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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CM2130712B） |
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前例のない、しかも荒唐無稽な混乱に遭遇した世界。
その中にある極東の島国・日本の首都にして、金融センターの１つである東京。
“混乱の勃発”から３６時間が過ぎた今も、その余波に翻弄され続けている。
時刻は狂い、信号は止まり、交通は麻痺し……今なお、回復のめどは立っていない。
そして今、この総人口１０００万人を超す巨大都市の真っ只中で、
混乱に更なる追い討ちをかけるように、異常極まりない事件が起きていた。
白昼堂々、副都心の１つである渋谷の中心街に姿を現した、１０数人の漆黒の怪人たち。
彼らは突如地下から現れたかと思うと、いきなり無差別攻撃を始めた。
その攻撃を阻止するために駆けつけた警官たちも、まるで虫のように蹴散らされた。
怪人たちは警官の銃撃をものともせず、人間離れしたハンマーのような腕や脚をふるって、
秩序を守る勇敢な人々を、まるでオモチャのように“破壊した”のである。
そんな“戦場”渋谷に向かって、黒塗りの輸送ヘリが２機、ローター音を響かせて飛んでいく。
陸上自衛隊立川駐屯地に所属する、佐津間三佐率いる第１航空隊である。
その中には佐津間の同期で屈強なレンジャー隊員である、斉藤一尉率いる小隊が乗り込んでいる。
斉藤たちの手にはガラス玉のような“銃口”を持つ奇妙な銃器。
“異世界の同志”尾形たちから託された新兵器・メーサーライフルである。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第２章 怪人兵団襲来 ★
2013年7月12日―日本・渋谷事件其の２
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渋谷の都心部から、淡い黒煙が立ち上る。
怪人たちが破壊した乗用車の１部が、炎上しているらしい。
不吉に揺らめくオレンジ色の光の奥に、軍隊アリのような黒い群れがうごめいている。
その中の１人……漆黒のハサミを持った異形の怪人が、吐き捨てるように呟いた。
「ふん……まったく他愛もないな、人間という生き物は脆過ぎて物足りん。
おいスパレイダーよ、こんな場所で本当に使える素材が期待できるのか？」
「こいつらは治安維持の為に威嚇行為しかできない連中だ、最初から期待してないさ。
私が求めるのは、素手で我々に挑もうとする、真に無頼なヤツだからな」
スパレイダーと呼ばれた、３つの赤い目を光らせる怪人が、冷静に言い放つ。
いや良く見ると、３つの目の周囲に、更に５つの小さな目がある。
まるでクモの目を思わせるが、クモとは配置が違う。
「だが、白昼都心に殴り込めばいい、と言ったのはお前だぞダークシザース。
言い出した本人が結果を軽んじるのは関心できんねぇ」
「ライダー共がいないのなら、こそこそやる必要などないだろう。
改造人間である我々が、何が楽しくてそんな貧相なことをやらねばならんのだ、ん？」
「気が早いな……まだ奴らがいないと証明されたわけじゃない」
そう言って、スパレイダーは用心深く辺りを見回す。
交差点の奥からは、恐怖に満ちた何十もの目が、遠巻きに“無差別テロ”の現場を眺めている。
「おいおい、奴らがいると言う気か？ 大首領の魔力に守られた我々ならいざ知らず、
裏切り者の集まりに過ぎん奴らが、こんなところに来れるはずがないだろう」
「だがね、推測だけで動くのは失敗する原因の１つだぞ……これまでもそうだっただろう」
