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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CSGM-UGIA1） |
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ローレンシア重力子研究所。
2001年に北米カナダに開設された、最先端空間物理学の殿堂である。
直径30kmに及ぶ素粒子加速リングの周囲に様々な施設が並び、
中でも重力制御技術実証棟“ＧＳＴＬ”は規模が大きく、
実証試験に用いる高機動実験機“ディスカヴァリー”の整備センターを兼ねるため、
あたかも軍事基地を思わせる威容を持っている。
この重力制御実証試験機ディスカヴァリーは、
1999年に試作された空間移動試験機“アドヴェンチャー”の後継機に当たり、
理論上想定される“異次元世界”の探索も、理屈の上では可能になっている。
かつてアドヴェンチャーがそうであったように、
ディスカヴァリーもまた、異次元空間におけるトラブルに対処できるようにするため、
自立防衛システムを組み込んでおり、その戦闘力は限定的であるが、
１種の機動兵器とも呼ぶべき機能を持っている。
開発者の名は、高山我夢。
IQ200を超える若き天才物理学者であり、
かつて地球を襲った、終末を演出する恐るべき知的生命体から世界を守るため、
地球の総合的知性体から、守護巨神の力“ガイア”を与えられた、その人物である。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 序章 第１部 ★
ウルトラマンガイア外伝――新たなる危機の予兆
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2000年代半ば、ＧＳＴＬ３階にあるセンターオフィス。
ひょうたんのような形をした有機的デザインのテーブルの真ん中に観葉植物が植わり、
暖色系のインテリアでまとめられた落ち着いたオフィスは、
あたかもシリコンバレーのベンチャー企業を思わせるゆとりを漂わせているが、
この部屋こそＧＳＴＬの中央制御室とも言うべき、電子の要塞なのだ。
大きな２重ミラーガラスで覆われた窓の向こうには、カナダ楯状地の雄大なタイガの大森林が広がる。
冬場にはバナナで釘が打てるほどまでに冷え込む酷寒の地であるが、
地熱を効果的に活かしたエコロジーな設計がなされたこの部屋は、いつでも快適に仕事が出来る。
「お疲れさま我夢、今コーヒーを入れるわね」
ずっと整備室にこもっていたのか、煤けた顔でオフィスに入ってきた我夢を、若い女性が出迎える。
20代半ばの茶髪、イヌイット系の混血だろうか、アジアと白人の両方の特徴を持つ。
彼女――キャサリン・ライアンもまた、優れた頭脳を持つＧＳＴＬの研究員であり、
我夢が地球防衛の使命を授かっていた頃から、ずっと彼をフォローし続けていた盟友の１人だ。
「顔がホコリまみれだぞ我夢、顔を洗ってさっぱりしてきたらどうだ？」
やはり茶髪の青年が、オフィスの奥から立ち上がり、我夢に声をかけた。
ダニエル・マクフィー、彼もまた我夢の同僚であり、ＧＳＴＬの管理を任される若き主任である。
「……そんなに汚れてるのか、整備室はそんなに汚れていなかったんだけどな」
「自分で鏡を見ればいい、理論を組み立てる間もなく証明できるさ」
我夢は苦笑しながら、疲れた足取りで洗面所に向かう。
そんな親友をダニエルもまた、半ば苦笑しながら眺めている。
彼は昔からそうだった……研究に没頭すると寝食を忘れるほど集中するのだ。
タオルで顔を拭きながら我夢がテーブルに戻ってくると、すでにコーヒーカップが香り高い湯気を上げていた。
「そう言えば、アメリカがまた火星探査機を打ち上げるとか言っていたな」
「相変わらず景気のいい話さ。国内の不満も多いから新たな国威発揚の機会が欲しいんだろう」
「国威発揚、か……まぁそれを言えばどこの国も同じか」
「空間物理と素粒子の研究はうちの独壇場みたいなものだからな、連中はここをライバルだと思ってる。
世界最強の超大国に対抗意識を持たれてるわけだ、光栄じゃないか」
そう言うダニエルの口調には、多分に皮肉が込められている。
かの超大国は、莫大な予算にモノを言わせて、成果を先取りしたがっているからだ。
