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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CSLS-HOMD3）【投稿エピソード】 |
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「――それで、そのライカっていう女の人がたすけてくれたんだ」
午前７時３０分、特急銀流星内にある食堂車にて。
あの後――冬雪は夏月らに気を失っているところを発見された。
その後、なぜこのような状況になったか説明を求められ、今に至るというわけだ。
「新たな敵とやつらが語る大いなる目的、か」
秋綺は腕組みをして唸る。
目的は不明だが、アヤカシ達は明らかになにかを企んでいる。
「多分、アヤカシはこの先もなにか仕掛けてくると思うんだ。絶対に食い止めなきゃ」
冬雪の言葉に、一同は一斉にうなずいた。
「ところでさ」
ふと――夏月は口を挟む。
「なんで冬雪と冬水がまた分裂してんのよ？」
「なんでって……ボクが聞きたいよ」
「みゃはー♪」
思わず、冬雪の口から溜息が漏れ出る。
その隣では冬水が、朝食のトーストにチョコペンで、楽しそうにお絵描きしていた。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 序章 第１部 ★
ホーリーメイデンズ外伝――見たことのない東京
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「あんたらさー、ほんとになにも知らないの？」
ウインナーを口いっぱいに頬張る羊のぬいぐるみを、夏月はフォークの先でつつく。
冬水のパートナーである火の魔獣「饕餮（とうてつ）」だ。
「あん、知らねえよ？ こんな胸のない女が２人になったところで別に……ごめんなさい、なんでもありません」
ナイフを頭上で振りかぶる冬雪に、饕餮は土下座する。
「ヒヒ。なにはともあれ、楽しくなってきたようだ」
「笑いごとじゃないよぉ……」
同じく冬水のパートナーである水の魔獣「渾沌」の言葉に、冬雪はガックリと肩を落とす。
アヤカシの仕業でもない。
饕餮ら四凶獣の仕業でもない。
だとすると、一体？
そのように思考を巡らせていた、まさにその時。
「ふ・ゆ・き〜♪」
ルンルンと、冬雪の母――深雪がスキップしながらこちらにやってくる。
手に、水玉模様の手提げバッグを持って。
冬雪らは、慌てて聖獣達をテーブルの下に押し込める。
手に、ぬいぐるみ大の獣達がじたばたともがく振動が伝わってくる。
「ど、どうしたの母さん？ 随分上機嫌だね？」
「だってー、冬雪がまた女の子になってくれて、嬉しいんだもーん♪ おまけに冬水ちゃんまでいるし♪ ぎゅー♪」
深雪は手を広げ、冬雪と冬水を思い切り抱きしめる。
柔らかな感触が、もふっと顔に伝わる。
「わーい♪」
「ちょ、ちょ！？ み、みんなの前で恥ずかしいよ……」
顔を赤らめ、冬雪は深雪の腕から逃れる。
さすがに中学生にもなって、母親に抱きつかれるのは恥ずかしいってものじゃない。
しかし、最悪はこの後だった。
冬水を抱きしめながら、深雪は続ける。
「でね、こんなこともあろうかと思って……じゃーん♪」
ごそごそとバッグを探り、取り出されたのは――女性ものの服。
「もしかして、それ……」
顔を引きつらせる冬雪に、深雪は満面の笑みで返答する。
「勿論、冬水ちゃんの分もあるわよ♪」
それ以上、冬雪はなにも言葉を発することができなかった。
感じるのは、揺れ動く電車の振動音と、夏月や秋綺から放たれる哀れみの視線だけ。
『お待たせしました。次は、終着上野。上野でごさいます』
期待と不安をはらんだまま、冬雪らはその渦中へと足を踏み入れるのであった。
