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★ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ 統合ナンバー：EX-ATT18501R（MBS20701R） |
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極東北部の島――サハリン。
かつて樺太とも呼ばれ、南北数百ｋｍに及ぶ細長い島の南部に、それはあった。
表向きには単なる丘陵地帯とされている、人気のないタイガの連なりの深部。
野生動物さえもほとんど立ち寄ることのない、異界のような場所。
世界を無常なる支配者から救うべく、極秘裏に誕生した地下組織“アクエリアス”さえも、
そこにそれがあったことはまだ、全く知らなかった。
もちろん――６年後にこの場所で、表の歴史に記録されることのない激戦が展開されることも。
霧が立ち込める、視界の悪い森の中に、ぽつんと立つ石碑のような物体。
それこそが、この森林の地下に作られた“狂気の殿堂”への、たった１つの入口だった。
ＭＢＳサハリン基地。
５年後――２０１２年にアクエリアスは、この殿堂をそう呼ぶことになる。
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ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂
ＭＢＳサハリン基地 〜メタロイド実験記2007〜
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“石碑”の直下、およそ１００ｍ。
そこには、細い地下道が１本、延々と続いている。
戦前に作られた坑道のような、半ば朽ちた不気味な回廊だ。
そんな地下道を、３人ほどの人影が歩いている。
灰色のフードのような服を着ていることが、手にした小さな明かりから読み取れる。
人魂のように先行するその明かりの背後から、硬い靴音がついて来る。
その突き当たりに――それまでとは場違いな、大きな扉が据え付けられていた。
半ば紫色を帯びた、やや波打つ鋳物のような質感。
金属の１種なのだろうが、鉄でも銅でもなさそうな、妙な雰囲気だ。
地上の世界では、まず見ないであろう独特の質感である。
間もなく――その扉が、ゆっくりと開かれる。
地下道の奥――恐らく石碑があった方向――からやってきた人影が、その扉をくぐっていく。
硬い靴跡を、真っ暗な坑内に響かせながら、その人影は扉の向こうへと消えていった。
扉の奥には、大きな空間が拡がっていた。
上下左右、扉と同じ奇妙な金属の壁で覆われている。
直径は１０ｍほどだろうか……ロビーにしては殺風景だが、天井の明かりは神秘的な形だ。
「ようこそ――お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
どこから現れたのか、青白い肌の執事のような男が、３人を迎える。
その額には、歪んだ角が２本、短いながらも突き出していた。
「あなたたちはタイミングが宜しい……ちょうど今日、１人処理する予定でしたので」
「ほぅ……で、何の実験をするんだ？」
３人組の先頭を歩く、やや髪の長い男が尋ねる。
角こそ生えていないが、こちらもどこか不気味な表情を漂わせている。
「先日確保したサンプルを１体――固めます」
「固める――だと？」
長髪の男の問い返しに、角の生えた執事はにやり、と笑った。
「そう――石化するのですよ」
「魔術的な方法でかね？」
「ベータ殿……ここはそういう施設でないとご存知のはずでしょう？」
「科学的に――石に変えるというのか？」
「まぁそういうことです……もっとも――地上世界の科学とは様相が異なりますがね」
「魔導科学――とでも呼ぶべきかのぅ？」
ロビーの最奥部、別室へと続いているであろう暗い廊下の奥から、新たな声が響いてきた。
コツ、コツ、という硬い靴音と反響し合うような、ややしわがれた声。
