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★ＣＲＩＳＩＳ外伝／ＣＦＤシリーズ 統合ナンバー：EA-ATT18501N（N-EA221A01） |
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「……腹減った」
行けども行けども深い森。
高かった陽は次第に傾いて、木々の影が細長く見えるようになってきた。
影の方向からすると、おいらは今北に向かってるってことか。
……この“異世界”が地球と同じように、反時計回りに回転しているなら、だけどねぇ。
異世界って今書いたが、それはここがおいらの“知ってる世界”じゃないからだ。
どこか別の国かも知れん、とかも考えたんだけど、それもあの風景見たら吹っ飛んじまったよ。
だってどー見ても中世かそこらの風景で、誰も文明の利器を持ってねーもん。
映画やアニメで見た、「剣と魔法のファンタジー世界」そのまんま。
目を丸くしたってのはこのことだよ……すわドラ○エの世界にでも迷い込んだか！？ ってな。
流行りの“異世界転生”ってやつかとも思ったが、ちょっと違うんだなこれが。
おいらの姿は基本、全然変わってないからねー。
カーキ色のシャツに迷彩柄のズボン、生えてる手足は青黒いウロコに覆われてる。
髪の毛と目の虹彩は赤く、尻のちょっと上から長い尻尾が生えている。
――そう、実はおいら自身がいわゆる“普通の人間”じゃなかったりする。
元々は人間だったはずなんだけど、“改造”されてこんな姿にされちまったわけよ。
……んま、20年は前の話だから、おいら自身は今の姿にすっかり慣れちゃったんだけどね。
おいらの名はジーラ。
元いた世界の“裏側”じゃ、それなりに有名人だったんだぜこれでも。
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ＣＲＩＳＩＳ ＣＦＤ
クライシス外伝――ＣＦＤシリーズ
★ 亜人の村 ★
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おいらがこの世界で“目覚めた”のは、数時間ほど前のこと。
のどかな木陰でイビキかいて爆睡してたらしい……んで起き上がったら「ここどこやねん」と。
意識が吹っ飛ぶ前に何が起きたのか、まだちょっとリアルには思い出せない。
21世紀生まれだけど、まだ脳味噌に外部記憶チップとかを埋め込むような時代じゃないもんなぁ。
んでぶらぶら歩いて行くと、30分くらいで小さな町にたどり着いたんだが、
それがさっき書いたように、ファンタジー映画の世界から出てきたような風景だったわけで。
剣を持ったおっさんがいたり、杖を持った姉ちゃんがいたり。
そんなところに、青黒い肌と尻尾が生えてる“獣人”がのそのそ踏み込んでったもんだからさぁ大変。
自分の“人外”な外見にビビられるのは慣れてるが、こうもパニックになると収拾が付かない。
しかも人々の反応は、どうも“魔物”みたいな存在をリアルに知ってるらしい。
知ってたらもう少し落ち着けよなと思うが、人間そう簡単に冷静にはなれないもんなんである、うん。
まぁその魔物とやらに、色々悩まされて来たんだろうねぇ、こいつらも。
「いやいやいや、おいら別に怪しいもんじゃ……って聞けよ、お願い聞いてっっ！」
おいらは必死でなだめようとしたんだが、獣人１人じゃどーにもならない。
怪しいモンじゃねーですって言っても外見は「人間じゃない」んで、とーぜん誰も信じちゃくれない。
後見人の１人でもいたら何かが違ったのか、それも今となっては仮定の話でしかないのだよチミ。
そんなわけで、剣や杖を振りかざして攻撃しようとする奴らを振り切って、おいらは逃げ出した。
いざとなったら多分、あいつらを返り討ちに出来るくらいの能力を持ってる自信はあるが、
おいらはこう見えても平和主義なんで、逃げて済むなら逃げるわけである、スタコラサッサとな。
