が翔子を苦しめた。
硬質化した体の中で痛みが乱反射し、まるで砕けそうな気分になる。
（……かっっ……うぁっ……あぁっっ……！！）
「くひひひ……中々いい顔をして苦しむなぁ、娘……これもまた悪くない――！？」
その瞬間――脇腹にズン、と強烈な衝撃を覚え、セラフィの銀色のボディがぐらり、と揺らいだ。
セラフィが衝撃を受けた方に視線をやると……
（……は……春海……ちゃん……！？）
（……先輩を……先輩を……く、く、苦しめないで！）
さっきまで蹲っていた“金色の少女”が、必死の形相で、セラフィに突進していた。
なおも震えが収まらない金色の体で、春海はただ無我夢中で、銀色の敵をぐいぐいと押し続けている。
だが、１トンは超えているだろうその巨体は、結局ほんのわずかに揺らいだだけだった。
「く、くく……なかなかいい突進だなぁ７０号……さすがはレアメタルのボディだ♪」
そのまま、がっしりと春海を掴み上げる……金色の足が地面から浮きあがる。
「だが……この私に逆らうのは頂けぬなぁ――」
（くっ……あっ！？）
（は……春海ちゃんっ！！）
「――その辺にしてもらえないかしら？」
ふと――セラフィの背後で声がした。
春海を投げ飛ばそうとした腕が、ぴたりと動きを止める。
「……くふ、きひひひ……待っていたぞ……女……♪」
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――ガキンッ！！
硬く、重い物質同士が、激しくぶつかり合う音が響く。
１瞬の間の後――エメラルド色の人影が、瓦礫の中に頭から突っ込んだ。
（――――っかはっ……！）
ふらふらとよろめきながらも、その小さな石の少女は立ち上がろうとする。
もう……何度目だろう。
絶対に守ると誓った人のため……ネメシスの前に立ち塞がったエミは、
しかしその非情な攻撃によって、まるでただの銅像のように弾き飛ばされた。
だがそれでも、エミは立ち上がった。
体の中を衝撃が乱反射している。
今にも……粉々に砕けてしまいそうな気分――思わず気が遠くなる。
いつもは文字通り、宝石のように輝く緑色の体も、灰色の粉塵を被って色褪せている。
鉱物の体にまとうカジュアルな洋服も、既にボロボロ――せっかく、今日のためにめかしたのに。
それでもなお……エミは立ち続ける。
「……この、小娘が……死ぬのが怖くないのか！？ メタロイドも不死ではないというのに！」
（……守るんだ……通さないよ……絶対……）
ふらふらと、それでもネメシスに向かって、歩を進めようとするエミ――その時。
突然がばっ、と、エミの背後から恵子が覆い被さった。
（え――お……お母さん！？……ダメだよ……逃げなきゃ！？）
「……もう、いいよ……もう……見てられないから……」
（…………お、お母さん…………？）
「…………恵美なのね……本当に、恵美なんだよね……ごめんね……今まで……本当に……」
２０ヶ月ぶりに味わう……母親のぬくもり。
ただそれだけで、エミは胸が一杯になるような気がした。
ずっと……ずっと、夢見てきた、再会の日。
こんな形で実現するとは、夢にも思っていなかったけれど。
破れて露出した、エミの半透明の肩に、ぽつり、ぽつり、と母の涙が落ちる。
（…………お……母……さん…………）
――ズドンッ！！
出し抜けに、地響きが轟いた。
ふと我に返ると、すぐ鼻先に、鬼のように金色の顔を歪めるネメシスが。
太い脚を地面に叩きつけ、コンクリートを粉々に砕き、エミたちを見下ろしている。
「見せ付けるじゃねぇか……俺様を無視しやがって……そんなに死にてぇか、あぁん！？」
（……だ、ダメ、ここは通さないって……）
――だが今度は、恵子がエミを庇うように進み出た！
予想していなかった展開に、エミは面食らう。
「……や、やめて……そう、どうせならいっそ、恵美の代わりに私を！！」
（…………え…………えぇっ！？）
「……は・は・は……親の愛情ってヤツかよコラ、笑わせる…………上等じゃねぇか！！」
引きつった笑い声を響かせ、ネメシスが太い腕をおもむろに振りかぶった。
その銀色の爪がドリル状に変形し、今まさに恵子の喉笛を突き破ろうと唸りを上げる。
（…………いや……いや……ダメぇぇぇぇぇぇっっ！！）
――その、刹那――影を引き裂く閃光。
「――ごがぅっっ！？」
閃光――いや、金色に光る“雷撃”が、ネメシスの顔面を直撃した。
衝撃を感じ、思わずのけぞるネメシスの耳に、声が響く。
「――外道の時間は終わりだ……そろそろ寝る頃だぜ、ネメシス」
