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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CM2130716B） |
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どことも分からない深い地の底を、１本の廊下が長く伸びている。
周囲の壁は妙に凝った意匠のレリーフがリズミカルに繰り返しているが、
薄暗いランタン風の灯りにぼんやりと照らされ、どことなくおどろおどろしい雰囲気を醸し出す。
よくよく見れば、ランタン風の灯りの基部にもレリーフが刻まれている。
翼を広げたワシのような、金色のレリーフだ。
そんな不気味な地下道に、コツコツ、と硬い足音が１つ、遠く響いている。
白いスーツと黒いマントをまとった長身の男……白髪の老人だが、背はまっすぐ伸びている。
手にした奇妙なステッキと相まって、あたかも吸血鬼のような趣がある。
間もなく――ふっ、と地下道が途切れた。
そこは広いロビー……無気味な壁の意匠は相変わらずだが。
中央に敷かれた長いレッドカーペットが、ランタン風の灯りに照らされて血のように浮かび上がる。
地下道と直交するロビーの先は数段ほど高く、その奥にアメジスト色に輝く半透明の筒が立っている。
水槽を思わせる太い筒は高い天井まで突き抜け、その中には異次元のようなマーブル模様が蠢いている。
ここは世界を手中に収めようと画策する、ある秘密結社のアジト。
そして白髪の老人はその最高幹部の１人であった。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第４章 潜伏する破壊者 ★
2013年7月16日―日本・闇世界其の１
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「５分遅れだぞ？――死神博士」
威圧的な声に白髪の老人――死神博士が振り向くと、肩幅の広い大男が１人。
エジプトのファラオを思わせる横縞のマスクをかぶり、黒いスーツの上から金の装飾を付けている。
「ほほ――いつからそんなに時間に厳しくなったのじゃ、地獄大使よ」
「今日は客人が来ると言ってあったはずだ……しかも我らショッカー連合の重要な――」
「“スポンサー”かね？……ショッカーもカネに踊らされるようになってしもうたか」
にやにやと皮肉に満ちた薄笑いを浮かべる死神博士に、地獄大使は不機嫌そうに太い眉をひそめる。
「客人を前に言葉を慎まぬか、貴様こそいつからそんなに軽くなったのだ？」
「ほほっ……近頃体が軽くてな♪」
「その体を提供したのは誰か考えるんだな、ショッカーが再生できたのもそれゆえ――」
「それは違う――ショッカーは大首領と共にある、全ては大首領のご意思次第じゃろう、違うかね？」
ぐっ、と言葉に詰まる地獄大使。
確かに否定できない……この秘密結社“ショッカー”は、強大な魔力を秘める“大首領”と共に歩んできた。
大首領がいなければ、ここまで来れなかったことは疑いの余地がない。
しかもその影響は――指導者のカリスマという、象徴的なレベルをとうに凌駕している。
ショッカーが再編され、“この世界”に来ることができたのも、大首領の“魔力”だったためだ。
「――その辺にして置きたまえ、大事な商談の前に悪影響が出るのはこちらも困る」
ふと――ロビーの奥からたしなめるような声が飛んだ。
死神博士が振り向くと、２人の人影が、レッドカーペットの奥、数段低いところに立っている。
人影はゆっくりと、死神博士の前に歩みを進めてきた。
言葉を発したと思われる１人は、真っ黒な風貌をしている……ロビーも暗いが、それだけではない。
黒に近い灰色のマントをまとい、マントの上から露出した頭部も真っ黒だ。
ただ目と口と、その下に伸びたヒゲのようなものだけが銀色のてかりを放ち、目の奥は青い輝きをたたえる。
隣に立っている人物も、昆虫のような灰色の顔つきをしており、ハサミのような両手が異彩を放っている。
「宇宙マフィアというのは……随分と態度のでかい組織らしいのう――グレイドル公？」