勢い付く黒ハサミの怪人――ダークシザースを、スパレイダーは淡々とした口調でたしなめる。
そこに……槍のように長い腕を持つ、長身の怪人が割って入ってきた。
「けどよぅ、俺たちみたいなのに勝てる人間なんかいないだろ、アヘアへへへへ♪」
「勝ってもらう必要はないさシザーランス、我らとて負ける気はない。
しかし、スカウトするなら勇猛でなければ意味がない……そう、“あいつ”のようにな」
「またあいつの話か……お前の自慢話は再生されても変わらんな。
そいつに裏切られて、我らショッカー連合がどれだけの痛手を受けたか分かってるのか？」
「あれ以上の素材が見つからなかったことは、我々にとっては確かに不運だったよ。
だから世界を超えて探しに来たというわけさ……我らが偉大なる大首領もそれが目的のはず」
「大首領様万歳ってヤツだなぁ、アへへアヘアへ♪」
「ふん、まぁいいさ……これだけ派手にやれば、そのうち軍隊が動くだろうよ。
軍隊なら少しはマシなヤツも期待できる可能性があるしな」
その時――上空にけたたましいローターの音が響いた。
音は渋谷の都心を眺めるように、ゆっくりと旋回しているように思える。
「どうやら――お出ましのようだぞ」
「ショータイムってヤツだなぁ、俺はいつでもいいぜぇ♪――そうだろ、お前ら！」
「イイイイイイッ！！」
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「目標確認しました、数は１８、３丁目の通りを移動中です！」
輸送ヘリの機内で、地上の様子を目視で伝える自衛官……すぐ後ろに斉藤がいる。
「白昼こんなところに現れたってことは、下水管を利用した可能性が高いな。
だが……人間にも見えんのが３人いる、あいつらは何者だろう？
それにしても容赦ないな……血の海ってのはいつ見ても見慣れる気がしない」
輸送機から地上まで２００ｍほど……怪人たちがいる場所までは３５０ｍほどだろうか。
その周囲の道路に、１０人を超える赤い人影が倒れている……恐らく、襲撃された警官たちだろう。
何台かの乗用車も破壊されているらしく、２台ほどからは煙が立ち上っている。
「隊長、応援の要請はどうしましょうか？」
「呼んでくれ。まだ具体的な戦力は見えないが、少なくとも中隊くらいはいるだろう」
「斉藤どうする、このまま地上に降りるか？」
「あぁ、だが連中から少し距離を取った方がいいだろうな」
「もちろんそのつもりだ」
佐津間は目を合わせずに斉藤に話しかけながら、ヘリの高度をゆっくりと下げる……後続のヘリも続く。
「斉藤隊長、防衛隊の指揮官から、情報が欲しいとのことですが」
「分かった、つないでくれ」
『斉藤一尉、尾形です。 現場の情報はどうなっていますか？』
無線機に出たのは陸上防衛隊の尾形一尉だった。
出撃直前、斉藤たちに“異世界の兵器”メーサーライフルの使い方を伝えた青年である。
「こちら斉藤。 黒服の戦闘員らしいのが１５名、それと妙なコスプレ連中が３名いる」
斉藤の「コスプレ発言」に、居合わせた数人の部下が、軽く苦笑する。
だが斉藤がじろりと睨みつけると、すぐに真顔に戻った。
警察から伝えられた情報では、“コスプレ連中”が只者でないことが分かっていたからだ。
『コスプレ連中、ですか？』
「まぁホントはコスプレじゃないのかも知れんが、だとしたら人間じゃないことになるな。
あんたが昨日言ってた、怪獣ってのとは違うと思うが」
『怪獣にも人間サイズのがいますからね……まだ分かりませんよ。 あと何か、戦闘車両のようなものは見えますか？』
「上から見る限りではいないようだ、マンホールが何個か外れているようだから、
下水管を使ってここまで来た可能性がある、だとしたら車両は要らないことになるよな。
あと銃器を持っている様子もないな……警察の報告でも、銃を使った形跡はなかった」