次の瞬間、今まで人々の行く手を阻んでいた、折れたコンクリートの柱が、２つに割れた。
そしてその奥に……白銀の体を持つ、男のシルエットが。
メタリックなつやを放つ逞しい腕には、青みがかった鋭い刃が２本。
新たな“金属の怪人”に縮み上がる市民を無視するように、男はネメシスに向かって歩いていく。
その男を視界に捉えたネメシスの表情が、再び憎悪で不気味に歪んだ。
「…………生きてやがったか…………ホルス……！」
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（こっちだよサラさん、足元に気をつけて）
（大丈夫です、何とか……あ、あら？ 服が引っかかっちゃった）
薄暗い階段室を、這うように進む２つの影……ルイとサラだ。
その階段室も、先ほどの爆発の影響か、壁や天井が崩れ落ちていた。
ガス漏れでも起きているのか……シュウシュウ、という不気味な音が聞こえてくる。
だがそれよりも２人を不安にさせていたのは――時折聞こえてくる悲鳴であった。
それも普通の……“爆発事故に巻き込まれた被害者”の、叫び声ではない。
何か異常な……常識を超えた出来事から逃げるような悲鳴。
あるいは、理解を超えた出来事を、目の当たりにしたような悲鳴である。
――もしかして、あいつらが来たのかな？
――だとしたら急がないと。
ルイの中にいる“少女たち”も不安げだ。
（ルイさん、向こう……外に出られそうですよ）
サラが指差した方向に、ルイが体を押し込もうとした……その時だった。
「いや……いやぁ、やめてぇぇ！！」
「きゃあぁぁぁっっ、ひ……瞳ぃぃっ！！」
出し抜けに、複数の女性らしき悲鳴が、その“隙間”のすぐ奥から聞こえてきた。
余りにも唐突であったためか、思わず叫びそうになったルイ。
もっともその声は……サラにしか聞こえない性質のものだったが。
（うわぁっ！？……い、今の声は！？）
（行きましょうルイさん、私も何とか行けそうです！）
“隙間”に見えていたのは……ひしゃげたシャッターの１部であった。
ルイがその隙間に体を押し込み……頭を半分ほど押し出す。
だが――そこで見た光景に、ルイは思わず絶句した。
瓦礫の隙間から降り注ぐ陽光に照らされ、キラキラと光を放つ……少女の石像。
半透明の鉱物……白っぽく見えるが、クリスタル状の物質だ。
そしてその奥……４人ほどの女性――いや高校生ほどの少女たちが、
恐怖に引きつった表情でしゃがみ込み、お互いに寄り添っていた。
（……な……こ……これは一体！？）
「なんだ……そこに誰かいるのか？」
不意に妙な低い声が響き、シャッターがバリバリ、と無造作に破られた。
差し込んでくる直射日光に、１瞬目が眩むルイ……だが。
何よりも目を疑ったのは、そこに立っていた、青みがかった金属光沢を放つ“怪人”であった。
（なっ……ど……どういう事！？）
「な……こいつら、この前の活性体か！？」
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「ふぅむ……こうして並べてみると、なかなかいいねぇ♪」
再び――通りに面した“陸の孤島”。
緑メッキの怪人が、満足げな表情で見つめているのは、先ほど石化した少女だ。
しかしその数は今や……３体に増えていた。
最初に石化された、クリスタル状の少女。
更に泣き叫ぶ母親から無理やり奪って、その目の前で変えられた２人。
１人はアクアマリン風の鉱物に変えられ、もう２人はピンク色のガラス像に変えられていた。
いずれも……小学生くらいの幼い少女たちである。
愛する我が子を奪われた母親は、２人ともショックと恐怖で失神していた。
いや、１人は肩を切り裂かれたらしく、近くの人が応急処置をしようと、布を巻いていた。
更に、大破したシャッターの横には、血の海に沈む高齢の女性が……恐らく、既に息はないだろう。
最初の石化行為を批判したため、怪人の非情な“刃”に切り裂かれた哀れな犠牲者である。
そう……怪人の腕から直接伸びる、青龍刀のような銀色の刃に。
「さぁて……余興はこのぐらいにして、そろそろ任務に移るかねぇ」
そう言って、怪人は恐怖におののく、被害者たちに向き直った。
「これより……この街は我らメドゥアスの支配下となる、ひいては諸君に、決断をお願いしたい。
メドゥアスに忠誠を誓い、革命の支持者となるか……新時代を見守るモニュメントとなるか。
――あ、モニュメントになれるのは、２５歳未満の女の子だけだからね♪」
