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★ＸＥＫＲＯＭ 統合ナンバー：EA-ATT19301N（N-003） |
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「――うわぁっ、やめろぉっ――！！？」
アイルはふと――叫び声を上げた。
気付くとそこは、数日前に迷い込んだ“ゼクローム遺跡”の１角。
真紅の装甲服と融合した肉体の状態を安定化させるための、硬いイスに座った状態であり、
先ほどまで浅い眠りに落ちていたようである。
溜息を吐きながら、アイルは周囲を見渡す。
遺跡というよりも、工場のような風景の中に、似たような人影が並んでいる。
いずれも無骨な装甲をまとい、全く表情を見せない。
アイルと“同期”だった青年――アデルもその中に見えている。
かつてアイルをいじめ抜いた彼も今や自我が失われ、まるで人形のように沈黙している。
ここに来てから何度か呼びかけたが――やっぱり返事はなかった。
改めて、今度は深い溜息を吐くアイル。
真紅の装甲に覆われた無骨な手の平で、自分の顔を抱え込み、わずかにうつむく。
この無感情な集団の中で、彼だけが自分の意思を持って活動出来るらしい。
何故なのか――アイルはそれを遺跡の番人、ザナから聞いた。
――あなたはゼクロームを開放する、選ばれた“勇者”の１人なのです――
「勇者だったら……なんでこんな目に遭わせるんだよ」
そしてアイルの苦悩は、ザナから言われた言葉だけではなかった。
先ほどの浅い眠りの中で見た夢――しかしそれは、ただの夢ではなかった。
この真紅の装甲の“先代の持ち主”の記憶が、保存されて再生されたものだったのだ。
“先代”は激しい戦争の中で、敵兵を次々に始末する、無常な指揮官の１人だったらしい。
中には敵の将校だろうか、命乞いをする者もいたが、容赦なく始末された。
真っ赤な手の平から解き放たれた熱線が、敵兵の肉体を刺し貫き、呆気なく粉砕する。
その遺骸を瓦礫のように踏み越えて、更に屍の山を築いていくのだ。
まだ若い少年のアイルにとって、それは悪夢でしかなかった。
「これは……僕の記憶じゃないのに……！」
呟くようにそう言って、アイルは夢でも見た、その真っ赤な手の平を固く握り締めた。
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ＸＥＫＲＯＭ
ゼクローム――鋼の勇者達
★ 第３話 盟友との再会 ★
（想定年代：BWO033頃）
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「いやー、助かったわ、俺セリア、セリア・エリムね、宜しくｗ」
「……ザン、ヴァルク・ザンだ」
そしてこちらは這々の体で追っ手を交わしたザンとスラム街の少年。
セリアと名乗る少年は、屈託のない笑顔を振りまくが、ザンは苦笑しかない。
この少年の身勝手とも言える行動で、レセウスの治安局に余計な疑いを持たれてしまった。
「ザンさんね、何だよー、もっと笑ったら良いのに、イケメンだから似合うよ？」
「……キミはさっき自分が何をしたか、覚えてないのかい？」
「忘れるわけないじゃん、あいつら暴力しか振舞わないから、良い気味だったよｗ」
「そういうことじゃない、初対面の俺を巻き込んで、キミは何とも思っていないのかってことだ」
ザンが少し強めの口調でそう言うと、セリアはちょっと神妙な表情になった。
「悪かったとは思ってるよ……だから助けたんじゃんか」
「疑うのは失礼かも知れないが、キミも連中に疑われることをしていたのだろう。
だが過剰な暴力は良くないと思ったから、声をかけたんだ……こういう展開は予想外だったがね」
「あそこじゃ何でもアリだよ、フライヤーをバラして部品を売るくらい、誰でもやってる」