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上野駅にある改札口付近。
「はーるばる来たぞ東京ー！！」
「とーきょー！！」
「やめなよ２人とも……迷惑だし、恥ずかしいよ」
開口一番に叫ぶ三四郎と冬水を、冬雪はたしなめる。
「だって、東京だよおねーちゃん！ 目的地だよ！ ここで興奮しないで、どこで興奮するの！」
熱っぽい口調で、冬水は主張する。
その服装は、首と袖口にふわふわのレースがついた、淡い桃色のカットソー。
満開の桜を思わせる配色のブリーツスカート。
小さな足をキュッと包んだ、同色のパンプス。
ピンク系統の色でまとめられた衣服は、ほがらかな性格の彼女を象徴している。
ちなみに、今の冬雪も青系統でまとめられた、お揃いの服を着ている。
久しぶりに着た女の子の服は、少し動きにくい。
「では、冬水ちゃん！ 電車に突撃レッツゴーです！」
「おー！」
２人は在来線の切符を握り、乗り換え改札口へと駈けていった。
「……はぁ」
もう、何度目の溜め息だろう。
冬水ときたら暢気なものだ。
冬雪は、次にあの黒い女――ネオザが現れたらどうしようと、不安で仕方ないのに。
そんな心を察するかのように、春花が肩を叩いてくる。
「まあまあ。冬雪ちゃんの気持ちもわかりますが、今は楽しみましょうよ」
夏月もうんうんとうなずく。
「そうそう、せっかく遊びに来たんだもん！ 楽しまないと勿体ないじゃん！」
「終里ちゃんも、この機会に三四郎君と距離を縮めたいって言ってましたしね？」
「だ、だからそのことは言わないでってばぁ……」
下を向き、もじもじと手をこすり合わせる終里。
それを見て春花は「可愛いですねえ」とニヤけている。
「まあ、安心なさい」
そう言って冬雪の肩に手を置いたのは深雪だ。
その顔には菩薩のような微笑みが浮かんでいる。
「母さん……」
「あの２人のおふざけがすぎた時は、また体に言って聞かせるから」
「母さーん！？」
魔王のような黒いオーラに覆われた母の姿に、冬雪は畏怖する。
でも、確かに皆の言う通りかもしれない。
敵の正体もあのライカという人のこともわからないのに、悩むのは堂々巡りだ。
「行こうよ！ もうすぐ電車が来るよ！」
ふと顔を上げれば、夏月が改札口の向こうで手招きしている。
「うん。今行く！」
冬雪はそれに笑顔で応え、切符を取り出そうとする。
けれど、ふと――足を止める。
「あれ？ どうしたの？」
改札口を通り抜けていなかったのは、冬雪だけではない――秋綺もだった。
周囲を見回し、額に皺を作っている。
そういえば秋綺は、自分達の会話にも混じらず、無言を通していた。
いつも微妙に距離を置いて単独行動をよくとる秋綺だが、今はなんだか別のことを考えてるよう。
「いや、なんていうか……ここら辺もしばらく見ないうちに変わったなあって」
それだけ言うと、秋綺は歩きだす。
「んじゃ、行こうか」
「う、うん」
秋綺の不可解な態度に首をひねりながら、冬雪はその後についていった。
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深雪が予約した宿は、錦糸町にある格安旅館だ。
上野駅から山手線を経由して総武線を通り、錦糸町駅へと行くわけだが。
「せ、狭いっ……」
電車の中、冬雪達は大勢の乗客達と押し合いへし合いをしていた。
「お、終里ちゃん！ 絶対僕から離れちゃ駄目ですよ！」
「う、うん」
「もう少しの辛抱です。がんばりましょう、冬水ちゃん」
「みゃぅ〜……ぐるじぃよぉ〜」
各々悲鳴を上げている。
隣の人のお腹や背中に翻弄され、まるで押しくら饅頭みたいだ。
北海道の電車内もたまに混むが、これはその比じゃない。
「これが東京だ。サラリーマンの人達は、毎日この戦争を勝ち抜いているんだぞ。……ひゃっ！？」
１人涼しい顔をしていた秋綺が、突如甲高い声を発する。
「ど、どうしたの？」
