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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130802C） |
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「えぇっ……何だよこれ！？」
剣屋明日也は、友人の小堀川竜太郎と共に困惑した表情を浮かべていた。
ここはプラズマモール多摩日野３階、ゲームセンター前の吹き抜けコーナーである。
突然周囲のシャッターが同時に動き出し、半ば閉じ込められた形になった上、
あちこちで爆発音が響き、焦げ臭い匂いが漂ってきたからだ。
「ちょっとヤバいな……何が起きたのか放送してくれないと、事務局は何やってるんだ？」
「うーん、スピーカーが壊れちゃったとか」
「もしかして、魔物の仕業かしら……」
２人の横で、ちょっと浮いた古風なファッションの少女が、ぼそっと呟く。
“中２病戦隊”メンバーの山城令子だ、実は竜太郎と面識があり、ネットの友人でもある。
その横には同じく“中２病戦隊”メンバーの海月壮太がいる。
ゲーム大好き少年であるため、ネット友人に会うために来た令子に同行していたのだ。
そこで遭遇した“大事件”……全く、とんだ“オフ会”になったものである。
「いやさすがにそれはないってｗ」
「どうかしら、いきなり変な音がするって、心霊現象に良くあるじゃない」
「じゃあシャッターがいきなり降りてきたのもその所為だって言うんスか？」
「典型的な“ポルターガイスト”だと思うわ」
「……ポルターガイストにしちゃ、随分とメカニカルなアクションだな」
竜太郎は少し白けている……令子とは友人関係だが、彼女の発想には少し引き気味らしい。
自称魔女という“自分設定”は面白いキャラ付けだと思ってはいるのだが。
「ねぇみんな――あそこ見てよ！」
そんな中学生トリオを横目に、吹き抜けの手すりにもたれた明日也が声を上げた。
明日也は吹き抜けの下――１階の広場を指差している。
釣られて手すりの横にやってきた竜太郎たちがのぞき込み、目を見開いた。
「えっ……何だありゃ！？」
少年少女たちが目撃したのは――ＳＦ映画のような漆黒の戦闘員たちの集団であった。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第12章 怪人たちの逆襲 ★
2013年8月2日―日本・プラズマモール事件其の３
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同じ頃、同モール２階。
――あれ……あたし、生きてる……？
ふと――加奈は意識を取り戻した。
どうやら、今自分は固い床の上に仰向けに倒れているらしい。
徐々に、先ほど起きた出来事が脳裏に蘇る。
咲やディアス、更に陽炎や茜らと共に、プラズマモール多摩日野を訪れたこと。
２階でウィンドウショッピング中に突如シャッターが降りてきて、爆発音が聞こえたこと。
そして崩れた天井の１部が、自分に向かって落下してきたこと。
てっきり――そこで自分は死んだのだと思い込んでいた。
けれど、ここが天国や地獄という感じはしない……いやまぁ、行った経験はないけれども。
加奈は戸惑いながら身を起こした――そして気付いた。
（えっ……なっ、何コレ！？ ――それに声が出ない！？）
視界に入った自分の下半身が、黒ずんだ金属のような色をしている……まるで銅像のように。
体の感覚もおかしい……自分の体なのに、けれど自分の体じゃないような気がする。
しかも……何故か声を出すことができない。
加奈は思わず、自分の喉に手を当てた――硬い。
まるで、金属製の首輪をはめ込まれているよう。
けれども、不思議なことに、その硬い喉には自分の皮膚感覚がある。
そしてその手も、下半身と同じ、黒ずんだ銅像のような色をしている。
いや、色だけではない……質感も金属そのもの、なのに自分の意思に反応して動くのだ。
再び――加奈の脳内に蘇る悪夢。
それは10日ほど前、下校中に経験した“黒い雨”。
加奈の全身を覆って、自由を奪っていった、まるで石油のような謎の液体。
記憶はその直後に途切れており、気付けば病院のベッドの上だった。
今の自分の姿も、その時と似ている……違うのは、特に不自由なく動けることだけ。
そして間もなく――加奈は自分がどんな状態なのか知ることになった。
（……！！……えっちょ……これ、あたしなの！？）
