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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E091） |
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「――あ、あの……末留警部？」
部下らしき刑事の声で、ふと末留は顔を上げた。
どうやら……うつむき加減で、ずっと考え事をしていたらしい。
場所は朝陽署１階の奥……資料保管庫の入口近くにある、小さなオフィス。
末留はこの保管庫の管理人であり、オフィスでキーを管理しているのだ。
「あ、あぁ……何だね？」
「第５ラックの資料の閲覧をしたいので、キーをお借りしたいのですが」
「ん、分かった……これだね、閲覧が終わったらここに返すように」
「はい、了解しております……」
――いかんいかん、どうやら疲れが溜まっているようだ。
末留は頬を叩くようにして、業務へと戻った。
そんな末留のオフィスから数ｍほど離れた、資料保管庫の入口。
先ほどの刑事らしき男が、借りたキーで鍵を開けながらぼそり、とつぶやく。
「……びっくりした……あんなに怖い顔をした末留警部、初めて見たよ」
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第９章 明かされる真実 ★
第１話 暗黒の創造者
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「……で、結局、こうなったわけか」
「そんな目で見ないでよ、あたしだって危ないと思ってるのよ？」
こちらはセンターＤの車庫。
ホルスが持ち込んだ特殊トラックの横に、５名ほどの影が立っている。
ひときわ大柄で、背が高いのはパドルだ。
次いでグラマーなシルエットがライカ。
そしてその横に、半ば光を透過した３つの影。
ルイと、瞳と――ユウである。
「まさか君まで志願するとは思わなかったわ……」
（い、いや、その……何ていうか……やっぱ、戦力は多い方がいいんじゃないかな～って……）
アメジスト色の頭をぽりぽり、と掻くユウ。
「お前までここから離れたら、機動性に優れたやつがいなくならないか？」
確かにユウは、ルイと大差ない機動性の持ち主だ。
駆け回るのみならず、人並みに跳躍したりできるのもルイとユウの２人だけだろう。
数時間前まで、地下の特別訓練室で、ルイとバスケット勝負をしていたくらいなのだ。
体重を考慮すれば、アメフト選手並みの戦力を持っていると言えるだろう。
「まぁ、人並みに近い子は確かに増えたけどね……あの２人組もいるわけだけど」
（そうですねー、スイちゃんとかほとんどあたしやユウ君と変わらないですし、
サラさんとかコナさんとかリンちゃんとかジュリさんとか、見た目結構自然ですよ）
（それに石塚さんとか、ルイさんたちの声が聞こえて、変身までできる人もいますし……）
「……とはいってもなぁ、相手はプロなんだぞ？」
今や２０人近い活性化された鉱物娘のうち、小走りまで可能な者が数人いるが、
大多数は「何とか手すりなしで歩ける」というレベルに留まっている。
ただそのほとんどが、過去半月以内に活性化されたことを考えれば、これでも素晴らしい進歩だ。
努力の成果もあるが、超自然的な共鳴現象のようなものが起きている可能性も考えられた。
実際、保管庫に置かれている３０人ほどの“不活性被害者”も、
以前に比べ、意識や思考を発露する加速度が上がっているのである。
とはいえ……「人並みに動ける者」がせいぜい数人であることには変わりない。
ホルスやアイガーの予想では、今や敵となったメドゥアスは、工作員の増員をして襲撃してくる。
恐らくは、先日の駅前テロで暴れたような“金属化された兵士”を、更に増やしてくるだろう。
駅前テロの時ですら、セラフィを入れて４名の金属化工作員がいた……今度は２人以上増えてるはずだ。
