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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E073） |
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…………。
…………あ……れ……僕……？…………
……ここ……は……
――あぁ、そうか。
やっと思い出した……そうそう、ここは僕の部屋なんだよね。
人間の頃とは違うけど――もう人間じゃないわけだし、それも仕方ない。
そう割り切った、つもり……だったけど――正直、まだ複雑な気分かも知れないな。
誰もがそうなのかも知れないけれど。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第７章 非常識な日常へ ★
第３話 記憶のタイムカプセル
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僕の名前はカオル。
多分……１年位前までは、人間だった。
でも今は違う。
突然行方不明になった、幼馴染の女の子を探してる最中に、奴らに捕まった。
そう――若い少女ばかり捕まえて、勝手に石像に変えていた連中だ。
そして僕もまた……彼女たちと同じように、生きたまま石像に変えられてしまった。
それから１年くらい……僕は他の被害者たちと同じように、
物言わぬ彫像として、施設の１角に安置されていた。
ただ――僕自身の意識は、間もなく完全に沈黙してしまったのだけど。
そして最近……今僕がいる施設の人に保護されて、意識を取り戻したってわけだ。
半年ほどだろうか……意識が沈黙していた所為か、記憶の１部が抜け落ちてしまっていて、
僕自身の人格や１部の記憶は残っているのだけども、家族の記憶とかが消えている。
カオルというのが名前だったことは覚えているけど、苗字とか漢字とか、そのへんはさっぱり。
まぁ……自分が誰だったのか、ほとんど全部忘れてしまった人もいるから、まだマシなんだろうな。
意識を取り戻してから１週間後くらいだろうか……僕は施設の人に“魔法”をかけられて、
石像化しているにもかかわらず、自分の意思で動くことが出来るようになった。
魔法をかけてくれたのは、黒髪の綺麗な女の人……えぇと、ライカさんだったっけ？
もっとも動けるといっても、まだまだ凄く遅いし、強く念じないといけない。
何しろ――まだほんの３日くらい、前のことだからね。
それでも、１年くらい生きた石像として放置されてきた身としては、新鮮な気分だった。
自由というのが、こんなに素晴らしいことだなんて、多分人間の頃は考えもしなかっただろうな。
（どっこい――しょ）
上半身を起こすだけでも、何分もかかる。
いざ動き始めると比較的スムーズに流れてくれるんだけど、最初はこんな感じだ。
“活性化２日目”だった昨日は、もっと遅かったと思う。
そこから、念で体を引っ張るようにして、ベッドの横に脚を出す。
半透明のクリスタルみたいな、薄いブルーのボディ――アクアマリン風とでも言えばいいのかな。
これが今の――“生きた石像”と化した、僕の体だ。
その体勢から、ゆっくりと手すりを掴んで、慎重に立ち上がる。
ここで気を抜くと、変な姿勢のまま固まって倒れてしまうから、気をつけなきゃいけない。
幸いと言うべきか、１度手すりを掴んでしまえば、簡単なことでは外れない。
指先から念を抜いてしまえば、強力なロックがかかるからね。
もちろん――前に踏み出す際にはもう１度念じて、手を離さなきゃならないわけだけど。
こうした過程を踏んで、ようやく部屋の真ん中に立つことができる。
部屋の中には、特に何もない。
今、自分の後ろにある簡素なベッドと、小さなパネルが置かれた机とイスだけ。
パネルは電子機器らしいけど、まだまともに動けない僕は１度も触ったことがない。
パネルの表面は何かの画面のようだけど、消えてる時はまるで鏡みたいだ。
その“鏡”に、今の僕の姿が映っている……緑がかったライトブルーの、半透明の石でできた体。
