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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CSLS-HOMD2）【投稿エピソード】 |
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「ねえ、知ってる？ あの噂」
「ああ、あの黒いコートを着た」
「うんうん。それがさ、出るんだってさ」
「大きな袋を持って」
「わたしの聞いた話だと、何人もいるらしいよ」
「やだぁ、外歩けなぁい！」
あははははははは……
きゃはははははは……
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 序章 第１部 ★
ホーリーメイデンズ外伝――少女たちの長い卒業旅行・後編
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午前零時。
誰もが眠るこの時間、冬雪はふと目を覚ます。
「ん……むぅ」
ベッドの上でごろんと寝返りを打ち、２度寝をしようとする冬雪。
けれども、中々寝付けない。 なにかおかしい。体に違和感を覚える。
それに、ベッドが狭い気がする。 まるで、誰かが隣に寝ているような息苦しさだ。
「すぅ……すぅ……」
それに寝息まで。
「……ん？」
寝……息？
冬雪は、恐る恐る、ゆっくりと目を開けていく。
目の前にいたのは――
「―― っ！？」
冬雪は驚きのあまり思わず跳ね起き、ゴンッとベッドの天井に頭をぶつけてしまう。（寝台列車なので天井が低いのだ）
「いったぁ……」
痛む頭を押さえながら、涙目で目の前で寝転がっている人物を凝視する冬雪。
そう、そこにいたのは、１人の少女だった。
背中まで伸びた艶やかな髪。 つっつくと「ぷにっ」という音が返ってきそうな頬。
さくらんぼのように瑞々しい唇。 すやすやと寝息を立てる、あどけない顔。
もうすっかり見慣れた顔。 女の子になった冬雪―― つまり、冬水だ。
どうしてこんなことに？
冬水は自由に冬雪の体から分離なんてできないはず。
とりあえず、冬水を起こして話を聞くことにする。
「冬水、冬水」
冬雪は冬水の体を優しく揺すり、声をかける。 ピンクのパジャマ越しに、柔らかい肌の感触とぬくもりが伝わってくる。
「みゃぅ……なぁにー……？」
寝ぼけ眼をくしくしこすり、冬水は気だるそうに目を覚ます。 そして、
「あれ！？ ふゆ―― もがっ！？」
大声を上げようとするその口を、冬雪は慌てて手で塞ぐ。
「しーっ！ みんな寝てるから静かにっ！」
人差し指を唇の前にやる冬雪に、冬水はトーンを落とした声で笑う。
「みゃはは♪ 冬雪おにーちゃんがまたおねーちゃんになってるー♪」
「……はぁ」
冬雪はがっくりと肩を落とし、溜息を吐く。
ダブッとしたパジャマ。 肩にかかる長い髪。 そして申し訳程度にある胸の膨らみ。
今の冬雪は、冬水とまったく同じ姿をした女の子になっているのだ。
さっきから感じた違和感はやはりそういうことか。
なんとなくわかってはいたけれども、改めて言われると心にくるものがある。
冬雪と冬水。
以前にも似たようなことがあったが、この２人が分離すると、なぜか冬雪まで女の子になってしまうのだ。
原因は不明だが、わかっているのは２人でようやく１人分の魂になるということだけ。
とにかく、どうしてこうなったかを冬水に聞かないと。
三四郎や深雪が寝ているここでは話しづらいから、場所を移そう。
「冬水、こっちだよ」
冬雪は音を立てないよう気をつけながら、静かにベッドから抜け出すのであった。
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つい数時間前の明るさと賑やかさが嘘だと思えるほど、銀流星のロビーカーは静まり返っている。
それこそ、服の擦れ合う音がはっきりと聞こえるほど。
「ほんとにわからないの？」
「うん！ 大体、自由におねーちゃんの体の中から出られるなら、今までだってそうしてたよ！」
テーブルを挟んで向かい側の席に座る冬水は、こくんと頷く。
「だよねえ」
冬雪は腕組みをして考え込む。 腕に男の子の時にはなかった膨らみが当たり、なんとなく落ち着かない。
