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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CSGM-AVNG1） |
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白１色の部屋で、ふと――１人の男が目を覚ました。
多少の意識混濁があるようで、ぼんやりと周囲の風景を眺めている。
病室のようだが、かなりハイテクな仕様になっており、視界に捉える周囲には誰もいない――だが。
『トニー、お目覚めですか？』
電子的な残響を伴う、女性的な声がどこかから聞こえてきた。
トニーと呼ばれた男はふっ――と目を閉じ、数秒の沈黙の後、再び目を開く。
「……あぁ、おはよう」
『心拍、呼吸共に良好、すぐに主治医を呼んでも良いですか？』
「……あぁ、頼むよ」
『畏まりました』
ＡＩだろうか――やや機械的にも感じる女性の音声が答えた後、トニーは今度は、誰ともなく呟いた。
「そうか……僕はまだ、死んでなかったんだな」
彼の名はトニー・スターク。
大企業スターク・インダストリーの会長であり、天才的な発明家であると共に、
真っ赤なパワードスーツを装着して戦うヒーロー“アイアンマン”の名で世界的に有名であった。
そして彼は、ある世界的な大事件で瀕死の重傷を負い――数年の間、昏睡状態だったのである（著者注）
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 序章 第１部 ★
アベンジャーズ外伝――蘇る鋼の英雄
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「“コズミック・リアクター”が動作不良だと？」
平和監視組織“シールド”のニック・フューリー長官が、異変の報告を聞きつけたのは日曜日の夜だった。
空間物理学者ブルース・バナーからその報告を受けて飛んだのは、ニューメキシコの研究所。
スキンヘッドに黒い眼帯をかけた隻眼の大男だが、目尻のシワは隠せない彼の年齢を物語っている。
ニックが足早に入ってきた研究室の入口付近に、身長３ｍ近い緑色の肌の大男が立っている。
“プロフェッサー・ハルク”の異名を持つ、物理学者ブルース・バナー博士である。
元々はこんな姿ではなかったが、放射線機器の実験失敗で、緑色の大男“ハルク”に変身する能力を持った。
数年前まで、ハルクは怒りと共に発動するブルースの“別人格”であったが、
人格統合訓練を自らに課した結果、「ブルースの人格のままハルクの姿を得る」ことに成功したのである。
緑色の怪人ハルクの怪力を日常的に発揮しつつ、物理学者としての頭脳も維持できる。
都合の良い話にも聞こえるが、こうなるまでにはかなりの苦労があった。
「出力が安定しなくてね……まだ結論は出ていないが一応、報告が要ると思ったんだ」
「“コズミック・キューブ”がないのに、なぜ安定しないんだ？」
コズミック・キューブとは、強力なエネルギーを放射するキューブ状の結晶体である。
常にエネルギーを放射し続けており、強力な核物質を示唆するが、放射線の量は少なく正体は不明だ。
シールドはキューブを分析することで、新エネルギーへの扉が開かれることを期待していたが、
過去にそのエネルギーがきっかけで、時空を越えた危機事態が引き起こされたことがある。
そして危機事態の収束後、キューブは異世界から来たある“賢者たち”に託され、シールドの手元を離れた。
「ニック。以前のあれは、コズミック・キューブが原因だったわけでは必ずしもない。
異世界からの干渉にキューブが敏感に反応した結果だと、過去の報告書にも書いたじゃないか。
コズミック・キューブは時空を越えた変動をキャッチしやすい、とね」
「そいつは読んだが……ならば安定しない原因は？」
「まだ結論は出ていない……だがこの“コズミック・リアクター”は、あのキューブの研究から生まれた。
キューブほど敏感じゃないが、似たような反応が起きていると考えることはできる」
そう言いながら歩いていく２人の前に、問題の“コズミック・リアクター”が姿を現した。
核融合炉のトカマク反応炉に似たリング状の巨大な機械が、正四面体の頂点の位置に、
ピラミッドにも似た配置で４基、設置されている……その“重心”には大きな空間がある。
