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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（OSLM-ADW1） |
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黄泉比良坂。
古事記にも登場する魔界への入り口だ。
その深部に至る少し手前に、アリの巣のように幾つもの異空間が分岐して広がっている。
それは魔界と人間界の狭間に生きる妖怪――“アヤカシ”の生まれ故郷の１つとされる異空間群であると共に、
複数の異世界につながる“時空ゲート”の役割も果たしている。
アヤカシとは、人のウワサから生まれる妖怪の総称だ。
そのゲートの１つが、日本列島・北海道中部の並行時空につながっている。
そしてその並行時空こそ、魔獣“八岐大蛇”と戦巫女“ホーリーメイデンズ”が激突した“因縁の地”だった。
やはり古事記に登場する八岐大蛇は、アヤカシの始祖と言われる超古代の魔獣である。
闇の中に生き、それが地表に現れる時、世界は滅び去ると言われている。
アヤカシの中でも上位の個体群は、八岐大蛇の魔力によって「創造された」という闇の伝説があるらしい。
並行時空に闇をもたらそうとした八岐大蛇は、しかしホーリーメイデンズの奥義によって敗退することになる。
そしてアヤカシの創造主でもある八岐大蛇の衰退は、そのままアヤカシたちの衰退をも意味していた。
更に現代科学とテクノロジーが人間界を支配するにつれ、アヤカシたちの居場所はどんどん狭まっている。
ウワサから生まれ、ウワサと恐怖を糧にするアヤカシにとって、実に生き辛い世界になっているのだ。
それはまるで――乱開発に追われる野生動物たちの運命のようだ。
多数のアヤカシを失った異空間は、まるで死んでしまったかのように閑散とした姿を晒している。
黒々とした暗雲の下、黒褐色の岩だらけの大地がただ延々と広がっているのみ。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 序章 第１部 ★
アーク超宙域――百鬼夜行衆と闇の使徒
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乳白色の濃霧が立ち込める空間の中。
「はぁ……」
赤いマントにシルクハットといういでたちの人物が、ため息を吐く。
ひょろりとした細身で、身長は170〜180cmほどだろうか。
左目をモノクルで覆っており、金髪に彫りの深い顔立ちとイギリス紳士を思わせる外見をしている。
怪談「赤紙青紙」から生まれたアヤカシ「怪人赤マント」だ。
獲物に謎かけをして、その答えを使って獲物を呪い殺す能力を持っている。
ウワサの力が絶大だった頃は、最も恐れられたアヤカシの１体だった、ようであるが――
「お兄様〜。焼きドーナツが焼けましたわよ〜」
その背中に、間延びした声をかける中学生くらいの少女。
白いフェドーラ帽子に同色のワンピース、サラサラとしたブロンドヘアは、目元を覆い隠すほどに長い。
怪談「喋るメリー人形」を司るアヤカシにして、赤マントの妹「メリー・アントワネット」だ。
「きゅーっ！ うまうまーっ！」
「はふっ、はふっ！ こいつはうめぇなぁ、オイ！」
「こらこら、２人とも。あんまり急いで食べると、火傷しますわよ」
パチパチと燃え盛る焚き火の中で、こんがりと焼けるドーナツ。
それに夢中でかぶりつくのは、女性を象ったピンク色のスライムと、スイカ頭のてるてる坊主。
前者が「仮死魔」、後者が「テケテケ」である。
いずれも、八岐大蛇復活を目論んだアヤカシの１派「アヤカシ１２神将」――の、残党である。
彼らはこの黄泉比良坂にて、再起の機会を伺っていた――はずなのだが。
「皆さん！！ のんびり食事をしている場合ではありませんよ！！」
マントを翻し、赤マントは大声を張り上げる。
しかし――対する他のアヤカシ達は「は？」と呆けた顔をしている。
「我々１２神将がにっくきホーリーメイデンズ共に敗北し、早半年以上が過ぎようとしています。
