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★ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ 統合ナンバー：EX-ATT18501R（ABC22502R） |
（注）当ページには年齢制限情報が含まれております、ご注意ください。
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エグゼクター総本山・ネヴァダ要塞。
ネヴァダ山脈の斜面に入口を持ち、地下６００ｍに拡がる狂気の殿堂だ。
セキュリティと総務、格納庫を担当する上層部、
メインデータベースとシステム管理を担当する中層部、
そしてオーバーサイエンスを実践し保管する下層部に分かれている。
中でも下層部はエグゼクターの科学研究機関“アクシス”専用のゾーンとなり、
要塞内の全空間容積の３０％を占める。
格納庫などを擁する要塞内の３割を占めるのだから広大だ。
延床面積の比率は更に多く、要塞全体の半分近い。
生命工学研究部門“ＡＢＣ”の部署は、その最下層に位置している。
ここがエグゼクター最狂の科学者、レオン・ハザリの仕事場だ。
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ＣＲＹＳＩＳ ＵＮＤＥＲＷＯＲＬＤ
クライシス・アンダーワールド 狂気の殿堂
ネヴァダ要塞深部 〜エヴァノイド・フリージス実験記2025Ｂ〜
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アクシス・ゾーン、Ｅ-１３デッキ。
地表から５７０ｍもの深さにあるこのデッキが、
レオンが推進する強化人間“エヴァノイド”の実験サンプル保管スペースとなっている。
１００ほどの個室には、初期処理を終えたエヴァノイドたちが収容されている。
もちろん――彼ら（彼女ら）に人権と言えるものはない。
処理前にあった、彼ら本来の記憶の９割が消去され、いずれの実験体も自分の名を覚えていない。
覚えているのは、自分が世界のどこかで生まれた後、この施設に収容されたことと、
エヴァノイド改造を施されたこと、そして自分を識別する番号だけである。
個室こそ与えられているものの、その扱いは限りなく実験動物に近い。
全ての実験体が、殺風景な個室に全裸で収容されており、かつ常に監視されている。
その大半が女性に酷似しているが大柄で、発達した胸部を持っている。
この時代に地球に出現したミュータント種族“エヴァンス”と外見はほとんど変わらない。
もとよりエヴァノイドは、人為的に体質調整され、強化されたエヴァンスと言える。
個室は常に滅菌された状態にあり、実験体も日に３回の全身消毒を強制されている。
個室群のすぐ横には調整室と処置室が併設されており、
実験体たちにいつでもすぐに、２次処理を行えるようになっている。
また実験体たちの動線と研究者たちの動線は明確に区別化され、例外を除いて交わらない。
実験体の動線は滅菌区画の中に隔離されているからだ。
研究者と実験体の視線が交錯するのは唯一、処置室の強化ガラスを介した時だけである。
そして……この区画から少し離れたところに、“標本ギャラリー”が存在している。
エヴァノイド研究ゾーンの最も奥にあり、長い通路の突き当たりに位置する。
今――監視官の１人が……その部屋へと入っていく。
扉の中にも通路が続いているように見えるが、外とは違ったディテールがある。
それは通路の両側に、ユニットバスくらいの小さなコンパートメントが並んでいることだ。
そしてそのコンパートメントに……“標本サンプル”が１体ずつ、安置されている。
全身象牙質の有機物に変質させられた、エヴァノイドの実験体たちだ。
アイボリーホワイトのボディには細かい筋が刻まれ、まさに象牙細工のよう。
組成も歯や骨に限りなく近く、ちょっとした石よりも硬い。
いずれも目を見開き、口を開けている……ただ眼球は萎縮しているため、目は穴が開いたように見える。
  
“彼女ら”のポーズは様々だ……直立している者、座っている者、中腰の者。
１番手前に安置されているサンプルはひときわ大柄で、指先まで真っ直ぐに伸ばして立っている。
コンパートメントの壁に、実験体のプロフィールがパネル表示されている。
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初期登録番号：
（登録日）
１次処理番号：
（登録日）
２次処理番号：
（登録日）