周囲に置かれたモニターには出力グラフが投影され、確かに不規則に揺らぐ様が映し出されている。
４基のリング機器を隔てる空間は直径20ｍほどもあり、今のところは静穏に見える。
エネルギーを放射する立方体“コズミック・キューブ”の研究に際して、過去に起きた事故を教訓として、
今回の研究所は地上に置かれている……前みたいに地下に置くと、大規模な崩壊を招きかねないからだ。
立体的に４基並べられているのも、限られた空間で出力を拮抗させ、安定させることが目的である。
コズミック・キューブのエネルギーを再現する目的で開発したこの“コズミック・リアクター”は、
外観こそ核融合炉に似ているが、発生する放射線の量は理論上、危険値に届かない。
キューブ自体がそうであったように、微量のガンマ線を放射するだけだ。
機器中心部にはコアとなる結晶体があり、キューブの組成を模しているが、品質は“本家”にかなり劣る。
エネルギー反応特性を持つ高強度金属ヴィプラニウムを精錬する形で開発されているが、同一とは行かない。
コズミック・キューブは異空間をつなぐ“スターゲイト”の役目もあったことから、
「宇宙線の１部が漏れ出しているのではないか」という説もある。
「もう少しコンパクトにしたいもんだがな……これでは船に積めない」
「観念してスターク社に共同研究を依頼したらどうだ？ 心臓部に使ってる結晶体も確かトニーの発明品だろう」
「本人の承諾なしにやるのはさすがにまずかろう……それに彼は元々、軍事技術への関与には批判的だ」
「“あの事件”からもう２年か……彼は本当に目覚めるのかな」
「分からん……だが、肉体の方は奇跡的な回復を見せている……後は意識だけだ」
スターク社――スターク・インダストリーはシールドと密接な関係を持つハイテク業界の大手である。
天才的な発明家で知られるトニー・スタークの父、ハワード・スタークが創業した会社であり、
息子のトニーが現在の規模に成長させたことで知られている。
だがその息子トニーは、２年前に起きた世界規模の事件で瀕死の重傷を負い、１度は心停止に陥った。
事件で大量の放射線を浴びることになったからである……しかしその後、奇跡的に心拍が回復。
家族の同意を得て、シールドの本部となる施設の奥に特設されたＩＣＵに運び込まれた経緯がある。
トニーの肉体はその後徐々に回復したものの、意識は戻っていなかった。
「最悪の場合、脳死ってことも……」
そして２人はまだ……そのトニーがついさっき、２年振りに意識を取り戻したことをまだ知らない。
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再びトニーの病室。
「――そんなに泣くなよペッパー、お互い覚悟を決めた運命だったんだから」
ベッドの上に上半身を起こしたトニーが、目の前に置かれたプラズマテレビに向かって笑いかけている。
『決めたわよ、確かに決めたわ……でも、こんな展開に涙しない選択肢なんてない』
テレビモニターには、笑い泣きしている中年女性と、小学生ほどの少女が映っている。
トニーの妻であり、スターク・インダストリー社長のペッパー・ポッツと、１人娘の＊＊＊＊＊である。
「悪運が強かったってことだな……僕もてっきり、死んだと思ってたよ」
『やっぱり神様はいるのね……ほんとうに3,000倍、いいえ１万倍、愛してるわ』
「１万倍か……またインフレーションしたな」
苦笑するように呟くトニー……その言葉は、過去に彼自身が、家族に伝えた愛の言葉だった。
そしてそんなトニーの横に、黒人系と白人系、２人の青年が立っている。
「とにかく良かった……朗報を聞いて、思わずメンテ中にスパナをへし折るところだったよ」
「スパナ折るって……ハルクじゃあるまいしｗ」
「スティーブもきっと喜ぶだろう……あんたとは色々あったが、１番深い縁もあった」
「そうそう、ハルク――いや、バナー博士や長官にも早く知らせないとな」
「脳検査の結果が出てからで良いさ……２年も寝てたんだ、１時間くらい遅れても怒りゃしまい」
黒人青年の名はサム・ウィルソン……飛行ユニットを駆るシールドの戦闘員“ファルコン”でも知られる。
白人青年の名はバッキー・バックス……合金質の義手を持つ戦士“ウィンターソルジャー”の異名を持つ。
そして２人とも、シールドが支援する義勇戦隊“アベンジャーズ”の１員だ。
アベンジャーズとは、様々な“特技”や“異能”を有する、義勇の戦士たちの同盟組織である。
