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★ＳＯＴ シリーズＰＲＳ 統合ナンバー：EA-SVT21201N（N-SVT001A） |
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サーヴェンティム・テクトラクタ。
リーヴァス・アヴィエラ銀河団の辺縁部にあり、銀河団6大重心の1つとして知られるサーヴェンティア銀河系で、
銀河社会の中枢的な機能を持つ巨大な宇宙都市であり、直径1,500万kmを越す同心円状の構造物である。
サーヴェンティム銀河共同体の首都であり、サーメイロン腕の中ほどに位置する。
（画像挿入予定orz）
タキオンフィールドに覆われるために、全体が淡いグリーンのバブルに包まれて見え、幻想的だ。
またこの構造を採用するため、宇宙都市全体が超光速回廊の中継ゲートとして機能することが出来る。
4重の同心円状のリングコロニーの最も内側にある第1リングコロニーは、縦に6基のリングが重なる独特の構造で、
淡いグリーンのバブルと相まって「まるでジャングルの林冠のようだ」と言われることがある。
もちろんそのスケールは、そんじょそこらの森林惑星の何百倍もあるのだが。
各リングの間には軽く100kmを越える空間があり、“上空”には人工の星海が拡がって見えるのである。
そんな第1リングの第2デッキ（片面3層あるデッキの中間部に当たる）のとある立体都市の1角に、
このサーヴェンティム・テクトラクタでも有数の著名な“芸術地区”が存在する。
サロニアム地区と呼ばれる、周囲30km立法ほどもあるこの地区全体が「芸能の1大拠点」として知られており、
銀河社会でもトップクラスの芸能アワードの受賞式典が開催される“聖地”でもあるのだ。
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Ｓｐｉｒｉｔs of Tracthizen
スピリッツ・オブ・トラクシズン――銀河市民の心得
≪シリーズＳＶＴ≫
★ ワンス・アポン・ア・タイム・イン・サロニアム ★
（想定年代：基準年時代）
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サロニアム地区のとある裏通りに、コンパクトながらスポーティなオープン式フライヤーが飛来した。
輸送用フライヤーから今し方、自分の身長よりも大きな荷物を引っ張り下ろしたエイリアン種族らしき人物が、
バイクのようなオープンフライヤーの方を眺める……有機的な鎧のような肌がアルメイアスの特徴を示す。
そんなアルメイアスの男性らしき人物に向かって、フライヤーから降りたドライバーが歩いてくる。
身長1.5mに満たない小柄な体格で、赤いエーテルスーツのボディラインは女性的なしなやかさを匂わせる。
頭部には大きなヘルメットを被っているため顔は見えないが、ドライバーはすぐに腕のキャレットを操作した。
瞬間――頭部のヘルメットがまるでパズルを解体するように変形して圧縮され、首筋のベルトに引っ込んだ。
ヘルメットの中から現れたのは、キャラメル色の長髪とセピア色の肌を持つエイリアン種族――アビットである。
周囲の光を反射して金色に煌めく大きなギョロ目が特徴で、その上からサイバーグラスをかけている。
名はシルティ・ノース、技術者にして演出家であり、このサロニアム地区を主な活動拠点にしている女性だ。
「よう、シルティ、今日はちょっと遅いんじゃないか？」
弄るように口を開いたアルメイアスの男はメルデス・ジョルネム――個人の輸送業者である。
身長は1.6mほどだが、装甲化した皮膚の下には逞しい筋肉があり、自分より大きな荷物も軽々と運ぶ。
舞台道具の運搬を任されることが多いため、シルティとはよく知った仲だ。
「昨夜忙しかったのよ、あんたが酒場で遊んでる頃にね」
「おいおい失礼だな、人を遊び人みたいに」
「カルサンから聞いたわよ、最近毎晩のように入り浸ってる店があるそうじゃないの」
「あのクソ女……要らんことばかり言いやがって」
