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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E064） |
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不気味なほどに人気のない、商店街の１角。
普段なら買い物客で溢れる、アーケードの下には、大破した軽トラックが転がっている。
割れたタイルの上に散らばるガラス片、落下しかかった看板、一帯に立ち込める灰色のもや。
アーケードの隙間から差し込む直射日光が、白昼夢のような風景を創り上げている。
そして……その真っ只中で対峙する、少女と怪人と女。
金色の金属娘に“変身”させられた春海が、“変身させた”怪人・セラフィの腕に捕らえられている。
白磁の石像娘に“変身した”翔子は、セラフィの銀色の脚の下で、苦しそうにもがいている。
（ら……ライカ、さん……！）
「２人を……放しなさい。 無様な負け方……したくないでしょ？」
いつもとは別人のような、低く押し殺した声で、ライカはセラフィに呼びかける。
ともすれば少女にも見えるその表情は今は険しく、その眼光はまるで獣のように鋭い。
だが、相対する銀色の破壊者も、飢えた虎の如く……舌なめずりをした。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第６章 牙を剥く闇 ★
第４話 朝陽市の最も長い１日（３）
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「……久し振りだなぁ……会いたかったぞ、女……そう、待ち侘びた日が――来たのだ！」
セラフィはそう言うや否や、長い腕に掴んでいた春海を、おもむろに放り投げた。
金色の少女が緩やかな放物線を描き、ライカに向かって飛ばされていく。
（きゃあぁぁぁっっ！？）
「……危ないっ！！」
咄嗟に体を捻り、春海を受け止めるライカ――だが、予想を超えた衝撃が、彼女を襲う。
金色のボディに“変化”した春海は……まるで鉛の塊のような質量があったからだ。
衝撃に負けかけ、ライカは思わず後方に流される……必死で踏ん張るものの、その脚も滑っていく。
「くぅ……っ」
（ら……ライカさん！？……ご、ごめんなさい！）
「い……いいのよ春海ちゃん、気にしないで――！？」
刹那、忍び寄る――いや、覆い被さる気配。
春海を投げ飛ばした瞬間に飛び出したのだろう。
セラフィの巨人のような銀色のボディが、既にライカの目と鼻の先に。
その指先はまるで鎖のように変形し、今にもライカを捕らえんと唸りをあげて迫っている。
「いざ始めようぞ……血と叫びと嘆きの宴をっっ！！」
「誰が……そんなショーを楽しむのよ、この――ド外道がっっ！！」
春海を横に突き飛ばすライカ――戦闘に巻き込まないためだ。
そのまま体を翻し、セラフィのまるでムチのような鎖を、紙一重で交わす。
しかしライカを縛り上げんと放たれた鎖は、まるで触手のように空中で方向を変えた。
脚を掬い上げんと襲い来る鎖を、今度はすぐ上空で１回転して回避する。
更に上から振り下ろされる、セラフィの豪腕……ライカのすぐ肩先で、歩道を真っ二つに引き裂く。
そのまま――ライカに向かって、斜め横に腕を振るセラフィ。
さすがに今度はほとんどゼロ距離……接触せずに回避することは出来ない！
弾かれるように、ほとんど水平に飛ばされるライカ――だが。
ライカはまるで、その応力も計算していたかのように、軽やかに路上に着地した。
その間、ほんの２～３秒。
春海や翔子が、セラフィのモンスターのような猛威と、ライカの軽やかな体さばきを、唖然として見ていたことは言うまでもない。
（……う……うそ……凄すぎるって）
（……あ……そ、そうだ……先輩、今助けますっ）
ふと我に返り、春海が翔子に駆け寄る。
翔子を押さえ込んでいる、元はアーケードの１部だったろう、太い梁。
乗用車ほどもあるその塊に、春海はそっと、金色に光る自分の手を添えた。
妙な感覚だ……恐らく、体が金属化しているためだろう。
本来の柔らかい自分の手とは違う、独特の感覚が伝わってくる。
まるで……鉛のグローブでもはめているような。
その所為か、今はどんなものを掴んでも、手が傷付く気がしない。