『下水管ですか……そちらも封鎖した方が良いかも知れませんね。
今、そちらから応援要請を受けました。 すぐ向かいますので、引き続きお願いします』
「了解、これより降下して接近し、詳細な情報収集を試みる」
輸送ヘリは更に高度を下げる……やがて“現場”がビルの影に隠れた。
現場から２つ目の交差点の上、駐車場工事予定地の広場に降下する予定である。
広場には数名の機動隊員がバイクで急行し、降下に邪魔となる工事機材を撤去していた。
現場までの距離はおよそ１５０ｍ……間には数十の雑居ビルが並ぶので、迎撃への対処も可能だ。
それほど速くはないが、怪人たちは徐々に拡散を始めている……急がねばならない。
警官隊が相手にならないような連中を、完全に市街地ゲリラ体制に移行させてしまっては厄介だ。
敵の動きが“遅い”のは、この場合幸いだったのかも知れない。
……これは余裕の意思表示なのだろうか？
「嫌味な連中だぜ……まるでこっちを誘ってるみたいだ」
「斉藤、あと５秒で接地する」
「よし、半分は俺の後に続け、半分は反対側から接近を……西村、お前が指揮を取るんだ、できるな？」
「了解！」
「斉藤、偵察が優先だぞ？」
「分かってる、だが市民も守らんと行かんだろ……よし展開！」
土ぼこりを巻き上げる輸送ヘリの横に取り付けられたドアが勢いよくスライドし、
斉藤を始め数名が素早く飛び降りて行く……すぐさまビルの壁に張り付き、足早に交差点に。
反対側のドアからは別の隊員が降り立ち、斉藤たちとは反対側に向かって駆けて行く。
こちらは斉藤の後輩にして有能な部下である、西村大介二尉である。
地上はまだ避難の最中だった。
この混乱の中で営業している店がこんなにあったのか、と思うほどである。
まぁ、数千人ではきかない市民が避難完了するには、簡単には行かないのだろう。
学校や大企業の避難訓練とは色々勝手も違う……普段防災有利に作られていない繁華街なのだから。
怖いもの見たさで避難指示を無視するバカどもがほとんどいないだけ、マシだったとも言える。
「この向こうだ……いいか、くれぐれも油断するな、俺の後に付いてくるだけでいい」
怪人と正面から交戦する気はない……しかし市民を守るためには、囮になる覚悟も必要だ。
斉藤は深呼吸し、携行するメーサーライフルを両手で確認するように持ち直す。
そして自ら、怪人たちと正面から対峙する通りに、その身を躍らせた。
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「来たぞ――正面の通りだ」
「相変わらず良い目だ、伊達に８つ付いてないな♪」
「ヒァアァッヘェアァ！ 俺が１番乗りだ、付いて来い“戦闘員”ども！」
「イィィイイィィ！」
斉藤たちの姿を確認するや否や――真っ先に飛び出したのはシザーランスだ。
青黒いサワガニのような甲殻に覆われた巨躯が、まるでバッタかコオロギのように跳ねる。
「ほォぉれェぇっっ、俺のハサミに刺されたいヤツはどいつだァアァっ！？」
――ザゴンッッ
鉄板をぶち抜くような音と共に、路上駐車してあった乗用車が、引きずられるように横滑りした。
見れば――シザーランスの左腕の先に生えた、巨大で細長い“ハサミ”が、
ちょうど槍のように乗用車の車体を貫き、力任せに引きずっている。
「こォぉンな風に――よォおぉォっ！！」
そのまま腕を振り上げるシザーランス――１トンはある車が、まるで段ボール箱のように持ち上がった。
その反動で“槍”に貫かれたボンネットがめくれ上がって弾け飛び、
エンジンの黒い塊をむき出しにされた車が、斜めに跳ね上がりながら、斉藤らの方へ転がって行く。
「なっ――こいつらっ！？」
斉藤は１瞬、目を疑った――無理もない。
視野に入った怪人の１人がいきなり、通り魔のように奇声を上げて飛び出してきたに留まらず、
