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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E085） |
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朝陽市郊外の住宅街。
のどかなベッドタウンの中に建つ、いかにも普通の民家の中で、彼女は生活している。
外からは中を伺えない、レース状のカーテンに覆われた、２階の窓の奥。
ぼんやりと外を眺めている、エメラルド色の鉱物娘――エミ。
目の中に瞳の影がないので“どこを見てるのか”は分からないが、どことなく物憂げだ。
（……何だろう、変な気分）
石化した娘との生活を決意した、気丈な母親との暮らしが始まって半月。
世間はもう数日ほどで８月が終わり、新学期の９月が始まる、そんな時期だ。
西に傾いた太陽が、カーテンを通して部屋の中にオレンジがかった光を差し入れる。
その光を正面から受けるエミの体も、若草色に染まって見える。
とはいっても、まだ日暮れには何時間も早い昼下がり……遠くでセミの声が聞こえている。
仕事をしている母親が帰宅し、質素だが愛に溢れた食卓を囲むのは、まだずっと後のことだ。
（こんな気持ちいい日なのに……おかしいな）
エミが“妙な感覚”を覚えたのは、午前中だった。
すでに“自分のもの”にしてしまっている、鉱物の体の違和感ではない。
あえて言えば“胸騒ぎ”と言えばいいのだろうか……半月ほど、なかった感覚だ。
（ルイさんたち……今どうしてるかな？）
不意に――センターを訪ねたい、という衝動が彼女の中にこみ上げてきた。
しかし、今家にいるのはエミ１人……外に出ることは出来ない。
「母親と日常生活を送っている」とはいえ、自由に外出できるわけではないのである。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第８章 新たなる謎 ★
第５話 少女たちの集結
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所変わって、センターＤの事務室。
渋い表情で椅子に腰掛けているのは、パドルとライカである。
ただし、事務室にいるのは、２人だけではない。
「ここが、この建物の中枢ってワケか」
「何だ結構殺風景なんだな……けどいいのかよ、元敵をここまで入れて」
２人の背後には、更にメタリックな大男が２人――ホルスとアイガーである。
「既に組織を裏切った身だろ、今更裏切るものもないわけだからな」
「協力者は１人でも多い方がいいからね……これから本当に、大変な事態になるのなら」
数分前まで……ライカは保管庫でエリの“証言”を聞いていた。
そしてそこで、彼女から“大変な事態”を聞いたのだった。
言うべきことを言ったエリは、今ルイたちの付き添いで個室に移されている。
養生を勧めたライカだが、エリは「もっと速く動きたい」と今も練習中らしい。
「……彼女も、“大いなる計画”を知っていたってことなのか？」
「妙な話だな、初期型とは言え、実験体にそんな話を聞かせるわけもないと思うが」
「あの子は『計画を止めようとしたけど止められなかった』とまで言ったのよ……ただの被害者じゃないわ」
「組織の幹部にしちゃ若過ぎると思うがなぁ……高校生にしか見えなかったぞ」
「７号実験体は俺やアイガーがラボに入る前だからな……当時はもっとオープンだった……はずもないか」
「名前も覚えていたしなぁ…… ちょっと待てよ、彼女、確か“エリ”と名乗ったよな？」
思案顔で座っていたパドルが、ふと何かに閃いたような表情をした。
「え？……えぇそうね、確かに自分をエリと言ってたわね」
「末留警部の娘の名も、確か“絵梨”だったよな？」
「あぁそう言えば……でも偶然じゃないかしら、顔写真だって違ってたじゃない」
