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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E032） |
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（うっるさいなぁ……）
朝っぱらからやかましいセミの声で、あたしはほとんど強制的に起こされた。
そういえば、この建物には窓ガラスがはまってないんだっけ。
廃棄される前はあったんだろうけど。
防音もヘッタクレもないよね、もう筒抜け。
山の中にほとんどほったらかしにされてるから、人目は気にならないけどね。
鉱物製のこの体は、どうやら音もよく反響するみたい。
人間だった頃より、セミの声がダイレクトに聞こえるような気がする。
まぁ、窓のすぐ向こうは森だから、セミ自体も近いんだろうけどさ。
とてとてと足音が聞こえる……エミちゃんだな。
サラさんはまだ、そんなに速くは動けないはずだし。
たまには……朝の空気でも浴びてみるかな？
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第３章 金属生命体メタロード ★
第２話 鉱物娘たちの引越し
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台風一過の空は、いつも以上に澄み渡っていた。
真っ青な空がどこまでも、突き抜けるように広がっている。
地平線が見えない森の中だから、その青さが尚更引き立って見える。
もっとも……足元の地面はぐちょぐちょ。
加えて、数十ｍほど先の斜面は大きく崩壊している。
そうそう……昨夜はこの崖崩れに巻き込まれたんだっけ。
思えば、あの崖崩れが、あたしと翔子さんをもう１度引き合わせたんだよね。
（あ、ルイさんお早うございます、今朝は早いんですね♪）
――あ、エミちゃんそこにいたのか。
緑色だから森の中に溶け込んで、最初分からなかったよ。
（何よぅ、いつも寝ぼすけみたいに……はは、あのセミの所為よ）
（あ、ごめんなさい……そう言えば、体はいいんですか？）
（昨夜のこと？全然大丈夫よ、あたしの体は岩より頑丈なんだから♪）
間違いは言ってないよ。
あれだけ激しい崖崩れに巻き込まれたのに、無傷だったからね。
少しくらい傷付いたかと思ってたけど、今朝見たら何事もなかったみたい。
自分の体のことながら、ちょっと信じられなかった。
（お早うございます、ルイさん）
（あ、サラさんお早う……昨日は迷惑かけてゴメンね？）
（いえ、仕方なかったことですから……セミの声が大きいですね♪）
サラさんが玄関の扉の前に出てきた。
どうやら、サラさんもセミに起こされたみたいね。
（大きいってもんじゃないよー、ちょっと黙ってて欲しいぐらい）
（えー、可愛そうですよー、成虫になったらすぐ死んじゃうんですよ？）
（まぁ、そうだろうけどさ……）
そう言えば、すぐ近くでセミが鳴いてると思ったら、エミちゃんの肩に１匹。
この前はリスに懐かれてたし、人気者だよなぁ。
「お、今朝は早かったんだな？」
あ、パドルさん。
……って、そっちもこんな朝早くから？
（あれ、どうしたんですか今朝は？）
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（……引越し？）
「まぁな。いつまでもここにいるのもアレだろうし、俺も君らをちゃんとした所で生活させたいし」
パドルさんが言うには、あたしたちを別の建物に引越しさせる計画があるみたい。
まぁ……確かにここはお世辞にも住みやすいところじゃないけど。
だけど、ちゃんとした所ったって、あたしら普通の人間じゃないんだけどなぁ？
（でも……どこに住むんですか？ 町の人と同じところじゃ……）
「もちろん、そいつはさすがに無理だ……昨夜の彼女みたいに、理解を示す人の方が少ないだろうしな」
翔子さんのことよね……まぁ、彼女は１度石化させられた経験があるわけだし。
「……だから、専用の施設をこっちで用意した」
（……え？）
「まぁ施設っても、廃倉庫を買い取って補修しただけの建物だけどな……ここよりは暮らしやすいはずだ」
へぇぇ……こりゃまた、手はずが整ってますわね。
（でもどうして……あたしたちにそこまでしてくれるんですか？）
そう、１番気になるのはそこだよねやっぱ。
するとパドルさんは、急に真剣な表情になって、身を乗り出してきた。