加奈の視線の先にあった、割れたショーウィンドーのガラス。
そこに、加奈の姿が鏡面反射して映り込んでいた。
頭の天辺から爪先まで――黒ずんだ銅像そっくりの姿で。
ガラスに映りこんだ“銅像姿”の加奈の目には、不気味にも瞳の影がない。
しかしその“銅像娘”は不安げな表情を浮かべて、加奈と同じポーズを取っているのだ。
思わず、自分の顔に触れる加奈――案の定、金属のように硬い。
そしてガラスの中に映る銅像娘も、同じように自分の顔を触っていた。
（あ……あたし……どうなっちゃったの！？）
まるで銅像のような姿に“変身”してしまった自分自身。
もしも動いていなければ、それこそ銅像と見分けが付かないだろう。
体の動きに制約はないものの、声を出せず、妙に全身が重く、また変な感覚が支配している。
「動く銅像になってしまった」のだとしたら、こうした状況も分からないではないが、
しかしそんなことが、起こり得るというのだろうか？
（……夢じゃ、ないよね……はぁ、考えてても仕方ないか）
少し経つと、妙に心が落ち着いてきた。
非常識も甚だしい姿になっているというのに、不思議なものだ……まだ現実味がないのか。
落ち着いてくると、周囲の状況に意識が回り始める。
どうやらこの場所は、加奈が爆発に巻き込まれ、死を覚悟した、
プラズマモール２階の端にある、アクセサリーショップに面した通路らしい。
耳を澄ますと悲鳴のような声が聞こえてくる……銅像の体なのに音が聞こえるのも不思議だが。
通路の奥は天井が崩れ落ち、火災が起きているのか、ちろちろとオレンジ色の光が瞬く。
多分――さっき加奈自身を巻き込んだ、爆発で崩れたのだろう。
（特にケガはないみたい……まぁ――体が銅像になっちゃったんだったら、そうなのかな？
――あっ、そう言えばさっちゃんは！？ 確か、あたしと一緒に歩いてたよね！？）
ふと加奈は、親友の咲のことを思い出した。
蘇った記憶では確か、加奈の前を歩いていたはず……その記憶と共に振り返ると、
見覚えのある少女が１人、通路の奥に倒れているのが見えた……どうやら失神しているらしい。
（さっちゃん……大丈夫――ってちょっと待って、あたしこんな姿なのに、何て言えばいいの！？
ううん、声だって出ないのに……怪談に出てくる、歩く銅像と同じなのに）
咲を助け起こそうと足を運びかけて、加奈は再び立ちすくんだ。
再び割れたショーウィンドーに映る自分を見る……不気味な銅像姿の自分自身を。
いくら一緒に神秘体験もした仲とは言え、こんな姿の自分を咲は理解できるのだろうか。
（ど……どうしたらいいんだろう）
加奈は不安に駆られ、自分の体を抱きすくめた……まるで鉄骨の柱を抱えているような違和感。
何かにすがりたい気持ちでいっぱいなのに、すがるものはそこにはなかった。
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プラズマモールの外側にある駐車場も、騒然とした空気に包まれていた。
既に警察がモールの外にいた買い物客を緊急避難させ、敷地はほぼ無人になっている。
複数のパトカーの背後には機動隊のトラックと、更に自衛隊らしき迷彩色のトラックも見える。
モールの玄関扉は閉まっており、ガラスの向こうには黒服の戦闘員が数人立っている。
強行突入を警戒するための見張りだろう……その奥に人質の姿は見えない。
多目的ホールや吹き抜け広場などに、集められているのかも知れない。
中庭に向かう屋外通路にも、いつの間にかバリケードが積み上げられて、戦闘員が立っている。
いや――こちらは黒服の戦闘員だけではなかった。
明らかに“人外”を思わせる、緑色のウロコに覆われたトカゲのような怪人が１人。
ショッカー連合の怪力強化人間、“再生怪人”のリザードロンである。
細く絞った猫目を警官隊や自衛隊に向け、耳まで裂けた口には不敵な笑みを浮かべている。
丸太のような太い腕を組み、長い尾を時折ゆらゆらと動かしている。
「まるでドラゴンが人の形になったような姿だな」
「あいつはまた“新手”ですね……渋谷事件の時にはいなかった顔です」
先に現場に到着した自衛官のリーダー格、斉藤と権堂がトラックの中で言葉を交わす。
『お前たちは既に包囲されている、大人しく人質を開放して投降しなさい！』
警官隊から、スピーカーで投降を呼びかける声が響き渡った。
だがリザードロンはふん、と低く鼻を鳴らしたかと思えば、数歩前にゆっくりと歩み出し、
傍らの街灯をむんずと掴んだかと思うと――ズボッ、と一気に引き抜いた。