ライカは軽く流そうとした……名前が同じであっても別人であることくらい、良くある話だからだ。
エミの件では見事に一致したが、こういうケースの方がむしろ珍しいだろう。
だが、パドルにはまだ“ネタ”があった。
「そのことだがな……あの警部、時々妙な雰囲気を醸し出してる気がするんだ」
「真面目そうな人だったけど……まぁ言われてみれば、確かに時々怪しい雰囲気はあったかな？
けど、人格に多少の闇を持ってる人なんてザラにいるわよ」
「なぁライカ、この前やって来た、山川がいたろ」
「あぁ、あいつね……何か言ってたわけ？」
「１年半ほど前、警部の娘が通っていた高校が、放火に遭って倉庫が燃えた騒ぎがあったそうだ」
「ふうん……でも、それがどうしたの？」
「その時、集合写真を保存していたフィルムケースも燃えたそうだ」
「何ですって……？」
パドルの言葉に、ライカは思わず身を乗り出した。
「つまり……不明者名簿の顔写真が、本人のものである証拠はない」
「ちょっと……それって……」
「横槍を挟むようだが……その山川とか言う男の話は信用できるのか？」
「怪しさなら誰にも負けてない男だがね……持ってる情報の正確さは折り紙つきさ」
「……あの子が秘密を打ち明けた時、１瞬どもったのは、もしかして……」
ライカはそう言って、眉をひそめた。
彼女に“言いたいこと”を告げた時、エリはわずかにためらうような反応をしたのだ。
まるで“認めたくないこと”を思い返すかのように。
「……幹部の娘だったとしたら、秘密が漏れた可能性もなくはない、か……」
「それで口を封じるために、真っ先に石化した……辻褄は合うな」
「ちょっと、冗談じゃないわよ……あの警部がそんなことしそうには思えないんだけど」
無理もない……この推測が正しいのなら、末留警部は“自分の娘を実験体にした”ことになるからだ。
ただでさえ信じたくないような悲惨な話であるし、あの実直そうな男からはとても結びつかない。
それこそまさに、狂気としか言いようのない行為である。
「だが……多重人格という可能性もなくはないだろう」
「そうだけど……人格異常くらいだったら、今まで見抜けなかったこともおかしくないかしら」
「そりゃあ、なぁ……んー、例えば、催眠術とか？」
「あたしらが見抜けないくらいだとかなり高度なマインドコントロールよ、人間じゃまず無――」
そこまで言いかけて、今度はライカが何かを思い出す表情になった。
「まさか……彼女が言っていた“あいつ”って……」
「そう言えば、誰かが潜んでいるらしいな、あの廃村に……俺が感じた視線の主か？」
「…………メドゥアス・ゼロ……」
ふと――呟いたのはホルスだ。
ライカとパドルが反応したのは言うまでもない。
「知っているのか！？」
「あくまでも名前だけだがね……ナンバー１から聞いたことがある“創設者”のコードネームだ」
「……つか、ナンバー１よりも上の存在がいたのかよ？ 俺も初耳だぞ」
「核心に近づいてきた気がするわね……もしも、そいつが“人間じゃない”としたら」
「おいおい、正体不明だからってそりゃいくらなんでも非常識じゃねぇのか？」
「そうかな？石像が動いてしゃべってる段階で、十分非常識だと思うが」
「ぬ……ま、まぁ……そりゃあな……」
再び視線を交差させるパドルとライカ……何かを決意したらしい。
「ねぇ……そろそろ、こっちの目的も、話しておくべきじゃないかしら？」
「かも知れんね……ここまで事態が進んでしまったとしたら」
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（――あれ？ カオルさん、どうしたんですか？）
被害者保管庫の奥で、床に座り込んでいるカオルを見つけたのはサラだ。
サンゴ礁の海を思わせるライトブルーの体が、天井の蛍光灯の光を浴びて輝いている。
しかしその表情はどことなく物憂げで、目の前に並ぶ“動けない被害者”たちをただ眺めている。
（……あぁ、サラさん……いや、別に……）
（そうですか…… 隣、良いですか？）