「君らを石に変えた例の組織……実は、俺はその組織を追ってる」
初耳――でも、核心に触れた気がした。
パドルさんは、前からあの組織について調査していたらしい。
そして訪れたこの廃施設で、あたしやエミちゃんたちと出会ったのだという。
今回用意したという新しい建物は、あたしたち“被害者”を保護すると同時に、
パドルさんがあの組織をもっと詳しく調べるための拠点にするつもり……なんだって。
「こんなことは許されていいことじゃないからな……だから腰を据えることにしたんだ」
（……パドルさんって、刑事か何かだったり？）
「……まぁ、似たようなものだと今は言っておくよ……そういうわけなんだが、ＯＫしてくれるか？」
（ＯＫって、何をです？）
「もちろん引越しについてだよ……下の部屋にいる子達も含めてね」
断る理由なんかなかった。
だって、この人は恩人なのだから。
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地下のその部屋は、今日も時間が止まったような空気を漂わせていた。
埃を被った道具やら器具やらが置いてある広い部屋の、更に突き当たりの薄暗い部屋。
そこには今もなお、３０人近い石化された少女たちが“安置”されている。
アメジストのような色合いの、胸の大きな少女。
アクアマリンのような薄い青緑色の、ショートカットの少女。
翡翠のような質感を持つ、小柄な少女。
金、銀、ステンレスといった、メタリックな子も何人かいる。
もちろん、誰１人として動かない……呼びかけても、まったく反応はない。
それでも……この子達はあたしの大切な“仲間”。
だってあたしも、パドルさんが動けるようにしてくれるまでは、
同じようにルビー色の石像として、ここに物音１つ立てずに立っていたんだから。
あの組織は、物言わぬ石像と化したあたしたちを放置して、行方をくらませた。
でも……あたしは絶対、彼女たちを置いていかない。
きっと……いつかきっと、目覚めてくれると信じてるから。
ううん、あたしたちが目覚めさせてあげるから。
（ごめんね……窮屈だけど、ちょっとだけ我慢して）
あたしはそう祈りながら、動かない少女たちに布を被せた。
一緒に引越すけど、それでもいいよね？
厚手の布にくるまれた、石像状態の少女たちを、ゆっくりと慎重に運ぶ。
多分……運ばれてることにも気付いていないだろうけど。
石になった少女たちはとても重かった。
そっか……人間の体って、ほんとなら水に浮くもんね。
けど多分、石の体は水に浮かない気がするな。
この体で泳いだことは１度もないけど、なんとなくそう思える。
腕力に自身がないエミちゃんや、まだゆっくりとしか動けないサラさんには無理だから、
実質的に作業してるのは、あたしとパドルさん。
といっても施設の階段を運び上げたら、あとはパドルさんが両脇に抱えてひょいひょいっと。
凄い力だよね……多分、大きな男の人より重いはずなのに。
まぁ、あの台風の時も、壊れた家の屋根を持ちあげちゃったぐらいだし。
１時間ほどで、動けない彼女たちを全員、外に運び出すことが出来た。
（そういえば……どこに運んで行ってるんですか？すぐに戻ってきますけど）
「直に分かるよ……さぁ、今度は君たち自身の準備だ」
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獣道を降り切ったところに、細い林道がある。
その路肩に、引越しセンターのコンテナ車みたいなトラックが１台、停めてあった。
パドルさんが用意したレインコートみたいなフードをかぶって、その荷台に上がると、
コンテナの中に、さっき“梱包”した少女たちが並んでいるのが見えた。
（あぁ……なるほどね、こういうことか）
「この子達もみんな被害者なんですね……可愛そうに」
（――！？）
ふと、聞き覚えのある声が背後で響いた。
振り向くまでもなく……あたしにはその声の主がわかった。
（……翔子さん）
「おはよ、ルイさん♪ 今朝は大丈夫？」
ツインテールヘアの快活な少女が、あたしの背後で笑っていた。
昨日、台風の中で再会した、新しい友達。
翔子さんは人間だけど、あたしの“心の声”が聞こえる。
（……どうしてここに？ 学校は？）
「待ち構えてたの、ルイさんに会いたくて♪ あ、今日は日曜日だから学校は休みなの」
「この子は全部知ってそうだったから、許してあげたのよ」
今度は、運転席の方から、別の女性の声。
