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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E093） |
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朝陽朝陽署の地下室から延びる、謎の地下道の突き当たり。
地下室の明かりがサイコロのように小さく見える暗闇の空間に、パドルが立っている。
目の前には観音開きの大きな扉――もっとも、手探りでなければ分からないほど暗いが。
「さて……こいつが核心への入口だといいがな」
扉の真ん中あたりに付いている、無骨なドアノブに手をかける。
鍵が開いている保障はないが、取り合えず試してみなければ何も始まるまい。
だが――かちゃり、と小さな音がして、扉はあっけなく開いた。
蛍光灯か、それともＬＥＤか……無機質な光が、闇に覆われた地下道に白く角ばった輪郭を投影する。
扉の奥には、モルタル塗りの白灰色の廊下が続いていた。
廊下は１０数ｍほど奥でぽっきりと折れ曲がり、周囲には全く人の気配がしない。
「――俺を誘っているのか？」
パドルは思わず苦笑しつつ、廊下へと踏み込んで行った。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第９章 明かされる真実 ★
第３話 悲劇の根源
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「――くそっ、すばしこいヤツだ！」
戦場と化したセンターＤの１階廊下で、攻めあぐねたような奇声を上げるのはロイザーだ。
ネメシスと２人で猛攻を仕掛けているにも関わらず、“裏切り者”ホルスに効果的なダメージを与えることが出来ない。
既に幾つかの傷を負わせてはいるが、ダメージになったのは脇腹を抉った１撃くらいだろう。
２対１にも関わらず決定打を与えられないのは、狭い廊下で戦っている所為もある。
とりわけロイザーの長いサイバーナイフは、この場においては余り効果的な装備ではない。
ホルスの背後を取った最初の１撃以降、霞を突いてばかりだ。
とはいえ……ホルスも必ずしも、余裕綽々、というわけではない。
ロイザーに貫かれた脇腹の傷が尾を引いて、やや動きが鈍っているところがある。
メタロイドというのは全身ムクの金属や鉱物の塊であるため、臓器を痛める心配はないが、
深い傷となると再生に時間がかかる上、有機生物とは違った痛みが長時間続くのである。
神経というものがない体であるが、逆に言えば全身がエネルギー伝達物質となっているため、
受けた衝撃は常に全身で受け止める――つまり深手を負えば“全身が長時間痛み続ける”ことになる。
今のホルスは体内で乱反射する激痛という、“第３の敵”とも戦わねばならないのだ。
「全く……その傷でそれだけ動けるとはな……本当に惜しい人材だ」
戦闘を背後で観察していたタイタンが、ルビー色の目を細めて低く呟いた。
「戦いにくそうだな、ロイザー。――選手交代と行こうか」
タイタンのその言葉を受けて、ロイザーは憮然としながら後退する。
効果的なダメージを与えられないまま退くのは癪に障るが、タイタンは上官も同然、逆らうわけには行かない。
そんなロイザーを横目に見ながら――視線の方向は分かりにくいが――タイタンがすっ、とホルスに接近する。
痛みで眉を潜めながらも、ホルスはかつての上官に皮肉を忘れない。
「そんなでかい腕でこの狭い戦場に入るか、タイタン……脳まで金属になって思考が鈍ったか？」
「ふ――そのセリフ、そのまま貴様に返してやろう」
そう言ったタイタンの銀色のボディが、ぐんと加速した。
ホルスは視界の端にその影を捉えつつ、ネメシスの斬り込みを掻い潜る。
ネメシスと入れ違いになったタイタンは、大きなボディを真横に傾け、太い腕を真っ直ぐホルスに突き出す。