間もなく……ベータと呼ばれた長髪男の前に、小柄な老人が姿を現した。
身長は１ｍほど……まるで小人のようであるが、やはりその頭部からは角が生えている。
メガネはまるで埋め込まれているように皮膚に食い込み、片手はメタリックな輝きを放っていた。
どこぞのファンタジーに出てきそうな、奇怪なほど歪んだ鼻も印象的だ。
「ナギル殿…… ――で、魔導科学とは？」
「ふぉふぉ、読んで字のごとくぢゃよ……魔界の学術体形から生まれた科学ぢゃ」
「魔界の学術……魔術とどう違うというのだ？」
「異界から力を召還するのではない、ということぢゃよ……まぁ錬金術の延長ぢゃがね♪」
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暗い部屋の隅に、人影が１つ。
大柄でグラマーな体形を持つ、全裸の女性だ……腕と足には鎖がついている。
ただ顔つきは中性的で、体格や体形に比べるとどことなく幼い雰囲気を残している。
不安に満ちた表情で、冷たい紫がかった壁の脇に座り込んでいる。
彼女がこういう境遇になったのは――数日ほど前であった。
数週間ほど前……大嵐に伴う高潮で近傍の街が壊され、多数の孤児が生まれた。
その施設の上空に突如、漆黒の怪鳥が飛来したのである。
怪鳥は抵抗する職員を１人残らず噛み殺し、孤児たちを連れて飛び去った。
その中に彼女もいた――ただし、当時は“彼女”ではなかったのだが。
あどけない顔つきの残る、１０代前半の少年だったのである。
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怪鳥たちはこの地下基地のある森で、孤児たちを解放した。
しかしすぐに……地下から出現した者たちによって、捕らえられたのだ。
孤児たちは大きな部屋に詰め込まれ、１日２回の粗末な食事を与えられたが、
魔物のような姿の者たちが何度となくこの部屋に足を運び、
１人、また１人と孤児を選び、別室へと連れ去った。
そうして“彼”も……さらわれて３日後に、別室へと移されたのだ。
額に角の生えた男たちは彼に全裸になることを強要し、その体に薬物を注入した。
その数時間後――彼は“彼女”へと変貌を遂げたのである。
身長は一気に数十ｃｍも伸び、股間にあった男児の象徴は瞬く間に消滅し、
入れ替わるように上半身にメロン大の柔らかい塊が形成された。
肌の色も微妙に変わり、髪の毛は青みを帯びて一気に背中まで伸びたのだ。
その後男たちは、長身の少女となった元・少年に鎖をつけ、今の部屋へと運んだのであった。
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最初のうちは“変わってしまった体”に興味を覚え、恥ずかしながらも触ったりした。
といっても――この小さな部屋に入れられてからは、常に全裸でいることを強いられたのだが。
１日の９割は誰も部屋に入ってこないため、寂しさを紛らわせるためでもあったのだろう。
自分の体とは思えない、１点の穢れもないスベスベの肌。
羽毛に触れた時のようにサラサラとして、心地よい手触りの長い髪。
驚くほど柔らかいのに、全くと言っていいほど形が崩れない、胸元の双丘。
あっさりとしてしまった外見とは裏腹に、病み付きになりそうな感覚がある股間の“秘部”。
そのどれもが極めて新鮮で、刺激的な経験であった。
また髪を除いて不気味なほど体毛が薄く、股間にも全く毛が生えていない。
それは数年後に世間を賑わせる、あるミュータント種族の体形に酷似していたが、
地方の小さな街で生まれ、すぐに孤児となった“元・少年”に、そんな知識はなかった。
だが――決して“余暇”を満喫していたわけではない。
いやむしろ、彼女の心は常に不安にさらされていたのである。
何しろ……角が生えた不気味な男たちが、自分に何故こんな境遇を強いるのかが分からなかったからだ。
嫌がっても乱暴に腕を引き、それでも抵抗するようなら頬を叩き、手首を捻り上げた。