「まぁそうだろうな……連中のあの態度だと、治安も本質的には良くならんだろう」
「そっ、そうだよな、あんたもそう思うだろ？」
「だがそれとこれは別だ……赤の他人をトラブルに巻き込むのは、感心しない行為だ」
ザンがそうたしなめると、セリアは再びしゅん、とうつむいた……ザンは小さな溜息を吐く。
「とはいえ……街を出てしまった以上、あそこには簡単には戻れない……どうすれば良いかな？」
「そーいやここって“遺跡地区”なんだよね……なんかお宝ないかなぁ？」
「――遺跡地区？」
聞き慣れない言葉を聞いて、ふとザンは首を傾げた。
「遺跡地区、知らない？」
「リドムスのガイド情報には載っていなかったが……」
「あ、ザンさんって、リドムスから来たんだ……道理で垢抜けてると……」
「説明を続けてもらって良いかな？」
「あ、うん……えっとね、何千年も前の“基地”の遺跡だって、言われてるところなんだよ」
「基地の遺跡、か……」
ザンはそう呟いて、景色を振り仰ぐ。
オープンフライヤーを停めたここいらは、平原地帯から少し離れた小さな渓谷地帯であり、
灌木がまばらに散らばる、赤茶けた岩肌が波打つように続いている。
そしてその“足下”そこかしこに、洞窟のような小さな横穴が開いているのが見えた。
「基地の遺跡だったら、何かあったとしても、宝物とは少し違うんじゃないか？」
「昔の武器とかでも良いんだよ、売れるものならねｗ」
「なるほど……確かに“財宝”でなければならないことはないか……」
リドムスのガイドに書かれていなかったということは、有名な観光地の類ではないのだろう。
元より、リドムスの繁栄から寄り残されたようなこの惑星に、人気観光地があるとも思えないが。
とはいえ、普通ならそんな場所でも、勝手に遺物を盗むのは窃盗行為に当たる。
もっともさっき実際にフライヤーの部品を盗もうとしていた、この少年に言っても聞くまいが。
ザンはそんなことを考えながら、洞窟を物色して回るセリアの後ろ姿を眺めていた。
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洞窟を物色し続けていた、セリアの動きがふと、止まった。
そこは周囲よりもやや大きく、奥行きも結構深そうな洞窟に見える。
だが――セリアは洞窟の奥ではなく、何故か足下を眺めている。
「――どうした？」
「ザンさん、これ見て……誰かが先に、この洞窟に入っていったんだよ」
ザンが近づくと、洞窟の入口に複数の荷物が置かれていた。
砂を被っているが、それほど古いものでもない……比較的最近、誰かがここに来たのだ。
しかし荷物だけ放り出して、その“誰か”はどこに行ったというのだろう。
「この荷物の持ち主が、まだ洞窟の中にいるのか……？」
「もしかして、“遺跡の主”に食べられちゃったんじゃ……」
「……猛獣でも棲んでるというのか？」
「そういうウワサがあるんだよ……猛獣かどうか分からないけど、遺跡の主がいるって――」
そこまで言ったセリアがふと、目の前の荷物を凝視して固まった。
「……今度は何を見つけたんだ？」
「アイル……アイルがこの洞窟の、奥にいるのか……！？」
「アイル？ キミの知り合いか？」
「幼馴染、って言ったら良いのかな……もう何年も会ってないけど……」
そう言ってセリアは、砂を被った複数の荷物の中の、比較的小さなものを持ち上げた。
その荷物の上には確かに、ベーシックの文字で“アイル・レティエル”と書かれている。
大きな荷物の方には“アデル・キリグ”と書かれているようだ。
「もしかしてアイル、中で迷っちゃったのかも知れない……！」
「おい待ちなさい、１人で入るのはさすがに危険だ――」
だが――数秒ほど遅かったようだ。
「えっ――ぅわ、わぁあぁぁ――！！？」
洞窟に踏み込んでわずか数秒後、セリアの少し間が抜けたような悲鳴が木霊してきた。
ザンは再び、小さな溜息を吐く。
