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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E062） |
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朝陽中央駅前商店街の１角にある、小さな多目的ホール。
ホールと言っても、実質的には会議室のような大部屋が４つほどあるだけで、
講習会などのイベントに使われることが多い施設である。
その中の１つに、作業服を着た３人組が現れた。
更にその後ろから、黒髪の美女が付いていく。
３人組のうち、１人はまるで子供のように小柄であった。
間もなく……４人が部屋に入り、扉が閉められる――その次の瞬間。
（――ぷはぁっっ、窮屈だったぁ）
（仕方ないですよルイさん……この姿では堂々と歩けませんからね）
（翔子さんたちはまだ来てないんですね）
……そう、３人はルイ、サラ、エミの“鉱物娘３人衆”だったのである。
もちろん――後ろから付いてきたのはライカ。
「まぁね……さ、みんなが来る前にあたしたちで準備しましょ♪」
（はぁい……それにしてもさぁ、真昼間に街の中にいるなんて、新鮮な気分だよね♪）
（街の人たちは、こういう部屋でイベントを？）
「まぁ、大きなイベントではないけどね……町内会のくじ引きとか♪」
そう……今日は「センターＤ・街の暮らしを体験する講習会」の初日である。
翔子らも呼んで、ちょっとした体験学習を――――
――――する……予定だったのだが。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第６章 牙を剥く闇 ★
第２話 朝陽市の最も長い１日（１）
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「――春海ちゃん、待った？」
「いえ、あたしもさっき来たところです♪」
「おー、今日はおしゃれしてるねぇ♪」
朝陽中央駅前ロータリーで、３人の少女が軽やかに言葉を交わす。
午前中から刺すような日差しを避けて、並木伝いに商店街に面した交差点の方角へ。
それにしても、いったい何匹いるのだろう……其処此処で聞こえる、セミの大合唱。
「えぇっと……た、確か第３会議室ですよね？」
「ライカさんは『先に行って待ち構えてるから』って言ってたよ」
「でもどうやってビルの中に入ったんだろうルイさんたち…… ――あ、ごめん春海ちゃん！」
そんな眞希の言葉に、春海がわずかに表情を曇らせた。
恐らく……エミのことを思い出したのだろう。
「鈍感ねぇ眞希はもぅ…… 春海ちゃんが気にすることないんだよ？」
エミが記憶を取り戻したのは、ほんの数日前……まだ多分、心の整理は付いていないはず。
いつも気丈に振舞ってはいるが、その表情は常にどこか寂しい。
春海もまた、そんなエミに対して、申し訳ない気持ちが拭えなかったのだ。
幼馴染だったのに、何もしてあげられない上、１人だけ人間に戻れたことも心苦しいものがあった。
「ほら、そんな顔してたら、エミちゃんもきっと楽しめないよ？ 今日は楽しむ日なんだから♪」
「……そ、そうですよね。 す、すいません、笑わなきゃいけませんよね！」
顔を上げて、再び笑顔になる春海……金色の瞳が、木漏れ日を浴びてキラキラと輝く。
……それは春海として、精一杯の強がりだったのかも知れないが。
歩行者信号が青に変わる。
横断歩道を商店街に向かって、小走りで駆けていく春海。
翔子と眞希も、苦笑いをして追いかける。
――そう、今日は初めての“出張交流会”……楽しむための日なのだ。
「先輩、ほらぁ、早く早く、みんなきっと待ってますよ♪」
「元気だなぁ春海ちゃんは……若いっていいよねぇ翔子ぉ」
「……５０代のオバちゃんみたいなこと言ってんじゃ――な……い――！？」
