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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E095） |
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朝陽市の地下に位置する、秘密結社メドゥアスの第１ラボ。
人気のない廊下を、中央の“制御核”へと向かうのは、パドルと末留である。
パドルの顔は真剣そのものだ……敵地の中枢部なので当然と言えば当然だが、
もう１つは先ほど末留から聞いた、メドゥアスの“最終計画”の内容のためであった。
「パドル殿、こちらです……確かこの扉の向こうが、制御核のある部屋のはずです！」
「ちょっと待った、警部、その扉は私が開けましょう……罠がないとも限らない」
正面の観音開きの防火扉を、ゆっくりと開けるパドル。
２人の視界に、制御核のある部屋の、銀色の床面が飛び込んでくる。
いや――視界に入ったのは、部屋だけではなかった。
「罠と言えば……これも罠のうちか」
２人の正面に立ちはだかる、身長３ｍ近いプラチナ色の巨人。
それはあの“駅前テロ”の首謀者とされた人物の、戦闘形態とも言うべき姿である。
「ようこそメドゥアスの中心部へ――最高の客として諸君を歓迎させてもらうよ」
プラチナ色の顔に不敵な笑みを浮かべて、セラフィはそう言い放った。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第９章 明かされる真実 ★
第５話 戻れない道（前編）
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「実験体にしては大したものだ、褒めてやろう……だが、遅い！」
こちらは旧奥沢村の地下施設――魔人メドゥアスの“城”。
抜群の貫通力を誇る“髪触手”を毒蛇のように操りながら、メドゥアスが吠える。
メドゥアスの目の前には……必死の形相で応戦するルイ。
驚異的な速さで髪触手を操るメドゥアスを前に、防戦一方を強いられている。
付いていくのが精一杯と言わざるを得ない……ギリギリのところで攻撃を回避しているため、
着ていたシャツやズボンはズタズタに切り刻まれて、今や半裸に近い。
もっとも、“石化した体”でこれだけ素早く動けるルイも、本来驚異的なのだが。
「くっ……ほんと腹立つ、こんなのが外道の見本だなんて、理不尽だわ！」
「現実とはそういうものだろう……理不尽を受け入れぬ時点で、お前はまだ甘いのだよ！」
ルイも金色のサイバーナイフを腕に形成させ、メドゥアスの触手を何度か切断しているのだが、
少し間を開けるとまた再生するのだ……埒が明かないとはまさにこのことである。
しかもルイは、メドゥアスが明らかに“手加減”していることが分かっていた。
いくらメタロードの能力を獲得したといっても、ルイの場合は“偶然”で手に入れたようなもの。
彼女と体を共有する４人の鉱物娘の連携は素晴らしいが、そこはやはり“素人”。
専門的な調整を受けたわけでもないために、時間が経つと消耗も大きくなる。
あの駅前テロの時も、ロイザーに向かってこの能力を開放したが、成功したとはお世辞にも言えなかった。
あれから何度か練習を重ねたが、まだ不十分だと言わざるを得ない上、相手は大ボスも同然。
「逸材だとは思うが――逆らうなら粛清せねばならぬ……覚悟は良いか？」
ルイを弄ぶメドゥアスの“毒蛇”が、ゆらりと鎌首をもたげる――今までとは殺気の質が違う。
今度は回避できないかも知れない――ルイの赤い顔が苦悩に歪んだ、その直後。
銀色の影が横から走り出て、ルイを抱きかかえるようにして駆け抜けた。
マシンガンのような触手の攻撃を切り抜けつつ――ルイを庇いながらメドゥアスと距離を取るライカ。
