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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E102） |
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夕闇が濃くなる朝陽市。
その南西部一帯が、セピア色の土煙に覆われていた。
今から数十分前、ここで大規模な爆発が起きたためである。
爆発によって、上空1,000m以上にも立ち上る巨大な“キノコ雲”が形成され、
“爆心地”から半径１ｋｍほどは今も、濃い土煙の中にあった。
幸い……この辺りは港湾の外れで寂れた古い倉庫が多く、住宅の類はほとんどないが、
その倉庫の多くが今や、倒壊したり、捻じ曲がって変形していた。
敷地内に生えている樹木は根こそぎ横倒しになり、その１部には火がついている。
それは明らかに、ガス爆発や化学燃料の火災の類ではなかった。
結論から言えば――ここで“核爆発”が起きたのである。
広島型の原子爆弾の100分の１以下の小さなものだが、それでも半径１ｋｍの領域を破壊し、
無視できない濃度の放射能汚染をもたらす威力を持っていた。
この爆発がここで起きたことは、不幸中の幸いであったと言えるだろう。
もしも爆発が朝陽中央駅などで起きていたら、優に数千人の犠牲者を出したはずである。
数十分前まで“爆心地”には、３階建ての古い倉庫が建っていたが、今や跡形もない。
その玄関にかけられていたはずの看板は、数百ｍ離れた別の倉庫の屋根に突き刺さっていた。
捻じ曲がって変色した看板の残骸には、“新朝陽興業”と書かれている。
それは――センターＤの、表向きの名前であった。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１０章 解き放たれた革命 ★
第２話 失われたセンターＤ
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土煙に覆われた爆心地で、何かが動いている。
小さなものでも核爆発が起きた場所である……少なくとも人間でないことだけは確かだ。
木端微塵になった倉庫の残骸が、不気味に揺れている……だが、風ではない。
いやそよ風程度で、数百ｋｇはあろう鉄骨の残骸が、こんなふうに揺れるはずもないのである。
間もなく――ガランッ、と捻れた鉄骨の１本が乱暴に倒れ込んだ。
視界の不明瞭な土煙の中で、ゆっくりと１つの影が持ち上がる。
それは銃鉄色の体を持つ、金属の怪人――アイガーだった。
着ていた服はボロボロに破れて半ば焦げ付き、ズボンの１部しか残っていない。
アイガーは残骸の中でよろよろ、と立ち上がるが、間もなく力尽きるように倒れ込んだ。
先ほど鉄骨が倒れたのに負けないくらい、大きな音が響く。
それでもアイガーは体を起こそうとする……意識が朦朧としているらしい。
核爆発が引き起こした、強力な電磁パルスが今も、体内で猛威を振るっているのだ。
それも過去に組織で喰らった電磁パルスとは、比較にならない威力である。
それはアイガーにとってもはや、「痛い」という感覚すら超えていたようだ。
「誰か……誰か、いないのか……生きてるのは、俺だけなのか！」
アイガーはなおもふらつきながら、搾り出すように叫んだ。
すると、その声に応えるように、１０ｍほど先の瓦礫がぐらり、と揺れ動いた。
「生きて……いたか……良かっ――」
破顔しかけたアイガーの表情が、すぐに引きつるようにこわばった。
瓦礫の中から這いずり出したのは、金色の金属怪人――ネメシスだったのだ。
ネメシスもアイガーと同じく足腰がふらついているが、表情は不敵な笑みを浮かべている。
「ど……どうした……もっと喜べ……せっかく……新時代を、迎えたのだから」
「じょ……冗談じゃねぇ……お前は倒れていて、良かったんだよ……」
憮然とした表情のアイガーの前で、ネメシスは鉄骨の残骸にもたれるように立ち上がる。
こちらも服がボロボロだが、爆発前から倒れていたためか、かろうじて原形は保っているようだ。
「つれないこと……言うなよ……ついに、革命が……始まったのだぞ？」
「何が革命だ……馬鹿馬鹿しい！」
「馬鹿馬鹿しいとは、解せんな……この期に及んでも、まだ新時代を理解できんのか……」