……おいらの体に組み込まれている“怪獣ゴジラ”の遺伝子は、もう少し勇ましいんだろうけども。
無我夢中で逃げてたら、深い森の中に飛び込んで、んで迷い込んでハイ現在地orz
力には自信があるが、おいらは足が速い方じゃない……普段はパワーアシストブーツ履いてるんだが、
「異世界転送」されたら何故かそこだけ消滅しやがったんで、今はとーぜん裸足である。
だから今のおいらは21世紀の地球から来たのに、文明の利器を全く持ち合わせてないわけであるoez
……んま、スマホを持ってたとしても、異世界じゃ使いもんにならんだろーけどねっ。
戻ってもしゃあないので取り合えず歩き続けてるんだが、どこに行けば良いのか、はてさっぱり。
腹も減ってきた……まぁ２〜３日食わんでも餓死しないと思うが、食欲は制御出来ないものである。
いざとなれば、ネズミでもヘビでも何でも食えるから、まぁそんなに悩んじゃいないが、
こういう状況に追い込まれるのも久々なもんで、食卓のディナーがちょっと懐かしいのである。
仕方ないではないですか、おいらも心はにんげんだもの。
「こーやってぶらぶら歩いてたら、また元の世界に戻るとか………………だといーな」
独り言痛いとか言うな、１人で深い森の中歩き回ったら、そんな気分にあんたもきっと多分なるはず。
――とその時、ふとおいらは“生き物の気配”に気がついた。
……森の中なんだから、そこいらに生えてる木々も生き物だろう、とか突っ込むんじゃねーよ？
分かるやつは分かると思うが、ここで書いてるのは“動物”の方だ。
しかもタダの動物じゃない……知的な振舞いをする“何か”が、アウトレンジでおいらを見てる。
具体的に解説出来る知識はないが、おいらには気配が“文明種”かそうでないか、区別出来るんだぜ。
おいらを魔物と決めつけて攻撃してきた人間どもか、それとも逆にその魔物なのか。
そこまでは分からねーが、「誰かに見られている」ことだけは間違いねぇ。
おいらは気付かないふりをして、さらに森の奥へと踏み込んでいく……気配も距離を取って追ってくる。
さぁて……どこで仕掛けてやろうかな？
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数分ほどそういう静かな“追いかけっこ”を続けていた時だ。
突然目の前で気配が大きく膨らんで、上の方から木の枝を打ち払うように何かが降りてきた。
重力加速度に従って「降ってきた」というよりも、翼を持つ何かが「降りてきた」くらいの速度だ。
そして間もなく――おいらはその「何か」の姿を確認した。
それは背中に大きな翼を生やした、神話の悪魔に似た姿を持つ、やや背の高い“少女”だった。
“悪魔娘”は手に騎士が持ってるような長い剣を持ち、鋭い目つきでおいらを見ている。
深い紫色の髪の横にはヒツジのような角を生やして、肌は普通の人間よりも白く、血色が乏しい。
顔つきは可愛らしいが、その目つきと着ている中性的な服の所為で、ちょっと地味かも知れん。
あからさまな殺気とはちょっと違うが、強い警戒は窺える……おいらも必然的に身構える形になる。
とその直後、背後の気配が急速に接近してくることに気付き、おいらは振り返った。
「……えっ！？」
木陰から飛び出てきたのは――こちらも“人外”のパーツを持った、やや小柄な“少女”だった。
翼こそ生えていないが、手足はトカゲのようなウロコに覆われ、ローブの裾からは尾が見えている。
顔つきは人間に近く、マズルも目立たない……心なしか、今のおいらとよく似てる。
“トカゲ娘”は手にした杖を突き出した――その先端に風の渦が巻き、小さなスパークが光る。
奇襲的に襲いかかってきた“風と雷電の魔術”らしきものを、おいらは横っ跳びで交わす。
パワーアシストブーツがあったら楽勝なんだが、やっぱり体がちょっと重い……もしかして太った？
するとおいらが跳んだ位置に、さっきの悪魔娘が剣を横に振り抜く形で飛び込んできた。