（あ、あの……痛かったら言ってくださいね？）
（……だ、大丈夫……遠慮しなくても、いいから）
強がっているのではない……多少刺激を与えても問題ないからだ――今の体なら。
春海が渾身の力を込め、折れ曲がった梁を斜めに引っ張り上げる。
ギシッ、と鈍い音を響かせ、ほんの少しだが――梁が持ち上がった。
（そうそう……いい感じだよ、春海ちゃんファイト！）
（うーーーーーーーーーんしょっっ！！）
上半身をほとんど反り返るようにのけぞらせ、春海はなおも引っ張り続ける。
少しずつ……少しずつであるが、梁が持ち上がっていく。
……やがて、翔子との間に小さな隙間が出来た。
下半身を引っ張り出すように、翔子は急いで瓦礫の下から脱出する。
翔子の脱出を確認した春海は、手を放した……埃を巻き上げ、元の位置に収まる梁。
（だ……大丈夫ですか？）
（うん、ありがとね……えと、春海ちゃんこそ、大丈夫？）
（……え？……あ……その……はい、何とか）
無我夢中だったのだろう……春海が我に返ったように、自分の姿を見つめる。
磨き上げられた石像のような翔子の白い顔や手に、純金のような自分の姿が映り込んでいる。
もちろん……春海の金色の顔や手にも、翔子の大理石のような姿が映っていた。
（きっと元に戻れるよ……あたしだってそうだったから）
（あ、はい……ありがとうございます先輩……だ、大丈夫です）
戸惑っている印象はあるが、さっきほどショックを受けた感じではない……翔子はほっとした。
断定は出来ないが、多分……吹っ切れたのだろう。
翔子と同様、春海も今回が初めての石化経験ではない。
……いや翔子どころか、春海は１ヶ月くらい彫像化したまま、放置されていたのだ。
嫌な経験には違いないが、免疫もあったということなのだろう。
（でも……何か新鮮な気分です、今……ちょっと信じられないかも）
（あ、それわかるわかる♪）
（あたし思うんです……エミちゃんも多分、こんな感覚なんだなって）
（……そうだね）
春海の脳裏には、先日“再会”した、幼馴染の顔が浮かんでいた。
２年近く前に行方不明になった彼女が、石像化されていたことも衝撃だったが、
そのエミが、記憶を取り戻したと知った時は、もっと衝撃だった。
もし春海がエミのように“戻れない体”だったなら、どんな気分だっただろう。
１ヶ月ぶりに再会した両親の顔を見ただけでも、感激で号泣したというのに。
彼女が可哀想でたまらず、涙が止まらない自分に、エミは寂しげな笑顔で言った。
――気にしないで、仕方なかったことだから――
金色の彫像のような自分の手を眺めて、春海は改めて心に誓った。
――そうだよ……あたしがエミちゃんの、心の支えになってあげなきゃ。
翔子がルイを「かけがえのない友達」と言ったように。
サラが春海に“同じ経験を積んだ仲間”と言ったように。
それが多分……“生きたまま石化する”という経験をした、自分の使命なんだと。
（春海ちゃん……本当に大丈夫？）
（先輩……あたし、頑張りますっっ！）
（え？……そ、そう……良かった、大丈夫そうだね）
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そんなアーケードの“戦場”からほど近い、荒廃した路地裏。
傾いた壁から差し込む陽光に照らし出されるのは、８人の人影。
ただし――そのうち４人は、人間の姿ではなかったが。
ルイとサラの“鉱物娘”、セラフィの部下に当たるブルーメタルの怪人、
そして怪人によってあえなく石化された、クリスタル色の少女。
そのすぐ近くでは、少女の友人らしき４人組が、恐怖に引きつった表情でしゃがみ込んでいる。
ルイ達と怪人との間合いは、ほんの１．５ｍほど……息も止まるほどの緊張感が漂う。
「なるほどな……セラフィが言っていた“ギャラリー”ってのは、お前たちのことか」
（セラフィ……って、あの銀髪野郎！？……あいつも、来てるんだね）
（こ、この人、見覚えが……確かあのラボで……）
「くく、察しがいいな３９号。あの時はまだ、俺も人間だったがね」
そう……サラは第２ラボに連行された時、この男によってギャラリーに放り込まれたのだ。
もっともそのおかげで、サラは翔子たちを発見することができたのだが。
さりとて特徴があるわけではなかったものの、無慈悲な口調が印象的だった、工作員の１人。
