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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E092） |
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旧奥沢村の地下に広がる、謎の瑠璃色の地下道。
その片隅に、何かが落下する音が数回、響いた。
間もなく――４つの人影が、長い通路の奥に現れる。
白銀色と、ルビー色と、アメジスト色と、クリスタル色の女性達。
ライカと、ルイと、ユウと、瞳だ。
（不気味なところですね……変な色）
（なんか変に明るいッスねー、灯りとか見えないけど）
（ここに……春海ちゃんが……）
音にならない言葉で囁き合いながら、４人は更に奥を目指す。
間もなく――通路の反対側から、足音が聞こえてきた。
（あっ……誰かいる……！？）
（も、もしかして、春海ちゃん！？）
（ちょっと待って……足音、１つじゃないよ！？）
そして４人はすぐに――足音の主を知ることになった。
無表情で歩いてくる、灰色の女性像群。
両手をやや斜め前に突き出し、人形のように機械的な歩を進める――その数５～６体ほどであろうか。
そう――春海がここに迷い込んだ時、最初に遭遇した“意思なき被害者達”である。
（ちょっ……何よアレ！？）
（に、人形！？……いや、まさか……！）
“変身”したライカの白銀の顔が、忌まわしそうに眉をひそめた。
「どうやらその“まさか”が当たってそうね……ここの主は、ホント最悪の趣味だわ」
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第９章 明かされる真実 ★
第２話 秘密の地下道
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「それで……重要な話とは何です？」
朝陽朝陽署の奥――資料保管庫の突き当たりにある地下室。
１ヶ月ほど前まで、署が保護した石化被害者６体を、保管していた部屋である。
扉を閉めれば密室となるホコリ臭い地下室で、おもむろに末留が口を開いた。
彼の目の前には、身長２ｍを超える大男、パドル……逆立った金髪が今にも天井に届きそうである。
「実はですね……娘さんの居場所が分かったのですよ」
パドルはいきなり、そう切り出した。
末留の１人娘――絵梨が見つかった、と言い出したのである。
驚愕したらしく、目を見開く末留。
「なっ……何ですと……絵梨が……それは本当ですか！？」
「えぇ、本当です」
「朝陽署を挙げて捜索しても見つからなかったのに……それで娘はどこに、生きているのですか？」
興奮したように、末留は身を乗り出してくる。
まぁ無理もないだろう……何年も行方不明だった、娘が見つかったというのだから。
「それは何とも言えませんね」
「えっ……どういうことですか？」
「娘さんに直接会ったわけではないですからね、しかし重要な情報を聞いたのです」
「娘のいる場所を知らせた者がいる、と……？」
こっくり、と頷くパドル。
「そ……その者は、娘がどこにいると……？」
「ここです」
「…………え？」
末留は１瞬、狐につままれたような顔をした。
「娘さんは、ここにいるらしいのです」
「パドル殿……まさか、私をからかっているのではないでしょうな？」
「とんでもない、そんな不謹慎は言いませんよ」
「では何故そのようなことを……ま、まさか……娘はすでに……」
怪訝な表情を浮かべた末留が、今度は青ざめた表情で地下室を見回す。
実はパドルは、問答で末留の反応を探るつもりでいた。
センターＤで突如意識を取り戻した初期ナンバーの鉱物娘・エリがもし末留警部の娘なら、
この地下室に石化した彼女たちを保管していた末留が、それに気付かぬはずがない。
もちろんエリが末留の娘・絵梨と同一人物である確証はまだないものの、パドル自身はそうだと睨んでいた。
謎の記者・山川がパドルに提供した“集合写真偽造疑惑”が、その重要な状況証拠であった。
ただそうなると、末留は石化した娘をそうと知って放置していたことになり、
