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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130722B） |
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ちょうど江戸川区で、イズキとライガーゼロの移送が行われていようとしたその頃。
東京都港区、白金台。
「昨夜は暑かったですけど……良く寝られました？」
「うむ……まぁ何とかな」
とある公園のベンチに座った男女が“今日も”途方に暮れていた。
男の方はついさっきまでベンチに腰掛けたまま寝ていたようで、目を細めながら腕を上に伸ばして屈伸する。
彼等こそ、ついこの間までイズキ達と行動を共にしていた、アッシュ・ハスラムとセイナ・サフィーアだった。
２人はベンチから立ち上がると再び当てもなく歩き出し、
やがて漢字で“桜田通り”と描かれている大きな市道に出る――２人には読めないが、ローマ字のルビがある。
この国に流れ着いて早２日、“ニッポン”の“トウキョウ”という場所だというのは分かったが、
“惑星Ｚｉ”生まれの２人の知識の中では、世界にそんな国と都市はないはずだった。
何より街には溢れているのは普通の４輪車ばかりで、“ゾイド”が１機も見当たらないのは信じられなかった。
元が兵器とはいえ、ゾイドは土木作業や運搬作業用の重機としても惑星Ｚｉの世界各地で使われているが、
これだけの大都市にも関わらず、大型ゾイドどころか個人が使う程度の小型ゾイドすら見かけない。
“トウキョウ”の人間たちとは１部の言語こそ通じるが、どの通信手段を用いても、
マヴィノ諸島で行われていた競技の責任者だった主催委員会はおろか、治安局にも連絡を取る事は出来ず、
まして通貨も使えないから宿も取れない――結果、２人とも昨晩はこの公園で夜を明かす事となったわけである。
まだ２日とはいえ、ここに来てホームレスのような生活を送るハメになるとは思っていなかった。
「グリッドやあの少年達は無事だろうか……」
アッシュがそう呟きながら天を仰いだその時、突如町全体にサイレンのようなけたたましい音が鳴り響いた。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第８章 機械獣大進撃 ★
2013年7月22日―世界・異界機械獣紛争其の２
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数分前――葛西臨海公園の安室姉弟。
頂上付近までやってきた大観覧車のゴンドラの中で、２人はそれぞれ違う方向を向いている。
（はぁ……実物大ガンダム、見たかったなぁ…………）
零児がそんな“未練”たっぷりに窓の外を見ていると、公園の外の通行止めになっていた道の先に、
四方を大きなブルーシートで覆われた場所を見つけた。
何かの工事現場にも思えたが、上の方まですっぽりとブルーシートで覆われていたため、
中に何が有るのかはここからでも分からない。
ただその周りには建築作業員ではなく、軍人だろうか、迷彩服の人達がうろついているのは分かった。
「ねぇねぇ、なにか飛んで来たわよ。ほらあそこ」
たまたま零児側の窓に目を向けた唯が窓の外で何かを見つけたらしく、唯もこちらの窓の方へとやってきた。
零児が視線を少し上に向けると、西の方から大きな飛行艇が２機飛んできて、
そのブルーシートで囲われた現場の丁度真上に滞空した。
それと同時にブルーシートの一部が取り払われ、そこから何か４足のロボットようなものが姿を表す。
「なぁにアレ……？」
「んーなんだろ……新しいアトラクションかな？」
「ガンダムにああいうのいた？……あたしは良く知らないんだけど」
「いたかなぁ、いたようないなかったような……ここからじゃよく見えないなぁ」
今度は現場の上で滞空していた飛行艇から、するすると紐のようなものが降りてくるのが見えた。
どうやらあれを釣り上げようとしている事は、２人にもすぐ分かった。
