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★ＸＥＫＲＯＭ 統合ナンバー：EA-ATT19301N（N-001） |
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≪プロローグ≫
漆黒の宇宙に浮かぶ、巨大な宇宙基地。
直径100kmを超えるだろうリング状の構造物が複数、
別々の軌道を保持されて、中核となる球状構造体を周回している。
アトラス銀河連合のオリオネス腕監視ステーション、Ａ４２スターベースである。
今その構造物の各所で、オレンジ色の光が明滅している。
この基地を常に彩っている、白い光点群とは異なる、不吉な輝き。
刹那、ひときわ大きな閃光が煌き、すぐさまオレンジ色の光の塊となって膨張する。
オレンジ色の光球はリング構造物の１部を包み込み、間もなく完全に飲み込んでしまう。
（画像挿入予定）
次の瞬間――真空の空間に幾つもの細かい火花を撒き散らし、巨大なリングが２つに裂けた。
折れ曲がったリングは、その背後の構造物に衝撃を伝播し、次々に破壊が連鎖する。
何億トンもの質量を持つリングをへし折るほどの衝撃に、耐えられる構造物はここにはない。
よく見ると、飛び散る火花と、構造物の外壁らしい破片を掻い潜るように、小さな影が乱舞している。
それも１つや２つではない……何千という飛行物体が、破壊されるリングの周りを飛び交っているのだ。
時折その宙域で、小さな光が明滅する……どうやら、何かと戦っているようだ。
――いや、恐らくはこの宇宙基地そのものが、今や凄惨な戦場と化しているのだろう。
「リングが――第３リングが完全に割れた！」
「センター・コアのシールドも１５％まで低下しているようです！」
「止むを得ん……ここは１時撤退だ、支援艦隊もこれ以上は持たない！」
「しかし、この基地を奪われたら、オリオネス・センターは完全に孤立することに……」
「今起きている状況を直視しろ！ 基地がここまで破壊されて、我々になす術があるか！？」
「ここはもうダメだ……本隊が到着するまで、我々は退くしかない……」
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ＸＥＫＲＯＭ
ゼクローム――鋼の勇者達
★ 第１話 深紅の鎧戦士 ★
（想定年代：BWO033頃／※プロローグのみ過去史）
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基地の内部でも、激しい戦闘が展開されていた。
宇宙港か格納庫か、広大な空間を無数の光線が飛び交い、火花が散る。
時折、火花に混じって爆発が起こり、衝撃波が周囲の小物を、そして応戦する兵士たちをなぎ払う。
負傷して倒れ込む兵士たちに、更に熱線の嵐が襲い掛かる。
次々に撃ち抜かれ、あえなく息絶える兵士たち。
（画像挿入予定）
やがて燃え盛るオレンジ色の光の中から、別の兵士らしき影が次々に姿を現した。
メタリックな鎧で全身を覆った、重装甲歩兵のようだ。
重装甲歩兵たちは、手に抱え込んだ重そうな火器から、プラズマらしき熱線弾を乱射し、
劣勢の兵士たちに無慈悲な止めを刺していく。
重装甲歩兵たちの関節部は不自然なほどに細く、
鎧を纏った兵士というよりは、むしろロボットのような印象を与える。
だがヘッドガードの奥には、有機的な顔が覗いている。
もっとも……その顔に血の気はなく、まるで能面のように無表情であったのだが。
基地の中枢部では、追い詰められた連合群将校たちが混乱の極みに陥っていた。
「連邦兵団はＢ区画を突破……Ａ区画の突破も時間の問題と思われます！」
「少将殿、ここは撤退して艦隊に戻られた方が宜しいかと思われますが……」
「うぬぅ……我が連合軍の兵士は手も足も出ないというのか？」
「死を恐れぬ連邦軍の強化兵士……懸念はしていたが、まさかここまでのものだったとは……」
将校たちは今まさに――迫り来る“装甲兵団”の話をしているようだ。
「武装や装甲だけでなく、肉体をも強化しているというわけか……おのれ、こんな前時代的な兵器が！」