体表硬化所要時間：
体内硬化所要時間：
呼吸停止：
体表振動停止：
鼓動停止：
硬化検査及び洗浄：
本室への安置：
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ＢＢＸ-２３４３６Ｍ
2025/06/06
ＮＸ００９０
2025/06/15
ＮＦ-Ｓ２５１１
2025/07/18
約３分
約１６５分
約１５分
約３０分
約４５分
処理開始から１８０分後
処理開始から２８時間後
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現在日付：
経過時間：
意識レベル：
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2025/07/21
処理完了から７２時間
Ｃ
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実験体の現在の状態について記録されている。
意識レベルは、実験体の耳穴奥に貼られた、脳波測定器から分析したものだ。
レベルＣというのは顕在意識があるものの、言語発露がなく感情のみが発露されている状態を示す。
思考が停止した状態であるといって良い。
もっとも――脳まで固化した実験体が、生存しているだけでなく、
意識まで維持していることは驚異的なこととも言えるのだが。
パネルの最下部にある脳波メーターは、安定状態から時折不規則な揺らぎを示す。
１時的にではあるが意識が鮮明になり、何かを思考しようとしていること示唆する波形である。
ただし、数秒ほどで元の波形に戻る――思考状態には到達できなかったようである。
この実験体“ＮＦ-Ｓ２５１１”は、数分おきにこの状態を繰り返している――硬化から６０時間以上過ぎた今も。
もっともいずれはレベルＤ――感情さえも希薄な朦朧とした意識状態となり、
やがてレベルＥ――完全に意識を喪失してしまうことになるのだが。
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「今回は、１度に１０体だそうだな？」
エヴァノイド研究ゾーンの中央部にある実験司令室に、黒服の男が入ってきた。
エグゼクター本部とアクシスの連絡係を担当する、工作組織ＺＯＡのエギン・ウェイザーである。
顔に大きな傷が入っており、片腕は完全に機械化されている。
初期の波動能力連動型サイボーグであり、エギン自身もこのＡＢＣで改造された経緯がある。
機械化されているのは左腕だけだが、その左腕から１０万ボルトの雷撃を放つことが可能だ。
常人なら１撃で、絶命させることが出来る威力である。
もっともこの部屋ではロックをかけているため、発動することは出来ないのだが。
「クク、中々の大盤振る舞いだろう？」
相変わらず、レオンは気味の悪い薄笑いで返す。
ガラスの前に広がる処置室には、既に実験台となるエヴァノイドたちが並べられている。
その数１０体……立ったままカプセルの中に、ではなく、今回は床の上に寝かせられている。
いずれも不安な表情を浮かべているが、筋硬直剤を打たれているらしく、手足を動かせないようだ。
襲おうと思えばいつでも襲える、完全に無防備な状態で寝ている。
ＮＸ００９０（今はＮＦ２５１１だが）ほど“巨乳”ではないものの、１０人とも形の良い胸を持ち、逞しい体形だ。
ただ顔立ちはいずれも幼く、ともすれば中性的な印象も受ける。
これはエヴァノイドの起源が、基本的に全員、１５歳以下の男児であることに起因している。
秘部はやや前を向いており、陰毛はなく、ほんのりピンク色に染まったスリットが丸見えになっている。
これは先立って硬化処理を受けた、ＮＸ００９０ら４体にも共通し、エヴァノイドの特徴だ。
天然ミュータントであるエヴァンスにも、しばしばこういうタイプが見られるが、
これは恐らく、元々が男児であったため、男性器の位置に女性器（に似た器官）が形成されたためだろう。
感覚もどちらかと言えば、女性器よりは男性器のそれに近いようだ。
「新型の硬化剤を試してみたくなってね……硬化に時間がかかるが、高い強度が得られる」
「だから、いつもより筋硬直剤を増量して、寝かせているというわけか」
「動き出されては困るんでね……おかげで、あの喘ぎ声が聞けないのが残念だが♪」
「声を出すことも出来なくなっているわけだな……別に構わんだろう、この数で合唱されると耳障りだ。
３体でもあれだけやかましかったからな……イライラしてたんだぞ、私は」
そう言って、エギンはじろり、とレオンを睨んだ……苦笑するレオン。