「ライカさん……！」
「無理しないでルイちゃん、相手が悪すぎるわ！」
「わ……分かってます……でも……でも！」
「そうね……気持ちは良く分かるわ、でも自分が生きる方が先よ」
距離が開いたためか――メドゥアスが次弾の“射出”を手控えた。
目に殺気を浮かべつつも、口元には不敵な薄笑いを絶やさない。
「せっかくの進化の機会をそうまでして拒むかね……まったく理解しがたいな」
「そのセリフ、そのままお返ししても良いかしら？ こっちこそ理解に苦しむわ」
「まぁ、いいさ……好むと好まざるとに関わらず、時代は確実に前へと進む。
もうすぐお前たちは、世界が変わる瞬間を目にすることになる」
「……何ですって？」
プラチナ色に染まった顔で眉を潜めたライカに、メドゥアスはぎらりと狂気に満ちた目を剥いた。
「今言ったとおりさ、もうすぐ世界は変わる……私の計画によってな。
これは時代の潮流だ、もはや何者にも止めることは叶わぬ……そう、神でさえも！」
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何度目かのセンターＤ。
スプリンクラーの雨の中、床に垂れ下がった鎖の束が火花を散らしている。
その鎖の周囲に、金色や銀色の怪人たちが倒れ伏し、時折がくがくと痙攣を繰り返す。
先ほどまで絶叫を上げていたが、今や声を出さない……いや苦痛の余り、声すら出せないと言うべきか。
そんな哀れな刺客たちから１０ｍ近く離れたセンターの入口シャッター近くで、
“電撃作戦”からただ１人逃れたタイタンが、忌々しげに３階の渡り廊下を睨み上げている。
「小癪なマネを……！」
３階の渡り廊下では、“帰還”したスイに、サラが抱きついている。
すぐ横にはアイガーも“合流”し、傷ついたホルスと言葉を交わしていた。
（スイちゃんよく頑張りました！無事で本当に良かったですっ！）
（ひゃっ、サラさん！？……う、うん、えへへ）
（ほんと大金星だと思うよ、あいつらってあぁ見えてもプロらしいからね！）
（スイちゃん１人で７人倒したようなものだよね！）
（えぇ！？そ、そんなことないですよ、あたしは言われたことしただけで……それに、
下で戦ってくれる人がいたから、できたと思うし……）
（でもスイちゃんがやり遂げてくれたから、みんなが助かったんだよ、ホントに！）
「おいおい、まだ勝利宣言には早いぜ？ ボスキャラがほぼ無傷で残ってるからな」
「しかし電撃作戦が成功したおかげで、向こうも余裕がなくなった、これでこっちにも余裕が出来た」
（あいつら無言で震えてるよ……あの電撃ってほんとに痛いからね、たっぷり味わったらいいんだ）
（あたしらも動けない頃はあれを散々食らわされたもんねぇ）
渡り廊下から１階を見下ろし、“言葉”を交わすのはサヤとルミだ……横にはミカもいる。
（あの……スプリンクラーの栓、閉めてこなくて本当に良かったんでしょうか？）
「気にするな、回復できないくらいに痛めつけてやるためには、出しっ放しの方がいい」
（でもこのままだと、あたしらも下に降りられないんじゃない？）
「しばらくはいいだろう、連中が退却するまではな」
３階で“センター組”がそんな会話を交わしていた時だった――ふと、１階のタイタンがにたりと笑った。
「全く捨て身の攻撃とはよく言ったものだ……褒めてやってもいい。そうだな、私は帰るとしよう」
「あん？ 随分と潔いじゃねぇか、明日は槍でも降りそうだぜ」
アイガーは３階から最大限の皮肉を返したが、タイタンの表情は変わらない。
「“明日”ね……あぁそうそう――こいつは土産だ、受け取ってくれ」
そう言いながら、タイタンは腰に下げていた袋から、何やら筒状の物体を取り出す……水筒ほどだ。
そして間もなく、耳を疑うような言葉がタイタンの口から飛び出した。
「これは超小型の中性子爆弾だ。超小型だが、この建物を吹き飛ばすには十分だろう」
「なっ……中性子爆弾だと！？」