トニー自身も、パワードスーツを駆る発明家“アイアンマン”として、アベンジャーズに参加していた。
いや事実上、アベンジャーズの主力の１人であり、大企業会長の立場で投資してきた“大幹部”でもある。
自身の感情と人格分離を克服したブルース＝ハルクも、この義勇戦隊に深く関わっている。
そしてシールドは世界の安全保障の要石を司る機関として、アベンジャーズをサポートしてきたのだ。
その関係の深さから、世間ではアベンジャーズをシールドの傘下組織と考えている者もいるが、
厳密には別々に独立して存在する組織であり、過去にはその理念の差異で火花を散らしたこともあった。
そして数年前――宇宙からやってきたある脅威を退けるために、アベンジャーズは大きな戦いに挑んだ。
それ自体が数年に及ぶ“紛争”であり、組織崩壊寸前まで追い込まれたこともあったが、
２年前の“決戦”で脅威を退ける“大勝利”を収める結果を出したのである。
しかしそのために、トニー自身は瀕死の重傷を負い、今日まで生死の縁を彷徨ってきたのだ（著者注）
「そういや、ニックやバナー博士は今どこにいるんだ？」
「ニューメキシコの研究所さ。あんたが発明したヴィプラニウム結晶を使ったエネルギー装置の研究でね」
「あれか……不安定な代物だから扱いには気をつけろと数年前に言ったが……大丈夫かな」
「２人とも仲間じゃないか、信じてやりなよ」
「バナー博士はともかく……ニックは先走る男だからな、油断できないぞ」
そこまで呟いて――ふとトニーは、病室を仰ぎ見るように首を振った。
「……まさか、ここは“ヘリキャリア”の中か？」
「あぁそうだ……よく気付いたな、こんなに静かな部屋で」
「振動だよ……地表の病院の機械室の振動じゃない、“船”の機関室の振動だ」
“目ざとい”トニーの指摘に、サムは思わず苦笑する。
「昏睡から目覚めたばかりなのに……そこまで勘が鋭かったら、何も心配は要らないな」
「とんでもない……家族に会いに行くのに、どれだけ手間がかかると思ってるんだよ、まだ病人だぞ僕は」
「検査結果が出たらきっと帰れるさ」
「どうだかな……嫌な予感がするんだよ、これって“フラグ”じゃないのかって」
そう言って、トニーは欲求不満そうな顔で、ベッドの上で手を組んだ。
「フラグ……ねぇ」
「それに寝ている間……変な夢も見たしな」
「……変な夢って？」
ふと――耳に残る言葉を吐いたトニーに、バッキーが問い返す。
「……２年前のあの戦いを思い出すような夢さ……だけど、見たことがないやつが混ざっていた」
「夢って脈絡がないもんだろ？」
「気の所為なら良いんだけどな……その夢の中で追い回されてる最中に目が覚めたんだよ、２年振りに。
偶然にしちゃ、出来すぎてると思わないか？」
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再びニューメキシコの研究所。
「バナー博士、出力が上昇を始めました！」
突如、声を上げた研究員の報告に、ニックたちは緊張した。
無理もない……キューブ研究をしていた時には、この後に基地の壊滅という大惨事があったからだ。
「ち……嫌な予感がする」
「継続的な上昇なのか？ 供給源が限られているのに……また異世界からの干渉が！？」
「だがサノスは消滅したはずだろう、他にいったいどこの誰がそんなことをやると言うんだ？」
「長官、チタウリの別派閥ということも考えられるのでは？」
ニックの横から助言をしたのは、シールドのエージェントの１人、クリント・バートンである。
改造弓の名手“ホークアイ”としても知られている隠密の戦士だ。
過去にアベンジャーズの１員として様々な事件に関わってきた――世界を越えたこともあった――ため、
時空を越えた危機の可能性も想定内にしている。
「だが前の事件で簡単には攻め込めないことをチタウリも痛感したはずだ。
そもそもキューブの恩恵も受けられなかったチタウリが、単独で行動を起こせるとも考えにくい」
「コズミック・リアクターのエネルギーを利用しているという可能性は？」
「考えにくいと思うね。コズミック・リアクターの出力はキューブに遠く及ばない。
向こうから強力なエネルギー干渉を行わない限り、“扉”をこじ開けるのは難しいだろう」
クリントの質問に、ブルースが太い腕を組んで解答した。
“怒りの怪人”を克服して数年が経つが、真剣な表情をするとやはり結構な威圧感がある。
「出力上昇が止まりません！」
