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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E103） |
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朝陽市の中心部から、やや南にある臨海地区。
官庁街からフェリーターミナルに向かう、１ｋｍに満たない通り沿いの地域であり、
準ウォーターフロントのマンションが建ち並び、広い公園も存在する。
その公園“朝陽市中央公園”に、数百人――いや、千人を超える市民が集まっている。
既に陽が落ち、中央公園には臨時の明かりが幾つもつけられ、非常用のテントが張られていた。
市民は公園の中には到底入り切らず、周囲の通りにもはみ出している。
もっとも今、ここいらの通りは実質的に封鎖され、“歩行者天国”状態であるが。
“非常事態”なのだから、このぐらいの措置は止むを得ないだろう。
メドゥアスが強行した“最終計画”の発動から約３時間。
朝陽市の市民たちは、常識を超えた大異変を前に、混乱に満ちた最初の夜を迎えつつあった。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１０章 解き放たれた革命 ★
第３話 逝く者と蘇る者
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（ルイさん――無事で良かった！）
公園に張られた大きなテントの１つで、全身真っ赤な少女に全身緑色の少女が抱きついた。
今さっき、再会を果たしたばかりのルイとエミである。
その横にはユウ、春海、瞳、ライカ、そしてエミと一緒に来た涼子がいる。
（エミちゃんも無事で良かった……あの、えーと……お母さんは？）
（まだ帰宅してないんです……もしかしたら、近くまで来ているかも知れないけど）
（そっか……まぁでも、あの“異変”に巻き込まれなかったんだったら、良かったよね、うん）
テントは周囲にブルーシートが広げられ、外の風景と遮断されている。
言わばここは……“鉱物娘専用”の待避所になっているのだ。
既に１００人を超える市民が、彼女達の姿を目撃しているのだが、それでも配慮は必要だろう。
（そう言えば……サラさんたちは？ センターから避難してきたって、さっき聞いたけど）
「今放射能の除染処理を受けているみたいね……何しろ爆心地にいたわけだから」
これはライカだ……まだ“白銀娘”状態から復元できていないが、肉声で喋ることは出来る。
隣にいるユウが、複雑な表情で腕を組む……瞳や春海の表情も不安げだ。
（石の体とは言え、良く生きてましたよね、サラさんたちも……ほんと、凄いことになったな）
（核爆発って聞いたけど……センターが壊されたぐらいで、よく収まりましたよね）
「超小型の爆弾だったみたいね……それでも地下で爆破しなかったら、もっと被害があったはず」
（それで……こっちの人たちが、“異変”の被害者ってことね）
ルイが首を振った先には、１５体を超える、見慣れない“石像”の姿。
こちらの石像たちは服ごと変化しており、ルイたちのように動くことはない。
そう――メドゥアスの“狂気”に巻き込まれた、朝陽市の新たな被害者達である。
今ここに収容されているのは１５体余りであるが、実際にはこの１０倍では利かないはずだ。
先ほどエミが目撃した、墜落したヘリに乗っていた取材チームも含まれている。
そのうち１人は、メドゥアスの本拠地から脱出したルイたちによって保護され、意識を回復した。
まだ自分の意思では動けないが、ここにいる新たな被害者では唯一、意識がある。
アクアマリン色の石像と化した彼女は先ほどルイたちに、自分の名を“アケミ”と名乗った。
（あの……この人たちは……まだ生きているのでしょうか？ 何も……聞こえないんですが）