巨大な加速器施設を擁するとは言え、ローレンシア研究所が使える研究予算は、その１割にも満たない。
ダニエルは常々、そういう批判を口にしてきた……思い返した我夢は思わず苦笑する。
「――で、“発見者”の調子はどうだ？」
「ディスカヴァリーのことか？……まぁまぁかな、スケジュールには間に合わせるよ」
「無理をさせる気はないんだ、済まない」
「気にするなって、自分だって好きでこの仕事をやってるんだから」
「この実験が成功するかどうかで、来期の予算が決まる大事な節目だものね。でも――」
途中から会話に入ってきたキャサリンが、そこまで言いかけてぷぅ、と頬を膨らませた。
「男の人ってほんと、好きなこと以外には関心を持たないのね。コーヒー豆の香りとかも全然。
気付かなかったの？ いつもと豆が違うのよ、うちじゃ年に１度しか飲めないような豆なのに」
そう言いながらちらりとキャサリンが見せたコーヒー豆の袋のラベルには、有名な高級豆のブランド名。
セレブな生活をしている人たち以外は、まず手が届かないような代物である。
ローレンシア研究所も例外ではない……研究予算は比較的大きいが、それは経費予算を切り詰めてこそなのだ。
“質の違う皮肉”を差し込まれた我夢とダニエルは、思わず赤面して沈黙した。
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オフィスで３０分ほど談笑した我夢は、再びディスカヴァリーの整備室へと戻っていた。
航空機のハンガーを思わせる広い建物の中央――台座の上に、カプセル型の機械が乗っかっている。
かつて地球防衛組織“ＸＩＧ”で研究していたアドヴェンチャーとは違う、明るい空色の機体。
「新たに発見した世界の空もきっと青いことを願って」我夢はディスカヴァリーのカラーをこの色に決めた。
空間移動実験のテストは明後日だ……明日の夜までには整備を終わらせる必要がある。
パンパン、と顔を叩いて、整備に戻ろうとした我夢だった――が。
ふと背後に人の気配がして、我夢は振り返った。
わずかに西に傾きかけた日光が降り注ぐ、整備室の入口に、黒っぽいシャツを着た男が立っている。
「――久し振りだな、高山我夢」
「……藤、宮……なのか？」
浅黒く日に焼けたアジア系の男を視界に捉えるや、我夢は思わず――そう呟いていた。
藤宮博也は放浪の青年であり、我夢とは元々、深い縁のないはずの男だった。
だが数年前――1999年に地球を襲った危機以来、２人は特別な絆を持つ同志となった。
ガイアと同じく、地球の意思に選ばれた守護巨神“アグル”――藤宮はその媒体に選ばれた男なのである。
「オフィスに問い合わせたら――ここだと聞いてな」
「久し振りだな……というか、よく入れたな、ここは関係者以外立入禁止のはずだけど」
「あの女――キャサリンだったか、俺の顔を覚えていてな、快く通してくれたよ」
コツコツ、と、藤宮の履いている革靴が、整備室の硬い床に響く。
「そうか……あーでも、悪い……今、忙しいんだよ。明後日、大事な実験があって――」
「それも彼女に聞いた。だが無理を言って通してもらった」
「無理って……いったいどうしたんだ？」
「我夢――お前も、見たんじゃないのか？ “あの夢”を――」
瞬間――空気が止まったような感覚を、我夢は覚えた。
藤宮が言っていることが何なのか、我夢にも理解できたからだ。
それは彼がここ数日、連夜のように見ていた不思議な“夢”。
数年前のあの時のように――危機に陥った地球に、守護巨神ガイアとなって、我夢は立ち向かっていた。
その時相手にしていた“危機”の正体が何なのか、夢の所為かはっきりとは思い出せない。
そのため、過去の記憶がフラッシュバックしたものだろうと、簡単に済ませていた。
だが、その夢は――厳密には“記憶の再編”だけでは、説明が難しいものであった。
たくさんの似たような姿の巨人たちが、ガイアと共に“危機”に立ち向かっていたのである。
そこには、今まで見たことがないような姿の巨人がたくさんいた。
記憶が再構成されただけなら、何故今まで見たことのない巨人が夢に出てくるというのだろう。
しかもその時――我夢は繰り返し、意味深な言葉を聞いていた。
『いずれ我々は再び出会うことになる――この闇を克服するために』
夢は脈絡がないものだ……同じメッセージを何度も繰り返し聞くなんて、普通はない。