「第３リングは事実上防御能力を失いました……第２リング及び第１リングも敵の侵食が続いています」
「“ゼクローム・ノイド”……こいつらは正しく、死神の軍団だ……！」
「こんなところで撤退するのは銀河正義の誇りに恥じるが……仕方ないのか……」
司令官らしきヒューマノイド種の男は、唇を噛んで転送室の方へと向かった―――その時。
突如、司令室のシステムが一斉にダウンした。
「な、なんだ！？ センター・コアのコアシステムはまだ無事ではなかったのか？」
「何だコレは……司令、コアシステムが何者かによってハッキングされています！」
「バカな！？ 連邦軍の情報戦能力は、連合を凌駕する水準になっているというのか！？」
「非常用通路もアクセス不可、空調機能もダウン……何ということだ、完全に閉じ込められた」
――数時間後。
司令室の扉が開け放たれた時には、司令室の要員は窒息でほぼ全滅していた。
ただ１人……空気ボンベを託された司令官を除いて。
司令官の目の前には、全身を真紅の鎧で覆った連邦軍の強化兵が立っていた。
司令官は観念して、吐き捨てるように言った。
「これで作戦終了だな……最高の捕虜が手に入ったというわけだ」
だが真紅の装甲に覆われた連邦軍部隊の隊長らしき兵士は、司令官にスパークする手の平を向けた。
「捕虜？ そんな指示は受けていない」
司令官が驚きで目を見開いた、次の瞬間―――肉を引き裂くような不気味な音が、室内に響き渡った。
やがて赤き装甲の兵士は、表情１つ変えぬまま、司令室を出て１言発した。
「標的の掃討を完了、これより帰還する」
これは――約3,600年前に起きた“星間戦争”の記憶である。
この銀河――アトラス銀河系に影響力を有する、２つの列強の長い対峙の１幕であった。
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「そう言えば、あの戦争からもう3,500年以上も経つのだな……」
タイタニア・テクトラクタ中枢部にある、連邦総統府の１室。
３本の角を持つ、紫色の肌の男が、同席していた人物に語りかけた。
その同席者も、同じような姿をしている……ただし、服装は軍の所属を示しているが。
軍の司令官らしきその男は、ローブを纏って部屋の中央奥に座る男に言った。
「あれから我が連邦も随分と成長した……だがまだ、あと今１歩連合に及ばない」
「だからレセウスを解放したいというわけかね？――ヴァクティルナよ」
ローブの男ににそう言われた軍人――連邦軍大将サラス・ヴァクティルナは自身の構想を更に力説する。
「今ゼクロームを再生すれば、連合の戦力に拮抗することが出来るだろう……今の連邦の勢力を持ってすれば！」
「理論的には、な……だが、賭けになるやも知れんぞ？ 思いつきだけでこれだけの計画は動かせぬ」
「外交面はあなたに任せている……あなたの大総統としての外交力は、サラス族でも突出しているからな」
ヴァクティルナに“大総統”と言われたローブの男――サラス・エルディモアは、苦笑いしながら言葉を返した。
「絶対の保障は出来ぬよ？ ――だが、やってみる価値はあるやも知れんかな」
「これは序章になろう……ゼクロームの再生は連邦飛躍の足がかりだということだ！」
「“30年計画”とはまた随分と遠大な構想だな――だが全て実現できるなら、確かに我が連邦は銀河最強にもなれよう」
サラス・エルディモアの前のテーブルには、
ヴァクティルナが組み上げた“軍備拡大構想”のホログラム資料が浮かび上がっている。
それを見ながら、タイランタ銀河連邦の最高指導者・連邦大総統は、冷たさを秘めた不気味な笑みを浮かべた。
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「――おら、グズグズするなアイル、さっさと運べバカ野郎！」
「ま、待って下さい……はぁはぁ」
照りつける太陽の下。
２つの人影が、オアシスに向かって歩を進めていた。
怒鳴り散らしている方は、目付きの悪い長身の青年だ。
やや色褪せた金髪は逆立ち、耳には幾つもの特徴的なピアスをはめている。
他方――怒鳴られている方は、対照的に小柄な少年だ。
砂まみれで疲れ切った表情だが、瞳は純粋な輝きを秘めている。