（え？……はぁ、どうぞ）
戸惑いがちのカオルの横に、何を思ったか、ちょこんと腰を下ろすサラ。
カオルがサンゴ礁の海なら、こちらはさしずめ深遠なる大海原か。
２人の肩が軽く触れ合い、キン、とガラスが当たるような硬質な音を響かせる。
（ここはいつも静かですよねー）
（まぁ……音を出せる人がほとんどいないですし）
（……ミキさんの、ことですか？）
（サラさん……はは、かなわないな……いや、それはもういいんですよ）
（そうなんですか？）
（昔を覚えてない人が多いから仕方ないですし、覚えてたって戻れなければ得にならないし）
（カオルさん……）
（何もかも……変わっちゃったんだなぁ、と思うと……何か、気が抜けちゃって……）
（し、しっかりしてください、ミキさん守るって決めたんでしょ？）
（はい、それは今も同じ気持ち、なんですけど……ね……）
実際のところ……カオルは、心が折れそうで怖かったのだ。
思いを寄せていた少女は記憶を失い、自分も石化し、変わり果ててしまった。
もはや人間ではないし、少年でもない……多少過去の記憶があるとは言え、カオル自身親の顔も思い出せない。
ミキを守るために生きると決意はしたが、毎日その決意と覚悟を試され続けている。
朝起きれば、“アクアマリン風の少女石像”と化した自分と対面し、思わず動揺してしまう。
そんなこんなで、一体何をよりどころに生きていけばいいのか、分からなくなっていたのである。
――その時。
（……しっかり……しなさい……よ……）
（……そうだ、よ……男の、子……でしょ……）
（……動ける……だけ……ずっと……まし……）
（…………がん……ば……て…………くだ……い…………）
（……あなた、も……あたし……たちの……憧れ……）
（…………！…………！！…………）
全く予想していなかった方向から、幾つもの“声”がカオルに飛んで来た。
それはカオルが、ただぼんやりと眺めていた、色とりどりの少女像――いや、被害者たち。
（……え？……あ……）
（そ……そうですよね、皆さんもそう思いますよね！？）
物理的には、カオルとサラの肩が触れる以外、全く物音がしない静かな部屋。
しかし、２人には、部屋に無言で並ぶ３０体ほどの石化被害者たちの半数ほどから、
コーラスのようなエールが、注ぎ込まれるのが分かった。
しかも、まだほとんど言葉をつむげず、感情のみの発露で精一杯な被害者までもが参加して。
（皆さんありがとう、まだ動けないのに心配してくれて……カオルさん、幸せですよ！）
（……ですね。ダメだな僕は、動けるのに……）
（そこですよカオルさん、ダメダメ言ってばかりだから、気持ちが沈むんですっ！）
（サラさん……）
（ミキさんのために頑張ってるじゃないですか……動けるようになって何日目ですか？）
（え……えぇと……１０数日くらいかな？）
（１０数日、素晴らしいですよ、まだ１０数日なのに、しゃがめるくらい自由に動けてるじゃないですか）
（は……はぁ……そういうものなんですか？）
（……凄い……よね……羨ましい……）
（……いつか……あたしも……）
（…………！…………♪…………）
（カオルさんはもっと自身持っていいと思いますよ、ダメだなんて思わないでください）
（……ありがとう……ちょっと、元気が出たかも知れない）
カオルが、まだ寂しさを残した表情でにこりと笑うと、サラも満面の笑みで返した。
（ほら、カオルさん……もう、笑顔だって作れてます♪）
（あ、ほんとだ……はは、そうですね）
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「宇宙人……！？」
再びセンターＤの事務室。
先ほどパドルとライカが打ち明けた“衝撃的真実”に、ホルスとアイガーが目を白黒させていた。
「まぁ――簡単に言えば、な」
「あたしたちは、ある重大な危機の可能性がある事件を追って、ここに来ているのよ」
「……話に付いていくのが精一杯だな」