停めてあった車の１台を、いとも簡単に――そして乱暴に――放り投げたからだ。
「やっぱりあいつら、人間じゃねぇらしいな……マジかよ」
斉藤は両手でメーサーライフルを構えたまま、転がる車の線上から身を逸らす。
可能な限り大回りせず、その前に小走りで進み出る。
こんな怪力の持ち主を前に、無駄な体力を使っている余裕はない。
「人間じゃないなら……そういう戦い方をするまでだ！」
間もなく……斉藤とシザーランス、そしてスパレイダーの視線が交錯した。
「……ほぅ、あのパフォーマンスに驚かないか、悪くないね」
「何だぁオイ、余裕ぶっこきやがって人間如きが、そんな銃が俺に通じると思ってンのか！？
おいお前ら、目にもの見せてやれ――あん？」
「イイイイ――イ”アァア”ァッ！？」
シザーランスを守るためか、それとも単にプログラムされた行為だったのか。
斉藤を斜め左右から袋叩きにせんと飛びかかってきた漆黒の怪人――戦闘員たちが、
しかし斉藤にその剛腕を振るう直前に、悲鳴を上げてのけぞった。
よろめく戦闘員たちの戦闘服のあちこちから、白煙がシュウシュウ、と噴き上げている。
斉藤のメーサーライフルが、戦闘員を捉えたものだった。
初めて使った武器だが、その“光線”は１発も外さずに命中していた。
「ふむ、どうやら……効果は、あるみたいだな」
「何だよ今のは……光線銃持ってるとか、俺聞いてねぇぞ？」
「あと言葉も通じるらしいな……今のを見ただろう、抵抗するな、今度は頭を狙う！」
そう言って、斉藤はメーサーライフルの銃口をシザーランスに向ける。
その姿を見て、ダークシザースが低い笑い声を上げた。
「くくく……何だ、意外に面白そうな奴がいるじゃないか」
「て……てめぇら……ふざけやがって！」
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“戦闘開始”から数分が過ぎた。
“戦死者”こそ出していなかったものの、斉藤率いるレンジャー小隊は苦戦していた。
「アへへアへアへへ……どーォしたァ、さっきの威勢はどこに行ったんだよォ」
「……ちっ」
確かにメーサーライフルは、迫り来る戦闘員を、その度に後退させられる効果があった。
警官隊の銃撃がまるで無力だったことを思えば、大きな成果と言える。
しかしその１方、１発で確実に撃破できるほどに強力な装備でもなかった。
戦闘員１人の動きを鈍らせるのに、隊員たちが１０発以上の光弾を浴びせる必要があり、
１人の足止めをしている間に必ず別の戦闘員が仕掛けてくるため、
隊員たちは犠牲を避けるために否応なく、防衛ラインの後退を余儀なくされていた。
しかも３人の怪人たちのうち、戦闘に参加しているのはシザーランス１人。
あとの２人――スパレイダーとダークシザースは、余裕の表情でこれを観戦していた。
これが人間のテロリストなら、銃器で包囲すればそれなりに時間稼ぎが出来る。
偵察を主任務とする先遣隊だから、本格的な戦闘が難しいのもあるが、
銃すら持っていない襲撃者相手に包囲陣形も維持できないとは、斉藤も思わなかった。
「……バケモノめ」
「バーカ、てめぇら人間が弱いんだよォ、そんなのも分かんねーのかァ、アヘアヒャヒャ♪」
斉藤が必死で応戦しているシザーランスも、脳味噌は弱そうだが強敵だ。
槍のような左腕の鋭いハサミを使った打撃だけではない……口から吐く泡も強力な溶解液であり、
“流れ弾”を受けた車のボンネットに抉ったような穴がぽっかり開いている。
掠っただけで、斉藤が履いている強化ゴムのブーツもボロボロになった。
わずかに浸透しているのか、斉藤の足指に、希硫酸に触ったような熱の感覚がある。
それに、斉藤には明らかに、怪人たちが“手加減”していることに気付いていた。
テロリストに遊ばれるなど屈辱だが、確かに“戦闘力”の格差は一目瞭然なのである。