「言わんこっちゃない……！」
続いてザンも洞窟に踏み込む――そしてすぐに気付いた。
急角度の“斜坑”が、外光の届かない暗がりのすぐ奥から続いていたのである。
「足下はよく確認しないとな……」
誰ともなくそう呟きながら、ザンはその斜坑を滑り降りていった。
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間もなくザンは、尻餅をついているセリアと斜坑の底で再会した。
「あっザンさん、良かったぁ、助かったよぉ」
「キミも結構無鉄砲だな、何かあるかも知らないのに１人で踏み込むなんて無謀だ」
「だって、この中にアイルがいると思ったら……」
そんなセリアの頭を、ザンはわしゃわしゃと撫でた。
「キミは友達想いだな……素晴らしいことだが、もう少し自分の身を省みるべきだ」
「ご、ごめん……なさい」
もう何度目か――しゅんと項垂れるセリアの横で、ザンは洞窟の壁に触っていた。
「この壁――自然に出来たものじゃないな」
「えっ……じゃあやっぱり、ここに遺跡が……」
「何があるかは俺にも分からんが、人工物があることだけは間違いないようだ――」
そこまでザンが言った時。
規則正しい足音のような音と、機械音のようなものが、奥の方から聞こえてきた。
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ザンとセリアが「滑り落ちた」地下の遺跡。
そこで２人は、新たな“歓迎”を受けることになった。
「遺跡の主というのは、こいつらのことか……！」
「なっ何……えっ、えぇえぇーーー！！？」
頭だけがない、無骨な鎧の集団――その数４、５体ほどだろうか。
まるでゾンビのように両手を突き出して、無言でゆっくりと歩いてやってくる。
「何これ……頭がない、お化け！？」
「そうじゃない、これは自立プログラムが仕込まれた装甲兵だ」
「ロボットってこと？ ――じゃあどうして、頭が付いてないんだよ！？」
「話には聞いていたが……お目にかかるのは俺も初めてだ」
「えっ、ザンさん……知ってるの？」
「あぁ、こいつは“ゼクローム・ノイド”……数千年前の戦争で使われた強化兵さ」
そう言いながら、ザンは自分の前までやってきた、先頭の装甲兵を掌打で突き飛ばす。
ただの掌打ではない……瞬間的なモーションから大きな応力を生む１撃であり、
突き飛ばされた装甲兵は仲間数体を巻き込みながら、通路の奥に吹っ飛ばされる。
初めてザンが見せた“戦闘力”に、セリアも目を見開いた。
何しろ先ほど――町中で絡まれた時には、相手の攻撃をひたすら交わすだけだったからだ。
「うわっスゴい……何だよザンさん、普通に戦えるんじゃんか！」
「見せびらかすモンじゃないからな……むっ、どうやら、前だけじゃないようだ」
「わっ、後ろからも……囲まれた！？」
ザンは迫り来る装甲兵、いや「頭のないゼクローム・ノイド」を掌打で突き飛ばすが、
狭い通路では決定打にならない……突き飛ばされた方も、10秒ほどで起き上がってくるのだ。
しかもセリアを放置するわけには行かない……庇いながら応戦する必要がある。
応戦しながら逃げる２人……その途中で、しかしザンは“ある気配”に気付いていた。
「こいつら……俺たちをどこかに“誘い込もうとしている”ようだな」
「や……やっぱり猛獣の餌場！？ 俺まだ、死にたくないよ！」
おいおい、キミが勝手に踏み込んでいったんじゃないか――ザンがそう言いかけた時である。
「あっ、誰か立ってる……？」
セリアが通路の奥に“新手”の影を見つけた……似たような装甲兵のようであるが、
こちらは他の装甲兵よりも長身であり、全身真紅の装甲に覆われている。
そしてその“顔”を見たセリアが、呆然とした表情を浮かべた。
「えっ……あ、アイル……？」
真紅の装甲に覆われた装甲兵には、他の装甲兵と違って“顔”があり、