「覚えていたことに敬意を表して、名乗ってやろう……俺の名はロイザー、元ナンバー１８だ」
（だから何だって言うのよ……白昼堂々、被害者を石にするなんて、ますます正気じゃないわ！）
「正気じゃない？……ふ、小娘、正気と狂気の境界など、時代が決めるものだぞ？
今から始まる新時代は……我々がリードする予定だしな」
（はぁ？……いきなり現れて支配者ヅラなんて、随分偉そうじゃない！）
ブルーメタルの怪人“ロイザー”相手に、常人には聞こえない啖呵を切るルイ。
火花を散らしながら、しかし指先とアゴで、サラに指示を出す。
具体的な意味のあるサインではなかったが、サラは理解したようだ。
ルイの背後から、瓦礫の片隅で恐怖に震えている、少女たちへと歩み寄る。
突如迫ってきた“サファイア色の少女”に、怯えて萎縮する４人組。
しかし……目の前で友人が石化されたのを見たためか、関心も示したようだ。
サラの姿はまさに……石化された友人を、真っ青に塗ったような容姿だったからだ。
不安げながらも、２人ほどは恐る恐る、サラの顔を覗き見る。
４人組の側に歩み寄ったサラは、何も言わずに――何も言えないわけだが――軽く微笑んだ。
そしてすぐさま、地面の上に、粉が散らばっている場所を見つける。
近くの商店にあった小麦粉か砂糖か、白い粉の上で、サラはそっと青い指を動かした。
粉の上に生まれた“模様”に、４人の少女たちの目が釘付けになる。
『私はサラ、味方です』
４人の少女は顔を見合わせ、１人が懐から何かを取り出した。
「あ、あの、これ……」
それは……ハンカチほどのサイズのメモ帳と、小さなペンだった。
サラが再び、今度は満面の笑みを浮かべた。
（……分かってくれたんですね、ありがとうございます！）
そして更に、今は半透明の彫像と化してしまった、“もう１人の少女”にも話しかける。
（聞こえますか？ 私はサラ、あなたの味方です……聞こえたらどうか、返事を！）
「――ふん……だったらどうだと言うんだ？ 実験体程度の貴様に、何が出来るんだ、んんっ？」
（やってやるわよ……絶対、あんたたちの好きにはさせないんだから！）
――その瞬間、ルイの体が、虹色に輝いた。
「――これは！？ 何をする気だ、小娘！」
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「――まったく、ちょこまかとネズミのように逃げおって……」
「お生憎様、ド外道と抱き合う趣味はないからね」
翔子と春海がいる場所から、１０ｍほど離れたアーケードの中央では、依然としてライカとセラフィが戦闘中であった。
指が変形した、合計１０本の鎖鎌のようなセラフィの攻撃を、交わし続けるライカ。
その長い髪の毛が変形した“触手”からも、巧みに逃れ続けている。
刹那の隙に数回、長い脚を繰り出して打撃を加えたものの、
優に１トン以上はあろうかという銀色の巨体を、蹴り倒すことは出来なかった。
「やむを得ぬか……切り札に取って置きたかったが、仕方ない」
苦虫を噛み潰したようなセラフィの顔が再び、殺気に満ちた恐ろしい笑顔を作った。
次の瞬間――パキン、と、金属板を折るような妙な音が響いた。
「貴様の喘ぎを見るのも、同じぐらい楽しみだったからなぁ――」
――その刹那。
セラフィの腕と指が、ブレたように見えた。
「――――っっ！！」
危機を察し、飛び退くようにその場を離れるライカ。
――ッキュ――――ゴッッ！！
まるで“空間を切り裂くような”音と共に、路上に刻まれる５本の平行線。
更に……その延長にあった商店の庇と看板が、シュレッダーに投入された紙屑のように裁断された。
ライカの後方で戦闘を眺めていた翔子と春海も、信じられないと言わんばかりの表情に。
（……い、今のは……いったい？）
（か……カマイタチってヤツ？……どんどん化け物になるわね、あいつ）
（ライカさん……大丈夫かなぁ）
（でも……あたしたちが行ったって、多分足手まといだと思うな）
幾ら翔子たちが今は“変身”した状態でも……所詮はただの“鉱物娘”。
金属の爪を音速のムチにするようなセラフィとは、能力の次元が余りにも違い過ぎる。
同時に、自分が最初やろうとした行為を思い出し、翔子は身震いした。
（あたし……あんなのと戦おうとしてたんだ……）
「ふん……よく気付いたな――そうさ、ホルスにも与えた力だよ」
「危ない危ない……怪我の功名って、あるものよねぇ」