親とは思えないほどどす黒い闇を、この男が持っていなくては説明が付かない。
だから揺さぶりをかけてみたのだが……パドルが予想していた反応とは少々違うようだ。
「死んだ娘の霊がここにいるのか？」と言わんばかりにうろたえる末留の表情が、演技にはとても見えない。
もちろん、演技の達人は本心のように装うこともできるだろう――が、パドルをごまかすのは難しい。
パドルが“見ている”のは、相手の外面だけではないからだ。
やはり、エリは絵梨とは別人なのだろうか……？
そこでパドルは、当てが外れた時に用意しておいた、もう１つの策を試してみることにした。
「いえいえ、そういう意味ではないのです……その情報では、この奥だというのですよ」
「この奥……？ 仰っている意味がよく……」
「でしょうね、見えている限りでは、この地下室に続きなどないわけですし」
そう言いながら、パドルは地下室の奥に向かって歩き出した。
「ですが、先ほどの情報提供者は、この地下室にカラクリがあると言ったのですよ」
実はこの情報、パドルの完全なハッタリであった。
どの道、「何者かがもたらした情報」ということになっているので、仮に外れても不発だったとなるだけ。
その“曖昧さ”を逆手に取って、バクチを打ってみたのである。
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同じ頃――センターＤ。
事実上の“司令室”に当たる管理オフィスで、３人ほどの少女が雑談している。
もっとも――そのうち２人までが、鉱物娘であったが。
若草色の半透明の体を持つリンと、きめ細かい砂岩のような体を持つエリ、そして生身の少女・眞希。
ただし眞希も今や、手を握るなどして鉱物娘の体に触れれば、彼女たちの“言葉”を聞くことが出来る。
今もまたリンとエリの手をそれぞれ握りながら、会話に話を咲かせていたのである。
活性化されて半月程が経つリンはもちろんだが、まだ意識回復から２４時間経っていないエリも、
体こそまだゆっくりしか動かせないものの、意識交流は非常に活発だ。
たどたどしかった言葉遣いも、少女たちの賑やかなコミュニケーションの中で、見る見るうちに回復していった。
体を動かさないと、まだほとんど動かせない悲しげな表情と相まって、本当に石像のようだが。
「えっと、その……エリさんって、昔の記憶があるんでしたっけ？」
（はい、一応……全部じゃ、ないみたい、ですけど、ね……）
（凄いですよねー、ライカさんの話だと、何年も意識がなかったことを思えば、奇跡中の奇跡だって）
「それじゃ、その……お父さんやお母さんの思い出も？――あっ、ご、ごめんなさい！」
（ううん……別に、良いですよ……両親の、記憶……そうですね……かすか、だけど……あります）
（両親の記憶かぁ……あたしは全くダメだな、全部抜け落ちてる）
（あたしの、両親は…… ――！？）
エリがそこまで思考した時だった――ふと、何かを察知したように緊張した。
「ど、どうしたの、エリさん！？」
（ご、ごめん……マキ、さん……あたしを、画面の、方に……！）
眞希とリンは顔を見合わせて、咄嗟にエリが腰掛けている椅子を、くるりと回転させた。
半回転したエリの前に、ＴＶのような機械が置いてある……念のために、先に眞希が画面を覗き込んだ。
画面に投影されていたのは、正面玄関付近の光景だった……どうやら、監視カメラの映像らしい。
画面の中で、冷凍トラックのような車両が止まり、黒服の人影が数人、降りてくるのが見えた。
トラックはしかし、車体と不釣合いな大きなタイヤを持っている。
人影は人間離れしたジャンプ力で、軽々と正面入口のフェンスを飛び越えてくる。
「ちょっと、これって……！」
（間違い、ない……あいつら、です……早く、連絡を……！）
「う、うん、分かった……リンさん、お願いできる？」
（おっけー、任せて！）
若草色のガラス細工のような体がすぐに動き、管理室の扉をわずかに開いた。
そこから、消灯で暗い廊下に向かって、何やら手話のようなジェスチャーをしている。
――敵が来た、各自配置に付くように――
