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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130802D） |
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「ねぇ――ディアス兄ちゃん、ホントにこっちで良いの？」
プラズマモール中３階の階段室踊り場で、２人の少年が歩いている。
カズヤとディアスだ。
“事件”が起きた時――２人は３階にある本屋でマンガを読んでいた。
……立ち読みすんなよ、とか言われそうだが所詮２人は小学生と中学生である。
まだ法治意識はそれほど高くない……悪ガキというわけではないが。
たまたまシャッターが閉まる直前に飛び出し、階段室に駆け込んだことで、
２人は３階から２階に降りる手段を得ることが出来た。
「……だって、下から変な声聞こえてたじゃん、お前だったら行くか？」
当初はそのまま１階を目指すつもりだったが、下から聞こえてきた奇声を耳にして、
２階の通路に今し方、出てきたところである。
もちろん２階は２階で不穏な空気が立ちこめているのだが、
何が起きたか良く分かっていない２人は、取り合えず自分の判断を信じるしかない。
「そうだよね……でも一体、何が起きてるんだろう？」
「分かんないよ、でも外に出たら、何か分かるかも知れないじゃんか。
それにさ……加奈ちゃんたちともまだ、再会出来てないだろ」
「そうだね……どこにいるんだろう」
「だからついでにちょっと、探してみようかなって思ってるわけよ、この間にさ」
そう言ってにやっと笑うディアス……いつもの彼とはちょっと、雰囲気が違って見える。
（彼は思っていたよりも勇敢だな、少し見直したよ）
カズヤの脳内に共生する“高校教師”も、ディアスの意外な行動力に感心しているらしい。
だが――
「……って、何だよ――ここもか！？」
２階のメイン通路に出てきた２人が目にしたのは、
複数のシャッターでまるで迷路のように区切られた、通路の光景であった。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第12章 怪人たちの逆襲 ★
2013年8月2日―日本・プラズマモール事件其の４
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――ガァン！
突如、モール３階の端で鋭い轟音が響いた……ゲームセンターの奥からだ。
ゲームセンターの客を連れ去ろうとしていた戦闘員たちは、顔を音がした方へと向ける。
いや、連れ去られかけていたゲームセンターの客達も。
「――イッ！？」
通路の奥に立ち込める煙……確かそこにはトイレがあったはず。
今し方、数人の怪人がトイレに向かった瞬間、突如大きな音がしたのだ。
「な……何、ガス爆発？」
間もなく煙の奥から、規則正しい音が響いてきた。
歩行者の靴音に似ているが、まるで金属板でも挟んでいるような、変な反響がある。
そしてやがて――音の主が煙の外に姿を表した。
「なっ……何だありゃ！？」
「が……ガンダム？」
「こんな時にコスプレかよ！？」
そう――煙の中から出現したのは“ガンダム”だった。
ただし、身長は180cmほどと人間サイズである。
最初はガンダムのコスプレをした人間かと思ったが……良く見るとどこかおかしい。
各関節は細く引き絞られており、その中に人の手足が入っているようには見えないのだ。
しかもコスプレにしては妙に本格的で、かなりの重厚感がある。
また顔も“ガンダム”そのものではない……色こそメタリックだが、口のようなものがある。
そして頭部の後ろからは、まるで特撮ヒーローのタテガミのようなものが生えていた。
「……あれホントにコスプレ？ 関節とかどう見てもロボットだけど……」
「もしかして、何かのショーとか？」