「だが……何度も避けられると思うなよ？――そう、今のは……ほんの余興だと思え」
妙な“含み笑い”をするセラフィ。
ゆらり――と、血の気のない銀色の体が、また１歩……前に進み出る。
今度は――両手の影がブレた。
飛び退き、更に体を捻るライカ――だが、わずかに服が切断される。
かすかに食らったか、そのシルクのような肌に、赤い筋が。
だがその時には、既に路上には１０本の裂け目が、格子状に穿たれていた。
（きゃっ……！）
（な、何……今の感覚……！）
「――――！！」
背後に立っていた、少女たちの悲鳴――肉声ではないが――に、ライカははっとする。
にたぁ、とセラフィが再び残酷な笑みを浮かべた。
「そういうことだ、女……万一貴様が避けられても、後ろの小娘どもは無理だぞ？
幾ら体が硬質化していても、直撃を食らえば――タダでは済まぬ！」
再び、腕を振るセラフィ――１０本の鎖鎌が、残像を作り出す。
「２人とも逃げて……あたしが抑えてるうちに！！」
「愚か者が……この私が、そう易々と逃がすと思うかぁぁぁ！！」
――ガガガガガ！！
（うぁ――きゃあっっ！？）
「……春海ちゃん！？――はっ！」
ライカがほんの１瞬、春海に気を取られた隙を、セラフィは見逃さなかった。
“音速の鎖鎌”に数本、忍ばせた“髪触手”が、ライカの腕を捉える。
「はっはぁ――捕まえたぞ、女ぁぁ！！」
間髪入れず――セラフィの触手が、光を放った。
「このまま……商店街のオブジェになるがいい！！」
「冗談じゃないわ……あんたの慰み物に、なるのはごめんよっ！」
だが――次の瞬間、セラフィの鎖鎌が、ライカの肩を切り裂いた。
真っ赤な飛沫が、灰色の戦場に飛び散る。
「――っつ……！？」
「ククク……報告書は読破済みよ……あの男は石化処理を自分で解除したらしいな。
貴様が同じ力を持つ可能性も考慮済み――ならば、体力を削げば良いこと！」
「く……！！」
続けざまに数回、ライカを襲う鎖鎌……腕を、脚を、胸元を、まるでいたぶるように切り裂く。
そのたびに、着ていたジャケットが、鮮血に染まって行く。
「くぅ……うぁ……！！」
「ははは……いい顔だ、その顔が見たかった……きひゃははは！！」
（あぁ……ライカさん）
（や……やめて、もうやめてぇ！）
再び……セラフィの触手が光を放つ。
苦痛に顔を歪め、身をよじるライカを、銀色に染め上げていく。
「……や……やってくれるじゃないの」
「減らず口も今日までだ……貴様は勝利のシンボルとして、交差点の真ん中に置いてやる！」
「……や、やっぱり……あんたは……あたしの……嫌いな、タイプ――― 」
無情にも……そこで途切れるライカの声。
（……そ……そんな……）
（……い……嫌ぁ……ライカさん……）
――ごとっ、と無機質な音を響かせて、銀色の彫像と化したライカが、タイルの上に倒れた。
「くひひ……どうだ、これぞ我らの力……勝利だ……くひゃひゃははははは！！」
セラフィの狂ったような高笑いが、再び静まり返ったアーケードに響き渡った。
だが……誰も気づいていなかった。
銀色のオブジェと化して倒れたライカの指が……ぴくり、とかすかに動いたことを。
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（る、ルイさん！？……こ、これは！！）
（黙っててごめんね、サラさん……でも――あたしは、変わったの」
ルイの言葉が、途中から“音”を含んで響く。
虹色の光と共に、その容姿も微妙に変化していった。
真っ赤だった髪の毛が、銀色に変色していく。
全身に金銀の模様が次々に浮かび上がり、額にはエメラルド色の結晶が、そして目の色もサファイアのごとき輝きに変わって行く。
肩や膝には、まるで槍のように長く伸びた、金色の突起が。
そう、その姿はまさしく……赤い体を持つメタロードだった。
ブルーメタルの怪人・ロイザーも、思わず目を白黒させる。
「な……貴様……どこでその能力を！？」
「あのラボで得たわ……あたしと共に生きる道を選んでくれた、この子たちと融合してね」
ルイはそう言って、そっと胸を押さえた。
そう……破壊された第２ラボで遭遇した、４体のトルソー状の石化少女たち。
処理室に転がっていた“変異結晶”を介して彼女らと融合したルイは、彼女たちの人格を心の中に“共存させる”のと同時に、
彼女たちが有していた性質を、“変身”によって発動することのできる力を得たのだ。