まるで戦争捕虜のような扱い……“冒されなかった”だけ、幸運だったのかも知れないが。
更に２日前には――別室で過去の記憶を消された。
固いイスに縛りつけ――もちろん裸のまま――電撃のようなものを頭に浴びせること数分。
個室に戻された彼女は、孤児になる以前の記憶と、自分の名前をすっかり忘れたことに気付いたのだった。
覚えているのは孤児になったことと“女体化”されたこと、
そして自分に与えられた“ＭＥ０３３３”という無機質な識別番号だけだった。
不安にも――なろうというものである。
「――――はぁ」
“僕”は誰？
どうしてここに？
どうして女の体に？
何も――思い出せない。
誰もいない個室で、彼女は小さな溜息を吐く。
だが……彼女はまだ気付いていない――こうして不安な感情を持てるのも、今日限りであったことに。
――いや、予知能力もない彼女に、気付けるはずもないのだが。
突如――何の前触れもなく扉が開け放たれた……角の生えた男が部屋に入ってくる。
条件反射的に、壁の隅に萎縮する彼女。
「出ろ――ＭＥ０３３３」
「い……いや――あっっ」
乱暴に腕を掴まれ、抵抗する間も有らばこそ――引きずられるように連れ出される全裸の少女。
これから待ち受ける残酷な運命も、今の彼女にはまるで予期できなかった。
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「あれか、実験サンプルというのは……でかい娘だな？」
廊下の奥から引きずられてきたＭＥ０３３３を見た長髪男――ベータが言った。
薄笑いを浮かべた老魔人――ナギルが解説を入れる。
「元は小僧ぢゃがね……そのままも絵にならんから、娘になってもろぅた♪」
「性転換させたのか？――なるほど、道理で素振りが娘らしくない」
「外見だけぢゃよ……卵巣はないから子は産めん……まぁ産ませる必要もないしの」
「孕ませる心配のない娘か……そいつも面白いかも知れんねぇ」
ナギルに負けず劣らず、残酷な笑みを浮かべるベータ。
そうこうしている間に、ＭＥ０３３３を連れ出した男が、ＭＥ０３３３を部屋の中央に固定する。
左右から垂れ下がった鎖につながれ、身動きが取れなくなる少女。
「い、いや……どうしてこんなこと……や、やめてよぉ」
全裸でさらされ、やや顔を紅色に染めながら、ＭＥ０３３３はナギルらに抗議する。
もっともそんな彼女の抵抗を、ナギルらは薄笑いを浮かべて眺めているだけなのだが。
「おっと、その位置ではダメぢゃ……腕と足の中ほどでつなぐんぢゃ」
ナギルが部下に指示を出す……部下はそれを受け、ＭＥ０３３３を固定する器具を替える。
手足首をつなぎ止める鉄環から、腕や足の真ん中で固定する鉄環へ。
「なぜ、このつなぎ方を？」
「“大の字”はどうもポーズが不自然ぢゃろ？ 十字架も趣味ではないしのぅ」
確かに、このつなぎ方なら、手足を伸ばし切ったポーズにすることなく、行動を奪える。
足首や下腕はほとんどフリーになったが、部屋の中央から動けない点ではさっきと同じだ。
ガチャガチャと鎖をならし、ＭＥ０３３３は必死で腕を伸ばすが、どうしようもない。
やや高めの位置で固定されたため、足首も宙に浮いた状態だ。
「さて、始めるかの♪」
「な、何する気だよ……やめてよ……ねぇったら！」
ＭＥ０３３３の抗議を無視して、部屋を後にするナギルたち。
その足元に小さな箱を、そっと置いたまま。
「な、何だよこれ……ちょ、ちょっと、無視しないで……助けて！」
別室に移ると、ＭＥ０３３３を斜め上から見下ろすポジションになった。
窓にはガラス状のものがはめ込まれているが、さっきの部屋を出る時は気付かなかった。
恐らくは、マジックミラーのような特殊素材を使っているのだろう。
「で――あの箱は何だ？」
「あれかね？“錬金術の種”が入っているのぢゃよ♪」
そう言いながら、ナギルは指をパチン、と鳴らした。
次の瞬間――箱が破裂し、何か小さなものが上方に向かって飛び散った。
灰色の砂岩のような小さなかけらだ……１見、何の変哲もない。
だが、そのかけらが少女の足首に触れた瞬間――劇的な変化が起きた。