「ははっ、そうか、この黒いのもそうだったんだ？」
腕を戦闘員に掴まれた青年の１人がそう言った、次の瞬間だった。
“ガンダム男”が突如、機械的な手に構えていた“ビームライフル”から光を放った。
「……えっ！？」
ツキュゥウゥンッ、という特徴的な残響を残して、青年の横を光線が突き抜けたかと思うと、
青年の腕を掴んでいた怪人が、吹き抜けの向こうまで吹き飛ばされたのだ。
怪人は吹き抜けの対岸の柱に叩きつけられた後――力なく１階まで落下していく。
「……マジで？」
「うそ……」
「ショーじゃ……ない？」
光線と“ニアミス”した青年の顔から、サーッと血の気が引く。
青年にとって光線銃なんて初めて見る代物だが、それはどう見ても“オモチャ”ではなかった。
アトラクションのプロップだったら、怪人が吹き抜けの向こうまで吹き飛ぶはずがない。
「「イィーーーーーッ！！」」
仲間を倒されたためか、戦闘員たちが奇声を上げて、一斉にガンダム男に飛び掛ったが――
遠目にはヒーローショーのようだが、良く見ればそんな“子供騙し”ではなかった。
ガンダム男を殴り損ねた戦闘員のパンチが、ゲーム機の筐体の１つを１瞬で鉄屑へと変える。
解体工事用のハンマーで殴っても、こうはならないだろうと思うほど豪快に。
アッパーを見舞おうとした戦闘員の１撃は、100kg以上あるゲーム機を天井まで吹き飛ばした。
アトラクションでこんなド派手なシーンはまずお目にかからないだろう。
片や、ガンダム男が手にしたビームライフルの引き金を引くたび、
直撃を食らった戦闘員が10m以上も砲弾のように吹っ飛んで戦闘不能に陥る。
ビームライフルだけではない……そのパンチやキックも、戦闘員を叩き伏せるのに十分だった。
“本家”のガンダムでも見ないような、鮮やかな格闘能力である。
「……スゲェ」
居合わせた青少年達は、ただただ呆然と、その凄まじい戦闘シーンを眺めている。
ものの数分で、ゲームセンターに襲来した戦闘員たちは駆逐された。
たった１人の白い、人間サイズのモビルスーツに。
“戦場”が静まり返ると同時に、青少年達が思わず拍手する。
ひいき目ではなく、確かにこの戦闘シーンが凄まじく、ガンダム男がカッコ良かったからだ。
ショーなのかそうじゃないのか、どうでも良くなってくるほどに。
目に付く戦闘員を片付けたガンダム男は、青少年達をちらりと見ると、立ち去ろうとする。
「あっ、あのっ……すいません！」
そのガンダム男を１人の少年が呼び止めた……ぽっちゃりとした中学生くらいの少年だ。
壮太だ……その後ろには、唖然とした表情の令子や明日也、竜太郎もいる。
壮太の目は感動でキラキラ輝いている……もちろん、今まさに目撃した“奇跡”のためだ。
今し方目撃した光景は、壮太にとってまさに至福の光景であったに違いない。
「かっ感動したッス、せめてお名前を聞かせて欲しいッス！」
「お名前って……ガンダムじゃないのか？」
「アンタは黙ってて欲しいッス！」
ガンダム男はしばらく、無言で壮太を見ていたが、やがて１言、小声で呟いた。
「――ガレス」
そして再び踵を返して立ち去っていく……電気が消えた薄暗い通路の奥へと。
“ガレス”と名乗ったガンダム男は、思いの他トーンの高い――少年のような声だった。
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再びプラズマモール２階のメイン通路。
３人の少年少女が、シャッターを縫うように通路を歩いている。
２人はディアスとカズヤだが――もう１人は木更津柚子だった。
彼女もまた、途中ではぐれてしまった加奈たちを探して、ディアスたちと出遭ったのだ。
そして今――最初に加奈たちと散策していた、通路の奥を目指している。
「青葉さーん、山本さーん、返事してくださーい！ ……うーん、聞こえませんねぇ」
「ふぅ……いないなぁ、加奈ちゃん」
「ディアス兄ちゃん、もうよそうよ、危ないよ……救助隊がきっと来てくれるって！」