「くそ……やはりこうなるのか。止むを得ん、警報を出せ、全職員を防護壁の外に退避させろ！」
間もなく、研究所にサイレンが響いた。
“前回”の基地と異なり、今回の研究所は地上にあるため落盤による埋没の危険性はない。
分厚い防護壁の中にコズミック・リアクターを置き、非常時はその外に退避することになっていた。
防護壁はコンクリートと炭素鋼と鉛の複合パネルであり、原子炉のメルトダウンにも耐えることが出来る。
巨大なコズミック・リアクターがカタカタと、小刻みに震え始めた。
総重量200トンは優にある機械が震えるのだから、かなり大きなエネルギーが発生していると言える。
４基のリング状エネルギー回路に細かい火花や電流が飛び、バチバチと不吉な音を鳴らす。
それはまさしく――あの時、キューブが暴走して時空の扉を開いた時と同じだ。
ニックらが息を呑んで見守る中――火花がひときわ大きくなったかと思うと、
轟音と共にリングに囲まれた“空間”にぽっかりと黒い穴が開いた。
そしてその直後――その“黒い穴”から、空色の大きな機械が飛び出してきた！
「――なっ、何だあれは！？」
空色の機械は、卵形の宇宙船とも言うべき形状で、リング機器の１基を突き倒しながら飛び込んでくる。
周囲に置かれた機器もその下に巻き込み、また吹き飛ばしていく……研究員達が悲鳴を上げた。
数秒後……機械は防護壁の１角に突っ込む形で、動きを止めた。
空色の機械を“吐き出した”黒い穴は、少しずつ閉じていく……出力値も下がり始めたようだ。
事態が収束しつつあることを見計らって、屈み込んでいたニックやブルースらが立ち上がる。
そして防護壁に囲まれたコズミック・リアクター研究室の１角に食い込んだ、場違いな異物を眺める。
見れば見るほど宇宙船のようだ……サイズは15ｍほど、ちょうどアポロ司令船ほどだろうか。
上下に少し潰れており、左右に航空機のエンジンブロックに似たパーツが付いている。
ニックらが眺めていると、その機械が突如、“変形”を開始した。
エンジンブロックのように見えていた両側のパーツが本体から離れ、幾つかの部位に割れたかと思うと、
生まれたばかりの牛の子供が立ち上がるようにぐっ、と起き上がる。
両側のパーツはどうやら“脚”に相当する機構だったらしい。
いきなり“脚を生やした”機械に、ニックらは思わず銃を抜いて身構えた。
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だが――変形した謎の機械は攻撃してこなかった。
“立ち上がった”機械はそのままニックたちの方に向き直ると、本体に当たるパーツのハッチを開ける。
そしてその中から、ヘルメットを被った人間らしき生き物が１体、出てきたのだ――しかも。
「言葉が分かる方はいますか！？ 私は地球人です、攻撃の意思はありません！」
ヘルメットのフェイスカバーを上げた下から出てきたのは、まだ若い、黒髪の青年であった。
攻撃の意思が本当にないことを察したか、ニックたちは銃を下ろす。
「えぇっと……あの……ち、地球人、ですよね？（何か緑色の大男もいるけど）」
「……アジア人か？」
「――え？ あぁ、まぁ確かにそうですね。ご迷惑をおかけしました、お詫びします」
周囲の人々は呆気に取られている……まさか“異空間の穴”から地球人が出てくるとは思わなかったからだ。
さしものニックも、開いた口が塞がらないといった表情だ。
「……まさか人間が出てくるとはな」
「……私はシールドのニック・フューリー長官だ、君は？」
「――我夢。高山我夢です」
黒髪のアジア系青年は、そう名乗った……大学生と言っても通じる顔立ちだが、応答は慣れている。
「タカヤマ・ガム……つまり“日本人”ってことかね？」
「そうですね、確かに国籍は日本です……仕事場はカナダのローレンシア研究所ですが――あ、そうか。
“世界が違う”わけですから、多分ご存知ないですよね」
高山我夢と名乗った青年はそう言う……どうやらここが「異世界である」ことを理解しているらしい。
異世界であることを承知でやってきた来訪者に会ったことは過去にもあるが、
“異世界の日本人”と出会う日が来るなどということは、ニックもブルースも全く想定していなかった。
どう応対したら良いものか、複雑な表情を浮かべるニック――とふと、その胸ポケットから音がした。
ニックは「失礼」と言ってスマートフォンを取り出し、耳に当てる。
「もしもし、ニックだ……今ちょっと立て込んでるんだが…… ――えっ、何だって？ もう１度言ってくれ。