あたしが戸惑ってたら、コンテナの奥の扉が開いて、その顔がにゅっ、と目の前に現われた。
（――ひゃっ！？）
「あ、ごめんごめん、驚かしちゃったかな――あなたがルイちゃんね？」
驚いた――けど、向こうはあたしの真っ赤な顔を見ても、全然動じなかった。
パドルさんの知り合いかな？ とても綺麗で、背が高そうな女の人。
（は……はい）
「あぁ、コイツはライカ。俺の知り合いでね……大丈夫、君のことは伝えてある」
「知り合いってーより、呑み仲間かしらね？」
トラックの反対側からやってきた、パドルさんがフォローしてくれた。
ライカさん……かぁ。やっぱり日本人じゃないのかな。
つやつやとした長い黒髪に、豊かな胸……うぅん、ちょっと羨ましいかも。
サラさんのスタイルもいいけど、多分負けてそう。
美女と野獣だよね……パドルさんの前じゃ言えないけどさ。
「こんなのと連れ添ってたら、よく美女と野獣ってからかわれるのよ♪」
「……放っとけ」
……あ、言っちゃった。
（……あ、ど、どーしよ）
（あぁ、大丈夫だよエミちゃん……この人が昨日言った翔子さんだから）
「初めまして♪ ルイさん以外にも動ける人がいるんですね」
獣道から降りてきたエミちゃんが、翔子さんの姿を見て戸惑った。
まぁねぇ……初対面だとどうしてもそうなっちゃうよね。
けど翔子さんは、そんなエミちゃんに優しく微笑みかけた。
（――で、こっちの青い人がサラさん）
（あ、どうも初めまして、宜しくお願いしますね）
「いいえこちらこそ♪」
サラさんのリアクションは、意外と普通だった。
……大人しい人だけど、実は結構肝っ玉が据わってるのかも。
まぁ……ムク石の鉱物娘に肝なんかないけどさ。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
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あたしたちを乗せたトラックは、林道から平地に、そして町へと向かって行った。
コンテナの横に小さな窓があって、そこから外の景色が見える。
エミちゃんやサラさんが、そこから町の景色を興味深そうに眺めていた。
無理もないよな……あたし以外は、町に出たことがないんだから。
翔子さんは、コンテナの端にあたしと並んで座ってる。
時々、翔子さんとあたしの目が合う……もっとも、あたしの目に瞳はないから、
視線がどっちを向いてるかはっきりとはしないんだけどね。
「わー、ルイさんの手ってすべすべ〜♪」
（そ……そうかな？）
「お手入れしなくても良いなんて羨まし……あ、ごめん」
（え？……あ、いいですよいいですよ、全然気にしないで）
同情してもらうつもりで友達になってもらったんじゃないし。
こんなあたしと、話し相手になってくれるだけでも十分だから。
翔子さんと再会するまでは……そんなチャンス、来るとは思わなかったしね。
（そう言えば……眞希さんでしたっけ、元気ですか？）
「眞希？うん、相変わらずよ……あ、えっとね、あの子の趣味は――」
そんな話をしていると、トラックが止まった。
耳を澄ませていると、何か重いものを引きずる音がする……鉄の扉みたいな。
（あ、どうやら着いたみたいですよ、ルイさん）
（港の近くの……倉庫みたいですね）
そう言えば、パドルさん確か“補修した廃倉庫”って言ってたっけ。
１分ほどしたら、またトラックが走り出した。
どうやら、その倉庫の敷地の中に入ったようだった。
コンテナの小さな窓から差し込んでいた外の光が、突然暗くなった。
そして間もなく……トラックが止まった。
運転席にいるらしい、パドルさんの声が聞こえる。
「着いたぞー、さ、降りた降りた♪」
トラックの外に出ると、そこは暗い倉庫の中だった。
けど、この体はわずかな光でも、周囲の状況を把握することが出来る。
どうやら倉庫の中は、幾つもの間仕切りで区切られてるようだった。
３ｍほど上の空間には、廊下みたいなものも見える……上下にも区切られてるみたい。
天井はかなり高く、山型の屋根の骨組みがぼんやりと見えている。
間もなく、倉庫の中が明るくなった……パドルさんが電気をつけたみたい。
「へぇ……中ってこんな風になってたんだ……なんだか、寮みたい」
（リョウって？）
「宿舎のこと……あ、ホラ、アパートの中みたいになってるじゃない」
「ご名答よ翔子ちゃん……上の部屋は個室になってるの。４０室は作ったかしらね」
（そんなにあるんですか？）
「奥まで続いてるからね……ここは端っこだから」
