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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E055） |
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あたしの名前はエミ。
意識が蘇った、その瞬間からこの体は、緑色の石だった。
もちろん、意識が蘇る前にあたしが何者だったのか、そんなことは知らない。
エミという名前も、赤い石の体を持つ少女――ルイさんに付けてもらったもの。
でもあたしは気に入っている……なんか、本当の名前みたいな気がしたから。
昔の記憶が無くても、その名前とルイさんたちのおかげで、頑張れる気がした。
けれども……運命というのは、そんなに生温いものじゃなかったみたい。
今日――あたしは、そのことを思い知ることになった。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第５章 常識という名の壁 ★
第５話 近くて遠い家族
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「――はい、もう動けるはずよ……念じてみて」
ライカさんの声に反応するように、ゆっくりと腕を動かすのはサヤさん。
今日……動けるようにしてもらったばかりの、あたしと同じ鉱物娘。
オパールに似た、半透明の黒い石の体で、結構背の高い人。
いや、あたしと同じじゃないな……サヤさんには、人間だった時の記憶があるもの。
（……凄い……夢みたい……）
その言葉の意味は、多分２つあると思う。
１つは、石の体が動くという“奇跡”を目の当たりにした、正直な感想。
そしてもう１つは、「できるなら夢であって欲しい」という本音。
だって……これからこの石の体で、サヤさんは生きていかなきゃならないんだもん。
人間だった時の記憶があるってことは、家族の記憶があるってことだろうし。
あたしはよく分かんないけど、「夢なら醒めて欲しい」って思うんじゃないかな、多分。
ルイさんは「昔の人間関係に未練はない」って言うけど、そういう人はきっと少ない。
「さて……次はアナタね」
そう言って、ライカさんは隣の少女像へと向かった。
ルイさんに良く似た、半透明の赤い石の少女……違うのは髪がやや長いことぐらい。
この少女――ミカさんも確か、人間だった時の記憶があった。
（――どうしたんですか、エミさん？）
（……え、どうしたって？）
今、あたしに“声”をかけてきたのはスイちゃん。
その“名”の通り、翡翠みたいな色合いの、小柄な鉱物娘――多分、小学生ぐらい。
（えーと……なんか、考え事してそうだったから）
（あぁ……あはは、気にしなくてもいいんだよスイちゃん、何でもないから♪）
スイちゃんには、人間だった時の記憶がほとんどないらしい。
可哀想と言えば可愛そうだけど、その記憶で悩むことがないって意味じゃ、まだ気が楽だと思う。
ライカさんの手の平が、ミカさんの背中で淡い光を放つ。
目を閉じて“魔法”をかけるライカさんは、心なしか女神みたいに見えた。
それにしても……なんか一気に“仲間”が増えたなぁ。
コナさんに、ユウさんに、ルミさんにサヤさんにミカさん。
それと更に、今日もう１人、動けるようにしてあげるってライカさん言ってた気がするし。
えーと確か……向こうに立っている、黄緑色の半透明の少女像だっけ。
こっちの子には昔の記憶が無くて、サラさんが“リン”って名前を付けてあげたみたい。
そしてこの子達以外にも、今は何人も、意識を取り戻している。
中でもパドルさんが「ある意味奇跡」と言ってたのが、１番奥に立っているステンレス色の子。
あの山の中の施設に放置されてた被害者――あたしもその１人――では、１番古いらしい。
パドルさんが言うには、「金属化された被害者は意識の停滞が顕著で復帰も難しい」らしくて、
「彼女の場合２年も意識が停止していたのに、奇跡的に復活した」んだって。
でもやっぱり記憶を失ってて、ルイさんが“ジュリ”って名前を提案してた。
あたしも話しかけたことがあるけど、おっとりした性格が、どこかサラさんに似てる。
“ジュリ”さんの横に立っているのは、確かコナさんだっけ……輝くような金色の鉱物娘。