――そして、ショートカットの少女のような体形。
……といっても、僕は最初からこの体形だったわけじゃないんだ。
今となってはかすかな記憶になってしまったけど……人間だった頃は男だった、はず。
僕を今の姿――少女体形にしたのも、記憶が確かなら……あいつらだったと思う。
まぁ……石化してしまったこの体は、どんな体形でもあまり意味はないような気もするんだよな。
頭の天辺から爪先まで、表面から芯まで、１個の石になっちゃったんだから。
ただ――その外見が、少女のそれに似ているというだけ。
そう……それだけの、ことなんだ。
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（よ、今朝は早いんじゃね？）
廊下に出た僕に、すぐ近くから声がかけられた。
声って言っても、テレパシーというのか……人間には聞こえないんだけどね。
ややぎこちないながら人懐っこそうな笑顔を浮かべる、動く少女の石像――ユウ。
この施設では“鉱物娘”なんて呼ばれることもあるみたいだ。
ただしユウの場合、元から少女じゃなくて、僕と同じ……男だったそうだ。
耳に響く――というよりは体にこだます――“彼”の言葉遣いも、そういう感じに聞こえる。
（まぁ、ね……昨日よりは早く、起き上がることが出来たから）
ユウの外見は、紫色の半透明の石像――アメジスト、って言うんだっけ、その石に似ている。
腰まで届くかという長い髪に、“少年時代”を想像するのが難しいほど大きな胸。
ただ素振りは何というかラフで、その辺はやっぱりどことなく少年っぽい。
（地道に成長しているわけか、上出来上出来♪）
（はは……まぁ、出来るんだったらもっとスムーズに動きたいしね……ユウはいいなぁ）
（え、なんで？）
（だって、僕と半月も違わないのに、もう普通に動けてる感じだし）
（早い方……なのかな？ あんまり実感はないんだけど俺……あぁでも、初期組に比べりゃ早いか♪）
初期組――というのは、活性化された“鉱物娘”の初期メンバーのことだ。
“１番手”だったルイさんが動けるようになったのは、もう半年以上も前のこと。
聞いた話だと最初の１週間はろくに動けず、階段を上るのに１時間もかかったらしい。
２番手がエミちゃん、そして３番手がサラさん……このあたりは“３人娘”なんて呼ばれている。
４番手のスイちゃんから、この施設で活性化されたメンバーになる。
サラさんまでは、山の中に遺棄された、あいつらの施設で活性化されたらしいからね。
僕もそこにいたはずだけど……まだその時は全然、意識がない状態だった。
僕だけじゃない、ユウやスイちゃんも同じだな……生きてるかどうかも分からない石像だった、らしい。
まぁ……今もなお、意識さえ戻っていない被害者が何十人もいるんだけど。
考えてみれば……僕はこれでも、結構恵まれている方なのかも知れない。
エミちゃんが活性化処理を受けるまで３ヶ月以上、ルイさんはほとんど１人だったらしい。
僕なんか、意識を取り戻した瞬間から、周りに多くの“仲間”がいた。
初期組の３人娘に加えて、スイちゃんにコナさんにユウに、そしてそれ以外にも何人も。
翔子さんとか春海ちゃんとか、人間だけどかつて石化した経験があって、僕らの“声”が聞こえて、理解を示してくれる人もいた。
でも……それでも、僕の心はどうも、晴れる兆しがない。
人間に戻ることが出来なくて、この体で生きていかなきゃならないこともそうだけど、
僕をもっと悩ませる原因が、実はこの施設にある。
施設の設備とか、ライカさんを始め管理している人たちとか、そういうのでもなくて。
（――あ、お早うございます♪）
――来た……その原因が。
廊下の奥の階段から、半透明のオレンジ色の鉱物娘が１人、おぼつかない足取りで１歩１歩、上ってくる。
僕は彼女の顔を、どうしても正面から見ることが出来ない。
まぁそれでも……この体はまるでプリズムみたいに光を透過して、
彼女の姿を映し出してしまうんだけどね――便利だけど、こういう場合は残酷かも知れない。
彼女の名前は――ミキ。