ライカさんが言うとおり、奥の方まで“廊下”が続いていた。
倉庫の中は３層に区切られてて、各層に１０〜１５ほどの部屋があるように見える。
１階部分は上の層より大きな間仕切りがあって、シャッターが下ろされていた。
パドルさんが言うには、１部は車庫として使う予定だって。
「さて……彼女たちを移動させるか」
そう言って、パドルさんがコンテナの上にひょいっ、と上がった。
すぐに両脇に大きな包みを２つ抱えてくる……そう、“あの子達”だ。
（あ、あたしも……）
「あ、いいよいいよ、俺１人で……ライカ、そっちは宜しくな」
「お任せ♪ ルイちゃんたちはこっちね」
（……？）
「――わぁ、ルイさんよく似合うよー♪」
（そ、そうかな？ えへへ……///）
ライカさんが連れて行った部屋には、大きなクロゼットが置かれていた。
そしてそこに、色々な種類の服が、１００着以上もずらりと。
あの廃施設にあった地味なインナーとは違う、カジュアルなものばかり。
「廃棄処分の在庫を買い叩いただけなんだけどね……あそこのインナーよりゃマシでしょ」
かくして、会員様限定の鉱物娘ファッションショーが始まったってわけ。
結局あたしは、薄手のシャツを下着代わりに、薄ジャンパーとＧパン姿に落ち着いた。
前のインナーと違って、へその所が開いてて、結構ぴちっとしたシャツを選んでみましたけどいかが？
……そう言えば人間の時も、こんな感じの服を着てたっけなぁ……うろ覚えだけど。
エミちゃんは大人しめの、シャツとスカートを選んだみたい。
サラさんはあたしと似た感じの服だけど、露出は控え目で、下はＧパンの代わりに柔らかいデニムを履いていた。
もっともサラさんの場合、まだ自在には動けないから、試着室でライカさんが着せたみたいだけど。
あたしは翔子さんにおだてられるままに、鏡の前でポーズを取ってみた。
こうしてみると、肌がルビー色で半透明に透き通ってることを除けば、人間と同じ格好に見える。
なんだかちょっと……自信が沸いたような気分になった。
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……昼過ぎ、翔子さんは倉庫を後にした。
「またちょくちょく来てもいいですか？ 明後日から夏休みだし♪」
「まぁ、構わんよ……彼女らも喜ぶし、な？」
（も、もちろんっ！）
（あたしからも是非♪）
（歓迎しますよーｗ）
「じゃ、また明後日にでも♪」
翔子さんが帰ると、急に倉庫は静かになった。
多分……はしゃぐ人間がいなくなった所為だと思う。
あたしら鉱物娘は、元々肉声を出せないしね。
倉庫の１番奥に、あの施設から連れ出した３０体近くの少女たちが置かれていた。
もう、彼女たちをくるんでいた布が解かれて、元の姿で立っている。
いや――元の姿じゃなかった。
（……綺麗……）
我ながら不謹慎だけど、正直そう思った。
様々な色の鉱物や金属の少女たちが、天井の照明を浴びてキラキラ輝いていたから。
薄暗かったあの部屋と違って、この部屋には明るい照明があった。
彼女たちが光り輝いて見えたのはその所為――かと思ったけど、それだけじゃなかった。
部屋の奥で、動いているものがあった。
ここにいる３０体近い少女たちは、まだ全く動けないはず……意識すらないし。
……よくよく見ると、動いていたのはライカさんだった。
何をしているのかと思ったら……濡れ布巾で、彼女たちを拭いてたの。
そう言えば、あの部屋では彼女たちも、少し埃を被っていたっけ。
彼女たちが前よりも綺麗に見えるのは、ライカさんがその埃を拭き取ったためだと気付いた。
元々傷１つない少女像だから、埃を拭き取ると、文字通り宝石みたいに輝いている。
「汚れてたみたいだから、拭いてあげようと思ったんだけど……」
そうだよね、綺麗にしてあげなくちゃ。
いつかまた……目覚めて、動き出してくれる日が来ると信じてるのなら。
（あ……あたしもやりますっ）
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| （第３章第３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
“鉱物娘居住区”センターＤの初登場エピソードである。
石化被害者を活性化し、ルイたちの同志として登場させるには、廃棄ラボのままでは足りないからだ。
同時にルイたちの理解者である翔子が、主要キャラとして本格参加する。
ここから９章辺りまで、このセンターが主な舞台の１つとなるのだ。 |