重い荷物を背負って息を切らす少年を怒鳴りつけながら、
しかし目付きの悪い青年は自らは軽装のまま、ずんずんとオアシスへと歩いていった。
（画像挿入予定）
「あぁ疲れた……お前がグズグズしなきゃ、もっと早くここに来れたんだ！ 分かってんのか、あ？」
「ご、御免なさい……」
オアシスのたもと、浅い洞窟が口を開けている、その適当な大きさの岩にどっかり腰を下ろした青年は、
荷物を背負って歩いてきた少年を叱り付けた。
少年はやや茶色く脱色しているものの、元は栗色髪だったことが見て取れる。
服は摩り切れて色褪せ、青年が着込んでいる比較的裕福な衣装と、首から下げるペンダントと比較して、
まるで奴隷のようなみすぼらしさを漂わせていた。
「ひゃは、さしものアイルもバテたか？ この砂漠横断は……あのバラックの比じゃないからな環境の悪さは！」
青年はアイルと呼んだ少年を明らかに見下ろし、下品な笑い声を上げたが、
当の少年――アイルには、返事をする気力も残っていないようだ。
無理もない……大の大人ですら音を上げるような大きな荷物を、ぶっ続けで15時間以上も背負いながら、
灼熱の砂漠を歩かされてきたのだ……体躯は小柄だが、恐るべき持久力である。
青年が少年を奴隷のようにこき使うのは、恵まれた身体能力を持つこの少年を利用しやすくするために、
反抗できないくらいに疲れさせる必要があったからだ。
もちろん、彼がアイルをスラムで拾った時に抵抗される危険もあったわけだが、
最初のうちは持っていた治安部隊流れのスタンステッキ（電磁警棒）で言うことを聞かせることが出来た。
何日もオアシス伝いに砂漠を歩いてきた所為で、そのスタンステッキもただの棒になっていたのだが。
苦労が嫌いそうなこの青年、アデル・キリグがここまでして砂漠を移動したのには、理由があった。
砂漠の向こうにあるとスラムで噂されていた、“財宝の山”の話に心引かれたのである。
墓暴きや盗みで食いつないできたチンピラ上がりのアデルには、
砂漠を横断するフライヤーを買う資金もないし、バラックに溜め込んだ生活道具を運ぶ気もない。
そんなアデルの目に留まったのが、地震災害とそれに伴う紛争で、
家と親を失ってこのスラムに迷い込んできた、災害孤児のアイルだった。
純粋な性格で運動能力に優れるアイルに荷物運びをさせれば、砂漠横断も可能と考えたのだ。
アデルは甘い誘いでアイルをバラックに連れ込み、スタンステッキで痛めつけて言うことを聞かせた。
「そろそろ行くぞ、そら立てアイル、せっかく名前で呼んでやってるんだから感謝しやがれ！」
「はぁ、はぃぃぃ……」
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「……お、この穴は深そうだな、３度目の正直ってヤツか♪」
アデルがオアシスの奥にある岩山の探索を始めて２時間後。
中から風が漏れてくる、ひときわ深そうな洞窟を発見した。
アデルは財宝に胸躍らせ、アイルを急き立てて洞窟へと踏み込んだ。
「ほら、お前が先に行けよ……何か見つけたら言え」
「……は、はぃ……」
疲労困憊のアイルはふらふらと、真っ暗な洞窟の奥へと踏み込んでいく。
だが――その姿が暗闇に消えてわずか数秒後。
「うゎ、わぁぁぁぁぁ―――」
出し抜けにアイルの悲鳴が洞窟にこだました。
アデルは心臓が飛び出しそうなほど驚いたが、逃げ出しはしなかった。
多分、財宝の妄想が恐怖に勝ったのだろう。
「ぬぅおゎ！！ ……ど、ど、どうしたんだ！？ おい、何か言えよ！」
ヘッピリ腰で洞窟の奥に向かって叫ぶアデル……だが、ひっそりと静まり返って応答がない。
意を決し、アデルはその暗闇に向かって踏み込んでいった。
それが――２度と戻れない、運命の分かれ道になるとも知らずに。
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「あ、いたたたた……」
ふと、アイルは我に返った。
傍若無人なアデルに急き立てられ、ふらふらと洞窟の奥に入ってわずか数秒後、
急に足元の地面が消失して―――気付いたらここにいた。
そこは……ぼんやりと青い光が満ちる、薄暗い通路だった。