「みゃぅー。やっぱり、アヤカシの仕業なのかなー？」
「その可能性は低いと思うよ」
ひょこっと、冬雪の長い髪の中から、メロンパンのような物体が顔を出す。
よく見れば手足がついており、まるで亀のぬいぐるみのよう。
水を司る聖獣「玄武」だ。
「君達を２つに分けたところで連中にメリットなんかないからね。 嫌がらせならもっとマシなことをするはずさ」
「うん、ボクもそう思うな」
玄武の言葉に冬雪も相槌を打つ。
それにしても、
「……はぁー。 なんでこうなるんだろ」
冬雪は大きな溜息を吐き出した。
せっかく夏月とのデート計画に胸を躍らせていたのに、こんな姿ではそれどころじゃない。
いや、そんな目先のことだけじゃなくて、もう２度と男の子に戻れなかったりしたら？
「うぅ……どうしよう……」
うるうると涙ぐむ冬雪。
けれどもそんな気持ちなどわからないとばかりに、冬水はキョトンとした顔をしている。
―― その時だった。
「……ん？」
冬雪は思わず席を立つ。
まただ。 また、あの香りがした。寝る前に廊下で感じた甘い臭い。
冬雪は思わず辺りを見回す。
テーブルの下、柱の陰。いかにもやつらが潜んでいそう。闇の住人―― アヤカシが。
ドッドッと、心臓の鼓動が早まっていく。 息が自然と荒くなり、額にはジットリと汗がにじむ。
しかし、何かが隠れている様子はない。ただ、漆黒の空間が存在しているだけ。
「……ふぅ」
どうやら、要らぬ心配だったよう。 ホッと息を吐き、額の汗を拭う。
「どうしたの？ おねーちゃん？」
「ううん。なんでもないよ」
どうやら、旅行という慣れない状況に置かれているため、神経過敏になってしまったのだろう。
そう、辺りは、こんなに静かだというのに。
―――― 静か？
ハッと、冬雪は気づく。
そうだ、そんなことありえない。電車が走っている振動すらないなんて。
それに、廊下の電気まで消えているなんて、おかしい。
いる。アヤカシが間違いなく。
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刹那、シュッと何かが側を横切る。
頬を、生暖かい感触が伝う。手を当てると、ねっとりとした液体がこびりついた。
冬雪は目を見開く。
――グルルルル。
暗闇の中。 低い、獣のような息づかいが聞こえる。
目線の先には、ナイフのようにギラギラとした、一対の怪しい光が。
だんだんと、暗闇に目が慣れていくうちに、その正体が判明する。
それは黒コートを羽織った、猿のような怪物だった。
体長は１ｍほど。コートと同色の山高帽を被り、背中に大きな袋を背負っている。
軽い身のこなしと、袋に入ったガスを武器とするアヤカシ「マッドガッサー」である。
「冬雪、冬水！ 変身するんだ！」
冬雪は頷き、虚空に手をかざす。すると、手の中に５０センチ程の蒼い棒が現れる。
ホーリーメイデンズに変身するための神具「オーヌサステッキ」だ。
が――それは弾き飛ばされてしまう。
「なっ！？」
ステッキは放物線を描き、そのまま闇の中へと転がっていく。
冬雪が慌てて辺りを見回すと、低い唸り声と共に次々と現われる無数の影――マッドガッサー。
「こいつ……１体じゃなかったんだ」
冬雪は悔しそうに唇を噛む。
まずい。ステッキがなくては変身ができない。戦えない。
一応冬水がいるが、これだけのマッドガッサーを１人で倒すのは難しい。
まさに、絶体絶命のピンチだ。
「―― フッフッフ。いかにホーリーメイデンズと云えど、変身できねばただの小娘ですねェ」
暗闇の奥から、耳にまとわりつくような嘲り声が滲みだす。
ニィと、声の主は口の端を歪め、その紅き双眸を鬼火のように浮かび上がらせた。
この不快な声は。
「怪人赤マント！！」
「ククク。正解です、我が宿敵退魔の巫女よ」
名を呼ばれたアヤカシ「赤マント」は血塗られたマントを翻し、その細身の体躯を顕現させる。
“赤紙青紙”の都市伝説の化身であり、謎掛けに応じた相手を死へと誘うと言われ、
かつて冬雪たちが戦ったアヤカシ軍団“１２神将”の１人だった男だ。
「なんでお前がこんなところに！？」
「決まってるでしょう？ 以前のように我々の邪魔をされてはたまらないですからね。
大いなる戦いが始まる前に、あなた達を抹殺するのです」
赤マントはモノクルの奥の瞳を細め、見下すように口元を歪める。
「大いなる戦い！？ お前達、また何か企んでるのか！？」