ホルスから教わった、即席のサインだった。
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「カラクリですって！？ ま、まさか……警察署の地下に？」
「聞いた情報なので１００％信じられるものじゃないですがね……確認だけはしてみようかと」
そう言いながら、パドルは地下室をぐるりと１周する。
１周しながら、末留のリアクションに注意深く神経を研ぎ澄ませる。
しかし今のところ、末留は不穏な空気を見せない……寝耳に水、といった表情を浮かべるだけだ。
――その時だった。
壁が直角に交わる４角の１つで、かすかな空気の流れをパドルは感じた。
立て付けの悪い地上の民家ならまだしも、地下室でこんな隙間が出来るのは不自然である。
ためらいなく、パドルはそのかすかな隙間に手を押し当て、１４０ｋｇを超す体重を込めてぐっ、と押す。
すると――ガタン、と音がして、壁の１角がぱっくりと裂け、防火シェルターのように開いたではないか。
「――ビンゴ」
「な……ほ、本当に……！？」
信じられない、とばかりに目を白黒させる末留を、パドルは横目で見る。
――この男……まさか、本当に知らなかったのか？
「こいつは……核心に入ってきた感じですねぇ……さて、どうしましょう？」
「行きましょう、パドル殿！」
腕を組んで話を振ると、末留は猛然と食いついてきた。
まぁ……その行動自体に、怪しさは全くなかったのであるが……むしろ気合すら感じられる。
「良いのですか？ 今まで知られていなかったルートということは、危険かも知れませんよ？」
「私は警官です、危険は承知の上……この先に娘がいるのだというなら、私は１人でも行きます！」
「部下に知らせなくて良いのですか？」
「あ……そ、そうですね……確かに勇み足はいけませんな、では１度上に」
「えぇそうしてください、私は先に調べてみます」
「大丈夫ですか？……チームを組んだ方が」
「問題ありません、私に関してはね……むしろ、その危険を除去しておきますよ」
「そうですか、ではお願いします……もしも娘を見つけたら、必ず連絡してくださいね」
そう言って、末留は慌しそうに階段を上って、地上階に戻っていった。
１方パドルは、末留が階段を上っていくのを見届けてから、地下道の中へと踏み込んで行く。
無謀な行動に見えるかも知れないが、パドル自身に関して言えば、むしろ１人の方が良かった。
余計な気を遣う必要がないからだ……信用していないわけではないが、パドルは常人と全くスペックが違う。
いざ危険に巻き込まれた場合でも、パドル１人の方が処理し易いのである。
地下道は意外に長く、奥の方まで続いているようだ……しかも、徐々に下っている。
ただ壁は下水管のようなコンクリート製で、土や岩ではなかった……秘密の通路にしてはよく整備されている。
明かりはなく、真っ暗闇だ……ふと振り返ると、地下室の入口がぼんやり見える。
末留が仲間を連れて、追ってくる気配はない……対策会議でも開いているのか、それとも……
パドルは再び視線を前方に向けた……真っ暗で何も見えないが、通路自体はまだ続いているようだった。
迷わず、パドルは更に奥へと踏み込んで行った。
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（――もぉっ、いったい何人出てくるのよっ！？）
奥沢村の地下に広がる謎の迷宮で、声にならない声でぼやいたのはルイだ。
“侵入者”を拘束せんと、迫りくる灰色の少女像たち。
さほど動きは速くない……ついでに言えば単調なために、回避自体は容易なのだが、
次から次へと、通路の奥から“湧いてくる”ため、キリがないのである。
（くそっ、こっちが満足に反撃できないと分かって、こんなことするのかっ！？）
少女像が振り下ろす腕をかいくぐりながら、ユウも攻めあぐねたような表情を浮かべた。
彼女たちが“被害者”であることがほぼ確実なため、反撃行動にもためらいが出る。
そんな中、ライカは足払いをかけて少女像たちを倒して行く。
ごとり、と重い音を立てて通路に横たわった少女像たちは、なおも腕を振って動こうとするが、
