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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E075） |
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「――どしたの、瞳？」
「……え？ あ、ううん、何でもない」
英子に声をかけられて、あたしは我に返った。
最近、こんなのばっかり……いつの間にかボーっとしてる。
勉強もちっともはかどらない……せっかく、図書館に来たって言うのに。
２学期が始まるまで、あと１０日もないっていうのになぁ。
まるで――心が透明に……ううん、空洞になっちゃったみたい。
やっぱり……“あの出来事”が、あたしに異変を引き起こしているんだろうか……
時々、ちょっとそんな不安な気分になる。
石塚さんや春海ちゃんも、こんな感覚になることがあるのかな？
あたしは、ふと自分の手を見た。
特に何の変哲もない、いつものあたしの手。
けど“あの時”は、まるでガラス細工のように透き通っていた……まるで自分の体じゃないみたいに。
そう――ちょうど今のあたしの心も、そんな感じ。
ダメだなぁ……もっとしっかりしなきゃ。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第７章 非常識な日常へ ★
第５話 壊れ出した秩序
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気がついたら……いつの間にか、港の外れに来ていた。
まただ……また、心が空っぽになってたみたい。
そう……ここは、ルイさんやサラさんたちが暮らしている場所。
ルイさんたちは、まるで何年も前から友達だったみたいに、あたしを迎えてくれた。
普通の人間には聞こえない“音のない言葉”で、あたしに話しかけてくる。
不思議だけど、それがあたしには聞こえるんだよね……いや、あたしだけじゃないか。
石塚さんも春海ちゃんも、“１度石化された”経験がある子は、全部そうなっちゃうみたい。
とても不思議で、新鮮な経験。
だって動く石の少女たちと会うだけでもファンタジックなのに、会話までできるんだから。
何て言ったらいいのかよく分からないんだけど、言葉が分かるんだよね。
その気になればこっちからも同じようにして“心の声”を返せるみたいだけど、
普通に喋っても別に問題はない……向こうはこっちの声が聞こえてるしね。
「――へぇ、もうそこまで進んだんだ？」
因みにあたしが今会話しているのは、エミちゃんと春海ちゃん。
中学校に上がる前に今の姿に変えられたエミちゃんのために、春海ちゃんが勉強を教えてるんだけど、
この１週間ぐらいでもう１ヶ月分くらいの勉強が理解できたんだって……凄いよねぇ。
（は、はい……ま、まぁ、何となく、ですけど……）
「春海ちゃんも負けてられないね、頑張らなきゃ追いつかれちゃうよ♪」
「あはは……はぁい」
……苦笑いして返事をする春海ちゃんも、凄く可愛いんだよなぁ。
「そう言えば、滝川さんは宿題もう終わった？」
「え……あ……う、うーん……も、もうちょっとかな？」
……石塚さんって、答えにくい問いをズバリと突いて来るよね。
実際、始業式までに間に合うかどうか怪しいしなぁ……あたしも人のこと言えた義理じゃない。
「５人で図書館でやってはいるんだけど、これがなかなか進まなくて……」
「あ、それ分かる分かる、眞希とやっててもそうだもん」
「えー……翔子それって酷くない？」
ルイさんたちが笑みを作る……笑い声は聞こえないけど、凄く楽しそう。
（勉強かぁ……あたしたちも何かしてみよっか？）
（そうですねぇ……体の方だけじゃなくて、頭も鍛えないといけないですし）
（うーん、でもあたしはあんまりいい記憶がないかも……）
そっか、サヤさんは人間だった頃の記憶があるんだよね……それも大変だなぁ。
「それじゃ、今度はここで勉強会とかしてみます？」