……本当なんだな、そうか、分かった……後でもう１度、こちらから電話する」
通話の最中に、ニックの表情が明らかに変わったことを、ブルースもクリントも気付いた。
通話を終えたニックがスマホを胸ポケットに戻すや否や、２人はそれを確認しようと同時に口を開く。
「長官、いったい何が――」
「ニック、何が起きたんｄ……って、クリントも同じか」
「まぁ、そりゃあな……長官が電話でこんな顔するなんて、滅多にない」
「２人とも、朗報だ……トニー・スタークが意識を取り戻したそうだ」
ニックの言葉に、今度はブルースとクリントの表情が激変する番だった。
「なっ、そいつは本当ですか長官！？」
「こんな時にジョークなど言わんよ……つい１時間ほど前だそうだ、脳検査の結果も良好らしい」
「信じられん……また奇跡が起きた、あの男ってやつは……」
「……あ、あの……」
盟友の意識回復に沸く、シールドの有志たちに付いていけない青年が１人。
その空気を最初に察して、改めて向き直ったのは“プロフェッサー・ハルク”だった。
「あぁ済まない、ちょっと入院中だった友人がいてね。
僕はブルース・バナー。こんな肌色だが、いちおう地球に生まれた人間だ――慣れないかも知れないが、
もし君さえ良ければ、そこから降りてきて、もっと詳しい話を聞かせてくれないか？」
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――翌日、“異世界から来た日本人”高山我夢は、シールドの本部にいた。
「……ここが“シールド”の本部ですか」
平和監視組織シールドの本部は、高さ１万ｍの空の上にある……全長約400ｍの飛行空母“ヘリキャリア”。
揚力は４基の巨大なローターで得ているが、軽く10万トンはある船体を浮かすほどのパワーはないため、
浮力の１部をヴィプラニウム反応炉の効果に頼っている……この物質には斥力効果もあるのだ。
更に逆反射パネルを搭載して空に溶け込む、巨大なステルス母艦でもある。
「エリアルベースを思い出すな……」
「君の“世界”にも似たような飛行基地が？」
「……えぇまぁ」
「ここなら敵の直接攻撃を受ける可能性は低い……我々の同志も間もなく到着する」
「同志ですか？」
「地球の危機のために戦う同志だ。我々が望む時、彼らは必ず現れる」
「――よく言うよ、半ば強制的に引っ張り込むくせに」
その言葉に振り向くと、トニー・スタークが立っていた。
ラフなジャケットにサングラス……発明家としてのいつもの姿だが、ニックは２年振りに見る姿でもある。
その背後にはサムとバッキーが立っている。
「スターク、君には車椅子を用意しておいたはずだが……」
「歩けないほど衰えちゃいないよ、必要なら歩行アシストユニットだってあるんだから」
「……ここに担ぎ込まれた時、君は“大量被爆者”だったんだぞ」
「ほらそういう言い方をすぐする……“担ぎ込まれた”んじゃない、“担ぎ込んだ”んだろう。
回復を支援してくれた礼は言うが、あんたは勝手に話を進める悪い癖がある」
サングラスの奥から睨みつけ、早口でまくし立てる“いつもの皮肉屋”に、ニックはわずかに眉を潜める。
そんなニックの表情をまるで気にする素振りもなく、トニーは我夢の側まで歩いてきた。
「異次元の地球から来たんだって？ ……君も色々苦労してるらしいな」
「いえまぁ……自分で立てた計画ですから」
「トニー・スタークだ……多分簡単な話はニックから聞いてるだろう、だがこの男には気をつけろよ」
「……宜しく、高山我夢です」
皮肉を絶やさずに差し出すトニーの手を、我夢は苦笑いを浮かべて握った。
「あなたが余り偉そうに言えた義理でもないでしょ」
トニーの皮肉に被せるように、ニックの背後から女性の声がした。
間もなくトニーのそれとどこか似通った、ラフなスーツを着た背の高い女性が姿を現す。
スレンダーな体形の美女であるが、表情はどこか硬い……見た目はニックよりずっと若いが、雰囲気は似る。
「キャロル……君にも色々、世話になったな」
「フューリー長官には言わないのね……そのひねくれた性格、相変わらずのようね」
彼女の名はキャロル・ダンバース……“キャプテン・マーベル”のコードネームを持つ女戦士だ。
アベンジャーズの初期メンバーに登録されている人物で、実は厳密に言うと“純粋な地球人ではない”。
神がかり的なパワーを秘める、ある宇宙種族とのハーフであると言われている。