単調な動きしかできないためか、起き上がるまでには至らない。
「悪いけど……しばらく横になっててね、後で必ず助けてあげるから！」
――だが。
人形のように横倒しになった少女像が、むくり――と起き上がった。
「人間的な起き方」ではない……目に見えない力によって、持ち上げられたかのような動きだ。
再び直立姿勢になって、迫ってきた少女像たちを見て、ライカも苦虫を噛み潰したような表情になる。
「もしかしたらとは思ってたけど……やっぱりこうなるわけね」
（なっ、何今の……何が起きたというの！？）
（うえぇっ、そんなホラーみたいな展開アリかよっ！？）
「いつでも体勢を立て直すことができなければ、警備員は務まらないもんね……」
（ライカさん、この子たち、誘導してるような気がしませんか？）
少女像たちの動きを避けながら、ふとルイはそんな疑問を呈した。
確かに少女像たちは、闇雲にルイたちを追い回しているのではなく、
通路のある１方向に向かって、誘導するように圧力をかけているように見える。
「こっちへ来いって言うわけね……こういう余裕ってされると凄く嫌味だわ」
（ですよね……あたしもできたら抵抗したいんですけど……この数じゃ）
少女像たちはまだ増えている……そして折り重なるように、プレッシャーをかけてくるのだ。
通路はお世辞にも広くはないので、プレッシャーを回避するには少女像たちを正面から押し返さねばならない。
ライカはともかく、ルイやユウは人並みの動きができるとは言え、
それほど突出した力があるわけではないから、少女像たちを押し返すことは難しい。
しかも彼女たちを破壊するわけにもいかないため、こうなってしまうと他に選択肢がないのも確かなのだ。
「……上等じゃないの、その余裕、いつまで持つか見ものだわ」
（ライカさんって動揺しないよな……）
（良く分かんないけど色々な経験をしてるんだろね、そーいやユウ君活性化させたのもライカさんだし）
（あーそーいやそうか、ちょっと忘れかけてたよ）
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――ガシャァアァァアァァン！！
センターＤの屋内に入るシャッターが、乱暴に破られた。
間もなくセンター１階の“倉庫”に、何人もの人影が踏み込んでくる。
その数――７～８人、といったところだろうか。
「居るのは分かってるんだ、さっさと出て来い、裏切り者どもめ！！」
金色の金属戦士――ネメシスの乱暴な声が室内に響き渡った。
その横からブルーメタルの戦士ロイザーと、グリーンメタルの戦士アリエルの顔が覗く。
「気付いていたのだろう、我々が来ることを……今度こそ逃がしはせんぞ」
「お前達には貸しがあるからね……利息がたっぷり付いてるから覚悟しておきなよ」
「相変わらず――礼儀を知らん連中だ」
倉庫に続く通路の奥から、残響を伴う声が響いた。
殺気に満ちた刺客たちが一斉に振り向いた暗い通路の奥に、銀色の影がほのかに浮かび上がる。
既に腕のサイバーナイフを起動し、臨戦態勢に入ったホルス。
「……ふん、裏切り者相手に礼儀など」
「他の連中はどこに隠れてるんだい？――まぁ、実験体如きに何かできるわけでもないけどさ」
ネメシスの前に進み出たアリエルが、おもむろにサイバーナイフを起動した。
灯りのない暗がりの中で銀色のサーベルを思わせる刃先が、ぐんと伸びて鋭い反射を返す。
アリエルの前にも、黒服を着た戦闘員らしき人影が数人、立っている。
ハイネックの黒服の上から突き出た顔は、ホルスに良く似た銀色に染まっていた。
しかしその顔に感情の色は全くない……ホルスと違い、結晶体も埋め込まれていないようだ。
「“悠久の地下牢”を開放したわけか……なるほどね。――だが所詮、操り人形だ」
「――劣勢の立場で余裕だな、あるいは既に玉砕も覚悟の上かね、ナンバー９？」
踏み込んだ刺客たちの後ろから響いた声に、ホルスには聞き覚えがあった。
といっても前回のテロの首謀者――セラフィではない。
手前に立つ無表情の戦闘員に似た、銀色の顔が倉庫の端に現れた。
だが銀１色の戦闘員と違い、目と額に結晶を埋め込み、腕はまるでゴリラのように肥大化している。
