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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E072） |
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リリリリリリリ……
……うーん、五月蝿いなぁ。
この目覚まし時計、何か耳障りなのよね。
えぇっと……どこに置いてたっけ？
――コツ、と壁に当たる無機質な音。
それが自分が立てた音だと気付いて、思わずはっとした。
生活感のある、女の子の部屋……なんてことはない、あたしの部屋。
勉強机の上の本も、戸棚のヌイグルミも、いつもどおり。
違うのは――あたしがもう、人間じゃないってことぐらい。
窓から差し込む朝日が、あたしのエメラルド色の指に当たって、キラキラと光る。
もう少し寝ていたい気がするけど、外の木の幹でセミが大声で鳴く。
まるで“早く起きろ、いい天気だぞ”って、言ってくれてる気がした。
応えるように、あたしはベッドの上で上半身を起こす。
戸棚の上に、小さな写真立てが置いてある。
飾られているのは……“人間だった頃”のあたしの写真。
昨日見た時は１瞬胸が詰まったけど……思い直して、置いたままにしておくことにした。
あたしが人間だった、数少ない証拠だから。
（ねぇ……あたし、頑張るから……見守っててね♪）
そう、今日から……あたしの“木下恵美”としての新しい日々が始まる。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第７章 非常識な日常へ ★
第２話 鉱物娘のいる風景
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「――あら恵美、お早う♪」
台所では、お母さんが朝ごはんを作っていた。
あたしの足音に気付くや否や、振り返って笑顔で迎える。
当たり前の風景なのに、新鮮に感じちゃうのも……多分、あたしが“変わった”からだろう。
そしてお母さんは、こんなあたしを受け入れてくれた。
２年近くの行方不明を経た運命の再会、そして再び親子同じ屋根の下で。
単に行方不明だっただけじゃない、永久に変わってしまったあたしを、お母さんは正面から受け止めた。
決して、後戻りできない道……それは物凄く重い、あたしの運命。
お母さんはそんなあたしに、「また２人で暮らそう、２人で埋めて行こう」って言ってくれた。
あたし今……凄く幸せかも知れない。
「階段はどうだった？転ばなかった？」
（う、うん大丈夫、さすが靴下効果だね♪）
指で円を作って、お母さんに笑いかける。
あたしの“声”は普通の人間には届かないから、別の方法で表現するしかない。
昨日、センターでやった“打ち合わせ”で、パドルさんから色々な方法を聞いた。
表情で会話する方法、指や手振りを使ったボディランゲージ、携帯メール、そして手話。
「声が出なくてもコミュニケーションを取る方法は幾らでもある」
考えてみれば確かにそう……テレパシーが聞こえなくても、お手上げってわけじゃないんだよね。
あたしはお母さんの言葉が聞こえるし、あたしの表情はお母さんが読み取ってくれる。
いざとなれば――えぇと“筆話”って言うんだっけ。
サラさんが昨日やったみたいに、メモ帳に言葉を書けばいい。
因みに“靴下効果”って言うのは、あたしが今履いてる靴下のこと。
あたしは体が鉱物結晶でできてるから、硬い床の上だと結構滑りやすい。
センターの床にはマットが敷いてあったけど、ここは基本的にフローリング。
特に階段を上り下りする時に滑って転んだら大変……ただしあたしじゃなくて、大変なのは家の方。
認めたくないけどあたしは重いし硬い……転落したら、廊下に穴が開く可能性があるわけ。
だって、あたし……ひゃ、１００ｋｇ以上あるんだよ？――石だもん。
そこで対策として試したのが靴下……結果はご覧の通り。
特に２枚重ねて履いたら、いい具合に弾力と摩擦が出て、滑りにくくなった。
