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エヴァンス。
2000年代以降、世界に大量出現した“ミュータント”の１種である。
女性的な容姿を持つことで共通するが、性機能的には必ずしも女性ではなく、
若い男性（男子）から“突然変異”した者が多く（ただし女性起源も少数いる）、
普通の人間とは異なる、カラフルな髪や肌の色を持っていることも特徴の1つとして知られる。
赤い肌や濃いピンクの肌、更には青い肌や緑色の肌まであるのだ（髪もそれに負けないくらい多様だ）
2000年代の前後からちらほらと出現し始めていたが、“大発生”したのが2016年のことであり、
この年に50万人を越えるエヴァンスが世界中で一気に発生することで、
人類は「人知を越えた異変が人類を襲い変化を要求している」可能性を無視出来なくなったとされる。
何しろ全人類の１万数千人に１人程度は、この時エヴァンスに変異したことになるのだ。
人口10万人程度の町なら、数人は必ずエヴァンスがいるくらいの比率であり、少数民族並みである。
2016年に起きた事件は“エヴァンス大爆発”と呼ばれている。
エヴァンスは単なる性転換ミュータントというだけではなく、優れた“環境浄化能力”を持つことでも知られる。
これは１種の波動能力に当たるが、この時代の人類社会はまだその実態を知り得ていない。
エヴァンス以外にも“異能”の持ち主がちらほら現れ始めており、その異能も波動能力の発現だったのだが。
これから地球を襲うことになる“惑星変動”に人類文明は大きな影響を受けることになるが、
エヴァンスもまた、そうした大変動の中で生まれたものだと後世では解釈されている。
そしてその“エヴァンス大爆発”は、実は１度きりの異変ではなかった――。
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ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂≪外伝≫
ジャパン・ミュータントセンター 〜第2次エヴァンス大爆発2022〜
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2022年、日本・北海道の十勝地方にあるジャパン・ミュータントセンター。
2016年に世界で初めて開設されたミュータント交流施設であり、その支援団体の１つである、
ミュータント・コミュニティの代表的な拠点として知られている。
ジャパン・ミュータントセンターの開設以降、アフリカや南米にも類似施設の計画が立ち上がっているが、
最初に出来たこの施設はまさに「伝説的なポジション」であり、ある種の“聖地”であった。
日本に最初にこの施設が出来たのは、日本が民族差別や人種差別が色濃くない中立的な国であり、
更にミュータントに理解がある地下組織、アクエリアスの拠点があったことも大きい。
（そのためアクエリアスの支部のように見られることもあるが、組織上は独立して運営されている）
今この“聖地”が、2016年の開設以来、６年振りの“活況”に湧いていた。
ミュータントセンター開設と同じ2016年に起きたエヴァンス大爆発の影響を受けて、
2019年に“増築”されたエヴァンス専用区画“エヴァンス・ゾーン”のエントランスに、人垣が出来ている。
その人垣も明らかに「異なる肌の色」が混ざっている……それも白人とか黒人という違いではなく、
黄色い肌やピンク色の肌の持ち主がいるのだ……「一般的な人間」には存在しないはずの色彩である。
そしてこうした肌の持ち主は、大抵髪の色も独特である……青かったり、緑色だったりするのだ。
こうした“異色肌”の持ち主は、ほぼ全員がエヴァンスである……しかも「最近変異した“新人たち”」なのだ。
“６年振りの活況”というのは、再び「エヴァンス変異体の大発生」が起き始めていることであった。
後世に“第２次エヴァンス大爆発”と呼ばれることになる、２度目の大発生がまさに今、起き始めていた。
最初にエヴァンス大爆発が起きた2016年は、まだエヴァンスというミュータントの知名度が低かったため、
世界中で疫病流行のような大騒ぎになったが、今回は比較的混乱が抑制的であるようで、
自身に起きた“突然変異”をエヴァンスだと自覚した者たちが、一斉にこの施設に殺到していたのである。
そしてそんな“新人たち”をエントランス前の“臨時受付”で裁いているのも、同じくエヴァンスたちである。
こちらはこのジャパン・ミュータントセンターに籍を置いている「過去に変異したエヴァンスたち」であり、
中にはこの施設を事実上“自宅代わり”にしている者もいる。
ジャパン・ミュータントセンター自体はあくまでも交流施設であり、多くのミュータントは別に自宅を持つが、
ミュータント・コミュニティの“役員クラス”はここを自宅代わりに利用しているケースもあるのである。
センターがコミュニティの本拠地でもあるため、常にここにいた方が何かと便利なのだ。
「はい、あなたは初期登録が終わったから、待合室に行って検査を待っていてくださいね」
「あなた焦らないで、気持ちは分かるけど、順番があるからね」
大病院の外来受付のような言葉が飛び交っているが、これは「検査を望む」エヴァンスが多いからだ。