我々はこの黄泉比良坂にて、ひたすら大蛇様の復活を待っていました。
それもこれも、愚かなる人間達に代わり、アヤカシが支配する世界を作るため！」
「……なんか演説が始まったぞ？ オイ？」
「きゅ？」
話の内容を理解できないアホの子仮死魔は、小首を傾げる。
「しかしっ！！ 私達のしていることといえばっ、ミックスタードーナツとか、モスドナルドなどの残飯を漁っては、
食っちゃ寝する自堕落な毎日っ！！ こんなことで、覇権を取り返せるわけないでしょう！！」
「別に俺達はこのままでもいいけど？ なぁ、メリー？」
「そうですわね。むしろ、メイデンズ達と戦っていた頃に比べて、平和で充実した日々ですわ」
「――んなっ！？」
テケテケとメリーの口から思いもよらなかった言葉が飛び出し、赤マントは衝撃を受けてしまう。
少なくとも半年前までは、打倒ホーリーメイデンズのために訓練を重ねていた。
なのに、今ではこの有様――情けなくも穏やかな日々に、すっかり平和ボケしてしまっている。
「うぅ……テケテケはともかく、メリーまで……。お兄ちゃんは、お兄ちゃんは悲しいです……」
地面に突っ伏し、しくしくと悔し涙を垂れ流す赤マント。
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その時だった。
「ここが黄泉比良坂……か」
突如、聞こえた呟き声に、赤マントは顔を上げる。
彼らが焚き火をする少し先には、黒いタンクトップを着た長髪の男性が、ポケットに手を突っ込みながら立っていた。
黒いタンクトップの下から覗く肌は白いが無駄肉がなく、太くはないが逞しい。
首から頭部のないロザリオのようなネックレスを提げる風貌は、まるでメタルなロックシンガーのようだ。
更にその後ろにはもう１つ、別のコート姿の人影が見える。
「悲しいかな。過去には勢力を誇っていた１２神将も、残るは雑魚ばかり――か」
「雑魚、ですと？」
ピクリと、赤マントは眉をしかめる。
突然現れていきなり悪口を呟いたこの男――まったく、何様だというのか。
「……いいでしょう。『アヤカシ１２神将』最強の男、怪人赤マントの実力に恐怖しなさい」
「お兄様、やめてくださいまし！！ その人、なんだか強キャラ臭がします！！ どうせ負けるに決まってますわ！！」
「止めてはいけませんよ、メリー！！ １２神将の名誉を傷つけた輩は死あるのみ、なのです！！」
メリーの制止を聞かず、赤マントは腰からレイピアを引き抜き、男に向かって勢いよく飛び掛る。
「はぁああああっっ！！！」
……そして、マントの裾をふんずけると、盛大にコケた。
「むぎゅっ！？」
「ああ、あんな走りにくい格好で飛び出すから……」
メリーは、呆れ顔で溜息を吐く。
顔面を思い切り地面に打ちつけた赤マントは、むくりと立ち上がる。
そして、服についた泥を払うと。
「……フン。中々やるじゃないですか」
「いや、まだ何もされてないだろ！？」
「ああ、情けないお兄様……」
……こいつ本当にアヤカシ界屈指の実力者なんだろうか。
黒タンクトップの男は、そのようなアヤカシ達のドタバタコントなど目もくれず、虚空を見上げる。
―― オォォォォォォォォォォォンン……
すると、辺りには、風の唸る音が地獄の亡者の雄叫びのように響き渡り始める。
―― オォォォォォォォォォォォンン……
……否、それは風の唸る音ではない。
頬をくすぐるほどの風でも吹けば、視界を遮る邪魔な霧など、瞬く間に吹き飛ばされてしまうだろう。
けれども、幾重にも垂れ下がるレースのカーテンを思わせる霧は、ゆるりと辺りを漂っている。
では、この音は一体？
―― オォォォォォォォォォォォンン……
「未だに霧の迷宮に囚われているか……八岐大蛇」
途端――紙の上に墨をこぼしたかのごとく、巨大な影が浮かび上がる。
それは、八つの首を持つ漆黒の大蛇だった。
いずれの頭も鎌首をもたげ、タンクトップの男を髑髏のように窪んだ目で見下ろしている。
体の隅々まで深い闇を思わせる漆黒であるが、胸部と見られる胴体には鬼灯色をした眼が２つ、明々と輝いていた。
この怪物こそ、「八岐大蛇」――アヤカシの王と呼ばれる程強大な力を持つ、原初のアヤカシ。