こっちもいわゆる“魔法剣”なのか、切っ先に炎の渦が巻いている。
「――んなろっ！」
おいらは咄嗟にその剣先に手を引っかけ、ジャンプして側転で交わした。
当然「燃える剣」に触ることになったわけだが、おいらの体は熱には強い耐性があるんだなこれが。
さらに追撃しようとする２人の“人外娘”を牽制するように、おいらは声を張り上げた。
「何だよ何だよ、無言でいきなり攻撃しやがって、おいらにも生きる権利があんだぞっ！！」
すると――２人の人外娘の動きがぴたり、と止まった。
戸惑うような表情でお互いに顔を見合わせる……どうもこっちの反応を「予期しなかった」らしい。
「お前……何者だ？ 魔物ではないのか？」
最初に口を開いたのは悪魔娘だ……口調は大人びてるが、声は高くて結構可愛らしい、ずるい。
「魔物……おいら自身はそんなのじゃないつもりだけどね……ていうか言えた義理かよ」
おいらがそう返すと、悪魔娘は悲しそうな表情を浮かべた……こりゃまた意外な反応だ。
その“ジャンル筋”の人が見たら「萌えそう」なリアクションだ、やっぱり可愛い、ずるいずるい。
「ナセルさん……この人、まさか――」
背後のトカゲ娘がそう呟いた……こっちも可愛い声だなおい、ちくしょー、おいらの立場何なのよ。
トカゲ娘に“ナセル”と呼ばれた悪魔娘は、小さく頷いた。
――ん？ 今このトカゲ娘、おいらを「人」と呼んだな。
間もなくその“理由”を、おいらは知ることになった。
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２人の人外娘は再び顔を見合わせ、間もなく構えていた剣や杖を降ろした。
どうやら、警戒を解いてくれたみたいだ……おいらが少し、ホッとした――その直後だった。
「お前……“元は人間だった”りするのか？」
……何で知ってるねん、と思わずツッコミが口から飛び出しそうになった。
だからさっき、おいらを「人」と表現したのか……待てよ、ってことはまさか――
「えらく鋭いなおい……まさか、そっちもそうだったりする？」
そう思っておいらは吹っ掛けてみた。
さっきのナセルと呼ばれた悪魔娘が「言えた義理か」と言われて悲しそうな表情をしたのも、
おいらの“推理”が正しければ、すんなり腑に落ちるってもんだ。
すると悪魔娘ナセルはおもむろに剣をサヤにしまい、おいらに向かって１礼をした。
「無礼を詫びたい……私の名はナセル・オルディネス、こんな風貌だが、いちおう“元人間”だ。
魔物の呪いを受けて、奴らに似た姿に変えられたのだ」
……やっぱりそうだったか、しかも魔物の呪いって、めっちゃファンタジーやん。
確かに見た目は悪魔娘だけど、魔力の匂いが少ないなとは思ってたんだよ……いやホントよ。
「……なるほどね。 おいらも悪かったよ、元人間にさっきの言葉は言うべきじゃなかった」
「いや、知らないなら仕方のないことだ……後ろにいる“ミリナ”も、私と同様に元は人間だった。
そう言えば、あなたはミリナと似ている、最初に見た時からそう感じていた」
……だったらも少し、フォーマルな応対でも良かったんじゃないかねナセルちゃん。
「ごめんなさい……あたしも普通の魔物じゃないなって思ったんだけど、ナセルさんが……」
“トカゲ娘”ミリナちゃんの言葉に、ナセルちゃんがちょっと白い顔を赤らめて咳払いする。
見た目は結構幼い少女だけど、さらっと年上のナセルちゃんに責任おっ被せるとか存外セコいよな。
「“村”を守るためには、警戒し過ぎることはないだろう……だが誤解は詫びる」
まぁ、誤解が解けたんだったら結果オーライだよ、うん。
それにしても……呪いを受けた元人間の悪魔娘に、トカゲ娘とはねぇ。
「何度も詫びる必要はねぇよ、おいらも誤解されるのは慣れてっからね……ジーラだ、姓はない」
「ジーラ殿か……ところで、この先に行く宛てはあるのか？」
「なぁーんもねぇ、どうしたら良いかな？」