アケミの表情は石化直後から変わらないが、その意識は既に活発である。
この辺りは自力で動けないことを除けば、駅前テロで被災した時の瞳によく似ている。
（石化のショックで気を失っているだけだよ、すぐ意識が戻ったあなたの方が珍しいくらい）
（そ、そうなんですか……）
アケミの問いに答えたのはオーラだ。
保護直後は服を着ていなかったが、今はバスローブのようなものを羽織っている。
パイプ椅子では彼女の質量に耐えられないため、積み上げたブロックの上に腰掛けている。
その隣で、レイアやアクアも同じように、バスローブ状のものを着て座っている。
（大変なことになったけど……何だろ、ちょっとほっとした気分）
（きっと、あいつの支配から、解放されたからだろうね……）
「そういうことよ、だから安心して、もう２度とあんな目に遭わせたりしないから！」
ライカはそう言って、銀色の顔でにこり、と笑った。
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ルイたちがいるテントから、１００ｍほど離れた中央公園横の駐車場。
破壊されたセンターＤから避難してきたサラや翔子たちは、この駐車場のテントにいた。
超小型とは言え、“核爆発”が起きた爆心地から来たため、放射性物質の粉塵にまみれており、
除染処理を受けなければ、ルイたちと合流することが出来ないからだ。
駐車場は全面的に閉鎖されており、被災者の車もここに停めることは出来ない。
市民からは不満の声も出たが、不要な被曝者を増やさないための措置で、止むを得ないのだ。
除染処理は最も奥に置かれた非常用のシャワー設備で、もちろん周囲はブルーシートで囲まれる。
街が“異変”で孤立していることで、自衛隊の専門部隊は入ることが出来ないため、
こうした除染設備も知識ある者の意見を聞きながら、警察と消防が見様見真似で整備したものだ。
その臨時除染所の、すぐ隣のテントで、翔子と眞希が雑談している。
もちろん翔子は“大理石娘”状態のままで、まだ人間体を回復できていない。
そのため眞希と会話するために、お互いの手をつないでいる。
翔子のような“変身能力”まではないが、眞希も今や“キャリア”の資質を持っているのである。
２人の前にはサラもいる……さっき、除染処理を終えたばかりだ。
３人ともバスローブに似た大きな布を、背中から羽織っている……オーラたちと同様に。
実は翔子以外は今、服を着ていない……除染のために脱ぐ必要があったからだ。
今がほぼ真夏だったのは、不幸中の幸いであっただろう。
（……変な気分だわ、服を着たままシャワー浴びることになるなんて）
「仕方ないよ、その状態だと脱げないんでしょ？」
（どうもそうなのよねぇ、張り付いたみたいになっちゃっててさ）
「でも何だかこの部屋、蒸し暑いよね……あたしもぉ汗だくで、ダイエット出来そうｗ」
（何でも放射能のチリが、飛散しないようにするための配慮なんだってねぇ）
（そうなんですか……翔子さんって物知りなんですね）
（やだなぁサラさん、さっき聞いたことを言ってるだけだよあたしも）
翔子の灰色の顔が恥ずかしそうな表情を浮かべる。
その時、奥の除染用シャワーコーナーでバサッ、と音が響いた……また１人、終わったらしい。
間もなく、バスローブ状の布を羽織った金色の鉱物娘が、姿を現した。
（コナさんお疲れー♪）
（いやー、さっぱりしたわぁ、見て見て、湯上りぴっかぴかｗ）
「ちょっ、コナさん、見えてる見えてる！？」
コナの大胆なリアクションに、眞希は思わず顔を覆った。
隣の翔子やサラも、思わず苦笑いの表情を浮かべる。
（コナさんは相変わらず、大胆だなぁ）
（んー、やっぱりそうかな……でも実際、１年近く何も着てなかったわけでしょ？）
コナが言っているのは、メドゥアスのラボで“陳列”されていた頃の話だ。
強制的に石化処理を受けた彼女は、そのまま実質的に放置され、そして意識を失った。
“今はなき”センターＤで意識を取り戻したのは……実際に１０ヶ月以上、後のことである。