「――っ！？」
空気を切り裂く異変を感じたホルスは体を横に捻った――が。
交わしたはずのその右半身に、２本の傷がざっくりと刻み込まれた――サイバーナイフの１本が弾け飛ぶ。
「――伸びる、のか……！」
タイタンの腕から突き出した４本のサイバーナイフが、最初の３倍ほども伸びていた。
しかもゴリラのようなその太い腕を、タイタンはいとも身軽に振ったのである。
標的を切り裂いた４本の“爪”は、再び元の長さに戻った。
「ナイフの長さを調節できる相手は初めてかね？――確かに、私以外ではセラフィくらいだろうな」
「……こんな短期間に……よくもまぁ……使いこなせるようになったもんだぜ……」
「“戦闘プログラム”は上書きすることも出来るのさ……貴様にも思い当たることがあるだろう」
「……あれはてっきり……洗脳用のシステムだと思っていたよ……」
「メカニズムは同じようなものだよ……さて、これでもう貴様の右腕はしばらく使えないな。
無理に使えば傷口から割れて砕けるだろう……さぁ、どうする？」
冷酷な微笑を浮かべるタイタンと対称的に、ホルスの表情から余裕の色が消えた。
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旧奥沢村の地下に広がる瑠璃色の迷宮――いや、“魔人”メドゥアスの本拠地。
恐らく、その中央部に位置するのだろう。
１０ｍ四方ほどの“広間”で、ルイら“侵入者”４人と、メドゥアス、そしてその“眷属たち”が対峙していた。
中２階になるのだろうか……デッキの上には、両腕を押さえつけられた春海が立っている。
春海はオーラたち、“改造された被害者”たちに連れられて、この迷宮を脱出するはずだった。
だが途中でその被害者達が突如、春海を押さえつけてこのデッキに連行したのである。
（れ、レイアさん、アクアさん、いったいどうして……へ、返事してください！）
春海の両腕を押さえる銀色とブルーメタルの少女像――レイアとアクアに語りかける春海。
だが、ほんの数分前まで感情豊かに応対してくれた２人は、今人形のように直立し、全く反応しない。
さっきまでの振る舞いが嘘のように無表情で、機械のように沈黙している。
メドゥアスの横に立っているオーラも同じだ……そう、ちょうど“灰色の被害者達”と同じように。
「無駄だよ……私の“作品”が、私の意思に反する行動を取るはずがないだろう？」
（作品って……彼女たちのことを言ってるのか……！）
（外道がにじむような言葉ね……ライカさんが言うとおり、最悪だわコイツ）
「石化するに留まらず、人形のように加工したわけ……とことん外道な想像しかしないのねアンタ」
「外道ねぇ……私に言わせれば、それはナンセンスな言葉なのだがな」
「どういうことかしら？」
「道など結局、在って無いようなもの……それを勝手に分類して、決め付けているだけではないかね？
外道というのはお前達が勝手に作ったルールに合わせた、１方的な概念に過ぎぬ」
「それじゃ何、アンタまさかこの所業を正当化する気？――笑わせんじゃないわよ」
ライカの追求に、メドゥアスはふ、と鼻で笑う仕草を見せる。
「その上から目線な言葉を是非とも慎んで頂きたいものだな……本来の道は荒野に切り開くべきもの。
私は今、新たな進化の方向性を見極めるために、荒野を切り開いている最中なのだよ――いや。
既にその道はできつつあると言った方がいいかな？」
思わせぶりに言い放ったメドゥアスは、視線をルイやユウに向けた。
「そう、つまり――お前たちがその“成果”だと言っていい」
（あ、あたしたち！？）
「そうとも。お前たちはこれまでの“作品”とは次元の違う存在だ……自分の意思で動く生きた石像。
いや――“鉱物生命体”として、確実な１歩を踏み出し、その資質を使いこなしつつある」
（……望んだ結果じゃないんだけどね……俺もルイさんも、他のみんなだって）