「そりゃ面目ない……スピーカーを切って、イヤホンをつければ良かったな♪」
「だが……この何だ、“エヴァノイド・フリージス”ってのは利用価値があるのか？
１００年後に解凍しても、我々に従わねば意味がないだろう」
「こいつらはあくまでも実験体さ……それに復元時に洗脳処理を施すことは可能だ。
何しろ途中で意識が途絶えるだろうから、精神の抵抗力も下がっているだろうしな♪」
「だと、いいんだがねぇ……」
エギンはそこで追求を止めた。
この実験自体が、レオンの趣味で行われていると彼は思えてならなかったが、
これ以上問い詰めても効果はないだろう……レオンという男は言い訳の天才でもある。
それに実際問題、レオンが関わった１部の強化人間は、確かに戦力になっている。
実績がある以上、多少は自由にやらせるのもやむを得ない。
１０体の実験体の足元に、するするとチューブが伸びていく。
その先端部には、大きく２又に分かれた、銀色の注射器が取り付けられていた。
「今回は噴出するんじゃないのか」
「数が多いからね……カプセルを使うスペースがあれば、噴出してもいいんだが。
残留薬物が処置室の壁に付着すると、後で洗浄が大変なんだよ」
注射器がちくり、と実験体たちの両足の裏に刺さる――実験体たちが顔を歪める。
彼女らが過去に受けた実験に比べると大した痛みではないはずだが、
身を反らせられない状態のためか、表情でリアクションを取ることしかできないらしい。
注射器が全員の足の裏に挿入されたのを確認すると、レオンは指示を出した。
「よし、始めようか……ＣＦＬＸ２３を注入、さっき指示したスピードでな」
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（手足が動かない……どうしてこんなことを……？）
エヴァノイド実験体“ＮＸ０１２３”は不安でいっぱいだった。
突如呼び出されたかと思うと、横になるよう強制され、筋硬直剤を打たれてそのままこの部屋に置かれた。
自分だけでなく、近いナンバーの実験体が、他にも９人いる。
いずれも自分と同じように筋硬直剤で自由を奪われ、ここに運ばれてきた。
かなりの量を投与されたらしく、声すらまともに出せない状態だ。
ひんやりとした床の感触が、背中や尻、太腿やふくらはぎを伝わってくる。
首もろくに曲げられないため、目だけ精一杯横に向ける。
視界の端に、隣に寝ている実験体が映る……よく分からないが、やはり不安そうに見える。
聞こえてくるのは空調機の音と、実験体たちのかすれるような呼吸音だけ。
不安で鼓動が大きく響いているが、これは自分以外には聞こえないだろう。
彼女――いや、当時は“彼”だった――がこの姿に変えられたのは、半月ほど前だった。
様々な器具を使った、数時間ほどの“調整”の後、最後の仕上げとして謎の注射を打たれ、
個室に戻った直後に変化が――劇的な変化が起きたのだ。
体内に激しい変動が生じ、悶える間もなく体形が変化して行った。
急激に身長が伸び、皮膚の色が黄色っぽく変化をし始め、胸に今までなかった大きな塊が形成される。
髪がザワザワと背中まで伸び、下腹部に変化が生じたかと思うと、そこにあったものの感触が消えた。
１０分と経たないうちに……少年の体はグラマーなエヴァノイドへと変貌したのである。
最初のうちはショックを感じながらも、その姿に関心を覚えていた。
見た目には大人の女性とほとんど変わらなかったことも、関心を後押ししたのだろう。
エヴァノイド変異後、全く衣服を与えられなかったために、嫌でもその全身を見ることになった。
顔つきだけはどことなく、変異前の自分の面影を残していたのだが。
豊かな胸は驚くほど柔らかかったが、風船のような張りがあって常に美しい形を維持した。
頭髪を除いて体にはほとんど毛がなく、全くシミのないきめ細かな皮膚は自分のものとは思えないほど。
男性器が消滅した陰部も一切の毛がなく、恐る恐る触れるとかなり鋭い感覚が体内を突き抜けた。
痛みというよりも――いわゆる性感と呼ばれる独特の刺激であったが。
しかし３日、１週間と経過すると、それが当たり前のように思えてきた。
過去の記憶を消され、全裸のまま密室に収容されていると、感覚も麻痺してくるものらしい。
また度々行われる、非人道的な耐久実験に付き合わされているうちに、
好奇で自分の体を観察する、精神的余裕が消えて行ったのだ。
そして今また――実験の内容を明かされぬまま、処置室の床に寝かされているのである。
視界は鮮明だ……天井のライトがまぶしく、ほのかな熱を感じるほど。
冷たい床と対照的な感覚で、妙な安定感がある。