「俺は付いて行けねぇよ」
「だが確かに、自分に起きている事態を思えば、あながち荒唐無稽とも言い切れん」
「つーより、自分に起きている事態が荒唐無稽だぜ、既に」
そう言って苦笑いするアイガー。
「――で、その重大な危機の可能性とやらが、メドゥアスの件だと？」
「もっと直接的に言えば、とある異次元から流出した“異物”が、事件の火種になってる」
「つまり……あんたたちを今の姿にした“秘密兵器”のことよ」
「……メタ・クォーツか」
「アレは本来、異次元のある厄介な組織が作ったモノでね、そいつが流出したことを知ったんだよ」
「で、探してたらここにたどり着いた……あらすじだけ言ったらこうなるかしらね」
溜息をつくような素振りを見せる、ホルスとアイガー……もっとも、呼吸はしないのだが。
「メタ・クォーツはメドゥアスの発明品じゃなかったってことか？」
「こっちで改良がなされた可能性はあるが、ゼロから作られたわけじゃない可能性は高いな」
「異次元の発明品ってワケかよ……なるほどな、神話みたいなことが起きるわけだぜ」
「まさか……メドゥアス・ゼロがその異次元の？」
ホルスの問いに、パドルとライカは同時に頷いた。
「まだ確証は持てないがね」
「というより、名前自体がそうよね……初めて組織の名前を聞いた時は耳を疑ったわ♪」
「名前自体？」
「俺達が追ってる“異次元の容疑者”の名前が、メドゥアスなんだよ」
「おいおい、マジかよ！？」
「つまり、お前達の……おっと今は違うか。あの組織の名前を知った時点で、偶然とは思えなかったんだよ。
そこで本腰を入れて調べることになった……そうしたら、廃棄された第３ラボが見つかったのさ」
「ルイちゃんたちとの出会いもそこからだったわねぇ……」
「創設者自体が人外の存在だった可能性もあるってわけか……くく、人間も随分とナメられたもんだ」
「俺らはそいつの手の上で踊らされてたってか？気に入らねぇな」
「そのゼロとやら本人がメドゥアス自身かどうかは分からんが、つながってる可能性は高いな」
「そしてそのゼロに支配された組織が、“革命”を始めようとしているわけよね……」
「メドゥアスはあのナギルの助手だった男だ……そういうことをやらかしても不思議じゃないね」
「だとしたら、善は急げってことじゃない？」
「――だな」
軽く頷いて、パドルは立ち上がった……視線をメタリックな２人に向けながら。
「さて……これから俺たちは、そいつの“野望”を止めに行くつもりなんだが――お前たちはどうする？」
「あぁ？ どうするって？」
「情報提供は感謝する、後は自由行動だが、回答次第ではこちらの行動が変わるな」
「協力してくれ――とでも言う気か？」
「――言ったらどうする？」
パドルの“問い返し”に、ホルスとアイガーが顔を見合わせた。
特にアイガーは「正気かコイツ」というような表情を浮かべている。
「……偽善者の片棒を担ぐのはゴメンだぜ、俺ぁ」
「それじゃどうして――あのテロの時、こっちに味方したわけよ？」
「勘違いするな、俺達を道具としてしか見ていなかった、組織に一泡食わせたかっただけだ」
「仲間になれとは言わんよ……しかしだな、“革命”には反対じゃないのか？」
「何故、反対だと分かる？」
「賛成しているんだったら――眞希ちゃんを助けたりしなかったでしょ」
ライカがそう言って、にこりと笑った。
サファイア色の目を閉じるホルス……アイガーは見るからに憮然としている。
「全てお見通し――みたいな態度を取るヤツは好みじゃないんだがな」
「かも知れんね……山川にもこの前、同じことを言われたよ」
「アイガーはどうか知らんが……俺は人間というイキモノを否定するのは好きじゃなくてね。
良くも悪くも世界を変えられる力があるのに、あっさり見限るのはただの馬鹿だ」
「俺だって本音を言えば賛成じゃねぇよ、この体を選んだのは、コイツをぶっ倒したかったからだ」
アイガーがパドルを指差してそう言うと、パドルは肩をすくめて見せた。