（――中学校の勉強だったら、簡単過ぎるかもね♪）
その“言葉”と共に、コバルトブルーの体を持つ鉱物娘――ルミさんが談話室に入ってきた。
そうそう、この人も人間の時の記憶があるんだよね確か。
ルミさんに気付いた春海ちゃんが目を泳がせた……あぁそうか、２人は“同期”だっけ。
確か鉱物娘を作ってきた連中の組織で、春海ちゃんが７０番、ルミさんが６９番だって聞いた。
春海ちゃんは人間に戻れたのに、１つ前のルミさんは戻れなかった……運命って非情だなぁ。
でもルミさんは、それをくよくよ悩んでる感じじゃなかった。
……聞いた話だと、最初の頃――１ヶ月くらい前は、大分悩んだらしいけどね。
うん……あたしがその立場でも、かなり凹んだと思う。
（そんな顔しなくていいんだよ春海ちゃん……あたし、もう慣れたから）
ちょっとぎこちない笑みを作って、ルミさんは春海ちゃんの心をほぐそうとしている。
けれど、春海ちゃんは笑顔を作らない……うぅん、どうしたらいいのかなぁ。
（春海ちゃんには悲しんで欲しくないの……同じ苦しみを味わった友達じゃない）
（そうそう、春海ちゃんが戻れたことは、あたしたち素直に嬉しかったんだよ、あの時は助けることができなかったんだから）
サヤさんも横からフォローする……そうなんだよね、サヤさんもルミさんも、春海ちゃんの同期。
春海ちゃんがあいつらの組織の施設で、石像に変えられた時にその施設にいたらしい。
もちろんその時は全然動けない状態で……意識だけがある状態だったとか……酷いよなぁ。
エミちゃんが何も言わずに……春海ちゃんの肩をそっと抱いた。
春海ちゃんも何も言わずに……頭と肩をエミちゃんに預けた。
そしてエミちゃんは、サヤさんとルミさんに向かって、ちょっと申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
サヤさんとルミさんも何も言わずに、苦笑いをして首を振った。
言葉は――要らない世界なんだね……暖かいけれど、深くて、そして重い。
（――ごめんなさいね、あたし、邪魔しちゃったかも）
「え？……あっいやその、ルミさんが謝ることなんかないですよ！」
いきなり言葉を振られて、今度はあたしの方が慌てた。
そう……ここにいる“人たち”はみんな暖かくて優しい……尋常じゃない苦しみを、知っているから。
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「うーん、難しいわねぇ、あの辺りは……」
センターからの帰り道、石塚さんがぼやくように言った。
“あの辺り”といのは、ルミさんやサヤさんのこと……ミカさんとかもそうかな。
もう少し発見と保護が早かったら、人間に戻せていた人たち。
ライトバンのテールランプが、街の方に遠ざかっていく。
ライカさんの運転で、エミちゃんと春海ちゃんが乗っている。
春海ちゃんはともかく、エミちゃんは堂々と町を歩けないからね。
あの子と一緒に暮らすことを決めたお母さんは、本当に凄い人だと思う。
「ルミさんも、別に嫌味で言ってるんじゃないんだけどなぁ……」
「そうだよね……でも、あたしは春海ちゃんの気持ちも分かるかな。
あたしが同じ立場だったら、きっと同じように悩んでたと思うんだ……多分ね」
「まぁ、言われて見ればそうかもねぇ……まだ中学生だしなぁ」
「うぅ～ん、なんか重い話だけど、あたしらは経験してないしなぁ……ねぇ坂本さん？」
「……うん……」
英子が重くなったムードを和らげようとしてるけど、なんか空回りしている感じ。
考えてみたら坂本さんも複雑な立場だろうなぁ、未経験者だからヘタなこと言えないだろうし。
ファンタジックなんて言っちゃったけど、撤回した方がいいかな。
ここは現実の世界なんだから……そしてルイさんたちもエミちゃんも、元々は普通の人間。
センターの人たち――パドルさんやライカさんがもしいなかったら、
こんな出会いもなかったかも知れないし、最悪今も石像のままだったかも知れない。
カラスの声が、遠くの空に響いていた……そう言えばセミの声も変わってきたかも。