自分に起きた変異がエヴァンスのそれじゃないかと思ってはいても、別段“お墨付き”があるわけではないので、
それを確認すべくこの施設を訪れたケースが結構ある……しかも“第２次大発生”が始まっているから、
検査に訪れる「新人エヴァンス」が一気に増えた形であり、センターも急遽、臨時受付を設置したのである。
その受付に、ひときわ背の高い２人組がいる……特に青い髪と黄色い肌の人物は身長2m近く、よく目立つ。
（画像挿入予定orz）
フィリピン出身のサーラ・エルティシアである……エヴァンスの代表格としてちょっとした“有名人”だ。
20年以上前、2001年に若干６歳でエヴァンスに変異しており、10代前半の頃には既に今の外見であった。
最も初期のエヴァンス変異体の１人であり、当初は典型的なマイノリティのため苦労したようである。
経験を積んで今はとても落ち着いた振舞いであり、27歳という実年齢以上に大人びて見える。
背が高いだけでなくかなりグラマラスな体形がよく目立つが、顔つきはどこか中性的だ。
対外活動をする際に愛用する、薄いローズピンクのスーツもトレードマークの１つとして知られている。
その隣にいるのが日本出身の相澤実（ミノル）である……肌の色は“人肌”だが、髪は鮮やかな空色だ。
サーラと比べると頭半分ほど小さいが、ミノル自身も身長180cm以上ある。
エヴァンスの９割は男子から変異するためか、全体的に普通の女性よりも大柄で筋肉質なことが多いのだが、
それでもサーラとミノルは抜きん出た体格を持っており、同志の中でもすぐ識別できるほどに目立っている。
因みにエヴァンス変異体の平均身長は大体170cm前後である（女性としては長身の部類に入る）
ミノルはジャパン・ミュータントセンターの理事の１人でもあり、メディアにも良く顔出しするこちらも有名人である。
サーラがエヴァンスに変異した2001年の生まれで、2013年に変異したため現在21歳で９年ほど経験を積む。
身長こそサーラに劣るが、こちらもグラマラスな体形で、中性的な顔つきはサーラと共通する。
全体的にクールに振舞うが、メディア露出経験が多い分、喜怒哀楽をハッキリ出すキャラ付けでＰＲしている。
長身で抜群のプロポーションを持つため、それもメディアに注目される１因なのだろう。
もっともそれ故に“普通の”男性や女性のタレントに弄られた経験もまた、１度や２度ではないのだが。
「こんなに多いのもホント６年振りですね、サーラさん」
「同志が増えるのは良いことだけどね……“冷やかし”も時々いるけどｗ」
サーラが苦笑いして言っているのは、「エヴァンスを装った愉快犯」が時々いることである。
髪や肌をわざわざ染めて、センターに来訪したり「エヴァンスと偽って芸能活動する」人間がいるようである。
特に2016年のエヴァンス大爆発で、エヴァンスが「既知のミュータント種族」になってから、こういう連中が増えた。
エヴァンスの目立つ外見は決して見世物ではないのだが、好奇を優先する人間はいつの時代もいる。
もちろん検査をすればすぐにバレる話で、そこまで踏み込む“冒険者”はさすがに少数である。
外見こそ女性的だが、体質そのものは「女性と全く違う」ためである。
ただ「本物の女性に変異してしまった男子」のケースも稀にあるため、体質が違うから全て愉快犯とも限らない。
そのため「愉快犯がいる可能性を承知の上」で、検査自体は慎重に行っている。
「最近、メディアの弄りもようやく減ってきましたよ……やっと慣れてきたってことですかね――サーラさん？」
こちらも苦笑いして言ったミノルだが――ふと、サーラが人垣の１点を凝視していることに気付いた。
視線の先を追うと、人垣の奥の壁際に、困惑の表情を浮かべた小柄な“少年”が立っている。
「あの子――もしかして」
「ひょっとして、“直前状態”でしょうか？」
「ミノルもそう思う？」
どうやら――２人は少年の妙な雰囲気に“ある事態”を感じ取ったようである。
「この独特の空気に呑まれて――ってだけではなさそうですね、ボクちょっと行ってきま――」
「いや、自分が行くよ、ミノルは受付の責任者だし、ここで待ってて」
そう言って、サーラは自ら動いた。
エヴァンス屈指の体格で、名も知れているサーラが動いたことで、人垣に小さなざわめきが走る。
そのざわめきを軽やかにスルーして、サーラは困惑する少年に１直線に歩いて行った。
近づいてくるサーラに気付いた少年が、驚くような表情を浮かべる。
「キミ、ちょっとこっちへ……大丈夫、心配しないで」
そう言いながら、サーラは困惑する少年を優しくエスコートして、玄関横にある小さな部屋に案内した。
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サーラと少年が、玄関脇の小部屋に移動した――直後に、“それ”は始まった。
「うっ……くっ、あっ……！」
少年は突然前屈みになり、苦しそうな呻き声を上げ始めた……しかしサーラは至って冷静であり、
小部屋――非常用の医務室らしい――の奥にある、ビーチチェアのようなイスに少年をエスコートする。
「しんどそうだね……ここに座って、ゆっくりすると良いよ」
「す……すいません」
少年は遠慮がちにイスに腰掛けるが、すぐに背中を反らすようにして、呻き声を漏らし始めた。
「うぁっ……くぁっ、あぅ……あっ」
何かの病気を拗らせたような少年の振舞いに、しかしサーラは全く動じず、静かに見つめている。