そこまで言いかけて――翔子はふと立ち止まった。
――背中にぞくりと、突き上げるような悪寒を感じたからだ。
「……先輩？ ――！！」
翔子の変化を感じた春海が立ち止まり……何気にその背後を見る。
そして――瞬時に顔がこわばった。
翔子の背後、１０ｍほどの距離……横断歩道のほぼ中央に、ひょろりと背の高い男が立っていた。
骨のように白い肌、腰ほどまである長い銀髪、げっそりと痩せこけた、血色の悪い顔。
その顔の中で……切り込みのような口が不気味に笑っている。
春海は引きつった表情で、振り向いた翔子の背後に隠れた。
何故ならその男の姿は……春海に悪夢を呼び起こすものだったからだ。
（……くひひひ……見つけたぞ……第７０号実験体）
男はやおら、テレパシー波を発した……その妙に残響が混じる“声”に、春海がぴくりと痙攣する。
額から脂汗が染み出し、金色の瞳には既に涙がにじんでいた。
「春海ちゃん……じゃあ、アイツはやっぱり」
春海が無言で、こくこくと頷く……その肩が、細かく震える。
翔子と眞希を拉致し、春海を金色の少女像へと変えた、“あの組織”の男。
そいつが今、往来の真ん中に不敵に立っているのだ。
いつの間にか……セミの合唱は止まっていた。
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その頃パドルは、朝陽警察署の資料室を末留に案内してもらっていた。
「先日はすみません、急な用事が入ったもので……」
「いや良いですよ、警部の時間を奪うわけにはいかないですから」
「ありがたい……そう言えば、今頃盛り上がっている頃ですかな？」
「そうですね……あ、いや、これから始まる頃ですね」
資料室はその項目によって、複数のブースに分かれていた。
末留が担当する“特殊事件捜査課”の資料は１番奥、やや埃臭いブースにあった。
特殊事件資料ブースには更に３つほどの大きなラックがあり、奥ほど機密性が高い。
先日、パドルが朝陽署を訪れた際、閲覧できたのは１番手前のラックだけだった。
「１番奥は最高機密なんですよね？」
「えぇまぁ、体裁はね……けれど、今日は私が一緒ですから大丈夫ですよ」
「極秘資料を公開しても問題ないのですか？」
「迷宮入りに近い上、最近進展がなかった事件ですからね……まぁパドル殿ならば。
我々としても、あなたから得られる情報は得たいところですし」
そう言いながら、末留は２番目のラックから、資料の束を抜き出した。
そこには、約２年前に起きた“失踪事件”の詳しい経緯が記されていた。
誰がいつどこで行方不明になったのか、被害者の足取りはどこまで追跡できたのか、
約１年後に発見された被害者の当時の状況、不明者照合の結果など。
また更に別の資料には、今もなお行方不明のままになっている、複数の被害者の名前が挙がっていた。
そのリストの真ん中ほどに、見覚えのある名前をパドルは確認した。
『木下恵美……２０１１年２月失踪、当時１２歳／市立朝陽東小学校６年生』
――先日、センターＤで、この行方不明者がエミと同一人物であったことが判明している。
もちろんエミ自身も、先述の通り“木下恵美”としての記憶を取り戻したのだ。
（参照：第５章５話）
「そう言えばそうでしたね……母親の名前は確か、木下恵子と言いましたか」
「まさかこの街に住んでいたとは思いませんでした」
「非情な運命ですな……可能なら、２人を引き合わせてやりたいところです」
そして……いよいよ３番目のラック。
どうやらこのラックには、物的資料が保管されているようだった。
「中でも１番の発見が……この小石でした」
末留がパドルに見せたのは、まるでカプセル状の容器に入れられた、小さな灰色の石だった。
「最初に発見した時は２つあったのですがね……あ、分かっておられるかも知れませんが、
素手では決して触らぬよう、お願いしますね……非常に危険なので」
「……もう１つの石は、どうなったのですか？」
