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★ＳＯＴ シリーズＡＴＴ 統合ナンバー：EA-ATT20001N（N-ATTA00901） |
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アトラス・テクトラクタのユスパイン自治区――の外れにあるテラミノア地区。
２つの大型バイオコロニーを内包する数百km四方の立体都市区画の中でも“下町”に当たり、
マウンターザ地区などの“表通り”と比べると雑多な印象を受ける地区だ。
メインとなるシップレーンの規制空域ギリギリまで派手な看板や熱核ボイラーの排熱管が伸び、
立ち上る湯気や陽炎でシップレーン全体が常に淡いもやに包まれている。
そんな下町の１角にあるのが、格闘技ジム“トリスタール”だ。
他銀河移民種の１種である、ヴァルナッシュのガイル・タタールが運営するジムであり、
組み手を基本とするトルケーモがメインの種目だが、打撃系も多いグレッパングも扱っている。
ジムとしては小規模だが、ガイル自身の人脈からそこそこ名が知られており、
タイトルホルダーを何人も出してきた“名門”だったりするのだ。
ジムの玄関先には、高さ２〜３ｍほどあろうかという、煤けた金属製の太い筒が転がっている。
一見してドラム缶のように見えるこれは、リパルサードライブ・スタータの空容器だ。
宇宙船やエアフライヤーの重力制御装置である、リパルサードライブに最初の火を入れる機器で、
小型の核融合炉の構造を持つため、放射能遮蔽の要請から重金属で覆われている。
何故そんなものを、空容器とは言え玄関先に転がしているのかというと――
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Ｓｐｉｒｉｔs of Tracthizen
スピリッツ・オブ・トラクシズン――銀河市民の心得
≪シリーズＡＴＴ≫
★ 格闘技道場トリスタールの日常 ★
（想定年代：AWO009／2060年頃）
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「よう、ダンナはいるかい？」
年季の入ったリティゲイル・インダストリー製ポリスフライヤーが、ジムの玄関先に停車した。
中から茶色メッシュの髪が印象的な、赤茶色のスーツを着た狼男を思わせる獣人が現れる。
ブイオリノンのロヴォート・ウォルフィルム……アトラス捜査局の捜査員の１人である。
実はこのテラミノア地区は彼の“地元”でもある。
反対側からは青い毛が印象的な獣人が降りてきた……同族の後輩、フェルナ・ソフィアである。
ロヴォートはオオカミのような顔つきだが、フェルナの顔つきはキツネやヤマネコに似ている。
ブイオリノンの雌性体、つまり女性にこうした顔つきが多く、フェルナ自身も女性である。
「あっ……兄貴、お久し振りッス！」
ロヴォートの姿を認めた、青黒いサファイアのようなウロコに覆われた獣人が声を上げた。
ベルムゼクトのヤナク・エギロッシュだ……ジムの主ガイルと同じく他銀河からの移民組である。
身長はおよそ2.7ｍほどあるため、同２ｍ余りのロヴォートを眼下に見下ろすが、
腰が低い反応をする……過去に大きな恩を受けているからだ。
「ようヤナ、ダンナは中か？」
「そうッスね……うぉーい師匠、兄貴が来たッスよ！」
ロヴォートの問いに返答したヤナクは、声を玄関に向かって張り上げる。
“兄貴”からは“ヤナ”の愛称で呼ばれているらしい……間もなくドスドス、と思い足音が響き、
真鍮色の蛇腹状の体表が特徴的な“大男”が玄関先に顔を出した。
ジムのボスであるガイルである……ヤナクよりも大柄で、身長は3.5ｍ以上あり、横幅も広い。
ロヴォートと比べるとまさに“巨人”だが、銀河社会では実のところ、そう珍しくない。
広大な銀河社会には、身長５ｍや10ｍといった体格の種族も少なくないのである。
「おぅロヴォやんけ、随分とご無沙汰やったなぁ！」
ガイルは独特の地域性のある訛りが特徴的なベーシックを使う。
これに吠えるようなしわがれ声と威圧的な外観を合わせるとかなりの存在感を発する。
大人しい種族は縮み上がるような迫力だが、面倒見の良い男で有名だ。
元々トルケーモの選手として知られた人物であり、ジムを経営するのもその縁からであるが、
こう見えて建設業を営む“資産家”でもある……スタミナには自信があるため本業も順調らしい。
「済まんねダンナ、ゴタゴタがあったんで、少し間が開いちまったな」
「おぅニュースで見たで、連邦のスパイ共が、この近くにも巣を作っとったらしいのぅ。
前からそういうウワサは耳にしとったが、本当におったとは、いやぁワシの目も衰えたもんやで」
「気負うなよダンナ、相手はプロだ、素人は下手に手を出さん方がいい」