「まぁ……私に相談もなく研究をしていたことに関しては、スタークの言う通りね。
ヴィプラニウム結晶の扱い方なら、私に聞けば良かったものを……どうかしら、バナー博士？」
済ました顔でそう言ったキャロルは、廊下の奥に視線をやった。
その廊下に緑色の大男――ブルース・バナーが現れた……隣には赤毛の小柄な女性が立っている。
２人の背後にはクリントと、もう１人面長の男性の顔も見えている。
「僕は提案したんだよ、キャロル……けどニックは『彼女は忙しいから』ってね」
ブルースの言葉を聞いて、キャロルはじろりとニックを見る……隻眼の指揮官は思わず咳払いをして、
クリントやブルースと共に歩いてきた、２人の方に視線を移した。
「マキシモフ、ラング、急遽呼び立てて済まない」
「いえ、大丈夫です……アベンジャーズはそういう存在ですから」
「それに、スタークが目を覚ましたって聞いて、すぐにでも飛んできたかったですしねぇ」
赤毛の女性はワンダ・マキシモフ……“スカーレットウィッチ”のコードネームを持つサイキックだ。
その背後のひょろりとした男はスコット・ラング……余り特徴のない白人男性だが、
自分のスケールを自在に変えることが出来る戦闘服の使い手“アントマン”のコードネームを持ち、
実はトニーやブルースに勝るとも劣らない、理論物理学のエキスパートである。
そんな会話をしていると、ニックの通信機が音を立てた……軽く頷き、ニックは一同に改めて向き直る。
「諸君、会議室の準備が整った。それでは作戦会議と行こう」
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「――諸君、改めて紹介しよう」
ヘリキャリアの“艦橋”のほぼ中央部にある“円卓”の会議室の中央で、ニックが我夢を紹介した。
黒髪の青年が立ち上がり、円卓に集結した英雄たちに頭を下げる。
「高山我夢です、宜しくお願いします」
「ミスター・タカヤマは我々とは違う世界で、空間物理学の研究をしていた学者だそうだ」
「物理学者……ということは僕やバナー博士と同じか。見たところかなり若いが、凄い頭脳なんだな」
「恐れ入ります」
スコットの言葉に、我夢は笑顔を浮かべて会釈する。
「タカヤマは向こうの世界で、重力制御テクノロジーの第１人者だったらしい。
空間移動マシーンも、その研究過程で開発されたものだと昨日、彼から聞いている」
“プロフェッサー・ハルク”ブルースがニックの説明にフォローを入れる。
「……で、そのマシーンが、格納庫に置いてたあの青い乗り物かい？」
「はい、そうです」
「スコット……君ももう見てきたんだな」
「ここに来る途中に格納庫を通過するからね……クリントに聞いたんだが、脚が生えて歩くらしいな？」
「たどり着いた場所がどんな地形か分かりませんので、歩行機能が必要だと思いまして」
「重力をコントロールするということは、空も飛べるんだろう？」
「はい、ですがずっと飛行し続けるのもエネルギーのロスが大きいですので」
「なるほどね、確かにそうだ」
「それで……ガム、と呼べば良いのかな――君が警告する“危機”というのは？」
学者たちの話題には余り関心がなさそうな素振りで、今度はバッキーが口を開いた。
バッキーの質問に、我夢は表情を引き締める。
「いきなりやってきた異世界の人間が、こんなことを言うのは荒唐無稽かと思いますが……」
「その点は気にする必要はないと思うよ、もう何が起きてもおかしくないくらいの経験をしてるんでね」
「こちらの世界でも、時空を越えて攻めてきた宇宙人がいたらしいですね」
「すでに“あいつら”の話も聞いてるのか。シールドにしては珍しく情報公開が早いな？」
トニーは皮肉交じりにそう言って、ちらりとニックの表情を伺った。
視線を察したニックは、再び軽く咳払いをする……隣に座るキャロルはほとんど表情が変わらないが。
自分自身もある意味では“異世界”にルーツを持っているからだろう。
「……警告の内容次第では、情報の遅れは命取りになるからな」
「結構なことだ」
「スターク、話を進めていいかな？」
「あぁ悪い、続けてくれ」
「ではまず、自分が元いた世界で何が起きていたか、そこからお話します……」
そう言って、我夢は話し始めた。
根源的破滅招来体と名乗る攻撃的なエイリアン種族の地球侵略。
対抗して組織された地球防衛組織ＸＩＧ。
地球の意思を体現した光の巨人“ウルトラマン”の出現――などなど。