金色の少女の性質を“刃”に。
銀色の少女の性質を“盾”に。
エメラルド色の少女の性質を“補助核”に。
サファイア色の少女の性質を“集束核”に。
「“あたしたち”の意見は皆同じ……絶対、あんたたちをこの街から追い出してやるから！」
「ふん……ちゃんとした調整も受けてないメタロードもどきが偉そうに……覚悟はできているんだろうな？」
「ど……どうなってるの！？」
（わ、私にも分かりません……あ、そうか、この声じゃ聞こえませんね）
サラは、少女たちから借りたメモ帳とペンを使って、自分の言葉を書き込む。
いわゆる“筆話”と呼ばれるコミュニケーション法だ。
「えっと、サラさんだっけ……あの、瞳は大丈夫なんですか？」
（えぇと……瞳さんって彼女ですよね？……はい、ショックを受けてますけど大丈夫ですよ）
少女たちが瞳と呼んでいるのは、先ほどクリスタル状に石化された、友人のことだ。
（……ご……ごめんね……みんなに……迷惑……かけて……）
（あ、瞳さん、大丈夫ですよ……私が伝えますから）
慣れた手つきで、メモ帳に文字を書き込んで行くサラ。
少女たちは興味深そうに、人間と変わらない動きをする、半透明の青い指先を見つめている。
「それで、あの……瞳はどうなるんですか？」
（えぇと……いえ、戻れますよ、きっと戻れます！）
（良かった……あたし……戻れるんですね）
まだ不安はぬぐえないものの、少し落ち着いた表情になる少女たち。
「……そ、それから、あの……サラさんは……」
（サラさんは……どうして……）
聞きたいけど、言い出し難そうな少女。
奇しくも、石化された瞳という少女も、同じことを問おうとしていた。
少し俯き加減に、寂しく笑うサラ。
（はい……実は私、戻れないんです……戻るには条件があるみたいで――）
サラは、自分が分かっている範囲のことを、少女たちに説明した。
石化被害者の復元は、数ヶ月以内でなければならないこと。
自分は１年以上が経過していたために、人間に戻れなくなっていること。
そして、長期の石化のため、記憶の大部分が欠如していること。
事情を聞いた、少女たちの表情が一様に、同情に満ちた色合いになる。
「サラさん……可愛そう」
「知らなかった……この街でそんなことが行われてたなんて」
「あいつらが、そうしたんですね……酷い」
（あたしは……まだ運が良かったんですね……）
（え、あ、そ、その……す、すいません、暗い話で……わ、私は大丈夫ですから）
“私は大丈夫”とメモ帳に書き込もうとしたサラの手を、少女の１人が握った。
他の少女も、サラに顔を近づける……サラは面食らった。
（――え！？……あ、あの？）
「元気出してくださいサラさん……あたしたちで良かったら力になりますから！」
「そうそう……そうだ、あたしサラさんの友達になりたい！」
「あ、あたしもあたしも！」
（あたしも……友達になりたいです）
それは同情が半分、好奇心が半分だったのかも知れないけど。
サラは思わず、胸が熱くなる気がした。
――翔子さんがルイさんと友達になりたいと言ったのも、こんな雰囲気だったんでしょうか……
人間の友達――自分には勿体ないことだと、サラは今まで思っていた。
恐る恐る、メモ帳に言葉を書き込む。
（わ……私なんかで……いいんですか？）
「全然いいですよ！こんな経験滅多にないし！！」
「ちょ、ちょっと英子、その言い方は良くないよ！」
「あたしたちの方こそ……良かったら……是非」
――私……生きてきて良かった。
照れ臭そうにうつむき、小さく頷くサラ。
（あ、ありがとう……本当に、嬉しいです）
――ガキィィンッ！！
その時ふと……激しい激突音と、何かが倒れ込む音が響いた。
にわかに現実に引き戻される、サラと少女たち。
サラたちが見たのは……ロイザーに弾き飛ばされ、ふらつくルイの姿だった。
（る……ルイさんっっ！？）
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白昼の商店街に突如生まれた“戦場”の１角で、２人は対峙していた。
金色のボディに銀色の爪が怪しく光るネメシス。
白銀のボディに青みがかった刃を持つホルス。
かつてネメシスはメドゥアスの鬼畜工作員・ナンバー８として君臨し、
ホルスもまたメドゥアスのクールな戦士・ナンバー９の肩書きを持っていた。
その２人が今、共に金属の戦士“メタロード”となり、相対している。