ネメシスはそう言うと、再び銀色のサイバーナイフを起動する。
アイガーは小さく、歯軋りの音を立てた。
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地下での激戦を終えたパドルが、朝陽警察署の玄関に姿を現した。
“本来の姿”から再び“擬態モード”に戻っており、腕に傷ついた末留を抱えている。
パドル自身も血まみれになったはずだが、既に傷は塞がっているようだ。
「あれか……」
渋い表情をして眺めるのは、港の外れに湧き上がる黒い煙。
既に“キノコ雲”の形は崩れ、上空部分は風に流されて大きく変形している。
午後７時を回り、日が暮れて薄暗くなってきた晩夏の空は晴れて、不気味なほどに静かである。
“最終計画”を完全には阻止できなかった影響で、環境が変わっているのかも知れない。
「あの……雲の、下に……絵梨が……」
弱弱しい声ながら、パドルに腕に抱えられた末留も、目を細めて黒煙を眺める。
その隣には、機動隊長の前畑が渋い表情で立っている。
「確かに爆発の瞬間、強力な電波を観測しています……しかし本当に核爆発でしょうか？」
「広島型の原爆と比べれば威力は弱いでしょうが、核である可能性は高いでしょうな。
放射能がどこまで広がっているかは分からないが、早めに規制線を張った方が良いでしょう」
「この平和な日本で、核のテロが起きるなんて……」
「今回の相手は普通のテロリストじゃない、あなたたちにとっては核よりもはるかに非常識な方法で、
この朝陽市全体を制圧しようとしたのです」
警察署の前は騒がしい……大規模な“爆弾テロ”が起きたのだから無理もない。
それも今回は駅前テロの比ではない……“超小型”とは言え核兵器が行使された上に、
謎の“石化波動”によって、朝陽市の中心部が事実上、外界から孤立した状態になっているのだ。
それでも“最終計画”が予定通り実施されたのに比べれば、被害は小さかった。
予定通り計画が実行されていたら、この朝陽市中心部も“石化波動”の影響下に置かれ、
末留も前畑も今頃、物言わぬ石像へと変えられていたことだろう。
それこそ朝陽市の住民の９割が、生きたまま石像化されていた可能性が高かったのである。
パドルが地下基地の“制御核”を損傷させたために、市の中心部は難を逃れたが、
組織が強行した“サークル”の起動によって、朝陽市をリング状に取り巻く“石化結界”が生じ、
メタロイドでなければこの結界を突破できない状態になってしまったのである。
結界に気付かずに“リング”内に入った人間は例外なく石化されてしまい、
まだ全ての情報は入っていないが、少なくとも数百人が巻き込まれ石化されたと推測されている。
今すぐには無理であるが、この被害者たちも救助し、可能な限り早く復元せねばならない。
駅前テロの直後、センターＤでパドルやライカが実施したように。
だが、そのセンターＤが“核テロ”で破壊された可能性が高いのだ。
計画の完遂こそ阻止したが、この異常事態の収束には長い時間がかかることだろう。
「もし核爆発なら、現地は放射能に汚染されているはずですが……本当に行くのですか？」
「センターに保護している者たちは、体質的に放射能の影響を受けにくいはずです。
だから間違いなく生きている……ならば是非、会わせてあげたいのですよ。
少なくとも可能な限り、現場に近づく必要がある」
「……分かりました、では部下の隊員に同伴させましょう、彼も“経験者”なので」
前畑がそう言うと、タイミングを合わせて近づいてきた機動隊員が敬礼をした。
どうやら彼も、あの駅前テロでセラフィによって石化された経験を持っているらしい。
彼が運転する警察車両で、破壊されたであろうセンターＤに可能な限り近づくことになった。
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かつてセンターＤだった“爆心地”で、２つの金属怪人が対峙していた。
アイガーとネメシスである……核爆発の電磁パルスのダメージが残るにも関わらず、
ネメシスは腕に形成したサイバーナイフを突き出し、余裕を気取る。
「革命に反対するというのなら……消えてもらわねばなるまい……覚悟は出来てるか？」
「覚悟だったら、とっくの昔に出来てるぜ、脳金野郎！」
迎え撃つように、アイガーもサイバーナイフを起動する。