「――うぁっ！？……な、何これ！？」
かけらから解き放たれる――無機質な光。
そして彼女の足首に、驚くべき変化が生じたのだ。
見る見るうちに灰色に変色――かけらと同じ質感の物体へと、変わっていくではないか。
「なっ！？――やっ……ちょっ！？」
何が起きたのか分からない様子で、動揺した悲鳴を上げる少女。
その間にもグレーの侵食は足首を這い上がり、太腿へと駆け上っていく。
その時ＭＥ０３３３は、確かに感じた――変色した部分から、一気に血の気が引いたのを。
「ひぃっ！？――やぁっ、いや、やめてぇっ！！」
少女としか思えない黄色い声で叫ぶ、元・少年。
だが薄暗い部屋はひっそりと静まり返り、下から上ってくる光だけが不気味に輝く。
やがて変化は太腿を灰色に染め上げ、胴体へと達した。
言いようのない違和感と脱力感が下腹部を襲い、経験したことのない感覚が体を支配する。
「うぁっ――は――くぅあっっ……あぁっ！？」
容赦なく変化は続く。
やがて手の指先も灰色に変色を始め、すぐに手首に、下腕に侵攻して行く。
鎖の制約に抵抗しながら、手を必死で曲げるが……もう手首は言うことを聞かない。
間もなく変化は上半身に達し、肺がギュッと締め付けられるような感覚が襲い掛かってきた。
「やぁ――かっっ、はぅ――ぁぐっ……ぁ……！」
呼吸困難――それも、胸を押し潰されるような恐ろしい感覚を伴いながら。
間もなく眩暈を覚えた……頭から急激に血の気が引き、バクバクと波打っていた鼓動の音が消え失せる。
もはや全く動けない――驚愕と苦痛で、彼女が目をかっと見開いた次の瞬間。
ぷつっ――――と、まるで電源を切るように、彼女の視界は闇に閉ざされた。
「…………！！？…………！……………………―――― 」
意思とは無関係に、底なし沼のような闇の世界に意識が沈んでいく。
（な――何が――僕は一体……いやだ、やめて、助け―――― ……？……！！）
その意識の中でさえ――まるで無造作に墨で塗り潰すかのように、言葉のイメージが消し飛んだ。
言葉にならない感情……押し潰されるような恐怖感だけが支配する、闇の世界。
すでに体は一切の自由を奪われ、自分の意識に全く反応しなかった。
（…………！…………？…………！………… ）
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「――どうかね？」
“実験室”に戻ってくるや否や、ナギルがベータに向かって問いかけた。
彼の目の前には――灰色のグラマーな女性石像。
何のことはない……今さっき石化処理を終えた、実験体ＭＥ０３３３である。
片手を顔の方へと伸ばした最後の抵抗の姿のまま、砂岩を思わせるきめ細かい石に代わっていた。
大きく見開いた目にはもはや瞳の影がなく、何も映してはいない。
「こいつは……大したモンだな」
溜息を漏らすベータ……おもむろに、その無骨な指先で、実験体の体をつつく。
コンコン、と硬い音が部屋に響く。
「さっきまで人間だったとは思えんな」
「これが石化結晶“メタ・クォーツ”の作用ぢゃよ……触れた有機物を無機物へと変えるんぢゃ」
「完全に石化したのか？」
「もちろん♪ 今や体の中心まで継ぎ目のない１個の石ぢゃよ、砕いても何も出ては来ない♪」
「今や単なる石像というわけか……」
「いや、少し違う……この場合は“生きた石像”と言うべきぢゃろうなぁ」
ナギルの言葉に、ベータは驚くような表情を浮かべた。
「まだ――生きているというのか！？」
「思考能力は停止しているに等しいがね……死んではおらんはずぢゃ」
「こいつはますます、驚きだぜ……」
「基礎結晶に含有させる素材の成分を変えれば、様々な実験体を作れるハズぢゃ。
それこそ御影石や大理石、宝石や貴金属も理論的には可能ぢゃねぇ♪」
苦悶の表情を浮かべた石像と化したＭＥ０３３３の周囲で、非道な男たちの密談が交わされる。
今やＭＥ０３３３はそんな密談の言葉を、ただ置物のように浴びているだけだ。
まだかろうじて意識はあるはずだが……すでに思考は闇に塗り潰され、かすかな感情しか発露できない。
