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★ＳＯＴ シリーズＡＴＴ 統合ナンバー：EA-ATT20001N（N-ATTA01001） |
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のどかな昼下がりの海岸沿いに、細長い影が差し、数秒ほどで通り過ぎる。
その瞬間、浜辺にいた者が空を見上げれば、聳え立つ青灰色の壁を遮る、列車の腹が見えたことだろう。
目撃者の視界に、ほのかな虹色のフレアを投影しながら。
アトラス・テクトラクタ（ATT）の第３リングコロニー内にある、巨大バイオコロニー・ユショーラ。
直径１５０ｋｍ以上もあるこの巨大な人工の内海には、真っ白な雲が良く似合う。
そんな海洋バイオコロニーの縁を、地上２００ｍほどの高度を維持して、６両編成の列車が飛ぶ。
ユシュレイア発ターミア行きの各駅停車……俗に鈍行ＥＸなどとも呼ばれる旧式車両である。
休日の昼下がりは客がそれほど多くはなく、最近改装で交換された、流線形の優雅な座席にも空きが目立つ。
そんな飛行列車エアトレインの３両目の端の席から、若い娘たちの軽やかな声がこだます。
「――でねー、その子のメイドっぷりがもーたまらんかったのよー」
大きな耳を時折ぴくぴくと震わせ、鮮やかな青い毛に覆われたエイリアン種族の少女が余韻に浸るように語る。
その顔つきは猫とも狐とも取れる……ヴァドピクトの娘だろうが、青い毛は中々珍しい。
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Ｓｐｉｒｉｔs of Tracthizen
スピリッツ・オブ・トラクシズン――銀河市民の心得
≪シリーズＡＴＴ≫
★ サドシェロア・ガールズの休日 ★
（想定年代：AWO010／2061年頃）
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向かいに座るのは、紫がかったブロンドの髪が印象的な、２人のヒューマノイド種族の少女たち。
双子であろうか、生き写しのように似ているが、髪型と表情は全く対照的なため、見間違えることはなさそうだ。
こちらは恐らくリーヴェアシス系であろうが、髪の色はアナリアンを連想させる。
オリオネス系統の多種混合混血、バストラクトの可能性もある。
「あら？ ソニアってコスプレとか好きだったっけ？」
「んー専攻は物語性だけどねー、たまにはああいうのもいいかなー」
「専攻って何よ、学校の教科じゃあるまいしｗ」
「外野で見てるのは結構楽しいよー、そだそだ、ミレイアとメルシィも今度一緒に行かない？」
「やーよ、あたしヲタクじゃないもん」
「惜しいなぁ、シスターの衣装ってけっこー需要あるんだよ？」
「ちょっとやめてよね、あたしのはコスプレじゃないんだからさぁ」
ソニアと呼ばれたヴァドピクトの少女に、絶えず苦笑いしながら相槌を打つツインテールの少女。
その横でショートカットの少女が、にこにこと２人のやり取りを眺めている。
「ねーミレイアぁ、ヲタクを笑ったらヲタクに泣くんだよ、知らないの？」
「そんな都市伝説、聞いたことないわよ」
「あ、そろそろ着きそうだよ、おねーちゃん」
ショートカットの少女がそう言った直後、車両の天井にグリーンの光が走った……到着を示すサインだ。
念話訓練を受けている者なら、同時にアナウンスも聞こえたことだろう。
リパルサードライブのかすかな駆動音を立てて、斜面に突き出た細長い建物の横に滑り込んでいく６両の列車。
建物の側面から突き出した、磨き上げられたテラスのような構造物に、静かに車体を収めると、
車体の３か所に設けられた大きなキャノピーが、まるでバブルを割るように開いた。
「やー、これで楽しい休日も終わりだねー」
「オジサンみたいなこと言ってんじゃないわよ、もう」
ソニアとミレイアとメルシィ、少女様御一行がきゃいきゃい喋りながら、駅のデッキに降り立つ。
デッキの壁にはベーシック言語の文字で、“サドシェロア”と書かれている。
（画像挿入予定orz）
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列車が駅を離れると、デッキの前に純白の雲を頂いた大海原が広がった。
その上――列車が飛んでいた高度より少し高い高度を、何十台ものビークルが飛んでいる。