もはや確信に近いものがあったが、パドルはあえて末留に問うた。
末留はわずかな冷や汗を浮かべ――冷房の効いた部屋なのに――静かに言った。
「捜査のため派遣した警察犬が見つけたのです……そして、そのまま――」
「石化した――わけですね？」
パドルの言葉に、末留は小さく頷いた。
「あの場面で確信したのです……とんでもない事態が、この街で起きていることを。
上層部は『余りにも常軌を逸している』と認めようとしませんでしたがね……
灰色の石像と化した犬を見せても、首を縦に振らなかったのですよ……信じられない」
目を伏せ、空しそうにつぶやく末留。
――と、ふと末留は、何かを思い出したように、パドルに向き直った。
「――おぉ、そうだ……この際、あの部屋もお見せしましょう」
「……あの部屋？」
「えぇ――この奥に……地下室があるのですよ」
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真夏の日差しがじりじりとアスファルトを焼き、うっすらと陽炎を作り出す。
その陽炎が景色を包み込む、少し手前にその男は立っていた。
翔子たちと、その男にしか聞こえない“声”で、常人には届かない言葉が交わされる。
（……私が怖いか？……きひひ、怖がる必要などないのに……）
（こ……来ないでください、この子はあんたをこんなに怖がってるじゃないですか！）
（ふひひひ……気が強いなぁ。余り生意気だと、長生きできんぞ――石塚翔子）
（……あたしの、名前を……！？）
（隣にいるのは坂本眞希だな？……当然だよ、私が全てをお膳立てしたのだから）
――その時、唐突に車のクラクションがけたたましく鳴り響いた。
気付くと既に信号は赤へと変わり、先頭の真っ赤なスポーツカーが、
横断歩道の真ん中に立ったままの男に、なおもクラクションを浴びせて激しく警告している。
遠慮のないクラクションの音に、往来の歩行者たちが次々に歩みを止め、横断歩道の先を見やる。
「おい、そこのお前どけよ、さっさとどかねぇと轢いちまうぞ！！」
いかにもガラの悪そうな、肩幅の広い、ピアスをしたドライバーが怒鳴る。
しかし男は、まったく表情を変えずに、まるで機械のように車の方を向いた。
再び――翔子の背中にぞくりと、たとえようのない悪寒が突き抜ける。
（……新しい時代について行けぬ者は、舞台から降ろさねばならぬ）
（な……何をするつもり！？）
翔子の問いに、男は向き直り、にたぁぁ、と笑った。
「―――― 革 命 さ 」
――――ズカンッッ
男が不気味な声でそれだけ言った直後、金属板を切り裂くような音が、往来に響いた。
「……なっっ！？」
その場にいた者全てが、目の前で起きた出来事に目を疑った。
男の手が銀色に変色し、更に槍状に変形して、赤いスポーツカーのボンネットに刺さっていたからだ。
磨き上げられた車体に無造作に穿たれた穴から、エンジンの蒸気のようなものが立ち上る。
「……ぬぁぁんじゃあぁぁこりゃぁあぁぁぁっっ！！？」
「……そ、そんな……こんなこと」
――次の瞬間、赤いスポーツカーのシルエットが、その場から消えた。
往来で立ち止まった人々の視線が、翔子たちの視線が、緩やかに放物線を描く。
その視線の行き着く先には駅前のロータリーと、その端に停車した路線バスのシルエットが。
交差点からの距離は、直線にして５０ｍほどであろうか。
――――ゴシャッッ
鈍い破壊音と共に、赤いスポーツカーのフロント部が、路線バスの屋根に突き刺さった。
砕けるガラスと乗客の悲鳴をまとって、スポーツカーの車体がアコーデオンを畳むように押し潰される。
――やがてごろりと、直射日光の降り注ぐロータリーの上に、シャーシを上にして転がる赤い車体。
いや今や、それは“赤い鉄屑”とも呼ぶべきものに、姿を変えていた。
常識を余りにも逸脱した事態に、しばし空気が凍りつく――だが。
「―――キィィヤァァァァアアァァァァァッッ！！！」