車を難なくスクラップにするような相手だ、最初から本気なら今頃命はなかっただろう。
「スパレイダーよ、あの軍隊……いや自衛隊の指揮官、中々いい人材じゃないか？」
「だな、加減してるとは言え、シザーランスとこれだけやり合える人間もそうはいまい。
大柄なのに素早く勘も鋭い、改造したらどうなるだろうな」
「……改造、だと……？」
シザーランスと交戦しながら、斉藤はスパレイダーたちの会話を小耳で聞いていた。
この怪人たちが“改造された人間”であることを、強く示唆する内容だったからだ。
「……こいつら、こんなナリで“元人間”だったりするのか？」
「うおォいコラぁ、どォこ見てんだお前よォ、いい度胸してンじゃねぇかァ！」
斉藤がスパレイダーたちの会話に、ふと気を逸らした瞬間を敵は見逃さなかった。
素早く間合いを詰めたシザーランスが、片腕の巨大なハサミを振り上げる。
「俺を舐めたバツだァ、そのドタマかち割って、脳味噌食ってやるァ！！」
「！？――しまっ……」
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その時だった。
――ヴォオォオォォンッッ
斉藤たちが怪人たちと対峙する、その反対方向から、爆音と共に何かが飛び出した。
アイボリーホワイトのカウルに覆われたオートバイと、それにまたがった暗緑色の人影。
「――なっっ」
「そ、そんな馬鹿な！？」
怪人たちは、その姿を見て、口々に動揺の声を上げた――どうやら、知っている顔らしい。
腰にまいた風車のようなベルト、強いアクセントを放つ真っ赤なスカーフ、
そして昆虫を連想する個性的なヘルメット。
その人物は――あたかも斉藤をかばうように、戦闘の真っただ中に飛び込んできた。
「何だ！？」
「まったく……虫の予感というのはよく当たる」
「あ、あり得ん……何故貴様がここにいるんだ、１号ライダー！！」
「おいおいおい、マジかよホントにいやがったよ」
「虫の予感か……全く同感だ」
“１号ライダー”と呼ばれた仮面のライダーは、背中越しに斉藤に語りかけた。
「ここは俺が引き付ける、あんたは下がってていい」
「……何だよあんた、いきなり割り込んで……どうやら、あいつらを知っているようだが」
「……表の人間には話しても理解しちゃもらえんよ」
“１号ライダー”は中年くらいの男性の声で、どこか諦めたような口ぶりで言った。
「納得できないな、信じてもらいたいなら話せばいいじゃないか。
そもそもこいつは公務執行妨害だぞ、日本語が分かるならその意味も分かるだろ？」
斉藤の“反論”を背中越しに聞いていた、１号ライダーのヘルメットから苦笑が漏れる。
「……頑固だな、あんたは……だが勇敢だ、国を守る者はそうでなくては困る。
ならば簡潔に言おう。 あいつらは世界征服を企む改造人間だ」
「世界征服って……漫画みたいな話だな。 ――だが、改造人間ね、つまり“そういうこと”か」
斉藤は先ほどの怪人たちの会話を思い出していた。
１号ライダーとやらの言い分が事実なら、どうも本当に“元人間”らしい。
にわかには信じがたいが、人の言葉を話すのだから、それも合理的と言えば合理的なのだ。
「漫画ね……それが常識を知る者の反応だろうな」
「何をごちゃごちゃと……さっきは驚いたが、よく見れば１人じゃないか。
誰かさんが絶賛した１号ライダーとて、たった１人なら恐るるに足らん！」
「そうだそうだ、こっちは３人だぞ、勝ったようなつもりになってんじゃねぇ！」
斉藤と１号ライダーのやり取りをぽかんと眺めていた怪人たちが、再び気勢を上げた。
確かにまだ“戦闘中”なのだから、忘れられるわけには行くまい。
「戦闘員は数に含めてないか……実にお前達らしいな」
吠え立てる怪人たちを横目に、１号ライダーは悠々とオートバイ――サイクロン号を降りる。
