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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130802E） |
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（――えっ、自衛隊や防衛隊の人たちが動いてるの？）
ショッカー連合の“立て籠もり”が続くプラズマモール１階。
木更津茜から自衛隊や防衛隊の“開放作戦”を聞かされた冬雪は目を丸くした。
（うん、信ちゃんが地下駐車場に来てるみたいね）
水着売り場がある催事コーナーのすぐ外にある吹き抜け広場に、買い物客が集まっている。
いや――「集められている」と言った方が良いだろうか。
漆黒の戦闘員たちが、軽く100人を越える買い物客の周りで、見張りをしている状態だ。
こういう“人質集積地”が各フロアの中心的なゾーンに作られていたようであり、
モール全体では500人を越える人質が集められていた。
ただこれでも、事件が起きる前にモール内にいた人たちの半分以下ではあるのだが。
戦闘員たちに聞かれてはまずいので、念話を使ったコミュニケーションをしている。
陸自娘や艦娘は、独自の“通信チャンネル”を能力的に持っている。
冬雪たちも玄武ら神獣たちの力を借りて、彼女たちの“秘密回線”にアクセス可能だ。
（でも……オレたちはどうしたら良いんだ？ 今はオーヌサステッキも持ってないぞ）
（直接的には、私たちからは動けないだろうな……だが外の動きに合わせることは可能だ）
秋綺の疑問に習志野が答える中、神獣たちはそれとなく周囲を窺っている。
手の平に乗る上ぬいぐるみのような外観なので、人質の足下から“偵察”が可能だ。
もちろん、余り“遠出”すると逆効果なので、彼女らの周囲だけであるが。
（加賀さんと瑞鶴さんも外に来てるみたい……瑞雲、上げられないかなぁ）
（キミらは自前の偵察機持ってるのかぁ……ちょっと羨ましいよ）
陽炎の“交信”に福知山が苦笑する中、再び茜が“計画”を知らせた。
（作戦は“1300”に開始だって……もう、あと数分だね、心の準備は良い？）
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第12章 怪人たちの逆襲 ★
2013年8月2日―日本・プラズマモール事件其の５
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「時間だ――これより“オペレーション・ライデン”を始める！」
1300（ヒトサンマルマル）、ついに人質解放作戦が開始された。
とはいっても――もちろんだが、いきなり強行突破部隊が殴り込むわけではない。
まずはショッカー連合側の陣形を崩さねばならないから、最初に動くのは“偵察隊”だ。
民間人になりすました自衛隊の偵察要員が、敷地境界スレスレに展開しており、
盗撮用の特殊なカメラなどを使って近況情報をまとめていく。
更にその外側で、２台の軽機動車が反対方向に走り始めた。
荷台に乗っているのは、サイトＧから30分前に駆けつけたばかりの加賀と瑞鶴である。
手の平サイズの偵察機“瑞雲”を、彼女たちに上げてもらうのだ。
艦娘である彼女らは、風がないと艦載機を上げられないため、人工的な加速が要る。
洋上なら自ら装備する艤装で加速出来るが、陸上では補助が要るのである。
これも数分前に、陽炎らモール内にいる同志からの“緊急通信”で決まったものだ。
自衛隊の偵察隊も自前の偵察用ドローンがあるが、手段は複数ある方が良い。
そしてこれは作戦開始から少し前に、ショッカー連合側の動きで証明されたものだ。
ショッカー連合にも、恐らく偵察機と思われる、小さな飛行機械があったのである。
それはまさに、ポイズンキャリアーが展開させていた、スズメバチ型のドローンであった。
素人なら見逃してしまう小さな“伏兵”に気付いたのはキトラである。
重力に干渉する能力を持つキトラは、空間状態の把握に高い感知能力がある。
そしてキトラが感じた“違和感”は間もなく、偵察隊が双眼鏡の観測で確認したのだ。