どうやら――少年に今「何が起きているのか」分かっているらしい。
間もなく――その顔がゆっくり変わり始めた……髪もザワザワと伸び、不思議な緑色を帯び始める。
実は――少年は今まさに、エヴァンスへと変異する“最終段階”にあった。
サーラもミノルも、こういうケースが時々あることを知っていたのだ……好奇心からセンターを訪れた人が、
そのセンターで自分もまた「エヴァンスに変異してしまう」場合があるのである。
実は来訪前に既に“兆候”があり、そのために惹かれるようにセンターに足が向くという説もある。
実際はセンターに来る前に既に変異が始まっているため、意外と負担は小さいらしい。
ミノルが言った“直前状態”とは、エヴァンス変異の最終段階を意味するのだ。
そうこうしているうちに、胴体の上半身に、服を押し上げる２つの決定的な「盛り上がり」が現れた。
まるで風船を膨らませるが如く、小さな胸板の上に、この体格としては「立派な」双丘が形成される。
少年は喘ぎながら、目の前に出現した「男子なら本来持っていないはず」の器官を眺めている。
そして間もなく変化が落ち着いた……サーラも頷く、どうやら「変異が完了した」ようである。
「驚いたかい？ つまり“そういうこと”だよ……キミも“エヴァンス”だったのさ」
サーラの言葉に、今やすっかり“少女化”してしまった少年が、顔いっぱいに困惑を浮かべて仰ぎ見る。
「まぁすぐには慣れないだろうから、少しここで休んでいると良いよ……名前は？」
「リー……アリアス・リー、です……」
「どこから来たの？」
「え、えっと……マカオ……あ、あの……母さんと旅行で……」
「あぁ、やっぱり親と一緒なんだね……大丈夫、お母さんには説明しておくよ」
そう言って、席を外そうとしたサーラだったが――今度はリーと名乗る“元少年”が話しかけてきた。
「あ、あの……この中は……」
リーが言っているのは、このセンターの“内部”のことだ……どうやらある程度「調べてきた」らしい。
許可なく入れる施設ではないが、「何があるのか」は公開されているのだ。
「……興味ある？」
サーラが思わせぶりにそう言うと、リーは困惑が抜けない表情で、小さく頷いた。
「それじゃあ、こっちに来て……最初は刺激が強いと思うから、気をつけてね」
そう言って、サーラは医務室の奥にある小窓にリーを案内して、その小窓を開いた。
「……うわぁ……！」
（画像挿入予定orz）
小窓の向こうには、何十というエヴァンスが「裸で歩き回る」風景が拡がっていた。
エヴァンスの特徴の１つに、「服を着ていない方が能力を開放しやすい」というものがある。
エヴァンス特有の環境浄化能力は、「自然と１体化する」ことで、最も発揮されやすくなるためだ。
また能力開放に有利なだけでなく、実際に「裸でいる時の方が落ち着いている」のもエヴァンスの特徴だ。
しかしさすがに「往来を裸で歩き回るわけにはいかない」ため、代わりに専用の交流施設を設け、
そこでは「誰にも気兼ねすることなく“裸の付き合い”が出来る」という環境を作ったというわけである。
リゾートホテルの庭のような場所を、全裸のエヴァンスが歩き回る風景は、ある意味実にシュールだ。
しかしそれを小窓から見ているリーは、興味津々である……奇妙な風景を見ている、という感覚ではなく、
明らかにその風景に「共感している」ことを、サーラは感じ取っていた。
「どうする……入ってみたい？」
「えっ……？」
再び思わせぶりに言ったサーラに、リーはまた困惑するような表情を浮かべた。
「キミが希望するのなら、準備は要るけれど、可能だよ……だって、今やキミもエヴァンスなんだから」
そう言いながら、サーラはリーの髪を撫でる……目が覚めるようなビリジアンの長髪を。
リーははっとした表情を浮かべて、自分の髪に手を伸ばす……改めてまじまじと、その髪を見つめた。
もちろんサーラは、リーがそういう反応をすると狙って、髪を触ったのだ……彼に「自覚をさせる」ためにである。
そして図らずも、髪を触っていたリーの腕が胸に形成された２つの膨らみに触れた。
瞬間湯沸かし器のように、リーの顔が赤くなる……それでも好奇心には勝てないらしく、その双丘を触った。
さっき形成されたばかりの大きな“乳房”が、シャツの下からシャツを押し上げているのだ。
そして今度は偶然ではなく、リーは恐る恐る、その手を下腹部へと伸ばした。
「……あぁ……！」
何とも言えない声が、リーの口から漏れた……もちろん、数分前まで「そこにあった器官」は今は既にない。
パンツの上からも何となく分かる感触だが、手で確認すると更に鮮明になったようだ。
そして再び、その視線が小窓の方へと向いた……窓外に見える「シュールな風景」と自分自身の今の姿、
それを重ね合わせるかのように、リーの視線は何度も移り変わる。
「どうする？ 入りたいのなら、可能だよ……でもキミの意思を確認しなきゃ」
念を押すようにサーラが言うと、リーは数秒ほど逡巡したが、間もなく大きく頷いた。
「分かった……じゃあ、準備しよう」
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その頃――ミノルは玄関から少し離れた所に、中年に近い女性の姿を認めた。
「あの、もしもし……アリアス君のお母さんですか？」
「あっ……えぇはい、そうです……あの、息子は今、どこに？」