そしてその顔は体格とは不釣り合いなほど幼かったのだ……身長は２ｍ近いのだが、
顔だけ見ると幼い少年のように見えるのである。
真紅の装甲兵は黙っている……少し悲しげな表情にも見える。
その口が開きかけた時――先に声を出したのはセリアの方であった。
「そ、そんな……イヤだよアイル……こんな、こんな……イヤだ……！」
目に涙を浮かべ、プルプルと肩を震わせるセリア……よほどショックだったのだろう。
すると真紅の装甲兵はおもむろに脚を踏み出すと、その小さな肩をぐっと掴んだ。
ビクッと痙攣し、怯えるような表情を浮かべるセリア――だが。
「大丈夫――セリア、僕だよ、アイルだ……信じられないだろうけど！」
自らアイルと名乗った真紅の装甲兵は、そう言って周囲の装甲兵に手を振った。
すると２人を包囲していた装甲兵たちが、するするとその包囲を解いて散会していく。
「脅かしてごめんな、セリア……でも、誰かに知って欲しかったんだ」
「あ……アイル……ホントに、アイルなんだな？」
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数分後――２人は遺跡の中枢部に“招待”されていた。
アイルが案内したのは、自身がゼクローム・ノイドに変異した時、引き寄せられた場所だ。
そこには頭部まで包み込まれた、女性型の装甲兵が静かに立っていた。
「――彼女が“ザナ”です……僕は彼女から、全てを聞きました」
「見たところ、相当に古いようだが……」
ザンの言葉に、アイルは寂しそうな表情を浮かべて、静かに頷く。
「3,500年も前に改造された人らしいです……そして僕に最後の情報を伝えて、止まりました」
「止まったって、どういうこと？」
「既に機能を停止したってことだよ、セリア……彼女はもう、実質的に亡くなっている」
確かにその女性型の装甲兵は、目に当たる結晶体が既に光を失っている。
最初にアイルと遭遇した時には、まだ光があったのだが。
アイルはザナに近づくと、真紅の装甲に覆われた掌を、その胴体に近づけた。
するとザナの胴体の装甲が音もなく展開した……ただしその中はほとんど空洞になっており、
バネのようなパーツに、朽ちた骨のかけらのようなものが挟まっている。
肉体はおろか、骨まで朽ち果てるほどの時間、ザナはこの基地を守り続けてきたのだ。
「こんな状態になっても、彼女はキミに情報を伝えようとしたんだな……」
「ほんと、凄い執念ですよね……僕にはとても、真似できません」
アイルはそう言うと、おもむろにザンとセリアに向き直った。
「正直なこと言うと、僕自身、今も気持ちの整理が付いてません……いきなり同化されて、
ここに誘導されて、『あなたが選ばれた勇者です』って言われてもわけ分かんないですよ」
「確かに強引なやり方だな……まぁそのくらい、彼女には残された時間がなかったのだろうが」
「で、でもさ……選ばれた勇者ってスゴくない？」
「言葉だけ聞くと確かにヒーローみたいだけど……そのためにこの体で生きなきゃならない、
そう聞いたら、セリアはそれを喜んで受け入れるかい？」
アイルに諭されて、セリアは黙り込んだ。
いつでも着脱できるパワードスーツではない……この装甲服は「脱げない」のである。
「ザナは『戦火に汚れていない、あなただから相応しい』と言いました。
ゼクロームが抱えてきた、汚れたカルマを清算しないと、悲劇が繰り返されるって」
「悲劇か……今回の調査で感じた違和感の正体は、これかも知れんな」
「え、調査って何？」
ザンの言葉にきょとん、とするセリア……そう言えば“任務”の話はまだ彼にはしていない。
しかしアイルにはある程度“お見通し”だったようである。
「ディガス大使の方ですよね……ザナから譲り受けたデータに、あなたの情報がありました」
「なるほど……つまりタイランタのデータベースでは、俺は既にマーク済みってことか」