「知る必要のないことです！！ なにせあなたは、ここで死ぬのですからねェ！！ フーハハハハハハハ！！」
天井を仰ぎ、赤マントは高笑いする。
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その直後だった。
―― 冬雪達の一番近くにいたマッドガッサーが粉微塵に消し飛んだのは。
「……は？」
赤マントはポカンと口を開ける。
それは、冬雪も同じだった。
「―― くす、駄目だよ碓氷先輩。こんなのに手間取ってるようじゃ」
耳に飛び込む、少女の声。
振り向くと、そこには小柄な少女が立っていた。
窓から差し込む月明かりのような白衣と、夜の闇を思わせるミニスカート状の黒い袴……
それは大地の巫女「ホーリーガイア」こと、
「おわりん！」
「どうしてここに！？」
終里は身長ほどある大鎌を抱え、くすりと笑う。
「寝る前にロビーカーで嗅ぎ慣れた臭いがしたから気になって調べにきたのよ。
予想通り、こいつらの放つガスの臭いだったわけね。 ……それより、ほら」
冬雪のステッキを放るホーリーガイア。
手に、軽い感触が返ってくる。
「今度は落とさないでよね？」
「うん。ありがとう、終里ちゃん」
礼を言い、スゥッと目を閉じる冬雪。
先端に連なった菱形の紙が、ふわりとなびく。
全意識が、ステッキへと注がれる。
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木火土金水
北を守護する聖獣玄武よ
今こそ我が身に宿れ
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言霊を唱え終えると同時、冬雪の全身を蒼い光が包み込む。
光は砕けて無数の星屑となり、衣服を形成していく。
浅葱色の小袖、蒼いミニスカート状の袴、そして、スカートと同色のブーツにゴーグル。
最後に水色のリボンが後頭部に現れ、水の巫女「ホーリーアクア」への変身は完了する。
「行くぞ！！」
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マッドガッサーは袋から機関銃のようにガスを撃ち出す。
眼前まで迫る、無数の弾丸。しかしホーリーアクアは、ステッキで全て弾き落とす。
射撃による攻撃が無駄だと悟ったのか、敵は、牙を剥き出しにして襲い掛かってくる。
ホーリーアクアは片手でステッキを掲げ、もう一方の人差し指で五芒星を描く。
「ドーマンセーマン」
言霊を唱えると、ステッキは水のように形を崩し、水晶のように透き通った日本刀へと再形成される。
「―― 唸れ『ムラクモ』！」
ホーリーアクアは水の刃「ムラクモ」を横薙に振るう。すると刀身は伸張。蛇のようにうねるとマッドガッサー達を切り裂く。
「はぁっ！」
掛け声を上げ、鞭のようにムラクモを操るホーリーアクア。
その背後に１体のマッドガッサーが忍び寄る。
「―― ガッ！？」
しかし、その体は小さな悲鳴と共に砕ける。
「みゃは♪」
桜色の巫女服に身を包んだ冬水が、ホーリーアクアと同じムラクモを手にして立っていた。
四凶獣をパートナーとする６人目の巫女「ホーリーダビデ」だ。
ホーリーダビデはホーリーアクアのような固有の技を持たないが、メンバー全員の技をコピーして使うことができる。
「ありがとう、冬水！」
「わーい♪ おねーちゃんに誉められたー♪」
「くすくす。姉妹仲が良くて羨ましいよ」
負けじとマッドガッサーを蹴散らしながら、ホーリーガイアは微笑する。
「が、あ……あわ……」
先程まで自信満々だった赤マントは目を見開き、明らかに狼狽している。
何十といたマッドガッサーの大群がみるみる減っていく。全滅はもはや時間の問題だった。
やがて、ホーリーアクアはオーヌサステッキの先端を赤マントに向け、言い放つ。
「さあ、あとはお前だけだ！ さっき言ってた大いなる戦いってやつについて、詳しく聞かせてもらうよ！」
勝敗は決した。
状況は３対１。いかに赤マントが強大なアヤカシといえ、この人数差を覆すことはできない。
―― かと思われた。
「……え？」
気がつけば、ホーリーアクアは、床に倒れ伏していた。
「―― っぐぅ！！」
次に感じたのは、背中に走る激痛。
「碓氷先輩！？」
「おねーちゃん！！」
ホーリーダビデらの声。 そして――