「まったく……想定外のことだらけだな」
「相手は普通の人間のテロリストじゃないですからね」
因みに各部隊の主戦力は、“特殊工作”の後に突入を行うために待機させている。
こちらはメーサーライフルを構えた、尾形ら防衛隊の歩兵部隊が担当する。
メーサーライフルはもちろん、ショッカー怪人や戦闘員との対峙を想定したものだ。
そして現場の総合指揮所を任された権堂は、もう１つ“敵側”の変化に気付いた。
「さっきの“ドラゴン男”が前線から消えたな……何故移動したんだ？」
そう――先ほどまで警官隊や自衛隊を煽っていた、リザードロンの姿が消えたのだ。
「もしかして……モール内の“伏兵”に気付いたかも知れませんね。
普通の人間とは違う者たちが、モール内にも複数いますし、情報交換もしていますし」
「奴らがこちらの“秘密回線”を傍受出来るのだとしたら、マズいぞ」
「彼女たちが言うには、秘密回線の“波長”はコントロール出来るようですが……
最前線の強行偵察隊に、後方支援が要るかも知れませんね、自分が行きましょうか」
「そうだな……極力バレないように頼めるか？」
権堂がそう言うと、斉藤はサムズアップして輸送用トラックから降りた。
「もちろんです……こういう事態のために、共同訓練してきたんですからね」
すぐに、トラックの前に赤いオートバイが横付けした――アリシェイルだ。
「頼むぞアリシェイル……なぁ、ちょっと追加注文なんだが、迷彩を変えられるか？」
「お安い御用よ、任せて」
言うや――アリシェイルの外装カウルが、赤からグレーの市街地迷彩に変わった。
斉藤は自分用にカスタマイズしたメーサーライフルを構え、部下の西村に声をかける。
「偵察隊のバイクを何台か借りて、俺の後ろから数人付いてきてくれ、出来るか？」
「もちろんですよ、訓練の成果を見せる時です」
斉藤ら“特別レンジャー小隊”の役目は、出浦ら強行偵察隊の支援と内部攪乱だ。
強行偵察隊と連携する異世界の同志、マイティライダーズが地下駐車場に待機している。
出浦のホットラインによると、最初見張りをしていた戦闘員２名を撃破後も、
何度か追加で送り込まれた戦闘員と交戦しているようだ。
リザードロンが前線から消えたのも、こうした事態への対処だと考えれば納得がいく。
地下駐車場へ向かうスロープに斉藤が向かうと、見覚えのあるバイクが１台いた。
「……本郷殿、ご苦労様です」
本郷は既に“１号ライダー”のマスクを被って待機していた。
「渋谷事件以来だな、斉藤１尉。 今回もあんたの腕前を期待してるぞ」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
「タイミングを合わせて、“竜王部隊”が先行突撃を仕掛けるそうだ、聞いてるか？」
「えぇもちろん、彼らのために我々がお膳立てするんですよ」
斉藤がそう返すと、本郷はバッタに似たマスクの中で、少しくぐもった溜息を漏らす。
「懸念があるとしたら――奴らが人質を手にかける可能性だな……連中は容赦しない」
「細心の注意は必要ですね、あとホールの方は、キトラ殿が『任せて欲しい』と」
「ふむ――そう言えば彼は結構、手数があるようだな……よし、行こうか」
軽く確認を済ませると、数台のバイクが地下駐車場の方へと降りて行った。
途中に防犯カメラがあるが、実は既に機能しなくなっている。
こちらはマクスレッジが数分前に仕掛けた“妨害電波”によるものだ。
ショッカー連合側も電波妨害を仕掛けているので、それを逆手に取った作戦である。
お互い「視覚の外」は見えないことになるが、後は「ゲリラ経験値」に賭けたのである。
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さてこちらはプラズマモール２階、ディアスとカズヤと柚子が瓦礫に向かって奮闘中だ。
「ディアスさん、これでどうにかなりませんか？」
「おぉう、どっから持ってきたんスかそれ」
「そこの店の奥にありました」
柚子が差し出したのは、手動シャッター用に使う細長い金属の棒の工具である。
これでテコの原理で瓦礫の１部を持ち上げられないか、というわけだ……火傷も防げる。