（でもコナさん、動けるようになったら、恥ずかしさの感覚が戻ってきませんでした？）
（みんなそう言うよね……あれ、あたしって人間時代から露出好きだったのかな？）
今度はコナが苦笑いの表情を浮かべる……翔子と眞希は、複雑な表情を浮かべた。
コナの態度は実にあっけらかんとしたものだ……しかし彼女もまた“被害者”なのである。
人として生きる道を断たれた事実の“重さ”は、理屈では語れないはずなのだ。
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その“退避コーナー”のすぐ隣に、灰色の鉱物娘がいた……エリだ。
やはり除染後のバスローブ状の布を羽織り、用意された車椅子に腰掛けている。
エリも“生きた石像”のため相応に重いものの、車椅子を破壊するほどの質量ではなかった。
またエリはまだ、自分の意思で歩くことは出来ないのも、理由の１つである。
驚異的な速度で回復しているとは言え、それなりに動くのはまだ、腕ぐらいなのである。
そんなエリの前に、ストレッチャーに横たわった壮年の男性――末留一郎だ。
ラボでクリスタに刺され、出血多量で重態になっている……もう長くはないと見られている。
それでも致命傷に等しい傷を押して、この２時間以上、強靭な精神力で耐えてきた。
２年以上前に行方不明になった１人娘――絵梨の姿を見届けるために。
「おぉ……絵梨……絵梨なんだな……」
弱弱しい声で呟くように言う、末留の視線の先に、車椅子に腰掛けたエリがいる。
エリはまだ表情を変えられないが、石化された時の苦悩の表情が、奇しくも場の空気と被る。
ゆっくりとだが、何度も頷くエリ……彼女はまだ、これ以上早くは動けないのだ。
（お……お父さん……ごめん、ね……こんな、姿で……）
鉱物娘のエリは……確かに末留の娘・絵梨だった。
末留が見上げる灰色の鉱物娘は、クリスタに支配されていた時に見た、娘のそれだった。
そしてエリもまた……末留と同じ記憶を、思い出していたのである。
末留は震える手を、エリの方へと伸ばす……苦しそうな息が、更に不規則になる。
エリはすぐにでもその手を握り締めたいが、残酷にも心で思うほど、体は早く動かない。
ゆっくりと腰を曲げ、肩を上げ、肘を曲げ……父の掌に近付けるまで、１分はかかる。
「む、無理……しなくて……良いんだ……本当に、済まな……かった……」
（お父さんの……所為じゃ、ない……悪いのは、あいつ……お父さんは、悪く、ない……）
そして間もなく――２人の手が重なった。
（あたしは……生きてる……こんな、姿だけど……大丈夫……）
「絵梨？……おぉ、聞こえる……お前の、声が……もう、２度と……聞けないと……」
クリスタの憑依経験が、鉱物娘とのコミュニケーションに、チャンネルを開いたのか。
愛娘の“心の声”を感じ取った末留の目から、涙が溢れた。
（ごめんね……冷たい、手で……でも……生きてる、から……）
「とんでも、ない……ひどい、父親だ……でも、やっと、会えた……パドル殿……」
末留の視線がエリから数秒離れ、部屋の隅に無言で立つ、パドルを捉えた。
「あなた、には……感謝、しか、ない……」
「何を言われる。 あなたの想いが、運命を結びつけた。 全てあなたの業であり、そして功績です」
神妙に首を振り、目を細めながら、パドルは言葉を返した。
「申し訳、ないが……最後の、わがままを……聞いて、頂けますか……？」
「……何です？」
「私を……起こして、欲しい……娘を……絵梨を、今１度……胸に……」
「お安い御用です」
パドルは音もなく末留に歩み寄り、背中に左手を差し込んで、助け起こした。
そしてそのままストレッチャーを右手で押し、エリの上半身へと近付ける。
「エリ、父さんを抱き締めてやってくれ、出来る範囲で良い」
エリはこくり、と頷き、再びゆっくりと、上半身を傾けた。
パドルが末留の右手を持ち上げ、エリの肩にかける……エリも必死で、下から支える。