「――フフン」
満足げな女の声。
ホーリーアクアの眼前には……いつの間にか１人の女が立っていた。
歳は２０代前半程。黒光りするライダースーツで美しい体のラインを覆っており、
肩程ある黒髪を掻き分ける仕草がとても艶めかしい。
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「おお、ネオザではありませんかっ！」
顔を綻ばせ、赤マントはネオザと呼んだ女に駆け寄ろうとする。
が、刹那。
「助か――」
その体は真っ２つになり、闇の中に霧散する。
「アハ、ごっめぇん！ 間違えて、一緒に斬っちゃった☆」
まるで悪戯っ子のようなおどけた口調で、ネオザは言ってのける。
その台詞により、ホーリーアクアはようやく、背中に斬撃を受けたことを理解する。
「う……うぁああっ！！ おねーちゃんから離れろぉおおっ！！」
激昂したホーリーダビデがオーヌサステッキを振りかざし、ネオザに飛び掛かる。
けれどもネオザは、
「あら、威勢のいいこと」
その一撃を、風に揺れる落ち葉のようにひらりとかわす。
「あぐっ！！」
ホーリーダビデは小さな呻き声を上げ、倒れる。 その腹部は彼岸花を思わせる紅に染まっていた。
「そういう子を斬るのは好きよ？」
女はその毒々しい唇の端を歪め、指先を舐めあげる。
いや、指などではない。それは、細長い爪だった。
鋭利な刃を思わせるその凶器は血に塗れ、鈍い銀色の光沢を放っている。
「アヤカシとやらも大したことないわね。 こんなお穣ちゃん達にやられているようじゃ足手まといの極みだわ」
そう言うこいつは一体何者なのだろう。 アヤカシではない。けれども、人間とも違う。
わかっているのは、この女が自分達の前に立ちふさがる強大な敵であるという事実。
「―― さて。次はあなたね？」
くるりと、ネオザは視線をホーリーガイアに向ける。
ホーリーガイアは鎌を抱えたまま、微動だにしない。どうやら、ずっと攻撃の隙を伺っていたよう。
「私の仕事はアヤカシ達の監視だったんだけど、ついでよ。あなた達をここで始末しちゃう。“オロチ”もきっと喜ぶわ」
「くす。あんまり舐めない方がいいよ？ 終里はそこに倒れてる２人なんかより、ずーっと強いんだから」
そう言って、ホーリーガイアは不敵な笑みを浮かべる。
「フフ、強がりはおよしなさいな？ 武器を持つ手が震えてるじゃない？」
ネオザの言う通りだろう。 ホーリーガイアのそれは、恐らく虚勢。強がりにすぎないはず。
不意を突かれたとはいえ、目の前にいるこの女は、終里１人の手に余る相手だ。
寝ている夏月らの助けを借りなければ勝てやしない。
「終里ちゃん……逃げ、るんだ……。ここは、ボク――」
「怪我人は引っ込んでなよ」
ホーリーガイアは間髪入れずに言ってのける。
「わかってるよ。坂田先輩達を呼んでくるまでの時間稼ぎを碓氷先輩がしようとしてるってことくらい。
……でも、そんな体で戦えるの？ しかも、冬水さんを庇って？」
「終里ちゃん……」
図星を突かれたホーリーアクアは、何も言えなくなってしまう。
そんなホーリーアクアに、ホーリーガイアは微笑みかける。
「それにさ。負けるかどうかなんて、やってみないとわかんないでしょ？」
「あは♪ わかりきってるわよ、そんなの。 そういうお馬鹿さんには、お姉さんが優しーく教えてあ・げ・る」
「きゃはは！ 馬鹿は一体どっちかなぁ？」
挑発すると、先手必勝とばかりに鎌を振って衝撃波を放つホーリーガイア。
「くっ！！」
ホーリーアクアは歯を食いしばり、立ち上がると、
「アイシクル……ライン！！」
言霊を唱え、地を走り並び立つ氷柱による攻撃「アイシクルライン」を発動する。
が、ネオザはその両方を微風のように軽く払いのけた。
“漆黒の魔女”の足元で、巫女たちの攻撃は脆くも霧消する。
「フン、ぬるいわね♪」
素早く駆け、その爪をホーリーガイアの頸動脈へと――
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……至らせることはできなかった。
「――え？」
何が起きたか、未だにホーリーアクアは理解しかねていた。
ホーリーガイアも同様に、目を丸くして立ち尽くしている。
ただ、ネオザだけが、今まで余裕の笑みを絶やさなかった顔を憎悪の色で醜く歪める。
「ライ……カァ……っ！」