けれど……実は、彼女自身にはその記憶がない。
かつて人間だったことは自覚しているみたいだけど、自分が誰だったか全く覚えていないらしい。
もちろん――僕の幼馴染で、僕が好意を寄せていたこともみんな。
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僕自身、家族の顔もほとんど覚えていないけど……自分の名前や性別は覚えていた。
そして……あの日の出来事も、はっきりと覚えている――いや、思い出したといった方がいいのかな。
数ヶ月程度とは言え……僕自身も全く意識がなかったわけだし。
確かあの日は……不気味なくらい、真っ赤な夕焼けの日だったはず。
ミキが行方不明になって、２～３ヶ月くらい経ってたと思う。
僕は他の大人たちとは違うところで、彼女を探していた――幼馴染の経験と勘でね。
そんな時……あの施設を見つけた――そう、森の中の、あの遺棄された施設。
その頃はまだ稼動していて、僕は恐る恐る、侵入を試みたんだ。
そして――“目撃”した。
壁際にずらりと並べられた、少女たちの石像。
その中に……ミキの姿があった。
オレンジ色の半透明の石像……トパーズと言えばいいのかな。
僕は凄くショックを受けて、どうしたらいいか分からなかった。
そして立ちすくんでいる時に……奴らに捕まったんだ。
その後は――今の僕の姿が物語っている。
謎の薬で少女化され、更に謎の石で生きたまま石像化された僕は、
無言で立っている、ミキのすぐ横に並べられた。
僕は自分が石像化されたこともショックだったけど……それよりもミキが心配だった。
僕は毎日――地下だったから昼も夜も分からなかったけど――必死でミキに呼びかけた。
もちろん、声なんて出せなかったから、念じるしか出来なかったけど。
けれど……ミキは応えてくれなかった。
１度……ほんの１瞬だけ、感情のかけらみたいなものが動いたような気がしただけ。
僕が失望して、彼女と同じように完全に沈黙したのは――それから多分、すぐのことだったと思う。
そうそう……そんな僕に「諦めないで」と呼びかけてくれたのがルイさんだったっけ。
あの頃から、ルイさんは凄く芯の強い人だった……当時は自分だって全然、動けなかったはずなのに。
結局……その呼びかけに応えられなかったわけなんだけどね。
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（――カオルさん、どうかしたんですか？）
（…………え……あ、いや……な、何でもないよ、うん）
ちょっとの間……想いに浸っていたみたいだ。
ミキの“声”で我に帰ると、すぐ横に彼女の顔があった。
見慣れたはずの顔がオレンジ色に染まって、僕のラムネ色の顔を覗き込んでいる。
けれど――その言葉遣いは、かつてのミキと違って礼儀正しく、余所余所しい。
仕方ない、と言うのは簡単だけど。
あの時、ほんの１瞬発露した感情を引っ張り出せてたら……僕のことを思い出してくれたかも知れない。
何も覚えていないミキは、何故僕が悩んでいるのかも分からないだろうけど。
僕はどうしても彼女の顔を正視できずに、視線を斜めに反らすことしかできなかった。
（そう言えば、カオルさんは昔のことを覚えているんですよね……しかも男の子だったなんて）
違う……悩みの原因はそんなんじゃないんだ。
僕が何も言葉を返せずに黙っていた、その時だった。
（――ミキさん、一緒に下で運動しない？）
（あ、サヤさん……ハイ、いいですよ♪ ……じゃあカオルさん、また後で）
黒い半透明の鉱物娘――サヤさんが、ミキを呼んだ。
素直に付いて行くミキ……階段を降りる前、サヤさんがゆっくりこっちを向いて、軽く会釈した。
……どうやら、フォローしてくれたみたいだ。
そう言えばサヤさんにも、昔の記憶があったんだっけ。
（まぁさぁ、カオル……覚えていない方が幸せってことも、あるんじゃないかな？）
（……うん……そうかも、知れないけどね……）
確かに……ユウの言う通りかも知れない。
覚えていたら覚えていたで、石化した体で生きるという現実を受け止めなきゃならなかった。