自分と同じ金属系のジュリさんに関心があるらしく、盛んに語りかけている。
コナさん自身、昨日動けるようになったばかりで、まだ歩くのも大変なのになぁ。
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リンさんの活性化処理を見届けてから、あたしは保管庫を出た。
毎日何人も新しい“仲間”が生まれてる保管庫は今凄くホットだけど、
１日中いたって仕方ない……あたしももっと努力しなきゃ。
そう……ルイさんみたいに、人間と同じように駆け回るのが目標なんだから。
最近やっと、小走りに加えてジャンプぐらいならできるようになったけど、まだまだ。
スイちゃんなんか、動けるようになってまだ１週間も経ってないのに、
もう不自由なく歩けるぐらいになってるもんね……ほんと、成長のスピードが凄い。
表情も作れるようになったみたいで、時々笑顔を作って見せてくれる。
（よーしっ、あたしももっと頑張らないと――あ、ユウさん）
１階の真ん中くらいにある、トレーニング室にあたしが入ると、
手すり伝いにリハビリ――歩く訓練をしている、ユウさんの姿が目に入った。
アメジストそっくりの、半透明の深い紫色の体を持つ鉱物娘……だけど、元は男の子なんだって。
語りかけてみないと、とても気付かないぐらい、可愛い女の子なんだけどね。
（……あ……えと、確か……エミ、さん……だよ、ね……）
（あ、さん付けしなくってもいいですよ、多分ユウさんの方が年上だと思いますし♪）
（……あぁ……そ、そう……なんだ……）
そう言えば……確かユウさんにも、昔の記憶があるんだっけ――元少年だって覚えてるわけだし。
ある意味、この人も散々な目に遭ってるよね……女の子にされた上に、石像にされたんだから。
やっぱり悩んでるのかな……そんな素振りは見せないけど、気にならないはずないだろうし。
あたしがユウさんと“会話”していたら、廊下の方から、小さな足音が聞こえた。
この足音は確か……スイちゃんだね。
（――あ、エミさんも来てたんですね♪）
（あら、スイちゃんも運動？）
（はいっ♪ エミさんみたいに、早くなりたいんです）
あたしみたいに、だなんて……まだまだなのに、照れるなぁ。
（よーし、それじゃ、腕相撲でもしてみない？）
（腕相撲……ですか？）
（そう、スイちゃんもう、普通に動かせるでしょ）
（で、でも……そんなに力、出ないし……）
（大丈夫大丈夫、あたしだって自身がないから♪）
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スイちゃんと別れたあたしは、談話室に向かった。
いやそれにしても、スイちゃん本当に真剣だったなぁ。
ユウさんまで、思わず立ち止まって眺めてたし。
あ、ルイさんだ……ＴＶを見て……る……！？
そこで……談話室の前であたしは……ＴＶの画面に釘付けになった。
ＴＶでは、報道特番らしき番組をやっていた。
その画面の中で、アナウンサーが１つの事件を扱っていた。
アナウンサーが広げる写真には、小学校高学年ぐらいの、少女の顔が。
『この写真は……行方不明になっている少女の１人、木下恵美ちゃんです』
その言葉を聞いた瞬間――――あたしの中で、何かが音を立てて崩れる気がした。
ルイさんが、ふとあたしの方を見た――まるで今、あたしの存在に気付いたみたいに。
多分……よっぽど集中して、ＴＶを見ていたんだろう。
何て言っていいのか分からないような、複雑な表情。
無理もないよね……だって、その“行方不明者の少女”が、あたしにそっくりだったんだから。
（………………え……エミ、ちゃん……き、きっと……ぐ、偶然だよ）
何とか、空気をほぐそうとするルイさん。
でも……あたしには聞こえていなかった――いや、ルイさんの姿も見えてなかった。
あたしがその時“見ていた”のは、まるでビデオを逆再生するような景色。
それは――この体になってから、ずっと失われていた……いや、“封印”されていた、あたしの記憶。
厳重に縛られていた紐が、朽ちて崩れ去るように、“なかったはずの過去”が、解凍されて行く。
残酷なまでに鮮明な、幻の映像として。
ＴＶに映っていたのは、他人の空似なんかじゃなかった。
あたしの中で蘇った“それ”が、そのことを断定していたから。
（………………エミ、ちゃん…………？）