「えぇっ、ディガスの人だったんだ、ただ者じゃないなって思ってはいたけどね」
アイルはザンの言葉に、小さく頷いた――しかしその目には“決意”が見えている。
「連邦が何かを始めようとしている、それを調査しに来たんじゃないですか？
ザナも連邦が新たに何かを始めようとしていると察して、強い懸念を持っていたみたいです」
「彼女も連邦の人間だろうに、憂いがあったんだな……」
「それは僕もセリアも同じですよ……みんな連邦圏の住人ですからね。
でも連邦が新たに戦争の準備をしていると聞いたら、不安を感じないわけがないですよ」
「連邦の権力層が乱暴なのは、レセウスでも有名だからねっ」
「だから――僕もあなたの調査に同行させて欲しいんです！」
そう迫るアイルに、しかしザンは慎重な言葉を返す。
「協力してくれるのは有難いが……連邦にとって不都合な情報を暴露することになり得るからな。
俺に付いてくるなら、残念だがキミ自身の安全も、保障は出来ない」
「大丈夫ですよ、前の僕ならともかく、今の僕は“ゼクローム・ノイド”ですからね。
望んだ能力ではないですけど、生半可な危険は自力でどうにか出来るという自信があります」
アイルはそう言って、真紅の装甲に覆われた掌をギュッと握り締めた。
「この装甲の使用者は、何度も戦火を経験してきたらしくて……僕自身は未経験なんですけど、
この装甲にはその記憶が記録されているんですよ……だから僕にも不思議な自信があるんです。
勇者なんておこがましいですけど、今の能力が役立つなら、役立ててみたいです」
「おぉ……カッコいいぜアイル、何かヒーローみたいだ！」
にこやかに笑う“幼馴染”に、アイルは思わず苦笑した。
「セリアは……全然変わってないなぁ」
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「しかし……俺の調査に付き合うというんなら、この基地を出て行くことになるぞ？
キミはザナから、ここの門番を託されたんじゃないのか？」
「うーん……ザナは僕に『ゼクローム・ノイドのカルマを清算して欲しい』とは言ってましたが、
『この基地を自分に代わって守って欲しい』とは言ってませんでしたけどね。
それに僕自身、この基地の全てを把握してるわけじゃないんですよ」
「あれ、そうなんだ？」
相変わらずきょとんとした表情で相槌を打つセリアに、再びアイルが頷く。
「ザナが維持してきた記憶メモリも完全じゃないみたいで、未知のゾーンがあるらしいんです。
だから僕がこの基地を守り抜けるほど、全てを知ってるわけじゃなくて」
「ってことは、まだ見ぬお宝が眠ってる可能性もあるとｗ」
再び目をキラキラと輝かせたセリアに、ザンとアイルが同時に溜息を吐いた。
「キミね……さっきの通路での恐怖体験、もう忘れたのかい？」
「セリアの冒険心は買うけれど……僕も知らない領域に行くのはさすがに危ないよ」
「それはほら、アイルが援護してくれたら良いんじゃないかな……その未知のゾーンにさ、
これからの旅路に必要なものが、眠ってるかも知れないじゃん？」
力説するセリアに、アイルは再び小さな溜息を吐くと、すっと立ち上がった。
「しょうがないな……じゃあ僕が付いていくよ、危なかったらすぐ引き返すからね？」
「ありがとぉ、やっぱ持つべき者は親友だねっ」
「俺も付いていこう、どうせ３人だ、大人数じゃないから融通は利く。
それに本当に役に立ちそうなものがあった場合、判断力のある者は多い方が良いだろう」
「なんかすいません、セリアのために……この子手癖が悪いから」
アイルがそう言うと、セリアはむくれ、ザンは苦笑した。
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遺跡化した古代の基地は、何層にも積み重なるように拡がっていた。
アイルが真紅の装甲と融合を強いられたのは、まだまだ上層部のゾーンだったようである。