２人で瓦礫の隙間に差し込み、体重をかけて渾身の力を込めた。
メキメキと瓦礫が音を立てるものの、残念ながら大きな隙間が出来るには程遠い。
「うぅん、さすがに重いですね……ユンボが欲しいです」
「ゆんぼ？」
「あ、すいません、ショベルカーのことですね」
「へぇ、そんな言い方するんスね……あぁ向こうも何か、工具使ってるっぽいなぁ」
瓦礫の向こうでも似たような物体が動いているようだが、中々上手く行かないようだ。
もっとも実は――ディアスが工具と思っていた物体は“加奈の指”だったのだが。
突如加奈に起きた“突然変異”で、彼女の体は今金属のように変わってしまっている。
ディアスはもちろんそれを知らないため、彼女の指を工具だと思い込んだのだ。
陸自娘の柚子は実のところ加奈の事情に気付いていた……「心の声」が聞こえるからだ。
（加奈さん頑張って、もう少しです）
（あ、ありがとうございます……でもどうして、あたしの声が聞こえるんですか？）
（実は私にもちょっと特殊な能力があって……事件が落ち着いたら、ちゃんと話しますね）
（良かったぁ、誰にも理解してもらえなかったらって、ずっと不安だったんです）
（今は咲さんの救出に全力を尽くしましょう、全てそれからです）
２人がそんな“会話”をしていることはもちろん、ディアスには聞こえていない。
そんなディアスが、冷房が止まった通路で汗だくになっていた時である。
「――お困りのようですね？」
そんな声がした――ディアスとカズヤが振り向くと、ひょろりとした男が１人。
怪しげな黒いスーツを着ているが、優しそうな笑みを浮かべている。
「私でよければ――お力添えを」
「そ、そうですか、助かります！」
「大丈夫かな、ディアス兄ちゃん……何か変だよ、この人」
即答するディアスに対し、カズヤはどこか訝しげに男を見る。
柚子も同様だ……彼女は彼女で、普通の人間にはない“感知能力”があるのも１因だろう。
そして黒服の細い男は、笑みを隠さないまま言葉を続けた。
「ふふっ、良いですとも――ただし１つ、条件がありますがね」
「えっ、じょ、条件ですか？」
「あぁ、ご心配なく――別に、お金の話ではありません。
今から助け出してあげますので、そのまま私たちに、付いてきて頂きたいのですよ♪」
言うや――男の背後に黒服の怪人、いや“戦闘員たち”がずらりと並んだ。
「っな――！」
「やっぱり……あのテロリストの仲間！」
驚愕するディアスとカズヤを眺めながら、男の言葉が更に饒舌になった。
「警戒せずとも良いのですよ……我々は皆さんに新たな力を差し上げるために来たのです。
さぁ、我々“ショッカー連合”と共に、新たな１歩を踏み出そうではありませんか」
「「イィーーーーーー！！！」」
男の言葉に呼応するように、黒服の戦闘員たちが気勢を上げた。
「くっ、来るな！ お前たちだろ、渋谷の事件起こしたの……知ってるぞ。
お巡りさん達を殺したって……テロリストじゃねぇか、誰が付いていくもんか！」
ディアスは精一杯の勇気を振り絞って叫んだが――黒服の男はまるで動じない。
いやむしろ――笑みの下に、常人ではない凄みを漂わせた。
「逆らうからですよ……新時代の担い手であるはずの我々に――おや、我々と来ませんか？
困りましたねぇ……それでは、瓦礫の奥にいるご友人を助けることができない。
それも残酷な話だ……ふむ、仕方ないですな、ここは――」
そこまで言うや、男の目が殺気を帯びた。
「有無を言わせずに付いてきてもらうとしようか、若い体ほど魅力的な素材はないのでね」
そして見る見るうちに、男の外観が変貌していく……ディアスとカズヤは息を呑んだ。
細く痩せこけていた顔が前後に引き伸ばされ、口吻が伸びて硬く引き締まっていく。
顔の上半分にざわざわと黒い毛が生え揃い、袖口からも黒い毛――いや、羽毛が広がった。
“変身”を遂げた怪人は――あたかも、ツバメを人間体形に整形したように見える。
「未来の同志に自己紹介しよう――我が名はナイトラプター、連合の新世代を担う戦士だ」
“本性”を現した男――いやナイトラプターは、じりじりとディアスに近寄ろうとする。
後ずさりするディアス……その時であった。
「……何のつもりかな、お嬢さん？」