僕自身、ミキのことばかり考えがちだけど……ふと自分のことを考えたら、やっぱり色々気が重い。
昔を忘れてしまったミキに対して哀しい気持ちになるのは……わがままなのかも知れない。
でもやっぱり……ミキが“あのミキ”じゃない、というのは僕の１番の悩みだった。
つまり……“あの頃”を語れる相手が１人もいないわけで。
良く似た境遇を持ってる“仲間”は多いはずなのに、それなのに凄く寂しい。
（諦めたら、ダメだよ――カオル君）
（――え？ ……あ、ルイさん）
ふと気付けば、すぐ横にルイさんが立っていた。
そのルビーのような顔や手足が、天井の照明の下で輝いているように見える。
（ミキさんが好きなんだったら……待たなきゃ、ね？）
（そ、そうですね……）
どうしようもないな、僕は……さっきから励まされてばっかりじゃないか。
本当だったら、僕がミキを励まさなきゃいけないのに。
僕自身が……乗り越えなきゃいけないはずなのに。
こうしちゃ……いられないよな。
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僕は１階に降りて、トレーニングルームの扉を開けた。
３階の廊下から、結局……１時間もかかってしまったけど。
まだ３日目――と自分に言い聞かせて、僕はひたすら前へ前へと脚を運ぶ。
ユウが同じ歩調で、着いて来てくれたのが凄く心強かった。
でも、甘えるわけには行かない……もっと、もっと早く、動けるようになりたいから。
例え昔のことを忘れてしまっていたとしても……ミキを守れるようになりたい。
せめてミキが危険にさらされた時――咄嗟に手が出せるぐらいに。
部屋の奥に、彼女が――ミキが立っていた。
サヤさんの手ほどきを受けるように、ストレッチをしている。
サヤさんがふと、顔を上げてこっちを見た。
表情はまだ余り変えられないけど、明らかに心配してくれている感じだった。
ミキもそれにつられるように、ゆっくりと顔を上げる。
僕は思わず、顔を背けようとした――けど、首が動かなかった。
どうやら意識を手足に集中していた所為で、首から上がほとんど硬直していたらしい。
けれど……そこで、僕は思い直した。
――逃げたらダメだカオル、ミキを守れるようになりたいんだろ？
ミキが顔を上げて、こっちを見る――初めて、今の彼女の顔を正面から見た。
淡いオレンジ色の、半透明の少女像……その表情はまだ、あの日のまま。
哀しげな表情と、瞳のない目――思わず胸がぎゅうっと、締め付けられる気がした。
（カオルさんも、運動しに来たんですか？……そうだ、一緒にやりません？）
その表情とは違う、落ち着いた“言葉”が、彼女の心から放たれる。
僕の思いにまるで気付かないかのように――あぁ、そうか。
僕も同じなんだ……今のミキと同じように、まだ表情を変えることができない。
それに加えて僕の記憶がないから、僕の心が痛む、本当の理由が分からないんだろうな……多分。
“昔の記憶があるのに人間に戻れないことでまだ悩んでいる”ぐらいにしか思わないんだろう。
いや、その悩みも確かにあるし、決して軽い悩みじゃないんだけど。
（カオル君……大丈夫？）
こっちはサヤさんの言葉――サヤさんは多分、僕の痛みの本質を察してくれてる。
実は昨日……サヤさんとルミさんに、ミキと僕の関係を話したんだ。
だから……僕の心が沈んでいる原因が、ミキの“記憶喪失”にあると分かってると思う。
“人間だった時の記憶がある悩み”の重さに、その悩みがプラスされているのが、今の僕の心。
でも……今は甘えるわけには行かない……ミキの前なんだから。
（は、はい……い、一緒に……いいですか？）
（わぁ、嬉しいです、私もカオルさんと一緒に運動したいなって、さっき思ってたんです♪）
――１瞬、ドキッとした。
まさか……偶然だよね。
さっき僕と“会話”したから、そう思っただけだよね。
自分にそう言い聞かせる……諦めたくないけど、期待したって仕方ないから。
（あ、ありがとう……ミキ――さん）
（固くならないでいいですよ、見た感じ同年代っぽいですし、今は女の子同士――でしょ？）