１分ほどかけて、ぎこちないながらも、親子は抱き合う姿勢になった。
「絵梨……こんな、ダメな、父親を……許して、くれるか……？」
（大好きな……お父さん……憎んだこと、なんて、ない……最初から……許してる……）
再び――末留の目から涙が溢れる。
「……ありがとう――」
間もなく――自分の肩に引っ掛けられた、末留の右手が力を失ったことを、エリは悟った。
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数分後、パドルは末留とエリがいる部屋から、ライカらがいる部屋に移った。
“同席”している、ルイやエミたちが、パドルの方を向く。
ライカは銀色の顔でパドルの反応を伺い、パドルは無言で、神妙な表情のまま頷いた。
「そう、やっぱり……私もさっき、“知らせ”があったわ。ちょっと感覚は鈍いけど」
「あれだけの傷を負って、３時間近く持っただけでも由とすべきだろうな……何とか間に合った」
（警部さん……亡くなったんですか？）
言い難いことを、あえて言葉にしたのはルイだ……その表情は重い。
「あぁ……だが最後に娘と再会できた、安らかに逝けたと俺は信じる」
（でも残酷ッスよね……やっと会えたのに）
（どうしよう……あたし、エリさんと顔合わせられない）
（エミちゃんが気負うことないわ、エリさんだってきっと、そんなこと望まない）
エミが悲痛な表情で呟いたのは、自分もまた、１年以上の間を空けて母親と再会したからだ。
そして言葉が通じないハンデはあっても、今一緒に暮らしている。
再会して間もなく、父の死を見ることになったエリの苦悩が、痛いほど分かるのだ。
「全部……あいつら、の……所為……ここの……誰も……悪く、ない……」
たどたどしい言葉を発したのは、ラボで先ほど、保護されたばかりの新たな被害者の１人だ。
紫色の特殊セラミックと思しき組成を持つ、ショートカットの少女である。
パドルが“最終計画”阻止のために乗り込んだ敵の拠点で、発見した被害者である。
漠然とながら人間の頃の記憶が残り、自分の名を“スミレ”と名乗った。
スミレも最初は服を着ていなかったため、やはりバスローブ状の布を羽織っている。
ここに来る際は、パドルの血の付いたジャケットを羽織っていたのだが。
またアイガーのように“２次強化”を受けているためか、肉声を出すことが出来るようだ。
その証拠に、目はサファイアのように青く、爪の先は銀色に染まっている。
（そうだよね、スミレさんの言う通り、何もかもあいつらの所為よ！）
その時“鉱物娘待避所”のテントに、警官の夏服を着た中年男性が姿を現した。
朝陽警察署機動隊隊長の前畑だ……亡くなった末留に次いで、鉱物娘を知る警察官である。
「皆さん、最初のグループの除染が終わったようです」
「ルイさぁ～ん、会いたかった～！」
前畑の横を駆け抜けるように、ローブを羽織った眞希がテントに飛び込んできた。
続いて翔子とサラ、コナ、カオル、そしてアイガーが姿を見せる。
（眞希さん……元気そう、良かった……翔子さんも）
（あいつらがとんでもないことしてくれた所為で、全部公になっちゃったわね）
「組織は元々、こういうことを世界に見せ付ける気だったんだろうよ……革命と言ったぐらいだ」
アイガーは吐き捨てるように言う……自分もまた、相棒のホルスを失ったからだ。
「計画は不完全燃焼に終わったが、世界に衝撃を与えたことは確かだろうな。
駅前テロの時も社会を根底から揺るがすと思ったが……今やもう、その比じゃない」
「けれど皮肉なものね……そのおかげで、ルイちゃんたちが必ずしも珍しくなくなったわ」
（え……そうなんですか？）
小首を傾げたのは春海だ……こちらもまだ“黄金娘”のままである。
「あの組織が朝陽市全体を巻き込んだ所為で、誰もがルイちゃんたちのような、
生きて動く“石化人間”の存在を無視することが出来なくなった……他にも被害者がいるしね」
「やり方は強引で傲慢だが、世界に“新しい経験値”を与えたのは確かかもな」