「カズヤお前……加奈ちゃんが心配じゃないのか？」
「心配だよ、でもこういう時は、外に出て助けを待つのが正しいんじゃないの？」
「……防災訓練の先生みたいなこと言うよなお前、本当に小学生？」
もちろんディアスは、カズヤの脳内に高校教師が住んでいることは知らない。
「……うぅ、でもぉ」
「カズヤ君は大人びてるんですね、私ちょっと感心します」
「……諦めたくないんだよ。 お前も大事な人ができたら、俺の気持ちが分かるって」
「……ディアス兄ちゃん、加奈姉ちゃんのことが好きなの？」
小学６年生の直球攻撃に、ディアスは瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった。
「……ばっ……ちゅ、中学生を、からかうんじゃねーよ！」
「……でもさ、もし僕らの方が危ない目に遭ったら、加奈姉ちゃんきっと悲しむんじゃない？」
「……小学生の言動とは思えないんだけど、ホントに」
「……うっ」
“核心を突く”ディアスの言葉に、今度はカズヤが妙に狼狽した。
「バックヤードの通路の方が、スムーズに行けるかも知れませんね……私ちょっと調べて――」
柚子がそこまで言いかけた時だった――ふと、声が聞こえてきたのだ。
「誰かそこにいるの！？ お願い――助けて！！」
「今声が！？ ど、どこから聞こえてきたんだ！？」
「なんか、向こうから聞こえてきたような……」
「向こうって……」
カズヤが指差した先には、天井から瓦礫が崩れ落ち、ショーウィンドーの商品が燃えていた。
火勢はまだそれほど強くないが、素人には近寄り難い危なさは立ち込めている。
「向こうって言ったって、瓦礫くらいしか……」
「その声――ディアス君！？」
「へっ、俺の名前呼ばれたっ！？」
「咲だよ、さっきまで一緒だったでしょ、加奈もいるのよ！」
「――何だってぇえぇ！！？」
瓦礫の奥から聞こえる咲の言葉が、ディアスのモチベーションを一挙にＭＡＸへ引き上げた。
「加奈ちゃんがいるのか！？ 加奈ちゃん俺だ、ディアスだ、聞こえるか！？」
「え……えぇーっとね、加奈今ちょっと取り込んでるの！」
「何だよそれ、意識があれば声ぐらい聞こえるだろう、本当にいるのか！？」
「いるわよ、煙で喉をやられてるのよ、暑くてたまらないの、早くここから出して！」
もちろんディアスは、加奈が今声を出せない“本当の理由”は、知る由もない。
「出してって言われても……くそう、どうしたらいいんだ！？」
「早く、しないと……暑くて…… お願い…… 助けｔ――」
瓦礫の向こうから必死で叫んでいた、咲の声が急にトーンダウンしたかと思うと、
出し抜けにばたり、と音がした。
「えっちょ……ど、どうしたんだ、おい、返事しろよ！」
「まさか、この暑さにやられて……危険です、急いで助けないと！」
「この瓦礫さえどけられれば――ぅあちぃっ、何だこりゃ、何でこんなに熱いんだよ！？」
「もしかして、この火の所為かな……？」
「加奈ちゃん、加奈ちゃんは大丈夫なのか！？ 返事してくれよ、頼む！」
ディアスは必死で怒鳴るが、声はそれっきり聞こえない。
ただ他にも誰かいるのか、瓦礫の向こうから物音が聞こえる。
“喉がやられて声が出ない”加奈が、必死で奮闘しているのだろうか。
その直後――瓦礫の向こうから、ガンガン、と何かを殴る音がした。
「な、何だこの音……まさか、加奈ちゃんか！？」
再び、何かを殴る音が響いた……まるで、ディアスの言葉に応えるように。
「加奈ちゃんなのか！？ 無事なんだな！？」
また何かを殴る音がした……明らかに、ディアスの言葉に応えようとしている。
「分かった、今助けるからな！」
「でもどうやったら……触れないほど熱いのに」
その時――柚子の表情が微妙に変化したが、必死なディアスは全く気付いていない。
“陸自娘”である柚子には「聞こえていた」のだ。
“早く助けて”という、加奈の声なき叫びが。