「ば、ば、ば、化け物だあぁぁぁぁぁっっ！！！」
堰を切ったように悲鳴を上げ、我先にと逃げ出す人々。
――だが更なる衝撃が、交差点に面したこの商店街を襲った！
突如として煌く閃光。
ほぼ同時に響き渡る轟音。
容赦なく飛び散るガラス片。
商店街の至る所で、ほぼ同時に、何の前触れもなく爆発が起きたのだ。
「うわぁぁぁぁっっ！？」
「な、何だぁぁっ！？」
「イヤァァァァァッ！！」
悲鳴と怒号が、阿鼻叫喚の大合唱になる。
メキメキと不気味な音を響かせ、折れ曲がるアーケードの柱や天井。
更に――逃げ惑う人々の上に、遠慮なく降り注ぐ灰色の塊。
そして――翔子は見た。
自分と眞希を隔てた、ほんの３ｍほどの空間。
そこに突如、巨大な瓦礫が落ちてきたのを。
「きゃ――ま、眞希っっ！？」
「いやぁ――しょ、翔子ぉぉっ！！」
落ちてきたのは、どうやら爆破されたビルの外壁らしい。
ビルそのものが崩れたわけではなく、崩れ切った後も、向こうの明かりがほのかに見えた。
その明かりの方向から、眞希が翔子を呼ぶ声が、何度も聞こえてくる。
「翔子、翔子、大丈夫！？ こ、怖いよぉ」
「眞希……無事なのね！？――良かった」
少なくとも……当面の難は逃れたらしい――翔子はほっと、胸を撫で下ろした。
自分に寄り添うように立っている、春海も何とか無事だ。
そして再び……パニックの元凶に向き直る。
「……あんたが……仕組んだのね？……何てことを」
「くひひ……お膳立て、と言ってもらいたいがねぇ♪」
そう言って、銀髪の男――セラフィは、悲鳴と破壊音でざわめく交差点を見渡す。
被害を免れた交差点の“対岸”から、市民の１部が遠巻きに眺めていることを除けば、
この場に残っているのは、セラフィと翔子たちだけであった。
間もなく遠くから、恐らく警察だろう……サイレンの音が響いてきた。
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（――な、何、今の音は……ガス爆発！？）
ほぼ同じ時刻、こちらは今日のために用意された“イベント会場”。
といっても集まるのはもちろん、ルイ達が知っている人間ばかりだったのだが。
先に到着したルイ達は、変装用の作業服からいつもの私服に着替え、ワクワクしながら翔子たちが来るのを待っていた。
しかし……ふと――ルイが“嫌な予感”を覚えた直後、
続けざまに大小の爆音が響き、部屋の蛍光灯も不気味に明滅したのだった。
（何だろう……凄く、嫌な予感がする……ライカさん？）
その時ルイは、ライカが深刻な表情で、遠くを見るような目で立っていることに気づいた。
視線の先には“壁”しかなかったが、明らかにそこを見ているようではなかった。
数秒ほど悩むような素振りを見せたライカは、しかしすぐに部屋を出て行こうとした。
（ちょ、ら、ライカさん、どこに行くんですか！？）
「何があったのか見てくるだけ……あなたたちは、ここを動かないで、いいわね！？」
そのまま、まるで飛び跳ねるような勢いで、ライカは部屋を駆け出していった。
ハイヒールの軽い音が、急速に廊下を遠ざかっていく。
そして……部屋にはルイとエミ、そしてサラの“鉱物娘３人衆”だけが残された。
（……行っちゃいましたね、ライカさん）
（大丈夫かなぁ……まぁ、大丈夫そうな気もするけど……）
――確かに、変な感覚ですね。
――よく分からないけど……このまま終わる気がしないなぁ。
ルイの心の中でも、不安そうな“声”が響く。
その時――ルイはふと、妙な感覚を覚えた。
言葉にするのは難しい……何か、どす黒いものが動く感覚。
その……次の瞬間。
――ドォォォンッ！！
猛烈な爆発音――それは、これまでとは全く違う場所……いや、すぐ近く。
爆音とほぼ同時に部屋の蛍光灯が火花を散らし、部屋は瞬く間に灰色の闇に包まれた。
光っているのは……入口の反対側に開けた、換気用の小窓だけ。
しかも……異変はそれでは終わらなかった。