「お母さんは、アリアス君に何が起きていたのか、ご存知ですか？」
「えぇと……はい、何となく……」
ミノルはリーの母親らしき女性に確認を取る……ある程度は予想出来たことではあるが。
このセンターに親子でやってきたということは、息子に起きた異変が何を意味するか、気付いたからこそだろう。
「息子はエヴァンス変異を起こしたのかも」と勘付いてなければ、ここには来ないはずだ。
「アリアス君は先ほど“変異”しました……健康状態には問題ないので、ご安心ください」
「は、はい……有難うございます」
礼を言いながらも、母の目には不安が満ちている……息子が突然「性転換した」のだから当然だろう。
それでも親子でここに来たということは、ある程度覚悟が出来ていたということだ。
「今の状態に適応するために、少し時間が必要です……その間、お母さんは待ってて頂けますか？」
同じ頃――サーラはエヴァンスに変異したばかりのリー“元少年”を、隣の部屋に案内していた。
ピンク色のシーツを載せたダブルベッドが置かれた部屋だ……どことなく“ラブホテル”っぽいが、
10代前半のリーはそれを想像出来る経験値をまだ持っていない。
「自分は立ち会えないけど、代わりの人を連れてくるから、服を脱いで、ここで待っていて」
「は、はい……」
「大丈夫、その人に全部任せたら良いからね」
そう言って、サーラは部屋を出て行った。
リーは困惑の表情を浮かべたまま、躊躇いがちに服を脱ぎ始めた。
変な話だが――エヴァンスに変異した自分の姿を見てみたい、という好奇心もあったのだ。
上のインナーを脱ぐと、上半身にさっき「生まれたばかり」の、大きく形の良い１対の乳房が現れた。
「わぁ……す、凄いな……」
さっき触ったものだが、「直接見る」のは初めてだ……改めて、自然と手が行く。
低反発のゴムボールのように柔らかいが、しかし形が崩れない……とても不思議な感触である。
そして今度はズボンを脱ぐ……下のインナー、つまりパンツを下ろすと、リーの顔が再び真っ赤になった。
数分前まで下腹部にあった「男子のシンボル」は影も形もなく、代わりに小さな“スリット”が縦に入っている。
パンツの上からも感じていた妙な違和感が、今強烈な“ビジュアル”になった形である。
「うそ……こ、これが……ボク……？」
目の前に大きな姿見が置かれており、そこに緑色の長髪を垂らした、小柄な女子の裸体が映っている。
それが自分自身の今の姿であるということが、リーはまだ信じられなかった。
ただ10代前半のリーには刺激の強い外観であったはずだが、不思議とそれほど大きな衝撃は感じない。
戸惑いながらも、リーはベッドに上がり横たわる……ピンクのシーツが敷かれたベッドは、しかし布団は見えない。
天井にも大きな鏡が張られており、顔を赤くした裸の少女が見えている。
夢見心地で横たわっていると――ふと、奥の扉が開いた……さっきサーラが出て行った扉である。
「あっ……あ……！」
「あぁ、気にしないで良いよ、ボクも同じだからｗ」
リーは反射的に体を隠そうとしたが、隠すものが何もないことに気付いてまたも赤くなった。
部屋に入ってきたのは、サーラと同じ青い髪と黄色い肌のエヴァンスだ……しかし身長はずっと小さい。
既に一糸まとわぬ姿であり、リーよりも大きく見える１対の乳房がその存在を主張している。
下腹部の方はリーよりもシンプルであり、スリットは目立たない……成人女性のそれに似ているが、毛はない。
まぁこれも――10代前半のリーには、まだ経験したことがない風景だろう。
「初めての“開放儀式”だそうだね、じゃあ、じっくりやろうか……ボクはレオン、宜しく♪」
レオンと名乗ったやや小柄なエヴァンスは、そう言ってゆっくりとベッドの上に上がってきた。
そしてリーの下半身をまたぐ姿勢になり、上半身がリーの上に覆い被さる。
（画像挿入予定orz）
「あ、あの……」
「ん、ホントに大丈夫だよ……まぁ、最初はみんな心配だよね」
「いや、その……えぇと、レオンさんも、あの……やっぱり、元々は男の人、なんですか？」
「え？ あぁ、そういうことか。 ――そうだよ、ボクも６年前までは、キミと同じように男子だった」
そう言って、レオンはベッドの上で上半身を反らせた……大きな乳房がプルプルと震える。
さっきは医務室の窓越しに見たエヴァンスの裸体が、今はすぐ目の前にあるのだ。
顔つきは今のリーと同様に中性的だが、人懐っこそうな笑顔が可愛い……これが元男子の姿とは。
リーは自分の姿も半ば忘れて、そのグラマラスな肢体に目を奪われた。
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「だから心配しないで……ボクもキミと、同じ経験をしてきたから――」
レオンはそう言って、おもむろにリーの乳房を掴むと同時に、顔を近づけて唇を合わせた。
「えっ、ちょ――んむっ、ふむ――！？」
それはまさに成人した男女が行うスキンシップ――いわゆるセックスの作法とそっくりであるが、
実は全く違う目的と意図を持った“儀式”であった……もちろんどちらにせよ、リーは知る由もなかろうが。
２つの肢体が絡み合う……レオンの黄色い肌は、リーにとっては不思議な感触だった。
「それじゃあ、開放しようか――」
リーから口を離したレオンは、今度は下腹部の“スリット”に躊躇うことなく、片手を当てた。