（ちゅっ、中性子爆弾って、原爆とか水爆の仲間じゃなかったっけ！？）
なんとタイタンは、核兵器の親戚のような代物を取り出したのである。
弾道ミサイルに搭載するそれよりもはるかに小さいが、それでも“核”なのだ。
「そんな顔をするなよアイガー。考えても見ろ……中性子爆弾が破壊するのは主に有機生物だ。
我々メタロイドは、爆心地にでもいない限りは死にはしない、むしろ放射能で活性化するんじゃないか？」
にやにやと薄笑いを浮かべたまま、タイタンはとんでもない言葉を吐き続ける。
（じょっ、冗談じゃないわよ、このセンターの近くにも、普通の人が大勢住んでるのよ！？）
「威勢がいいな大理石の娘……確か石塚翔子と言ったか。いい機会だ、君もその姿をデフォルトにすればいい」
（そんな問題じゃないっ、あんたこそ脳まで金属になって、人の心無くしちゃったんじゃないのっ！？）
声を出せない大理石の体を震わせる翔子……無理もない。
中性子爆弾などという代物を目の前にして、冷静でいられる女子高生などいるまい。
「時代は変わるんだ、これからはメタロイドの時代になるとセラフィも言っただろう。
さて、私はまだ最後の大仕事がある……今日はこの辺で失礼させてもらうとしようかな。
次に会うことがあるとしたら多分、そう……世界が“新たな時代”を迎えた頃だろう」
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再びメドゥアス第１ラボ中央部。
“最終計画”の制御核が置かれていると末留が推測するその部屋の中央に、臨戦態勢のセラフィが立っている。
よくよく見れば、セラフィの背後に、何やらカプセルのような物体が置いてある。
「こ、この男は確か、駅前テロの……！」
「セラフィだ、あなたの体をクリスタがお借りしていた頃には、良く顔を合わせたものだがね」
「つまりライカが言ってた“変態マッド”ってのは、お前さんのことか」
パドルの口からライカの言葉を聞いたセラフィは、急に笑みを封印し、憮然とした表情になる。
「あの女はどこをうろついてるのかね……是非礼をしたいものだが」
「拠所ない用事があってな、旧奥沢村に出張中さ」
「なるほど、つまりゼロに会いに行ったわけですね？」
その言葉と同時に、フロアの上に渡された渡り廊下のような場所に、アグネムが姿を現した。
「アグネム……ゼロは今、あの村にいるのか？」
「１０分ほど前に直通通信がありましてね、“銀色の女”が土足で上がってきたらしいですよ。
あぁそうそう、２７号実験体と３３号実験体も一緒にいたようです」
「３３号か……ロイザーが遭遇したあの娘だな」
「お前――普通の人間じゃないな？」
ふと――横槍を刺すように呟いたパドルに、アグネムとセラフィはほぼ同時にぴくり、と眉を動かした。
「ほほぅ、これは鋭い……なるほど、ゼロが警戒するわけですな」
「メドゥアスと同じ臭いがする……混血か異母兄弟と言ったところか」
「惜しい。確かに私の遺伝子の半分はゼロですが、残念ながら私に親はいません」
「なるほどね……メタギュランと人間の遺伝子を掛け合わせたクローンというわけか」
実は“宇宙人”のパドルには、魂を見通す能力がある。
その能力が、アグネムの正体を、人間とは似て否なる存在であることを示唆していた。
動けなかった頃のルイたちの意識を突き止めたのも、この能力である。
「ふふっ、ご名答。魔界用語では、私のような存在はホムンクルスと呼ぶのでしょうな。
大した魔力は持ち合わせていませんが、メタ・クォーツへの耐性はあるようです」
「だからここにいるのか」
パドルはまた、意味ありげな言葉を呟いた……アグネムは首を傾げる。
「はて、どういうことでしょう？」
「ロビーからここに来るまでに人の気配がしなかった……組織の中枢が無人などあり得ない。
“最終計画”を進めているんだろう？ その計画を実行するのに、生身の人間がいてはまずいわけだ。