（そうですよね、あたしもそう思います。春海ちゃんだって）
「分かっておらんな……進化はそもそも、望んで得るものではなく不可抗力の結果だ。
逆境に置かれた生命が発揮する本領であり、必然的な環境の要請なのだよ」
「その不可抗力を押し付けてるのはどこのどなた？――全部アンタの身勝手な“研究”じゃないの！」
「私は生命が相応しいと思える力を得る、きっかけを与えているだけだよ……考えても見たまえ。
生きた鉱物になることで、どれだけの可能性が目の前に開けるのかを」
（うわ、陶酔しちゃってるよコイツ、壊れた科学者の見本だね）
（……というか、この言葉、前にもどこかで聞いたような気が……）
半透明のクリスタル状に変化した自分の体を、不安で抱き締めるように呟いたのは瞳だ。
彼女の意識に蘇ったのは、数日前ＴＶのバラエティで聞いた、“正気じゃない”評論家の意見。
――もしも本当に金属の体を手に入れられるのならば、人類の行動範囲は飛躍的に高まるでしょう――
「そうか、あの番組を見たのか……宣伝は着実に浸透しているようだな」
（――え！？）
（な、何ソレ、どういうことよ！？）
「アンタ、まさか……」
「ご名答、ライカ捜査官。――あの言葉は私が言わせたものさ。いや、あの番組だけじゃない。
私は陰ながら、この新たなる進化の可能性を、あちこちで発信してきたのだよ」
（…………！！）
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――ガタンッ
センター１階の廊下で、今までとは違う音が響いた。
廊下に沿った壁に当たったホルスが、踏ん張り切れずに後方へ倒れ込んだ音だった。
上半身を覆っていたタンクトップは襤褸切れのようになり、銀色のボディに幾つも切り傷が入っている。
とりわけ右半身の傷と左脇腹の傷は深く、傷というよりも亀裂のようだ。
「ホルス、何やってるんだ、気合入れろよっ！？」
２階でアリエルと格闘していたアイガーが、思わず１階を覗き込んで声を荒げた。
そのアイガーの視線を遮るように、アリエルのサイバーナイフが目の前に突き立てられる。
僅差で交わしたアイガーの鼻先で、斬り飛ばされた“頭髪”が外れたネジのように飛び散った。
「いったいどこを見てるんだい、そんな暇を許した覚えは無いんだけど？」
「っせーな、プライドだけで食らい付いてるくせに偉そうに」
「僕を前と同じだと思ったら大間違いだぞ、お前を切り刻むために訓練を重ねたんだ！」
「ほーそーかい、暇で羨ましいこった」
「そのウザイ顔――今すぐ穴だらけにしてやるよっ！！」
実のところ――アイガーも言うほど余裕ではない。
アリエルは確かに、前の駅前テロの時に比べて戦闘力が上がっている。
スピードに大差は無いが、サイバーナイフのキレが段違いだ……軽いものだが、何度か切り込まれている。
加えてその背後には、銀色の戦闘員がまだ２名、しつこく食らい付いている。
戦闘開始から１０分近くが経過して、２階の渡り廊下の手すりも、今や原形を留めていない。
斬り飛ばされたり、蹴破られたりして残ったわずかな残骸が、瓦礫の鉄筋のように寂しく立っている。
渡り廊下の床に渡された鉄板も切り傷だらけだ……大穴が開くのも時間の問題だろう。
「そうだね……この廊下、丸ごと斬り落としてやろうか、お前の相棒の真上にさ♪」
アリエルがにたぁ、とひときわ嫌らしい表情を浮かべた……サディストの本性が表に出たらしい。
アイガーが嫌そうな表情を浮かべて、再び階下に視線を落とした――その時。
背後から飛び掛ってきた戦闘員が、がっしりとアイガーに組み付いた。
間髪入れず、斜め横からももう１人、腰を落としてタックルをかける――羽交い絞め状態になるアイガー。
「はは――あははははっ、引っかかったね単細胞！！」
「ち――この雑魚どもめがっ！」
「雑魚はお前だ、裏切り者め……覚悟しろ、今から公開処刑タイム――！？」