「……こいつは驚いたな。あんたも参加していたのか――タイタン」
かつてメドゥアスのナンバー３として、科学者であるナンバー２・セラフィすら凌ぐ権勢を持った男――タイタン。
ホルスは声と顔からすぐに気付いたが――この展開自体は予想外だった。
タイタンがセラフィの独断による“粛清”により、“悠久の地下牢”に送られたことをホルスは知らない。
「お陰様でね――どのみちいずれは皆、こうなる運命にあるのだ……早いか遅いかというだけさ。
だがお前には失望したよ、ホルス……前線指揮官としての有能さは高く評価していたのに」
そう言いつつ、タイタンはその太い腕を左右に振った――瞬間、空間を切り裂くようにサイバーナイフが起動する。
ゴリラのような腕自体も更に大きく膨張した――その先に形成されたナイフは両手で合計８本。
まるで大型肉食恐竜の腕（前脚）を思わせる、おぞましさと威圧感である。
「最初は実感が持てなかったが……素晴らしい力じゃないか。まさに世界を変えるに相応しい。
お前もプロトタイプながら、高品質なボディだとセラフィから聞いたぞ……全く残念だ」
「こちとら望んで得た力ではないのでね……悪いが、お引き取り願おうか？」
「でかい口を叩くのもそこまでだホルス、我らメドゥアスを怒らせた償いを受けさせてやる。
お前達は２階へ行け……隠れてる実験体どもを切り刻んで来い！」
ネメシスの雄叫びのような号令と共に、４名ほどの戦闘員が弾かれるように飛び出した。
すぐさま２手に分かれ、ホルスが立つ通路の両側に架けられた、急角度の階段を駆け上がっていく。
ホルスは妨害措置を取らない……２階には“相棒”アイガーが待ち構えている。
そしてホルス自身、すでに“自分の相手”を見定めているようだ。
真正面から弾丸のように飛び掛ってくる――金色の殺戮者ネメシス。
「１人で我々を止められると思うな――前とは違うぞ！！」
「そいつは――お互い様だろうが」
――ガキィイィィンッッ！！
ネメシスの１トン近い体重をかけた、サイバーナイフの“突き”を受け止めるホルス。
暗がりの廊下に火花が飛び散り、鍔迫り合いのような金属音が響き渡る。
「今度は――貴様が串刺しになる番だ！！」
更にもう１方の腕を突き出すネメシス――だが。
ホルスはぐん、と脚に力を込めると、ネメシスの突進自体を使ってひらりと跳躍した。
ネメシスよりは軽いものの、ホルスも今や５００ｋｇを超える金属戦士のはずだが、全く重さを感じさせない。
そのままネメシスの背後に回ったホルスは、体勢を立て直されるよりも早く１撃を入れようとした――しかし。
脇腹を抉られるような痛みを覚え、ホルスはよろめきながら横方向へ離脱した。
ホルスの後ろには、槍のような長いサイバーナイフを突き出した、ロイザーが薄笑いを浮かべている。
「勘違いしないでもらいたいな――これは生き残りをかけた戦争だ、背後には気をつけろよ？」
「少しは理解したかね？――今、お前は“４対１”の勝負を強いられてるのだよ」
「……こんな連中を相手にせねばならんとは……全く俺も、因果な宿命を背負ったもんだぜ」
「減らず口を叩く余裕があったら、自分が細切れにされる心配でも――！？」
アリエルが嘲笑うように言いかけたその時――黒い人影が２階から降ってきた。
折れ曲がった鉄骨でも落ちてきたような轟音を立てて、戦闘員の１人が通路に横たわる――胸には深い切り傷。
「オォ……オ……オォオォォ……！」
さっきまで無表情だった戦闘員が、口を開けて声にならない悲鳴を上げている。
人としての意識や思考はないかも知れないが、痛みを感じることぐらいはできるらしい。
「てめぇこそ――減らず口を叩く暇があったら自分の心配をしな？」
アイガーはそう言いながら、飛び掛ってきた戦闘員の１人を更に袈裟懸けに切り払った。
相手も金属戦士なので真っ二つにこそできないが、バランスを狂わせるには十分なダメージである。
胸に傷を受けてよろめいた戦闘員を、ハイキックで１階に叩き落すアイガー。
落ちてくる戦闘員を交わしながら、アリエルはギ・ギ・ギ、と壊れた機械のような歯軋りをした。
「……目に物見せてやりたいヤツが、もう１人いたことをすっかり忘れてたよ」