「俺を倒したいんなら、向こうに着くか？」
「お前とつるむ気はねぇが、あんな連中と一緒に見られるのはもっとゴメンだね」
「第一、止めると言ってもどうする気だ？今度こそ連中は本気で来るぞ」
「向こうが数で来るなら、こっちは質で勝負しようじゃないの♪」
堂々とした２人に、ホルスとアイガーはにやりと笑った。
「まるで“七人の侍”気取りだな……だが、そういう戦場も悪くない」
「ふん……これで連中を追い返したら、俺らの実力を証明することも出来るか♪」
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（めどーあす……？）
その頃――“瑠璃色の地下迷宮”にて。
再び、金色の鉱物娘に変異を強要された春海は、オーラたち“迷宮の住人”と会話していた。
オーラの口から出た、聞き覚えのある言葉に反応する春海。
（そう……もしかしたらハルミさん、聞いたことあるんじゃない？）
（言われて見れば……“あの組織”の名前だったような……）
（ふぅん……下の街じゃ、組織の名前になってるんだ）
（よく部下が集まったもんね、顔だけのヤツじゃなかったのか、ちょっと悔しいなぁ）
（……組織の名前じゃ、ないんですか？）
春海の問いに、３人はほぼ同時に頷いて見せた。
（ここではね……あたしたちが知ってる限り、ここの支配者の名前よ）
（支配者……）
（人間に似ているけど、絶対人間じゃないわよね……なんていうか、ヘビ頭？）
（顔は結構イケメンだけど、髪はうにょうにょしてキモいよね……でも、抵抗できない）
（どうしようもないよ……従わなかったら、またあの子達みたいにされるか、最悪……ねぇ）
（……最悪？）
（砕かれちゃうわ……他の村の人たちみたいに）
３人の１人、レイアの言葉に、春海は衝撃を受けた。
（……そんな……！）
（ひどいわよね……でも、あたしたちにはどうすることも出来ない）
（というか、あたしたちが意識を取り戻した頃には、ほとんどの人が粉々だったよね……）
（村の人たちは……全員……石に……？）
（そういうこと……いや、人間だけじゃなかったみたいね、家畜の牛やニワトリだって）
（壊されずに済んだのは２０人くらいかな……それが、さっきの子達）
春海の記憶に、先ほどの悪夢のような光景が蘇る。
無表情で機械のように歩く、少女達の石像……まるでホラー映画の世界だ。
春海が戦慄していると、ふと３人の１人、アクアが口を開いた。
（でもそうなると……ここにいるとまずくない？）
（そうだよね……逃がしてあげなきゃ、ねぇオーラ？）
（うん、あたしもそう思ってた……簡単じゃないけどね……ヘタしたら）
（わかってる……でもさ、これからずっとあいつのオモチャにされ続けるのもイヤじゃない？）
（死ぬのは怖いけど……ハルミさん見殺しにしたくないよね）
（レイア、アクア……うん、そうだね、やるか！）
（オーラさん……ご、ごめんなさい、あたしなんかのために）
あり難い、けれど申し訳ない……春海はそんな感情に襲われていた。
何しろオーラたち３人は、砕かれるリスクを覚悟で、春海を逃がそうと言ってくれているのだから。
興味本位でこんな場所に来なければ、こういうこともなかったと思うと、余計に申し訳なく思えてきた。
（そんなことないよハルミさん……あたしたち、今ちょっと燃えてるんだよ？）
（そうそう、アイツに抵抗する、最後のチャンスかも知れないしね）
（あたしたちに自意識を与えたことを、後悔させてやりたいよね）
（レイアさん、アクアさん……あ、ありがとう、ふぇぇ）
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「……そういうわけで、これからちょっと忙しくなる」
センターＤの談話室。
そこに、パドルとライカが、関係者一同を集めていた。
活性化された鉱物娘全員――ただしここにいないエミを除く――と、翔子らキャリア組。
先ほど“対策会議”に参加した、ホルスとアイガーの顔もある。