爆発に伴って、天井が崩れ落ちてきたからだ。
それも……真っ二つに裂けて、部屋を引き裂くかのように。
（きゃあぁぁぁぁっ！？）
（うわぁっ！？ い、一体今何が――え、エミちゃんっ！？）
（る……ルイさん、サラさんっっ！！）
崩壊していく“イベント会場”……少女たちの“心の声”まで、灰色に塗り潰すような勢いで。
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けたたましいサイレンが、交差点に幾重にも響き渡った。
張り詰めた空気を切り裂くようなブレーキ音を立てて、勢いよく交差点に突入してくるパトカー。
その数……約１０台。
停車するや否や、すぐに１０数人の警官が降車し、車体を盾に警戒態勢を取る。
３分前に入った通報によれば、犯人グループは駅前の交差点で突然停車していた車を破壊し、
爆弾らしきものを同時に爆破させて、多数の市民を負傷させたという。
この“世界一平和な国”では、例外的な規模の同時爆破テロだ。
そしてすぐさま警戒態勢を取るべく、警官隊の第１陣が、現場に派遣された。
現場に到着した警官たちが見たのは、
灰色の煙を何本も立ち上げる商店街と、大通りに突き刺さった瓦礫、
そして怯えた表情で立ちすくむ、被害者らしき２人の少女と、
交差点のほぼ中央に不敵に立つ、銀髪の男であった。
通報によればその男が、最初の破壊を指示した“実行犯”の１人らしい。
銀髪の男――セラフィは、警官隊の包囲にもまるで動じず、薄笑いを浮かべたまま立っている。
「お前は包囲されている……こんな行為はやめて、直ちに投降しなさい！」
警官隊のリーダーらしき男が、拡声器を片手にセラフィに呼びかける。
しかしセラフィは聞こえているのかいないのか、まるで微動だにしない。
「聞こえているのか！？直ちに投降するんだ！！」
警官隊のリーダーが、苛立って声を荒げる。
だが次の瞬間、現場の緊張は新たな破壊音によって、唐突に破られた。
バリバリと商店街のビルの外壁を破って、交差点に飛び出してくる３つの人影。
しかし、その姿は……
「な、何だ……あいつらは……人間なのか？」
「そ、そんな……こんなことって」
警官たちや翔子らが目を疑うのも、無理はなかった。
彼らの姿はそれほどまでに、常識を著しく逸脱し過ぎていたからだ。
いや……少なくとも翔子たちには見覚えのある姿だったのだが、
それをこんな往来で目撃することになるなど、全く予想していなかったのだ。
人間とは思えぬほど、メタリックに輝くボディ。
宝石のような、半透明のきらめきを放つ目。
腕には謎の文様が描かれ、その文様も無機質な輝きを放っている。
また、３人にはそれぞれ、特徴があった。
例えば１人は、金色に光るボディを持っている。
１人は緑がかった金属光沢を放ち、更にもう１人は青みがかった金属光沢を放っている。
３人とも“文様”の色はシルバーで、ルビーのような目をしている点では、共通していた。
容姿こそ限りなく人間に近いが、人間とは思えぬ質感……まさに“怪人”とでも言えそうな姿。
そう……彼らは正しく、“金属の怪人”であった。
「セラフィ……最初の獲物はそいつらですか？」
金色のボディを持つ怪人が、薄笑いを浮かべながら口を開く。
やや金属をこするような残響を伴うものの、人間と同じように会話している。
「しゃ……喋ることができるのか？」
危機感も忘れて、呆気に取られた表情になる警官隊の隊長らしき男。
「お前たちは指示したとおりに動けばいい……こいつらは私１人で十分だ」
「でしょうねぇ……んじゃ、僕らは行きますよ♪」
軽い口調で喋ったのは、緑がかった金属質感の怪人だ。
その言葉を合図にするように、３人の怪人は、その場を離れて散っていく。
「１人で十分だと！？……状況が分かっているのか、この男！」
「だ、ダメ……逃げて、逃げてください！！」
溜まらず、翔子が精一杯の大声で、警官隊に叫んだ。