１週間くらい前は――それこそあのテロ事件の頃は、クマゼミがやかましいぐらいだったけど、
今は“夏の終わりに鳴く”という、ツクツクボウシの声が混じってる。
「――あぁ、商店街の工事が始まってるねぇ」
英子の言葉で、あたしはふと現実世界に引き戻された――あぁ、もう駅前まで来てたんだ。
数日前まで、警察が使う青いシートが張られていたけど、
今は撤去されて、工事用の機械が壊れたアーケードの中に入っているのが見える。
そう……１週間くらい前、あたしはこのアーケードを、硬くなった体で歩いた。
今考えたら恥ずかしい姿だったなぁ……何しろ、クリスタルみたいな半透明の体だったから。
体だけじゃなくて服まで変わってたわけで、スカートじゃなかったのが奇跡的に幸いだったかも。
まぁ……あの時はとてもそんなこと、考える余裕がなかったけどね。
体は元に戻ったわけだけど……今も心のどこかに、あの時の余韻が残っている感じ。
夢の中にいるみたいに、心がどこか半透明で、幻の世界を漂っているような。
３日くらい前までは夢も何度か見た……もう１度、動けない石像に戻される夢。
そうそう、そう言えばあの時は、石塚さんも春海ちゃんも変わってたなぁ。
「おっと、今日はここで、それじゃまた明日っ♪」
「あ、お疲れ様ー♪」
アーケード前の交差点で、英子が別れた……彼女は港に近いマンションに住んでるからね。
「さてと……そろそろあたしらも別々の道ね――ん、どうしたの眞希？」
「え……あぁ、うん……あたしね……」
さっきから考え事をしていたような坂本さんがふと、思いもしないことを口にした。
「あたし……やっぱりあの時、石に変えられてた方が良かったのかも」
「……はぁぁ！？……ちょ、何考えてるのよあんたは！？」
「だって、あたしだけ……あたしだけ、経験してないんだよ！？ 翔子も滝川さんも、春海ちゃんも経験しているのに！」
「あんたね、好奇心でそんなこと言わない方がいいって前も言ったじゃない！」
「違うよ、そんなんじゃない！！」
周りの人がふと振り返るくらい、大きな声が響いた……あたしもびっくり。
坂本さんが、こんなに大きな声で叫ぶ姿なんて、初めて見た。
「だって……エミちゃんやルイさんの気持ちを理解したいんだもん……あたし１人だけ外野なんて嫌だよ……大事な友達なのに」
「だったら、別に今だって……眞希だって、エミちゃんたちの言いたいことが、最近分かるようになってきたって、言ってたじゃない」
「だから嫌なの……あたしだけ、何も経験してないなんて……」
「坂本さん……」
後半は何だか、涙声だった。
確かに、石塚さんの言うとおり、こんなこと軽率に言うべきことじゃない。
ルイさんたちの気持ちをもっと理解したいっていったって、別に石化経験なんかなくったって。
ルイさんたちだって、坂本さんにそんなこと求めてないはず。
でも……分からなくもないかも。
１線を超えて、心を通わせることが出来ないのが歯がゆいんだよね。
「あ、あたし……ここから道が違うから」
「あ、うん、ゴメンね滝川さん」
取り合えず、ここは石塚さんに任せた方がいいと思った。
だって、小学校時代からの幼馴染なんだから、あたしが入る隙なんかない。
はぁ……どうして、こんなことになっちゃったんだろうなぁ……
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「ただいまー……って言っても仕方ないか」
小さなダイニングテーブルの上に、小さな紙切れ。
“今日は遅くなります、ご飯は暖めて食べてね――母より”
うちは共働きの上、父さんは単身赴任だからなぁ。
こういうの、昔は鍵っ子って言ったんだっけ？
石塚さんとこも共働きらしいけど、お母さんのパートはせいぜい夕方まで。
うちは遅いと深夜になるからなぁ……いちおう、正社員だし。
でもまぁ、最近は色々厳しくって、正社員も安泰じゃないんだとか。
まぁ大変なのは大変よね、あたしが愚痴っても仕方ない……そういう時代なんだし。
ＴＶをつけたら、なんか社会問題をネタにしたバラエティ番組がやっていた。
人気芸人が司会で、専門家とか呼んで討論するんだよね確か。