見たところ、壁は金属で出来ているようだった。
アイルの胸の鼓動が激しくなる。
洞窟の奥に本当に“遺跡”があったからだ―――その時。
「どゎあぁぁぁぁぁ！！」
下品な悲鳴と共に、アデルが上から転がり落ちてきた。
「うゎ！ あ、アデル、さん？」
「あだだだ……あ、アイルか？ 何だお前、生きてたのか……で、ここは何だ？」
相変わらず、突き放すようなアデルの言動……アイルは思わず、溜息をついた。
「黙ってんじゃねぇよコラ、ここは一体何なんだよ！？」
「い、いぇ……ぼ、僕にも分かりません……」
「ケッ、なんでぇ、使えねぇヤツだな……って、金属の壁？」
アデルの目が欲望に輝く。
こいつは、本当にあるかも知れない、いやあるに違いない。
アデルの心はいつしか、根拠のない財宝の確信に満ちていた。
他方アイルにしてみれば、決して裕福ではないとは言え、財宝にさほど関心はなかった。
というより、何か不吉な予感が、このオアシスに来てから常にあったのだ。
早く外に出たいと、アイルが気を揉んでいた……その時。
何かが聞こえた。
アイルはどきりとして、耳をそばだてる。
アデルには聞こえていないようだ……恐らく、頭の中は財宝でいっぱいなのだろう。
――やっぱり聞こえる。
コツ、コツ、コツ……
足音のような、しかし硬い音。
今度はアデルにも聞こえたようだ……その表情が変わる。
「お、おい、変な音出すんじゃねぇよ」
「ぼ、僕は何も……」
“足音”は更に大きくなる。
しかもよく耳を澄ませば、複数の“足音”が混じっている……誰か別のメンバーが来ているのか？
アデルが大声で呼びかける。
「お、お、おぉ〜〜い、誰かいるのかぁぁ！？」
しかし、音の側から返答はない。
コツコツという音は更に大きくなる。
しかも音が大きくなるにつれ、その音の中に奇妙な雑音も混じり始めた。
キュゥーン、キュィィッ、という、モーターのような小さな“駆動音”。
やがて……音が大きく響いてくる側から、黒い人影が数人、姿を現した。
だが、その姿は……
（画像挿入予定）
「ろ、ロボット！？」
「まさか、財宝の番人か！？」
中世の甲冑のような、金属光沢を放つ集団が現れた。
しかも頭部と思しき部分には何もなく、“体”だけが歩いている。
かすかに響いてくる駆動音がなければ、完全にホラーの世界だ。
しかし、何の意思も示さずにただ歩いてくる“金属人形”たちは、非常に恐ろしいもののように思えた。
「く、来るな！ お、おぃ、来るんじゃねぇよ！」
アデルが、持っていたスタンステッキを振り上げ、金属人形に殴りかかった。
しかし、カィーン、と軽い音がしてビクともしない。
状況が余りにも不利だと察したアデルは、アイルを放って反対方向へと駆け出した。
「ひ、ひゃあぁぁぁぁ……っ！」
「あ、ま、待って下さいよ……！」
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……しかし、通路はすぐに突き当たった。
まるで袋小路のような、やや広い無機質な部屋で、通路は唐突に途切れていた。
あたかも最初から、ここに落ちた者を捕獲するために作られたような部屋。
ハメられた――２人がそう気付いた時は、もう遅かった。
「うわぁぁぁ！」
「や、やめろぉ、来るなぁぁ！！」
手を伸ばして覆い被さってくる金属人形から、２人は地を這い、転がるようにして逃げ回る。
アイルは必死になって金属人形の群れから這い出すと、さっき逃げてきた通路に向かった――しかし。
「あ、あれ……？」
通路はなくなっていた。
いや、恐らく締め切られたのだろう。
アイルが完全に追い詰められたと思った、その時。
「うおぉぉぉ、やめろぉ、やめてくれぇぇ！！」
両腕を金属人形に掴まれたアデルが、１体の金属人形に向かって、背中を向けて押し付けられていた。
と、次の瞬間、その金属人形の胸部が、分解するようにパックリと開いた。
いや胸部だけではない……腕や脚のパーツも、同様にして２つに割れ、するすると開いていく。
意外なことに、金属の外殻の中は、まったくのがらんどうだった。
そしてアデルの腕を掴んだ金属人形は、アデルをその中にぐいっと押し込んだ。