我夢の優れた頭脳は、その夢が「普通の夢ではない」ことを告げていた。
だが普通の夢でないというなら何だというのか……経験のない我夢に、答えが出せるはずもない。
ここ数日、取り憑かれたようにディスカヴァリーの整備に没頭していたのも、
今思い返せば、そんな不可解な夢の謎を振り切って、現実に集中したかったためかも知れない。
黙り込んでしまった我夢を見て、藤宮は再び口を開いた。
「やっぱり、見たんだな、あの夢を……たくさんの謎の巨人が出てくる、あの夢を！」
我夢は溜息を持って、返答することしか出来なかった。
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ところ変わって、こちらはＧＳＴＬのセンターオフィス。
不安げな表情で、徐々に夕方に近づいていくタイガの森を眺めているのはキャサリンだ。
先ほど施設を訪れた藤宮と名乗る男――確か数年前に、我夢と行動を共にしていた男である。
彼女の記憶が正しければ、藤宮は我夢と共に、“地球の守護巨神”として、選ばれた人間のはずだった。
根源的破滅招来体を名乗る謎のエイリアン組織の地球侵略が、
ガイア、アグルと呼ばれた２人の守護巨神――“ウルトラマン”たちの手で阻まれてからすでに数年。
破滅招来体の使徒となる怪獣達の攻撃によって、荒廃した世界各地の街は復興の途につき、
人類は２１世紀を希望に満ちた時代として、受け入れる権利を得たはずではなかったか。
あの時――聖書の終末を話題に出して、パニックになる人々がいた。
破滅こそ運命だと主張する、虚無主義的な宗教団体も現れた。
しかし、その時代は過ぎ去ったはず――２１世紀は今、着実に時を重ねている。
切迫した表情で「我夢に大事な話がある」と語る藤宮の表情が、網膜に焼き付いて離れない。
少しずつ夕方の赤みを帯び始めた空が、まるで燃えているかのように錯覚するほど、彼女の不安は募っていた。
そんな彼女の肩を、誰かがぽむ、と叩いた。
振り返ったキャサリンの視界に、ダニエルの甘いマスクが入る。
「さっきの男が気になるんだな？」
「ごめんなさい、ダニエル……昔を思い出して、ダメね私、まるで老婆みたい」
「確か藤宮と言ったな……我夢の同志――いや、“光の巨人アグル”と言うべきか」
ぼそり、とつぶやいたダニエルに、キャサリンは驚いて目を見開いた。
「――知ってるの！？」
「伊達にＸＩＧと協力体制を組んでいたわけじゃない。同志の同志なら、情報も入るさ。
まぁ――正規ルートの情報じゃなかったからな、今まで公にはしなかっただけさ」
「酷い人ね、私だってＸＩＧの１員だったのに、隠してたの？」
「隠す気はなかったんだ、済まない。何しろ今まで、話題に上げる必要もなかったから」
そう言って、ダニエルは彼女の抗議の視線を逸らすように、目を外に向けた。
「今どうして、彼が我夢に会いに来たのか……しかも大事な話って何だ？」
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再び、ディスカヴァリーの整備室にて。
突然現れた旧友――藤宮の言葉に、我夢は渋い顔をして立ち尽くしていた。
藤宮が告げた“謎の夢”――それは確かに、我夢も見ていたものだった――だが、所詮夢ではないのか。
「藤宮、自分は物理学者だ……理屈の伴わない夢に振り回されるべきじゃない」
「だが、俺もお前も地球に選ばれた……その２人が同じ夢を見ている、これを無視できるか？」
「藤宮、誇大妄想ってことだってあり得るんだ……２人が同じような夢を見ていると言ったって、
それは結局、あの時よく似た経験をしたからだって説明することだって――」
「そんなことを聞いてるんじゃない――お前には聞こえなくなったのか、“地球の声”が！」
藤宮に一喝されて、我夢ははっ――と目を見開いた。
「地球の、声……？」
「俺には聞こえたぞ……滅びに瀕した世界がある、俺たちの同志が住む世界だ、とな」
言われて見れば――そんな言葉も夢のどこかで聞いたような気がする。
地球の声と言うべきなのかどうかは分からない……感覚的なものだ、彼の頭脳でも答えは出せない。
そしてその言葉は、こんなことも言っていた。
『世界は１つではない』
我夢は思わず、脳内に再現されたその“言葉”を、反復していた。
「世界は１つではない……幾つもの世界が重なり合って、地球は初めて存在することが出来る」