まだ自分の体である実感が十分ではないだろう、女性的な形の下腹部に、他人の触角を覚える。
それ自体がとても新鮮な感触であるが――“衝撃”はそこではなかった。
「えっちょ、待っ――！！？ ふぁっ！？ あっ、うぁっ、あぁっ――！？」
何かとても熱い“強いエネルギー”が、レオンの手を通し、リーの下腹部から体内に流れ込むのを感じた。
リーの全身からどっと汗が噴き出す……エネルギーは体内を暴れ馬のように駆け回っている。
「良い反応だね……じゃあ、そのエネルギーをいったん、ボクの方に戻して」
「えっ……い、いったい……どうやって……？」
「念じるだけで良いんだ……ここでも、ここでも良いから…… ――おっ……あっ、イイね！」
そう言って、レオンはリーの手を自分の胸に当て、更に太股に下腹部を押し当てる。
リーはすぐに感覚を掴んだようだ……今度はレオンの体から汗が噴き出した。
“女体化”しているエヴァンスの体は、セックスのような物理的な“挿入”は出来ない。
しかしその体内にある「浄化のエネルギー」を、手などを使って「念じて送り込む」ことが可能なのだ。
実はこの行為自体が、エヴァンスの環境浄化能力を“開放”するための準備なのである。
そしてレオンは再び、リーに唇を重ねる。
２人とも全身「エネルギーの交換し合い」で既に汗だくであるが、体臭はほとんど匂わない。
自ら持つ浄化能力が、体臭に含まれる不純物を分解してしまうためである。
「――むぐっ、ふむ、んむ――！」
（キミ、中々筋が良いよ……こっちもやり甲斐がある）
ふと――“声”を介さずに感じた言葉に、リーは思わず目を見開いた。
２人の唇はまだ合わさったまま……普通に喋ることは、今は出来ないはずなのに。
「ぅむ――！？」
（“念話”も初めての体験みたいだね……エヴァンスはこうやって、“心の声”で会話することも出来るんだ）
（こ、心の、声……！）
（能力が開放されたから、念話のチャンネルも拓かれたんだよ……さぁ、続けよう）
更にレオンは、リーと数回、エネルギー交換と口づけを繰り返す。
そして10分ほどが経過し――今度はレオンが、リーから完全に離れて距離を取った。
「よしよし、最終段階が始まったね……大丈夫、そのままその感覚を受け入れるんだ」
「あっ……うぁっ……はっ……！！」
リーは体の中で駆け巡るエネルギーが、勝手にボルテージを上げていくのを感じ取っていた。
しかし心は不思議と、逆に落ち着いていく気がする……この辺りがセックスと大きく違う所だろう。
オーガズム（絶頂感）の代わりに、エヴァンスは「能力開放」で逆に精神面ではクールダウンするのだ。
全身に噴き出す汗も、不思議な粘性を帯びてきた……それがまるでローションのように全身を覆う。
まるで皮膚の上に、もう１つ別の「透明な膜」が出来ているような感覚である。
そしてその“体液コーティング”が拡がるにつれ、リーの全身が不思議なツヤを放ち始めた。
そして間もなく――リーは「カラダが安定した」ことを悟った。
とても不思議な感覚である……先ほどまで体中を駆け回っていたエネルギーが、今も体内にあるのに、
高いレベルのまま「静かに体内に留まり続けている」ような感覚があるのだ。
また汗が変化した、ローションのような体液が全身をコーティングしたような状態であるためか、
まだ全裸のままであるはずなのに、「他に何も要らない」かのような、妙な安定感がリーにはあった。
「安定したね――これで儀式は終わりだ、さぁ立って」
そしてレオンに促されるようにベッドの横から立ち上がったリーは、更なる驚きを感じる。
「えっ――わぁ、軽い……！」
体がとても軽く感じる……元々大柄な方ではないが、それでもこんなに軽く感じたことはなかった。
大袈裟な表現だが、空気と１体化しているのじゃないかと思えるほどである。
ベッドの横に立てかけている姿見に、自分の裸体が映っている……“儀式”を始める前と同じだが、
リーはさっき感じたはずの困惑や恥じらいが、今は余りないことに気付いた。
不思議なツヤを帯びた自分の裸体は、美しいとさえ思える……そして奇妙な充実感がある。
今なら赤の他人にこの裸を見られても、あんまり気にならない気が、リーにはした。
実はこれも、エヴァンスの特性の１つだ……変異間もないエヴァンスにはまだ困惑や羞恥心があるが、
開放が進み、慣れたエヴァンスの多くにはほとんど羞恥心がなく、裸を見られても気にしないのである。
感覚的には「自然と同化した状態」であるため、その状態が「当たり前」に感じるのだ。
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「それじゃあ、行こうか……ようこそ、エヴァンス・ゾーンへ！」
レオンはそう言って、新しい扉を開いた。
リーが最初に入ってきた扉、サーラが出て行き、レオンが入ってきた扉とは別に、もう１つあった扉である。
その向こうには、医務室の小窓から見えていたものと、同じ風景が拡がっていた。
やや戸惑いながらも、リーはそこに足を踏み出す……もちろん全裸で。
周囲を低層の建物に回廊状に取り囲まれた、広い中庭のような空間に、数十人のエヴァンスがいる。
全員一糸まとわぬ姿で、にこやかな笑みを浮かべてコミュニケーションしている者が多い。
レオンがリーを連れて歩いて行くと、すぐに目ざとく２人を見つけたエヴァンスがいた。
「おっ……また新しい子かな？」