心配になって聞くと、目をうるませ、搾り出すように答える。
「だ、誰かが……オレの尻を……」
「ちょ！？」
どうやら痴漢に遭ったらしい。
確かに秋綺は大人びているが、中学生のお尻を狙うなんて。
「と、とにかく、壁の方に身を寄せた方がいいんじゃないかな？」
「うん……」
冬雪は、すっかりしょぼくれた秋綺の手を握る。
それは、心なしか震えているように感じた。
とは言うものの、中々身動きがとれなくて、壁に背中を預けるのは難しい。
それにこの状況、冬雪自身が痴漢に狙われないとも限らない。
その時。
「みんなー！」
それは夏月の声だった。
「隣の車両、結構すいてるよ！」
「ほんと？」
さすが夏月だ。こういう時、本当に気が利く。
とりあえず、泳ぐように人混みをかき分け、隣の車両へと移動する冬雪らであった。
「ふぅ、助かったぁ……」
ようやくたどり着いた冬雪は、額の汗を拭う。
夏月の言う通り、多少混んではいるものの、さっきの車両ほどではない。
「秋綺ちゃん、大丈夫ですか？」
「あ、ああ。心配かけて済まなかったな」
照れくさそうに顔を背ける秋綺。
どうやら、痴漢によるダメージも多少は回復した模様。
「それにしても、なんでここだけ空いてるんだろー？」
「ああ、そういえば」
それは冬雪も思った。
さっきの車両のことを考えれば、もっと人がいてもよさそうなものを。
一体、なぜ？
そのように思考を巡らせていたら、三四郎が脂汗を浮かべながら口を開く。
「……えーと。なんか、すんごい見られてる気がするのですけど。主に僕が」
言われてみれば、周囲の乗客から視線を感じる。
よくよく見ると、周りにいるのは女性だけ。
男性の姿は、三四郎以外１人も見当たらない。
そう思った直後。
「――あっ」
突如、秋綺が短く叫ぶ。
「え？ どうかしたの？」
「やばい。これはやっちまった」
「だからなに！？」
秋綺は答えない。
その代わり、壁の１ヶ所を黙って指差す。
そこには、桃色の地に白い文字でこう書かれていた。
「じょ、女性専用！？」
そういえば、聞いたことがある。
東京には、痴漢防止のために、そのような車両が設けられていると。
……カタンカタンと、電車は走る。
「ごめん、三四郎君……」
「本当に悪い。悪いけど、ここは我慢してくれ」
冬雪と秋綺は、顔をそらしながら三四郎の肩に手を置く。
三四郎の気持ちはとてもよくわかる。
今の状態は、女子トイレのど真ん中に立っている状況に等しい。
今は女の子の冬雪ですら辛いこの状況。
三四郎は尚更だろう。
しかし、痴漢がいるあの車両に逆戻りはしたくない。
ここは、目的地に到着するまで、耐えてもらうしかないのだ。
「ま、まぁ、もうちょっとで錦糸町だし？」
「そうですね！ それに、ここで耐える方が男らしいですよ、三四郎君！」
「は、はい……」
深雪や春花に励まされる中、三四郎は顔を引きつらせる。
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そんな三四郎に向かって、終里はうわずった声を発する。
「……さ、三四郎先輩！ 先輩が行きたがっていた平将門の首塚ってどこだっけ！」
気まずい雰囲気を紛らわそうという配慮か、終里は尋ねる。
「え、えーと……千代田区の大手町ですね」
「へえ、そんな街中にあるんだね！」
「あとは、四谷神社に本所七不思議巡りも捨てがたいですねえ」
「本所に四谷って……１度にそんな廻れないよ？」
「むう。首塚は絶対に行くとして、四谷と本所のどちらにしましょうか？」
「もう……ちゃんと終里の買い物にも付き合ってよね？」
「勿論です！ そういえば、浅草に唐傘おばけのおもちゃが……」
もうすっかり現在置かれている状況を忘れ、２人は会話を弾ませる。
「首塚に神社って……。 源のやつ、可哀想に……」
けれど、終里の表情はとても生き生きしている。