ガイルは分厚い眉の下の目を細めて、ボリボリと頭を掻く。
「こう見えても、昔はワシもプロやったんやけどな……まぁ裏稼業とはちゃうからなぁ」
「マフィアの末端のチンピラぐらいならどうにかなろうが、上はかなりの手練が揃っている。
ザイオノイドスペックじゃなくても油断は出来ん……俺も後方支援だったが、苦戦したもんさ」
「えっ兄貴、あの摘発事件の現場にいたんスか？」
「俺も機動特務部だからな、最前線には立てないが、包囲網の１角を任されたんだよ」
「凄ぇ……俺も見たかったなぁ」
「おぃヤナ、見世物じゃないぞ、武器を持ったスパイと対峙するんだ、命がけだからなこっちは」
たしなめるロヴォートに、ヤナクはペロっと、スミレ色の舌を出した。
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「あの部課補……余り内情を話されては……」
ロヴォートの背後で、ぼそっと呟くようにフェルナが口を開いた。
確かに捜査情報は組織の機密だ、漏洩は銀河社会でも法に問われる重大な問題である。
「はは、分かってるよ……こいつはニュースでも報道してる、ほんの表層の話さ」
「まぁそういうことや、ワシは今回の事件、他愛もあらへんウワサ以上のことは何も知らへんで」
「念のために、その“他愛もないウワサ”を、聞かせてもらっても良いかい？
ニュースでも聞いてると思うが、摘発を逃れて逃げ回っている奴らがいる……危険な連中だ」
ロヴォートの言葉に、ガイルは「ふぅむ」と言いながら太い腕を組んだ。
そして玄関脇に積み上げているコンテナの１つに「どっこいしょ」と重そうな腰を下ろす。
半分近い身長差のあるロヴォートに、目線を合わせるためだ。
「ほんまに他愛のないウワサやぞ……ヤナの舎弟が、見かけない暴走フライヤーを見よったとか、
裏通りで角の欠けたセリオネアンを見たとか、そのぐらい大した話やない……」
「いや待ったダンナ、そのセリオネアンの話、もう少し掘り下げられるか？」
「……どういうことや？」
「摘発現場から逃亡した被疑者の１人が、その“角の欠けたセリオネアン”なんですよ」
フェルナの補完に、ガイルが「あぁ」と、そしてヤナクが「おー」と声を出した。
（画像挿入予定orz）
「こいつは、捜査が動くッスかね？」
「阿呆、そんなに簡単に動くかぃな……第一、ウワサがホントかどうかも分からへんのに」
「まぁ確かに、目立ちたがりがデタラメな目撃証言をしてる可能性はあるな」
ロヴォートの言葉に、ヤナクは「えー」と残念そうな声を上げた。
「摘発現場から逃げたスパイの残党は少なくとも３人いる……中でもそのセリオネアンは手練だ。
どうやらＡＴＴに潜伏したスパイ団のリーダー格だったようだ」
「そーいやニュースにも上がっとったな……確か名はえぇと、“ゼディオン”やったっけか？」
「ナグ・ゼディオン。 連邦軍の少佐として登録されているが、これまで実態は不明だった」
因みに“ＡＴＴ”はアトラス・テクトラクタの略称の１つである。
……銀河社会なのに英字のイニシャル使うんかぃなとか、突っ込んではいけないorz
「確かにセリオネアンの軍人となりゃあ、うかつに手は出されへんのぅ」
「そういうことだ、ダンナやヤナの実力は知ってるつもりだが、お勧めはしないね」
「ブラスター対策でシールド張っておいて、こう――重心低くしてタックルぶちかましたら……」
「セリオネアンの方が身長が低いので、多分通用しないんじゃないかしら？」
さらっと、しかし容赦なく突っ込んだフェルナの言葉に、「んぎぃ」とヤナクが呻いた。
因みにフェルナも一応、この大柄な獣人、いや“竜人”たちと面識がある。
ヴァルナッシュもベルムゼクトも根源系統は“竜属”つまり爬虫類の仲間である。
「俺一応、“伝説のケンカ王”って呼ばれてたんだけど……」
「ウォルフィルム部課補にねじ伏せられたんでしょ、それじゃセリオネアンの軍人は荷が重いわ」
青いヤマネコ娘にいとも簡単に論破されて、ヤナクは再び「んぎぎぃ」と歯軋りの音を立てた。
「しかしヤナも丸くなったな、それだけ言われりゃ、昔のお前なら手が出ただろ」
「みっ見損なわんで欲しいッスね兄貴、俺弱いものイジメだけは絶対にしない主義ッスよ！」
「……ベルムゼクトの不良少年に後れを取るつもりはないけど？」
「うぬぐ……つっ強気に出たッスね！」
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「悔しいんかヤナ、それじゃあ、証明してやればえぇんやぞ」
ガイルがいつの間にか立ち上がり、ニヤニヤと笑いながら、玄関先に置いた金属筒を小突いた。
リパルサードライブ・スタータの空容器だ……高さ２ｍほどある。
そう――この空容器は「腕自慢のため」にここに置いているのだ。