だがまだその膝は笑っている……ネメシスはそれを見て冷酷な笑顔を浮かべた。
「く・は・は・は……まるで、生まれたばかりの小鹿だｎ――」
――ゴキッッ
「――ぉがっ！？」
突如――背後から強烈な衝撃を喰らい、ネメシスは瓦礫の中に突っ込むように倒れ込んだ。
ひときわ大きな鉄骨の残骸が、ネメシスの頭部を直撃したのである。
（いいからさ……あんたはもうしばらく、寝てなさいって）
そしてその背後に、金色の鉱物娘――コナが立っていた。
いやコナだけではない……１つ、また１つと土煙の中に“色”が増えて行く。
ジュリ、ルミ、ミカ、ルナ、そしてスイにカオル……さらにサラの顔も覗く。
（アイガーさん、無事だったんですね……良かった！）
（ほんと心配したよ、凄い爆発だったから）
「馬鹿野郎共めが……そりゃ、こっちのセリフだ」
（えー、あたしたち、野郎共じゃないもん！）
鉱物娘たちは、全体にやや煤けてはいるものの、アイガーよりもダメージは少ない。
どうやら……センター最奥部にある“被害者保管庫”に、身を潜めていたようである。
この部屋もまた、被害を最小限に抑えることが可能な仕様だったのだ。
建物の外枠は全壊したが、管理人室や保管庫など、ひときわ頑丈な設備は何とか残っていた。
保管庫は天井こそ落ちてしまい、空が抜けてしまっていたが、
壁の１部は爆発の強烈な衝撃波に耐え、避難した鉱物娘たちを守ったのである。
（それにしても……ホント信じられないよ、あれだけの爆発で生きてるなんて）
（石の体じゃなかったら、確実に死んでいたでしょうね……）
（不思議な気分……何だか体の動きが、前より滑らかになった気がする）
（そういえばあいつら言ってたね、放射能で活性化するかも知れないって……なんか皮肉だね）
思い思いに、自分の無事を確認し合う鉱物娘たち。
（あっ、そう言えば、眞希さんや翔子さんは無事でしょうか？）
（そうだ、管理人室だっけ、すぐに確認しなきゃ！）
そう言うと――念話だが――サラたちが瓦礫を越えようと動き出した。
その１方でアイガーは、自分もまだ回復し切っていないが、彼女達に大事なことを伝える。
「ちょっと待った、仮に部屋が無事でも、すぐに扉を開けちゃならんぞ。
核爆発が起きたことを忘れるな……ここは今、高濃度の放射能に満ちているはずだ」
（あっそうか……あたしたちはともかく、普通の人間は危ないよね）
鉱物娘たちが生きていたとしても、ここは“爆心地”である。
生身の人間には、基本的に立ち入れない場所であることを忘れてはならないからだ。
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その頃ライカたちは、別の“規制線”にたどり着いていた。
横断歩道で石化した被害者を発見してから、更に２００ｍほど南に進んだところである。
見通しの余り良くないカーブの先に張られた規制線の先には、
エミや涼子が数分前に遭遇した時と同じように、石化を免れた群集と警官が待ち構えていた。
ライカが運転していたライトバンは、既にまともに運転できない状態であったが、
足腰が上手く立たないオーラたちや、横断歩道の被害者をそのまま放置できなかったことから、
サイドブレーキを降ろした状態で、手押し車の要領で規制線の側まで持ってきていた。
横断歩道の被害者は、ライカたちに出会った後奇跡的に意識を取り戻しており、
オーラたちと同じくライトバンに乗せて、規制線まで連れて来ていた。
「……驚きましたな、声を出せる被害者がいるとは」
「えぇまぁその、どういうわけか自分は大丈夫だったみたいですの」
戸惑いの表情を浮かべる警官に、“白銀形態”のままのライカが事情聴取を受けている。
彼女はメドゥアスとの戦闘で傷ついているため、今は“変身”を解除できないのだ。
幸い彼女自身の優れた潜在能力を活かして肉声を出せるため、会話に支障はないのだが、
“普通に会話する白銀の女性像”を、周囲の群衆は信じられないといった表情で眺めている。
そしてその先……規制線の手前に止められたライトバンの周囲には、ルイやユウ、瞳や春海の姿。
こちらは声を出せないが、一般人から見れば“動く石像”に変わりはない。
緊張をほぐすために愛想笑いをして見せても、返って驚かれる、という状況を繰り返している。
とりわけ瞳の笑顔は愛想笑いというよりも、今や苦笑に近くなっていた。