その瞬間、パチンパチンと音を立てて、アデルの胴体や手足に、針金のようなものが絡みつき、
アデルの体を外殻の内側にぴったりと固定した。
更にその直後、今度は開ききっていた各所の外殻が、ふたを閉じるようにパタンパタンと戻っていく。
ちょうど―――アデルの体を包み込むように。
アデルは必死に抵抗していたが、やがて外殻はほぼ完全に閉じられ、
首が無かった金属人形の頭の部分に、アデルの頭部が露出する形になった。
その頭部に向かって、今度は首筋の後ろからコード様のものがするすると伸びてきて、
アデルの顔を這いずり回ったかと思うと、その目尻にずぶりと食い込んだ。
痛みの所為か、半狂乱の悲鳴を上げるアデル。
そして、我を忘れて呆然と見ていたアイルの両腕を、別の金属人形ががっちりと掴んだ。
「――あっ！？」
しまった、と思う間もなく、自由を奪われたアイルもまた、横に立っている金属人形に押し付けられる。
頭部のない金属人形の胸辺りに埋め込まれているグリーンの結晶体が光を放ち、
アイルの体を、まるでレーザースコープがサーチするように舐めまわす。
その時、恐怖で硬直しているアイルの背後で、ひときわ恐ろしい声が響いた。
「ぐぁ、ぅぎゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ………」
拘束されているアイルの視界からは真後ろになるが、何かが音を立ててのたうち回っていた。
それが先ほど、金属人形に“取り込まれた”アデルであることは、ほとんど疑いの余地が無かった。
目の前の金属人形は、しばらくアイルのボディをサーチしていたが、
しかしどういうわけか胸部パーツを開くことは無く、そのまま後に下がった。
気付けば、周囲に10体以上もいた、頭のない金属人形の姿が消えている。
薄暗い部屋にいるのは、アイルと、アイルを拘束した金属人形２体と、目の前の１体、
そして背後で恐ろしい悲鳴を上げている、アデルだけになっていた。
――いや、もう１体、別の金属人形らしき重い足音が、背後で聞こえていた。
目の前で“待機”している金属人形の胸部外殻に、その姿が映り込んだ。
それは……今までいた銀色の人形とはまったく違う、真紅の金属人形であった。
そしてアイルを拘束した金属人形は有無を言わさず、アイルの体をその真紅の人形に押し付けた。
瞬間、パチンパチンと音が響き、アイルの体に何かが巻きついたのが分かった。
数秒後、背後から回り込むようにして、真紅の外殻が胸部を覆った。
同様にして、アイルの腹部や手足も、真紅の外殻に覆われていく。
うなじの辺りから何かが伸びてきて、アイルの顔を這ったかと思うと、その目の下に食い込んだ。
電流のような痛みを感じ、アイルは思わずうめき声を上げた。
「……！ ぅあっっ……！」
しかしその痛みは、続いてやってくる激痛の前触れに過ぎなかった。
「くぅぅ……―――！？ あっ……ぅあっ、あぐぅぅ！？」
全身に引き裂かれるような痛みが走ったのだ。
思わず、転げまわるような激痛。
しかし真紅の外殻は非常に重く、満足に動けない。
猛烈な激痛は、容赦なくアイルを襲い続ける。
あまりの痛みに思わず痙攣するように腰を捻った瞬間、アイルは床に仰向けに倒れ込んだ。
「がっ……くぅぅぐぁ……はぁぁぐ……！！」
激しいうめき声を上げ続けるアイル……やがて彼の意識は、深い闇の中に沈んでいった。
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それから何時間経ったのだろう……アイルはふと、目を覚ました。
もう……あの腸が捻れるような痛みは無い。
ただ、視界が妙だ……やけに鮮明な気がする――まるで、精密なスコープでも使っているような。
アイルは、ゆっくりと体を起こしてみた。
普通に起きることが出来た――というよりも、意外なほど軽い。
あの重そうな真紅の外殻はどうなったのだろうと、アイルが思ったその時。
アイルは、自分の脚が真紅に染まっていることに気付いた。
血ではない……真紅の硬い外殻に覆われていたのである。
アイルは思わず、自分の手を見た。
案の定、それは真紅の外殻……いや、装甲とも呼べるようなものに覆われていた。
アイルはその硬い手で、体中を触ってみる。