銀河社会には様々な種族がいる……その中には、チート級と言えるほどの怪力を出せる種族も。
元トルケーモ選手のガイル自身も、恐竜を投げ飛ばせるほどの力の持ち主だ。
この空容器は、そんな力自慢の若者たちが、アームレスリングに興じるために置いている。
薄い金属板で作った“ドラム缶”では持たないから、これを使うのだ。
コンパクトな原子炉のような構造であるため、分厚い金属で覆われ非常に重いからだ。
時にはヤナクを含め、格闘家を志す者が、筋トレのためにこれを持って駆け回ることもある。
その負担が“ドラム缶を引っ張るランニング”の比でないことは言うまでもない。
ジムには他に加重力バーベルなども置いているが、手っ取り早さではこちらが“上”だ。
「えっ……いやぁでも……」
ヤナクは躊躇する……身長２ｍにも届かないブイオリノンの女性が相手だからだろう。
そんなフェルナはちらりとロヴォートの方を見た……上司は口元に笑みを浮かべて軽く頷く。
「部課補の許可が出たから、私は構わないけど」
「……こっ、後悔しないでくださいね、手加減はしないッスよ！」
後に引けなくなったと分かったヤナクは覚悟を決めた。
因みにベルムゼクトも怪力とは言わずともかなり力の強い種族ではある。
身長差を埋めるため、フェルナの方には踏み台を積み上げ、肘や肩のラインを合わせる。
「よし、それじゃあレフェリーは俺がしよう、両者準備は良いな？」
「はい」
「万全ッス！」
「それじゃあ――初め！」
ロヴォートの掛け声と同時に、２人の手の平の間に軽い火花と衝撃波が走った。
軽く数百ｋｇはあろう腕力同士が、正面から激突したためだ。
これが空気中ではなく水中であれば、キャビテーションが起きる程度のエネルギーはある。
お互いに真剣な表情だ……数秒ほど、握りしめた拳の位置は変わらなかったが、
徐々に――ヤナクがフェルナを押し始める。
「ぬっ……むぎぃ……！」
「んっ……くっ……」
ギチギチと筋肉が擦れ合う音が数秒続いたが――やがてフェルナは白旗を掲げた。
「……よぉっし！」
「はぁ……ちょっとタイミングが合わなかったかな」
フェルナは残念そうな表情を浮かべているが、ヤナクもそれほど嬉しそうではない。
どうやら彼女の力が、予想以上のものであったらしい。
ブイオリノンも実はそれなりに筋力に優れた種族だ……銀河社会では“中堅クラス”である。
実はヴァルナッシュもベルムゼクトも、能力評価上は“同クラス”なのだ。
「キミ、思ったよりやるのね……ケンカ王はハッタリじゃなかったか」
「こっちのセリフッスよ……それだけ出せるのに、よくウワサに上がらなかったなぁ」
「ブイオリノンはそんなに銀河社会に開けてないのさ……どっちかといえば保守的な種族でね。
ユスパイン自治区は比較的多い方かも知れんが、ＡＴＴ全体じゃ少数派さ」
「すいません部課補、不本意な結果が出てしまいました」
「気にするなフェルナ、コミュニケーションの内だよ、おかげでヤナの信頼を得た」
「はぁ……」
ピンとこないヤマネコ娘の背後で、ガイルの豪快な笑い声が響き渡った。
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【Meking Memo／設定補記】
2021年に初めて書いたエピソード。
銀河社会の日常風景をテーマにした“コネタ話”の１つで、
登場キャラを含めた主な原案は、概ね2010年代半ば（2011〜2015年頃）に出来ており、
このコネタ群を改めて１つのショートストーリーにまとめたものである。
銀河社会の格闘技ジムの風景であるが、格闘技訓練の内容そのものよりも、
その玄関先で繰り広げる、屈強な異種族の若者たちのコミュニケーションが核になっており、
リパルサードライブ・スタータの“腕相撲台”のアイデアも同時期に出来ている。
鉄骨をねじ曲げるような怪力種族にとっては、ドラム缶は貧弱な構造であるはずなので、
それを補完するアイテムとしてリパルサードライブ・スタータが出来た経緯がある。
実際に原子炉は放射能遮蔽などの要請から、分厚い鋼鉄の塊なのだ。
物語に登場するブイオリノン、ベルムゼクト、ヴァルナッシュは共に中堅クラスの種族で、
身体出力でGex=3〜4程度、つまり“仮面ライダー級”の種族と考えて良い。
（これは人間の数十倍の筋力と身体能力を持っていることを意味する）
人間から見れば十分に強大な種族だが、“スーパーマン級”のザイオノイドがいるので、
彼らの水準は“中堅レベル”と評価せざるを得ないのだ（汗）
フェルナＶＳヤナクは物語の進行中に出来たカードで、フラグ的にはヤナクが負けそうだが、
G-maはヒネクレ者なので「かろうじてヤナクが勝つ」オチにまとめている。
因みに両者とも身体出力設定はGex=3余りで、実は元々筋力でほぼ互角の設定であり、
勝負の結果がどちらに転んでも設定上問題はないのである。 |