「隣り合う世界の破滅は互いに波及し合い、地球の終末の時を早めてしまう――そうだ、その通りだ」
我夢は深い深い、溜息を吐いた。
いったい何が起きているのか、皆目見当がつかない――しかし、その“声”は言うのだ。
隣り合う別の世界が滅びに瀕しており、地球の守護を任されし者として、その危機を救う義務があると。
だが――我夢や藤宮が“選ばれし者”だったといっても、それは数年前の話。
あの時可能だった“巨人になる力”も、今となっては失われている気がしてならない。
変身のきっかけとなる光を生み出すことができたブレスレット(エスプレンダー)も、どこかに行ってしまった。
まるで――果たすべき役目を終えたかのように。
「…………藤宮……自分はどうすればいい？」
「どうすればいいって、お前らしくもないな。第一、その後ろにある機械は何だ？」
「え…………？」
藤宮に指摘されて振り向いた我夢の視界には、整備中のディスカヴァリーが静かに佇んでいる。
確かにディスカヴァリーは空間移動マシーンの実験機だ。
実際我夢自身、この前身に当たるアドヴェンチャーで時空の壁を超えた経験がある。
しかしディスカヴァリーもアドヴェンチャーも、機密のベールに覆われた非公式の試作機のはず。
守護巨神の使命を帯びた同志とは言え、藤宮はＸＩＧとは無関係の人物……機密を知っているはずがない。
「いや、これは、その……」
「おおかた、お前が研究していたという空間物理とやらの実験機なんだろ？
この研究所は有名だからな、高山我夢も今や公人だ、研究内容くらいネットを見れば分かる」
我夢は呆気に取られた……どうやら藤宮は、ネットで得た情報から推測して指摘したらしい。
そう言えば、あるがままに生きる藤宮は、時々我夢が驚くほどの勘の鋭さを発揮することがある。
この感性の鋭さが、もしかしたら地球の意思に選ばれた理由なのかも知れない。
「参ったな……だが、こいつは試作機だ、満足に動く保証はない。第一まだ機動実験もしてない」
「今から試してみれば良いんじゃないのか？」
「今からか？……大事な実験が明後日に控えてるというのに」
「おいおい、世界の危機かも知れないんだぞ、分かってるのか？ そんな悠長なこと言ってる場合か。
そんなスケジュールなんか――」
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「――そんなスケジュールなんか、無視すれば良いさ」
藤宮の口がそう言う前に、背後から同じセリフが聞こえた。
ぐっと言葉を飲み込んだ藤宮と我夢が振り向くと、整備室の入口にダニエルとキャサリンが立っていた。
「ダニエル……」
「済まない、盗み聞きするつもりはなかったんだが、聞こえてしまってね」
「……確か、ここの主任さんだったか？」
「ようこそローレンシア研究所へ。ダニエル・マクフィーだ、以後宜しく♪」
「我夢……世界の危機かも知れないって、どういうこと？破滅招来体は撃退したはずじゃ……」
ふぅ、と我夢は深呼吸をして、これまでの顛末を打ち明けた。
どこまでかは分からないが１部を聞かれてしまったわけだし、ダニエルとキャサリンは我夢が最も信頼する同志。
黙っていても仕方のないことだと判断したのである。
「大勢の巨人が登場する夢、ねぇ……」
「我夢が前に１度、別世界に行ったことがあるって聞いたけど」
「あぁ。けど夢に出てきた巨人とは違っていた」
キャサリンが言った通り、我夢は以前に１度、世界を越えたことがある。
謎の意思を持つ“赤い玉”に“召喚”され、その世界の危機を救う片棒を担ぐことになったのだ。
その時使ったのが、ＸＩＧ時代に試作した空間移動マシーン、アドヴェンチャーである。
今思えば――よく失敗もせず“その世界”に到達できたものだが。
あの“声”が示唆するように、「世界は１つではない」のなら、失敗するリスクもあったはずなのに。
“地球の意思”が、導いたとでも言うのだろうか。
「俺は行くべきだと思うがな」
「このディスカヴァリーでか？ 成功する保証もないのに。第一、実験の方はどうするんだ？」
「さっきも言ったがそっちは気にするな。実験が出来ないとなれば上の連中は困るだろうし、
来期の予算も危ういが、世界の危機と秤にかけるわけにも行かないだろう」
「済まない、ダニエル」
「お前の使命は分かってるつもりだ。変身はできないかも知れないが、行く価値はあるだろう。