――ガァンッッ！！
「――ぉがっ！？」
勝ち誇ったような声を上げたアリエルが、次の瞬間轟音と共に悲鳴を上げて１階に落ちて行った。
ジャリジャリジャリ、と重い鎖を転がす音と共に、２つのメタリックな人影が空中を舞う。
その人影は更に、今まさにホルスの上に圧し掛かろうとしていた、ネメシスを横殴りに蹴り倒した。
「ぬぐぉっ――な、何だ今のはっ！？」
まるで映画のターザンのように、鎖にしがみついた人影が弧を描いて戻ってくる。
２つの影のうち、下の方に半ば逆さまになってしがみついていた金色の影――コナが長い手を突き出した。
（ホルスさん――つかまって！！）
ホルスの銀色の左手が、サイバーナイフを格納してコナの腕を掴んだ――そのまま浮き上がる。
すぐさま、濃い銀色の影――ジュリがコナをフォローして、ホルスを引っ張り上げた。
「な――実験体どもか！？」
「小癪なマネを……何をしている、そいつらを捕まえろ！」
命令が切り替わったことを理解したのか、アイガーを羽交い絞めにしていた戦闘員たちが、
鎖にぶら下がった３人目がけて飛びつこうとした――だが。
「さ・せ・る・か・よっっ！！」
戦闘員たちの背後から踊りかかったアイガーが、うち１人の腰ベルトをむんずと掴んで引き戻した。
そのまま横に腕を振り、力任せにもう１人の戦闘員に叩き付ける。
「２人まとめて――出直して来やがれ！！」
ドミノ倒しの要領で、１階に落ちていく２人の戦闘員。
「くぅっ……何やってるんだよお前ら、この役立たずめ！」
「最初に実験体に蹴り落とされたヤツが言えた義理か、貴様こそ少しは成果を上げて来い！」
「ちぃぃっ……ナメやがって、お前らは絶対に切り刻んでやる！」
ホルスを“救出”したコナたちは、３階で他の鉱物娘たちに受け止められた。
（――今よみんな、力いっぱい引っ張って！）
（（（よーーーいしょぉぉっっ！！）））
重量級のコナやホルスを受け止めるために、別に水平方向のチェーンが張られており、
このチェーンをサラや翔子、カオルたちが全体重をかけて支えたのだ。
１人１人の力は弱くとも、連携すればその力は大きくなる。
また他の鉱物娘たちも、コナほどではないにせよ普通の人間よりもずっと体重が重いため、
１０人以上の鉱物娘が連携することで、１トンほどの重さを支えることが出来た。
（あーすっきりした、カラダが重いってのもたまには役に立つのねぇ）
（見てましたよコナさん、カッコよかった♪）
（あいつら下でギャーギャー吠えてるよ、いい気味♪）
そんな鉱物娘たちの真ん中――３階の渡り廊下に、ホルスが横たわっている。
人間ならぜぇぜぇと荒い息をしていたのだろうが、メタロイドは呼吸をしないため動かなければ実に静かだ。
（うわ……近くで見ると酷いね、傷だらけじゃない）
（あいつら……金属の体をこんな風に出来るんだ……普通の石だったら今頃粉々だね）
（あたしたちのために、頑張ってくれたんだよね……）
（あの……だ……大丈夫ですか？）
「何とか、な……だが、まだ気は抜けない。あいつらはまだピンピンしている」
（遊びじゃないもんね……生きるか死ぬか、か……）
今は大理石状の鉱物娘に“変身”している翔子も、不安げに階下を見下ろした。
そう――これは“戦争”なのだ……しかもホルスは戦闘不能に近い。
本当に大変なのはこれからだ。
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その頃――謎の地下通路に侵入したパドルは、別の重大な発見をしていた。
「こいつは――予想以上だな」
パドルの目の前には、数体の少女像。
これまで見てきた“鉱物娘たち”に良く似ているが、また異なる質感を漂わせており、
それが大きな台の上に、文字通りオブジェ状に組み上げられていた。
その周囲には、“研究所”と呼ぶに相応しい、幾つもの部屋への入口が見える――さしずめここはロビーか。