その慣れた振舞いは、これまで何度も、戦ってきたように見える。
と、そこに斉藤が１歩、進み出た。
「おい、たった１人とは心外だな……俺は無視か？」
「……はァあ！？ お前まだやる気？ 自分が弱いって分かんねぇのか！？」
「手加減してることにも気付かなかったか？ これだから人間ってのは愚かなんだ」
「それがどうした、俺は自衛官だ、この国を守るために仕事してるんだ、そのためにここにいる。
まぁテロリストには理解できないだろうな、別に期待しちゃいないが」
今度は１号ライダーのヘルメットの中から、呆れたような声が漏れた。
「おいおい……本当に続けるつもりか？ 相手は１人でも軍隊を相手に出来る――」
「理解してるつもりだ、さっきまで交戦してたんだからな、それにこっちもこれが任務だ。
あんただって勝手に任務を横取りしたら、罪に問われるんだぞ？」
そう言って斉藤はにやり、と笑った。
確かに治安維持任務遂行中の隊員の行動を邪魔すれば、公務執行妨害である。
しかし“支援する”ならば法には触れない……民間の消防団のように。
「奴らと戦い慣れてるなら、そいつを教えてくれ……後方支援ぐらいは出来るつもりだ」
そう言いながら斉藤はメーサーライフルを再び構える……後方の部下達も続いた。
「……自衛官というよりも、まるでサムライだな」
「間もなく応援が駆けつける……数分持ちこたえればいいんだ」
戦意喪失どころか、逆に士気を上げる自衛官たちを見ながら、今度は怪人が目の色を変える。
世界の覇者を目指す彼らにとって、こういう敵こそ潰さなければならないからだ。
「……どうやら、お遊びは終わりのようだ」
「上ォ等じゃねぇか、てめェらまとめて串焼きにしてやるっ！」
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「ぎぃィぃィぃっっ、こンの“くそライダー”がァぁっ！！」
シザーランスは“飛び入り参戦”した１号ライダーに、今度は逆に苦戦を強いられていた。
鉄板をも切り裂く槍のようなハサミも、強酸の泡も、直撃せねば何の意味もない。
しかも――人間と大差ない体格にもかかわらず、１号ライダーのパンチは“重かった”。
まるで“砲弾でも喰らったような衝撃”を腹に受けて、シザーランスの巨躯が街路灯の柱に叩きつけられる。
メキメキと破壊音を響かせ、火花を散らして街路灯が倒れて行った……飛び散るガラス片。
「ぐォっ……おいコラ戦闘員ども、何やってんだ、俺様を援護しやがれ！」
「イイイイイイ！！」
シザーランスの声を受けて、展開していた戦闘員が飛び掛る――だが。
後方から“光の弾”をしたたかに浴びて、数体ほどがバランスを崩して路面に突っ込んだ。
斉藤とその部下のメーサーライフルによる援護射撃である。
斉藤たちだけならば明らかに不利だが、最前線で格闘してくれる戦士がいれば、その限りではない。
「少しは実感したか？――お前の相手は“１人じゃない”んだ」
「その言葉――そのまま返してやるよ」
１号ライダーがふと、質の違う殺気を感じて飛び退る――刹那、その空間を黒い影が切り裂く。
振り返ると、ダークシザースが、殺気に満ちた恐ろしい笑顔で立っていた。
コウモリに似た生物的なマントの先に指があるが、それとは別に脇腹から黒いハサミが１対。
見ようによっては、腕が４本あるようにも見える……片腕がハサミのシザーランスとは大きく違う。
「余興は終わりだ１号ライダー……貴様こそ、相手が１人じゃないことを思い知れ」
「状況が変わると別人だなダークシザース……ここに来る前は逃げ回っていたくせに」
「黙れ裏切り者！ 貴様に反論する資格などない！」
「……裏切りはお前の得意技だろうが、ガニコウモルと呼ばれていた頃の記憶はないのか？」
「おのれ――まだ言うか！！」
ダークシザースは、翼のようなマントを広げて、１号ライダーに飛びかかった。