（誰も望まない方法だったんだろうけど……無視するわけには行かないですものね）
（あら滝川さん、結構冷静なのね？）
（そっか、石塚さんには言ってなかったわね……ＴＶで見たのよ、駅前テロ事件のすぐ後に。
石の体を得たら、人類の視野が飛躍的に広がるって、コメントする人がいたの）
（うわ何ソレ、冗談じゃないわぁ）
「メドゥアスは、それも計画の範疇って言ってたわね……そいつも組織の刺客だったのかも」
「痛みなき革命はない、か……しかしその痛みの重さは、経験しなきゃ分からないんだよな……」
パドルはそう言って、深い溜息を吐いた。
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「ところでパドル殿……新たな被害者の件なんですが」
「あぁ、そうか。 彼らも早く、復元してやらなきゃならないな」
前畑の言葉で、パドルは反対方向に向き直った。
保護された“異変”の被害者は、こうしている間にも、テントに次々と運び込まれている。
この１０数分ほどの間に、その数は数名増え、２０名を超えるほどになっていた。
もちろんほぼ全員――意識を失った“石像状態”なのだが。
とはいえ、“石化波動”の影響は今もなお、朝陽市の外縁部をリング状に覆っているはずだ。
普通の人間がそこに立ち入れば、例外なく石像化されてしまう。
この被害者たちを保護しているのは多分、“キャリア”の警官たちなのだろう。
推定数百人の被害者がいるはずなのに、この３時間でこの数しか保護できていないのもその証左だ。
「これからどんどん数が増えるだろうから、今のうちに処理しておく必要があるな。
ライカ、傷が修復でき次第、協力してくれると在り難いんだが」
「分かってるわ……そうね、もうそろそろ良いかも知れない」
「無理はしなくて良いんだぞ？」
「あんたに言われるまでもないわよ、誰が１番無茶してるのか、知ってるつもりよ？」
ライカの言葉に、パドルは苦笑で返す……確かにこの男も、さっきまで血まみれだったのだ。
そんな２人を横目に、今度はアイガーが前畑に語りかけた。
「前畑、と言ったなあんた……こいつらの確保、キャリアじゃないと出来ないんじゃないのか？」
「キャリア、ってのは石化経験者のことですよね……ならばその通りですね」
「なら俺もそこには行ける理屈になる、手を貸すぜ？」
そう言って、アイガーはメタリックな顔でにや、と笑った……前畑だけでなく、パドルも目を見張る。
「協力してくれるのですか？ そうなると助かりますが……信用して良いのですか？」
「元組織の工作員だったことを心配してるのか？ 既に壊れた組織に従う義理はねぇだろう」
「何だよ……元工作員として償いの心境でもあるのか？」
「てめぇに言われるのも癪だがな……早速大量に被害者を捕まえて、もっと疲れさせてやるよ」
皮肉たっぷりに言い返すと、今度はパドルがにやりと笑った。
「あぁ、どんどん連れて来い、途切れたら催促させてもらうからな」
「そうねぇ、それじゃ早速あたしも、スタンバイしますか♪」
言うやライカの体が淡い光を放ち、銀色の体が薄いレモン色に変わり、次いで人肌に戻っていく。
ライカの“変身”を見たことがあるルイやユウ、春海や瞳以外の者は驚いて注目した。
（うわっ、ライカさんそれ何、一体どうなってるんです！？）
（あぁそーか、カオルはライカさんのコレ、見たことないんだよな、スゲーだろ♪）
（パドルさんもそうだけど、ライカさんも普通じゃないよね……あいや、これ褒めてるのよ？）
（でもこの人たちのおかげですよね……私たちがこうしていられるのも）
「……お２人は、一体……？」
「この世にゃ、常識じゃ説明できないようなことがあるってこった、そうだろ？」
「まぁ……既に常識なんて、あってないような状況ですがね……そうか、自分も歳を取ったのか」
にやにやと笑うアイガーの横で、前畑は戸惑いを隠せぬまま、頭をぽりぽりと掻いた。