「この材質……何だ？ 金属でも鉱物でもなさそうだが……」
「“セラミックファイバー”――と言えばいいのかな？ まだ表に出回っていない新素材だよ。
ダイヤモンドよりも硬く、鋼鉄よりも粘り強い……難点なのは高価なことぐらいかな」
背後からした声に振り向くと、黒服の男が立っていた。
覆面で顔を覆っており、周囲には番犬だろうか、これまた質感の奇妙な犬を数体、引き連れている。
「君があのセンターの管理人だね……ようこそ、メドゥアス第１ラボへ。私はクリスタ。メドゥアスのナンバー１であり、ゼロの右腕だ」
「秘密結社のナンバー１とやらは覆面をしているのか……見られたら困る顔なのか？」
「そうだな……最初はそうだったが、もう余り関係は無いかも知れんね」
そう言いながら、クリスタはおもむろに、覆面を自らむしり取った。
覆面の下から現れた“素顔”を見て、パドルの表情がかすかに引きつる。
何故ならその顔は――ケースとしては最悪だが――パドルが予想した通りだったからだ。
「末留、警部……！」
クリスタは――やはり末留一郎だった。
そんなパドルの反応を、末留――いやクリスタは予想済み、とばかりに言葉を続ける。
「そうだな……確かにこの男は、表社会では末留と呼ばれる警察官だ。だがここではクリスタと呼んでくれ」
「“この男は”だと？」
「君も不思議に思っていたのではないかね？ ２重人格にしては精神にその兆候が無いと。
その通りさ。私はこの男――末留の第２人格ではない……そうだな、あえて言うなら“憑依”か」
「警部に、取り付いていたのか……」
「“私”もゼロのような裏の研究に従事していた科学者でね……１００年ほど前に事故で死んだが、
ゼロがここへ呼び寄せ、末留の体を与えてくれたのだよ」
「なるほどな……ということは、“ゼロ”はやはり――メドゥアスか」
霊魂の憑依までお膳立てできるとしたら、死霊使いか魔物くらいしかいない。
その点、パドルが予想していた“ゼロ”の正体――メドゥアスは“魔族の科学者”なので無問題だ。
「少し安心したよ……娘をそれと知って、実験台にしたわけではなかったわけだ」
「第７号実験体のことか……勘の鋭い娘だったよ、我々の計画の１部をかぎつけたから、初期の実験台にした。
そう言えば、石化する直前に父親を呼んでいたな……この顔を見せたからな、さぞや絶望しただろう」
そう言ってにやにやと笑うクリスタ……顔が末留だけに、返って背筋が凍るような冷たさを感じる。
「そうか、ということはあの娘も活性化したか……まず復活しないと思っていたが、思ったより魂が強かったな。
ほぼゼロの計画通りに進んでいるということか、素晴らしいことだ」
「計画通り――だと？」
眉を潜めたパドルに、クリスタ――末留の体に憑依した科学者の霊は、含み笑いを浮かべて言葉を続けた。
「外部からの介入者が実験体を活性化してくれたおかげで、ゼロは計画を加速度的に前進させることができた。
最初は敵だと思っていたが……本当は君たちに感謝すべきかも知れないね」
「組織の裏切り者が増えるのに、都合が悪くないというのか？」
「多くはそう考えるだろうが……私とゼロだけは違う……ふふ、裏切りなどどうでも良いのだよ。
おっと忘れていた……今ではアグネムとセラフィも、我々の思想に感化されているな」
クリスタは不敵にもパドルに歩み寄り、ロビーの中央に置かれている少女像たちを撫でながら語り続ける。
「前に駅前事件が起きた時、セラフィが言った言葉を覚えているかね？――我々が世界をリードする、と。
人類はこの“力”によって、全く新たな種族へと進化するのだよ。
その未来のためには、自らの意思で活動できるメタロイドは、１人でも多い方が良い」
「セラフィは『これからの時代に人間は要らない』と言ったんじゃないのか？」
「多少、語弊がある表現だがね……進化しない人間は要らない、という意味だろうよ」