１方、こっちの戦力で連中と対等に戦えるのは、ホルスとアイガーの２人だけ。
パドルは独自調査の為にセンターを離れるし、ライカも春海救出のため旧奥沢村に出向く。
この“手練カルテット”を除けば、かろうじて戦えそうな者は機動力のあるルイやユウに加え、
活動的という意味ではこの２人に匹敵するスイ、小走り程度なら可能なサラ、コナ、リン、ジュリの５名。
後の１０名ほどの鉱物娘は「歩くのが精一杯」で、まだエリのように表情も作れない者さえいる。
銃弾を弾く体を持つ裏社会の工作員６人以上が来ると予想されるのに、
こっちは手練の２名以外は「無力な民間人と何も変わらない」のだから、明らかに不利だ。
しかも向こうはこっちのメンバーが“石化人間”であることが分かっている。
こっちのメンバーだってほとんどは「銃弾の効かない体」だが、それはすでに読まれていることだ。
ならば“石化人間に効果覿面”である、拡散ＥＭＰ発生器などを持ち込むに決まっている。
しかもホルスやネメシスなどのいわゆる“強化型（メタロード）”なら、
その体に仕込んだサイバーナイフで、直撃すれば太い鉄骨すら切り裂くことができるのだ。
あえて利点があるとすれば、ここが彼女達の“ホーム”であり、敵にとって“アウェー”であることだ。
駅前テロの時と違って、「どんな敵がやってくるのか」もほぼ分かっている。
またパドルは調査だけでなく、もう１つの目的のために、朝陽署を訪れるつもりだ。
つまり……朝陽署に“援軍”を募ることを考えているのである。
石化人間＝メタロイドに比べて戦闘力は低いが、危険な犯罪者に対峙した経験値は低くないし、
何より朝陽署の何人かは駅前テロで、そのメタロイドと交戦した経験があるのである。
数人ほどはセラフィの襲撃で石化された経験さえある……つまり“キャリア”と言えるわけだ。
パドルの予想の上限規模での援軍が可能なら、センターを包囲して敵の退路を断つことが出来る。
「まぁ……どの道不利は不利だ、なら急がんといかんわな」
「そうね……それじゃ、朝陽署の方は任せたわよ」
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（よし……気配はないわね、ハルミさん出て来ていいわよ）
（は、はぃっっ）
瑠璃色の壁に、金色の人影が２つ現れる……オーラと春海だ。
その後ろからはさらに銀色とブルーメタルの影……レイアとアクアである。
（あ、あの、さっきの人たちは……）
（あぁ、あたしが指示したから、今は待機中のはずよ）
（侵入者が感知されないと、基本的に動かないしね）
（ハルミさんはさっきオーラが“許可した”から、当分対象外のはずだし）
４つのメタリックな人影が、暗い地下道を奥へ奥へと歩いていく……硬質な足音だけが響く。
光源がないはずなのに、地下道はうっすらと明るい……壁自体が光っているのだろうか。
（当分、ですか？）
（まぁね……その辺はメドゥアス次第ってこと）
（あいつに気付かれる前に、逃がしてあげなきゃね……あ、ホラ、この部屋よ）
（この部屋？…… ――っっ！？）
ふと――オーラが指差した部屋を覗き込んだ春海は、思わず硬直した。
２０数体ほどの白灰色の少女像が、直立不動でずらり、と並んで立っていた。
全員が一糸まとわず、無表情で、瞳のない目をマネキンのように開き、物音１つ立てずに並んでいる。
本物のマネキンと違うのは、全員が少しずつ、体格や顔つき、髪形が違っていることだ。
先ほど春海が“体感した”時と同じく、その“声”も“感情”も全く感じない。
（この子達は多分だけど、自分が今どうなっているのかも、感じることが出来ないと思うわ）
（でも多分、死んではいないはずよね……あたしらだってそうだったんだし）
整然と並ぶ少女像の間には、人１人が通り抜けられそうな隙間が開いている。
まるで、誰かがここを歩いて、“品定め”をできるように、わざわざ間隔を開けているようにも見える。
多分それも……“強制的”なものなのだろう。