さすがに全員は談話室に入り切らないため、１部は廊下から中を見ている。
その中には、数時間前に活性化されたばかりの、エリの姿もあった。
もちろんまだ１人では歩けないので、ルミが肩を抱くように支えている。
「みんなをひどい目に遭わせたあいつらを、これ以上好きにさせちゃいけないと思うの」
「そこで、俺はこれから朝陽署に、大事な打合せをしに行ってくる」
「あたしは、旧奥沢村に、春海ちゃんを救出しに行く予定よ」
（えぇっ、２人が出て行ったら、ここが隙だらけにならないですか！？）
「大丈夫よルイちゃん、あたしたちの代わりを、ここのオジサンたちにしてもらうから♪」
「オジサンって……俺まだ３０なんだが？」
（え……そ、その人たちって……）
低いざわめきが談話室から漏れる……もちろん、物理的な声を出せるのは数人しかいないが。
無理もない……全員ではないものの、かなりの鉱物娘が、ホルスとアイガーの正体を知っているのだ。
２人が“宿敵”メドゥアスの工作員だった事実を知っているのである。
ただその１方、２人が工作員の中で“被害者寄り”だったことを感じていた者もいるので、
複雑な感情を抱かずにはおれない者も少なからずいた。
「心配するな、もう向こうの組織に未練はない」
「出戻り工作員を歓迎するほど、アットホームな連中じゃねぇしな」
「ただしだ……“ただで守ってもらおう”なんて、甘い期待は抱くなよ？」
（え、ちょ……ぱ、パドルさん、ライカさん……これどういうことッスか？）
これはユウだ……隣のカオルも、明らかに不安な表情を浮かべている。
「連中は何度か抵抗勢力を潰そうとして、そして失敗してきたんだ……そろそろ本気で仕掛けてくる。
連中が本気になったら、俺ら２人じゃここを守り切れん」
「お前ら全員、“実験体”だったんだろうが……実験体で終わりたくはないだろ？」
アイガーの意味深な言葉に、鉱物娘たちが戸惑うように顔を見合わせている。
「連中に叩き潰されたくなかったら……お前たちがここを守る気にならんと、どうしようもない」
（あたしたちが……ここを守る？）
（でも……そんなの、どうやって……）
「知りたければ、教えてやるよ……裏工作のプロがな♪」
「大丈夫よみんな、２人を信じて……ここを維持するにはみんなの力が必要なの」
（あたしたちの……力……）
普段、自分達の力など考えたこともなかったのだろう。
思い通りに動かない体を必死で動かして、何とか人並みに動きたいと、ただその一心だったからだ。
ルイやユウなど、ほぼ自在に活動できる鉱物娘は、まだ決して多いとは言えない。
“力”と言えるほどのものを持っているなど、想像さえ困難だったのだ。
「そうだ、お前達の力だ……普通なら動かない体を動かしてるんだぞ、もっと自信を持つんだ」
（自信を持つ、か……そう言えばさっき、サラさんにも言われたっけ）
（確かに……常識的に考えたら、俺ら“石像”だもんなぁ）
（石像……そうだね、あたしたちって石像なんだよね）
（人間じゃ、ないんだよね……）
（石像なのに動いてる、か……うん、確かに凄いことだよね♪）
（ルイさん……？）
（そうだよ、みんな自身持とうよ、あたしたち今、凄いことしちゃってるんだよ？）
（で、でもルイさん、それって人間じゃないからできるんじゃ……）
（そんなの当たり前じゃん、みんな覚悟したはずだよ、人間じゃなくなってもいいから動きたいって）
（た、確かにそうだけど……で、でも、そんなに簡単に割り切れるものじゃ……）
ルイが率先して周囲を引っ張ろうと立ち上がった――が、周囲の気分は重い。
今まで力など考えもしなかった上に、自分が人外であることを認めるような行動はなお複雑だ。
多くの鉱物娘が迷って２の足を踏んでいた――その時であった。
（割り切るのは難しいですよね……でも、何もしないで引っ込んではいられないんですよね？）
「そうだよね……って、今のカオル君！？ 嘘っ！」
「しょ、翔子……それ、結構ひどい……」