「ということは――あんたもいずれ、御役御免になる可能性があるわけだ……そうだろ？」
「ふ――勘違いしないでもらいたいな。私の本体に肉体など無い……体など幾らでも替えられる」
「そうかい……それじゃあ早いとこ、その体から出て行ってもらおうか」
「まだそれには早いかな……ふむ、そういう意味では、君たちはやはり我々の敵なのか」
クリスタはそう言って、にわかに殺気を帯びた目つきとなり――指をパチンと鳴らした。
すると――今までクリスタを取り巻いていた“番犬”たちが、にわかに形を変えていくではないか。
皮膚は光沢の強い銀色になり、体は２倍ほどに膨張し、肩口や足先からは長いトゲや爪が突き出てくる。
それはちょうど――セラフィを猛獣にしたような姿をしていた。
「秘密を知った外部の者は、ここから出られない決まりになってるんだ――悪いね」
「済まんが……そちらの決まりなど、こちらの知ったことじゃないんだよ」
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「さて――どうするね、ライカ捜査官。私を連行するか？――この状況で」
“メタロイドたちに包囲された”ライカたち４人を眺めて、メドゥアスはにやにやと笑っている。
蛇の尾のように太く長い“髪”の先も、余裕を示すようにゆらゆらと揺れる。
「そうね――そうさせてくれると嬉しいんだけど？」
「く、はは。全く強気な女だな。――分かっているだろう、それが不可能だと」
（嫌らしい顔で笑うんじゃねぇよオッサン、不可能だって決め付けて欲しくないねっ）
（そうよそうよ、あたしたちを数に入れてないんじゃないの！？）
「ふ、なぜお前たちを数に入れる必要が？――新たな生命体になったとは言ったが、戦力ではなかろう」
（はぁ、戦力ではないって？ あんまりナメてもらっちゃ困るんだけどさぁ）
「ナメたらどうするというのだ、３３号？――その内に同居している“仲間”を開放するかね？」
（――えっ！？）
笑みを絶やさずにメドゥアスが言い放った言葉に、ルイはぎょっとした表情を浮かべた。
彼女の中で“同居している者”の存在を、何故この男は知っているのか。
「このメドゥアスが知らないと思ったか？――どうやら、進化したのは体だけらしいな小娘？」
「ルイちゃん落ち着いて。こいつはある程度透視できるのよ」
「その通りさ。だからお前も怖くないんだライカ捜査官――その体では私に勝てないからな」
（えっ、ライカさん、どういうことですか？）
「代わりに私がバラしてやろう。ライカ捜査官は本来、人間など足元にも寄れぬ力がある、恐らく私もかなうまい。
だが今はこの施設の魔力でメタロイドになっている――つまり、メタロイドの限界を越えることは出来ぬのだ」
「さすが科学者ね、良い目をしているわ。確かに今の体じゃ、出せる能力には限度があるわね」
皮肉交じりに呟くライカ……目つきは――瞳はないが――全く笑ってはいないが。
「メタロイドには素晴らしい可能性がある、だがそれは主に寿命と耐久性であり、戦闘力ではないのだ。
私や組織が、“２次加工を施した者達”以外は――ね」
（何でもお見通しって顔しやがって……このオッサン、ほんとムカつく！）
（上等じゃないの――今、“２次加工を施した者達以外は”って言ったわよね？）
毒づいたユウの横で、そう言ったルイの体が虹色の光を放った。
ルビー色だった髪が銀色に染まり、手足にカラフルな模様が浮き上がっていく。
ルイのメタロード形態――第２ラボで交じり合った、同志たちの力だ。
――同感、コイツ絶対許さない！
――なんか強そうだけど、でもここで引いたらダメだよね。
――だってコイツ、あたしたちをこんな姿にした張本人でしょ？
――そうだよ、絶対止めなきゃ！
（あんたに改造された覚えはないけどさ……あたしだってそういうタイプだと思わない？」
「ルイちゃん……！」
「“みんな”言ってるよ――あんたが最悪だって」