「果たしてそうかな？ 利潤を追い求める組織など、どの世界でも大差はないと思うがね」
「ほほっ……じゃが、そのぐらい豪胆でなければ、裏社会の商談もできぬか」
グレイドルと呼ばれた人物――もはや人とは言えないが――は、常に薄笑いを浮かべているように見える。
「それに……貴公は１つ、重要な勘違いをされている……死神博士殿」
「ほほぅ、勘違いとな？……このワシを脅す気かね？」
「そういうことではないよ……我々が“ショッカー連合”と取引している原資は“金”ではないということさ」
グレイドルが放った意味深なセリフに、死神博士はぴくり、と眉を動かした。
地獄大使は既に聞いた話なのか、意味ありげな笑みを浮かべている。
「ほほ……言うではないか、中々マフィアらしい」
「世間は市民の豊かさを目標に商品を作り、それによって得られる経済的な利潤を手にするものだが、
我々が手にする“利潤”は、その逆の“効用”なのさ」
「マフィアは死の商人……より多くの血が流れるほど、潤う組織だ」
「貴公らショッカー連合は、表世界で禁断と呼ばれるテクノロジーによって、その成果を上げている。
それもまた、我々ゴーディスが取引している“商品”と利害が一致するものだ」
宇宙マフィア“ゴーディス”の首領、グレイドルの言葉に、死神博士は初めて肯定的な笑みを返した。
そう――彼らが取引するのは“金”でもなければ“社会を豊かにする商品”でもないのである。
「だから、ショッカーにその“テクノロジー”を売り込んでいるわけかね」
「不満かね、死神博士殿？――既に貴公自身も体験済みのはずだが」
「あぁ、不満じゃねぇ♪」
「――なっ」
死神博士が薄笑いを浮かべて言い放った言葉に、地獄大使は再び驚きの表情を見せた。
だが“取引相手”グレイドルの方は、何かに気付いているのか、取り立てて感情を動かさない。
「大いに不満じゃよ……こんなもので終わりかね、ゴーディスの宇宙技術とやらは」
「……！」
「既に最初の計画は頓挫しておる……我々“ショッカー連合”の理想とは程遠いものじゃ。
責任を取ってくれるのじゃろうな、グレイドル公？」
「そうだな、是非ともその責任を取らせて頂くとしよう――今回の“商談”でね」
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ショッカー連合アジトの中央ロビーで、死の商談が開始された。
「スパレイダー、シザーランス、ダークシザース……あの３人には失望したわ。
スパレイダーはまだマシじゃったが、結局は結果を出せておらん――せっかく“世界を越えた”というのに」
「グレイドル殿のアドバイス通り、中隊編成で都市部に侵攻したが……まさか普通の軍隊に潰されるとは。
改造人間が１人もいない軍に敗退するなど、ショッカーの歴史にあってはならないこと」
「確かに、軍隊の展開の早さは少々意外だった……それにもう１つ注目したいことがある」
グレイドルの言葉に、地獄大使が反応した。
「――改造人間と戦える、常人の軍人がいたことだな？」
彼らが話しているのは“渋谷事件”のことである。
３人の斥候となる“再生怪人”に戦闘員を付け、白昼起こしたテロ事件に対峙し、
偵察部隊の任務を越えて正面から向き合った軍人――いや“自衛官”がいた……そう、斉藤のことだ。
斉藤は決して特別な能力を持っているわけではなかったが、奇怪な怪人たちに怯むことなく、
“同志”から支援された“光線銃器”を駆使して、この脅威を抑え込もうとしたのだ。
怪人たちは３人とも最終的に撃破されたが……脳と網膜に埋め込んだマイクロチップを介して、
死神博士たちは渋谷で起きた事件と戦闘事態の顛末を把握していたのである。
「皮肉なものじゃわい。ライダーどものいない世界を選んだはずが、あのような者がいるとは」
「珍しいことではあるな……高位体補正をかければあり得ることだが、この世界にいるとは思わなかった」
「恐らく――次元融合の影響ではないかと」
３人の会話に割り込んできたのは、グレイドルの側近らしき、昆虫のような顔の人物だ。
ペンチのような尖った頭部と、セミのような顔つき、両手のハサミなど、異形さは“怪人”にも劣らない。
「ログ殿――もう少し具体的に聞きたい」