「あれで運ぶ気なんだ……ふーん、ヘリコプターじゃないんだな」
「――ね、ねぇっ！ あれを見てよ！」
「んもう、見てるよ」
「いや、そこじゃなくてあそこ！！」
零児が唯の指さす方向を見ると、あの現場から数百ｍほど離れた場所の上空に、
明らかに普通の雲とは違う、奇妙な光の靄が浮かんでいるのが見えた。
やがて靄は少しずつ肥大化していき、今度はプリズム光のように虹色に輝く光の輪のようなものへと変化した。
一見すると幻想的な光景にも見えるが、零児と唯には何か良くない事の前兆にも見えた。
するとその光の輪から、大きな銀の爪が生えた２本の足のようなものがぬっと下に向けて飛び出してきた。
いや――足だけではない。
赤と黒の禍々しいカラーリングを湛えたボディ、巨大な鉤爪が伸びる両腕、太く分厚い尻尾、
そして幾本もの“銃口”が光る竜のような頭部。
それは全高20ｍほどあろうかという“機械の怪獣”であった。
その全身が光の中から抜け出ると、それまでゆっくりだった落下スピードが急に早まり、
真下にあった倉庫らしき建物を粉々に踏み砕き、辺りに轟音と振動を響かせて盛大に着地した。
瓦礫と埃が巻き上がって“怪獣”の下半身を覆い隠し、臨海公園の観覧車にも不気味な振動が伝わってくる。
「きゃあっ！？」
「うわぁっ！？」
ゆさゆさと、不規則な横揺れを受けて、ゴンドラの中にいた２人が小さな悲鳴を上げた。
赤と黒の機械獣の方はというと、もうもうと煙が立ち上るその場所からすぐに動こうとはせず、
やがて煙が晴れてくると改めてその異様な姿が露となった。
その直後、頭部から覗く真っ赤な目のような部位がカッと光ったと思うと両腕を大きく広げ、
そして首を上に伸ばしながら、金属をこするような凄まじい咆哮を絞り出した。
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そしてそれは地上で移動しようとしていた、イズキ達の度肝も抜いていた。
「なっ、何だあれは！？」
「こっ、こちら現場！ 新たに正体不明の機械獣が出現！ 繰り返す、新たに正体不明の機械獣が出現！！」
「いや、そんな事より市民の避難を……！」
状況が良く分からず混乱する兵士たち。
一方のイズキは、その出現したものが何なのか、１目で分かった。
尤も、何故ソレがこんな所にいきなり出てきたのかまでは理解出来なかったが……
「で……で……デス……ザウラー！？！？ な、なんでぇ！？」
デスザウラー。
それはイズキたちが知る“惑星Ｚｉ”の歴史に記録される、伝説的なゾイドの１種である。
肉食恐竜のようなボディを持つ大型ゾイドであり、そのパワーや撃たれ強さもさることながら、
何よりも恐るべきは敵戦隊を１閃で薙ぎ払う威力を持つ恐るべきビーム兵器“荷電粒子砲”であろう。
イズキたちが生まれた時代には旧式のゾイドであったが、神話となるだけの猛威を振るった存在であった。
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そしてこちらは上野公園。
突然空を覆った“青天の霹靂”に、人々はまだざわめいている。
「……何だったの、さっきの？」
「さぁ……？ 雷じゃないよね？」
きょろきょろと周囲を見回す冬雪や夏月――保護者の深雪も不安げだ。
「玄武、何が起きたの？」
「うーーん、さっき妙なエネルギーを感じたんだけどねぇ……」
「動物達は……鳴き止んだみたいね」
今まで騒いでいた動物達はいうと、先ほどとは打って変わって静かになっている。
しかし檻や広場の隅に固まっており、大人しくなったというよりも、何かに怯えて縮こまっているようだ。
そんな空気を知ってか知らずか、冬水が再び大きな声を出した。
「あ〜っ！！ 恐竜さんだーっ！！」
「…………ですから、ここには恐竜なんていまｓ――」
笑顔ではしゃぐ冬水の指差した方向に目をやる三四郎――直後、硬直した。
動物園の西側とは門を隔てた不忍通りの上、
そこには身長10数ｍはあろうかという、巨大な“機械仕掛けの恐竜”が立っていたのである。
「「「「「「「…………えっ！！？？？」」」」」」」
その恐竜は彼女達の視界に入るや、頭部を天に向け金属音混じりの咆哮を上げる。