その言葉が聞こえているのかどうかも定かではない……いや、
例え聞こえていたとしても、反応する余地など皆無であったに違いない。
実験室のわずかな明かりに照らされ、完全に石化したその体がつやを放つ。
皮膚に生えていたであろうかすかな産毛も石化時に消滅したらしく、
文字通り“磨き上げられた石像のように”滑らかだ……男たちの影が映り込んでいるほどである。
髪の毛は塊でまとめられたように石化しているが、その表面には繊細な筋が入っている。
どんな職人でも、ここまで繊細なディテールを刻むことは不可能に違いない。
「口の中は……どこまで再現されてるんだ？」
「せいぜい、喉の奥までぢゃろうなぁ……胃や腸はもう存在しないはずぢゃ。
いや……肺も心臓も、脳も今はなくなっているはずぢゃよ。
透明度のある実験体なら、そのあたりを確認することもできたがのぅ」
「そこまでなくなれば、生物的にはエジプトのミイラと変わりないはずだが……」
「もはやこの実験体は有機体ではないのぢゃよ……石像に魂が封印されているに等しいのぢゃ」
「本当に――こんなものを活動可能に出来るのか？」
それこそが……ベータが最も聞きたいことだった。
何しろ――今回の実験はそのためにあったからである。
女体化した元・少年が石像に変わるショーを見るためだけに、ここまで来たのではない。
そもそもそういうショーなら、わざわざこんな“新兵器”を作る必要などない。
ベータが――そしてその後ろ盾であるエグゼクターが――強く関心を示したのは、
この錬金術の種“メタ・クォーツ”によって、活動可能な石化人間が作れるという可能性だったのだ。
そのノウハウはかつて、別の星である異星国家が培ったものだという。
ナギルが所属する魔界の国家――魔修羅連合は、そのノウハウをコピーしたに過ぎなかったのだ。
動く石像を作り出せるというのなら――有用な強化兵も開発可能になる。
銃弾に耐え、毒も効かず、真空でも制約がない、意思を持った工作員……まさに理想ではないか。
「理論的には可能ぢゃよ……もっとも、この実験体ではそこまで想定しておらんがね」
「理論だけでは困るんだが？」
「もちろん、実証するためには実験を重ねる必要があるのぅ……ぢゃが道は開けておる。
確か、より高い素質を持つ、若年素体を提供してくれるはずぢゃよな？」
「見込みがあれば幾らでも提供するさ……そういう素材は売るほどあるからな」
「では、“商談の席”に向かうとしようかね――あぁ君、この実験体は後で別室に移しておくんぢゃ。
そうぢゃなぁ……浸透と養生が終わる頃、１時間後くらいで良いぢゃろう♪」
そう言いながら、男たちが実験室を後にしていく。
薄暗い廊下に靴音が遠ざかり、やがて再び静寂が支配する。
その中央に“仮設”された、今や完全に沈黙したＭＥ０３３３の石化体。
誰もいない、殺風景な部屋の中で、もはや機能を失った虚ろな目が、ただ周囲の壁を映していた。
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に初めて執筆したエピソードだが、2015年頃に改修している。
1999年に作成したネリスの“石化実験”をショートストーリーとして再現したものである。
もっともネリスという名前は保護された後に付いているため、ここではまだ番号でしか呼ばれない。
1992〜1995年頃に石化キャラを作って以降、メタロイド系設定は数年ブランクが空いているが、
再び“ブーム”が起きたのが1999〜2002年頃であり、ネリスがそのきっかけの１つを作っている。
メタ・クォーツの設定はＡＳＧシリーズのそれと基本的に同じだが、時系列上はこっちが先だ。
ナギルの“弟子”であるメドゥアスが、サハリン基地などでの実験の成果に加えて、
幾つかのメタ・クォーツをＡＳＧ世界に持ち込んで始動させたのが秘密結社メドゥアスというわけだ。 |
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