「レオン、その子も新人？」
黄色い肌にオレンジの髪が印象的なグラマラスな人物と、オレンジの肌に赤い髪が印象的な人物だ。
ピアス・アノグレスとイール・アノグレスの“アノグレス姉妹”である……もちろん２人とも元男子で、兄弟だった。
南米の出身であり、ピアスは2013年に、イールは2016年に変異している。
ピアスが“元弟”で、イールが“元兄”に当たるが、エヴァンスとしての経験はピアスの方が数年ほど長い。
ただイールも既に変異から６年経ち、プロポーション自体は抜群に良い。
また２人ともエヴァンスのコミュニティでサーラに次ぐ“幹部格”に当たるため、それなりに知名度が高い。
レオンとは見知った仲であるようで、だからすぐに気付いたのだろう。
とりわけイールはレオンと同じく、2016年の“エヴァンス大爆発”で変異している。
エヴァンスになってからの“経験値”に関して言えば、イールとレオンはほぼ同格なのである。
「目ざといね……アリアス君、紹介するよ、ピアスとイール、もしかしたら知ってるかも？ 有名だしｗ」
「あ、アリアス・リーです……宜しくお願いします」
ぺこりと礼をするリー……全裸の女性たち――外見だけだが――に囲まれているのに、普通の感覚だ。
（画像挿入予定orz）
「サーラさんが言ってた、玄関で見つけた直前状態の子って、この子のこと？」
「そうそう、そしてボクが最初の開放担当になったんだよ、縁ってホント面白いよねｗ」
「おー、同志じゃん、面白いねぇｗ」
何かに気付いて語り合うピアスたちの反応に、リーは１人、小首を傾げる。
「同志……ですか？」
「あーえーとね、レオンもキミと同じなんだよ、このセンターに来た時にエヴァンスに変異したんだ」
「――えっ、そうだったんですか！？」
「そーだよ、さっき言ったじゃない、『キミと同じ経験をしてきた』って」
そりゃあ、それだけじゃ気付かんわな……まさか「センターで変異した」のまで同じだったとまではｗ
そう――レオンもまた、リーと同じように、センターを訪れた際に変異したケースであり、
だからサーラは「リーの感覚が分かる人物」として、たまたま来訪していたレオンを選んだのである。
「でも“筋”はボクより良いかもよ、常に反応良かったし」
「あ、有難うございます……」
「あー分かる気がする、体格はコンパクトなのに、プロポーション凄く良いもんね、イール並みかも」
その時――背後のエヴァンスたちの中から小さなざわめきが聞こえてきた。
４人が振り返ると、長身でグラマラスなエヴァンスが歩いてきた……サーラである。
もちろんここではサーラも全裸だ……大きなバストと、豊満な肢体が同志の中でも実によく目立つ。
そしてここにいるエヴァンスほぼ全員にとって、伝説的な存在でもある。
「おー、サーラさんも来たんだねｗ」
「レオン、ご苦労様……随分じっくりやったんだねｗ」
「まぁ、体験を共有する同志ですし、どんなモンかなって思ってｗ」
サーラに話しかけられたレオンが照れ臭そうに反応する……レオンにとってもサーラは別格の存在だ。
やや遠巻きに注目を浴びていることに気づき、リーがまた少し戸惑いの表情を浮かべる。
何しろサーラだけでなく、ピアスやイールもここでは“有名人”なのだ。
「ピアスとイールがセンターに来てくれて、ホントに助かったよ……また“大発生”が始まったようだしね。
今後は余りじっくりと、開放に時間を取れなくなるかも知れないな」
「そりゃあもう、他ならないサーラさんの呼びかけですもん、イールけしかけてすっ飛んできましたよｗ」
「今日も結構“新人”が入ってきましたよね……まぁ段階的に開放すれば良い話ですけど」
快活に振舞うピアスに対して、イールの振舞いはクールだ……レオンはちょうど、この２人の中間である。
「ネットでも登録を受け付けてるけど、既に新しい変異体が10万人を越えてるみたい」
「大発生の兆候が出始めてから、まだ２ヶ月くらいですよね……今回はどれだけ増えるんだろう」
「今回は“ネオス系”の比率が高いのも特徴かな、６年前はやっぱり“アナキス系”が圧倒的に多かった」
「ネオス系……まさにこの子のタイプですよね」
そう言って、レオンが再びリーに視線を向ける。
エヴァンスには幾つかの“亜種”がいる……最も古いのが“アナキス系”と“ロヴニス系”であり、
前者はサーラやピアスのように黄色い肌が多く、ロヴニス系は「元女児の変異体が多い」特徴がある。
ゆえにロヴニス系はエヴァンスの中でも、最も女性的な雰囲気を持っている（男児起源もいるのだが）
更に肌の色が大きく違うケースは“カラース系”の分類がなされている。
「……ネオス系、ですか？」
「そう……えぇっと、下腹部の“スリット”が前寄りなんだよね、アナキス系やロヴニス系よりも」
レオンに言われて、リーは再び自分の下腹部に視線を落とした……豊かな乳房が視界の１部を遮るが、
その下には確かによく目立つ“縦筋”が見えている……レオンやサーラよりもハッキリしたディテールで。
“ネオス系”に限らず、エヴァンスには実は「成熟した生殖器が形成されていない」特徴がある。
外観は女性の下腹部によく似ているのだが、そこには生殖器がない（厳密には未成熟）のである。
そして特にネオス系は、女性器に似たスリット状の器官が「女性よりも前寄りにある」のが特徴の１つで、
実の所「男性器が変化したもの」であることが分かっている……アナキス系は変異の過程で、