そのビークル――エアフライヤーたちのはるか彼方に、雲をさらに超えて、青白い壁が空高く聳え立っている。
まるで蜃気楼のような光景だが、ここサドシェロアでは見慣れた景観でもあった。
ユショーラ・コロニーの中にある小都市群でも、サドシェロアは特にのどかな空気を持つ町である。
少し前まで、この地区は隣接した工業地帯から工場がはみ出た殺風景なところだったが、
建設・不動産業大手のエリーグル社の再開発によって、見違えるような田園都市に生まれ変わったのである。
地上に大きな車路はない……輸送用の車両は、そのほとんどが空を飛んでいるからだ。
磨き上げられた石畳の歩道が、住宅地の中を緩やかなカーブを描いて続いている。
そんな住宅地からやや離れた海岸沿いの大地に、喫茶店らしき建物が１件。
ソニアたちの目の前で、今しがた勘定を済ませたのだろう、金髪の太った男が店を出て行く。
何も手にはしていないが、手に巻いているタキオンパックの、宝石のようなゲートクォーツの色から、
何かを大量に購入したことが伺える……まぁ恐らくは、この店の“名物”であろう。
その店の前に出て、客を見送る女性に、ソニアたちは見覚えがあった。
「ありがとうございましたー」
「エニエットせんぱーい」
「あ、ソニアちゃん♪ ミレイアちゃんもメルシィちゃんも」
「「こんにちわー」」
「今の人、前に話してた常連さんですか？」
「そうそう、うちのハクロンが好きで、良く宣伝してくれるの、お得意さんなんだよ」
オレンジに近い茶髪の女性は、ころころと人懐っこい笑みを振りまく。
この喫茶店“カルビッシャ”の娘の１人、エニエット・コルリフネである。
奇しくも双子姉妹の姉――ミレイアと同じツインテールの髪型だ。
ウェイトレスの衣装が良く似合う……何を想像しているのか、ソニアは特にうっとりと目を細めている。
「外の街で暮らしてる人らしいけどねー、この前に来たのは１週間前かな、それでねー……」
「あーあの、エニエット先輩？」
「その時は友人の人も連れて来て、わいわいと賑やかに……え、何？」
「続きは店の中でゆっくりと……」
「あーそっか、ごめんごめん、今テーブル片づけるから、ちょっと待っててね」
苦笑したコルリフネは、店の中に入って行った。
その後ろで、これまた“別の理由”で苦笑する、少女たちが３名。
「エニエット先輩って相変わらずよねぇ、話し出したら止まらない止まらない」
「でも先輩って在学中は優等生だったんだよね、ソニアちゃん？」
「波が激しかったみたいだよー、頭はいいんだけど、あのとーり集中すると我を忘れるからねー」
「それって、まんまソニアとおんなじじゃないのよ♪」
「ミレイアひどいなー……ま、そういうキャラにも需要があるけどねー」
「その言い方はやめなさいってば」
「テーブル空いたよみんな、ゆっくりしてってねー」
サドシェロアの日常は、こうして今日も過ぎて行く。
夕日こそ差さないが、もう数時間もすれば、この海にもナイトタイムが訪れるはずだ。
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【Meking Memo／設定補記】
2010年頃に執筆したショートストーリーで、銀河社会コンセプトが確立して間もない頃のものである。
読めば分かる人は分かるが、あるマンガキャラがモチーフになっている。
そう――小柄なオタク娘が主人公の『らき☆すた』に登場する主要メンバーだ。
ヤマネコ娘のソニアが主人公の泉こなた、双子姉妹のミレイアとメルシィが柊かがみ＆つかさを主なモチーフとする。
もちろんあくまでもそのキャラをネタにしたもので、設定自体はオリジナルなのだが。
和気藹々とした少女たちが、銀河社会の日常生活を満喫している風景を描きたかったのである。
因みに柊家は神社であるが、ミレイアとメルシィは牧師であるマクシィ・コーヴェンの娘であるため、
シスター（銀河社会なのでキリスト教そのものではないが）のコスチュームを想定している。
ただしいつもその姿をしているわけではなく、私服もあるので悪しからず（笑）
バイオコロニー内に作られた小都市サドシェロア及び、喫茶カルビッシャ関連の設定は白銀の賢者氏の投稿による。
舞台となっているユショーラ・コロニーも同氏の原案にルーツを持つが、
G-maがその裾野を広げる形で確立したのがユスパイン自治区であり、銀河社会のモデル地区となっている。 |