だが“耐性”を持つ者なら、計画に立ち会うことが出来る……違うか？」
「ふ、ふふ……なるほど、もう隠すことは何もないようですね」
引きつった笑みを浮かべるアグネムから、パドルは視線をセラフィに戻した。
「お前さんの後ろにあるカプセル……そいつを動かすことで“最終計画”が始動するわけだ。
全く……都市１つ丸ごと石化の呪いに放り込むとは、穏やかじゃねぇな？」
それは――この部屋に来る直前に、末留からパドルが聞いたことである。
秘密結社メドゥアスが進める“最終計画”の正体。
それは、この朝陽市を丸ごと、メタロイド化システムとも呼ぶべき大掛かりな兵器の実験にさらすこと。
局部的ながらそれは「世界を書き換える行為」であり、彼らが主張してきた“新時代”の本質を示唆する。
つまり、“最終計画”の成功は同時に、朝陽市の「人の住む町」としての滅亡も意味しているのだ。
数年前に――旧奥沢村が、忽然と地図から消え去ったように。
「そこまで嗅ぎ付けたか……見た目より頭の方も回る男だな、まぁそこまで知っているなら話は早い。
我々はこのシステムで世界の枠組みを変える……止めようとするのなら――分かるな？」
「分かるが――放置するわけにも行かないな、そのために俺はこの世界に来た」
「ふん……まぁ、予期していた回答だがね」
「だからここで待ち構えていたんだろうよ……だが、よもやお前さん１人でどうにかなるとは思ってないよな？」
「分かってるじゃないか……ならば、この先の展開も予想しているのかな？」
そう言って、セラフィは棍棒のような太い腕の先の、ナイフのような指をパチンと鳴らした。
その音にタイミングを合わせるように、パドルらが入ってきた扉とは違う扉が開かれる。
そして――その扉の向こうから、数人の人影がパドルらの前に姿を現した。
その姿を見た末留の顔が引きつる……パドルはほとんど表情を変えないが、目つきがかなり険しい。
「こ、これはさっきの……！」
「想定の範囲内だったが……最悪の選択肢だったぜ」
パドルたちの前に立ち塞がったのは、先ほどロビーで見た“新素材”の少女像であった。
違うのは、指先から針のような長い凶器を伸ばしていること。
無表情――ではないが、先ほどロビーで見た時と同じ悲しげな表情で、自我や感情の発露は全く感じない。
「分かってるとは思うが……これはただの人形ではないぞ。ついでに言えば、処理からまだ３ヶ月程度だ。
運が良ければ、元に戻すことが出来るやも知れんな」
「そ、そう言えば……３ヶ月ほど前に女学生の集団失踪事件が……！」
「彼女たちを助けたいと思うのなら抵抗はお勧めできんな、さぁどうするね？」
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（……ここです）
旧奥沢村地下基地の外れで、アクアはそう言った。
アクアが指差す方向にユウや春海が視線を向けると、洞窟状の穴が斜め上へと延びている。
そしてこの“洞窟”の周囲は、普通の岩石でできていた。
（この洞窟を３分ほど歩いたら、村外れの沢に出られるはずです）
（なんだ……結構でっかい入口があったんだな……）
（でも、あの“装置”が動いている限り、“経験者”じゃないとここまで来れませんからね）
（でもユウさん、本当にこのまま行くんですか？ ルイさんやライカさんは……）
クリスタル色の顔に不安な表情を浮かべて、瞳がユウに問いかける。
（ここに来たのは春海ちゃんを救出するためだからね。ライカさんも「先に行って」って言ってたし）
そうなのだ。
ロビーでメドゥアスとの戦闘が始まる直前、ユウはライカから“直通通信”を受けていた。
そこでライカは、先に春海を連れて出口を探し、見つけたらそのまま脱出するように、と告げていた。
鉱物娘の中でもルイに次いで活動的な、ユウの行動力を見込んで。
（大丈夫だよ、ライカさんのことだからきっと、ルイさん連れて後から来ると思う。