「――ちょっと今、クソ女って誰が言ったの！？」
2人の「朝の挨拶」に良く通る高い声で割り込んできたのは、カラサックのカルサン・ベルータだ。
サーヴェンティア銀河系の種族ではなく、数百万光年離れたベルジーク銀河系からの移民であるが、
カルサン本人はフリーターであり、様々な職業を転々として自由奔放に暮らしている。
ここ数年ほどはこの“芸能の都”が刺激的らしく、ずっと居座っているようだ。
低空を浮かび上がって滑走するリパルーツ、ホバールーツを使って滑るように駆け回る機動的な女性である。
顔つきはどこかアビットに似るが、こちらは顔中山吹色の毛に覆われている。
「あらカルサン、今日は早いわね？」
「どういう意味よシルティ、あたしが遅刻の常習犯みたいじゃないのよ」
「カラサックは元々夜行性でしょ」
「アビットも大して変わらないでしょーが、ちょっとそこのアルメイアス、目を逸らさないで、聞こえてるんだからね！」
「おぉ怖ぇ」
メルデスは肩を細めて、次の荷物を運び出すためフライヤーの荷台に上がった。
無骨な手をかけた荷物もこれまたクロゼットのように大きな箱だ、舞台用の小道具入れだろうか。
標準的なヒューマノイド種族なら2人は要る大荷物だが、メルデスは器用に斜めに傾けてひょい、と持ち上げる。
「これはどこの道具？」
「何だよカルサン、ウワサ話の仕入れか？」
「教えてくれたって良いじゃない、酒場の友でしょ」
「1晩同じ店で呑んだだけじゃねーかｗ コイツなら、シルティが詳しいよ」
「……どういうこと？」
小首を傾げるカルサンの背後で、シルティは苦笑した。
「ソルファの新しいプログラムの準備が、今日から始まるのよ」
「おぉ、あのソルファ・ボランジルの新作がついに始まるのね！」
「あれ、カルサン演劇とか興味あったっけ？」
「あんまりないけど、あの人のは独特でユニークだから、時々見に行くのよ」
「へーえ」
カラカラと笑って話すカルサンに、シルティは意外そうな表情を浮かべる。
とにかくアウトドアなカラサック娘だから、エンタメ系とか全くの門外漢かと思ってたのだが。
そこに大荷物を上層デッキ行きの貨物用リパルサーシャフトに押し込んだメルデスが戻ってくる。
「シルティも絡んでるんだろ、そのプログラムに」
「あ、そーなんだ？」
「まーね、照明と音響がメインだけどね」
「あー、だから遅めに出てきたのか、舞台を整えてからだもんな音響と照明は」
「なぁによぅ」
再び弄るメルデスに、シルティはセピア色の頬をぷぅ、と膨らませた……カルサンが真似をする。
「やめてよ、見世物じゃないわよ」
「えへへｗ」
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「――むっ、殺気！」
「えっ！？」
ふと――カルサンの笑顔が引き締まった。
何事かと緊張したシルティの脇を小さな影がすり抜け、カルサンとの間合いを一気に詰める。
しかしカルサンはホバールーツの出力を上げて跳び上がり、その影をやり過ごした。
「――あっ、ちっ、読んでたかくそっ！」
「分からいでか、あんたのモーションは単調なのよｗ」
標的を捉え損なってスライディングした影が、ホコリを叩いて立ち上がる。
全身黒い体毛に覆われたエイリアン種族だ……シルティより更に小柄で、背中にシルバーのラインが走る。
気性の荒さで有名なロテリアンの青年、ポール・ラブハットだ……カルサンとは面識がある。
そしてシルティやメルデスも、この血の気の多い小柄な青年と顔見知りであった。
「カルサン、ポールのあしらい方が上手くなったわねぇｗ」
「遭うといつも何か仕掛けてくるからね、正直ウザいんだから」
「良く言うぜ、最初はお前からケンカ売ってきただろ！」
「あんたが構って欲しそうな顔してたからじゃん」
「何だと、舐めやがって！」
キー、と甲高い唸り声を上げるポール……既に“成人”しているが、どこかマスコット的な可愛さがある。
「落ち着きなさいポール、これから仕事でしょ、こんな所でケンカしてどーすんのよ」
「うー、姐さんがそう言うなら…… ん、おいおっさん、今笑ったな！」
「何だよ、今度は俺かよ！？」