“変身”したルイは、そう言って腕のサイバーナイフを起動した。
ルビー色の腕に刻まれた金色の模様が変形し、鎌のような細長い刃物になる。
ルイと融合した金色の少女――ルイがルキと名付けた少女――の特性を発現した能力だ。
「ふん――分かってないな３３号。１人くらい経験ある者が増えたところで、状況は変わりは――」
「あら、そうでもないわよ？」
「……何が言いたい、ライカ捜査官？」
何を思ったか横槍を挟んだライカに、メドゥアスがぎらりと無機質な目を剥いた。
「確かにこの体に出来ることには限りがあるわ……けれどアンタは１つ、気付いてないことがある。
あたしの“存在場”は――何も変わってないんだってことにね！」
「――！！」
「ルイちゃん、瞳ちゃん、ユウ君、春海ちゃん、気をしっかり持って！！」
ライカがそう声を上げた、次の瞬間。
――ドン。
淡い光がライカから放射され、地下ロビーを衝撃波のように駆け抜けた。
ルイやユウ、瞳、春海は１瞬、意識が抜けそうな感覚を覚えるが、ライカの言葉を思い出し耐える。
物理的な光というより、精神に直接作用する、謎の力だ。
だが――“自意識”が封印されている、他のメタロイドたちは“耐えられなかった”。
「この、女――“霊気の衝撃波”を放ちおったか！！」
「アンタさっき自分で言ったわよね――“変わったのは体だけ”だと……その通りよ！」
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「くふ、ふ――驚いたな、まさかこれほどとは！」
同じ頃――朝陽市の地下に築かれたメドゥアスの第１ラボでも、戦闘が勃発していた。
末留警部の姿をしたナンバー１“クリスタ”が放つ、組織の番犬“メタドッグ”。
安直なネーミングとは裏腹に、その戦闘力はすでに生物兵器のレベルにある。
クマよりも大きな銀色のボディに、突き出した大小のトゲや爪――目はルビーに似た燃えるような赤。
ライフル銃すら弾き返し、戦場を１瞬で血の海にできる“最凶の戦闘生物”が狙うのは、“侵入者”パドルだ。
しかしクリスタが見たのは――ロビーに撒き散らされる“返り血”ではなかった。
壁に深々とめり込むのは、今さっきパドルに飛び掛ったはずの、メタドッグの１体。
振り下ろされる斧のような爪の１撃を交わしたパドルは、その銀色の腹に、渾身の１発をお見舞いしていた。
かつてアイガーやアリエルを、同じように壁に叩き付けた自身の“鉄拳”を。
体重１トンは優にあるはずのメタドッグが、轟音と共に吹き飛ぶとは――さしものクリスタも予期できなかった。
余裕ありげな言葉とは裏腹に、そのこめかみには明らかな冷や汗が浮かんでいる。
――ギャアァアァァアァァァァ！！！
まるでチェーンソーが暴走でもしているような、金属的な咆哮を上げるメタドッグたち。
悪趣味なロビーの風景と相まってまるでゴシックホラーの１場面のようだ。
「どうした？――来いよ、番犬は余所者を排除するのが仕事だろ？」
パドルの拳は、まるで焼入れした鋼のような煙を噴いている。
そんな非常識な湯気を立てる拳を突き出して、パドルはメタドッグたちを煽り立てた。
挑発に対峙するように、メタドッグたちも歯軋りのような奇怪な唸り声を上げてパドルを威嚇する。
今さっき殴り飛ばされた１体も体勢を立て直し、再びパドルに向き直った。
「いいね、戦士はそう来なきゃ――さぁ、もっと踊ろうじゃないか」
――ヴヴヴヴォヲァアァァァ！！
再び飛び出すメタドッグ――その姿はあたかもドラッグレーサーの如く。
力任せに振り下ろされるナタのような大爪――だが、その場にすでにパドルはいない。
――ゴッ――シャァアァァン！！
パドルの鉄拳を受けたか、壁に叩きつけられるメタドッグの上から、別の１体が跳躍して目標を視界に捉える。
だが―― “彼”は気付いていない……その跳躍が命取りであることを。
クリスタが驚嘆して目を見開いた次の瞬間には――跳躍したメタドッグの巨体が真横に吹っ飛んでいた。