おいらは正直に自分の現状を話した……隠したって始まらんからね。
するとナセルちゃんはミリナちゃんと目配せをして、すぐにおいらにこう言った。
「我々の“村”に案内しよう、付いてきてくれ」
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ナセルちゃんが案内した“村”は、入り組んだ巨木群の裏手の、傾斜地の奥にあった。
ぶらぶらと散策してたらまず見つからない、薄暗い密林の奥に小さな沢があって、
その先に“入口”よりはずっと明るい、急峻な谷底の盆地のような空間が奥の方まで広がっていた。
すげーな、まさに卑怯、じゃなくて秘境って感じの風景だぜ。
けどこういう場所が人間に切り開かれてない辺りも“異世界”の証拠だろーな。
現代文明社会だったら、空からヘリやドローン飛ばしたら、速攻で見つかる場所にあるし。
「人間たちの社会から追い立てられた、元人間だった者たちが、この村に住んでいる。
中には心まで魔物と化してしまう者もいるが、ここにいる者は皆、人間の心を残している」
「ここナセルさんが切り開いたんですよ、あたしたちのために」
おぅ、すげーじゃんナセルちゃん、可愛い悪魔っ娘だと思ったら“戦う村長”だったとは。
「あんたが作った村なのか……凄いじゃんか、おいらもそこまで行動的じゃねーわ」
「この渓谷の上に、元々私の父上が築いた小さな王国があってね……既に魔物に滅ぼされたのだが。
私も王子として戦ったが、敗北を喫してしまった」
「――え、王子？」
ふと違和感を持った言葉を聞いたと思ったら、ナセルちゃん、いや村長が可愛く苦笑した。
「今でこそこんな成りだが、私は元々、オルディア王国の皇太子だったのさ。
魔物との戦いに敗れた結果、魔族の小娘の姿に変えられる結末を迎えてしまったが」
何てこった……ナセル村長は元々「男だった」のか、おいらどころの話じゃねーじゃん。
「父上の王国は滅んだが、父上に鍛えられた王家の使命は、今も私の中に息づいている。
だからそのスキルを活かして、呪われた者たちのための村を新たに作ろうと思ったんだ」
刹那的に生きる21世紀の若造たちに聞かせてやりたい、素晴らしいベンチャー精神ですなぁ。
小さいけど誇り高い、だから魔物の標的にされたんだろうね……ヘビィな過去だわ。
おいらが村長の説明を感心しながら聞いていると、渓谷の中程にちらちらと動く影が見えた。
急峻な崖の中に、何段階も積み重なるように壁と穴だけの建物が見える。
多分あの壁の奥に、崖の中に深く彫り込まれた“地下住居”があるんだろーね。
こりゃまるでカッパドキアの岩窟都市ですなぁ、世界が違えば世界遺産になるかもよコレ。
崖の上の影は明らかにおいらの方を見ている……新しい訪問者に興味があるんだろーね、分かる。
そのうち何人かは崖に掘られた坂道を降りて、おいらたちの方に向かってきた。
何しろ村長自ら案内してるんだから、襲撃者でないことはお墨付きみたいなもんであって。
確かにその全員が、人間に似て否なる姿をしている。
哺乳類系の獣人を思わせる毛深いキャラもいれば、石像のような質感を持つキャラもいる。
そーいやこういうタイプ、おいらが元いた世界の“裏側”にも、ちょくちょくおったなぁ。
人間を異物に変えてしまう“狂気”は、どの世界にもあるってことか……イヤだねぇ。
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「ナセルさん、新しい仲間ですか？」
「あぁそうだ……紹介しよう、ジーラ殿だ、どうやらミリナと似たような境遇らしい」
間もなく――おいらは、秘境の村に住む“元人間”たちに取り囲まれた。
最初に話しかけたのはキツネっぽい耳を生やした獣人だ、人面に近いけど、鼻は尖ってる。
振舞いは礼儀正しいが、風貌は中学生くらいで結構若く見える……この子は男子かな？
全体に若そうな顔立ちのキャラが多いのも、おいらが元いた世界の、裏側の光景と似てるかもな。