（行こうよオーラ、ぐずぐずしてるとアイツに見つかっちゃう）
（あ、そうね、それじゃハルミさん、ついて来て）
（あ、はい……）
オーラたちに急き立てられるように、その部屋を後にする春海……だが、１瞬立ち止まる。
（……ご、ごめんね……助けられなくて）
音の出ない言葉で、絞るように１言、振り向かずに、ただわずかにうつむいて。
春海たちがその部屋を出て、通路の奥に姿を消した――直後である。
動くものが何もないはずの、通路の反対側に、影が１つうごめいた。
影は高さ２ｍ近くある……明らかに、“鉱物娘たち”のものではない――しかも。
その影の頂部から、まるで蛇の尾のような物体が何本も伸びて、ゆらゆらと揺れ動いているのだった。
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「さて……まず、何から始めたらいいわけ？」
再びセンターＤ。
腰に手を当てた翔子が、ホルスたち鋼の戦士たちと向かい合って立っている。
その背後には、眞希と、そしてサラを始めとする鉱物娘たちが１０人近く。
未だ不安げな鉱物娘がいる１方で、好奇心を隠せない者も数人はいる。
眞希はサラと手をつないでいる――“会話”に参加するためだ。
パドルら主戦力組は数分ほど前に出発し、今は彼らと彼女らしかいない。
「ふむ……そうだな、この中で力仕事の得意な者は？」
「力仕事っていったって、どれくらいの仕事を言ってるの？」
「荷物を持って動き回るくらいだと思えばいい、必然的に人並みに動ける必要がある」
「腕力には自信ないけど……あたしと眞希は立候補した方が良さそうね」
「え～～～？」
予想通り――難色を示す眞希。
「ワガママ言わないの、まだ歩くので精一杯な子達に無理させられないでしょ？」
「そりゃぁまぁ……そうなんだけど……ふえぇ」
（あ、私も多分、大丈夫だと思います）
（あたしも行けるかな……ジュリやリンも行けるよね？）
こちらはサラとコナ。
人間時代は気が強かったのか、コナは肩に手を置いて腕を振る仕草を見せた。
春海に似た金色の体は、すでにある程度まで馴染んでいるようだ。
（そ、そうですね、大丈夫だと思います）
（よっしゃ、ルイさんの代わりに一肌脱ぎますか♪）
コナに呼応するように、ジュリやリンも前に進み出る。
若草色のガラス細工を思わせるリンは、ルイによく似た背格好で、髪も短い。
（あたしはー？）
「お前は力仕事より、むしろ“切り札”だな♪」
“動ける”にも関わらず名前が出ず、戸惑うようなスイに、今度はアイガーが答える。
「小柄で機動性があるなら、工作員としては理想的だからな」
「ちょっとあんた、スイちゃんを変なことに使う気じゃないでしょうね？」
「何だよ変なことって……お前こそ変な想像してるんじゃねぇのか？」
「なっ……どっ、どういう意味よっ！？」
「落ち着け、特別なことをさせるわけじゃない、アイガーも煽るな、今亀裂を作るのはマイナスだぞ」
火花を散らしかけた翔子とアイガーの間に、ホルスが割って入る。
まぁ無理もない……この２人の間には、因縁があるも同然だからだ。
約１ヶ月前、町外れの廃校で翔子と遭遇し、石化したのはまさにこの２人だったからだ。
「そのスイとか言う娘は、小柄で運動能力が高い……小柄ってことは軽量って意味でもある。
少なくとも、そっちの金色よりははるかに軽いはずだろ？」
（せめて名前で呼んでくれない？“コナ”は一応、今のあたしの名前なんだし）
「そいつは失敬……まぁとにかくだ、軽量で機動力があるなら、それを活かすべきってことだ」
（ふーーーん）
「あと何名か、そっちの事務室で待機してもらいたい、連絡係としてな」
「連絡係って……声を出せるのって、あんたたちとあたしらくらいしかいないじゃないの」
「何も声を出す必要はない……そもそも敵に悟られるべきじゃないから声は不要だ」
「あ、でも……サラさんたちの“声”も、相手によってはバレちゃうんじゃないかなぁ？」
意外なところで眞希が割って入った。
見た目大人しいが、好奇心が活発な時は人１倍行動的でもあるのだ。
