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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E035） |
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「――ちっ、逃がしたか」
暗闇の中で、ナンバー９は舌打ちをした。
「乱暴な運転をする女だ……くそっ、虚を突かれたな」
歯軋りをするナンバー１２。
戦闘訓練も受けていない娘４人に逃げられたのだから、悔しさもひとしおだ。
「それだけじゃねぇ……１見乱暴だが、あの女――プロだ」
「９号？どういうことだ、それは？」
「コイツに反応したんだぜ？素人には無理だろ」
そう言って、ナンバー９は手にしていた銃を見せた。
銃身に太い筒がついた、どこか不恰好な拳銃――つまり、サイレンサー仕様だ。
ナンバー９は銃声を聞かれないようにするため、
サイレンサー（消音器）を取り付けた銃で、ライトバンの運転席を狙ったのである。
その銃を見た運転席の女は、咄嗟にハンドルを切って被弾を逃れた。
素人なら――サイレンサー銃の発砲に、反応できるはずがない。
「娘たちの背後には、裏の経験者がいるってことだ」
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第３章 金属生命体メタロード ★
第５話 狂気の加速
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「何だと？あの３３番に会ったのかお前」
ナンバー１３“アイガー”の調整室――事実上、猛獣のオリも同然だが。
なぜならこの男は今や、金色の刃を振るう“鋼の男”と化しているからだ。
元々血の気の多い男だったが、先の台風の最中に重傷を負い、
ナンバー２が実施した強化金属兵“メタロード”の実験台となったのであった。
アイガーと言葉を交わすのは、ナンバー９“ホルス”。
アイガーの“人間時代”の相棒である。
「まぁな……俺はほとんど見ていただけだが」
「裏の事情に詳しい女がいるってのか……“あの男”の連れか？」
「さてな？その時は娘どもと、その女しかいなかったからな」
「ここも知られたのか？」
「そいつはまだ分からん……出てきたところを見られたわけじゃねぇしな」
メタリックな顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。
アイガーは人間時代、ある男に屈辱を受けたからだ。
数週間ほど前の隠密行動中に、背後から猛烈な打撃を受け、アイガーは無様に伸びた。
決して小さくはない、アイガーすら見下ろすほどの巨体を持つ、金髪の大男。
格闘では誰にも負けないと豪語していた、アイガーのプライドにヒビが入ったのだ。
修復せねばならない……あの男を倒して。
アイガーはやおら、腕を前に突き出した。
その腕から、何の前触れもなく突き出す、金色の長い“槍”。
メタロードとなったアイガーが得た、新たな能力“サイバーナイフ”である。
その全身に配置された筋状の文様をすべて、アイガーは鋭いナイフへ変えることができるのだ。
その切れ味は、鍛え抜かれた日本刀にも匹敵する。
「こいつで……あいつを切り裂いてやるんだ」
「そう言えば、あいつは素手だったな」
「ふん、関係あるものか、背後から殴るようなやつに遠慮はいらねぇ」
アイガーはパキン、と指を鳴らし、ナイフを元の鞘へ――腕の中へ治めた。
「それにこいつはもう、俺の体の１部だ……言ってみりゃ、これだって“素手”だ」
「まぁ……軍隊式武術で相手の息の根を止めるのと、差はないかもな」
「応ともよ……あいつが“プロ”なら、なおさら遠慮するこたぁねぇだろ？」
ホルスはふっ、と鼻先で笑い……ふと、話題を変えた。
「そう言えば……お前、メタロードになったんだったよな」
「めたろぉど？ ナンバー２はこのボディに、そんな名前をつけてやがるのか」
「メタリック・ウォーロード（金属の軍神）――と言ってたぞ？」
「くだらねぇな……そんな名前など、飾りでしかないだろう」
「……はっ、あのアイガーが、随分と語るようになったな？」
「悪いかよ……しばらく動いてねぇんだ、眠気がなきゃ色々考えるさ」
「なるほどな……なぁ、アイガー、１つ聞いていいか？」
「なんだ？改まった言い方しやがって、気持ち悪いじゃねぇか」
「石になるって……どんな気分だ？」
ホルスの問いに、アイガーはしばらく沈黙した。
薄笑いを浮かべていた表情も、いつの間にか真剣なものに。
「……そうだな。死ぬのに近いかもな――死んだことはねぇが」
「死……か」
「否応なしに闇の中に引きずり込まれていく……氷のように冷たい世界にな。