それにあそこに留まってても、戦えない俺たちじゃ結局、足手まといにしかならないからね）
（ご、ごめんなさい……あたしが探検したいなんて言ったばかりに）
（そ、そんなことないよ春海ちゃん。おかげで“黒幕”の正体が分かったんだから！）
（そう、あの外道なヘビ野郎をぎゃふんと言わせるためにもさ、俺たちが先に脱出して支援を募らなきゃ。
あいつは絶対、後悔させなきゃ俺も気が済まないよ！）
真剣な表情で語るユウ……それはそうだろう、これは他人事ではない。
メドゥアスが全ての鉱物娘たちの過酷な運命を作り出したも同然なのだから。
何よりもユウ自身が被害者であり、その“過酷な運命”を今まさに背負っているのだ。
人間に戻れる可能性がある春海や瞳と違って、ユウは２度と「人間に戻ることができない」のである。
（頑張ってください、ユウさん、春海ちゃん、応援してます）
（あたしらはここから出られないけれど……春海ちゃんが助かるんだったら、凄く嬉しいよ）
戸惑いながら、“地下基地”を出ようとするユウたちを、アクアとレイアは入口で見送る。
まるで扉の前に立つコンパニオンのように、２人並んで立っている。
その姿を見ながら、今度はユウが申し訳なさそうに切り出す。
（やっぱり……無理そう？）
ユウの問いかけに、２人は寂しげな表情を浮かべ、ほぼ同時に軽く頷いた。
（はい。ここから先には、体が動かないようになってるんです）
（たぶん“コレ”を壊さないと無理じゃないかな、でも壊したらきっと、歩けなくなると思う）
レイアはそう言って、自分の額に植わった赤い結晶体を指差した。
アクアの額にも同じようなものがある……春海はオーラにも同じものがあったことを思い出した。
まだ戸惑っている春海に向かって、レイアは再び、にこりと笑顔を形作る。
（大丈夫。あたしたちはメドゥアスに“選ばれた存在”だから、死にはしないよ！）
（ごめん、２人とも。後できっと、自由にするから！）
（ありがとう、レイアさんアクアさん、オーラさんも、絶対忘れない……いいや、また会おうよ！）
そう言って、ユウたちはいびつな洞窟の床に、足を踏み出した。
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再びセンターＤ。
門外で車のエンジン音が響き、少しずつ遠ざかっていく……運転しているのはタイタンか、その部下か。
ホルスたちはまだ３階にいる……１階はまだ、高圧電流の渦の中だからだ。
そしてそこには、ネメシスら７人の工作員が、今も倒れこんでいる。
先ほどまで痙攣していた体はもう、動いていない……シュールな像のように体を捻ったまま沈黙している。
恐らく意識を失っているのだろう……さすがに死んではいないだろうが、
５分以上も高圧電流を浴び続けているために、簡単には立ち直れないはずだ。
そしてその先には、水筒ほどの金属カプセルが１個……タイタンが“仕掛けた”爆弾だ。
その小さなディスプレイには文字盤がある……４ケタの数字が表示されており、徐々に数を減らしている。
言わば時限爆弾というやつだろう……タイムリミットまではまだ１０分ほどあるものの、
ブレーカーを下ろしてスプリンクラーを止めない限り、１階に降りることもままならない。
「タイタンめ……何て奴だ……」
「しかも兵士は置き去りだぜ……全く、いいご身分だ」
（ど、どうしよう……何とかしないと、爆発しちゃうよ）
（あたしたち、死んじゃうの？）
（ヘタすればあたし達に留まらないよ……何とか止めなきゃ！）
「まずは電気と水を止めねばな……誰か、止めてきてくれるか？」
（あたしが行くよ、さっきも行って来たし、１番軽いの、あたしでしょ？）
名乗りを上げたのは、やはりスイだ。
鉱物娘たちもホルスたちも、体が鉱物や金属でできているために、人間よりはるかに体重が重い。