この世界の“狂気”の質がどういうもんなのか、何となく分かる気がするわ。
「竜族の系列のようですね……でも見たことがないタイプだな」
「そうね……ウロコや尻尾はあたしと似てるけど、こういう背中の突起は珍しいかも」
「背中の突起のために、服の背面が割れているんですね」
「ズボンが草むらのような模様なのも珍しいな」
さすがに異世界の住人は、ゴジラを知らんだろーな……ドラゴンに近いっちゃ近いと思うけど、
翼も角もなく、葉っぱみたいな背びれが生えてるってのは独自性かも。
草むら模様のズボン……そうか、この世界には迷彩塗装っていう概念もないのね。
「そう言えばまだ聞いていなかったが、ジーラ殿はどこで呪いを受けたのだ？
今後のために情報を収集しておきたいんだ」
振り返ったナセル村長が再びおいらに話しかけた……見た目は可愛い悪魔っ娘なんだけど、
元々の素性を知った今は、このちょっと仰々しい口調もなるほどと思わせる。
男勝りの王女様なんてのもいるけど、なんせ村長の場合は「元々は王子様だった」わけだからね。
姿を変えられた直後はどれだけ屈辱的だったか……そいつはホント同情する。
「えぇっとね……呪いっていうか、おいらの場合は『改造された』ケースなんだよね。
遠い国の変態科学者の、悪趣味な研究の産物というか……」
「なんと……つまり錬金術的な研究の結果で、こんな姿に変えられたというのか……！」
錬金術か……まぁファンタジー界の科学ってそういうもんかもね。
キメラノイドって発想自体が確か、神話に出てくる多頭獣キマイラが由来なわけだし。
「だがどこの国にそんな技術が……私も世界中を知っているわけではないが……」
「ぶっちゃければ、“この世界”の国じゃないんだけどね？」
「ということは――ジーラ殿は“異世界転移者”の１人だということか？」
真顔で村長が言った言葉に、今度はおいらが逆に耳を疑った。
……異世界転移者、って概念は普通にあるのかよ、この世界……迷彩塗装も知らんくせに。
「おいらみたいなケースが、過去にもあったみたいだな、その様子だと」
「風のウワサだが、時々そういう話を聞くのだ……奇跡を起こした勇者や冒険者に多い」
その辺は“異世界モノ”のお約束なワケねつまり。
「おいらはそんなご都合主義的な勇者の類じゃないと思うけどねぇ……ただでも、
いわゆる“異世界の変態科学者”の産物だから、この世界とは色々違うとは思うね、うん」
「だがその異世界にも、人間を異種族に変える組織があったということだな……」
村長はそう言って、神妙に腕を組んだ……そこそこ胸が大きいので、腕を組むと谷間がくっきり。
この容姿も“元男”として、最初は悩んだんだろうなぁ。
「共感してくれるのは嬉しいね、ただ20年も前の話さ、今となってはどうでもいい」
「むぅ……ジーラ殿は20年もその姿なのか……それではむしろ、私の先輩に当たるのだな」
「村長さんは何年前の話だったわけで？」
「父上の王国が滅ぼされたのが大体12年前だから、それ以来ということになるな」
「結構経ってるんじゃんか……12年も20年も、ぶっちゃけそんなに変わんないと思うよ。
あーそうか、だから慣れた感じだったわけか……」
元人間の男子という自覚を持ちながら、悪魔娘という外見のまま12年を生きるのは大変だろうよ。
しかも同じ境遇の者たちの村を作るために奮闘し続けてるわけだ。
簡単に言い表せないくらいの苦労を積んでることは、間違いないよね“彼”は。
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「そっか……だからジーラさんも、妙に堂々としてたんですね」
こっちは“トカゲ娘”ミリナちゃんだ……ディテールが近い所為か、親近感があるらしい。
顔つきこそ人間に近いが、その肌色はおいらに似て青白い。
「20年もこの姿で生きれば、慣れもするってことかな」
「この村の住人では珍しいと言えるかも知れないな……実は姿を変えられて数年の者が多いんだ。