ただし、我夢自身がそのウルトラマン“ガイア”の媒体に選ばれたことは、ここでは伏せることにした。
あの時と同じ力が、今の自分にあるとは思えないからだ。
そして夢を介した“巨人達が集結する新たな危機のメッセージ”。
そのメッセージが何を意味するのか探るために、我夢が試作の空間移動マシーン“ディスカヴァリー”で、
時空の壁を超え、この世界にやってきたこと。
我夢が“夢”に言及した時――わずかにトニーの表情が曇ったが、気付く者はほぼいなかった。
我夢が話し終わると、会議室は沈黙が支配した。
驚きというよりも、戸惑いから来る沈黙と言った方が良いだろう。
“異世界からの干渉”の経験こそあるが、こんな“異世界”はこれまで想定したことがなかったからだ。
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「……質問は？」
ニックが振った“質疑応答”に、最初に口を開いたのは“アントマン”スコットだった。
「１つ、思ったんだが……君は物理学者なんだよな？ 夢の警告とは何ともメルヘンな話だが……」
「分かります、自分も最初、夢の内容に意味があるとは思いませんでした。
ただ何度も同じ夢を繰り返し見るに連れて、意味があるのかも知れないと考えるようになったのです」
「夢は普通、脈絡がないものだけど……予兆として表れることもあるわ」
これは“スカーレットウィッチ”ワンダである。
超心理的な“念動力”や“精神干渉”が可能な彼女にとっては、夢の暗示も笑い飛ばせるものではない。
「仮にその“予兆”だったとしても、どうして彼――ガムにその“警告”を？」
「彼にその警告を伝える能力があったから、ではないのかな？」
スコットが重ねた質問に、バッキーが言葉を差し込む……もっとも２人とも、憶測の見解に過ぎないが。
それを聞きながら、今度はクリントが口を開いた。
「しかしその“メッセンジャー”がいたとして、異世界の危機を予見できる立場にあったんだったら、
何故わざわざ世界の違うタカヤマにそれを伝えたんだ？ アベンジャーズには何の警告もなかったのに」
「そこまでは自分も……」
「何の警告もなかった――そう決め付けるのは早いわ」
そんなクリントの疑念に異論を出したのは“キャプテン・マーベル”キャロルだった。
「キャロル……君は何か、警告のようなものを感じたということか？」
「いいえ、私も直接的には何も……不穏な予感を覚えたことはあったけれど、具体化まではしていないわね。
けれど――スターク、あなたはどうかしら？」
キャロルに突然話を振られたトニーは、一瞬戸惑うような表情を見せた。
「……何だよいきなり。僕は昨日まで意識がなかった人間だぞ」
「何も身に覚えがない割には、さっきから何も喋らないじゃない……あなたにしては不思議なことね。
あなたも“見た”んじゃないのかしら、彼と同じような“警告の夢”を」
「そう言えば昨日、病室でそんな話をしてたな……こいつはフラグじゃないのかって」
口を挟んだ“ファルコン”サムを、トニーはじろりと睨む……サムは首を傾けて、両手を広げた。
「おっと……こいつは余計なことを言ったかな？」
「やっぱり見たのね、スターク……あなたの気持ちも分からなくはない、まだ家族と再会してないものね。
出来ることならこのまま家に帰って――」
「……キャロル、勘繰るのはそのくらいにしてくれないか？」
キャロルの言葉を遮るように、トニーが言った……静かな口調だが、言外には怒気が含まれている。
条件次第では宇宙戦艦すら大破させる能力を持つ“宇宙の戦女神”が、思わず黙り込んだ。
「まぁ……その通りだよ、出来ればこのあと家に帰って、ペッパーや＊＊＊＊＊の顔を直接見たいさ。
僕だって人間だからな……けれども――同時に僕は“アイアンマン”なんだよ」
トニーの言葉に、居合わせた“アベンジャーズ”全員の表情が引き締まる。
何故ならその言葉は、２年前――彼が世界の命運を左右する戦いの結末を決めると同時に、
自ら命を落とし兼ねない原因となった行為の際に――発したものだからだ。
必要なら自らの命を懸けて、世界を重大な危機から開放し、そして失われかけた世界の未来を取り戻す。
それがアベンジャーズという義勇戦隊の“使命”なのだ。
「確かに僕も夢を見ている……ガムと同じ内容ではなさそうだが、類似点はあるね。
今まで出遭ったことのない“同志”と共に戦場に立ち、見たことのない巨大な敵と対峙していた」