「はい復元完了、早速始めるわよ、あんた突っ立ってないで被害者連れてきなさい！」
「仕切んじゃねぇよ、言われるまでもないわ！ ――おう隊長さんよ、トラックはあるのか？」
「はい、こっちです、被害者が多いと言われる地域にご案内します！」
テントが慌しく動き始めた。
（あ、あたしたちも手伝えることがあったら……）
「そうねぇ、被害者の人たちを順番に復元するから、並べてくれるといいわ。
もし復元前に意識が戻せそうなら、試してみるのも良いわね……貴重な経験値になるでしょ」
（分かりました！）
（良かったねアケミさん、やっと人間に戻れるよ！）
（はい……ありがとう、御座います……皆さんの、恩は絶対、忘れません……）
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中央公園が、“戦災復旧”を本格化させ始めた頃。
市の外縁部――石化波動が影響力を持つ山林に、２つの影がうごめいていた。
組織の数少ないメタロイドの残党……クリスタとタイタンである。
周囲の山林は石化波動の影響で、まるで凍ったように静まり返っている。
地表に生えている雑草は、２人が歩くたびに、パリパリと音を立てて細かく砕ける。
「しかし驚きましたな……クリスタまで、その体を得ていたとは」
「元々私は肉体がなかったのでね……あの警部の肉体は所詮、仮の宿主に過ぎなかった。
この体を得るのと引き換えに、処分するべきだったが……」
呟くように言うと、クリスタはふと歩みを止め、小さいが鋭い歯軋りの音を立てる。
やや小柄で中性的な体形だが、その精神は傲慢なマッドサイエンティストのものなのだ。
「あの金髪が……何もかも、台無しにしてくれおった……しかもアグネムまで、奴の刃に」
「セラフィにも止められなかった男です……無念ですが、どうしようもなかった。
しかし奴らの拠点も、道連れに粉砕してやりました」
「最小限の成果だな……しかし無様なものだ、ゼロがこれを知ったら、どんな顔を――」
「――見せてやろうか？」
クリスタが呟くのに呼吸を合わせるように――ふと、暗闇から不気味な声が響いた。
その瞬間、クリスタの表情が凍りつく。
間もなく、ゼロ――いや、魔界の科学者メドゥアスが、２人の前に姿を現した。
クリスタ自身は彼の正体を知っていたが、タイタンにとっては初めての遭遇である。
「あ……あぁっ、ゼロ……！！」
「えっ……こ、この人物が、あのメドゥアス・ゼロだというのですか！？」
「そうか、そっちは私と初めて会うことになるのだな。 そう、私が“ナンバー・ゼロ”だ」
「もっ……申し訳御座いませんゼロ……貴方が作り上げたものを、こんな状態に……
しかも、ゼロの弟君とも言うべき、アグネムまで……！！」
クリスタは震えながら、メドゥアスの前にがっくりと膝を付き、土下座の姿勢を取る。
“ゼロの同志”と呼ばれたクリスタでさえも、メドゥアスはそれだけ恐るべき存在なのか。
「気にするな、とは言わぬが……クリスタ、お前だけの責任ではない。
私も奴らの侵入に対して、万全の体制を敷くことが出来なかった……処罰する資格などない」
「しっしかしっ……」
「だが奴らにしてやられたことは確かだ……体勢を立て直し、計画を練り直さねばならぬ。
そっちの大きな方……タイタンだったな、中々良い体を得たようだ」
「は……はっ、恐縮であります！」
タイタンは“ゼロ”の初めての肉声を受け、身を引き締めるように直立する。
「似ておろう……あのセラフィに。 あ奴の能力は元々、私の能力のコピーなのだ」
「た、確かに……セラフィを連想しますな」
メドゥアスはそう言って、蛇を思わせる太い髪をヒュン、としならせた。
パキン、というガラスのような鋭い音を立てて木の枝が折れ、その枝を素早く髪が絡め取る。
そしてそのまま、蛇が獲物を絞め殺すように、石化した枝をバキバキと締め潰した。
折れた枝はまるで、乾いた土塊のように、細かく砕けて地面に降り注ぐ。
それはメドゥアスの、静かなる怒りの表現であった。