他のヤツはどうか知らんが、少なくとも俺はそう感じた。
もがく自由もなく……ダメかと思った瞬間、何も感じなくなったのさ」
「なるほどな……確かに、死んでいく人間のようだ」
「そして……次に気がついた時は、既にこうなってたってワケだ」
「つまり……生まれ変わったわけか」
「そういうことだ……いや、俺がそう思いたいだけかも知れんが――な」
アイガーはそう言って、空しそうに笑った。
「……アイガー？」
「人間を超えることは出来たのかも知れんが……もう、人間じゃねぇ」
「……そうだな、否定は出来ん」
「俺も変わったってことだ……お互い様だな」
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（……石に、なる……気分……？）
第２ラボ実験室の、前室ギャラリー。
アイガーの部屋を出たホルスは、第７０番変異体“ハルミ”と会話していた。
微動だにしない金色の少女像から、ホルスに飛ぶ心の声。
（……そんな、こと……聞いて……どう、するの……？）
「別に……気まぐれだ、言いたくなけりゃ黙ってていい」
――馬鹿馬鹿しい……俺は何をやってるんだ。
７０番実験体の言うとおりだ……聞いたところで何が変わるわけでもない。
この部屋に立ってる、物言わぬ連中の気持ちなど、俺の知ったことではない。
そうとも、ただの思いつきに過ぎない。
（……そう……ね……不思議な……気分……自分、じゃ……ない、みたい……）
「……不思議な気分、だと？」
ホルスは、少し意外な気がした。
まさか……返答があるとは思っていなかったからだ。
（……だって……石に……された、のに……生きてる……もの……）
途切れがちだが、つむぐ言葉はまだ比較的しっかりとしている。
どうやら彼女の意識自体は、まだはっきり残っているらしい。
金属化処理から既に１ヶ月近く……早い実験体では、もう既に思考が停止している頃だ。
「……だがいずれは、全て止まってしまう」
（……そうかも、知れない……けど、まだ……大丈夫……）
瞳のないうつろな金色の目が、ラボの風景を歪めて反射している。
外からは一切の生命反応を感じない金色の彫像だが、
ホルスには心なしか、７０番実験体が質感相応以上に輝いているように見えた。
――これは……意識の光か？
ホルスはふと思い出した。
強い意識を発現した実験体は、思考を止めた実験体よりも輝きが著しいという。
ホルスはナンバー３から、以前そう聞いたことがあった。
サイコな性格で知られるナンバー２は、実験体が思考を停止する直前、
言葉にならないわずかな感情の抑揚を反映し、
実験体がかすかに明滅して見える様が好きだという。
――そう言えば、あの第３３番実験体も輝きが衰えなかったな。
第３３番実験体――ルイは、メドゥアスの第３ラボが放棄されるその日まで、
石化処理から半年以上が経過していたにもかかわらず、比較的鮮明な意識を維持していた。
もっともナンバー２には好まれなかったらしく、
第３ラボ放棄と同時に彼女もまた“封印”されたのだったが……
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所変わってここは、パドルが設置したメタロイド保護施設、通称“センターＤ”。
シャワーの音が、カーテンの奥から軽やかに響く。
クリーム色のカーテンに映る、スマートな少女のシルエット。
――ただし、カーテンの下から覗く足は、半透明で赤い。
シャワーを浴びているのはルイだ。
温水に濡れた結晶状のボディが、赤ワインを思わせる深い輝きを放つ。
だが――その表情は心なしか、寂しげだ。
頭上から降り注ぐ温水を振り仰いで浴びることもせず、じっと自分の体を見つめている。
何気なく、その赤い指で自分の胸や腹をつつくルイ。
コンコン、と、硬質な音が返ってくる――鉱物質なのだから当然だが。
（……馬鹿だな、あたし、何今頃感傷に浸ってるんだろう）
やがて、シャワーを止めたルイは、バスタオルを巻いてシャワー室を後にした。
更衣室には彼女のインナーが、綺麗に畳んで置いてあった。
（この几帳面さは……エミちゃんだな♪）
だがルイは、インナーを着けることなく、バスタオルを巻いた状態のまま、更衣室を出た。
そのままてくてくと、迷うことなく施設の１番奥にある部屋へと歩いていく。
ゆっくりと扉を開けたその先には――２８体の少女像が。
１番奥に立っているステンレスに似た質感の少女は確か、あの廃棄施設で１番古いはず。
石化処理――いや、金属化処理されてから、２〜３年は経っているだろう。
直立に近い姿勢で、やや膝を曲げて、何が起きたのかもよく分からないまま固まった感じだ。
その何体か前にいる翡翠色の娘は、まだ小学生くらいの小柄な少女だ。
人間としての生を１０年経たかどうかも曖昧な若さで、石にされるなんて。