（……何をやっても驚かれますね）
（仕方ないよ、石像が動いてるだけでも、普通の人に取っちゃ非常識だから）
（翔子さんがどれだけ冷静だったか、こういうのを見てると分かるよねぇ）
（そう言えば、センターのみんな、無事かなぁ……石の体だから、丈夫だと思うけど）
（すいません……私が、動けたら……誤解を、解けるかも……知れない、のに……）
これは意識を取り戻した横断歩道の被害者だ……まだ動くことは全くできないため、
オーラやレイアが背後からその体を支えている。
（動けても、声が出せなかったら伝わらないかも知れませんよ？）
（あ、そうか……そ、そうです、よね……）
（気を落とさないでください、こうやって意思疎通できる相手がいるだけで十分です）
（その代わり、人間に戻ったら私たちを誤解しないでくださいね？）
（あっ……もっ、もちろんです！……皆さんも、被害者……なんです、よね？）
「あの“爆心地”に、向かうというのですか？」
「私たちの大切な人があそこにいるんです……少しでも早く安否を確認しないと」
「失礼ですが……あれだけの爆発では……」
「私たちと同じような状態のはずなので、死んではいないはずなんですよ。
それにこの体なら少なくとも、２次災害で重傷を負う可能性は低いですからね」
ライカの訴えに、巡査部長らしき中年の警官は渋い表情を浮かべて沈黙する。
確かに警官が会話している相手は、銃で撃たれても平気そうな“白銀の美女”であるが、
朝陽警察署からの臨時通達を無視することは、立場上出来なかった。
警察署の通達は「１人でも多くの市民を爆心地から遠ざけ、市の中心に集める」ことだった。
２次災害を防ぐには、今はそれ以外にどうにもしようがなかったのだ。
「全員とは言いません……せめて、自分１人でも許可願えないでしょうか？
後ろにいる彼女たちはそちらの仰るとおり、市の中心部に案内して頂いても構いません」
（ちょっとライカさん、あたしたちを置いて行くって言うんですか！？）
（そうだよ、俺たちもみんなの安否を知りたいし、残されても言葉が通じないんじゃ……）
「でも警察の人の指示を無視して行動するわけには行かないわ。
それに、少なくとも自由に動けない人は、しっかり保護してあげないと」
「む、ちょっと待ってください……今、署から連絡が。
どうも署の方から、爆心地の近くまで行く車両が１台、出るようです」
ふと、巡査部長がライカにそう言った……“調査隊”が出るというのだ。
ライカは即座に、その内容を理解した。
「もしかしてその車両に、背の高い金髪の男性が乗っていませんか？」
「……ではあなたも、その男性のお知り合いということですか？」
「“彼”がいるのなら、話が通じると思います……通信機をお借りできないでしょうか？」
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“爆心地”へと向かう警察車両は、朝陽警察署から出発した１台だけではなかった。
市の北東部から更に１台、南西部に向かって走るパトカーがあった。
中には“キャリア”の警官と、エミと涼子が乗っていた。
警官は自らハンドルを握りながら、しきりに無線機でやり取りをしている。
市の外側への通信は今も回復していなかったが、市内の通信はどうやら可能だったらしい。
エミは後部座席で、不安な表情を浮かべて、風に流される黒煙を眺めている。
隣に座る涼子も不安な表情だが、エミほどではない。
（エミお姉ちゃん……きっと、大丈夫だよ）
（分かってる……ううん、絶対無事なはず、みんな頑丈な体だもん）
「センターの目の前までは行けないかも知れない……それでも構わないんだね？」
（はい、行けるところまでで良いです、そこから先は歩いて行きますから！）
「分かった……でも無理はしないように…… む、あれは何だ？」
その時――ふと、警官が何かに気付いた。
朝陽港に向かう市道の先に、局所的にだが灰色の煙が立ち込めている。
その周りを人垣が取り囲んでおり、警察のオートバイが２台ほど、停車していた。
それは道路を塞ぐように横倒しになった、大破したヘリコプターだった。
「あれはまさか、テレビ局のヘリか？ ……こんな時に墜落事故なんて、厄介ごとばかりだ」
走ってくるパトカーに気付いたオートバイの警官の１人が、駆け寄ってくる。
「ご苦労様です、今この道はご覧の通り、通行できません」