なんと――ルイに同調して立ち上がったのは、さっきまで落ち込んでいたカオルだった。
そんなカオルの“勇気”を目にしたルイは、にっこりと笑った。
（そーゆーこと♪ だったらさ、この際みんなで頑張ってみない？）
（そ……そうですよね、これからもみんなで頑張っていくことは間違いないですし！）
「そ、そうだよ、みんなで楽しくやってきたんだったら、守らないと……あたしも守りたい！」
「うゎっ！？ び、びっくりしたぁ」
サラに続いて、翔子も立ち上がる……出し抜けに大声を出した親友に、眞希は思わずひっくり返った。
「ねぇみんな、こんなオッサンたちに、言いたいこと言わせといていいのっ！？」
「こ、この小娘……言わせておけば……」
「くっくっく、大した娘だ、将来が実に楽しみだな？」
（た、確かにそうだよね……いつまでも実験体なんて呼ばれたくないし）
（早く春海さん助けなきゃいけないのに、あたしたちが迷惑かけるわけには行かないよね）
（考えてみたら、これって凄い冒険かも……）
談話室に、少しずつ熱気がこもり始めた……そんな雰囲気を見て、笑みを交わすパドルとライカ。
「どうやら……何とかなりそうだな」
「当然じゃない……あたしが見込んだ子たちよ♪」
「おいおい、お前だけじゃないぞ？」
（あっあのっ、す、すいません！）
その時……ふと瞳が、ライカの前にやってきた。
「どしたの瞳ちゃん……復元はもう少し時間がたってからの方がいいと思うよ？」
（そ、そうじゃないんです……む、むしろ……しばらくはこのままで）
「そういえば、さっきもそんなこと言ってたわね……どうしたの？」
（あの……春海ちゃんの救出……あたしも行きたいんですっ！）
瞳が希望したのは――ライカの“春海救出作戦”の同伴だった。
半透明のクリスタルを思わせる顔が、悲痛なまでの切実さを漂わせている。
しかし、敵陣に潜入するも同然なのだ……簡単に「それじゃおいで」と言えるはずもない。
「瞳ちゃん……でも、危険なところに行くんだよ？」
（わ、分かってます……でも、でも……助けたくて……）
（分かる分かる、瞳さんのその気持ち……それじゃ、あたしも一緒ってことでどうですか？）
「ちょ、ルイちゃん！？」
そんな瞳に、同調するようにやってきたのはルイだ。
いつもの陽気な雰囲気で――と思いきや、意外に真剣な表情である。
（あそこで春海ちゃんを助けられなかったから、瞳さんいても立ってもいられないんだと思うんです。
見たところ、動きにあんまり制約はないですし、あたしがガードするってことじゃダメですか？）
（る、ルイさん……ありがと）
「まったく……しょうがないわねぇ……」
こうして――“革命”を阻止するための、１大作戦が動き出した。
もちろん……“動き出した”のは、彼らだけではなかったのだが――
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| （第９章第１話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2009年頃に草稿を作成したエピソード。
第２部の“中盤クライマックス”に向かって準備するエピソードである。
（先にネタバレするのもアレだが、この第２部には大きく分けて２つのクライマックスがあるのだ）
ホルスとアイガーの“元敵裏切りコンビ”が、鉱物娘側の戦力として本格的に参加する。
何しろ本作の本来の“主役”である鉱物娘たちには、基本的に「戦闘力がない」からだ。
石化した体を自分の意思で動かし、日常生活を送るだけで精一杯であり、それが本作の“主題”でもある。
人外の運命を強いられた、元人間の少女たちの“人生奮闘記”として始まった物語だからだ。
なのでアクションが派手になるクライマックスには、別に“助っ人キャラ”が必要なのだ。
ホルスたちだけでなく、パドルやライカも本来、このポジションに立っている。
そんなわけで９章では、ついに“ラスボス”が降臨することになる（ようやくここまでたどり着いた^^;） |