怪人が見せつける怪力に、警官隊や自衛隊の１群が思わずざわめく。
そしてリザードロンは、引き抜かれて火花を散らす街灯を、警官隊側に向けて怒鳴った。
「うだうだ騒ぐな人間どもが、さっさと要求を政府に伝えて来ねぇか！！」
『要求は今政府に伝えている、落ち着いて人質を開放するんだ！』
テンプレートな言葉が返ってくると、リザードロンはぎろりと警官隊たちを睨み付け、
手にした街灯を槍投げの要領で、大きく振りかぶって放り投げる。
投げられた街灯はブゥン、という音を立てて、機動隊のトラック向かって飛んできた。
慌てて機動隊員がトラックから駆け出した直後――その運転席に街灯が突き刺さる。
「政府の回答を聞いてから話をしやがれ、ゴミ虫共めが！」
そんなリザードロンを眺めていた権堂たちは溜息を吐いた。
「今、100mは飛んだぞ……チートだな、ほとんどミサイルじゃないか」
「パワーにかなり自信があるみたいですね……いやぁ、ケンカしたくない相手だわ」
その時――トラックの無線機に声が響いた。
『竜王工作部隊到着――指示を待つ』
龍二の右腕であるザラクの声だ……褐色のウロコに覆われた“竜人”である。
「ご苦労様ですザラク殿、現場は見えてますか？」
『あぁ……街灯を投げ飛ばした怪人がいたな、確かにアレは人間の手には負えまい。
あいつにはジーラを対峙させようと思っているが、どうだ？』
「確かにジーラ殿なら何とかなりそうですね……しかし彼に頼りっきりだな」
『適材適所だ、我々も協力出来ることを歓迎している、気にする必要はない』
そして更に、別の無線も入ってきた。
『こちらブルーセイヴァー、今所定の位置に着きました』
『こちらマクスレッジ、アリシェイルとファルレーンがスタンバイ完了した』
前者はアッシュ率いる“ゾイド特戦隊”、後者はオーディアンの有志たちである。
直接強行突破するのは難しいが、包囲戦の１環を担っている。
ゾイドはショッカー連合に見つからないように、雑居ビルの影に隠れて待機しており、
オートロンたちは駐車場の端に紛れ込んでいるようだ。
『こちら富谷、特生防衛隊の配置を今完了した、どうぞ』
更に防衛隊の富谷からも無線が届いた……権堂と斉藤は顔を見合わせて頷く。
そして数分後――防衛特調の黒木から連絡が来た。
『こちら防衛特調、政府の対策本部から開放作戦の許可が出ました、どうぞ』
黒木の声を聞いて、権堂と斉藤は同時に深呼吸をした。
「よし始めるぞ――“1300”を持って“オペレーション・ライデン”を開始する！」
作戦名“オペレーション・ライデン”……1300（ヒトサンマルマル）、
午後１時を持って、人質解放作戦の開始が関係者に告げられた。
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“動く銅像化”した加奈が、不安に押し潰されかけていた――その時だった。
「……う……ん……」
数ｍ先の通路に倒れていた咲が、かすかな呻き声を上げて、上半身を起こした。
そして間もなく――加奈の姿を視界に留めた。
最初は寝ぼけたような表情だったが……次第に、その顔が引きつっていく。
無理もない……自分の親友が「銅像にしか見えない」のだから。
「………………加……奈……？」
加奈は半ば愕然とした思いで立ちすくんでいる……何も言えるわけがない。
いや何かを叫んだところで、恐らく咲には届かなかっただろう。
（……さっちゃ……ん……）
思わず、体が動く……具体的に何かをしようとしたわけじゃない、反射的な動きだった。
しかしそれを見た瞬間、咲はぎょっとした表情を浮かべ、床に脚を投げ出したまま後退した。
それもまた、反射的な行動であった……銅像にしか見えない少女が動いたのだから。
絶望的な空気が立ち込めた――その時だった。
突然、咲がぶんぶんぶん、と大きく首を振って、ぱぁん、と頬を叩いた。
親友の突然の行動に、驚いたのはむしろ、加奈の方だった。
（……さっちゃん？）
「…………加奈……加奈なの……？」
おずおずと、自信なさげに咲が尋ねてきたではないか。
しかしその目にはもう、先ほど目はおろか、顔全体に噴き出していた恐怖色はなかった。
はっとした加奈は、こちらも戸惑いながら、こくりと頷いた。
（……そうだよ……さっちゃん……せめて、声が届いたらいいのに……）
「……加奈なんだね？……なんだか、よく分かんないけど……信じていいんだよね？」
声を出せない加奈は、ただこくこくと、精一杯頷き続けることしかできない。
「……分かった、信じるよ。そういうところ、あたしが知ってる加奈そっくりだもん」