「奴らにも……この木の枝のような思いを、させてやりたいところだ」
「このクリスタ……どこまでもお供致します！」
「このタイタンも同意です、奴らにはこの屈辱、１００倍にして返しましょうぞ！」
クリスタは立ち上がり、紫色の拳を硬く握り締める……ガラスをこするような音が響く。
それを見てメドゥアスは、不気味に口角を吊り上げた。
「まずは戦力を回復させねばならぬ……他の同志を呼び戻さねば。
革命の時代は２度と後戻りせぬということを、奴らに思い知らせなければなるまい」
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中央公園南部の“除染所”から南西に数百ｍ。
港湾部西地区の入口付近に、警察と消防の検問が置かれている。
そこから先は――人が立ち入ることの出来ない“高濃度汚染地区”である。
ここから１ｋｍほど先に、数時間前までセンターＤがあった“爆心地”が存在するのだ。
そしてこの検問のすぐ内側に、煤けたコンテナが２基、置かれている。
コンテナの前には放射能防護服を着た警官が数名、拳銃と警棒を構えて立っている。
そのコンテナの中には――破壊されたセンターの“保管庫”から収容された、
今もなお自力で動くことの出来ない、４０体余りの石化被害者が安置されていた。
除染所が今まさに手一杯のため、１時的にここに置かれているのである。
２基のコンテナは２ヶ所の扉でつながれ、切り離されてはいない。
パドルが前畑を経由してチャーターした大型トレーラーで、
１時間余りをかけて何とかここまで、被害者全員を移送することが出来たが、
“死の灰”をたっぷり被った被害者を、除染処理なしにここより先には連れて行けない。
このコンテナに収容する際に、一応は消防車の放水によって暫定的な除染を受けているが、
それでも普通の人間がおいそれと近付けないレベルの、残留放射能があるのだ。
そんな“暫定保管庫”には、見張りを兼ねて３人ずつ、６人の鉱物娘が待機している。
ジュリ、ルナ、シノ、キナ、ミカ、そしてルミだ……“金属娘”中心の編成である。
彼女達自身も本格的な除染が必要な立場だが、だからこそコンテナの中にいられる。
防護服を着た警官も、このコンテナには長い時間いられないのだ。
またこのコンテナ自体が、暫定保管庫であると同時に、放射性物質の遮蔽壁でもあった。
パドルたちが除染処理の“第１陣”を連れて、中央公園に向かってから１時間半ほど。
ジュリたちはほぼずっと、このコンテナの中で動けない被害者達の“面倒”を見ている。
９０分ほどの間、静かな時間が過ぎているのだが……実は彼女達は必ずしも退屈ではなかった。
あの“核爆発”以降、多くの被害者達が一気に、意識を取り戻したからである。
“心の声”でもまだ、言葉を使うことが出来ない被害者がいるものの、
完全に意識のない被害者は今やゼロに等しく、コンテナの中は“無音の賑わい”を見せていた。
もっとも普通の人間にその声は聞き取れないため、物理的には非常に静かだったのだが。
（あいつら……爆発で活性化するって言ってたけど、ホントだね）
（まさかここまで……皆が一緒に意識を回復するとは思いませんでしたね）
（不思議な、気分……誰も、音……出せない、のに……賑やか）
（……あなた……たちの……ように……早く……動き……たい……）
（ここに……いる……人たち……みんな……被害者……なんですね……少し……心……強い）
（…………、………………！）
コンテナの中には、バッテリーで光るＬＥＤライトが数個しかなく、非常に暗いのだが、
鉱物娘にはこのわずかな照明でも、周囲の状況を認識する能力があった。
またこの限られた照明のために、“立ち並ぶ”被害者達が返ってキラキラと、光って見える。
それは彼女達が強いられた運命の過酷さを忘れるほど、幻想的な光景でもあった。
（あたしたちも早く、動けるようにしてあげたいんだけど……）
（これが出来るのは……パドルさんと、ライカさんしかいないですもんね……）