「……随分と派手になったな、ネメシス……中身は変わってないようだが」
「ふん、貴様に言われる筋合いはないなぁ、“ナンバー９”……何しにここへ来た？」
皮肉交じりの挨拶を交わす両者の腕には、鉄骨をも切り裂く爪と刃が、先ほどから臨戦態勢だ。
エミとその母親・恵子、そして背後の人々は、そんな光景を呆然と眺めている。
「――どうした、早く行け。せっかく道を切り開いてやったのだから」
ホルスのそんな言葉に、はっと我に返った人々が、我先にと戦線を離脱していく。
だがエミはなお……怪訝な表情で２人を見つめたままだ。
「……え、恵美？……どうしたの？」
「……お前も行くんだ。ここに留まる理由はないはずだろ？」
（……あなた、確かあのラボにいた……どうして助けてくれたんですか？）
「勘違いするな……俺はただ、この“鬼畜組”と決着をつけたかっただけだ」
「……言うじゃねぇか、てめぇ……俺の楽しみをフイにしやがって」
（……分かりました。と、取り合えず……有り難うございます）
エミはそう“言って”軽く会釈し、母親の方に向き直った。
そして――やや遠慮がちに、手を差し出す……エミとしては、ギリギリの勇気である。
自分からは決して会いに行けなかった、大切な人……大好きな母親の目の前で、
精一杯搾り出した想いを、気力に、そして握力に変えて。
そして恵子もまた、愛する娘の“変わり果てた”手を、遠慮がちに握った。
その表情が１瞬翳る……握った手から伝わってくる、冷たい鉱物の感触のために。
しかし彼女は、間もなく意を決したように、その手を再び強く握り締めた。
母親の“握力”を感じたエミは、１瞬驚いたようにその顔を見上げる。
「……行こう、恵美」
どちらともなく――戸惑い気味の笑顔がこぼれた。
２年ほど前には、それはごく当たり前だったはずの、親子の笑顔。
そして、そのまま戦場の外……寄り沿いながら、お互いを庇いながら、小走りで。
２人が切り開かれた未来の向こうに去ったことを確認したホルスは、ネメシスに集中した。
「さて……まずはお前と、決着をつけるとするか」
「……相変わらずの物言いだな、ホルス……吠え面かかねぇように気をつけな」
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「…………どうなっている？」
（……こ……これは……！？）
１方、アーケードでは……予想もしていなかった事態が起きていた。
翔子たちはおろか、セラフィまでもが、その事態に目を白黒させている。
今さっき――銀色のモニュメントに変えられたはずのライカ。
そのライカが、体を軽くきしませながら、ゆっくりと起き上がったからだ。
「何故だ……貴様は今、私が確かにオブジェに変えたはず……！！」
（……さて、ね……どうして、だと……思う？）
やや途切れがちながらも、セラフィの問いにテレパシー波で“応答”するライカ。
さすがに……セラフィらのように肉声までは、出せないようだ。
動き始めた時こそぎこちなかったものの……ライカは見る見るうちに、その違和感を修正していく。
活性化された石化被害者の“リハビリ”を、何百倍も圧縮させたような速度で。
（あたしも予想外だよ……まさかこういう事態になるなんてね）
苦笑する素振りを見せるライカ……既に、その動きに先ほどのぎこちなさはない。
（あんたが外道趣味に走らなかったら、こんな経験をすることもなかったんだけど……）
（ら、ライカさん……だ、大丈夫なんですか！？）
（まぁ、何とかね……コイツが余計なことしたおかげで、すぐには戻れそうにないけど）
切り裂かれた服も、真っ赤に染まっていた傷口も、今はプラチナのような輝きを放っている。
再びこみ上げる憎悪で、わなわなと震えるセラフィ。
「おのれ……ことごとく、私の期待を裏切りおって……！」
（さぁ……続けましょ？――言っとくけど、さっきみたいには切れないからね♪）
セラフィを挑発するが如く、ライカは“変身”した自分の胸を、コンコン、と小突いて見せた。
「上等だ……ならば、全力でやってやる……そうとも、粉々に砕いてくれる！！」
あふれる憎悪に任せ、アーケードいっぱいに響き渡る“咆哮”を上げるセラフィ。
三度その腕が残像にぶれ、音速の鎖鎌が衝撃波と共に繰り出される。
そんなセラフィの猛攻に、ライカは何と――真正面から突っ込んだ。