もちろん、それでも階段は慎重に上り下りしているけどね。
万が一ってこともあるし、自分の重さと硬さで家を壊しちゃったらシャレにならないじゃん。
ベッドも重くて壊れないかと心配したけど、こっちは大丈夫だったみたい。
「ごめんね恵美……本当は一緒にご飯を食べたいんだけど」
（だ、大丈夫だよお母さん……あたし、これで十分だから♪）
親子で食卓を囲む……ただし、朝ごはんが置いてあるのはお母さんの方だけ。
あたしの体は食べ物を受け付けるようにできてないからね。
お腹も減らないし、そもそも胃がないから無理に食べても喉に詰まっちゃう。
この体が受け付けるのは……少量のお湯だけ。
どうやら、水は少しだけだけど、体に浸透するみたい。
だから体を冷やさないようにするのを兼ねて、センターにいた頃からお湯を飲んでる。
しかも結構熱いお湯……普通の人間だったら、舌を火傷しちゃうかもね。
朝ごはんを食べるお母さんの向かいで、あたしは小さな湯飲みに入ったお湯を飲む。
しかも一気に入れたら溢れちゃうから、少しずつ、大事に飲む。
じれったい動作に見えるかもだけど……あたし自身はこの時間が好き。
食事ってほどのことはしてないけど、人間らしい行為に見えるから。
それに今は……お母さんと一緒にいるしね。
味は感じないけど、暖かいものが少しずつ、体の中に浸透していくのが分かる。
これが結構……気持ち良いんだよね。
――因みにあたしが座っているのは、センターからもらったイス。
家に元々あったイスは足が弱そうで、あたしの体重に耐えられるか心配だったから。
センターのイスは頑丈そうってわけじゃないけど、鉄芯が入ってるらしくて、
あたしが座っても全然平気だよ、って思うほど堂々としてた。
でもなんで、そんな頑丈なイスが、あそこにあったのかな？
あたしたち“鉱物娘”が使うことを、最初から考慮していたってこと？
あ……そう言えば、パドルさんも１００ｋｇ以上あるんだっけ。
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（――よし、始めるか！）
気合を入れて、汗なんかかかないのにハチマキなんか締めて、何始めるのかというと。
ズバリ、大掃除。 …………いや、中掃除くらいかな？
２年近く放置されてた、あたしの部屋。
お母さんが気を遣って掃除してくれてたから、実は結構綺麗なんだけど、これからあたしが使うんだから、もう１度あたしが掃除しなきゃ。
着てるのはいつものスカートじゃなくて、寝巻き代わりのスパッツ。
その上にやっぱり寝巻き代わりのＴシャツを１枚……あたしとしては露出が多い方。
……ルイさんなんか、いつもこんな服装だけど（^^;）
今から大掃除するんだから、動きやすい服装じゃないと……あ、中掃除だっけ。
（まずは押入れを……わぁ、あたし結構、服持ってたんだよなぁ）
押入れ横に押し込むように増設されたクロゼットに並ぶ、女の子の服。
けど、その中に１着……見覚えのない服があった。
（あれ、これって……学生――服？）
あたしがあの組織に拉致されて、今の姿に変えられたのは小学校を卒業する前。
学生服なんか、着る必要もなかったはずなのに。
確かにそのまま普通の生活を送ってたら、今頃は中学生だったわけなんだけど。
（……まさか……お母さんが？）
確証はない、けれど可能性はある。
（学生服、かぁ……そう言えば、春海ちゃんも中学生だったっけ）
――おっと、いけないいけない……掃除だよね、忘れかけてた。
そうだ、机や戸棚を拭こう。
ヌイグルミの位置もちょこっと変えて……簡単な模様替え。
小さな額縁の中で、色白の少女が笑ってる。
あたしも“この子”に負けないように、生きて行かなきゃ。
人間として生きてきた１２年間は、決して無駄じゃなかったよって、言えるぐらいに。
勉強机の奥の本棚に、教科書やノートが並んでる。
昔はよく宿題中に寝ちゃって、お母さんに起こされたっけなぁ。
そういや春海ちゃんが「勉強会やろうよ」って言ってたっけ、昨日。
多分……中学校の勉強だよね。
まぁこの姿で登校できないから、仕方ないわけだけど。