スイも成人男性より体重が重いが、それでもこの中では確かに、１番軽かった……眞希を除けば、だが。
（ごめん、スイちゃん……お願いしていい？）
（もっちろん、あたしにしかできないことだもん、あたしがやるよ！）
言うや、スイは再び、屋根の下の鉄骨によじ登った。
スイの動きも、“石化”しているにも関わらず軽快で、既に制約はほとんどないようである。
「よし、電気と水が止まったら、あの爆弾をまずは地下室に持っていくぞ」
（え、地下室へ？）
「そうだ。あの部屋はとびきり頑丈に作ってあるらしいからな、万一爆発しても被害を抑えられる」
「だがよホルス、爆弾処理は誰がやるんだ？ 俺にそんな知識はねぇぞ」
「俺しかいないだろう。しばらくやってないから、確実な解体は保障できないがな」
そう言いながら、ホルスはゆっくりと立ち上がる……傷ついた金属の体が、ギシギシときしむ。
まだかなりの痛みが、体の中で今も反響しているはずだが。
「確実は保障できねぇ、か……ヤバそうなら、逃げて来いよ」
「そうだな……さすがにこの体では、爆発に巻き込まれると砕けてしまいそうだ」
（保障はできないのか……あたしたち、生き残れるかな？）
翔子が大理石色の顔に不安な表情を浮かべる……「生きるか死ぬか」は覚悟していたつもりだが、
核兵器の親戚みたいなものを目にして、恐怖を覚えないはずがない。
「処理が始まったら、個室や保管庫に逃げろ。管理室ほどじゃないが、あそこもかなり頑丈だと聞いた。
あとは……運を天に任せるしかないな、今の体が核爆発に耐えると信じるしかない」
（ほんっと最悪……やだ、あたし今凄く怖い……眞希のこと、笑えないね）
（翔子さんだけじゃないですよ、みんな今凄く怖いと思います……私だって、正直怖いです）
（ありがと、サラさん……でも、ううん、やれることをやるしかないよね）
翔子たちがそんなことを呟いていた時、屋根組の奥からスイの“声”が各自の心の中に響いた。
（着いたよみんな！ 始めるよ、準備はいい！？）
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「……やはり、貴様も普通の人間ではなかったか」
三度、メドゥアス第１ラボ中央部。
セラフィが引きつった笑いを浮かべていた……数ｍほど離れて、末留も青ざめている。
両者の間には、傷だらけのパドルが立っていた。
武装化された石化被害者を前に、反撃を封印し続けた結果である。
交わせば恐らく末留が狙われるだろうから、その場を動くこともできないのだ。
感情がない――恐らく“上書きプログラム”で制御されているのだろう――被害者たちは、
指から生やしたメスのような刃を、執拗にパドル目がけて振り下ろした。
否、被害者たちのみならず、セラフィもまた、指を変化させた斬撃をパドルに放っている。
これだけの攻撃を受け続ければ、普通の人間ならば今頃細切れにされているはずだが、
パドルは外面こそ傷だらけ血まみれにこそなっていたが、決定的な致命傷を回避し続けていた。
規格外の頑丈な肉体が、斬撃を途中で食い止めてしまうためである。
“鉄板すら切り裂く”攻撃を受け続けて五体を維持できる人間など、常識的にはいるはずがない。
決して降伏したわけではない……実際に目は今も変わらず、セラフィを睨み続けている。
その表情を見て、セラフィがひときわ残酷な笑みを浮かべた。
――ざしゅ。
「ぱ、パドル殿っ！？」
セラフィの“鎌触手”がパドルの顔を狙った……飛び散る血飛沫。
思わず、末留の悲鳴のような声が響く……警官として凄惨な現場は見たことがあるが、
現在進行形で続く血みどろなリンチ行為は、理性を削るほどおぞましかったらしい。
ほとばしる鮮血にパドルの視界が奪われる……セラフィが狂ったような笑い声を上げた。
「きひゃひゃひゃ！ 今どんな気分だね、視界ゼロの状態で切り刻まれる気分は！？」
「…………」