「ヘリに乗っていた人は、救助したのですか？ 見たところ、救急車が見当たりませんが」
「市のあちこちでトラブルが起きているようで、間に合っていないのですよ……それに……」
オートバイの警官は、戸惑いを隠せない……妙なものを見たと言わんばかりに。
“キャリア”の警官とエミは、それが何かすぐに分かった。
「まさか……ヘリの乗員は、“石になっている”のではないですか？」
「えっ、どうして分かるのですか！？」
（やっぱり……あの“波動”の被害を受けたんだね）
果たして……墜落したヘリの中で、パイロットとリポーターが、石像と化していた。
あの大爆発や“電波障害”を取材すべく、市外のヘリポートからヘリを飛ばしたのだが、
“石化波動リング”を超えた瞬間に、やはり巻き込まれてしまったのだ。
そう……ライカたちが運転していたライトバンと同じように。
「参ったな……これじゃ、先に進みたくても進めないぞ」
パトカーの警官は、今日何度目かの溜息を吐いた。
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再び――破壊されたセンターＤの“爆心地”。
爆発の衝撃から立ち直ったアイガーやコナたちが、瓦礫を掻き分けていた。
センターの建物の大部分は粉々に吹き飛んだが、先述の通り残った設備もあり、
こうした設備に引っかかる形で、残骸が小山のように積み上がっている場所があったのだ。
この“残骸の山”の下に、眞希やエリが隠れていた、管理人室が埋もれているはずだった。
残骸が積み上がっているということは、管理人室自体は無事なはずだ。
“核爆発”が起きた地下室から、１０ｍと離れていない場所だったが。
その地下室は抉られるように崩壊し、陥没したような大穴が深く開いている。
爆発の衝撃波はまず床を吹き飛ばして上へと吹き上がり、続いて水平に拡散して建物を壊した。
“キノコ雲”はこの時の“上昇気流”で生まれたものである。
灯りがほとんどない暗がりの中で、アイガーを先頭に作業が進む。
やがて積み重なった瓦礫の奥に、捻れた取っ手が姿を現した。
「こいつだ……やはり、この部屋は破壊されていない。 どんな構造か知らんが、凄まじいな」
（期待が持てそうね……あとはどうやって救出するか、かな）
しかし捻じ曲がった鉄骨が、拘束具のように巻きついており、扉は開きそうにない。
もっとも今この辺りは放射能に満ちているはずだから、返って都合が良かったのかも知れない。
コナがその取っ手の上で、軽くリズミカルなノックをする。
戦闘勃発前、打ち合わせた“合図”の１つである。
間もなく……扉の向こうから、同じノックがリズミカルに返ってきた。
コナの金色の顔が、思わずくしゃくしゃの笑顔に満ちる。
（生きてる！ ……良かった、ホントに良かった！ ……ねぇ、誰か返事して！）
（コナさん！？ 無事だったの？ リンだよ、凄い……夢じゃないよね！？）
念話で返答したのはリンだった……コナは思わず、ガッツポーズをする。
（夢じゃないよ、みんな何とか生きてる……そっちはどう、エリさんや眞希さんや翔子さんは？）
（大丈夫……眞希さんと翔子さんは気を失ってるけど、全員無事だよ！）
（凄い、みんな無事……良かった、あたし今嬉しくて泣きたい！）
コナの体が興奮して、カタカタと震える……石像の体では「泣くことはできない」が。
（でも扉が開かないの……今そっちはどうなってるの？ 早くみんなの顔が見たい！）
（センターは壊れちゃった……瓦礫の山ね。 アイガーさんが、しばらく開けない方が良いって）
（原爆の……親戚みたいな爆弾だって……翔子さんが言ってましたから……それが良いですね）
（今のエリさん？ また言葉が滑らかになったみたい、良かった！）
「まずはひと安心だな……さて、ここからどうするか……あの男と女に早く戻ってもらわんとな。
でないと扉を開けられんし、ネメシスたちの復活も気が抜けん」
捻じ曲がった鉄骨の上に腰掛けながら、アイガーが空を振り仰ぐ。
“キノコ雲”が崩れた黒煙は風に流され、ちらりと灰色の雲と星明りが見えた。
「新時代の始まり、か……全く俺も、とんだ因果を背負ったもんだぜ……なぁ、ホルス？」
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「申し訳ない……我々が行けるのはここまでです」