（ってことは……まさか春海ちゃん、今日来るのかな？）
……あり得る。
春海ちゃん結構積極的だし。
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（……ふぅ、こんなもんかな？）
いや……特に何かが変わったわけじゃないんだけど、うん何となく。
それに掃除をしてみて、ますます記憶が鮮明に思い出された気分。
あたしが２年前、ここで何してたのか、どんな生活してたのか、実感が沸いてきた。
春海ちゃんと一緒に寝たこともあったっけなぁ。
そうそう、このぬいぐるみは春海ちゃんからもらったんだっけ。
「恵美～、お客さんよ」
（あ、はーい）
――って言っても、聞こえないんだよね。
部屋から顔を出すと、階段の下にお母さんの顔が覗いてた。
こくり、とちょっと大袈裟に、お母さんに分かるように頷く。
その横から、見覚えのある顔がにゅっ、と出てきた。
やっぱり予想通り、春海ちゃん……だっ……た？
「エミちゃん、早速来たよ♪」
「お邪魔しますぅ、初めましてぇ」
「やほ、エミちゃん元気してる？」
……春海ちゃんだけじゃなかった。
翔子さんに眞希さんに、それからえーと……瞳さんだっけ？
そう言えば、人間の時の姿って初めて見たかも……わぁ、綺麗な人。
「すいませんおばさん、初対面にも等しいのに」
「いいのよ、恵美にこんなにお友達がいるなんて、嬉しいくらいだから♪」
「あ、ありがとうございますっ」
「すぐにお茶を用意するから、待っててね」
「あ、お構いなくです♪」
……そんなこんなで、４人があたしの部屋に入ってきた。
「わぁ、可愛い部屋じゃない」
「あれ？エミちゃん今日はなんかカッコいいよ♪」
「あ、ほんとだほんとだ、ハチマキなんかしちゃって♪」
（あ、その、さっきまで掃除してたから……）
「掃除してたんだ？ あたしたちのために？」
（いや、これから自分が暮らしていく部屋だし……）
「エミちゃん、そこは『みんなのために』って言っとけばいいんだよ♪」
（えー、でもあたし嘘つくの嫌いだしなぁ）
そんなことを言ってたら、春海ちゃんがふと、思わせぶりな表情でこう言った。
「ねぇ……エミちゃん、学生服着て見ない？」
（――え？）
「え、学生服あるんだ？」
「でもその……エミちゃんって、小学生の時に……」
「はい、でもお母さんが買って置いたらしいんです、戻って来た時のためにって」
あぁ……やっぱり、そうだったんだ。
「今日は中学校のお勉強をしますから、中学校の制服で……ね？」
（……春海ちゃんは私服なのに？）
「あーそのえーと、ほらあたしは先生だから」
うわ、強引な言い訳だなぁ。
（……はいはい、分かったわよ、着ればいいんでしょ？）
「わぁ、ありがとう♪ エミちゃんって断らないから好きだよ♪」
……なんか押し切られた気がするけど……まぁ、いいか。
１度着てみたかったのは確かだし。
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（……これで満足？）
「わぁ……」
……や、やだな、みんなして黙って見つめないで欲しいんだけど。
「やーん、可愛い～～！」
（ってうわちょ、瞳さんんん！？）
んでもって、いきなり瞳さんに抱きつかれた。
「あー滝川さんずるいよぉ、ここは順番じゃない？」
「……何の順番よ、何の」
眞希さんと翔子さんの掛け合いも、なんか久しぶり。
「あ、この制服って、朝陽学園のなんだ？」
「はい、えぇと確か……あたしの通ってる学校に行かせたかった、って」
「幼馴染だもんね、春海ちゃんとエミちゃんって」
「あれ、でもなんかちょっとぶかぶか？」
「もしかして、中学生サイズだからじゃ……」
あぁそうか、あたしって小学６年生の体形で止まってるんだよね。
パドルさんの話だと、完全に成長しないわけじゃないらしいんだけど、
１ｃｍ身長が伸びるのに、１００年ぐらいかかるって聞いたような……まぁ、石だもんね。
「はーい、お茶ですよー………… ？」
「あ、すいませんおばさん、本当にお構いなく……おばさん？」
そこにお母さんが、お茶のお盆を持って入ってきた。