「あなた方ショッカー連合の手の者が“世界を越えた”のとほぼ時を同じくして、次元融合が起きています。
２つの異次元世界が混じり合う現象……滅多には起きないので、我々も少々驚いたのですがね」
ログと呼ばれたセミ頭の男は、淡々と意見を続ける。
「次元融合は空間を不安定化させますが、こうした状況は生命の存在場に強い刺激を与えます。
その結果、これに適応した者は１時的に、ミュータントとも呼べる異能や感性を得ることがあります」
「存在場……確か、魂を定義する宇宙の用語だったな？」
「アーク超宙域――俗に魔界と呼ばれるあの領域に、魔族と呼ばれるような種族が巣食っているのも、
超宙域の空間が不安定であることに由来しているというのが、“銀河社会”の見方です」
「魔界ね……我々ショッカーも、かつて魔界の住人と縁を持ったものじゃが」
ログや死神博士の言葉に、地獄大使は渋い表情をした。
彼らが対立してきた反ショッカーの改造人間――仮面ライダーなる俗称を持つ戦士たちだ――とは別に、
改造人間と戦うことのできる“生身の人間”がいるなど、話が違っている。
「惜しいのう……そういう人材を得ることができれば、強大な改造人間にもなろうに」
「確かショッカー連合は、魔族の血を引く改造人間を作った経験がおありと伺ったのだが？」
「そうじゃ……確かあれは吸血鬼の一族じゃったかねぇ」
「我々の知識体系では、ヴァルキュアンと呼ばれている種族ですね、ザタニアンの亜種です」
「ゴーディスは魔界の種族にも詳しいのか？」
「ゴーディスが、というよりも、我々が日常を送る銀河社会がそうなのですよ。
魔界の種族のみならず、いわゆる“天界”の種族も、我々にとってはリアルな知識の想定内なのです」
「ほほ、頼もしいことじゃ……我らショッカーの存在に眉１つ動かさぬわけじゃな♪」
表情が分かりにくいグレイドルとログに皮肉を交えて、死神博士が低い笑い声を上げた。
もっとも、それが皮肉交じりだと分かってても、立腹するほどグレイドルもログも単純ではないが。
「そうなると、改造人間の更なる強化が必要になってくるな」
「既に部隊長クラスの再生は始動しておる……手始めは“リザードロン”じゃね」
「トカゲロンの再生体だな」
「地質時代最強の肉食恐竜の因子を複数混ぜた……知性ある捕食者になるはずじゃ」
「確か異世界の“ザイオロード”の因子も混ざっているはず……あれは“ゴモラ”という名だったかな？」
「そうですね、リザードロンの筋力の源は、肉食恐竜よりゴモラに依存する部分が大きいでしょう」
「“ライダーキック”が効かないと聞いたぞ……本当なら素晴らしいことだ」
「まだ理論上の話じゃがね……打たれ強さでは歴代改造人間でも屈指のはずじゃ」
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「そういえば……ログ殿は手負いのダークシザースに駒を貸したらしいな？」
ふと――地獄大使は話題を切り換えた。
渋谷を舞台にしたショッカー連合の破壊工作の直後、東京各地で起きた“怪獣事件”の件だ。
首謀者のダークシザースは、ショッカー連合の再生怪人の１人――元はガニコウモルと呼ばれた冷血漢だ。
渋谷での破壊工作失敗後、１人で逃走していたダークシザースに、ログが干渉したのである。
「復讐の鬼と化していたので、試作兵器のモニターに使えると思いまして……不都合でしたか？」
「別にそういうわけではない……どのみちあやつは失敗したのだ、そのまま戻れぬことは承知だったろう。
私が気にかかるのは、むしろその時使った“試作兵器”のことだ」
「ジェネラルジョーのことか……まだ商品としては未完成だったのだがね」
「ダークシザースに操縦できるのなら、他の改造人間でもできるだろう……実に興味深い」
「そういえば“怪獣”も出現していたようじゃねぇ」
「強化したウォーロックとアクアギラスを駒につけたのですが、ウォーロックが裏切りましてね。
アルティランのセイヴンに、爆弾処理などできるはずがないと考えていた私のミスです、申し訳ありません」
「もう済んだことだ……ゴーディスに足がつかなければ大きな問題はない」
謙虚に頭を下げるログを、グレイドルは軽く流した。