ミリナもまだ５年くらいだからな……10年越えてるのは数人しかいなかったはずだ。
確か私を除けば全員――“石化”された被害者だった」
（あたしが１番長いですね、確か15年目だと思います……うち６年は意識なかったんですが）
声にならない“テレパシー”で語りかけてきたのは、全身黄金細工のような“鉱物娘”だ。
見開いた目に瞳の影はないが、ややぎこちないながらも笑顔を作る。
おいらの元の世界にも、こういうタイプがいたっけなぁ。
……因みにおいらは、こうした肉声を出せないタイプの“言葉”も聞き取れる、そこご都合主義とか言うな。
「カーサを森の中で見つけたのが、10年くらい前だったな……随分成長した」
（最初はかなり悩みましたけど、ナセルさんの境遇を知って、頑張る気になったんですよ）
褒められた所為か、ナセルが朗らかな笑顔を浮かべた……ホント、元男とは思えんくらい可愛い。
服装もやや中性的なのも、ナチュラルな可愛さになってる気がする、うん。
……さっき「どっか地味っぽい」って思ったの撤回するよ。
「……ジーラ殿の、その堂々とした振舞いが誤解につながったところも、正直ある」
「堂々として見えたのが、返って良くなかったってことかい？」
「この村にかくまうことになった元人間の大多数は、ショックで情緒不安定だったのだよ。
だから遠目から見ても、元人間の被害者であることがすぐに分かった」
「ジーラさんも普通の魔物じゃないように見えたんですけど、堂々とし過ぎてて……」
……もうちょっと挙動不審の方が良かったのかつまり。
まぁ元の世界でも、よく仲間から「お前は馴染み過ぎだ」って言われてたっけなぁorz
「父上の王国が滅ぼされたように、この渓谷の周囲にはまだ多くの魔物が巣食っている。
奴らの大半は我々を仲間と見なさないから、この村の守りは厳重でなければいけないんだ」
（そのためには、相手の意図を探るために、１度は仕掛けないといけないんですよ）
ナセルの言葉に、“カーサ”と呼ばれた黄金娘が“心の言葉”で説明をつないだ。
彼女もこの村では“古株”みたいだね……周囲の“村人”の敬意も、何となく感じる。
「一定の魔術スキルを鍛えているのは、私を含め多いとは言えない。
だからミリナにも出張ってもらっている……大変だというのは重々、分かっているのだが」
「とんでもないです、村を守るためだったらあたし、何でもしますよ！」
「カーサには万一、我々の防衛線が突破された時に、入口を封鎖する役割を与えている」
「ってことは……君にも魔術の心得があるわけ？」
（結界術と回復術だけですけどね……幸い体の方は頑丈ですから！）
おいらの問いかけに、カーサは金色の顔に自信ありげな表情を浮かべた、いやぁ強いなこの子も。
――あぁそうか、ここは異世界の“アクエリアス”みたいな場所なんだな。
アクエリアスってのは、獣人化改造されたおいらを保護してくれた、元の世界の地下組織だ。
そしてこの村も、この世界でそれと同じ役割を担ってることに、おいらはふと気付いた。
何となくこの村の空気に既視感を感じていたのも、その所為だろーね。
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「ところで……ジーラ殿には、何か特殊な能力があるのか？
私の“火炎剣”を素手で受け止めても、平然としていたのが気になったんだが」
おー鋭いねナセル村長……元王子だからなのか、細かいところをよく見てる。
「そだね……村長と同じかは分かんねーけど、火を操る能力はあるかな」
そう返して、おいらはおもむろに黒いウロコに覆われた手を、何もない空間にかざした。
その手のひらに青白い光が収束し、ガスが高温で燃えるような青い炎が出現する。
そう――“怪獣ゴジラ”が持っている、核分裂エネルギーの産物だ。
とーぜん放射能を含んでるんだけど、このくらいの火力だったら大したことじゃないはずだ。