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更に同じ頃――プラズマモールの地下駐車場。
来客用の駐車場ではなく、従業員や輸送業者のために作られたものである。
１階の吹き抜け広場とつながる車寄せに、戦闘員が２人ほど立って、監視している。
その背後から人影が１つ――ゆらりと近づいた。
気配に気付いた戦闘員の１人が振り向いた直後――ゴキリ、と音がしてその首が折れた。
人間を越える戦闘員を仕留めたのは“仮面ライダー”だった。
しかし“１号ライダー”とは外観が違い、大きな“角”がある……もう１人の戦闘員が気付いて応戦しようとした時、
プスッ――と針を刺すような音が響き、戦闘員はそのまま床に崩れ落ちた。
最初に戦闘員を仕留めた角のある仮面ライダーは、地下駐車場に向かって振り返る。
「――誰かいるのか？ 俺は“マイティライダーズ”の“ストロンガー”、ショッカー連合じゃない」
その声を聞いたのか――柱の陰から女性らしき人影が２つ、染み出してきた。
１人は“陸自娘”の狙撃手、出浦信である……今し方“２人目”を仕留めたのは彼女のライフルだ。
もう１人は人間ではない……オートロンのアリシェイルだ。
「マイティライダーズ……本郷殿が言っていた、異世界の義勇組織ね」
「……な、何だあんたら？ 怪人じゃないのか！？」
「多分――異世界の有志、ですよね……本郷さんから、少し情報を頂いていますよ」
そう言って、ストロンガーの背後からも別の人影が現れた……結城だ。
そして“仮面ライダー・ストロンガー”の“中身”は、先ほど結城と話していたシゲル――城茂である。
「結城さん？ どういうことッスか？」
「電話が不通になる前、本郷さんが言っていたんだ……異世界の有志連合がいるとね」
「物分かりが良いと、話が早いわ……つまりその有志連合よ、私は出浦信、こっちは――」
「オーディアンのアリシェイルよ、ロボットじゃないからねいちおう」
間もなく――結城たちと出浦たちが、地下駐車場で“合流”した。
結城たちはショッカー連合の潜入に気付いた直後、その立て籠もり計画を阻止するため、
独自に行動を開始していたのだ……そしてこの地下駐車場に来たのである。
「……既に自衛隊が周囲を包囲しているのか……しかし、相手はショッカー連合だからな」
「自衛隊に協力する有志もたくさんいるわ、でもまだ作戦開始時間じゃない」
「確かに……人質を傷つけずに解放するには、ちゃんと作戦が成功しなきゃだしな。
となると、ちょっと余計なことをしてしまったのかな？」
「かもね……でもこうなった以上は、この縁を上手く利用したいところね」
出浦と目配せをしたアリシェイルは、すぐにオートバイに変形した。
結城とストロンガーは目を見張る……オートバイに変形する金属生命体なんて、もちろん初めてだ。
「うぉっ……バイクに変形出来るのか、凄い能力、いや技術なのか？」
「オートロンは変幻自在の金属生命体……アリシェイルは私と同じ偵察要員なの」
出浦が説明し終わるよりも早く、アリシェイルは静かに地下駐車場を離れて行った。
地上で作戦開始を待っている同志に、協力者の存在を伝えるためだ。
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１方、こちらは１階の端の方にある非常口。
不安な表情を浮かべた少年少女コンビ……葵と健一郎である。
２人は元々３階や２階にいたが、シャッターが閉まり始めたのに気付いて早々に脱出し、
中庭を望む階段室を１階まで降りてきたところであった。
窓の向こうには人気がなくなった中庭と、奇怪な黒服の戦闘員が数体見えている。
「まさか、こんな事件が起きるなんて……全く安心出来なくなったな」
「健ちゃん、どういうことなの？」
「コイツは間違いなくテロだよ……東京の方で何度か事件があったじゃないか」
眉を潜める健一郎に、葵も不安げな表情に小さく溜息を吐く。
その時、外からメガホンの声が聞こえてきた……人質解放を求める警官隊の声らしい。