柚子が先ほどの細長い金属工具を、ナイトラプターに向けている。
いつもの礼儀正しく、穏やかな彼女の振舞いからは意外に思えるほど、鋭い眼差しで。
「来ないでください、あなたの助けは要りません」
「ふん――自分の立場をもう少し考えて言って欲しいものだな、“異能の抵抗者”よ」
ナイトラプターの言葉に、柚子の表情が変化した……わずかに動揺の色が見える。
「我々が知らぬと思ったのかね？ 貴様、人間ではあるまい……むしろ同類ではないか。
何を人間の味方のような顔をしているのかね……まさに偽善者だなぁ」
「えっ……！？」
狼狽えるディアスに焦る柚子に対して、ナイトラプターは更に不気味な笑みを見せた。
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「――本郷さん、無事で良かった！」
プラズマモール地下駐車場では、結城たちと本郷――１号ライダーが“再会”した。
「お前らまで巻き込まれるとはな……どういう宿命なんだろうな」
「相手はショッカーですから、世界が変わろうと因縁は同じだってことでしょう」
本郷は軽く頷いて、隣にいるシゲル――“ストロンガー”とも視線を交差した。
「おやっさんは無事か？」
「今のところは……でも自分から他の客と一緒に、人質になりに行ったから心配ッスね」
「他の客と同じように振舞った方が、返って安全だと言ってました」
「そいつは危ういな……マイティライダーズがいると気付かれたら、逆効果だぜ」
「――よく分かってるじゃないか」
ふとそんな声が、結城たちの背後から響いた。
はっとして振り向くと、真っ黒なスーツに身を包んだ“怪人”が３人ほど。
いや――それは“ただの怪人”ではなかった。
「えっ……これってまさか、仮面ライダー！？」
「黒い仮面ライダー……だと！？」
そこに立っていたのは――まさに“黒い仮面ライダー”だった。
デザインは１号ライダーである本郷と似ているが、ほぼ黒１色でスカーフだけ銀色。
困惑する結城たちに対して――本郷はすぐに何かを“悟った”ようである。
「なるほどな――つまり新型の“ショッカーライダー”ってことかよ」
ショッカーライダーというのは、かつてショッカーが開発した“怪人”の１群である。
元々は本郷も、このショッカーライダーの“第１号”であり、
他の怪人たちと違う“エリート戦士”として、改造された経緯があった。
今回現れたのは、まさにそのショッカーライダーを「黒く塗り直した」ものに見える。
「ショッカーライダーって……確か本郷さんと同期の……」
結城たちの反応に、“黒いショッカーライダー”はマスクの中で笑うような声を出す。
「悪いが、その名前はもう古い……我々の名は“ナイトライダー”だ、覚えておけ反逆者」
「ナイトライダー、だと？……今は昼間だぜ、時間を間違えたか？」
「確かに夜には早いな、だが組織の命令が出たからには、動かねばならぬ」
自ら“ナイトライダー”と名乗った１人は、そう言って指の骨をゴキゴキと鳴らした。
「“新型”は随分と口が軽いようだ」
「皮肉を言ってる場合か？ 自分で言ったろう、マイティライダーズだと分かれば――」
「そうだな――すぐ救出に行かねば」
「ほざけ反逆者……我々がそう易々と、貴様を行かせると思うか――」
その直後に――グリーンとブラック、２つの仮面ライダーが地下駐車場で激突した。
本郷と一緒に来た斉藤たちは、距離を取りながら同様にバックヤードに駆け上がる。
その斉藤に、結城が駆け寄ってきた。
「自衛隊の皆さんですね、マイティライダーズの結城です、案内します！」
「ご協力感謝します、しかし無理はなさらないでください」
結城を先導に、バックヤードの奥に行こうとする斉藤たち。
ナイトライダーの１人がそれを追おうとするが、“リーダー格”はそれを止めた。
「行かせておけ、我々の任務は仮面ライダーだ！」
「ほほぅ、随分と気前が良いじゃないか」
「我々は貴様ら反逆者を始末するために生まれたんだ、忘れるな」
「それで他の同志は放置するわけか」
「勘違いするな反逆者――人間の相手など、我々がわざわざするまでもないだけだ。
主力を抑えれば、後はザコだけだからな！」