どこを触っても、帰ってきたのは信じられないほど硬い感触だった。
ただ唯一、顔だけが柔軟性を感じた……それでも、自分の皮膚ではない違和感があったが。
目の下、頬骨辺りから、コード様のものが３本ほど伸びているのが分かった。
「これが……僕？」
ふと口を突いて出た言葉も、どこか妙な違和感がある。
自分の声であることはほぼ間違いないのだが、喉を震わせて喋っている感覚がなかったのだ。
アイルがまだ夢心地から抜け切れないでいると、ふと自分の横で、何かが動いたように見えた。
振り向くと、それは銀色の装甲に身を包んだアデルだった。
「あ、アデルさん……大丈夫です……か！？」
アデルに声をかけかけた、アイルは驚きのために言葉が途切れた。
くるりとこちらを向いたアデルは、完全に無表情だったからだ。
皮膚は灰色に染まってもはや血の気はなく、コードが食い込む目には奇怪な光が宿っている。
アデルはアイルの顔を見てもまったく反応を示さず、まるで機械のように立ち上がった。
つられるように立ち上がるアイル……そこで、更なる違和感が彼を襲った。
アデルが、自分よりも小さく見えたのである。
間もなくアイルは、自分の身長が何十センチも伸びたのだと分かった。
急に変化した視界のためか、アイルはふらふらとよろめく。
だが、その姿勢はすぐに、機械的に修正されるように矯正された。
自分の体を覆っている真紅の装甲の中で、何か自動的な力が動いている――とアイルは悟った。
まるで別人のように変貌したアデルは、機械的な足取りで壁の１角へと進む。
すると壁の１部がパカッ、と開き、新たな通路が出現した。
当たり前のプログラムを遂行するように、アデルはその通路に踏み出していった。
「ちょ、ちょっと待って……」
そんなアデルを、アイルは追っていく。
薄暗い通路を100mほど歩くと、急に視界が開けた。
今までとは違う、広い通路に出たように見えた。
壁の角を走る照明器具も明々と輝き、今までよりもずっと明るい。
アデルはその通路の１角に向かって歩き、飾り気のない金属のイスに腰掛けて動きを止めた。
よく見ると、周囲にも似たようなイスが並び、似たような装甲を纏った人間らしき影が座っている。
その中の１体を覗き込んだアイルは、思わず顔を背けた。
なぜならその１体は、もはや顔の半分が白骨化していたからだ。
こんな状態になってもまだここにいるというのか……アイルは信じられなかった。
同時に、自分やアデルもこうなってしまうのではないか、という不安に捉われ、
アイルはもう１度アデルに話しかけた。
「アデルさん目を覚まして！ こんなとこすぐに出―――」
その時、アイルの頭の中に声が響いた。
（残念ですが、彼にはもはや自意識はありません）
「――！？ 誰？」
（伝えたいことがあります……どうぞこちらへ）
頭の中で響く声がそう言うや否や、通路の突き当たりにある扉がゆっくりと開いた。
アイルは不安に捉われながらも、その扉の中へと踏み込んでいった。
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小部屋の中に、銀色に輝く女性型の“金属人形”が立っていた。
……いや、アイルの直感が正しければ、この金属人形も恐らくは人間なのだろう。
ただし、アイルやアデルと違っていることがあった。
それは、全身を完全に包み込んでいることだった……もちろん、頭部さえも完全に。
そのためか、外観は金属製のロボットやアンドロイドとまったく見分けがつかない。
その銀色の女性型金属人形（？）は、ゆっくりと動き出し、アイルに向かって語りかけた。
その声は女性的なものだったが、電子的に合成された音声に思えた。
「私は、ザナといいます……あなたの名前は？」
「……アイル。 アイル・レティエル」
「初めましてアイル、さぞ驚かれたでしょう？」
「……そりゃ驚くよ。 これは一体何なの？ あんたも人間なの？」
「ここは3,570年前に放棄された、タイランタ銀河連邦の軍事基地なのです」
ザナと名乗るこの銀色の“女性型機械人形”によれば、
この施設は3,500年以上も前に建設された軍事基地の“遺跡”であり、