おいらを取り巻く、“元人間の人外たち”が軽くざわめいた。
あーもしかして“青い炎”って珍しいのかもね……自然界の炎は大抵赤いもんなぁ。
「へぇ、青い炎なんですね……何だか綺麗かも」
「なるほど……その能力を使っている時は、背中の突起も光を帯びるんですね」
この“キツネ少年”、言い方がえらくインテリ臭いが、そういう生まれなのかなもしかして。
おいらの世界の中学生に、そんな言い回しのやつおらんぞｗ
「炎の魔術を使う者はそう珍しくないが、青い炎を生み出す者は初めて見たよ。
しかもそういう能力を持つのに、あの時は見せなかったとなると、まさか切り札なのか？」
「別にそんなんじゃないよ、使う必要がなかっただけさ……なんせ話が通じるわけだから。
戦う必要がなかったら見せることもないだろ、お互い元は人間だものｗ」
「おぉ……確かにそうだな……！」
村長の目が輝いた……あれ、おいらもしかして今、ちょっとカッコいいこと言った？
「20年も経験を積むと違いますね……町の人たちもこのくらい理解があったら良いのに」
「町の人々は自分たちが世界の中心だと思ってるんですよ」
急に憮然として、吐き捨てるように言ったのはさっきのキツネ少年だ。
まぁ分かる気はする……呪いで人が変異する世界なのに、ちょっと視野が狭いもんなぁ。
「魔物たちはそれだけ、彼らの世界を恐怖に陥れてきたということだ……ある程度は仕方ないさ。
私たちが村を守るために慎重になるように、彼らも慎重にならざるを得ないんだ」
「でもナセルさん、姿を変えられた人間は、人間扱いされないって不公平じゃないですか？
心の中は、人間だった時とほとんど変わっていないはずなのに……」
「だが私たちが人間だった頃は、異形の種族に警戒心しか持たなかったはずだ。
私もこの姿になってから、それが浅はかだったと分かったが、変わる前に気付くのは難しい。
ジルは人間の体だった時から、異形の種族に愛情を持っていたかい？」
「それは……」
このキツネ少年の名前はジルというのか……ナセル村長の“論破”に、ジルは黙り込んだ。
確かに異形の種族に対して、客観的かつ冷静になるのは簡単じゃないよなぁ。
鳥みたいに空から大局を眺めるみたいな視野がないと、中々容量良くなれないよね。
おいらもアクエリアスに保護されて間もない頃は、もっとワガママだったしな。
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「まーまー、愚痴はそのくらいでえぇんでない？ ポジティブシンキングが大事よｗ」
「ジーラ殿は前向きだな……それも20年の経験の産物か」
あんまり褒めると、おいら図に乗りますぜ村長。
「ジーラさんでしたっけ……町の人たちに追われて、ここに来たんじゃないんですか？」
「おぅ、めっちゃパニクられたｗ ――でもさ、こんな成りのが人間の町に踏み込んでったら、
大騒ぎになるの当たり前だと思わない？ 元人間なら、相手の立場に立ってみよう」
「相手の立場、ですか……」
まぁ若いと納得しにくいこともあるよね……おいらもこう見えて中身は老けたしなorz
顔だけはまだティーンエイジャーだと思うんだけどｗ
「向こうの世界でさ、恩人になってくれた人がいてね、その人においらも結構影響を受けたんよ。
その人は『自分から変わらなきゃ、周りは変わってくれないもんだ』と言ってた。
だからおいらも相手に要求する前に、自分をレベルアップさせて、応対しようと思ったわけ」
「それは凄いな……そのジーラ殿の恩人は、まさに大賢者の風格だ」
おいらもそう思う、人間も人外も基本的に差別しない、めっちゃクールな人だったからね。
あ、過去形で言ってるけど、まだ生きてるからね、悪しからず。
「でも先入観に支配されて、聞く耳がないやつもいる……大体ケンカってそこから起きるわけで。
おいらは自分からケンカを売りたくないから、逃げられない時以外は逃げることにした。