そう言うと――ナイトライダーは薄暗いバックヤードで、白熱するナイフを突き出した。
本郷は僅差で飛び退くが、戦闘服の裾が軽く切り裂かれる。
「仮面ライダーが武器を使うとは……新型はエリートのプライドを捨てたか？」
「そんなプライドなど無用の長物、確実に任務を達成するために必要なことをするまでだ」
更に追いすがるナイトライダー。
他の２体も同様に白熱するナイフを取り出した……持ち方は１人１人違うらしい。
「新型が旧型に劣るようでは、意味がないだろう？」
そう言って、ナイトライダーは大きく跳躍する――その瞬間、背中に半透明の煌めきが。
銀色の“翅”が、背中に背負った小さな“バックパック”から展開されたのだ。
その翅を使って滞空時間を稼ぎ、ナイトライダーは３角跳びのように距離を詰めた。
「翅まで生えてるとはな……！」
「貴様も知らぬわけではあるまい、バッタには翅があるんだよ！」
“上空”から距離を詰めたナイトライダーがナイフを振るうが、
横一閃、強力なワンツーがその行く手を遮った――ストロンガーの援護である。
バッタの能力を持つ１号と違い、ストロンガーはカブトムシの能力を持ち更に力が強い。
装着する戦闘服もダークグレーとレッドのツートンカラーである。
「舐めんなゴキブリ野郎、仮面ライダーは１人だけじゃねぇぜ！」
「ふん、分かってるさ……だから３人で来たんだ、貴様も覚悟してもらうぞ！」
地下駐車場のバックヤードで“２対３”の激闘が始まった。
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再び１階端部の健一郎と葵。
階段室から出てきた２人のうち、健一郎は何故かキョロキョロと周囲を見渡している。
「どうしたのよ健ちゃん？」
「テロの容疑者はどこにいるんだろう？」
「え、どういうこと？ まさか――」
「当然じゃないか――人質解放の対話交渉をするんだよ」
自信満々でそう言った健一郎に、葵は唖然とした表情を浮かべた。
「健ちゃん本気なの？ やめときなよ、危ないって……そういうのはプロに任せて――」
「権力で黙らせようとするやつなんか信用出来ないよ、本気で平和を訴えなきゃダメだ！」
「それは相手が話を聞くこと前提でしょ？」
「権力者が横暴にやるからテロになるんだよ、だったら権力と関係ない僕らが――」
「グハハハ！……そいつは素晴らしいアイデアだなぁ、小僧！！」
“平和主義”を熱弁する健一郎の背後で、しわがれた太い笑い声が響き渡った。
呆然とした表情で凍り付く葵……それを見た健一郎は、何事かと背後に振り向く。
「どうしたんだよ――えっ！？」
そこにいたのは、緑色のウロコに覆われた筋骨隆々のトカゲ男――リザードロンだった。
初めて見る異形の怪人に、健一郎もまた呆気に取られてしまうが、
顔面蒼白の葵と違い、可能な限り冷静さを保とうと気を引き締めようとする。
「ほぅ――俺の顔を見ても騒がねぇか……ガキにしちゃあ、大した度胸だぜぇ？」
「……あ、あなたが事件を起こしたのですか？」
「あん、事件？ ――そうか、この“革命”を言ってるのか、そうだぜ小僧？」
「人質を解放して話し合いましょう、平和が１番大事です、そう――話せば分かります！」
「ほぉ――んで、お前は何をしてくれるんだ？ こういうのはトレードオフだろ？」
「政府の強権を一緒に批判しましょう、みんなで手をつなぎ、声を上げれば実現します！」
「おいおい……お前それ、本気で言ってんのか？ ……ぎゃはは、こいつは傑作だぜ！」
再び大声で笑い始めたリザードロン……健一郎は困惑した。
「久々に聞いたぜ、そういう話――お前ほんとにおめでてぇな！」
「えっ……いや、あの……」
「トレードオフって言ったろ、話し合いじゃねぇんだよ、お前は俺の望みが分かるのか？」
「それは話し合いで聞きますよ、何がお望みなんですか？」
食い下がる健一郎を見下すように――リザードロンは凄みを帯びた声で、ゆっくり言う。
「俺たちが世界を支配することだ――人間たちを滅ぼし、奴隷にするんだよ！」
呆然とする健一郎――彼は初めて「話が通じない相手」を知ったのだろう。
返す言葉が見つからず、目を泳がせる……心を落ち着けようと必死だが、言葉が出ない。