当時連邦軍が開発した新兵器“ゼクローム・システム”を保管するものだったという。
そしてザナは自身もまた、かつては人間だったとアイルに打ち明けた。
「……この鎧はゼクロームっていうのか……それで、あんたは3,570年も生きてきたの？」
「厳密には、私の人間としての体はもう残っていません……骨格を保持するフレーム以外は空なのです」
「……どういうこと？」
「今の私は、人間の肉体が残っていた頃に、脳が持っていた情報から形成された擬似的な人格なのです」
「……よく分からないけど、凄いね」
更にザナは、間もなく自分が機能を停止するとアイルに告げた。
「それでも、このボディが有機組織を失ってからもう1,000年が経過しました……じきに私は機能を止めるでしょう」
「それって死ぬってこと？ でも、この基地には頭のない金属人形……そのゼクロームがいたけど？」
「私が体を失って1,000年活動できたように、彼らも宿主となる有機体がなくても、100年以上は活動できるのです」
「……だったら、わざわざ人間を取り込まなくても、全部機械のロボットを作ったらよかったのに」
「有機体を宿主とすることで、順応性と戦闘力を数倍に高めることが出来るようです。
……詳しくは私も把握しておりませんが」
「ちょっと待って……ってことはもしかして……この鎧は脱げないの？」
「残念なことでしょうが、正解ですアイル……１度融合したゼクロームスーツは、基本的に除去できません」
そう言ってザナは、ホログラム式のミラースクリーンを投影した。
真紅の鎧を纏った、アイルの全身像がミラースクリーンに浮かび上がる。
顔立ちこそ元の自分と同じだが、体形はまったく違う真紅の鎧戦士がそこに立っていた。
関節部は細く引き締まって幾つかの軸にまとめられ、あたかも機械のよう。
顔にもコード様のパーツが食い込み、皮膚は灰褐色に変色してやや光沢を放ち、
茶色だった頭髪は薄い黄土色に変色していた。
自分の現状を見せ付けられて、アイルはうつむき加減になる。
「そうか…………脱げないの、か………」
「あなたの場合特に、融合後に骨格も変形しておりますので、無理に除去すれば死につながるでしょう……
今の体形にするために、筋肉組織も引き伸ばされ、生まれた隙間に分子機械の人工組織が入り込んでいるはずです」
「……そう言えば……アデルさんは自我を失ったのに、僕はどうしてそのままなの？」
「それは、アイルが特別な機体と融合したからです……そのスーツは指導者のものなのです」
「何故―――僕なの？」
アイルの問いに、ザナはしばらく沈黙したが、やがて声のトーンを変えてゆっくりと語り始めた。
「アイル……あなたに是非、託したいことがあるのです……私が止まる前に」
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| （第２話に続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に執筆したエピソードだが、原案は1990年代に遡る。
“プロテクター萌え”嗜好のあるG-maの趣味を詰め込んだ“装甲強化兵”が主役のドラマであり、
遺跡化した過去史の基地からドラマが始まるというアイデアも、実は1990年代にほぼ確立していたりする。
それを現在の文体で小説化したものだと言って良いだろう（笑）
なお2020年代に再々編しており、その際に１部の設定や表現を少し弄っている。
（原文は独立したプロローグがあったが、再編に際して１話の中にまとめることにした）
プロテクターがパワードスーツのように融合する人間を取り込むというビジュアルが独特であり、
ＭＣＵのアイアンマンなどを連想するが、それよりもずっと前から脳内で確立していたイメージである。
より純粋なサイボーグのアイデアとして、この直前にゼルトロイドの原風景となったアイデアもあったのだが、
「直接現場で融合する」というアイデアが閃いたことで、独自化が進んだところはあったと思う。
ただ直接のモチーフではないが、メカが独自に人間と同化融合するというビジュアルは、
『ＡＫＩＲＡ』や『銃夢（アリータ）』に影響を受けた部分が、多少ともあったかも知れない。 |