足元の奥には大きなガラスがはめ込まれ、その向こうには白衣の男と黒服の男がこっちを眺めている。
抗議してやりたい気分だったが……喉や舌が思うように動かず、かすれるような呼吸音しか出てこない。
（あいつら……こっちが何も出来ないことをいいことに…… ――っ！？）
その時だった――両足の裏に、ちくりと刺すような痛みを感じた。
どうやら、注射針のようなものを挿入されたらしい。
（痛っ……こ、今度は一体何を……）
白衣の男が、横に座っている作業員に何かを指示した。
それに伴うように、足の裏に刺された針から、何か薬品のようなものが体内に注入された。
その――次の瞬間であった。
（……！……くぁっ……こ、この……痛みは一体！？）
切り裂かれるような、焼かれるような、何とも言えない鋭い痛みが、足の裏に走った。
猛毒でも注入されているというのだろうか……痛みはゆっくりと、足首を這い上がってくる。
変化は非常にゆっくりとしたものであったが……確実に進行――いや、侵食して行った。
熱湯の中にゆっくりと沈められていくような痛みが、足を少しずつ覆っていく。
目を必死で足元に向けても、何が起こっているのか分からない。
だが周囲から聞こえてくる激しい呼吸音から、ここに並べられた者が同じ目に遭っていることは想像できた。
声が出るなら、熱にうなされるような喘ぎになったのだろうが……搾り出すような呼吸音しか聞こえない。
（くぅあ……な……何が起きて……痛いっ！）
苦痛と不安のため、全身からどっと汗を噴き出すＮＸ０１２３。
動けないが、全身に力が入るため、細かく振動しているのが自分でも分かる。
涙でぼやける視界の下方で、豊かな双丘がプルプルと、揺れているのがかすかに見えた。
しかし下半身で何が起きているのかは、ちょうどその双丘に遮られて見えない。
だがそれでも、容赦ない激痛はゆっくりと、しかし後退することなく胴体へと迫って行った……
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「――どうだ、もう全員固まったか？」
実験開始から１２時間後。
別室の資料を見ていたエギンが、再び実験司令室へと入ってきた。
ガラスの前には、相も変わらずレオンが立っている。
「ＮＸ０１２３が長引いているね……あと１〜２時間はかかるだろう」
「ほぅ……まだ固まっていない奴がいるのか」
「隣のＮＸ０１２２は真っ先に硬化したがね……既に収縮も始まっている。
ＮＸ０１２５は先ほど体表硬化が完了したところだ、コイツも長かったな」
ガラスの向こうには、先ほど処置室の床に並べられた１０体の実験体が見えている。
だが――今やその全員が、“生ける象牙細工”と化しつつあった。
レオンが先ほど、ＮＸ０１２５と呼んだ実験体の上には、小型ロボットのアームが伸びている。
アームの直下には、既に眼球を萎縮させ、外見的反応が停止した実験体の顔。
視覚の喪失と呼吸の停止を確認しているところだ……眼球にフラッシュを当て、吐息を検出する。
その結果はオペレータのモニタに表示される……既に視覚は完全に失われているようだ。
ただしまだ、ごくかすかではあるが呼吸しているらしく、二酸化炭素を検出している。
もっとも、１０分もすれば停止するだろう……既に振動は止まっている。
“真っ先に硬化した”ＮＸ０１２２の額には既に電極が貼られ、脳波測定が継続されている。
モニタに表示された波形は、実験体の意識レベルがＡ〜Ｂで推移していることを示唆する。
大きな波はほとんど検出されない……つまり、この個体は既に脳まで固化していることを意味している。
他の実験体も外見的には完全に硬化し、電極による脳波測定が行われている。
こちらの実験体たちの脳波波形は激しく変動しており、まだ活発な意識があることを示している。
呼吸も振動も完全に停止しているが、まだ脳までは固化していないようだ。
恐らくは今まさに――窒息の苦しみに翻弄されている最中だろう。
そして――そのＮＸ０１２２の隣にいる、ＮＸ０１２３。
体表は他と同じくほぼ完全に硬化しているが、まだ眼球や舌が硬化していない。
既に表情の変化は停止しているが、かすかに瞳の残る目から涙を流し、ヒューヒュー、と肺を絞るような呼吸が続いている。
とは言え、既に全身の体表が硬化しているため、酷い呼吸困難に陥っているはずだ。
少し前に筋硬直剤の効果が切れていたためか、カタカタと細かい振動を続けている。
ただそれでも手足を動かすことはかなわない……硬化皮膚を割るには、骨を折るぐらいの力が必要だからだ。
これまでの粘りから判断するなら、あと１時間くらいはこうした状態が続くだろう。