ルイはそんな少女像の中で、ゆっくりとバスタオルを降ろした。
シャワーを浴びたばかりの、輝くようなルビー色の全身が露になる。
その状態で、ルイはゆっくりと、右手を斜め前へと突き出してみた。
腰をわずかに捻り、何かを掴むような姿勢で、ふと動きを止めてみる。
そう――固められた時、ルイはこの姿勢だったのだ。
そしてそのまま１年ほど、石像として存在することを強いられたのである。
再び自由な姿勢に戻り、寂しげな表情のまま、周りの少女たちを見上げるルイ。
（ごめんね……あれから何ヶ月も経つのに、まだ何もしてあげられない……）
音のない静寂の空間に立ち並ぶ、２９体の石化した少女たち。
しかしその中の１体――ルイは、声を上げて泣きたい気分で一杯だった。
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再び、メドゥアスの秘密施設“第２ラボ”。
メタロード戦士第１号アイガーは、施設の異常な空気に気付いていた。
自分が窺い知れないところで、謀り事が急速に進んでいる気がしてならなかったのだ。
もっとも、メドゥアスの日々の活動自体が非合法であり１種の謀り事だが、
アイガーが感じていたのは、そんな“非合法な日常”とも異なる、どす黒い思念の不穏な気配の揺らめきであった。
――いったい何だ、この嫌な予感は……？
アイガーが収容されている部屋は、視界が不良な半透明の壁の中にある。
しかも４方をオリのように鉄格子で囲まれている。
４方の壁の１つは不定期活性体の収容室になっており、その更に向こうにある“ギャラリー”が見えているが、
そこから組織の現状を推し量ることは、さしものアイガーでも困難であった。
そのルビー色の目で幾ら念じても、透視能力までは発現しないらしい。
――ちっ、まるで放射性廃棄物のような扱いだな。
アイガーは、おもむろに立ち上がった。
そしてゆっくりと、鉄格子の前まで脚を踏み出す。
拡散性ＥＭＰスタンガンの制裁はない……物音立てて暴れない限りは大丈夫らしい。
まるで許しを請う罪人のような体勢で、アイガーは外の世界に意識を集中する。
と、その時ふと、前のギャラリーを人影が横切った。
――ありゃホルスだな……また実験体をからかいに来たか？
だが……その背後から、もう１つの影がゆっくりと、
ホルスの寝首をかくかのような動きで近づいていくことにアイガーは気付いた。
――あれは……まさか、ナンバー２！？
それとほぼ同時刻、ホルスはギャラリーの奥で、第７０番実験体を見つめていた。
「……どうしたよ？ 今夜は随分と静かじゃねぇか」
（…………………………）
「昨日あれだけ雄弁だったくせに、今日はまるで石のようだな？」
（……………………だ……め……）
「……何？ よく聞こえない――！？」
（――ホルス、後ろだっっ！！）
刹那――ズン、という、肉を切るような鈍い音が、ギャラリーに響いた。
「…………な……に……？」
「お休み、ナンバー９……そして、いい夢を♪」
ホルスの背後からまとわり付くような、ナンバー２の嫌らしい囁き。
その右手には、鋭いナイフが握られていた。
ぽたぽた、とナイフを伝って真紅の滴が床にしたたる。
「なに、君のその素晴らしいスキルを少し、我々のために使わせてもらうだけだよ♪」
「な……何故……ぐ……こ、この……ぐらい、で――」
そこから先を発することも出来ず、ホルスはずるりと滑るように倒れこんだ。
「悪いが……薬入りさ。ゾウでも１０秒で眠る優れものだよ――グンナイ♪」
「くそっっ……ナンバー２、ホルスに何をする気だ――まさか！？」
「何の音だ？……おい、アイガーが暴れているぞ、鎮めさせろ！」
「お前ら、一体何を企んで――はっぐ、ぐぉ……がっ……おのれぇぇぇ！！」
今や屍のように床に崩れ落ちたホルスを、満足そうに見下ろしていたナンバー２は、
再び鬼畜のような笑みを満面に浮かべ、後ろに組んでいた左手を突き出した。
その手にしっかりと握られた、黒光りする拷問器具――拡散性ＥＭＰ発生器。
その視界には、逃げることも叫ぶことも出来ない……哀れな犠牲者がもう１人。
「さぁて……主に嘘をついた報いを受けさせんとな……しばらく、何も言えないようにしてあげよう♪」
（……い、いや……やめて……来ないで……い、や――――！！）
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| （第４章第１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
４章以降に到来する、メドゥアスＶＳセンターＤの抗争シーンの実質的な序章フラグである。
セラフィのドＳっぷりが際立つエピソードの１つだが、同時にアイガーやホルスの、
今後のポジションを示唆するフラグにもなっている。 |