「そのアルティランとかいう宇宙人は、巨大化できる戦士種族らしいな」
「そうですね、能力水準は神がかり的ですが、個体能力に依存する傾向の強い種族ですねアルティランは。
セイヴンは特に器用な能力で知られていましたが、戦士としてのスキルは少ないと思っていたのです」
「恒点観測員上がりだからなあいつは……戦士よりも環境調査や警備活動に向いているはずだ。
しかし実際には爆弾処理という専門スキルを持っていた――ふむ、なかなか面白いな」
「ワシも改造人間に自爆装置を埋め込んだことが多いが、そういえば爆弾処理は考えたことがないのう。
まぁ、必要がなければ爆破すれば良いと思っていたからじゃがね」
そんな会話の中で、地獄大使は渋面で腕を組む。
「この世界なら、ショッカー連合の影響力を拡大することも簡単と思っていたが……難しくなってきたな。
皮肉なものだ……怪人と戦える軍人に、爆弾処理のできる巨人、面倒な相手ばかりではないか。
これにもしもマイティライダーズが加われば……追手が１号だけで終わるとは限らぬ」
マイティライダーズ――それは反ショッカーの改造人間たちが組織した戦士の集団だ。
“仮面ライダー１号”こと本郷猛を筆頭に、今やショッカー連合に対する最大の抵抗勢力になっている。
彼らの戦力を分散するために、おびき出した１号を異世界に飛ばしたまでは計算のうちだったが、
その１号は今や“異世界の同志”と組んで、新たな抵抗勢力を築きつつあるのだ。
「――いや、待て待て。それは考え方１つやも知れんぞ」
攻めあぐねるように頭を振って唸る地獄大使に、ふと死神博士がつぶやいた。
その顔はどういうわけか、この難題を議論している最中に、むしろ希望を漂わせている。
「死神博士よ、何故そんな表情ができるのだ……これは重大な問題なのだぞ？」
「じゃから“考え方１つ”と言うておろうがね……考えても見よ地獄大使よ、これはむしろチャンスじゃ。
この世界は今“可能性”に満ちておる……これを利用しない手はあるまい」
「可能性……だと？」
「そうじゃよ。改造人間の素体となれそうな人材も豊富じゃし、怪獣も棲んでおるようじゃないか。
しかも我々には、テクノロジーの穴埋めが可能な同志がおるのだ――そうじゃろう、グレイドル公？」
「む……！」
ショッカー幹部たちの視線が、宇宙マフィアの頭領に集まる。
視線を浴びたグレイドルは、大きく頷いて見せた――“利害の一致”がはっきりと確立したためだ。
「その通り……この世界は今、可能性の宝庫だと私も考えている、恐らく“革命”の舞台となろう」
「テクノロジーの穴埋めだけではない……ゴーディスは“世界を越える”のも容易いそうではないかね。
ならばどこか違う世界にある“使えそうな力”を、この世界に引っ張り込むこともできようなぁ」
「ふ、中々物分かりがいいじゃないか死神博士殿、流石はショッカー最高の頭脳と言われた男だ」
「異世界の力を利用する、か……世界制覇を目指すショッカーに相応しい野望ではあるな」
最初は渋い表情を崩さなかった地獄大使の表情も緩んできた……“その気になった”らしい。
「“敵が多い”ことをいちいち恐れることはない……その敵をまんまと利用してやれば良いのじゃよ。
それをやって見せてこそ、大首領が我々をこの世界に転送した意義があろうというものじゃ」
「敵の力をも利用するわけか……ふふ、そうなるとマイティライダーズもむしろ歓迎せねばならぬな」
「望むところではないかね♪ 進化したショッカー連合の姿を見せつける機会ではないか。
考えてみれば再生した改造人間はまだ１ケタじゃ……もっともっと増産せねばならぬ、数も質もな！」
そう言って、死神博士は恍惚とした表情を浮かべ、ぐっと拳を握り締める。
「増産か……そういえばグレイドル殿は、『ショッカーには戦術能力が足りない』と言っていたな？」
「そうだ……本当に世界を手中に収めたいのなら、少数の敵に少数の刺客を向けるだけでは足りない。
ショッカーが世界の覇者に相応しい存在であることを、全世界に見せつけるパフォーマンスが必要だし、
そのパフォーマンスを実現するために、組織を上げてプロジェクトを組む必要があるのさ」
「プロジェクトか……」
「ほほっ、忙しくなりそうじゃわい♪」