その下に更に数層、半ば朽ちた倉庫や整備室などが拡がっており、
最下層はアイルも把握出来ていない、まさしく未知の領域になっていた。
硬い金属の材質になったアイルの足底が、彼自身も訪れたことのない床に硬い足音を響かせる。
「このフロアは僕もよく分かってないんですよね……ザナの記憶メモリにもなかったと思う」
「壁材などが上のフロアと違うから、同じ時代のものじゃないのかも知れんな」
「いいねぇ、これこそトレジャーハンターの血が騒ぐってモンさｗ」
「調子良いんだからセリアは」
最下層の通路はひっそりと静まり返っている……上階にいたゼクローム兵の姿もない。
「ゼクローム・ノイドが開発される前にも、連邦は似たような生物兵器を研究していたらしい。
詳しくは俺も把握出来てないんだが、連邦のジェネティック開発史は長いからな」
「そうなんですね……スタディセンターじゃ学んだことのない情報です」
「そりゃあ軍事機密だからな、そういう場所じゃまず、出て来ないだろうよ」
「あっ……なんか開けた部屋がある！」
ザンとアイルが会話しながら歩いていると、先行していたセリアから声が上がった。
２人は少し歩く速度を早めて、セリアに追いつく。
静かで薄暗い通路の突き当たりに、広間のような空間が１つ、広がっていた。
通路はそこで途切れており、枝分かれする道も見えていない。
“広間”は不気味なほど茫漠とした空間になっており、何も置かれていない。
「ちぇっ……何にもないや……今度こそ、お宝があるかもと思ってたのにさぁ」
「セリア、ここはいちおう軍事基地だよ……勘違いしないでね」
「それにしても本当に何もないな……あるいは昔はあったが、持ち去られたという可能性も……」
「えぇっ、それじゃあ、誰かが盗んで行ったのか！？ 酷い！」
キミが言えた義理かと、ザンやアイルが苦笑した――その時である。
セリアが立っている場所からエメラルドグリーンの光芒が立ち上がり、セリアを包み込んだ。
「えっ、何この光――」
「セリア！？」
「しまった――こいつは罠だったか！」
２人が“異変”に気付いた時には、セリアの姿は消え去っていた。
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どれだけ経ったのだろう――ふとセリアは目を覚ました。
薄暗い広間に倒れているようだ……さっきの広間に似ているが、ザンとアイルの姿は見えない。
「アイル？ ザンさん？ ――うぅ、どこにいるんだよ、返事してよ！」
セリアは不安に駆られて大きな声を上げるが、エコーのように木霊して消えていくだけだ。
さすがに、手癖の悪い自分の行為のバチが当たったのか。
セリアは起き上がると、時折幼馴染やディガス大使の名を呼びながら歩き始めた。
「おぉーい、アイルぅ〜、ザンさぁ〜ん、どこにいるんだよぉ〜」
やっぱり反応はない……とぼとぼと歩き続けるセリアだったが、ふと変な違和感を覚えた。
足下の感覚がおかしい……高反発のクッションを踏んでいるかのような、妙な弾力性だ。
ふと見下ろすと、放射状の繊維が足下から周囲に広がっているように見える。
通路をずっと歩いてきたと思っていたが、気付けば硬い布の塊のようなものの上にいたのだ。
布の塊は細長い包帯の束のようにも見える……しかし色は光沢を帯びた藍色だ。
「えっちょ……何だよ、これ！？」
その言葉に反応するように、布の塊のような物体はむくり、と持ち上がった。
そしてそのまま――セリアの体を包み込むように「襲いかかってきた」のである。
セリアは思わず逃げ出そうとしたが、足首は既に布に絡め取られたように身動きが取れない。
もがいている間にも、布の束のようなものがセリアの脚に巻き付き、
更に下半身から胴体へと、縛り上げるようにセリアの体を包み込んでいくのだ。
「何これ、ヤだ、誰か……助けて――！！」