春花が「終里が今回の旅行に向けて張り切っていた」と言ってたけど、どうやら本当みたいだ。
自分も負けていられないと、冬雪は決心する。
「夏月！！」
「えっ！？ なにまた急に！？」
冬雪は窓の外にそびえ立つ高い塔をビシリと指差すと、
「あれがあの有名な東京タワーだね！！」
「あ、うん」
「位置のせいかもしれないけど、なんか写真で見たのと色が違うね！！」
「そ、そうだね……」
……そして、会話は終わった。
「うん……なんか、ごめん」
冬雪はがっくりと肩を落とし、会話を盛り上げられない己の未熟さを恥じる。
終里とは対照的で、その顔色は曇り空のようにどんよりしていた。
「はぁー、あんたはもう……」
夏月は呆れ、冬雪の手をきゅっと握る。
「え……」
柔らかく暖かい夏月の手の感触が、掌からふわりと伝わってくる。
「別に背伸びなんかしなくていいのに。あたしはさ、そのまんまのあんたが……い、一番いいと思ってるからさ」
夏月は視線を窓の外へと移し、ぽりぽりと頬をかく。
そんな夏月の手を、冬雪は優しく握り返してうつむく。
まだ午前中なのに、その顔は、夕陽色に染まっていた。
「いやあ、青春ねえ。若いっていいわあ」
「ええ。２組の中睦まじいカップル……うふふ、たまりません」
「ぶー！ おねーちゃんは冬水のなのにー！」
生暖かい視線を送る深雪と春花。
その横で、冬水は不満そうに口を尖らせている。
――しかし。
そんな冬雪らの姿など、今の秋綺の目には入っていなかった。
その視線は、先程冬雪が指差した塔に釘付けとなっている。
秋綺はようやく、以下の言葉を喉から絞り出す。
「……なんだあれ」
“東京タワー”？ ――違う、東京タワーは白くないし、ここからは見えない。
１年余り前、秋綺が東京で暮らしていた時にはなかったもの。
あんなものができたなんて、聞いたこともない。
そういえば、秋綺が先程駅で感じた違和感。
住み慣れた故郷のようで違う、気持ち悪い感触。
冬雪から聞いた話と、目の前の光景が頭の中でオーバーラップする。
「ひょっとして、オレ達は……別の――」
『――次は、錦糸町。錦糸町でございます』
秋綺が発した言葉は、そのまま電車のアナウンスによってかき消されてしまった。
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| （ＰＡ６章１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2012年頃にレオ（流離太）氏が投稿したエピソード。
旧ＯＷ企画当時から関わっている同氏の１次創作『ホーリーメイデンズ』のカメオ出演のための序章である。
プリキュアシリーズなどと似通った“戦隊ヒロイン”ジャンルの創作であるが、イメージソースは妖怪と戦う巫女であり、
メンバーに「少女に変身する男子」が混ざっている“ＴＳＦ（性転換フィクション）”の要素を含んでいる。
（ＴＳＦ要素を持つ“魔法少女創作”も近年複数あるが、そうしたジャンルが一般化する前からそういう設定だった）
G-maもエヴァンスなどを見れば分かるとおり、こうしたジャンルに関心があるので、興味深いのである。
ＰＡシリーズにも参戦予定であったため、旧ＯＷ企画にて執筆された“エピソード・ゼロ”を再編して掲載している。
ホーリーメイデンズは当合作シリーズでは貴重な“魔法少女枠”でもあり、
レオ（流離太）氏はコミカルな展開でも定評があることから、日常パートにおいても大活躍が期待できるのだ。
因みに当初、秋綺が“異変”を察知するプロットは未定であったが、
本編参加プロットを議論している最中に東京スカイツリーが完成（2011年竣工、2012年オープン）したため、
設定上「2005年頃の北海道からやってきた」メイデンズの少女たちは知らない建物ということで、
組み込んだ展開だったりする（旧OWもPAも設定年は2013年なので矛盾はしない） |