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追って来る少女像たちを避けるように、通路を奥へ奥へと向かうライカたち。
そんな４人の前に、突然広いフロアが姿を現した。
間口、奥行き、共に１０ｍほどはあるだろうか……天井もかなり高い。
奥沢村の内部ではなく、山寄りに向かった地下にあるらしい――でないと“青天井”になるからだ。
そして――そこでライカたちは、“探していた者”を見つけることになる。
「――春海ちゃん！？」
“大広間”の奥――壁の１角からテラスのように突き出した箇所があり、
そのテラスに、全身金色に変化した春海が立っていた。
（あっ……は、春海ちゃん！？）
（こんなところに……でも無事で良かった）
（無事……なのかな？……左右のメタリックなのは誰だよ？）
（せ、先輩、ルイさん……ご、ごめんなさい…… あ、あたしが無茶したばっかりに……）
金色の顔で、春海は申し訳なさそうな表情を浮かべる――そして。
そんな春海の両脇に、人形のような関節が特徴的な、銀色とブルーメタルの少女像が、無表情で立っていた。
良く見ると――春海は両側の少女像に腕を掴まれ、立たされていることが分かる。
（多分、両脇の子も被害者なのね……）
（人形みたいにも見えるけど……被害者だとしたらほんと、最悪よね……）
「さぁ――誘われたとおりに来たわよ。そろそろ出て来てくれる？――メドゥアス！」
「相も変わらず――生意気な女だな、ライカ・アルゴ捜査官」
ライカの“挑発”を受けるように――背後から不気味な男の声がした。
思わず声を避けるように、４人はフロアの中ほどへと移動する。
振り向くと――先ほど４人を追い回していた灰色の少女像たちが、部屋の入口から湧き出すように入って来た。
そしてその奥から……金色の少女像に引率される形で、長い髪を持った長身の男が、姿を現した。
床まで届くかという長髪はしかし、まるで蛇のように太く、不気味に揺れている。
（な、何よ、コイツ……！）
（人間じゃ、ないというの……？）
「ようこそ我が城へ――歓迎するよ、メタロイドの勇者たち。確か……２７号と３３号だったね？」
（あたしたちのことを知ってるのね……でも、番号で呼ばれる筋合いはないわ）
「気が強いな３３号……クリスタが報告した通りの性格だな――そして」
不敵な笑みを浮かべたまま、長髪の男――メドゥアスは、視線をライカに戻した。
「プラチナのボディも中々似合うじゃないか、ライカ捜査官――いっそ、これからその姿で活躍してはどうかな？」
「冗談も休み休み言ったらどう？アンタこそ、アジトが暴露されたのに随分余裕じゃないの」
「暴露？――くく。“外”からここに来たのはまだお前たちだけ。暴露された内には入らんよ、余興のようなものさ」
（ライカさん……こいつ、知ってるんスか！？）
初めて見る“蛇頭の怪人”にまるで動じないライカに、ユウは思わず疑問を呈した。
「もちろん――こいつがあたしたちの追ってた“黒幕”よ。メタギュランの魔道科学者メドゥアス。
奥沢村を滅ぼし、ユウ君やルイちゃんを鉱物娘にした――張本人！」
（――んなっっ！？）
（えっ……そ、それじゃ、サラさんやエミちゃんたちをあんな姿にしたのも……）
（全部――こいつが仕向けたってことなのね……！）
“衝撃の真実”に動揺を隠せない少女たちの前で、黒幕――メドゥアスは再び、不気味な笑みを浮かべた。
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| （第９章第３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2009～2010年頃に草稿を作成したエピソード。
ついにラスボス――メドゥアス（ゼロ）の登場である。
鉱物娘シリーズの黒幕ということで、メデューサやゴーゴン族がモチーフになったキャラクターであるが、
ヘビのように太い髪の先端にヘビの頭は付いていないのが個性の１つになっている。
変化球みたいなものだが、これには実は理由があるのだ（ネタバレになるのでここでは書かないが） |