（……………………そっか…………あたし…………本当に、エミって、名前だったんだ…………）
あたしはギリギリ虚勢を張って、それだけ――搾り出すのが……精一杯だった。
そう――――エミというのは……あたしの“実名”だったの。
木下恵美、市立朝陽東小学校６年生。
といっても……それは２年近く前の話だけど。
両親はあたしが小学校低学年の時に離婚して、お母さんが１人であたしを育ててくれた。
兄弟姉妹のいない１人っ子で、昼間はお母さんが働いてるから、ついでに鍵っ子。
夜はよく、お母さんに宿題の分からないところを聞いたりしたっけ。
でもお母さん、「母さんも分からないの」って逃げたんだよなぁ……小学生の問題なのに。
そう……あたしは生まれた時から、この町――朝陽市に住んでいた。
そして……小学校まで一緒で、あたしの幼馴染だったのが、“あの”日ノ本春海ちゃん。
春海ちゃんがあたしの顔を見て驚いたはずだよね……昔の友達だったんだから。
そして……２年近く前のあの日、春海ちゃんと分かれて、帰宅中に行方不明になった。
家への近道だった林道で。
背後から突然現れた、黒ずくめの男たちに。
全部――――そう、全部……思い出した。
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（エミちゃん……入っていい？）
あたしが自分の個室で１人でいると、ルイさんが入ってきた。
すごく……申し訳なさそうな顔。
（ごめんね……あんな番組……見なきゃ良かった）
でも、あたしは何も言わずに、首を振った。
知らなければ、今までどおり、このセンターでの暮らしが続いたんだろう。
見なければ、封印された記憶も、ずっとお蔵入りのままだったんだろう。
こんな風に俯いて、自分の部屋に閉じこもることだってなかった。
でも……いつかは、分かることだったかも知れない。
春海ちゃんが、あたしに打ち明けてくれる日が来たかも知れない。
そんな日が……そう、ほんの少し、早く来ただけなんだ。
（ルイさんが謝ることなんて……運命だったんですよ、多分）
そもそも談話室にＴＶを置いたのも、最新の情報を得るため。
センターで保護されている鉱物娘たちが、少しでも人間的な生活を感じるため。
“知らない方が幸せ”だったのなら、ＴＶなんか置かなかっただろう。
あたしのそんな“言葉”を聞いたルイさんは、何も言わずに、あたしの横に座った。
そして静かに……肩を抱き寄せた。
鉱物娘同士の硬い感触が、服を介して伝わってくる。
硬い……けれど、優しさに満ちた感触。
そう――まるで、お母さんみたいに。
そう思えたら……凄く、凄く寂しくなってきた。
思わずルイさんに寄りかかって、本音をぶち上げる。
わがままなことだけど……もう、言わずにはいられなかった。
（…………家に帰りたい…………お母さんに会いたい…………）
（……エミちゃん……）
ルイさんが、あたしの肩を抱く力が強まった気がした。
今にも砕けそうな……寂しくて切なくて、どうしようもなく哀しい。
だって……会えないんだもん。
２度と人間に戻れないのに。
喋ることさえ、出来ないのに。
今のあたしは、エメラルド色の歩く石像。
こんな姿……お母さんに見せられるわけがない。
娘だって……信じてもらえるとはとても思えない。
いくら背格好や顔立ちがそっくりだって、石像なんだよ！？
実の娘が石像になったなんて、信じられるわけがないじゃない！！
言葉に出来ない想いが、溢れてくる。
あたしはそのまま思わず、ルイさんの胸に顔を埋めていた。
涙なんか出ないのに……泣き叫ぶことだって。
号泣できたら……声の限りに泣けたら……どんなに良かっただろう。
（…………ごめん、ルイさん…………ごめんなさい……あたし……あたし…………ふぇぇ――）
せめて――心の声だけでも。
ルイさんは何も言わず、肩を強く抱いてくれていた。
ありがとう……ルイさん、本当にありがとう。
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「……あ、あの……え、えーと……」
あたしの前で、手をもじもじさせているのは春海ちゃん。
その後ろにいる翔子さんも、ちょっと目が泳いでる。
……ははぁ、なるほどね……春海ちゃん、翔子さんに話したんだ、あたしのこと。
ううん、別にそれはいいんだけど。
あの後あたしは、ライカさんに春海ちゃんと会うことを頼んだ。