「渋谷事件はその序章に過ぎない……ショッカー連合の真の“ショック”はこれからということだ。
わがゴーディスの技術を加味して、戦術を練り上げれば、必ずやショッカー連合は理想に近づけるはずだ」
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ロビーでの“意気投合”から数十分後。
長い地下道を“引き返す”死神博士の姿があった。
このアジトには幾つもの部屋がある……レッドカーペットのロビーがその中心にあり、
長い地下道が粒子加速器のトンネルのように、ぐるりと各部屋を円周状に結び付けているのだ。
死神博士の気分は高揚していた。
グレイドルに“おだてられた”からだけではない……今こそ自分の力を示すチャンスだからだ。
そのための素材をゴーディスも提供するというのだから、断る理由などない。
間もなく――死神博士は広い部屋に到着した。
広さだけなら、先ほどのロビーより広いかも知れない……体育館ほどもあるだろうか。
その床面には大小の機器がびっしりと並び、天井を走るパイプや鉄骨のレールが複雑な模様を描き出している。
ここが彼の仕事場――改造人間の研究センターである。
中央を貫く大きな通路の両側に、半透明のタンクが整然と並び、その中に“改造人間たち”が漂っている。
もっとも、最終調整段階まで進んでいるのは多くはなく、１部はまだ肉片状態であるが。
よく見ると、機器の間で、黒い人影がせわしなく動き回っている。
研究員用に調整されたショッカー連合の戦闘員“ショッカロイド”である。
渋谷事件で警官隊を蹴散らした“歩兵タイプ”とは少し仕様が異なり、研究業務に特化している。
そんな部屋の中央付近で、死神博士は立ち止まった。
目の前のタンクの中には身長２ｍを超えそうな、トカゲに似た風貌の改造人間が漂っている。
会話に出てきた“再生怪人”の１人――リザードロンだ。
頭部には太い湾曲した角が、水牛のように生えており、長い尻尾がタンクの下でとぐろを巻いている。
「そろそろ――頃合いじゃな」
タンクを見上げて、死神博士はぼそりとつぶやく。
手に持ったステッキを掲げると、黒服の研究員たちが無言で集まってきた。
「これよりリザードロンの再生を始める……“儀式”の準備をするのじゃ」
研究員たちは頷くと、すぐに散会した……そして部屋の奥へと集まって行く。
そこにはロビーに置かれていたのに似た、光を放つ水槽のような物体が立っている。
間もなく大きな機械の鍵爪が天井から降りて来て、リザードロンを収容したタンクを掴んで持ち上げた。
そのまま――部屋の奥の“光の水槽”の横に置かれた、大きなベッドのそばまで運んで行く。
横倒しにされたタンクから培養液が抜かれ、リザードロンの緑色の体が、ベッドの上に横たえられた。
手早く研究員がその手足を金具に固定し、頭部に電極のようなものを貼りつける。
「“魂の移植”を開始せよ……魂を間違えるでないぞ」
研究員が頷き、電極につながった機器のレバーを引き上げた――瞬間、“光の水槽”が激しく明滅する。
呼応するように機器のメーターが激しく揺れ動き、横たわっていたリザードロンの体がびくんと痙攣した。
金具に固定された腕の先で手のひらがくゎっと開き、猛烈な力を受けて金具がギシギシと唸る。
「目覚めるのじゃ、トカゲロン――いや、リザードロンよ！」
「――ぅ――う、が――がぁあァアァアぁァァァ！！」
死神博士の呼びかけに応えたものか――リザードロンの目がかっと見開かれた。
知性があるのか判然としない雄叫びを張り上げ、固定されたベッドの上で激しく身をよじらせる。
そのパワーは凄まじく、鉄骨に縛り付けたベッドごと飛び上がってしまいそうだ。
「落ち着くのじゃ、お前の名は何じゃ――答えよ！」
「う、が……ぎ……お……俺……俺、の、名前……俺、は……トカ、ゲ、ロン！！」
「成功じゃな……そうじゃ、お前はトカゲロンじゃ、戻ってきたのじゃ！」
「うがっ……ぐぉォッ……も、戻って、来た……？」
しばらく唸り続けていたリザードロンの蛇のような目が、ふと死神博士を捉える。
それと同時に、のたうちまわっていた太い尻尾が、急に大人しくなった。
「……し……死神……博士……？」