しかし……彼女の“警告”の意味など、警官たちに理解できるはずもなかった。
「な……何を言ってるんだあの娘は……恐怖でおかしくなったのか！？」
「こいつは……こいつは普通じゃないの、お願い逃げてっ！！」
「やめておけ石塚翔子……常識しか理解できぬ者共に、何を言おうと無駄さ、きひひ♪」
「さぁ、お前もいい加減観念して投降…… ――！！？」
その時、警官たちは――見た。
銀髪の男の肌が、急にメタリックな光沢を放ち、むくむくと膨らんで行ったのを。
髪がザワザワと立ち始め、体の“膨張”に耐え切れなくなった衣服が、ビリビリと破れ出す。
「愚かな常識人共に教えてやろう……貴様らが相手にしている存在が、いかに常識を超えているかを！」
「ば、馬鹿な……我々は夢でも見ているのか！？」
「そんな……た、体形まで……」
唖然とする翔子たちの前で、“本来の姿”になるセラフィ。
銀色――いやむしろプラチナか――に輝くボディは、今や２ｍをはるかに超す巨体となり、
人間離れした岩のような筋肉が、３倍以上の広さになった肩に盛り上がっている。
脚部もまるで“獣”のように折れ曲がり、その先端には恐竜のような鋭い“爪”が生えていた。
元々腰に迫っていた長い銀髪は、更に伸びてマントのように翻っている。
腕の付け根からも、棘とも角とも呼べる、３対の突起が生えている。
セラフィがアグネムに依頼して獲得した“新たな力”、それがこの姿であった。
過去に試作されたメタロードが、まるでガラクタに見えるほどの“強化型”。
しかもただ強化されただけではなくて、人間に“擬態”することも出来るのだ。
「さぁどうだね、捕らえられるものなら捕らえてみたまえ、脆弱な人間共よ！！」
呆然とする警官隊に向かって、“新生”セラフィはあたかも、挑発するように言い放った。
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その時……パドルは、末留と共に、朝陽署の地下室にいた。
「この部屋に……あの被害者たちを保管していたのですよ」
末留が説明するその部屋は、１０畳ほどのコンクリートの地下室だった。
今はほとんど空で、片隅に古ぼけた機械が置かれている程度……物置代わりらしい。
地下室の真ん中付近には、大小６対ほどの“足跡”が残っていた。
その位置だけ、他の場所と埃の被り具合が違う……つまり、この場所に置かれていたということ。
もちろんその被害者たちは、今は他のラボの被害者たちと共に、センターＤに保管されている。
他のラボから保護された被害者の１部は、この１０日ほどの間に活性化することができたが、
朝陽署から移送された６人の被害者は、今も意識復興のメドさえ、全く立っていなかった。
「あの１年間は……空しい時間のようでしたよ」
そう言って、末留は唇を噛み締めた。
「警部…… ――ん？」
その時――パドルは、妙な胸騒ぎに襲われた。
いや、胸騒ぎだけではない……何か、変に騒々しい。
末留も、異変に気付いたようだ。
「……？……何でしょう……行って見ましょうか」
２人揃って、階段を駆け上がる。
地上階の廊下に出るや否や、災害時のような騒ぎが飛び込んできた。
大半の職員が、引きつった表情で駆け回っている。
「なんだ……君、何があったんだ！？」
「あ、末留警部……大変です、朝陽中央駅前で爆弾テロが！！」
「な、何だって……爆弾テロ！？――っと、パドル殿！？」
職員の報告を聞いたか聞かなかったかのうちに、パドルは血相を変えて飛び出した。
「――警部、続きは後で！！」
地下室では何故か感知できなかったが……とんでもない事態を察知したからだ。
猛スピードでダッシュしながら、パドルは後悔に襲われた。
――何てこった……俺としたことが、出遅れるとは。
オリンピック選手も青ざめるほどのスピードで、駅に向かって走り去るパドル。
その光景を、末留は朝陽署の玄関で、パドルの姿が消えるまで見送っていた。
その直後――ほんの１瞬、彼の口元が不気味に歪んだ。