春海ちゃんに会って、あたしが記憶を取り戻したことを言いたかったから。
もうこれ以上……春海ちゃんにあたしのことで悩んで欲しくなかったから。
（大丈夫だよ……春海ちゃん）
「……え……！？」
春海ちゃんが驚いて、金色の目を見開いた。
あたしが“春海ちゃん”と呼んだから……２年前、呼び合ってたように。
「……え……エミ、さん……？」
（エミちゃんでいいよ……春海ちゃんには、昔みたいに呼んで欲しいの）
「……エミちゃん……もしかして、記憶が？」
（はい……さっき、思い出しちゃいました♪）
翔子さんの問いかけに、あたしは笑顔で答えた……いや。
笑ったつもりだったけど、そうは見えなかったかも。
あたしって……嘘は付けない性格みたいだ。
春海ちゃんが、ぷるぷると震えている。
あぁ……そんなに哀しそうな顔しないで欲しいな……
（春海ちゃん……気付いてたんじゃない？）
ぴくり、と春海ちゃんが痙攣した。
緊張をほぐそうとして言ったつもりだったけど……逆効果だったのかな。
春海ちゃんはますます、泣きそうな顔になった。
いや……もう、泣いてた。
ひとすじの滴が頬を伝っていったかと思うと、一気にその水量が増した。
これ以上……春海ちゃんを悲しませたくなかったのに……あたしって浅はかだったみたい。
「…………え……エミちゃん…………ご……ごめんね……ほんと……ごめんね」
金色の瞳から涙をぽろぽろこぼしながら、春海ちゃんが言った。
あたしはただ……精一杯の笑顔で、首を横に振ることしか出来なかった。
多分……寂しさだけは、隠せなかっただろうけど。
（ううん……仕方ないよ……言い出せなかったんだよね）
「…………え、エミちゃぁん……エミ――ふぇ、ふぇぇぇ」
（あたしだって……逆の立場だったら、きっと……言い出せなかったもん）
言葉にならず、ただひたすらしゃくり上げる春海ちゃんを、あたしは抱き寄せた。
もう泣かなくていいから……あたしまで泣きたくなるから。
むしろ……あたしの方が謝らなきゃいけない気がしたし。
「……！？……ふぇ、エミ、ちゃんん！？」
（あたしこそごめんね……せっかく再会したのに……こんな姿で……）
「……ふぇぇ……そ、そんなことないよぉ……ぐじゅ」
あたしは泣きじゃくる春海ちゃんを抱きしめたまま、語りかけた。
ちょっと……勇気がいる言葉だったけど。
（ねぇ春海ちゃん……その……こ、こんなあたしでも、友達でいてくれる？）
「……ふぇ、い……いいの！？」
（もちろんだよ、春海ちゃんが良かったら……これからも……その……）
「も、もちろんだよぉ……ずっと友達だから……ずっと……ふえぇぇぇ」
（春海ちゃん……もう泣かないでいいよ……友達でいてくれるだけで、あたし嬉しいから）
そう言っても、春海ちゃんは泣き続けていた。
春海ちゃんって、こんなに泣き上戸だったかなぁ。
でも何だか嬉しい……ありがとね春海ちゃん。
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（……誰？）
センター２階に並んでる個室の中に、その人の部屋があった。
コバルトブルーの石の少女……ルミさんの部屋。
（……エミです……今日は少し、外に出ませんか？）
（……悪いけど……１人にして……そんな気分に……なれないの）
ルミさんは凄く不運な人……もう少しだけ保護が早かったら、人間に戻れてた。
もちろんサヤさんやミカさんと同じように、昔の記憶がある。
ルミさんが閉じこもりたくなる気持ち……今ならよく分かる。
本当なら今すぐにも家族に会いたいのに、会いに行けないんだもんね。
でも……でも、このままじゃいけないと思う。
（分かります……でも……勿体ないですよ……せっかく、動けるようにしてもらえたのに）
（……分かる？ ……何が、分かるの……あなた、昔の……記憶が……ないんでしょ）
（……そうですね……昨日までは、ありませんでした）
（…………え……？）
（でもさっき……偶然思い出しちゃったんです……本当の名前もエミだったんですよ、嘘みたいです♪）
（……そ、そんな……冗談、言わないで……聞きたく、ない）
（冗談じゃないですよ、本当です――）
（――――嘘よっっ！！ そんな、励まし……要らない……１人にして！）
（――だ、ダメです！！）
（――！！？）
――気付いたら、あたし、何かムキになって反論していた。