ポールは背後で苦笑したメルデスに噛みつく……シルティは再び溜息を吐いた。
「ポール！」
「わ、分かってるよ……ちぇっ」
「そーいやお前って、シルティには頭上がらないんだな？」
「姐さんは恩人だからな、ロテリアンは義理に熱いんだよ、自分勝手なカラサックとは違うぜ」
「何かと張り合うよねぇ、だからウザいって言ってんだけど」
ちくりとツッコむカルサンに、ポールは長い爪を煌めかせて威嚇する……カルサンもそれを真似した。
ただここで取っ組み合ったらシルティがキレるので、それ以上の行動には出ない。
別にシルティが際立って強いわけではないが、彼女には“コネ”があるからだ。
（画像挿入予定orz）
「それで――いつまでここで“朝礼”をするんだい？」
「あっそうだった、ソルファに挨拶しに行かなきゃ、ポール来なさい、一緒に行くわよ、あんたも出るんでしょ！」
「おっおう」
そう言って、シルティは路地裏のゲートに向かおうとする……その後ろでカルサンは目を丸くしていた。
どうやら、シルティがさらっと言った「意外なキャスト」に驚いたらしい――そう、ポールだ。
自分が関心を持つ著名な演出家のプログラムに、火花を散らす“腐れ縁”が参加するというのである。
「えっ何、あんたも新作に出るの？ 何やる気よ」
「うっせーな、お前に教える義理はないねっ」
「言うほど中身はないからね……ゴムマリみたいに飛び跳ねるだけよ」
強がるポールの横で再びシルティがさらっとネタばらしをする……カルサンは爆笑した。
「あはははは、こりゃ傑作だわ、あんたにピッタリｗ」
「この野郎、後で覚えてろよ！」
「野郎じゃないもん、忘れてたらゴメンねぇｗ」
「おいカルサン、お前も煽るな、だからケンカになるんだ、自制心ないやつは孤立するぜ」
メルデスがたしなめると、今度はカルサンが頬を膨らませ、それをポールが真似した。
何だ、お似合いじゃないかｗ
「ちょっと何やってんのよ、置いてくわよポール！」
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「ソルファごめん、遅くなっちゃった！」
裏ゲートからセキュリティブロックを越えて、リパルサーシャフトを100mほど上がったところがバックヤードだ。
この更に奥に俳優たちの練習場があり、その向こうに劇場がある。
それほど大きな劇場ではないものの、優に1万年以上の歴史がある“文化財”の1つであり、
ここを使えるということ自体が、信頼された演出家や劇団であるというステイタスになっているのだ。
「ほほ、いらっしゃいシルティ、ちょうど良かったね」
「……ちょうど良かったんですかね？」
駆け込むようにバックヤードに入ったシルティとポールを、身長4mはあろうかという長身の人物が出迎えた。
ジルファンのソルファ・ボランジルである……知る人ぞ知る演出家で、個性的なアーティストだ。
隣でやや不満そうな表情を浮かべているのが、タミュシフのマネージャーであるサルモア・ガーティフである。
飄々と振舞うソルファに対して、サルモアは少し神経質なキャラクターだ。
「予定だと、30分前には着いていたはずだが……」
「問題ない、世界は全てを受け入れて回るものさ、これもまた1つの必然」
「はぁ……」
困惑するようなサルモアの前で、シルティは気まずそうに苦笑するが、ポールは何故か自信満々である。
「やっぱり師匠はデカいっすね、リーダーはこうでなくちゃ！」
「キミねぇ、少しは反省して欲しいんだけど」
実はポールは、ソルファにちょっとした恩を受けている。
気性の荒いロテリアンらしく、ポールは純粋で行動的だが、その気性が災いしてケンカ沙汰も多く、
スタッフとトラブルを起こして、幾つかの劇場やスタジオから出禁を食らった前科があるのだ。
肉を切り裂く長い爪で引っ掻き、スタッフを病院送りにしてしまったことまである。
そのため収入が底を突いて路頭に迷っていた時期があり、ここに助け船を出したのがソルファだったのだ。
飄々と振舞うのに加えて大らかな性格から、ソルファとポールの間に火花が散ることもない。
シルティが「飛び跳ねるだけ」と言ったように、ポールはアクロバット系のパフォーマンスで稼いでいる。