こんなのがケンカを優先したら、それこそ魔物そのものだったと思うよ」
「ジーラ殿と相対して、それは私も実感した……あの青い炎を使わずに、あなたは攻撃を交わし、
我々が行動を変えるまで、決して自分から攻撃しようとはしなかった」
「んま、昔はもっと荒っぽかったんだけどね……だから君の不満も良く分かるのよおいら」
そう言って、おいらはジルの方を見て、にかっ、と笑って見せた……釣られたか、彼も苦笑する。
そう、笑う門にはフグ――もとい、福が来るんである。
そんな風景を微笑しながら眺めてたナセル村長は、ふと話題を切り替えた。
「異世界転移者には２つのパターンがあると聞いた……この世界に定住する者と、再び帰還する者。
ジーラ殿はどちらのパターンなのだ？」
「そいつはおいらに聞かれても分かんねーって……自分の意志で来たわけじゃねーしなぁ。
帰れるものなら帰りたいけど、それも運次第かなぁ」
「それならば……その運が巡ってくるまで、この村にいてくれないか？」
村長は急に真面目な顔をして、おいらにそう言った……可愛い顔が引き締まって、なんか凜々しい。
あぁそうか……この辺は魔物が多いって、さっき言ってたな。
「贅沢な要求なのは分かっている……だがジーラ殿ほどの水準なら、すぐに村の戦力になると思う。
あなたさえ都合が悪くないのなら、ミリナやカーサの負担を減らして欲しいんだ」
（そうね……確かにジーラさんみたいな逞しい人がいたら、凄く助かるかも知れません）
カーサちゃんが金色の顔に期待の表情を浮かべた……ぬぅ、こいつは既に外堀が埋まったらしいぜ。
いやまぁ、別においらも行く宛てがあったわけじゃないけどさ。
「それは……ここにいても、お邪魔ではないってことかな？」
「もちろんだ、私はむしろ歓迎したい……ミリナやジルはどう思う？」
「あたしは賛成です……何だか他人じゃない気がするんですよね、姿が似てるからかな？」
「僕も賛成です……何だか、違う世界を見せてくれそうな気がします」
……内堀も電撃的に埋まったみたいだ、そこまで期待されてるなら図に乗るしかないではないかｗ
もちろん責任は取る、顔は“十代”だけど、おいらも年齢的には既に大人だ。
「そんじゃあ……しばらくご厄介になっちゃおうかな？」
「そっそうか、有難う、とても助かるよ！」
ナセル村長は凄く嬉しそうな顔をした――やっぱりめっちゃ可愛いやん、ずるいずるい。
こうして、おいらの数奇な“異世界生活”が始まったんである。
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| （第２話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2021年に唐突に妄想（爆）したサブエピソード。
近頃流行り（？）の異世界転生モノに、G-maが好きな「後天人外キャラ」を引っかけた小話である。
またＰＡシリーズを読むと分かるが、G-maは異種族と共演するようなドラマが大好きであり、
ＧＤＷ世界観の銀河社会コンセプトもその嗜好が原点にある。
そんなわけで、「異世界に飛ばされてしまったＧＤＷキャラの奮闘」を妄想してこの話が出来た。
（飛ばされた異世界も版権作品が舞台ではないので、広義にはＧＤＷ世界観の１部だが^^;）
自分自身も“後天人外キャラ”で、バイタリティに溢れるキメラノイドのジーラを“主役”に、
人間たちからも魔物たちからも追われた「元人間たち」が暮らす森の奥の村を想定し、
コミュニケーションを展開する風景がふと、ムラムラと湧き上がってきたのである（笑）
上記の通り、ジーラが飛ばされた先の世界も広い意味ではＧＤＷ世界観の１部と言えるので、
物語を支えるための設定を構築しており、新たな並行時空“ＣＦＤ世界”を設定した。
現時点（第１話執筆時）では“異世界転移者”はジーラだけであるが、
ナセルの台詞に見るように、他にも干渉者の存在を想定しているので、裾野を広げる余地がある。 |