（そうなりますよね……前に会った時もそうでしたし）
「その“声”も必要ない……セラフィやネメシスには確実に聞こえるからな」
「だから“サイン”を使うのさ……野球の試合のようにな♪」
「あぁ、なるほどね……それじゃ、誰が入ろう？」
「あたしじゃ……ダメかな？」
何と、立候補したのは先ほど会話に加わったばかりの眞希だった。
呆気に取られた翔子の顔を見て苦笑いを浮かべる親友。
「ここであんたが来るとは思わなかったわ……“力仕事”したくないから言ってない、もしかして？」
「そ、そんなことないよ……あ、あたし、もっとみんなと一緒に頑張りたいから」
「“力仕事”でもみんなと一緒だとは思うけどねぇ？」
「――はうぅっ」
墓穴を掘ったことに気付いたか、顔を赤らめて萎縮する眞希。
そんな眞希に、サラがフォローを入れる……“声”が聞こえるように、肩に手を置きながら。
（で、でも、眞希さんだったら、きっと私達より色々なことが出来ると思いますよ？）
（そうね、あたしらはまだルイさんほど自由には動けないし……指だって時々動かないし）
（眞希さんはこの中で１人、身を守ることが難しいから、壁の後ろにいた方がいいと思うんですよ）
サラのフォローに、コナやリンも続いた……眞希の顔が再び笑顔に染まる。
「あ、ありがとね、みんな……」
「変身できるあたしは数に含めないわけね……まぁ、妥当っちゃ妥当かな？」
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「ここから先が、問題の廃村ってわけね」
センターを後にして１０数分後、ライカたちを乗せたライトバンが、林道脇に停まっていた。
後部座席のスライドドアを開けて、ルイやユウ、瞳が降りてくる。
（へぇー、なんかのどかなところじゃん）
（ルイさん気楽過ぎ……敵のアジトに近いわけッスよね？）
「パドルの推測が正しければ、そういうことになるわね」
（このフェンスの向こう……多分２００ｍほど歩くと、視界が開けるんです）
「で、その向こうには灰色の大地が広がってるわけか……まぁ迷っても仕方ないから行きましょ。
ルイちゃんとユウ君はともかく……瞳ちゃん、くぐって行けそう？」
（え、あ、は、はい、何とか行けると思います）
（それじゃ、あたしが後ろからフォローして行きます♪）
（ご、ごめんねルイさん……お世話になりっぱなしで）
（いいのいいの、だって瞳さん、凄く頑張ってるんだもん）
ルイのフォローを受けながら、半透明のガラス細工のような少女が、崩れかけたフェンスをくぐっていく。
フェンスの向こうでも、すでに潜り抜けたユウが、手を差し伸べて瞳を誘導した。
赤と紫の鉱物娘に加え、森の木々を通して降り注ぐ日光の影響で、瞳の体が虹色に見える。
既に日が傾いていることも、プリズム効果を後押ししているのかも知れない。
１～２分、どうにかこうにか奮闘して、瞳は何とかフェンスを越えることが出来た。
（ありがとねルイさん……あたし、自分でもじれったくて）
（気にしないでいいってば、今瞳さんは石の体なんだよ、早い方だって）
（そうそう、俺の１週間後より、多分早いと思うッスよ）
「どうやら上手く抜けたみたいね、それじゃ敵地に殴り込むわよ♪」
そう言うや否や、ライカの体が光を放った。
（えっ……ら、ライカさん！？）
そのまま、ライカのグラマーかつしなやかな肢体が、見る見るうちに白銀に染め上げられていく。
着ている服も、肉体の変化に流されるように色あせていく。
呆気に取られて眺めている３人の鉱物娘の目の前で、ライカは再び、白銀の女戦士に姿を変えた。
しかも――驚くべきことは、それだけではなかった。
「うん、こんな感じでいいわね、準備完了♪」
（ちょっ、ライカさん！？）
（マジ！？声まで出せてるし！）
驚きを隠せない３人の前で、白銀の美女がにこりと笑った――ただし、瞳の影は既になかったが。
「あたしも一応キャリアだからね……これから起きることを思えば、先に変わっておいた方がいいと思うの」