ホーリーガイアの前には、いつの間にか、ネオザと同じく２０歳代前半程の女性が立っていた。
エメラルド色の輝きを持つ瞳。ピンと突き出た長い耳。サラサラと、背中まで流れる蒼い髪。
細身の体を覆うパンツスーツは、ところどころ擦り切れている。
闇の中でも光り輝くその姿は、一種の神々しさをも醸し出している。
そんな麗しい外見の女性が、軽々と受け止めたのだ。その華奢な右手で、鋭利な凶器であるネオザの爪を。
「まさかこんな所にいるなんて……とんだイレギュラーだわ」
ネオザは爪を引き離し、ライカと呼んだ女性から距離をとるよう後ずさる。
「選手交代よ、ネオザ。 これ以上この子達をいたぶるなら、私が相手になるけど？」
そう言い放ったライカの左手には、光を放つ半円状の物体が握られていた。
「……残念ね。 あなたとの戦闘許可をゼルガ様から貰ってないのよ。 続きはまた今度にしましょ？」
「そう。なら、今日のところはお引き取り願えない？」
ネオザは憎々しげに舌打ちすると、
「その余裕ぶった顔……いつかズタズタに切り刻んでやる」
捨て台詞を吐き、夜の闇へ溶けていった。
ロビーカーは、アヤカシ達が現れる前の静寂を再び取り戻す。
「おねー……ちゃん」
背後から聞こえるホーリーダビデの声で、ホーリーアクアはハッと我に返る。
「冬水、大丈夫！？」
慌ててホーリーダビデの側に駆け寄り、冬雪は治癒の言霊を唱える。どうやら、大した傷ではなさそうだ。
そんなホーリーアクアの頭に、ポンと手が置かれる。
「運がよかったわね。あのネオザを相手に１人の死人も出なかったのは」
それは、蒼髪の女性――ライカだった。
「あの……ありがとうございます」
誰かはわからないけど、助けてくれた。だから、お礼を言わなければ。
そんなホーリーアクアに対し、ライカは白い歯を見せ、ニカッと笑う。
「妹の心配をするのはいいけど、あなたは大丈夫？ 少年」
「……へ？」
今、この女性、メイデンズに変身したホーリーアクア――冬雪のことを「少年」と言った。
この声、どっかで聞いた覚えが……。
―― 等と思考を巡らせていた時。
―― それは起きた。
「あ、ぅ……」
突如、さっきの戦闘でなんら負傷を負っていなかったホーリーガイアが、床に倒れた。
「終――……ぁ」
その異変は、すぐに冬雪をも襲う。
視界が、まるで陽炎のようにグニャリと歪む。
いや、それだけではない。立っている地面さえも、呼応するかのように揺れる。
「なに……こ、れ……？」
「しまっ――」
ライカが血相を変えて振り返ったその刹那。
辺りを真昼のような白い光が包み込む。
「ふゆ……みぃ……」
冬雪は、傍らにいるホーリーダビデ――冬水をギュッと抱き寄せる。
光は車内全体を包み込み、次第に意識も遠のいていく。そのまま、頭の中も白一色へ――
蛙の声だけが響き渡る夏の夜道。まるで、流星が落ちた日を髣髴とさせる。
だが、それを見上げた少女らは、もう、この世界のどこにもいない。
ポチャンと、一匹の蛙が池に飛び込む。月明かりを反射した水面には、ゆるやかな波紋が広がっていた。
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| （東京到着話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2005年頃にレオ（流離太）氏が投稿したエピソード。
旧ＯＷ企画当時から関わっている同氏の１次創作『ホーリーメイデンズ』のカメオ出演のための序章である。
プリキュアシリーズなどと似通った“戦隊ヒロイン”ジャンルの創作であるが、イメージソースは妖怪と戦う巫女であり、
メンバーに「少女に変身する男子」が混ざっている“ＴＳＦ（性転換フィクション）”の要素を含んでいる。
（ＴＳＦ要素を持つ“魔法少女創作”も近年複数あるが、そうしたジャンルが一般化する前からそういう設定だった）
G-maもエヴァンスなどを見れば分かるとおり、こうしたジャンルに関心があるので、興味深いのである。
ＰＡシリーズにも参戦予定であったため、旧ＯＷ企画にて執筆された“エピソード・ゼロ”を再編して掲載している。
ホーリーメイデンズは当合作シリーズでは貴重な“魔法少女枠”でもあり、
レオ（流離太）氏はコミカルな展開でも定評があることから、日常パートにおいても大活躍が期待できるのだ。 |