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「どうやら――この壁の向こうに、もう１つ別の部屋があるようだな」
こちらはアイルとザンがいる広間……ザンが壁の向こうを見通すように、目を細めて凝視する。
「壁の向こうが見えるんですか！？」
「ハッキリとは見えないがね……タキオン破を遮断するということは、間に特殊な層があるな」
「僕には全く見えないです……普通の壁なら、この体でも透視出来るみたいですが」
アイルはそう言って、深紅の拳を握り締める。
ザナが「特別な体」と表現した、指揮官クラスのゼクロームノイドでも、難しいようだ。
「ラトリアンの能力でも透視が難しいとか……全く、古代に作られたとは思えんな」
「えっ、ザンさんって、ラトリアンなんですか！？」
「あぁ、いちおうな……まだ若手だが」
謙遜するザンだが、アイルは驚きを隠せないようである。
どうやら彼自身の知識か、スーツの記憶が、ラトリアンの“正体”を知っているようだ。
「イグザ銀河系出身の“戦神族”ですよね……アトラス銀河系のどの種族よりも強大だとか」
「そいつは買い被り過ぎだな……確かにラトリアンはザイオノイドだが、上には上がいるものさ」
ザンが苦笑しながらそう言った時――背後で軽い駆動音がした。
はっとして２人が振り返るのと、広間の手前にあった通路が「閉じられる」のがほぼ同時だった。
「あっ――しまった！」
「ちっ、今度は物理的に閉じ込めに来たか！」
「大丈夫です、こっちの扉には変な細工はないみたいだから、破ろうと思えば――」
アイルがそう言って、手の平にエネルギーを込めかけた時――今度は逆に奥の壁が動き始めた。
「えっ――今度はそっち！？」
「ほぅ……どうやら、俺たちを奥の部屋に招待してくれるらしい――どうする、行くか？」
「行きましょう、ザンさん……きっと、セリアがそこにいます！」
アイルのその言葉に、ザンは再び苦笑した。
「この向こうに、彼がいるという確証はない……それでもキミは行くか？」
「この基地はそっちに誘導してるんですよね……だとしたら何かがあるはずです、僕は賭けたい！」
アイルの目は淡い光を帯びている……スーツの機能なのか、それとも決意の眼光なのか。
それを見届けたザンは、小さく頷いた。
「分かった、じゃあ先に行ってくれ――俺が背後を確認しながら、キミを援護する」
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| （第４話に続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2025年に作成したエピソードだが、草案は1990年代にほぼ固まっていた。
セリアという名前を聞いて思い当たる常連諸氏もいるだろう……そう、実はこのキャラもまた、
アイルとは違う系統のジェネティックに、変異する運命を持っているキャラである。
そこに至る経緯を、このエピソードでは書いているのだ。
セリアがザンと共に“セクローム遺跡”に踏み込み、ゼクローム化したアイルと出遭う展開は、
1990年代の草案の段階で、大まかには出来上がっていたシナリオだ。
また2012年頃にも、この第３話のベースになる書き出しを試作的に始めていた経緯があり、
書き出しの数行ほどは、そこから転記して改修を加えたものだったりする。
（ただしアイルが悪夢にうなされるシーンは後から追加している）
ただそれ以降のテキストは2025年に書いており、そのまま勢いで書き切った（爆）
プロローグを統合した第１話、それに続く第２話に比べて、この第３話は少し話が短いのだが、
ここで切った方が、後の展開をまとめられると踏んだ編集の結果である。
実は執筆中に多少迷いがあり、クライマックスを煽るシーンを入れようかとも思ったが、
それを入れると「逆に無駄な長さになりそう」に見えたため、オミットした（汗） |