そう言いながら、ライカは“変身”した自分のボディを突く……金属を叩くような音が響く。
（それにしても、声まで出せるなんて……つくづく、ライカさんって凄い）
「まぁ、この辺は応用力の賜物かな？ コツがあるのよ♪」
そう言いながら、ライカは率先して歩いていく……３人も戸惑いながら、セミの声に押されるように続いた。
歩き始めて数分――瞳の言う通り、視界が一気に開けた。
採石場を思わせる灰色の風景が、村外れであろう地平線の峰まで続いている。
しかしショベルカーやプレハブ小屋など全くなく、まるで白黒写真のような風景が広がっている。
幾つかの建物は恐らく、往時のままに残されているのだろうが、人の気配は当然にして全くない。
ふと気付けば……さっきまでやかましかったセミの声も、パッタリと止んでいた。
時が止まったような静寂が、今や灰色のオブジェとなり果てた旧奥沢村を支配している。
ルイたち３人も声を出せないし、ライカも１人でペラペラ喋るわけには行かないので、本当に静かだ。
（これが旧奥沢村……）
（１面灰色ッスね……なんか、俺らだけ浮いてるみたいだ）
（こっちは極彩色だもんねぇ……っと、ライカさん？）
生気を感じない風景をキョロキョロと見回していたルイたちが、前で立ち止まったライカに気付いた。
崩れかけた林道の奥……下の方を眺めているようだ。
（あ……こ、ここです、春海ちゃんが転落したのって）
ライカの視線――変身のために瞳の影はないのだが――の先に、四角い黒い穴が開いていた。
ただ崩れたというより、地下にあった部屋のようなものの、天井が抜けたように見える。
「ここから入れそうね……みんな、心の準備はいい？」
（よっしゃ、ここからアジト潜入ってことッスね！）
（ねぇ、みんな……変な感覚しない？）
（え……る、ルイさん、どうかしたんですか？）
ライカが“竪穴”に体を入れかけた時、ふとしんがりのルイが“音のない声”でつぶやいた。
ユウや瞳がその半透明の顔に戸惑いの表情を浮かべるが、ライカは至って冷静だ。
「ルイちゃんも感じた？……ふふ、鋭いわね♪」
（ど、どういうことッスか！？）
「みんな気をつけて……あたしたち、見られてるわよ」
（み、見られてる！？）
「パドルが感じた視線の相手でしょうね……そして多分、この村を滅ぼした張本人」
（い、いったいどこから……静か過ぎて気配が読めないッス）
「取り合えず入りましょ……“彼”は多分、あたしたちを誘ってるわ、ここから来いとね」
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「――おぉ、パドル殿、今日はどんなご用件ですか？」
テロで注目された朝陽中央駅前から、南に１ｋｍほどの場所に朝陽警察署がある。
港湾部の中枢であるフェリーターミナルと、中央駅を結ぶメインストリートのちょうど中間点だ。
市内を東西に結ぶ２つの大通りの南側の結節点でもあり、市役所にも近い“ヘソ”の位置に当たる。
正面玄関から建物の中に入ったパドルを、末留警部がにこやかに出迎える。
「実は警部に、折り入ってお願いがありましてね……」
「ほほぅ、それはそれは、いったいどのような？」
「このオフィスでは少し話し辛いですな……静かな場所はありませんかね？」
「ふむ、そうですな……ならこの前の地下室などいかがです？ 物置同然でかなりホコリ臭いですが」
「良いですな、それでは行きましょう」
そう言って、パドルは資料庫の方へと向かう、末留の後を着いていく。
ちょうどそこに、服装の違う警官の１人が、署の出口に向かって逆方向から歩いてきた。
「おや、あなたは確かこの前の」
「あぁ、確か例のセンターの……いやご無沙汰しております、その節は部下が世話に」
「いえいえ、こちらもお役に立てて幸いですよ♪」
警官は先日の駅前テロで、メタロイド包囲を指揮した機動隊の隊長、前畑幸治であった。
その前畑に、パドルは何故かテレパシー波を送った……しかも、彼にしか聞こえない波長で。