「この後の予定は？」
「今までと同じさ……スキャニング後、洗浄・コーティングして養生後、ギャラリーに置く」
「そのまま放置というわけか」
「いや、放置はしない」
「――何、放置しない？」
エギンは少し意外に感じた……てっきり、レオンの慰み者になるとばかり思っていたのだが。
「最終的には標本として保管するだけになるだろうが……その前に耐久実験をしておきたいね」
「耐久実験なら、固める前に散々やっているんじゃないのか？」
「別の耐久実験だよ……あの固化したボディがどれだけの衝撃に耐えるのか。
少なくとも突き倒したぐらいではびくともしないことは、ＮＦ２５１１が証明したがね」
確かに３日前、事故ではあったが移送台の上から転がり落ちたＮＦＳ２５１１は、傷１つなかった。
脳波計は大きく振れていたから、本人はかなりの刺激を感じていたのだろうが。
分析サンプルを確保するために髪の毛の端を切り取ろうとした時も、刃が欠けたくらいだ。
確かに骨や歯というのはかなり硬いが……刃こぼれを引き起こすほどだとは。
「ナイフも欠けるような硬さになっていたらしいな……ヘタすりゃ石より硬いんじゃないか？」
「ＣＦＬＸ２１ですらあれだけの硬さだったからねぇ……このＣＦＬＸ２３だとどうなることか♪」
「何だ、ダイヤモンドにでもなるってか？」
「さすがにそこまでは行かんだろうが……金属並みになるやも知れんねぇ」
「鉄と骨の硬度に大差はないのだろう？」
「だが、粘り強さを考慮すれば鋼がはるかに頑丈だ……つまり、そういう特性を持たせているのだよ。
他の硬化剤より変異に時間がかかる分、分子の結合度はより強くなるって寸法さ♪」
「鋼のような外骨格を持つわけか……」
「まぁ外骨格というより、こいつらは全身がそうなっているのだがね――そう、脳でさえも」
ニヤニヤと気味の悪い笑顔を絶やさずに、レオンはエギンに解説を続ける。
そうこうしているうちに、ＮＸ０１２３の目から、瞳の影が消えた。
視力を失ったということだろう――間もなく収縮し、白濁した小さな玉と化す。
他の実験体は、既に全く反応がない……振動も止まっているため、まさに石像のようだ。
だが脳まで固化しているだろうＮＸ０１２２以外は、今この瞬間もはっきり意識があるはずなのだ。
死んだ方がマシなほどのほどの苦痛と共に――ではあるが。
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その翌日。
エギンはレオンと共に、実験体たちの搬送作業に立ち会っていた。
これから実験体を保管庫――安置室、ギャラリーなどとも呼ばれるが――へと運ぶのだ。
斜めに立てられたステンレス色のベッドの上に、完全に硬化した実験体たちが乗せられている。
昨日――硬化処理を施した者たちである。
１番硬化が遅かったＮＸ０１２３――いや、今はＮＦ-Ｓ２５３３か――も、今は完全に硬化している。
もちろん、全員脳まで完全に固化し、収縮も養生も全て終わった状態だ。
まだ意識はあるはずだが……あったとしても“絶対に抵抗できない”状態であろう。
因みに脳波計の電極は額にではなく、耳穴の奥に貼られている。
完全硬化状態の実験体では、額では十分な脳波形を検出できないためである。
中の針が時折大きく振れるが、概ね安定しているように見える。
エギンはふと――そのＮＦＳ２５３３を覗き込んだ。
白濁し、萎縮した眼球が、開ききった瞼の内側に転がっている。
最後まで抵抗しようとした口も開いた状態で固化し、静電コーティングのつやを放っている。
保管庫に置かれた後も、実験体に付着した埃を分解し、清潔に保つための皮膜だ。
寝ていたためか若干潰れているが、それでもなお形の良い双丘が存在を主張している。
硬化前は軟質ゴムボールのように柔らかかったのだろうが――今はまるで剥製のようだ。
下腹部の突き当りには、女性のそれよりも前よりに突き出した秘部――生殖器のスリットがある。
スリットの両側はやや厚めの肉襞が盛り上がり、まるで唇のようだ。
今や――その唇もしっかりと閉じられている……ただ収縮のためかわずかな隙間がある。
その隙間の奥は闇……挿し込むことが出来るのはせいぜい、紙切れぐらいだろう。
エギンは試しに――手袋の上からその秘部に触れてみた。
刹那――ＮＦＳ２５３３の隣に立てかけられた脳波計が、それまでの安定が嘘のように激しく振れる。
外見的には一切の反応がない、文字通りの“象牙細工”だが……まだはっきり意識があるらしい。
股間の下のわずかな隙間に指を押し込み、つつーっとスリットの上端へと指を這わせてみる。