「痩せ我慢は体に毒だぞ、まぁどうせ、あの世に行ってもらう予定だがなぁ！」
勝ち誇ったような声で、セラフィが銀色の巨体を揺すりながらパドルに近づく。
その時だった――鮮血に濡れたパドルの顔がニィ、と笑った。
「――？ 一体、この期に及んで何のつもりだね？」
「……！！ いけない、セラフィ、すぐに持ち場に戻ってください！」
「何だと？ アグネム、それはどういう意味――」
何かを察したのか、アグネムが渡り廊下の上から声を上げた――その直後。
セラフィの視線が逸れた隙を見計らうように、パドルが１・２歩、素早く進み出て、
セラフィの胴体にがっしり、と組み付いたのだ。
「うぬ、貴様何をするか！」
セラフィの髪触手がミサイルのようにうねり、組み付いたパドルの背中に突き刺さる。
だが貫通することは出来ない……パドルの腕を切り落とすことも。
セラフィは力任せに引き剥がそうとするが、その腕は万力のように離さない。
「えぇい、離さんか！……ちっ、どこからそんな馬鹿力が出るのだ！」
「待ってたんだよ……お前さんが持ち場を離れるのをな」
「……！！」
「電撃には強いそうだが、こいつには耐えられるかな？ ――試してみな」
――ズン。
不可視の衝撃波が、ラボ中央部を駆け抜けた。
ライカがメドゥアスの地下基地で放ったものと同じ、霊気のオールレンジ放射だ。
しかし、こちらの方が数倍「重かった」。
「――ぐっ……！？」
「くっ……まさか、こんな手まで使えるとは……！」
魂を引き剥がすような衝撃を感じたアグネムは、渡り廊下でよろめき、膝を付く。
そして間もなく……パドルを攻撃していた少女像たちは動きを止めた。
セラフィはかろうじて意識をつないでいたものの、その体はパドルの太い腕に捕らわれたまま。
さっきまで彼が立っていた“制御核”の前には――今や誰もいない。
そう――全ては、この瞬間が狙いだったのである。
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| （第９章第５話・後編へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2011～2014年頃に草稿を作成したエピソード。
駅前テロ編の時と同様、文章量が増えすぎてまとめるのに苦労した第２部第１次クライマックスである（爆砕）
そして今回はさすがに長くなりすぎたため、無理矢理前後編に分けることになったorz
エピソード全体がまとまったのは2014年に入った頃で、２年以上筆が進まずに放置していた（滝汗）
（2012～2013年は旧ＯＷ企画が軌道に乗り始めた頃だったため、明らかにそっちに執筆の重心があった^^;）
ただし、センターＤが「核攻撃を受ける」展開は実は最初から決まっていたものだ。
敵側が単に逆転劇で負けて撤退するだけだと、これまでの展開と大して代わり映えせず、
「わざわざ敵の怪人がセンターに集団で殴り込みをかけてきた」のにも関わらず余りに情けない結末であるし、
“最終計画”が完全に阻止される展開も最初からなかったからである。
この頃、第２部の２つ目のハイライトが固まり始めており、そのために“逆境”も必要だと考えたのだ。
G-maはバッドエンドを基本的に好まないが、有り難みのないご都合的な大団円も本意ではない。
パドルが“霊気の衝撃波”で窮地を脱するシーンも、後から追加したプロットである。
71号体以降の“新素材鉱物娘”の概要が決まったのもこの頃で（執筆当初は細部は曖昧だった）、
彼女たちを保護する必要があるが、奥沢村の被害者同様「操られている」ため、
こうした設定になったが、単なるご都合主義ではなく「パドルもライカと同じ能力を使える」ことを示す意味がある。
そして少々ネタバレになるが、パドルは本来「ライカよりずっと強い」キャラであり、
クライマックスの前編にその片鱗を見せること自体が、違う意味でフラグになっているのだ。 |