「ほほ、いかにもな……久し振りじゃのう、トカゲロンよ」
「……俺は……ライダーに……」
「そうじゃ、よく覚えておるではないか。ライダーにやられた、そして今蘇ったのじゃ」
「俺は……生き返って、来たのか……？」
「そうじゃ、我らショッカー連合が再生したのじゃ、新たなる改造人間“リザードロン”としてな」
「リザード、ロン……」
「金具を外してやるのじゃ……自分の目で確かめてみるが良い、その新たなる体と力をのう」
研究員が金具を外すと、リザードロンは自分の腕を持ち上げて、まじまじと眺めた。
かつての姿――トカゲロンだった時よりも太く、逞しい腕。
上半身を持ち上げて、胴体を、そして頭部を触って確認する……湾曲した角にも手が行った。
「今度は、角があるんだな……」
「おぬしの体は今、ショッカー連合が持ちうる最強の爬虫類の遺伝子を持っておる。
ライダーどもの必殺技も効かぬ、強靭な肉体じゃぞ♪」
「ライダーの技が効かない体、か……ふ、ふふ――」
しばらく手の平を開いたり、閉じたりしつつ、にやにやと笑っていたリザードロン――だが。
突然その手が、ベッドのすぐ横に立っていた研究員の頭をがし、と掴んだ。
「――イッ！？」
状況を理解できず、奇妙な声を上げる研究員――しかし、それが彼の最後の声になった。
バキベキボキゴキ。
リザードロンの思いつきの“怪力テスト”に利用された哀れな研究員の血しぶきと脳漿が、
握り潰されたリンゴの果肉のように辺りに飛び散る。
今や犠牲者は声を発する術もなく、頭を失った体を断末魔の電気信号のままにぴくぴくと痙攣させるのみ。
「く、ふふ――いいなぁ、こいつはいい！――うはははハハはハハ！！」
狂ったような笑い声を上げて、跳ね上がるようにリザードロンは立ち上がった――しかし。
「――――！？ うぐ、ごふっ……死神、博士！？」
「その辺にしておくのじゃリザードロンよ、ワシの助手を許可もなく減らすでないわ」
どこからともなく飛んできた太い“触手”がリザードロンの首に巻きついて、ぎりぎりと締め上げていた。
よくよく見れば、その触手は死神博士自身の腕から直接伸びている。
いやむしろ――腕が割れて、触手になっていると言った方が正確だろうか。
「わ、分かった、こ、この辺に、しておく……！」
リザードロンはそう言って、犠牲者から腕を離した――ごとり、と頭のない研究員の亡骸が床に転がる。
戦力外となった“同志”を、他の研究員が無表情で引きずって行く……床に長い血痕を残しながら。
激しくむせるリザードロンの目の前で、死神博士の触手は再び、元の老人の手に戻った。
「ごほっげほっ……そ、その腕は！？」
「新たな力を得たのは――おぬしだけではないということじゃよ」
「“イカデビル”の時には、確かなかった機能だな……」
「もはやワシはイカデビルではないのじゃ、おぬしがリザードロンとなったようにな。
そうじゃね、さしずめ――“エヴィルスクライド”と言うべきかのう？」
「エヴィル、スクライド……！」
「ショッカーは生まれ変わったのじゃ……今度こそ、世界の覇者となるためにな！」
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その頃――アジトの真上にある地表に、２つの人影が立っていた。
先ほど商談を展開していた、ゴーディスの使者グレイドルとログではない……人間の顔を持っている。
牧師を思わせる黒いスーツをまとった男と、カジュアルな服を着た、ベレー帽の“少年”。
２人の目の前には、捩れた木々を挟んで、大小の建築物が見えている。
半分ほど骨組みが組み上がった大きなホール状の建物を中心に、鉄骨を細長く組み上げたレール状の建物が複数。
「“遊園地”も、だいぶ出来上がってきたようですね……いい隠れ蓑になりそうだ」
「凄いッスねぇ、それでオープンはいつッスか、暗黒司祭様？」
少年に暗黒司祭と呼ばれたスーツ姿の男は、眼鏡をつまみながら淡々と言葉を返す。
「そうですね……ざっと２〜３ヵ月後というところでしょう」
「へぇ、そんなに早く？……まだ１年くらいかかりそうな……」
「そんなにかけては計画に間に合いませんよ……例の“宇宙マフィア”が支援していますしね。