「つまり……２つの異世界の出身者が、同時に良く似た夢を見ているってことだよな？」
「おまけに片方は世界を越えて、片方は２年の昏睡から回復した、か……こりゃまさに“奇跡”だね」
ブルースやスコットの指摘に、トニーは神妙な表情で再び頷いた。
「僕がどうして今、２年振りに目覚めてここにいるのか……あの“夢”はそいつを教えてくれる。
そして“彼”が世界を越えてここに来た……こいつが偶然なワケがないだろ？
つまり僕も彼も――多分その“メッセンジャー”に呼ばれたってことなんだろうさ」
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| （エピソードゼロ３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2012年頃に作成したエピソードを、2020年に再編したもの。
元々は旧ＯＷ企画で検討中だったもので、アメコミヒーローのドリームチームの１つである、
アベンジャーズのカメオ出演を意図した“エピソード・ゼロ”である。
当初は同年に公開された実写版『アベンジャーズ』の影響を強く受けていたが、
現在再編したものは完結編『エンドゲーム』まで鑑賞した上で、プロットを書き直したものである。
『エンドゲーム』ではラスボス・サノスを倒すために、アイアンマンがその身を犠牲にしているが、
今回のエピソードでは「生き返った」前提でプロットを構築しているので注意が必要である。
アイアンマンが登場しない前提だと、アベンジャーズのクロスオーバーが「締まらない」ためだ。
（本家では葬式シーンまであるので矛盾するが、細部は目をつぶって欲しい^^;）
『インデペンデンス・デイ』の続編である『ＩＤ４リサージェンス』で、
前作でも活躍したブラキッシュ・オークン博士が昏睡状態から回復する展開にも影響を受けている。
（この展開も前作のノベライズ版では「死亡前提」で話が書かれていたことを考えると矛盾する）
その１方で、他のメンバーは『エンドゲーム後』の展開を想像しながら、色々と入れ替えている。
例えば同作でアイアンマン同様自己犠牲に至ったブラックウィドゥや、
「過去に戻って人生をやり直した」結果、老人になったキャプテンアメリカは登場しない。
代わりにその穴を埋めるために採用したのが、テレキネシス能力者のスカーレットウィッチと、
マイティ・ソーとほぼ同格の能力者であるキャプテンマーベルである。
特にキャプテンマーベルは本家でも「宇宙秩序を知っている」ように描かれていることから、
ＧＤＷ銀河社会との“縁”を多少とも絡めて描いてみたい。
我夢との“会談”にはこの他に、ファルコンとウィンターソルジャー、ホークアイ、
そして“プロフェッサー・ハルク”とアントマンが登場する。
ファルコンとウィンターソルジャーは事実上「キャプテンアメリカの代役ポジション」であり、
『エンドゲーム』のサバイバルメンバーとして今後が期待できるキャラでもある。
プロフェッサー・ハルクとアントマンはアイアンマン同様「戦える天才」ポジションであり、
トニー・スタークが「病み上がり」のために彼を補佐する役どころでもある。
実は“偏屈魔術師”ドクターストレンジの登場も検討したが、今回は尺の都合でオミットした。
ただ彼も結構自在に時空の壁を行き来できるので、都合をつけることは可能だろう。
『エンドゲーム後』なのでタイムストーンは持っていないが、魔術師スキルは使えるはずだ。
彼に限らず、完結編以降の時代枠からのカメオ出演なので、インフィニティ・ストーンは使わない。
代わりとして設定しているのがヴィプラニウム結晶で、これは『アベンジャーズ２』で、
ウルトロンが起動した反応炉により、ソコヴィアの旧市街が浮上したシーンから連想したものだ。
ローター４基で飛べる気がしないヘリキャリアの浮力補完にもさりげなく使っている（笑）
ソーもドクターストレンジ同様「自発的に時空を越えられる」ので、融通が利くキャラであり、
『エンドゲーム』ラストでガーディアンズ・オブ・ギャラクシーと行動を共にしているので、
アトラス傭兵団のように「宇宙から飛来する」フラグを立てることも可能だろう。
因みに各々の能力スペックは、アイアンマン、キャプテンマーベル、ソーの３名が、
Gex=6前後の出力を有する“ザイオノイド枠”としてイメージしている。
（ハルクも潜在的にはそのくらい出そうだが、身体出力メインなので評価は微妙である^^;） |