まるで骨のように硬いのに、脳波計はのた打ち回らんばかりに激しく振れる。
それはあたかも、直下型地震発生直後の地震計のようだ。
その指で更に胸を掴み、腹を撫でる……先ほどに比べると大人しいがそれでも激しく振れた。
半分空洞化した眼窩にも指を入れてみる……やはり脳波計は大きく振れる。
皮肉なもの――いや残酷なものだ……意識はあるのに、全く抵抗できないのだから。
意識下では恐らく必死で何かを叫んでいるのだろうが、当然のことながら全く、そして誰にも聞こえない。
「何をやっているんだ？――この実験体を抱きたくなったかね？」
「そんな趣味はない、ちょっとした好奇心だ……第一、こんな固まった連中を抱いても楽しくない」
「よく振れるだろう……まだしっかり“感じている”ということだなぁ♪」
そんな残酷な悪戯をしながら、保管庫の中へと進んでいく。
手前のコンパートメントには、４日前に処理した４体の実験体が並んでいる。
もっとも、運び込んだのは一昨日のことだが……特に変わった様子はない――あるはずもないのだが。
その奥には、更に数体の硬化実験体が置かれていた……３日前に処理した実験体だ。
中でも印象的なのが、腰掛けた状態で硬化した実験体“ＮＦ-Ｓ２５２６”である。
両足を投げ出し、右手を前方へ突き出した状態で固まっている……最後の抵抗が伺えるポーズだ。
抵抗の途中で固まったらしく、足は大きく開かれ、唇のような秘部の肉襞が丸見えだ。
やはり他の実験体と同様、普通の女性よりずっと前より――ちょうど、男性器の位置にそれがある。
これは彼ら“エヴァノイド”たちが、全て元は男児であったことに起因している。
エヴァノイド改造変異時、消失した男性器の位置に代わりに形成されたのが、この肉襞なのだ。
いや……その名残と言うべきか――形状こそ女性器に酷似しているが、実質的にその機能はないのだから。
エヴァノイドは原則的に全ての個体が単性体質だ……出産可能な者はいない。
形状だけが擬似的に再現（部分的に強調されて）され、感覚だけが残っているのである。
全て――主任レオンが、そうなるように指示したということでもある。
何故なら彼は……自己繁殖可能な強化人間を作りたかったわけではなかったからだ。
むしろ――“半永久的に生きることのできる処女”を目指していた、と言った方が近い。
その研究成果がこのエヴァノイド・ネオスであり、
呼吸停止しても脳が固化しても“死にはしない”フリージス実験体だったのだ。
一連の実験体が並べられたコンパートメントの奥に、立てかけられていく新たな実験体。
  
「そう言えば……耐久実験をするとか言ってなかったか？」
「言ったよ……だが今すぐではない、時間は幾らでもあるからな♪」
レオンの言葉は１見、科学者の余裕に聞こえる。
だがその意味するところは、恐ろしく非道なものだった。
エギンもすぐに――レオンが言わんとしていることを悟った。
例え何年経過しても――この“生ける象牙細工”たちが死ぬことはない、彼はそう言いたかったのだ。
そしてそれはこの実験体たちが、“死ぬ自由”さえ与えられずに、放置されることを意味していた。
いずれ……その心は沈黙し、意識も停止してしまうのだろう。
だがそれは死ではない……精神と魂がこの体を抜けることはなく、むしろ閉じ込められるのだ。
それこそ、半永久的に――誰かが意図して救い出さない限りは。
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に初めて執筆したエピソードだが、2015年頃に改修している。
2002年に作成したシルやヴィスといった、エヴァノイド系の“固め実験”をショートストーリー化したものだ。
もっともそれぞれの名前は保護された後に付いているため、ここではまだ番号でしか呼ばれない。
発想としてはメタロイドの延長上にあるが、「体組織の形を残して象牙状に変化する」というアイデアであり、
1998年に作ったアレムらの設定の延長線にある。
間に挟まっているエヴァノイド・セラコートのシリーズにも言えるが、
この頃の「固め妄想」は単純な石化ではなく、ＳＦ的な変化を付けているアイデアが多く、
ＧＤＷサイト開設後にスタートしたＡＳＧシリーズなどは、これに比べると「原点回帰」したものである。
ある意味では「１周回って、古典的なイメージに戻ってきた」と言えるかも知れない（爆）
2015年に“再開”した“セラミック娘シリーズ”も、原風景は1993年頃にあった。 |
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