自分に……言い聞かせていたのかも知れない。
（自分で選んだ道なんでしょ、石でも動きたかったんでしょ、このままじゃ意味がないじゃないですか！）
（……でも……でも……動けたって、石じゃない……母さんに、会いたくても……）
（そんなの……そんなのまだ、分からないですよ！ 会えるかも知れないじゃないですか！！）
（無理よ……石なんだよ……人間じゃ、ないのに……）
（そんなの分かってますよ……あたしだってそうです……でも、諦めたら終わりじゃないですか！）
……どうして、そう言っちゃったのか、後になって考えると変なんだけど。
あたしの希望を、口にしただけだったのかもだけど。
でも……このままじゃ絶対、何も進展しないって思ったから、引き下がりたくなかった。
（あたしだって……お母さんに会いたいから……今はダメでも、いつかきっと……）
（……………………）
（だから……だから、少しでも早く動けるようになって、全然大丈夫だって、お……お母さんに……）
――言いたい。
あたしはここで生きてるって。
お母さんを忘れてないって。
大好きだって。
愛してるって。
――今立ち止まったら……きっと永遠に会えなくなるから……
あたしはいつしか、ちょっと俯いて……拳を握り締めてた。
立ち止まりたくない……立ち止まったら、またただの石像に戻るのと同じ気がする。
せっかく自分の意思で動く体を得たのに……何もしないなんて、あたしには出来ない。
でも……すぐに何か出来ないのも事実……だから、凄く無力。
その時だった。
ルミさんの手が、宙に持ち上がった。
カタカタと震えながら……ルミさんは必死に腕を上げようとしていた。
何も言わなかったけど……物凄く必死な気がした。
――そうか、起き上がりたいんだ。
あたしは思わず、ルミさんが寝ているベッドに駆け寄って、手を添えた。
ギシギシ、とかなり大きな音を立てながら、ルミさんはそれでも体を起こそうと必死だった。
けれども……今まで何日も自分で動かそうとしなかった体を、急に持ち上げられるはずもない。
どんなに速い人でも……最初は何分もかかるから。
（む……無理しないでください、すぐに速くは動けないですから！）
（…………分かってる……でも……でも……）
（大丈夫です……ゆっくりとでいいですから……心を落ち着けて、それから念じてください）
（……負けて、られないね……あたしも……）
まだ表情を作ることは出来ないけど……心なしか１瞬、ルミさんが笑った気がした。
その“心の表情”が、凄くあたしを癒してくれるような気がした。
そうだよね……あたし１人が悩んでるわけじゃない。
みんな似たような悩みを抱えてる……みんな、昔は人間だったんだから。
あたし１人、甘えてるわけには行かないよね。
ルイさん、春海ちゃん、ルミさん……みんなありがとう、あたしも頑張るよ。
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| （第６章第１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
今更の設定であるが、本作に登場する“鉱物娘”は全員、“元人間”である。
多くの場合は長い石像時代の間に過去の記憶を失ってしまうが、中には覚えている者もいるし、
今回のエミのように突如――記憶を回復するケースもあったりする（ご都合臭いがコンセプト自体は前からあった^^;）
しかし記憶を取り戻しても、鉱物娘のままでは直接――ハッピーエンドとなるわけではない。
人間であれば、離れ離れだった家族と再会し、昔の暮らしを取り戻し、皆が笑顔になれるかも知れないが、
「動ける石像少女」のままで家族の前に現れたら、その家族がどう反応するかと考えれば、
常識的に考える限り、残酷な結末のイメージが先行するのが普通だろう。
ＡＳＧ世界は現実世界に近いため、銀河社会とは異なって“人外キャラ”に全く免疫がないのだ。
けれども「自分の意思で動け、生きる道を選ぶ鉱物娘の物語」を書く以上、避けて通れない展開でもある。
これは「石化した少女を自分の思い通りに動かすだけのファンタジー」ではないからである。
「人間に戻れない元人間」が、苦悩の末に理解者を得て成長する物語であり、
次章以降に激化する展開を前に、ケジメを付けるエピソードがどうしても必要だったのだ。 |