しかしその直後、重いしわがれ声が響き、破壊音がこだました。
だが２人が見ている窓の角度からは、機動隊に電灯を投げつけたリザードロンは見えない。
「警察は何やってるんだ……早く首謀者と対話して人質を開放してくれよ。
全く……“国家権力強化法”なんて作ってるから、返って敵を増やすんだ、情けない」
「健ちゃんは央華先生の影響を強く受けてるよね」
葵は苦笑いした……健一郎がリベラル派の学年教頭に影響されていることを言っている。
私立金芽台学校中等部の学年教頭である央華司は典型的なリベラリズムの論客で、
左派評論家が“国家権力強化法”と言い換える次元融合特措法の成立反対に共鳴しており、
その影響を受ける健一郎もまた、この法案審議に批判的だったからだ。
とりわけ政府や自衛隊の権限が強化される“非常事態条項”に対しては強く反対していた。
“国家権力強化法”などと言われるのもこの条項が背景にあるのだろう。
「でもさ健ちゃん、テロリストに甘い顔を見せてもカモにされるだけじゃないの？」
「国家権力が暴走するから過激派も生まれるんだよ、対話しないと解決なんて無理だろ」
「うーん、暴力事件起こしちゃう人たちに、対話って通じるのかなぁ」
葵は健一郎の幼馴染だが、健一郎のリベラリズムにはどうも納得していないらしかった。
確かに対話で全てが解決するなら、軍隊も警察も要らないことになる。
しかし世界はそんなに都合良く出来ているわけではないのだ。
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「死神博士……どうやら、異能の抵抗者が潜伏しておるようだ」
多目的ホールの演壇で人質を監視していた死神博士に、肩幅の広い大男が話しかけた。
黒いスーツにファラオのマスクのような被り物……地獄大使である。
「異能の抵抗者、ぢゃと？ 仮面ライダーでもいるというのかね」
「正体はまだ良く分かっておらぬが、戦闘員を１人で倒せる能力を持っているようだ」
地獄大使が言っているのは、３階のゲームセンターで起きた“戦闘事態”である。
光線銃を持つ“機械兵”のような人物が、戦闘員数人を返り討ちにしたことを知ったのだ。
もちろん――“ガンダム男”ガレスのことである。
例え軍人であっても、普通は戦闘員と白兵戦で勝てる見込みはまずない。
重火器を持って集団で相対して、やっとどうにかなるレベルだ。
それを１体で数人の戦闘員を撃破したとなれば、普通の人間ではないことは明白である。
そして更に新たな情報が入った……昆虫の複眼に似たサングラスをした女性工作員が現れ、
死神博士や地獄大使にその情報を伝える。
「ドローンからの通報です……先ほど、地下駐車場で戦闘員が倒されたことが分かりました」
女性工作員の名はポイズンキャリアー。
かつて“ハチ女”と呼ばれた怪人が、新たに再生されたものである。
“クモ男”スパレイダーの同僚で、スパレイダーが渋谷事件で倒された後に再生された。
ポイズンキャリアーの報告を受けた死神博士は眉を潜める。
「どうやら……異能の抵抗者は１人ではないようぢゃのぅ」
「モールを包囲している自衛隊に目立った動きはないが、スパイでもいるのかも知れんな」
「どうだかね……自衛隊のスパイ如きに、うちの戦闘員は倒せんぢゃろぅて」
「この世界を甘く見ぬ方が良いぞ、死神博士……複数の異世界からの干渉を受けておるのだ」
「誰が甘くなど。人間には手に負えぬことに違いはあるまい。
ならば“戦闘員以上”の力を差し向ければ良いことぢゃ……我々にはその手段があろうが」
死神博士の言葉を聞いた地獄大使は、こちらも太い眉をわずかに潜めた。
「“ナイトライダー”を使う気か、死神博士……あいつらは警察や自衛隊の担当だったのだが」
「もちろん全員は使わぬよ……ぢゃがあいつらにも経験を積ませねばのぅ。
それから“新型怪人”が何体かおったはずぢゃ……そやつらにも初陣を経験させてやれ」