“重量級”にも見えるシザーランスとは全く違う、軽やかな動きだ……まるで重力を無視するように。
黒いハサミの切れ味は抜群だ……道路標識の鉄パイプなど、雑草の如く難なく切りさばく。
１号ライダーもこれを跳躍して交わす……こちらもバッタのように身軽である。
だが――そのために、わずかに注意が逸れたことも確かであった。
気配を殺してゆらりと近づいたシザーランスが、背後からがっちりと１号ライダーに組み付く。
「しまった……！」
「おせぇよバァカ、今てめぇの延髄、ドロドロに溶かしてやるぜ！」
「良くやったシザーランス、そのままにしとけ、これから裏切り者の公開処刑だ！」
「くそ、させるか……援護しろ！」
「おぉっとォ、そうは問屋が大根おろしだぜぇ、アへヒャヒャヒャ♪」
シザーランスは１号ライダーに組み付いたまま、力任せに斉藤たちに向き直った。
「そぉらァ、撃てるもんなら撃ってみろよ、先に１号ライダーが蜂の巣になるぜぇ――」
――ボゴッッ
「――ほごぁっ！？」
勝ち誇りかけたシザーランスが、背後から強烈な衝撃を受けて吹っ飛んだ。
投げ出される形になった１号ライダーは、すぐさま体勢を立て直す。
シザーランスの背後から“特攻”したのは１号ライダーの相棒――サイクロン号であった。
誰も乗っていないにも関わらず、サイクロンはまるで意思を持つかのように走り去る。
「さすが――最新型のＡＩとジャイロシステムだな、結城らしいハイテク仕様だ」
「んぎぎぎ……畜生ォ、そんなのアリかよぉ！？」
まぁ、改造人間よりも現実的な技術ですしおすし。
「誰かを褒めている余裕が今の貴様にあるのか――１号ライダー！」
なおも頭上から飛びかかろうとしたダークシザースだが――突如、がくんと失速した。
「ぬっぐ……この、人間どもめが！！」
バランスを崩したダークシザースの生体マントには、複数の焦げ跡と小さな穴。
斉藤たちのメーサーライフルが、集中射撃で撃ち抜いた跡だった。
緑色に血走った目で睨み付ける怪人を、斉藤も負けじと睨み返す。
「さっきまで無視してた人間どもに撃墜された気分はどうだよ、コスプレ野郎！」
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| （渋谷事件其の３） |
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【Meking Memo／設定補記】
2009年頃に草稿を作成したエピソード。
当時はまだ旧ＯＷ企画であったが、ＰＡ期に入っても基本的なシナリオは変わっていない。
（現在のエピソードは旧ＯＷ『ファーストクライシス始動編２章３話』を再編したものである）
“ＧＤＷ版大ショッカー”に当たる、ショッカー連合の怪人たちが登場する。
いずれも本家仮面ライダーシリーズそのものではなく、G-maの意向でＳＦ的なアレンジを行い、
本家のクモ男はスパレイダー、シオマネキングはシザーランス、
そしてガニコウモルはダークシザースとそれぞれ名前が変わっているのも特徴の１つ。
『仮面ライダー・ネクスト』に登場したシザースジャガー（ハサミジャガー）の影響もある。
ただしこの３名を斥候として選んだきっかけ自体は、柄ベロス氏の提案に由来する。
ショッカー戦闘員（ショッカロイド）のデザインも本家とは大きく異なっており、
メタリックなマスクをした強化兵のイメージになっている。
デザインのルーツはドクロを思わせるマスクをした本家のショッカー戦闘員にあるが、
“ＧＤＷ版”は普通の人間にはまるで太刀打ちできない、無感情な戦闘マシーンとなっている。
（本家も「常人の３倍強い」設定だが、一般人が撃退してしまうシーンがある^^;）
これは「ヒーローに無双されるためだけに登場する雑魚キャラ」をG-maが好まないためだ。 |