前畑は１瞬目を見開いたが、パドルの“指示”に従ってそ知らぬ振りをした。
（重要なお願いをしたい……聞いて頂けますか？――冷静に振舞って、この声はあなたにしか聞こえない）
（なっ、い、今の声は！？……わ、分かりました）
（実は今、センターに危機が迫っています……厚かましいお願いとは承知ですが、支援をお願いしたい）
（あのセンターのことですよね？ 危機とはどういうことですか？）
「あの時負傷された、部下の方々は回復されましたか？」
「そうですね、半数ほどはまだ入院しておりますが、まぁ復帰は可能でしょう」
「そうですか……こちらも迷惑をかけてしまいました」
「何を言ってるのですか、犯罪者に対峙するのが我々の務め、そのために死ぬなら本望ですよ」
「いやいや、命を消耗してはいけません、３６計なんとやらと言いますし」
にこやかに言葉を交わすパドルと前畑を見止めて、前を歩いていた末留も立ち止まり、話しかけてきた。
「前畑隊長、あなたも確か負傷されたのではありませんでしたっけ？」
「私のは本当に軽傷ですよ末留警部……おっと、用事があったようなのに引き止めてしまったみたいで」
「いやいや、勇敢な皆さんの復帰が見込めそうで喜ばしい話です、それではこれで」
１分弱ほど廊下で時間を潰す結果になった末留とパドルは、再び資料庫に向かった。
その後姿を前畑はしばらく眺めていたが、間もなくパンッ、と自分の頬を叩き、表情を引き締めた。
そしてそのまま玄関に向かい、玄関の横で待機していた、部下らしき警官に声をかける。
「隊長、どうかされたのですか？」
「すぐに隊を招集するんだ、動ける者だけでいいが、１人でも多い方がいい」
「どういうことです？」
「あの駅前で暴れた奴らが、再度動くという情報があったんだ、例のセンターの男からな」
「ではまた、実戦になるということですか？」
「それも激戦が予想されるぞ、今度は奴らの好きにさせるわけには行かない」
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「ふーん……センターのオフィスってこういう所だったんだ」
センターＤの事務室に入るや否や、眞希は思わずつぶやいた。
彼女の視界に入ったのは――何の変哲もない、殺風景な事務室……マンションの管理人室に似ている。
眞希の背後から、若草色の半透明の顔――リンがひょこっ、と覗き込む。
（“ジムシツ”ってこういう感じなんですねー、初めて見たかも……昔の記憶ないしなぁ）
「秘密基地みたいな所だと思ってたんだけどなぁ……」
（え？“ヒミツキチ”って何ですか？）
「ＳＦ映画なんかで出てくるカッコいい基地……あ、ごめん、そんなこと言っても分かんないよね」
「物凄く意外……眞希ってそういうジャンルが好きなわけ？」
「違うよぉ翔子、ＣＭとかバラエティでもそういうセットがあるじゃん」
（はいはーい、エリさんが通りますよー）
廊下の方から呼びかけてきたのはコナだ……その前に、ゆっくりとした足取りで歩を進める、エリがいる。
表情こそまだ悲しげだが、必死に体を前に出そうとするその思いは強い。
（ご……ごめん、ね……みんな、に……迷惑、かけて……）
（何言ってるのよエリさん、まだ２４時間も経ってないのに、ここまで歩けるなんてホントは奇跡だよ？）
（うわ、凄いですエリさん、もう自力で歩けるんですかっ！？）
（……そ、う……凄い、んだ……？……あり、がと……♪）
「ごめんねエリさん、わざわざここまで来てもらって」
（そんな、こと、ない……あたし、も……いい、練習に……なる、から……）
鉱物娘の平均からすれば驚異的な成長速度とは言え、エリの活動能力はまだまだ鈍い。
そのエリに、２階の自室からわざわざこの事務室まで来てもらったのには、理由があった。
エリは全てではないものの、石化される前の記憶が残っている。
既にパドルらが推測しているように、彼女が本当に末留警部の娘だったのかまでは分からないが、
少なくともメドゥアスという謎の組織の情報の１部を、知っている可能性がある。