尿道に当たる器官が前方から下方に移動するのだが、ネオス系は「前方にそのまま残る」のである。
スリット状器官の両側に形成される“肉のヒダ”も、元々は「睾丸だった部分」なのだ。
男性器そのものは変異の過程で消滅するが、その“基部の位置”が変異前とは変わらないために、
本来の女性やアナキス系よりも、「前寄りにスリットが付いている」ような形になるのだ。
第２次性徴を迎えていない女児にも似たところがあるが、体自体は成人並みに成熟しているのである。
（※アダルト界隈で言われる“ロリ巨乳”に近いとも言えるが、体格もそれなりに大きいのだ^^;）
「そう言えば……みんなよりも、ハッキリしてる……のかな？」
「見た目は確かにそうだけど、“霊力資質の高さ”もネオス系の特徴だよ、それは全体のシルエットにも出る。
アリアス君も身長は高くないけど、凄くプロポーションが良いでしょ？」
「あーなるほどー」
“有名人たち”に容姿を評価されて、リーは戸惑いがちに可愛い照れ笑いを浮かべた。
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「まぁここでずっと話すのもアレですし、沐浴場に行きませんか？」
「そうだね、自分もそう思ってたんだよ……やっぱりあそこが“エヴァンスの社交場”だと思うしｗ」
日差しが注ぐ“中庭”で話していると、イールがふと、後方のドーム状の大きな屋根を指差した。
広い屋根は見えるが壁がなく、半屋外の空間が数十ｍ先に見えている。
「自分、さっき入ったばかりなんだけど……」
「２度３度入っても問題はないでしょ、この子を“デビュー”させたいしね」
「そうですね、じゃあ行きますかｗ」
イールに呼応するサーラにピアスとレオンが同意し、５人はドーム状の屋根の方に向かって歩いて行った。
屋根の高さは10m以上あるが、柱だけで支えられているため開放感がある。
休憩用のパーゴラ（東屋）を巨大化させたようにも見える。
そしてその下には、大きなプールのような水浴設備と、数十人というエヴァンスの姿が見えた。
“沐浴場”の縁までやってきたリーが、再び目を見張る。
市民プールを思わせる水浴設備の周囲で、エヴァンスたちが「裸の付き合い」を繰り広げているのだ。
水浴びで濡れた肢体がキラキラと光を反射し、とても瑞々しく感じる。
実はエヴァンスは「寒さには強いが暑さには弱い」という特性があるため、よくこうして水浴びをするのだ。
沐浴場の上にドーム屋根がかかっているのも、雨天でも利用出来るようにするための配慮である。
そしてここに“同志”が集まってくるため、必然的に社交場のような役割を果たしている。
全員裸だが、前記の通りそれが「エヴァンスにとっては当たり前」なのである。
「……ちょっと上がってる間に、また増えたんじゃない？」
「この十数分の間に、まとめて中に入ってきたみたいだね……こんなに賑やかなのホント久しぶりだな」
「これ数ヶ月後には“イモ洗い状態”になっちゃうんじゃないかｗ」
「イモ洗いって？」
「あーそっか、ピアスは使わないよねこういう表現……イモを洗うように大勢の人で賑わうって意味だよｗ」
そう言ってレオンが苦笑した……因みにレオン自身は台湾出身であり、母がイタリア人なのだ。
そのためジャパン・ミュータントセンターは結構高頻度で訪れており、日本のカルチャーもそこそこ詳しい。
ゆえに、日本の海水浴場などで見られる表現が、たまたま口を突いて出たのだ。
「おーピアスさん再来ｗ その子ももしかして新人ッスか？」
「そうだよメリオ、マカオからやってきたリー君、仲良くしてやってね〜」
沐浴場の縁にきたリーたちを、山吹色の肌とスミレ色の髪が印象的なエヴァンスが迎える。
南米出身のメリオ・ヤマグチだ……名が示す通り日系人であり、ネオス系なので下腹部がリーと似る。
その隣にはサーラ以上に背の高い黄色い肌のエヴァンスがいる……こちらはヴァナ・ルースである。
白目に当たる部分が濃い緑色に染まっている“変種”に当たるため、独特の雰囲気だが性格は大人しい。
サーラを圧倒する巨大な胸が存在を主張しており、全体にボリューム感が凄い。
実はこの２人も今回の新たな“大発生”でエヴァンスに変異しているため、広義にはリーの“同期”だ。
（画像挿入予定orz）
「んでそっちのでっかい子がヴァナ君ね、迫力あるけど大人しい子だよ」
「う、うゎ……！」
「ど、ども、初めまして……コンパクトなのにプロポーション良いですね」
「あ、ありがとうございます……」
「ヴァナ君って確か2010年生まれだよね……だったら、アリアス君と同い年だね」
「え、そうなんですか？」
「は、はは……し、信じられないですよね、こんなにでっかいと……」
そう――ヴァナはまだ12歳である……にも関わらず身長は2mを越える、こういう変異例もあるのだ。
因みにメリオは14歳であり、思春期真っ盛りの時期に変異したことになるが、前向きでオープンに振舞う。
「――あ、イオンも来てたんだね」
「ど、どうも……ボクもさっき来たんですよ、まぁ３度目ですけど」
「あれ、イオンが変異したのって確か１ヶ月前だよね……ってことは、もう３回も訪日したの？」
「……まさか、２度目ですよメリオさん、２回目はつい先週、それからまだ帰国してないですからｗ」
ヴァナの背後から潜るように来たのはイオン・カッシュだ……“彼”も2022年の変異でリーと同年代である。