１０本の鎖鎌のうちの数本が、その体を斜めにかすめる……だが、甲高い音を響かせた程度。
確かに……彼女のボディは、それまでとは比較にならない強度を保持していた。
「無謀なマネを……良かろう、それならば輪切りにしてくれるまで！！」
セラフィはそう言い放つと、“髪触手”の数本を刃状に変形させ、正面から叩き付ける……だが、
ライカはまさにそれを待っていたかのように、身を翻した――瞬間、セラフィの視界から彼女が消える。
破壊者が標的を見失って、身構えようとした――刹那。
――ゴウッッ！！
「――っぎぃっっ……！！」
猛烈な衝撃が、セラフィの頭部を真横に突き抜けた――ライカの飛び回し蹴りだ。
メタロイド変異を最大限に利用したその１撃は、まるでロケット弾のような破壊力を秘めていた。
金属同士の激突は火花を散らせ、セラフィの上半身を大きく揺るがした。
「こっ……この女……！！」
（今度は……ちょっとぐらい手ごたえあったんじゃなくって？）
本来の数倍の比重になっていることをまるで感じさせないように、軽やかな着地を決める銀色の女戦士。
“変身”させられてからまだ５分も経っていないのに、既にその体を使いこなしている。
「ぬぎぃぃっ……なら――これはどうだっっ！！」
セラフィのボディに埋め込まれた半透明の結晶が、光を放った。
そしてパリパリと、まるで放電するようにその光が腕に向かって伝播していく。
間もなく――その右手から、まばゆい白色の稲妻が解き放たれた。
しかもその“白銀の雷電”を……ライカはほとんど無防備な体制で食らってしまう。
（――ライカさんっ！？）
「くははっ、どうだ……この体が放つ電流はホルスの比ではないぞ…… ！？」
だが……ライカは不敵な笑みを浮かべて立っていた。
セラフィから受けた電撃が、全身でスパークし続けてもなお、まるで効いていないかのように。
「女……瘦せ我慢は私には通じぬぞ！」
（――瘦せ我慢？ ふふっ、何にも分かってないのね♪）
ゆっくりと、白銀に光る腕を上げるライカ――その腕に、吸い寄せられるように光が集束する。
「な……何だと！？」
（忘れたの？ 今のあたしの体が、誰に変えられたのか…… ――そう、あんたよっっ！！）
そして――その指先から、“セラフィと同じ電撃”が、まるでお返しとばかりに解き放たれた。
思わず左腕を突き出して、防御態勢をとるセラフィ。
「くぉ……ちぃぃぃっっ！！」
（あんたが出来そうなことはねぇ……今ならあたしにだって出来るのよ！！）
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（――こ、ここは！？）
エミと恵子が手をつないで歩くこと数分――にわかに視界が開けた。
そこはちょうど……表通りに面した商店街の１角であった。
ただし……左右を崩れた瓦礫に塞がれた、陸の孤島と化していたが。
通りの中央……ひしゃげた車の奥で、２つの人影が対峙している。
そのうち１人は、エミがよく知っている人物だった。
（パドルさん……みんなを助けに来てくれたんだ――あ、眞希さん！）
歩道の隅で寄り添う、被害者たちの１角に、眞希の姿を確認するエミ。
向こうも、エミの姿を確認したようだ。
しかしエミのことを知らない被害者たちは、新たな人外の存在に委縮する。
「うわっ……！？」
「エミちゃん……あ、違うんです、その子はあたしの友達で……！」
「ち、違うんです、この子は私の娘で……――え！？」
声が被り、眞希と恵子は思わずお互いの顔を見合わせた。
「あなた……娘を……恵美を知ってるの？」
「え……エミちゃんのお母さん！？」
（……う、うん）
俯き加減で、エミは照れ臭そうに、小さくこくんと頷いた。
「――馬鹿な、何故僕の……このアリエルの攻撃が通用しない！？」
路上の中央で、緑メッキの怪人”アリエル”は、思わず声を荒げた。
腕のサイバーナイフを起動させ、“メドゥアス最大の敵”に攻撃を仕掛けたアリエルであったが、
パドルはその全ての攻撃を、いとも簡単に交わした。
１部の大破した乗用車が、その余波を受けて切断されたが、パドルは無傷だった。
「おい……まさか、それで本気とか……言うんじゃねぇよな？」
修羅のような形相を崩さずに、パドルが言い放つ。
アリエルは思わず、ギリギリと歯軋りをした。
「何故だ、何故なんだ！？……あのアイガーですら、貴様に傷を負わせられたというのに！！」