それだけ言うと簡単だが、小柄で機動力が高く、タフなロテリアンのパフォーマンスは中々真似できない。
映像技術で「それっぽい動画を描く」なら幾らでも可能だが、演劇で再現するのは簡単ではないのだ。
このパフォーマンスの“アドバンテージ”で、ポールは評価されているのである。
「そーいやポールはどうして遅れたのよ、さっき聞きそびれたけど」
「え？ あーえっと、ちょっと渋滞に引っかかって……」
「ウソおっしゃい、ほとんど自動制御じゃない、テクトラクタのシップレーンで渋滞なんてあり得ない」
「う゛」
ポールの黒い顔が速攻で言葉に詰まった。
確かにテクトラクタの交通ルートは自動化が進んでおり、民間機もその制御下に置かれているため、
重大な事故やシステムトラブルでもない限り、渋滞など起こらないはずなのである。
しかも空中を飛び回るフライヤーは、立体的に前の車両を追い越せるのだ。
「ははぁん、さては呑んだな？」
「……うぃ」
「何呑んでもすぐに分解するから大丈夫と、高を括って呑み過ぎたんでしょ」
「……何でそこまで分かるんスか姐さん、見てたみたいに」
「違うの？」
「……うんにゃ、当たってますorz」
しゅんと項垂れるポールが可愛い――というのは置いといて、ソルファとサルモアも関心を示したらしい。
毒薬に等しい成分を誤飲しても分解できるほど、ロテリアンはタフな種族のはずだからだ。
「ほっほっほ、それも若気の至りってヤツだね、長い人生、色々なことがあるものさ」
「というか、ロテリアンが酔い潰れるって何呑んだんだ？」
「えぇっと……ホルヴィスト・エールっていうのが、速攻だったかな……？」
「はぁ！？ ホルヴィスト・エールって、ザイオノイド向けのエナジーリキュールよ！？」
ポールの“爆弾発言”に周囲の全員が目を丸くした――あのソルファさえも。
ホルヴィスト・エールというのは、“戦神族”として名高いホルヴィストが開発した酒類の1つだ。
普通の種族より数ケタ大きなスペックを持つザイオノイドを「効果的に酔わせる」ために、
低速核反応物質などの高エネルギー素材の粉末を溶かし込んでいる、ザイオノイド活性剤である。
ザイオノイドを酔わせるための成分であるため、普通の種族が呑むと「ヤバい」ものであり、
最悪の場合「焼死する」可能性さえあるために、販売に規制がかけられているはずなのだが……。
「キミそれどこで売ってたんだね、普通規制がかかってるはずだろう」
「ふーむ、これはやらかしたなポール君……どこでそれを呑んだのか覚えているかい？」
「えぇっと……裏通りの街角の屋台で……」
「なるほど屋台か……脱法商品の定番ルートね、今度見かけたら通報しなきゃ」
大抵のことは呑み込んで受け止めてくれるソルファまで、普段と言い方が変わっている。
「やらかした」ポールはある意味“被害者”の側だが、これは法律違反に関わる話だからだろう。
この芸能の都の繁栄に関わる者として、無視出来ない話なのである。
「そんなもん呑んで酔い潰れた翌日に、カルサンにスライディングしたのアンタ……チートだわ」
シルティは改めて、自分を慕う短気な後輩の無茶な“武勇伝”に溜息を吐いた。
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【Meking Memo／設定補記】
2023年に初めて執筆したエピソード。
「銀河社会の日常」を表現するためのショートストーリーの1つであるが、
地球から数千万光年も離れた、サーヴェンティア銀河系の話として初めて書いたものである。
（サーヴェンティア銀河系は乙女座銀河団のＭ100がモデルになっている）
勝気な技師で演出家のシルティを中心にしたコネタ話が、ふと思いついたのだ（笑）
物語自体は、現実世界でもありそうな「日常の延長線上のドラマ」であるが、
様々な異種族が参加し、ハイテクが標準化されている銀河社会が舞台になっているため、
現実世界にはない様々なガジェットが登場したり、種族差を考慮した展開があるのが特徴だ。
「人間だけなら必要ないディテール」があるのが“ミソ”というわけである。 |