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「これはこれはお２方。大蛇様は『このような辺鄙な場所までご足労頂き、真に感謝』……と申しておられます」
いつの間に現れたのか――錫杖を携えた黒衣の僧が、男達に向かって恭しく頭を下げていた。
クラゲのように大きな笠を被り、その顔はタコ入道を思わせる。
口元に生えたちょびヒゲは、しかしそれ自体が意志を持つ触手のようにうねうねとうごめいている。
「あ、あなた様は！？ どうしてかような場所に！？」
赤マントを始めとした１２神将達は、驚愕する。
この怪僧の名は「ぬらりひょん」――大蛇の意思をアヤカシ達に伝える、神官のような存在だ。
その大アヤカシが頭を下げる相手……この男は、それほどの存在なのか？
「この方達は『闇の使徒』。我ら百鬼夜行衆を陰ながらサポートしてくださった方々だ」
「ふん――その結果がこの有様とはな」
タンクトップの男は、口元に嘲笑を浮かべる。
「まさか小娘相手に３度も失態を犯すとは、なんとも素晴らしい戦果だな。これでは大蛇の復活など夢のまた夢」
「なっ、貴様！？ 大蛇様になんてことを言うのです！？」
ぬらりひょんの後ろで、赤マントは吠える――しかし、先ほどのように飛び掛るような真似は犯さない。
さすがに２度も無様な姿を見せるわけにも行くまい。
その前で、ぬらりひょんが口元に扇子を当てて、嘲笑を返すような素振りを見せた。
「おや、貴公はわざわざ嫌味を言いに来られたのか？ なんとも暇なことで、まったく羨ましい限りですな？」
ぬらりひょんは赤マントのような短気ではない……が、やはりこう煽られては面白くないのだろう。
精一杯の嫌味が込められたぬらりひょんの言葉に、しかしタンクトップ男はすまし顔「あぁ」で答える。
アヤカシ界の重鎮と始祖を前にしての非礼とも言える振舞いに、赤マントはギリギリと歯ぎしりの音を立てた。
「用件はそれが１つ。もう１つは―― これだ」
男は、ズボンのポケットから、握り拳大の“何か”を取り出す――それは、球状をした漆黒の石だった。
例えるなら、光をまったく受け付けない深海の闇を、水晶玉に閉じ込めたような物体だ。
「こいつの対価だよ――覚えているだろう？ こいつの代わりに、有事の際には貴公の兵隊を俺に貸す算段だったはず」
「有事の際……ということは？」
「ああ」
血のように紅い唇の端を、男はキュッと吊り上げる。
「これからお前達には、我が同志の仕事を手伝ってもらう……お前達はその配下として、存分に働くがいい。
……この“魔神石”さえあれば、貧弱なお前の兵隊も少しはマシになるだろう」
くつくつと男は笑う……どこか、小馬鹿にしたような態度は変わらない。
「では、さらばだ。近いうちにまた会うとしよう。それまで、そいつを使って兵力を存分に蓄えるがいいさ」
言い終えると、男達の姿は深い霧に溶け込むかのごとく消える。
その場には、大蛇の巨大な影のみが残されていた。
「……―― さて、諸君」
タンクトップ男が去り、ぬらりひょんは小さな深呼吸の後、赤マントらに向き直る。
ごくりと生唾を飲み込む、赤マントとメリー、ついでにテケテケ。
……仮死魔は相変わらず事態の意味が飲み込めていない。
「聞いての通りだ。貴公らには、あの男の下で存分に手腕を振るってもらう」
「「「は、はいっ！！」」」
「――ただし」
シャン、と。 ぬらりひょんは錫杖を鳴らす。
「せっかくの機会だ――“たかが小娘”の相手を、彼らにもしてもらおうではないか」
「と、言いますと？」
「まさか！？」
言葉の意味を察したメリーは、思わず両手で口元を覆う。
ぬらりひょんは鬼灯のように赤い瞳を、三日月のごとく邪悪に細める。
「闇の使徒とホーリーメイデンズ……どちらが倒れるか見物でありますな、大蛇様？」
―― オォォォォォォォォォォォンン……
ぬらりひょんの言葉に賛同するよう、大蛇はひときわ大きく鳴いた。
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そしてこちらはタンクトップ男の側。
「ゼルガ様――あれで良かったのですか？」