「モールを包囲する警察と自衛隊の方ですが……ビル影に“機械獣”が何体か隠れていますね」
幹部２人の会話にまたポイズンキャリアーが情報を補足した。
その頭上に、スズメバチに似た、数センチほどのメタリックな物体が２体ほど飛び回る。
生物というよりは小さなロボットのようで、頭部には不釣り合いな大きな単眼がある。
どうやら――彼女はこの“ドローン”で、ゾイド特戦隊の待機を察知したらしい。
「10日前の騒動で暴れた機械獣か――確か、人間と共闘するグループがいたらしいな」
「ふん、あんなデカブツ共に、狭いモール内で何が出来るのかね……放って置けば良いわ。
どうせ“人間の盾”を突破する覚悟など、外の連中にありはせぬ。
ぢゃが“異能の抵抗者”の方は捨て置けぬな……早急にその動きを突き止めるのぢゃ」
「そうだな……ポイズンキャリアー、早くモール内を完全掌握せよと怪人たちに伝えておけ。
まだ制圧出来ていない所があるから、こういうことになるのだ」
「了解しました」
ポイズンキャリアーは地獄大使に返答して、再びホールを出て行った。
１方死神博士は、ホールの角に集められた株主たちに向かって、再び口を開いた。
「さて……諸君はこちらに来て頂こうか」
死神博士はそう言って、人質となった株主たちをホールの窓側に移動させた。
そして背中を向けて立つように命じる。
「その窓の前に立つのぢゃ……外の連中に、姿がよく見えるようにな。
おっと、顔と体はこちらに向けるんぢゃよ……窓には背中を向けて立つのじゃ」
困惑と不安の表情を浮かべながら、株主たちはゾロゾロと、窓に背中を向けて並んで行く。
一通り移動が終わると、再び死神博士は不気味な笑みを浮かべて言った。
「もし諸君が妙な抵抗をしたり、警察や自衛隊が強行突破の動きを見せるようならば、
諸君らに窓からダイビングしてもらう……因みにこの４階の高さは地上15mだそうぢゃな」
死神博士の言葉に、株主たち全員の表情が引きつったのは言うまでもない。
“余計な事態”が起きれば、株主たちを「窓から突き落とす」と死神博士は言ったのだ。
ショッピングモールの軒高は高い……地上４階でも15mくらいにはなる。
しかも背中を向けて突き落とされることになるため、受け身を取ることはまず出来ない。
15m上からコンクリートタイルの中庭に背中から落ちて、ただで済むほど人間は頑丈ではない。
100％死ぬとまでは言い切れないが、それに等しい“処刑”となることは疑いないのだ。
しかも自分が突き落とされるかも知れない方を向けないのだから、恐怖でしかないだろう。
ただし死神博士は何も、人質に恐怖を味わわせるために背中を向けさせたのではない。
唇や手などの“ボディサイン”で、情報を漏洩させないようにしたのだ。
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| （１２章５話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2024年に執筆したエピソード。
ただし構想自体は旧ＯＷ企画打切り前からあり、想定していたアクションハイライトの１つ。
ショッピングモールでショッカー連合と異世界の有志たちが激突する展開であり、
ショッカー連合にとっては初期の“渋谷事件”のリベンジマッチとなる他、
加奈や零児といった、ＯＣＤ世界出身の少年少女たちの転機となるエピソードでもある。
零児と加奈のアクションは、旧ＯＷ企画の時に試作していたエピソードを再編しているが、
モールを占拠するショッカー連合側のアクションは、新たに追加したものである。
また地下駐車場でマイティライダーズの有志と、出浦やアリシェイルが接触するのも追加だ。
旧ＯＷ企画での検討時に「内部情報を漏らす役」がいることは想定していたが、
具体化していなかったため、新たにキャスティングしたものである。
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