……ってあれ？ なんかうるうるしてる…… ――まさか。
「……恵美……？」
「あ、あの、お、お盆はあたしが！」
お母さんの震える手から、春海ちゃんと翔子さんが慌ててお盆を受け取った。
お母さんは涙を浮かべて、震えながらあたしの姿を見ていた。
（あ、あの、お、お母さん……？）
「せ、制服……着たんだね……うん、うん、似合うよ、良く似合う」
ぽろぽろと涙をこぼしながら。
どうしよう……こういう展開は全然予想してなかった。
「あ、あの、すいませんおばさん……エミちゃんの制服姿、見たくって……」
春海ちゃんもおろおろして、お母さんに謝る。
けれど、お母さんは首を左右に振った。
「いいの……ありがとう春海ちゃん、おばさん今凄く嬉しいの」
「……ほ……本当ですか？」
うん、うん、と無言で頷くお母さん……そしてまた、こっちを見る。
（ど、どうかな……ちょっと、大きいかも）
「そうね、ちょっと大きかったわね……サイズ、変えなきゃね」
（……え、お母さん？）
あたしの“声”に反応するように、お母さんが涙を拭きながらそう言った。
おかしいな……お母さんには聞こえてないはずなのに。
「え、おばさん聞こえるんですか？」
「え、そう言ったの？……不思議ね、同じこと考えていたなんて」
「そっか……以心伝心ってやつ？……さすが親子だね」
以心伝心、かぁ……不思議だなぁ。
……まぁ、何があっても不思議じゃないのかも……石の少女がここにいるわけだし。
しかもテーブル囲んで、普通の少女たちと団らんしてるわけで。
普通だったら、そんな風景自体、あり得ないはずだもんね。
「そうだ、記念写真撮ろうよ♪」
「あ、いいですね♪」
「はぁ？ ちょっと滝川さん、エミちゃんいるんだよ？ 現像なんかしたら……」
「ふっふっふ……じゃじゃーん♪」
瞳さんがニヤニヤしながら、ポシェットの中からデジタルカメラを取り出した。
大人しそうな印象の人だったけど……こういうリアクションもするんだなぁ。
「……どう？ここにいるみんなだけの宝物♪」
「はは……準備がいいわねぇ……」
「じゃあ、秘密の写真ってことですね……おばさん、いいですか？」
「えぇ、構わないわよ♪ あ、それじゃシャッターは私が」
「何言ってるんですかおばさん、親子仲良く写らなきゃ」
そんなことを言いながら、瞳さんはお母さんをあたしの横に立たせた。
再び……お母さんと目が合う。
お母さんはにっこり笑って、しゃがんであたしの肩を抱いた。
そう言えば……親子写真なんて、余り撮ってなかったなぁ。
「それじゃあ……お言葉に甘えるわね♪」
（あ……ありがとう、瞳さん）
「なーに言ってるの、親子だから当然のことじゃない♪……あ、エミちゃんにです、ハイ」
「みんな恵美の声が聞こえるのね……おばさん羨ましいわ」
「あたしは聞こえないですけど……あ、でも何となく言いたいことは分かるかも？」
そうなんだよね……眞希さんも、聞こえないはずなのに分かってる感じなんだよなぁ。
感謝しなきゃ……いけないよね。
みんながあたしに気を遣ってくれてる。
感謝して……そして、もっと強くならなきゃ。
この“あり得ない風景”がいつか、“当たり前の風景”になるように。
「はい、笑って笑って、撮るよ～♪」
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| （第７章第３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2009年頃に草稿を作成したエピソード。
久し振りの１人称エピソードである（物語のスケールが大きくなると１人称では描きにくくなるのだorz）
「母親と鉱物娘の日常生活」という、それだけ書くとシュールでしかないようなエピソードであるが、
このＡＳＧシリーズだから可能な物語であり、“人外共生ロマン”を持つG-ma的にも実はこういう話が好物である（笑）
（銀河社会を舞台としたＧＤＷ世界観も基本はこういう発想の延長上にあるのだ）
姿形は変わっても、人の心があれば人間なのだ――そういうテーマも何気にあったりする。 |