「馬鹿かお前は……なんにも分かってねぇらしいな」
「な……何を言うか！！」
「アイツは洗練された格闘能力を持っていた……お前は単に大振りしているだけじゃねぇか。
それで“人間を超えた”つもりになっているのか？」
ふっ、と１瞬、嘲笑うような素振りを見せるパドル。
「アイツをただの筋肉馬鹿と思ってるんなら……お前は絶対、俺に勝てない……いや、アイツにも、だ」
「う……五月蠅い黙れ！！ 僕はナンバー１２だ……アイツよりも……アイガーよりも上のはずなんだ！」
「肩書きで強さが決まると本気で思ってたのか？……ほんっと哀れな奴だな」
「きっ……貴様っ……！！」
激しい憎悪で、緑メッキのボディがわなわなと震える。
“裏社会のキャリア”として名を馳せ、メドゥアス屈指のエリート工作員として暗躍した人間時代。
人を食ったような言い回しをするこの男は、人１倍プライドの高い男であった。
彼にとって、ナンバー１３“アイガー”など、脊髄反射で突撃するカミカゼ要員でしかなかった。
勝負などするまでもなく、意味などないと考えてさえいた。
その価値観が、今――“金髪の不動明王”によって、破壊されようとしている。
アリエルにとって、自分が“アイガー以下”など、天地がひっくり返っても認められないことだったのだ。
――どうすれば……どうすれば、この忌々しい男を切り裂ける？
……その時だった。
アリエルの視界の端に、新たな人影が写った。
いや、それは人ではなかった……しかし、アリエルが良く知る存在。
今までずっと、見下し続けてきた組織の駒……あのラボ爆破で行方不明になっていた男。
てっきり、そのまま死んだものと思っていたが。
――あいつ生きてやがったか……そうだ、ちょうどいい、あいつを利用してやろう。
「……ふ、ふふふふ……だが……だがどうやら、天は僕に味方してくれたようだ」
「…………何が言いたい？」
「貴様はこれまでだ……２人のメタロードを相手には出来まい」
パドルの背後に立っていたのは――――アイガーだった。
道路を塞いだ瓦礫の上で、先ほどのパドルと同じように、仁王立ちの姿で。
ステンレスに似たメタリックな体と金色の模様が、陽光を受けてキラキラと輝いている。
再び――いや三度か――群衆の中から、小さな悲鳴が上がった。
だが……パドルは全く動じない。
まるで……それも全部、想定内だといわんばかりに。
その姿が、アリエルを益々苛立たせた。
「ちょうどいいところに帰ってきたな、アイガー ……お前の宿敵が今、ここにいるぞ！！」
「……それがどうした？」
「――――何！？」
アリエルは声を最大音量にして煽った――だが、その反応は全く予想していないものだった。
「何を言ってる！？復讐相手が目の前にいるのだぞ、今なら僕と共に、こいつを八つ裂きにできる！」
「……やなこった」
「…………んなっっ！！？」
「誰がてめぇの尻拭いなどするモンかよ……俺の本懐はそんなに安かないぜ」
「……貴様……自分が言ってることが分かってるのか！？ コイツは、組織の最大の敵だぞ！」
「あぁ……そのことだがよ」
「…………！？？」
「俺はもう……組織には戻らない――いや俺だけじゃねぇ、ホルスもな」
緑色の怪人は、愕然としたかのように硬直した。
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| （第６章第５話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008～2009年頃に草稿を作成したエピソード。
メドゥアスのテロという非日常をきっかけとして、被災した市民と鉱物娘が触れ合う展開になっている。
とりわけ共感能力の高いサラは、このエピソードで大活躍している。
鉱物娘たちに戦闘能力はない――新しい能力を得たルイは除く――が、その経験値を活かす機会はあるのだ。
つまりこういう“元人間の人外交流ネタ”が、G-maという人間は大好物なのである（爆）
１方メタロード実験体であるアイガーとホルスが、このエピソードで本格的に組織を裏切る。
翔子たちと最初に絡んだ際はなかった設定であるが、何度も登場させるうちに愛着が沸いたのだ（爆）
この駅前テロ編でメドゥアスが崩壊するわけではないので、今後彼らの妨害や圧力はますます激化するため、
パドルとライカでは“対抗戦力”が足りなくなる可能性があったのも１因である。 |