「十分ですよ、ここからならすぐに、現場の近くに行けるでしょう」
朝陽警察署を出発して１５分後……パドルらを乗せた警察車両は、朝陽港の西部にいた。
救急車と同じ設計で、後部席に設置したストレッチャーの上に末留が寝ている。
現場には規制線が張られている……ちょうど、爆心地から半径１ｋｍの位置だ。
防護服を着た機動隊員の手にはガイガーカウンターが握られており、ガリガリと音が響く。
「警部はここにいてください……私が行って、娘さんを連れてきます、それまで頑張って」
「……わ、かり……まし……た……」
末留の声はますます弱弱しくなっている……時折パドルが“霊気”を送るが、
衰弱を止めることはできない……いよいよ持って、風前の灯になってきたようである。
末留にもう１度霊気を流し込み、パドルは規制線を潜って、センターへ向かう細い道に立つ。
そしてすぐに走り出した……プロの陸上選手を追い抜くような速度で。
（――パドル、聞こえる？ 今どこに来ているの？）
走っている最中に、念話の“通信”が入った……ライカからだ。
実は数分ほど前に警察車両の無線でも会話しているが、今度は“直接回線”である。
（センターから５００ｍほどだな……もうすぐ現場を確認できるだろう。
もし規制線の近くに行けるなら、お前から末留警部の様子を見てくれないか？）
（さっき危ない状態だって言ってたわね……でも、今はあたしにも出来ることは少ないわ。
本来の形態じゃないから、癒しの霊気もそんなに強くは出せないの）
（分かっている……可能な限りで良い、警部も既に覚悟は決めているからな。
せめて娘さんと会わせてやるまで、持ってくれたら良いんだ）
（分かったわ、そっちは任せたわよ）
“通信”が終わると、パドルは更にスピードを上げた。
まるでオフロードのバイクのように、路上に散らばる瓦礫を飛び越えて走り続ける。
“爆心地”に近づくほど瓦礫は増える……間もなく、道路が見えなくなった。
パドルは再びテレパシー波を送る……今度はセンターに向けてだ。
（パドルだ……みんな無事か？）
（――待ちくたびれたぜ金髪、さっさと来やがれ、こっちは大変なんだ）
最初に応答したのはアイガーだった……すぐに他の鉱物娘たちの言葉が混じる。
（パドルさん！ 良かった、そっちも無事だったんですね！）
（こっちも色々大変だったけど、何とか全員無事です、奇跡ですよこれ！）
（厳密には全員、ではないがな……ホルスが先に逝った。 組織の奴を１人、道連れにしてな）
興奮する鉱物娘たちの言葉に、アイガーが訂正を入れる。
心なしか、寂しそうな感情を含んでいたのは、気の所為ではなかっただろう。
（そうか……あいつには悪いことをしたな）
（俺達は裏社会の戦士だ、いつでも死ねる生き方をしてきた、気にするな）
「まったく……大した奴だよ、お前たちは」
パドルの視線の先――１００ｍほどの距離で、コナたちが元気に手を振っていた。
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“作戦開始”から約２時間後。
跡形もなくなった“本拠地”の残骸の前で、パドルと鉱物娘たちは再会した。
（お帰り、パドルさん！）
（ごめんなさい……センターを破壊されてしまいました……でも何とか無事です）
（翔子さんたちは管理人室にいます、眞希さんも無事です！）
「そうか……済まなかったな、こんなことになるとは予想が追いつかなかった」
「俺も連中が“核”まで持ち出すとは思わなかった……予想できるはずもねぇさ」
「それで……襲撃者たちは逃げたのか？」
「あいつらか？ いや、瓦礫の下でまだ寝てるぜ、まだ全快には遠いだろうよ」
パドルの問いに、アイガーがアゴを捻って答える。
確かに……あの爆発以降、瓦礫から這い出てきたのはネメシスだけだ。
そのネメシスも“瓦礫の１撃”を喰らって、再び瓦礫の谷底に墜ちてしまった。
だがそれでもまだ、死んではいないだろう……だから油断は出来ない。
“爆心地”の真っ黒な大穴には何も残っていない。
あの瞬間、ここにはホルスとアリエルがいたはずだが……さすがに耐えられなかっただろう。
幾らメタロイドでも、ゼロ距離で核爆発を喰らえば、蒸発するに違いない。
「出来ればじっくり弔ってやりたいが……実はこっちも急いでるんだ」
「連中の最終計画とやら、阻止できたんじゃないのか？ ここに戻って来たってことは」