その正面からさらにもう１体が――背後からも更に別の１体が挟み撃ちとばかりに突っ込む。
しかしその２体は、クリスタが瞬きした時には共に頭から激突していた。
気配を感じて振り仰いだクリスタの視界に、カモシカのように跳躍した男の影が飛び込む。
「――ちっ！」
思わず飛び退るクリスタ――だがパドルの方が速い。
パドルの手に捉えられる瞬間、クリスタの体が淡く発光した。
「今捕まるわけにはいかんのだよ―― “最終計画”を発動させるまでは！）
がっくり、とパドルの手の中に倒れこむクリスタ――いや、末留警部。
どうやらクリスタ、本来の霊体となって脱出したらしい。
「――逃げたか…… しかし“最終計画”って、これから何をやらかす気だ？」
失神している末留の体を抱き起こすパドル。
「警部……警部、起きてください！」
活を入れ、軽く揺さぶると、末留は間もなく目を開けた。
「……ぅ……ぁ……わ……わた、し、は……？ パド、ル、殿……？」
「えぇそうです、お休みのところ申し訳ないが、起きてください」
「……そうだ……私は……思い出した……そうです、思い出しましたぞ、パドル殿！！」
末留はそう言いながら、がばっ、と起き上がった。
「思い出した？何をです！？」
「私は大変なことをしてしまった、すぐに知らせなければ、もっと大変なことに――！！」
青ざめた顔で末留はそうまくし立てたが、ふと視界に映ったものを見て、血の気を失った。
その顔に覆い被さる――人の形ではない不吉な影。
「――ちぃっ！」
弾き飛ばしている余裕はない――パドルは咄嗟に、末留と影の間に体を突っ込んだ――直後。
――どしゅ。
パドルの肩から真っ赤な鮮血がしぶいた。
背後には、ギリギリギリと金属的な唸り声を上げる、クリスタの番犬メタドッグ。
斧やナタを思わせる爪が、パドルの肩に深々と突き刺さっている。
「ひ……う……あ……あぁあ！」
「ご覧の通り……油断が出来ん状況なのですよ、警部」
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| （第９章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に草稿を作成したエピソード。
“当初の予定”における、最終決戦のゴングが鳴らされた。
（現在では全１２章構成になっているため、このハイライトは最終決戦ではなくなっているのだが）
アクションの１つはライカ対メドゥアス――実は駅前テロ編のライカ対セラフィのアップグレード版である。
厳密には４話以降の展開になるが、ラスボスを張るだけあって、メドゥアス自身も「戦える」のだ。
「ラスボスが敵の中で最強」なのはステレオタイプだが、最も燃えることも確かなのである（笑）
もちろんルイやユウたち鉱物娘たちも見ているだけでなく、ちゃんと見せ場を用意している。
もう１つはホルス対ネメシスとアイガー対アリエルの、メドゥアス工作員因縁対決。
双方“金属怪人”状態で、しかも駅前編と違って屋内戦なので、障害物も結構多い中で斬り合うわけだ。
そしてこちらでも、鉱物娘たちがホルスやアイガーをフォローして活躍する。
天井からぶら下げたチェーンは、家具などを運ぶための道具だが、今回は武器になるのだ。
ほとんどの鉱物娘に「戦闘力はない」のだが、それは道具と戦術である程度カバー可能なのである。
そしてある意味１番派手なアクションになるのが、パドル対メタドッグである。
メタドッグは取って付けた番犬ではない……２章に登場させた黄金ネズミが既に伏線になっている。
そしてメタロードと同じく、この狂気の生物実験の「兵器としての側面」を象徴する存在である。
全身凶器の金属の猛獣など実際に存在したら、ほとんどの陸戦兵器が存在意義を失うに違いない。
そしてこんなヤバい生物兵器と戦えるのも、パドルくらいしかいないのだ。 |