ごらんなさい……この遊具が全て、ショッカー連合の道具になるなど、誰が分かりましょうや」
「え、これが道具ッスか？……どう見ても遊園地のアトラクションッスけど」
「それで良いのです、でなければ隠れ蓑として何の役にも立たないのですから」
確かに――視界に見えるのは、ジェットコースターや観覧車といった遊具ばかり。
これが秘密結社の道具として機能するなど、到底想像も付かない。
工事現場の外れにあるフェンスには、『富士マウンテンランド建設予定地』の看板がかかっている。
完成の暁には、この名前で「売り出される」ということだろう。
その奥には、雄大な成層火山のシルエットが空高く聳え立っている。
標高3776ｍ、日本最高峰の霊峰――富士山である。
この“遊園地”はその麓、青木ヶ原樹海に程近い雑木林を切り開いて建設されている。
そのため富士山に向かう方向には雄大な森林地帯が広がり、異世界のような風景を作り出している。
確かにそれと知っていなければ……こんなところに秘密結社のアジトがあるとは誰も思うまい。
暗黒司祭はクールな表情のまま、あくまでも淡々と言葉を続ける。
「ここがオープンするまで数ヶ月……まだまだ我々にはやらねばならないことが多い。
ようやくリザードロンが起動したばかりですからね……その次には“ポイズンキャリアー”を起動し、
“ナイトホッパー”を起動し……培養中の“新型”も早く完成させなければなりません」
「えっ、リザードロンっすか？ んー俺なんかアイツ嫌いッス、上から目線でぐいぐい抑えつけてくるし」
「何を言っているのですかユウジ君、武装組織は元々そういうものではないですか。
強力で経験値の豊富な指揮官が部下をまとめなくて、どうして組織が成立するのです？」
そう言いながら、暗黒司祭はくるりと振り向いた……アジトに戻るつもりらしい。
逆光に縁取られた暗黒の中で、滅多に笑わないこの男の唇が一瞬、不吉に歪んだようにユウジには見えた。
「そ、そりゃまぁ、そうッスけど……」
「君はまだ若い。経験を積んでいずれ自分が指揮する部隊の長になれば良いではないですか。
君は戦闘員――ショッカロイドではない、試作とは言え新型の改造人間“ストラピオン”でしょう？
ショッカー連合に選ばれた存在なのですよ、もっと誇りを持たなければ――」
ぽむ、とすれ違いざまにユウジ少年の肩を叩く暗黒司祭。
肩越しに伝わる手の感触は、人間とは思えないほど冷たく、ユウジは思わず首をすくめた。
木漏れ日から差し込む夕方の陽光は、真夏の紫外線をまとっているというのに。
「――でなければ、我々がショッカー連合に目をつけた意味などなくなってしまう」
ぼそり、と耳元でかすかに呟いた暗黒司祭の意味深な言葉に、思わずユウジは振り向いた。
しかしそこに、すでに黒服の牧師の姿は影も形もなかった……
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| （太平洋其の１／関東其の７） |
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【Meking Memo／設定補記】
2008〜2010年頃に作成したエピソードを、2020年に再編したもの。
ＰＡ第１部（2013年シリーズ）の主要悪役勢力の１つ、ショッカー連合の裏方エピソードであり、
その背景に誰が関わっているかを“ネタバレ”する話になっている。
最初に書いた際は旧ＯＷ企画であったため、打切り後に１部プロットを再編して仕上げている。
“ショッカー連合エピソードゼロ”とも言うべきエピソードであるが、
次元融合世界を舞台とし、渋谷事件以降の話であるため、本編シリーズの１部として扱っている。
リザードロン（ＰＡ版トカゲロン）と強化少年ストラピオン（ユウジ）、暗黒司祭はレオ（流離太）氏の案だ。
このうちリザードロン以外は本家仮面ライダーに登場しないオリジナル（３次創作）である。
またアジトの隠れ蓑となる遊園地富士マウンテンランドもオリジナルの舞台設定であり、
クライマックスのアクションの主要舞台の１つとなる前提で構築している。
イメージの上では、本家ライダーシリーズよりもはるかに派手なクライマックスを想定している。 |