アイガーの問いに、しかしパドルは失笑するように首を振った。
「最悪の事態は回避した……だが、部分的に計画を強行されてしまった。
奴らは朝陽市全体を石化する気だったようだ……あの旧奥沢村の事件のようにな。
その影響が街の外縁部に今も残っているようだ」
「そんなこと考えてたのか、セラフィたちは……なるほど、革命とか持ち上げるわけだぜ」
「組織の中心部にあった制御核は俺が損傷させたから、全体石化にはならなかったが、
外縁部に子機があったようでな、その所為で今この街は孤立している。
それと……末留警部が巻き込まれて重態だ。残念だが……もう長くはないだろう」
「末留……確か、その娘の可能性のあるやつが、ここにいたな」
アイガーはそう言って、複雑な表情で瓦礫に埋もれた管理人室の方を見やる。
「だから急いでるんだよ、何とか彼女に、父親の最期を看取らせてやりたい」
（エリさんのお父さん……やっぱり、あの刑事さんだったんですね）
（でも……今管理人室を開けるわけには……）
アイガーの背後で聞いていた鉱物娘たちも、渋い表情を浮かべている。
皆が、エリを危篤状態の末留に会わせてやりたいと考えていたが、
それは今管理人室を開け、“生身”の眞希を被曝させることを意味しているのだ。
だがパドルは、意外なことを口にした。
「その話だが……数分程度なら、被曝を防げるかも知れん」
「ホントかよ！？ この放射能をどうやって遮蔽するっていうんだ？」
「俺の念動で、時限的な結界を作るのさ。長くは持たないが、数分あれば十分だろう」
（えーっ、パドルさん、放射能を防ぐ能力とか、持ってたんですか！？）
（あ、でもそう言えば、今も平気にしてるよね……）
（普通の人じゃないことは、動けるようにしてくれた時から気付いてましたけど……）
そして驚く鉱物娘たちの目の前で、パドルは再び“本来の力”を開放した。
体格は変わらないが、色白で耳が長い“宇宙人”本来の姿に。
アイガーや鉱物娘たちは思わず目を見張る……彼女達には“初公開”の姿だったからだ。
セピア色の暗い廃墟の中で、その体が神秘的な淡い光を放っている。
（うわ、なんか変わった！？）
（凄い……よく分からないけど、ちょっと綺麗かも）
「……それがお前の本当の姿ってワケか」
「こんな状況だしな……それに、お前達にはもう、隠す必要もないだろう」
そう言って、パドルは管理人室に向かって手をかざした。
メキメキと音を立てて、管理人室のドアに絡みついていた鉄骨が引き剥がされる。
「マジかよ……俺の攻撃が、まるで効かなかったワケだぜ……」
「この際だ、他に避難している者も全員救出しよう、全員で街の中心部に行くんだ」
「まだ動けていないやつが、奥の部屋にいたはずだが？」
「管理人室の者たちを放射能圏外に送った後、トラクターでもチャーターするよ」
（でも街の中心部に行くってことは……あたし達の姿が見られるってことじゃ？）
コナがわずかに戸惑うような表情を浮かべる。
いやコナだけではない……鉱物娘たち全員がそうだった。
元人間としての自覚があるからこそ、自分達の姿が“非常識”だと分かっているのだ。
しかしパドルは、別の考え方を持っていた。
「今となっては隠す必要がなくなった……むしろ公表した方が良いと俺は思う。
街の外縁部で同じ事態が多発しているから、非常識でも受け止めざるを得ないはずだ。
心配だろうが、お前達の境遇を理解してもらえる、最大のチャンスでもあるんだ」
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| （第１０章第３話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2015～2017年頃に草稿を作成したエピソード。
数年ほどの“放置期間”を経て、再び執筆再開した最初のエピソードである（苦笑）
ただし破壊された“センター跡地”でアイガーたちが生きていることは既に確定していた。
そしてこの後、“被災地”となった朝陽市に、鉱物娘たちが“デビュー”することになる。
センターＤ決戦ハイライトの結末は試行錯誤の連続であったが、
「鉱物娘たちが市民と共存する未来」への流れは元々意図していたものなのだ。
そしてそれは「異種族と共存」するＧＤＷ世界観の銀河社会のコンセプトとも相通じるのである。 |