だが、それを見た者は１人もいなかった――いや、見ている暇など……なかったのだ。
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「……こいつは……死神なのか！？」
警官隊隊長は、血の気の失せた表情で、そうつぶやくのが精一杯だった。
朝陽中央駅前の交差点に突如出現した、正体不明のテロリスト。
その首謀者らしき男は、人間とは似て否なる、銀色の怪人であった。
警官隊はその首謀者“セラフィ”に対して、ついに銃を持ち出して応戦したが、
全員の銃の残弾が尽き果てても、そのメタリックなボディに傷１つつけることが出来なかった。
逆に、セラフィがもたらした“猛威”によって、既に壊滅寸前にあったのだ。
その指は伸縮自在で、まるで鎖鎌のようにパトカーの１台に絡みついたかと思うと、
そのまま段ボール箱でも投げ捨てるように、いとも簡単にそのパトカーを放り上げた。
またその指先は、日本刀の如き切れ味を秘め、信号機を竹筒のように切り倒した。
何度も執拗に攻撃を受け、スクラップ同然になったパトカーもある。
マントのような髪の毛も、まるで触手のように伸び縮みし、数人の警官を捕捉した。
その警官たちは皆……今や銀色の彫像と化して、交差点のオブジェとなっている。
セラフィの“髪触手”は、捕獲した相手を石化――いや、“金属化”することが出来るのである。
（参照：第５章４話）
１０数人いた警官隊の第１陣も……ふと気付けば、隊長と副隊長の２人だけになっていた。
半数は猛攻にさらされて戦力外となり、半数はその触手でオブジェへ変えられてしまったからだ。
「……悪夢だわ」
翔子はそんな“戦場”を、やはり信じられないような表情で眺めていた。
傍らの春海に至っては、痙攣でも起こしているかのように、がくがくと震えが止まらない。
「嫌……イヤ……いやぁぁぁぁぁぁ！！」
「え、ちょ……は、春海ちゃん！？」
そして……ついに限界を超えたのか、パニック状態に陥る春海。
まるで発狂したように首を振り髪を振り、間もなくアーケードの奥に向かって走り出した。
もうこれ以上……凄惨な現場を見たくないのだろう。
翔子も春海を追おうと踵を返した、が……立ち止まった。
何故なら……すぐ横の瓦礫の向こうには、眞希が閉じ込められているからだ。
親友の彼女を見捨てるわけには行かない……けれども、パニック状態の春海も放っておけない。
「……ごめん、眞希……春海ちゃんが走って行っちゃったの、１人にできないから……ごめん！」
意を決して、春海を追って走り出す翔子。
だが……そんな２人の少女を、セラフィは薄笑いを浮かべて見ていた。
「ふん……簡単に逃げられると思ってもらっては困るなぁ」
「そ……そうはさせるか、警察の名にかけて！！」
精一杯の気力を搾り出すように、セラフィに向かって叫ぶ隊長。
しかし……セラフィはぽつりと、つぶやくような言葉を返すのみだった。
「無理だな……お前たちの時間は、あと１０秒だ」
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（ルイさん、サラさん、返事して！！）
薄暗い“廃墟”の中で、エミは必死に２人の名前を呼んでいた。
しかし分厚い瓦礫に阻まれて届かない……天井の下敷きになって、気を失っているのだろうか？
（ルイさん……サラさん……無事だよね？）
「――諦めろ、この部屋には絶縁材が使われてるんだよ」
ふと――エミの背後から、不気味な声が響いた。
エミがびくっとして振り向くのと、ほぼ同時に天井の１部が、バリバリと破られた。
やがてその奥から……金色の怪人が姿を現す。
（……あ……あなたは……！！）
エミは、その怪人に見覚えがあった。
初めて廃コンテナ群――実はそこが奴らのアジトだったが――を探検した際に、遭遇した男。
翔子たちを拉致し、ルイ達をおびき寄せようとして、パドルらに捕まった男。