“同年代っぽい”どころか……同い年なんだけどね、本当は。
女の子同士――かぁ……面と向かって言われると、ちょっと複雑だな。
――って、なんだ……思っていたより、普通に会話できるじゃないか僕も。
（――あたしも、混じっていいですか？）
（あ、えぇと……ミカさん、でしたよね？――はい、喜んで♪）
ふと気付いたら、僕とミキの周りに、鉱物娘たちの輪ができていた。
サヤさんやユウに加えて、ミカさんやリンさんや、ルミさんやパルさん。
その中で、真っ先に話しかけてきたのがミカさんってのはちょっと意外だったけどね。
……この人、もっと大人しいと思ってたから。
（いいですよねー、みんなで一緒にするのって）
（ふふ、あたしたちも負けてられないなぁ、ねぇパルさん？）
（はい、そうですね、ルミさん♪）
そんな様子を眺めていたユウが、軽く苦笑いしたように見えた。
（……カオルって結構、人を呼ぶんだな）
（え……そ、そんなことないよ）
（うーむ、純粋そうなのが結構、可愛く見えちゃったりするのか）
（な……何言ってるんだよユウ……ユウだって、人気者じゃないか）
（えぇー、俺って人気者かぁ？）
「あながち間違いじゃないわねぇ、それも♪」
（ぬぁっ！？ っちょ、ら、ライカさんん！？）
……いつの間にか、ライカさんがすぐ横にいた。
不意打ちで肩を抱き寄せられたユウは、何故か凄く慌てている……何かあったのかな？
「純粋な女の子だと、こんな反応はあんまりしないからねぇ、見てると楽しいかも♪」
（た、楽しいって……か、からかってんスか！？）
「『ユウ君の場合、芯は強そうだから弄りやすい』って、翔子ちゃんが言ってたわよ」
（ほ……褒められてる気がしないッス！）
（………は……はははっ）
（――あ、カオルお前今、笑ったな！？）
（え……あ、いや、わ、笑ってないよ……そうだよ、まだ表情も変えられないのに）
（いーや、今確かに笑ったような気がした！）
「いいじゃないのよ……考えて見なさい、カオル君今、初めて自然に笑ったんだから」
（……あ、そう言えば）
（そうですよね、今の笑い方は苦笑いじゃなかったような）
――そうか……そう言えば、そうかも。
ミキのことばっかり考えて、心配で寂しくて、笑うことなんて当分ないと思っていた。
けれど、確かに今……僕は“当たり前のように”笑った気がする。
外見的には、まだ哀しげな表情のままだけど……表情をつけるのも、結構大変らしいからね。
何だか……凄く、楽になった気がした。
まだミキのことが気になって仕方ないけど、一応は正面から会話できるようになったし、
表情はともかく、素で笑うことが出来ることも分かった。
何とかなるかも知れない。
そう――諦めずに、期待せずに、時々笑って行けたら。
そしてもしもいつか、ミキが記憶を取り戻した時……笑顔で迎えることが出来たら。
自分が歩くべき道が――見えたような気がした。
（と、取り合えず、運動しようよ……そのためにここに来たんだから）
（あ、そうですよね、それじゃ始めましょう♪）
そう――彼女の記憶を笑顔で迎えるために、僕は生きていかなきゃ。
励まされるのではなくて、励ます側にならなきゃね。
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| （第７章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2009年頃に草稿を作成したエピソード。
ＴＳ（性転換）鉱物娘第２号（殴）であるカオル視点のエピソードである。
“第１号”であるユウを差し置いて１人称エピソードの候補になったのは、実は“原案”があったからだ。
ユウと共にカオルも2007年には草案が出来ていたキャラであり、
その際に活性化リハビリをしているシーンが思い浮かび、これが今回のエピソードの原形であると同時に、
ＡＳＧシリーズを“連載化”に押し出す、きっかけの１つになっているのだ。
性格面や能力面では目立った個性のないキャラだが、“彼”もＡＳＧシリーズの重要な立役者なのである。 |