お前だって案外、またこういうことがあるかもと思って、ディスカヴァリーを設計したんじゃないのか？」
我夢は苦笑いした……図星というほどではないが、そういう希望も心のどこかにあったらしい。
「それにもう１つ問題がある。――実はこれ、１人乗りなんだよ」
「……それにしちゃでかいな？」
「そうかな？ 戦闘機だってこのぐらいだと思うが」
ディスカヴァリーはタテヨコ１５ｍほどのカプセル状だ……高さは６〜７ｍといったところだろうか。
“移動先”での調査活動を円滑にするため、手足が格納されており、重力制御で飛行も出来る。
「そういうわけで、本当に行くとしても、藤宮は連れて行けない」
「問題ってそういうことか……俺なら気を遣わなくていい、“その時”が来れば地球に呼ばれるだろうよ」
「地球に呼ばれる、か……」
「だからお前が先に行って、地球の声が何を意味してるのかを確認してくれ」
藤宮の目には迷いがない。
人類の未来に悲観して、我夢＝ガイアとの共闘を渋っていたあの頃とは別人のようだ。
“地球に選ばれた者”として、その使命を今も信じているのだろう。
「さしずめ偵察係ってことだな……これは責任重大だぞ、我夢」
「本当に済まない……明後日の実験は本当に楽しみだったんだが、こんなことになるとは」
「主任が気にするなって言ったのよ、元ＸＩＧの戦士なんだからもっと堂々としなさいって♪」
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翌日の早朝から、ディスカヴァリーの整備室は騒がしくなった。
普段は我夢１人か、２〜３人の助手が細々と整備しているこの“格納庫”に、
１０人近い作業員が新たに動員され、最終整備が一気に加速したからだ。
ディスカヴァリーのハッチから伸びるコードにつながれているラップトップのディスプレイに、
主動力機関である多軸式リパルサードライブの出力状態を示す、３次元グラフが表示されている。
その正面に立って、じっとディスプレイを凝視しているのは我夢だ。
藤宮がここを訪れた昨夕以降、ダニエルから休養を取るように言われたはずの我夢の目は赤い。
言われたとおり個室に戻ってベッドに入ったが、寝られたものではなかったようだ。
「その様子だと寝ていないな？」
ピリピリした緊迫感を漂わせる我夢に、ダニエルが歩み寄ってくる。
その背後には昨夕のように、藤宮とキャサリンも立っている。
「悪い……ベッドには入ったんだけどな……」
「寝られる状態じゃなかった、ということか」
「そりゃあ、誰かさんにあんな発破をかけられたんじゃ、寝られないのも仕方ないわよ」
「……おい、俺の所為だっていうのか？」
複雑な表情をしつつも言い寄る藤宮に、キャサリンもまた複雑な表情で睨むような仕草をする。
「使命のためなのは分かってるわ……けれど我夢だって人間よ。
物理学者である以前に人間としての日常があって、愛する家族もいれば、重責に悩むこともあるの」
「……そう、だな……俺も少し、配慮が足りなかったかも知れない」
「よしてくれ、自分が選んだ道だ、後悔してないし、誰も恨んじゃいない」
気まずい空気が漂う背後をたしなめたのは、意外にも当の我夢自身だった。
「我夢……選んだのは地球じゃないの？」
「確かに自分は地球に選ばれた。でも自分自身でそれを受け入れたから、今があるんだ。
今だって、自分にしか出来ないと思ってるから、この方法を選んだ。
藤宮に煽られたんじゃない、むしろ自分が何をすべきなのか、藤宮は気付かせてくれたんだよ」
「我夢……」
「地球が何故、お前を選んだのか……分かる気がするよ」
ダニエルの言葉に、我夢は笑顔を持って返す。
その目にはもはや、いささかの迷いも残っていなかった。
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そして――その時が来た。
奇しくもちょうど昨日――藤宮がここを訪れたのと同じ時間帯。
太陽が西へと傾きかけ、ＧＳＴＬのビル群が東側に自分自身の大きな影を作り出しつつある。
対Ｇスーツを着て、ヘルメットを手にした我夢が、タラップからディスカヴァリーに乗り込むと同時に、
ディスカヴァリーのリパルサードライブが、初動段階の特徴的な音を響かせ始めた。
「リパルサードライブ起動しました、出力安定しています」
「システム正常、これよりゲートドライブ起動に入る。作業員はロックを外し、安全圏まで退避」