そのため、センターの情報が集約されるこの事務室で、経験者として待機してもらうことにしたのだ。
ついでに言えば、眞希たちはまだ十分把握していないが、ここはセンターで１番安全な場所でもある。
生身の人間である眞希はもちろんだが、鉱物娘の中でもとりわけ動きが遅いエリも、
安全を確保する――情報を知る者として狙われる恐れもある――のはこの部屋が最適だったのだ。
「――よし、全員“配置”に着いたな？」
廊下でホルスの声がした。
白銀の体――変身したライカも良く似ている――を持った戦士が、吹き抜けの廊下を仰ぎ見る。
いつもは明々と灯されている天井のライトが消され、昼にもかかわらずかなり暗い。
その暗がりの上方、２階や３階の廊下に、鉱物娘たちであろう、ちらちらとうごめく複数の影がある。
わずかな光を複雑に反射して、その影があたかもステンドグラスのようなきらめきを放つ。
「お前らが生き延びられるかどうかの境目だ、気を抜くんじゃねぇぞ」
こちらはアイガーの声だ……どうやら、２階の渡り廊下に立っているらしい。
暗がりの中で、黒光りするチタニウムのような体が、あたかも不動明王像のような威圧感を醸し出す。
アイガーの斜め上――３階の廊下の端にも、鉱物娘たちの影がうごめいている。
青緑色の鮮やかな反射を見せるのはカオルだ……すぐ後ろにはオレンジ色の影――ミキの姿も。
（だ、大丈夫でしょうか……私、不安です）
（きっと……大丈夫だよ、ミキさん……僕を信じて）
ミキの方を向いたアクアマリン色の顔が、軽く頷く。
かつて想いを寄せた彼女は――まだ記憶を取り戻していない。
しかし、カオルには今やそんなことなど、大した問題ではなかった。
何よりカオル自身が、記憶の１部を失った状態なのだ……現に今も、親の顔が思い出せない。
それにミキに限らず……“人間時代”の記憶を維持する鉱物娘の方が、実質的には少ないのである。
それを思えば――カオルの悩みなど、贅沢でしかなかった。
――昔の僕を覚えていなくてもいい、それでも彼女を守るんだ。
（は、はい……何だか、カオルさん頼もしいですね♪）
（え？……は、ははっ……そうかな、ありがとう）
ぎこちないながら、にこり、と笑みを浮かべるトパーズ色の少女。
そんなミキに対して、カオルもまだ少し戸惑いながら、それでも精一杯の笑みを返した。
その反対側――吹き抜けを挟んで“対岸”の廊下の影には、大理石の体を持つツインテールの少女。
先ほど……来るべき“有事”に覚悟を決め、変身したばかりの翔子だ。
すぐ背後にはサファイア色の背の高い鉱物娘――サラと、黒っぽい鉱物娘――サヤがいる。
（いよいよですね、翔子さん……怖くないですか？）
（怖いよ、凄く怖い……でも、やらなきゃいけないのよ、きっとね）
ふと――真っ白な顔を上げた翔子……その視界に、対岸のカオルの姿が入る。
お互い、今は瞳の影はない……しかし見られていることを察したのか、カオルは軽く頷いて見せた。
（あの連中に……サラさんやカオル君たちをこんな目に遭わせたあいつらに、絶対後悔させてやるんだ）
（ありがとう、翔子さん……そうですよね、見返してやりましょう♪）
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| （第９章第２話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2009～2010年頃に草稿を作成したエピソード。
ＡＳＧシリーズの“当初の計画”では、この９章から１０章にかけてが“最終決戦”だった。
全１２章構成を１部・２部のパートに分けたのは、実は１０章完結のメドが立ってからなのである（汗）
そしてこの９章から１０章にかけて、エピソードの執筆が大幅に遅れることになる（滝汗）
旧ＯＷ企画が軌道に乗り始め、ＧＤＷ世界観のスケールも広がり、創作の作業量が増えたためである。
そうした“転換点”の時期に、この物語も佳境を迎えたのである。 |