「革命の指示！？……ど、どうすればいいんだ！？」
最初に発言したのは、ラフなＴシャツを来た、３０歳くらいの青年だった。
「……良い質問だ♪ それはね……人間を捨てることだよ♪」
「……へっ！？」
怪人の言葉の意味が分からず、青年はおろおろする。
そんな青年に銀色の刃をちらつかせ、怪人は畳み掛けるように言い放つ。
「分からないかい？……我々の同志になるということだよ♪……言っておくけど、
メドゥアスの革命同志に、人間は必要ないからね……さぁ、どうする？」
返す言葉もなく、愕然とした表情で立ちすくむ青年。
言葉の意味を理解した周囲の人々も、一様に表情が引きつった。
何故なら怪人の言葉は……ここにいる全員に、死を宣告しているも同然だからだ。
生き残るためには、“人間以外の存在”にならねばならないのだから。
「――――ひどい……ひどいよ、どうして……どうして、こんなことが出来るの？」
ふと――片隅から、そんな声が聞こえてきた。
緑メッキの怪人が冷酷な視線を返すと、ショートカットの少女が１人――眞希だ。
石像にされた少女の１人に手をかけ、ぽろぽろと涙をこぼしながら訴える。
「お嬢ちゃん……そういう質問は、受け付けてないんだけどねぇ？」
血も涙もないような声で、無造作な言葉を返す怪人。
「どうして、人を殺すの？……どうして、石に変えちゃうの？……分からないよ」
ある意味、眞希の発言は無謀な行為だった。
先ほど、激しく怪人の行為を非難した高齢の女性は、その刃にかかった。
殺されなくても、怪人の言う“モニュメント”にされてしまうかも知れない。
それでも……もう眞希には、沈黙し続けることは出来なかった。
“目撃者”なのに、何も出来ないまま、終わりたくなかったのだ。
もうこれ以上、物言わぬ人形にされる人たちを見たくない。
望んでないのに人間以外の存在にされて、苦悩する人たちを見たくない。
親友の翔子、後輩の春海、そして“人間だった頃”の記憶に悩む、ルイやエミ。
ほんの数日前にエミが見せた、言いようのない寂しげな表情が、瞼に焼き付いて離れない。
彼女たちを少しでも癒すために、今日という日を盛り上げたかったのに……何故こんなことが。
「それは――モニュメントへの立候補と、解釈していいのかな？」
「…………！！」
眞希は硬直した。
自分も“物言わぬ石像”に変えられて、奴らの慰み物になるのか。
訴えたくても訴えられない体にされて、見たくないものを見せ続けられるのか。
嫌だ……そんなことになるなら、いっそ、死――――
――今死んだら、何にも残らないからね。
ふと……“ルイが言った”という、翔子の言葉が蘇る。
声は出せなくても、自分という存在が確かにここにある、それを活かすために生き続ける。
そうしないと……生まれてきた意味がないから。
自信に満ちた表情で、眞希に向かって笑いかけた、ルイの力強い表情。
――そうだ……あたしも、こんなところじゃ死ねない。
眞希は思わず、唇を噛み締めた。
唇を噛み締めて、もう１度……きっ、と怪人を睨みつける。
モニュメントになんかなりたくないけど……こいつらの好きには、絶対させない。
「……どうやら、本当に……飾り物になりたい……らし…… ――！！」
眞希の視線を、嘲笑うように反射していた、怪人の視線が……ふと泳いだ。
間もなく……通りを塞ぐ瓦礫の上へ、その視線が移動する。
そこに……逆立つ金髪が燃えるような“大男”が、まるで不動明王のように立っていた。
あたかも……修羅の如き形相で。
緑メッキの怪人の声が上ずる……それは武者震いなのだろうか。
「貴、様は……は、ははは……そうだ、あの時……アイガーと戦った男……そうだな！！」
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| （第６章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008〜2009年頃に草稿を作成したエピソード。
テロを強行した実行犯の外道っぷりをこれでもかと盛り込んでみた（殴）
……といっても、G-maという人間は基本、血みどろアクションを好むタイプではないので悪しからず（汗）
物語上必要なら冷酷なシーンも描くが、それを楽しむ趣味はない。
そしてこの外道たちに対峙する“英雄たち”が登場するエピソードでもある。
彼らは主役ではない――主役はあくまでも鉱物娘たちである――が、物語に必要な戦力なのだ。 |