（もうちょっと我慢して……必ず、動けるようになるから！）
（……昔の……こと……覚えて……ないけど……人間……だったん……ですよね……）
（もう……戻れ……ない……の……かな……）
（……でも……動ける……なら……それでも……いい……今より……まし……）
（…………、…………）
（ごめんね……人間に戻れるなら、それが１番良いんだろうけど……）
（でもまぁ、あたしたちも戻れないわけだから……戻れなくても、どうにかなるよ）
（そうそう……実際、どうにかなってるしね……仲間は大勢いるんだし）
その時――コンテナの外から、トラックの重いエンジン音が響いた。
複数の足音が響き、やがてギィッ、とやや錆び付いた音を立てながら、コンテナの扉が開く。
にゅっ、とコンテナの中に顔を出したのはパドルだった。
「待たせたな……今度はこのコンテナのグループだ」
（やっとあたしたちの番かぁ、先は長そうですねー）
（でもこのコンテナ、切り離すってことですよね……あの子たち、寂しくないかな？）
「その件だが、監視メンバーを入れ替えることにした……お前達も疲れてるだろ？」
パドルの言葉と共に、コンテナの中に３つの顔が現れた……うち２名は、馴染みの顔だ。
（ルイさんとユウさん……良かった、そっちも無事だったんですね）
（ごめんねみんな、心配かけて……だからゆっくり休んで、後はあたしに任せて！）
（ルイさーん、俺も忘れないでよねー）
（大丈夫だよユウ君、いつも頼りにしてるから♪）
（ここって結構放射能が強いらしいんだけど……大丈夫かな？）
（大丈夫大丈夫、あたしらは頑丈だし、汚れてもまた洗えば済むわけじゃん？）
（なるほど……ところで、そっちの子は？ 見かけない感じだけど）
「初め、まして……あたし……スミレ……って、言います……」
３人目のメンバーは、“新型実験体”のスミレだった。
今は“バスローブ”ではなく、人間ドックで着るような、簡素な服を羽織っている。
（おぉう、ちゃんと声が出せる子なんて、初めて見た……！）
（スミレさんはあいつらのラボから保護されたの……凄く良い子だよ）
「まだあの組織の奴らが仕掛けてこないとも限らないしな、戦力ある方が良いだろう」
（え……戦力……あるんですか、この人？）
小首を傾げるルナに、スミレはにこりと微笑んで、紫色の腕を軽く振る。
次の瞬間――５本の指の先から、銀色の爪がナイフのように伸びた。
「大丈夫……あの子、たちは……あたし、たちが……守る、から」
（最初から、そういう処理を受けてる子なんだね……ちょっと複雑な気分かも）
（でも気丈な人なんですね……私たちも、心強いです）
（そうそう、みんな仲間だもん♪）
「そういうわけだから、もう少し頑張ってくれ、日付が変わるまでには、そっちも引き揚げる」
ミカたちと笑顔を交わす“新メンバー”を見ながら、パドルはそう言った。
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| （第１０章第４話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2015～2017年頃に草稿を作成したエピソード。
核爆発（超小型だが）で破壊されたセンターＤから保護された鉱物娘たちと、
旧奥沢村から脱出した鉱物娘たちの再会シーンであると同時に、
避難拠点となった中央公園に“集結”した彼女たちと、朝陽市民が接近遭遇するシーンである。
そして第１部のキーパーソンの１人だった末留一郎の最後のエピソードでもある（合掌）
死に際を看取るシーンはドラマだとよく絶叫するが、どうもステレオタイプに思えた上、
リアルとも思えなかった（文化圏にも寄ろうが）ことから、静かな臨終シーンを描くことになった。
そしてこのシーンと入れ違いに、今までオブジェ同然だった残りの被害者たちを覚醒させている。
逃走するクリスタたちもメドゥアスと合流し、ここから第２部の後半パートが始まるのだ。 |