タンクトップ男の後からついて行くコートの人物が初めて言葉を発した……女性のように高い声質だ。
「あのぬらりひょんと言われる妖魔……信用できるとは思えませんが」
「ふふ、そんなもの承知の上さ」
ゼルガと呼ばれたタンクトップ男はそう言って低く笑う。
「ネオザよ、我が同志の“革命”のやり方を、忘れたわけではあるまい？」
「“闇の集束”――ですか？」
「そうだ……同志の闇を集束するには、血生臭い争いや混沌が必要だ、忠誠心があろうとなかろうと関係はない。
闇の集束に貢献するのならば、十分に仕事はしてくれるということさ」
「なるほど……それであの“魔神石”を連中に与えたのですか」
ネオザの言葉に、ゼルガは再び「ふふっ」と低く笑った。
「そういうことだ……あれはアヤカシ共を強化するだけではない、我が同志の意志を込めた魔石でもあるわけだ。
あの石を使って部下を強化した時点で、連中は我が同志の影響下に入ったも同然ということだ。
さて、余興の準備はここまでだ……ここからが大事だぞ、ネオザ」
「――来たなゼルガ、こっちだ」
ゼルガとネオザが言葉を交わしながら“魔界の表層”を歩いていると、ふと別の声がかかった。
振り向くと――紫色の外骨格に覆われた、５つ目の“怪人”が立っている。
更にその横には、細長い頭部の先端に単眼を持つ怪人もいる。
「ピレガ、アブース、久しぶりだな」
ゼルガは２人の怪人にそう言葉を返す……どうやら見知った仲らしい。
「“百鬼夜行衆”と八岐大蛇の様子はどうだった？」
「まだ巫女たちとの勝負に負けたことを引きずっているようだな、まぁ屈辱的ではあったろう」
「好都合だ、怨念を煮詰めてくれている方がこちらも仕事をし易い」
「だがあのぬらりひょんという妖魔は中々に狡猾だ、油断はならぬぞゼルガ」
「ふ、そんなもの百も承知さ……ネオザにさっき同じことを言われたが、お前も慎重だな、アブース」
「工作相手に高をくくれば裏目に出る……銀河の裏社会を知る貴公なら、分かるはずだ」
そう言って、アブースはぎょろりと剥いた大きな単眼の１つしかない眉を潜めてみせる。
その横で、ピレガはアゴを振ってゼルガに次の行動を促した。
「まぁその話はまた今度だ……我が連合軍の司令官と元帥があんたをお待ちかねだ」
「ほほぅ、ジェドだけじゃなく、銀角まで今回は関心を持ってくれてるのか、そいつは上々だな」
「総統閣下が動いたのさ……機は熟した、と言っている、その意味はあんたなら分かるよな？」
「そうか、ついに始めるんだな」
ピレガの言葉に、ゼルガはにやりと口角を釣り上げた。
「ゼルガ様……それはもしや……」
「あぁそうだネオザ、魔界の再編が始まるぞ、だからこそ先に八岐大蛇に報告する必要があったのさ。
あの大蛇はアヤカシの始祖というだけではない、魔界の起源に深く関わっている。
この“革命”を失地回復につなげるべく、チャンスを窺っているはずだ」
「我が“魔修羅連合”の総統閣下も“闇の使徒”の１員だからな……これから忙しくなるだろう」
そう言いながら魔界の“深部”に降りていく妖魔たち。
そしてその足取りの先には、稲妻が荒れ狂う巨大な“魔都”の壮大な遠景が広がっていた。
「マジュラザイト――間もなくこの魔都は、魔界の首都になるのだ」
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| （本編へ続く／魔界第３話／魔界大戦前編） |
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【Meking Memo／設定補記】
2016年頃にレオ（流離太）氏が投稿したエピソードを2024年に再編したもの。
それ自体が旧ＯＷ企画の時に投稿されたエピソードの再編版に当たるものであるが、
設定の再編などに合わせて１部を改修しており、その後に加筆をしている。
とりわけ最後の文章は2024年に追加したものであり、ぬらりひょんと別れたゼルガたちが、
次に誰と会ってどんな行動をしたのかを示唆するシーンを組み込んでいる。
ピレガとアブースは、ジェドやディプスと同様、魔修羅連合に参加するゾアクロイドの傭兵だ。
基準時空の裏側にも関わるキャラだが、ＰＡでも重要な“裏方”となる。 |