んで脳味噌少なそうなグラビアアイドルが「へぇぇ～そぉなんですかぁ～」とかもっともらしそうに頷いたり。
……あれ、絶対何のことか分かってないと思うけどね。
考えてみたら寂しい時代よねぇ、バカを嘲うような番組が高視聴率獲得しちゃったりして。
笑われてる方も、自分が人気者とか勘違いして……って、何おじさんみたいなこと思ってんだろあたしったら。
……案外、１番寂しがってるのはあたしだったりして？
兄弟姉妹もいない、幼馴染もほとんどいない、親は共働きで夜まであたし１人。
英子とか仲のいいクラスメイトはいるけど、石塚さんと坂本さんほど濃い親友関係じゃないし。
そっか……あたしって前から、空っぽだったのかも知れないな……
その時だった。
『もしも体が石でできているのなら、人類は夢の不老長寿を手に入れられるかも知れませんよ？』
って……これ、何の話よ！？
消そうとしていたＴＶの中で、ふと評論家らしい男が言った言葉に、あたしは１瞬、耳を疑った。
『この前のテロ事件の首謀者については、警察は詳しいことを発表してないわけですけど？』
『返って怪しいじゃないですか……案外本当に、巷の噂話が真実かも知れませんよ？』
『“金属の怪人と鉱物の少女”ですか？……ただの都市伝説じゃないと？』
『もしも警察が言うとおり集団幻覚だというのなら、事件の顛末をちゃんと市民に報告すべきでしょう、
現にあの事件では、死者だって出ているわけですからね』
番組の内容はちょうど、あのテロ事件のことだった。
確かに多くの被害者があの怪人や石化被害者を目撃しているから、噂になってもおかしくない。
ＴＶ映像でも、交差点の真ん中で暴れる、怪物のようなメタリックな物体を数秒だけど映していた。
そう……あたしがルイさんたちと一緒にアーケードを脱出した時、ライカさんと戦ってたやつだ。
けれど、あたしが耳を疑ったのは、そこじゃなかった。
『もしも本当に“金属の怪人”がテロ事件を起こしたのだとしたら、これは人類への挑戦なのかも知れませんよ。
実際被害者も、怪人たちが「これからの時代に人間は要らない」と言ったと主張しているじゃないですか』
『随分と過激な主張ですよねぇ』
『それは見方１つとさっき言ったと思いますがね……もしも本当に金属の体を手に入れられるのならば、
確かに人類の行動範囲は飛躍的に高まるでしょう』
『“人類は要らない”とその怪人たちは言ったんでしょ？』
『その怪人たちのような“新人類”という視点もありだということですよ』
この男……すごく自信たっぷりだけど、本気でこんなこと言ってるのかしら？
だって「人類の進化のためには金属化も選択肢」なんて言ってるんだよ！？……正気じゃないよコイツ。
司会の芸能人もさすがに無茶な意見だと思ったみたい……それが普通の反応だよねぇ。
『うーん……でもその言い方だと、事件を起こした側を擁護するみたいに聞こえません？』
『まぁやり方は強引でしたがね……けれど、彼らが本当に“金属の体を手にした人間”だというのなら、
革命を起こしたくなる気持ちも理解できなくはないですよ』
司会はそこで唐突にＣＭを挟んだ……間違いなく、コイツの暴論を止めるためだよね。
けれど、コレがもし本当に冗談じゃなくて、本気で言ってるんだとしたら……
本当に……世の中は壊れ始めているのかも知れない。
ヤだな……あたしまでこんなことを考えるなんて――ほんと、どうしちゃったんだろう。
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| （第８章第１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2009年頃に草稿を作成したエピソード。
メタキャリア組の１人、滝川瞳視点の日常エピソードである。
基本は翔子と同じく、石化という非常識な経験をしたキャラクターが違和感に悶々とする展開だが、
その背景に“未経験”に悩む眞希と、過激な持論を口にするコメンテーターのネタを盛り込み、
「都市伝説を越えつつある世界」の不穏な空気を被らせてみた。 |