そして……ライカを笑って殴り倒した男。
（た、確か……ナンバー……８？）
「ほぉ……よく覚えているなぁ。だが今は、あんまり意味はねぇな」
（……え？……）
「もはや俺はただの工作員じゃない……メタロード・ソルジャー“ネメシス”だからな♪」
薄笑いを浮かべて、エミに迫る元・ナンバー８“ネメシス”。
エミは反射的に後ずさりをする。
（……こ……来ないで……）
「ククク、連れないねぇ♪ 今は同志だろう……第３０号？」
（ど……同志なんて言わないでください！……そ、それに……あたしの名前はエミですから！）
「クク……そう言えば、記憶が戻ったらしいなぁ」
ネメシスのその言葉に、ぴくりと反応するエミ。
何故……そんなことまで、この男は知っているのだろう？
（……ど、どうして……）
「メドゥアスには全て筒抜けだってことさ……観念するんだな♪」
そう言うや否や、がっしりとエミの腕を掴む、ネメシスの金色の腕。
（あっ……！！）
「とくと味わえ……自分の立場を……我々に抵抗など、無意味だってことをな！！」
（うぁ――きゃあぁぁぁぁぁっ！？）
そのまま、半ば力任せに腕を振るネメシス。
エミはそのまま強引に持ち上げられ、いや放り投げられ、たった１つの窓から――外へ。
しかしここは２階……あとは――重力に任せて落ちるだけだった。
瞬間的に青空を拝んだエミであったが、数秒後には再び薄暗い“廃墟”の中に。
ただし……先ほどと同じ場所ではなかった。
恐らく……ネメシスから放り出された先に、あった場所なのだろう。
全身でなお反射を続ける“痛み”に耐えながら、何とか上半身を起こすエミ。
（――あ、いたたた……）
「きゃあぁぁぁっ！？」
「うわぁあぁぁ！」
（……え？）
エミは、その悲鳴で初めて気付いた。
“奴ら”による破壊工作に巻き込まれたのか、
５〜６人ほどの人影が、崩壊した瓦礫の片隅から、自分の姿に注目していたのだ。
（あ……）
悲鳴が巻き起こるのも無理はない。
金属の怪人たちが引き起こす白昼の市街戦に巻き込まれ、
恐怖で萎縮していたところに、再びエミが現れたのだ。
もちろん……エミは怪人たちとは関係ない――むしろその被害者に当たる――が、
一般市民にそんな違いなど、認識できるはずもなかった。
目の前にいるのは、エメラルドのような石の体を持つ少女なのだから。
人々は、陸の孤島と化した瓦礫の中で、恐怖におののいた表情でエミを見つめている。
誤解を解きたくても、声を出せないエミにはどうしようもない。
（ど……どうしよう）
「…………恵美……？」
（…………え…………）
ふと……人々の中から、“自分”を呼ぶ声に気付いたエミは、頭が真っ白になった。
６人ほどの人影のほぼ中央、４０歳前後くらいの、スミレ色のワンピースを着た女性。
髪には白いものが混じっているが、さほど高齢にも見えない。
何よりも、その女性は……エミがよく知っている人間だったのだ。
記憶を取り戻してから、ずっと会いたいと思っていた人……けれど、会えなかった人。
（…………お……お母……さん…………！）
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| （第６章第３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008年頃に草稿を作成したエピソード。
同年に執筆したものでは最大のハイライトになる、駅前テロ編の第１話に相当する。
テロ編以降は実質的に2009年以降に書いているので、事実上“第１部クライマックス”とも言うべき物語である。
ルイたちを“鉱物娘”に変えた秘密結社の“実戦型金属怪人”が、初めて公衆の面前にデビューする。
彼らは実質、アイガーやホルスの同型に当たるので、司令塔に当たるセラフィを“発展型”に位置付けている。
マッドサイエンティスト自身が強化怪人になる展開は、死神博士（イカデビル）以来のお約束だろう（爆） |