（信じてくれるの！？ 良かった……ありがとう、さっちゃん！）
親友が自分のことを理解してくれた……感極まった加奈は、思わず咲に抱きついた。
「わっ！？……ちょ、やめてよ加奈、分かったからさ……い、痛いってば」
（えっ……あっ、ご、ごめん……その……力加減、分かんなくて）
“銅像化”したこの体は、思いのほか、力が出るらしい。
反射的に咲から離れた加奈は、再びぺこぺこと、咲に頭を下げた。
「そっか……今は喋れないんだね……それにしてもほんと、銅像みたい――あ、ごめん」
気持ちをほぐすようにそう言ったのだろう……途中で言葉を訂正する咲。
もちろん加奈は、ぶんぶんと首を横に振るだけだった。
（あ、謝ることないよっ、さっちゃん、別に間違ってないもん！）
「……でも、良かった。加奈が無事……で」
にこり、と戸惑いながら笑みを浮かべる咲。
“無事で”と言いかけて少し詰まったのは、加奈の外見のためだろう。
死んだり重傷を負っていたわけではなかったものの、非常識な姿に変わっているのだから。
加奈ももちろん、その意味するところは分かっていた……だから、咲の笑みに笑顔で応えた。
「その笑顔……本当に加奈なんだね……」
（も、もちろんだよっ、色が違うだけだよ、うんきっとそうだって！）
「他のみんなは、大丈夫かな……ディアス君とか、カズヤ君とか、唯とか……柚子さんも」
（あ……そうだね……途中ではぐれちゃったもんね……）
咲の視線が初めて加奈から離れ、その奥の崩れた天井を見つめる。
加奈も吊られて背後の残骸に目をやる――瞳の影がないため、視線の方向は分かりにくいが。
「というか……もしかしてあたしら――今、閉じ込められてるんじゃない？」
（そ、そうか……言われて見れば……）
確かに、咲の言う通りだ。
この通路は袋小路になっており、休憩用のコーナーだった場所で、小さなベンチがある。
その入口に当たる部分の天井が崩壊しているため、今は密室に近い状態になっているのだ。
空調用のダクトが天井にあるため、完全な気密状態ではないが、
崩れ落ちている天井の残骸を撤去しない限り、この場所を離れることはできない。
「……ねぇ加奈、救助隊、来ると思う？」
（……うーん……来て欲しいけれど……正直、わかんない）
声を出せないため、加奈は大げさに腕を組んで、考え込む仕草をする。
「この瓦礫、どかせないかな…… ――あっ、あちっ！？」
崩れている残骸に手をかけた咲が、小さな悲鳴と共に手を引っ込めた。
（あっ、さっちゃん、大丈夫！？）
「何コレ……熱い。 ……そう言えば、向こうで何か燃えてるみたいな……ヤな予感がする」
（そう言えばさっき、隙間から火みたいなのが見えたっけ……）
「まずいんじゃないの……冷房止まってるし。 やけに暑いと思ってたけど……このままじゃ、
あたしら……焼け死にはしなくても、蒸し焼きになっちゃうかもよ」
そう言いながら、咲はポシェットに入れていたハンカチで、額の汗をぬぐった。
そのハンカチも見ればかなり濡れている……拭いても拭いても、汗が噴き出すからだろう。
（そ、そんなに暑かった？ ……そうか、今あたしの体、銅像と同じだから……）
そう言えば、咲に言われるまで、加奈は暑さを意識しなかった。
思わず手をまじまじと見つめる……相変わらず、黒ずんだ銅や鉄のような質感だ。
そして次の瞬間には、加奈はその手を瓦礫にかけていた。
「ちょっ、加奈、大丈夫！？ かなり熱かったよ今」
だが……加奈には、咲が言うほど、熱いという実感はなかった。
多少の熱を感じはしたが、ほんのり暖かい程度……変化した体質の所為かも知れない。
（うん……大丈夫、みたい）
――今のこの体だったら、瓦礫をどかせるかも知れない。
そんな気持ちが、加奈に芽生えかけていた。
そのまま瓦礫の端をぐっと掴む……瓦礫には鋭い箇所もあるが、特に手が傷つく気はしない。
まるで鋼鉄のグローブをはめているような感じで、痛みもなかった。
（だったら……やらなきゃ。 あたしが、さっちゃんを助けなきゃ！）
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やはり同じ頃――プラズマモール３階のゲームセンター ……のトイレ。
非常電源のオレンジ色の光に照らされた洗面所で、不安な表情を浮かべているのは零児だ。
哲朗におだてられるままにゲームしていた零児だが、ふと催してトイレに入ったのだが、
突然非常扉が閉まり、その奥で爆発音が響いたのである。
閉じ込められた形になり、思わず非常扉に駆け寄った零児だが、聞こえないのか応答がない。