ガチャリと重い音が響き、ディスカヴァリーを固定していたロックが外された。
まるで気球のように――空色の機体がふわり、と空中に浮き上がる。
機体の安定を見計らった作業員達が、ダニエルたちと共に整備室の１番奥まで退避する。
３０ｍ四方はあろうかという広い整備室に、ディスカヴァリーだけが浮遊している。
「気をつけて、我夢……」
「頼んだぞ……！」
その声が聞こえたのか聞こえないのか、ヘルメットを被った我夢が、コクピットの中で親指を立てた。
その上からするするとハッチが降りてきて、我夢を覆い隠すようにコクピットを密閉する。
出動形態になったディスカヴァリーには窓がない……元々有視界操縦を想定していないからだ。
間もなくディスカヴァリーから響く音の質が変わった。
風が吹くような軽い音から、モーターが高速回転するような勢いある音に変わり、
出力上昇に呼応するようにぐんぐんそのボルテージを上げていく。
そして――その音に触発されるように、ディスカヴァリーの周囲に火花が飛び始めた。
“空間移動マシーン”ディスカヴァリーの主装備、ゲートドライブが起動した瞬間であった。
単独で空間の扉を開いたアドヴェンチャーとは異なり、
ディスカヴァリーはローレンシア研究所の巨大な粒子加速器から抽出される、
空間移動に関係する様々な素粒子のフォローによって、ゲートドライブに火を入れるのだ。
その結果始動に時間がかかるが、アドヴェンチャーよりシステムをコンパクトに出来る。
ディスカヴァリーの周囲でスパークしていた未知のエネルギーは、
やがてディスカヴァリーを覆うように集束し始める……光の繭に包み込むように。
退避していた作業員達が、サングラスのようなゴーグルをかける……強烈な光から目を守るためだ。
稲妻のような青白い光の中に、奇妙な緑色のフラッシュが煌いたその瞬間。
轟音と共に整備室を青白い光が駆け巡り、その中心で緑色の光がビームのように水平放射された。
「――きゃぁあっ！？」
壮絶な光景に、キャサリンは思わず悲鳴を上げる。
光が収まっていく……影を焼き付けるような閃光は消え、轟音の反響音だけが整備室に残った。
そしてその中央にいたはずの、ディスカヴァリーの姿ももはやない。
「どうなったんだ……？」
不安に駆られ、ダニエルは作業員に結果を聞く。
「空間移動ゲートの開放を確認しました、成功です！」
歓声が上がる……だが、ダニエルとキャサリンの顔は複雑だ。
「ディスカヴァリーは……いや、我夢はいったいどこに！？」
「そこまでは自分も……空間を越えた後の航跡まではここの機器では追尾できませんので……」
「分からないのか……そうか、そうだな……分かった、ご苦労だった」
作業員の肩を叩いてねぎらうダニエル……しかし表情は晴れない。
親友・我夢は空間の向こうに消えた……今は激励の声もねぎらいの思いも届かない。
「大丈夫……我夢はきっと無事だ。あいつも俺も、地球に選ばれたのだから」
「そうだな……ここは地球を信じなくては」
高山我夢の新たなミッションが、今始まった。
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| （エピソードゼロ２話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2012年頃に作成したエピソードを再編したもの。
元々は旧ＯＷ企画で検討中だったもので、平成ウルトラマン３部作の１つである、
ウルトラマンガイアをクロスオーバーさせる意図で作っていた。
敵役に当たる根源的破滅招来体の登場は固まっていなかった（案自体はあった）のだが、
本家でも時々単独でクロスオーバーしているのであり得るだろうと考えたものだ。
（ティガやダイナも案はあったが、確定していない……こちらは第２部で出すかも知れない）
物語は本家本編終了後、若き物理学者となった時代を想定して作っている。
（本家本編時点では、我夢もダニエルも天才児ではあるがまだ年齢的には学生だった）
本家本編から数年後という想定なので、我夢は20代半ばのイメージであり、
本家の劇場版クロスオーバーに登場した時空移動メカ・アドベンチャーの後継機を想定した、
ディスカヴァリーを研究中に新たなクロスオーバーの機会を得る展開になっている。
ただし直接的には次元融合世界に飛ばさず、寄り道させる予定なのだが（汗） |