「なぁ小僧、どうするんだよ、お前はどうしてくれるんだよ……さっきの威勢はどうした？
やっと世界の現実を知ったような顔だな……ははは、いい表情だぜ！」
返す言葉がない健一郎を嘲笑うリザードロン――ふと、その動きが止まる。
「２人から離れろ、トカゲ野郎――穴だらけになりたいか？」
リザードロンの背後に――メーサーライフルを構えた斉藤が立っていた。
しかしリザードロンはにやり、と不気味な笑みを浮かべる。
そしてやおら健一郎の首根っこをひっつかんで、くるりと向き直った。
「えっ――うわっ！？」
「けっ健ちゃん！？」
「おいお前！――２人から離れろって言ったろうが！」
「ちょうど良かったぜ……あの軍人に言ってくれよ、俺たちの望みを叶えてくれとな」
リザードロンはそう言って、健一郎を掴んだまま斉藤の前に突き出す。
健一郎は目を白黒させている……さしもの優等生も、頭の整理が追いつかないらしい。
それを見たリザードロンは、軽く溜息を吐いて、今度は葵の手を掴んだ。
「きゃぁっ――たっ助けて！」
「あっ葵ちゃん！？」
どうやら健一郎は、プライベートだと葵に「ちゃん」を付けるらしい。
まぁそれは置いといて。
「ダンマリしてんじゃねぇよ小僧、さっき俺の望みを言ったろ、やつに伝えてくれよ」
「おい貴様、いい加減に２人を――」
「うるせぇなてめぇ！！ うだうだ言ってんじゃねぇよ、人間如きが俺に指図するな！」
モール内に響き渡るような声で怒鳴ると、リザードロンは再び冷酷な笑みに戻る。
「１人で何しにきやがった……余所のガキのために死にに来たのか、大層な覚悟だな！」
「バーカ――１人じゃねぇよ、トカゲ野郎」
「――あん？」
斉藤がそう言った直後――リザードロンの斜め後ろのトップライトが突如砕けた！
「ぬっ、何だぁ――！？」
「うわっ――」
「きゃぁ――」
砕けたガラス片と共に、地上に落下してくる黒い塊。
たまたま健一郎と葵の背後でガラス片を浴びることになったリザードロンが振り向く。
「何だよ……コイツは……！」
岩のような黒い体に、割れ瓦のような背ビレと赤い長髪――ジーラだ。
あらかじめ打ち合わせしたタイミングで、ここに突撃する手はずだったのである。
因みにジーラをトップライトに向かって“投げた”のは、陸自娘の木更津若菜だ。
彼女だけでなく、既に複数の“異能の抵抗者”が、モールの外縁部に展開しつつあった――。
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| （１２章６話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2024年に執筆したエピソード。
ただし構想自体は旧ＯＷ企画打切り前からあり、想定していたアクションハイライトの１つ。
ショッピングモールでショッカー連合と異世界の有志たちが激突する展開であり、
ショッカー連合にとっては初期の“渋谷事件”のリベンジマッチとなる他、
加奈や零児といった、ＯＣＤ世界出身の少年少女たちの転機となるエピソードでもある。
救出作戦開始となるエピソードであるが、まずは先遣部隊の展開と内部工作がメインだ。
前話で防衛組織と接点が出来たマイティライダーズに本郷が斉藤と共に合流し、
新型のショッカーライダーとなるナイトライダーがこれに対峙する。
このナイトライダーも、実は旧ＯＷ企画で登場を予定して準備していたキャラクターだ。
色が黒いだけでなく、「バッタの翅を生やす敵ライダー」がコンセプトである。
（因みに『シン仮面ライダー』にも、黒い敵ライダーが出てきたようであるが、関係はない^^;）
加奈や咲の救出を試みるディアスたちに、新型怪人ナイトラプターが絡むのも、
旧ＯＷ企画の時に準備していたプロットを焼き直したものであるが、
陸自娘の柚子に対して「人間じゃない扇動」を仕掛けて揺さぶる展開は追加フラグである。
１方健一郎の純粋だが浅薄な平和主義をリザードロンが笑い飛ばし、
そこに斉藤とジーラが殴り込んでくる展開は旧ＯＷ企画の時から構想していた。
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