扉の向こうでは悲鳴のような声が時折聞こえてくるのも不安である。
「……ど、どうなっちゃったんだ！？」
トイレには換気用の窓があるが、高い位置にあって零児には手が届かない。
不穏なざわめきはその窓の方からも聞こえてくる……重大な非常事態が起きているのか。
「おーい、誰かいないの？ ここから出してくれよ――」
再び声を張り上げようとした零児が――ふと、息を潜めた。
扉の向こうで、複数の叫び声が聞こえてきたからだ。
「いやっ離してっ！」
「おい離せよ、やめろ、うわぁあぁ！！」
「イィーーーーー！」
客達の悲鳴に混じって、妙な金切り声も聞こえてくる。
バタバタという足音、ズルズルと何かを引きずる音、非常扉に遮られて見えないが、
何か異常な事態が起きていることだけは、零児にも分かった。
それも事故の類ではない……テロリストでも乱入してきたのだろうか。
――偶然にも、その予感は的中していたのだが。
「……どうしよう……そのうちここにも来るかも……」
今の零児はある意味、追い詰められた状態だ。
もしテロリストだったら、そしてそいつらが非常扉をこじ開けてトイレに乱入してきたら。
不安に押し潰されそうな気持ちになっていた零児は、ふと腕の“ブレスレット”に目をやった。
“あの日”公園で手に入れた腕輪……零児の気持ちに呼応するように、きらりと光を放つ。
しばらく見つめていた零児だったが、すぐ外で破壊音が聞こえて、びくっと首をすくめた。
更にガチャガチャ、と非常扉のノブを乱暴に捻る音がトイレに木霊した。
人の声はしない……客だったら、無言で乱暴に非常扉をこじ開けようとはしないだろう。
再び――ブレスレットに目をやる零児。
（――起動しますか？）
まるで待ち構えていたように、零児の脳内に声が響いた。
この声はどうやらブレスレットに備わった機能の１つらしく、零児の意識に敏感に反応する。
あの日このブレスレットを手にはめてから、この声を何度聞いたことだろう。
ごくり、と唾を飲み込む零児。
このブレスレットがどういうものなのか――どうも彼は既に知っているらしい。
そして今度は、非常扉がメキメキと異様な音を立て始めた……扉を壊すつもりなのか。
その空気を読み取ったかのように、再び脳内に音声が響いた。
（警告します。危険が接近しています。危険回避のために起動を勧めます）
更に複数の足音が非常扉の前に近づいてきた……深呼吸をして、首をぶんぶんと振る零児。
そして三度――しかし今度は何かを決意した目で、ブレスレットを見つめた。
「――システム起動。タイプはRX-78-2、安全装置解除！」
零児がそう呟いた瞬間である。
ブレスレットから緑色の眩い光が放射され、零児の全身を包み込んだ。
その光が収まると共に非常扉が乱暴に破壊され、黒服の戦闘員が２〜３人、乱入してきた。
表情が窺えないガスマスク状の顔……それはまさにショッカー連合の戦闘員たちであった。
赤外線スコープのような赤い目がトイレの中を窺い――すぐに視点が止まる。
「……イッ！？」
先頭の戦闘員が首を傾げる……視線の先に立っていた“人影”を見ているようだ。
それはちょうど先ほどまで、零児が不安な表情で立っていた所である。
しかし零児の姿はそこにはない。
代わりにそこに立っていたのは――人間サイズの“ガンダム”だったのである。
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| （１２章４話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2024年に執筆したエピソード。
ただし構想自体は旧ＯＷ企画打切り前からあり、想定していたアクションハイライトの１つ。
ショッピングモールでショッカー連合と異世界の有志たちが激突する展開であり、
ショッカー連合にとっては初期の“渋谷事件”のリベンジマッチとなる他、
加奈や零児といった、ＯＣＤ世界出身の少年少女たちの転機となるエピソードでもある。
事態を知った防衛組織側が動き出し、“プラズマモール事件”が本格的に始まる。
具体的な部隊展開などは後付けであるが、基本カードは実は旧ＯＷ企画から存在しており、
これらを組み合わせてハイライトを詰めていく構成になっている。
また加奈や零児が“変身能力”を開放するシーンは、旧ＯＷ企画の時に試作していたものを、
ＰＡ向けに再編したエピソードを組み込んでいる。
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