コンパクトな体形だがかなり筋肉質なのが特徴であり、腹はきっちりシックスパックに割れている。
「イオンは自分と同じで、アクエリアスに縁があるもんね」
「サーラさんに誘われたようなものですけどね……何分こういう体形なので」
「す、凄い筋肉ですね……」
「これ、鍛えたんじゃなくて変異の所為なんですよ……だからまだ使い方が良く分からなくて」
「え、ホントですか！？」
驚くリーにイオンは苦笑いをする……そう、イオンの筋肉は変異の結果なのだ、ヴァナの長身と同じである。
イオンもネオス系であり、つまりネオス系はこういう個性的な体形変化もよくするのである。
「……ボクなんか、全然地味だな……」
「そんなことないよ、キミ凄くプロポーション良いじゃん、余計なモノ全然付いてない感じ」
「自分は巨大化しちゃいましたしねぇ」
「……あ、ごめん」
メリオはリーを賞賛したつもりだが、確かにヴァナには複雑に感じる言葉ではあったろう。
その横で、ふとリーはある“疑問”を感じたようである。
「……そう言えば、あの……ここって、タオルとか、置いてないんですか？」
「あぁ、そういうことね……ここにはタオル置いてないよ、建物の中にはあるけどね」
「えっ、タオルないんですか？」
「ここで使う必要がないからだよ、みんな裸だし、濡れても支障はないでしょ？」
「外を歩けば10分もしたら乾いちゃうしねぇｗ」
リーの疑問に、メリオやピアスは「あるある反応」を見せる。
そう、確かにこの沐浴場にはタオルを置いていない……半屋外の施設である所為でもあるが、
エヴァンス・ゾーン内では基本「裸の付き合い」なので、濡れた体を拭く要請自体が少ないのである。
「……そっか、拭く必要がないのか、ここでは……」
リーは誰ともなく呟く……今や自分の裸体も、沐浴場の水を浴びてキラキラ輝いている。
そんな自分の姿をもう１度眺めて、今度は納得するように小さく頷き、柔らかな笑顔を浮かべた。
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【Meking Memo／設定補記】
2023年に作成した、シークレット・コンテンツ向けのショートストーリーである。
“ＴＳミュータント”エヴァンスの個性的な（笑）ライフスタイルをまとめたものであり、
2015年頃の“開放儀式イラスト”に登場させたアリアス・リーを中心に話を書いている。
第２次エヴァンス大爆発が起きた2022年に設定しているのも、リーの変異年に合わせたものである。
（そのため“狂気の殿堂”とは言い難いため、≪外伝≫という扱いになっている^^;）
なお2022年は執筆年である2023年の前年に当たるが、近くなったこと自体は偶然である（汗）
エヴァンス開放儀式は、男女のスキンシップのハイライトである“セックスプレイ”をモチーフにしているが、
体形的には「女同士」のエヴァンスが行うため、「似て否なる」設定になっており、
エヴァンスの空間浄化能力を顕現させるために意味のあるプロセスという設定になっている。
（女性同士のいわゆる“百合プレイ”がどういうものかは存じないが、多分これとは少し違うだろう）
女性ジェンダーを神話的に表現した種族とも言えるエヴァンスのイメージと、
セックスプレイの肉欲的なビジュアルの中間を意識して、作ったイメージでもある（爆）
これはG-maが「肉欲的なセックスプレイ」に余り強い関心を持っていないのも背景にある（苦笑）
そういう経験がないわけではない（数は１ケタだが経験自体はいちおうある^^;）のだが、
アダルト系創作の“ド定番”である「セックスプレイありき」の表現には、いまいち共感出来ないのだ。
女体イメージも「女性の体形自体に関心を持つ」タイプで、「ヤることありき」ではないのである。
……我ながら中途半端な“性癖”だとは思うが、そういう嗜好なんだから仕方ない（汗）
エヴァンスというミュータント種族の設定も、広義にはＴＳＦ（性転換フィクション）の１種だが、
「女性に似て否なる容姿に変異した元男児（メンタル維持）」という独自のコンセプトがあり、
G-ma自身がそういうキャラを想像すること自体に「萌える」のがきっかけになっている（爆）
体だけ女性化した元男子、というイメージはＴＳＦジャンル界隈で結構見られるものであるが、
「体の方も女性そのものではない」という捻りはさすがにほとんど見られない（苦笑）
ＧＤＷ世界観自体にも言えるが、モチーフを持ちつつ「似て否なる」設定にするのはG-maのクセで、
良く言えばこれも「オリジナリティ重視」である、とは言えるだろう（笑）
エヴァンス沐浴場のイメージも、開放儀式設定の前に確立したエヴァンス社会の様式の１つであり、
「裸で水浴びをする女体化少年」という構図に関心があったが故の設定である（爆）
隠れ家ビーチに集うヌーディストたちの会合に似ているところがあるが、偶然の類似であり、
開放儀式設定同様、「女性ジェンダーの神話的な表現」のアイデアの１つだったように思う。
因みにリーを開放したレオンは、当初ヴィノ・エリスとして考えていた設定だったりするが、
外観イメージがヴィノよりやや細く小柄であったため、新キャラとして分離派生させた経緯がある。 |
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