場違いとしか言い用のない“恐竜型のロボット”の出現に冬雪達は度肝を抜かれ、
唖然呆然といった表情でその恐竜もどきを見上げる。
不忍通りを走っていた車はいきなり現れた恐竜に驚いたのか、急ブレーキを掛けて玉突き事故を起こし、
同じく通りを歩いていた人々も我に返るや否や、悲鳴を上げて逃げ出し始めた。
そしてその直後――上野一帯にサイレンが鳴り響いた。
「ちょっと何この音――えっ、こんな時に何よ？」
同時に深雪の携帯電話も音を立てた……いつもの着信音とは少し違う。
画面を見ると、『第１種緊急警戒態勢』と『避難指示』の文字が、真っ赤なフォントで書かれている。
「……母さん？」
「避難指示――だって」
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“第１種緊急警戒態勢”のサイレンはもちろん、別所にいた秋綺や春花、ライカにも聞こえた。
「第１種緊急警戒態勢――だって？」
「見て秋綺ちゃん、動物園の方から人が逃げてきますよ！」
「やっぱり……何か良からぬことが起きたみたいね、付いてきて正解だったわ」
「どうしたら良いんでしょう？」
「ひとまず駅に戻った方が良さそうね、向こうも同じことを考えてるんじゃないかしら？」
向こう、というのは動物園に向かった冬雪たちのことだ。
「くそ……せっかくの観光日和なのに」
舌打ちをする秋綺の横で、ライカは眉間にしわを寄せて空を見上げている。
普通の人間には感知できない“異変”を、“神族”のライカは敏感に感じ取っていたようだ。
「……ライカさん、どうしたんですか？ 空に何が……」
「ちょっと、まずいことが起きるかも知れないわね……あぁ、あなたたちには分からないかも」
「ふぅむ……まだ空間が不安定のようじゃね」
春花の肩ににゅっ、と頭を出した竜のぬいぐるみのようなキャラ……メイデンズ神獣の１体、青龍である。
気質の若い玄武や朱雀、白虎と違って老成した性格で、余り表に出てくることがないのだが。
「青龍……あなたが出てくるなんて珍しいですね」
「今までも、こういう事態はあったの？」
「局地的には感じたのぅ……じゃが、ここまで広くはなかったわぃ」
「ここまで広くは……ってことはつまり……」
冷や汗を流す秋綺や春花……どうやら彼女達も“大事件”の可能性を感じ取ったようだ。
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再びベイエリアの葛西臨海公園。
大観覧車のゴンドラの中から安室姉弟が“非常識”な事態を固唾を呑んで見つめている。
２人の視線の先には……今し方出現した巨大な機械の怪獣――デスザウラー。
デスザウラーは、視界に滞空する防衛隊の輸送機“轟鯨”を認めると、すぐに“進撃”を開始した。
既に形のない倉庫の瓦礫を蹴り上げ、隣に立っていた工場らしき建物も問答無用で踏み潰す。
その姿はまさに――怪獣としか言いようのないものだ。
「いかん、あのロボット獣、轟鯨を狙っているぞ！」
「移送を中止、回避行動を取れ！」
突然の“乱入者”に、ライガーゼロ移送準備を行っていた轟鯨が吊り上げ用のロープを切り離した。
そのまま離脱すべく上昇しようとする轟鯨――だが。
まばゆい閃光がデスザウラーの口から放射され、真一文字に轟鯨に解き放たれた！
その場にいたほとんどの者が目を疑う“熱線”が、旋回する１機の轟鯨の“脇腹”をごっそりと抉り取る。
大推力ホバージェット４機の片側２機を跡形なく吹き飛ばされた轟鯨は、体勢を直せずにそのまま失速した。
兵士たちが愕然と見つめる中で、黒煙を噴く暗緑色の飛行艇が、湾岸の工場群の中に突っ込んで火柱を上げた。
現場指揮官らしき兵士の１人は思わず――ある“怪獣”の名を呟く。
「ご……ゴジラ……！？」
デスザウラーの背中では、大型ジェット機のエンジンほどもあるファンが高速回転し、火花を散らしていた。
この決戦兵器“荷電粒子砲”は、大気中の静電気を取り込むことによって放射が可能になるのだ。
しかしそれゆえに連射は難しく、“次弾装填”には時間がかかる。
「１号機が撃たれた――上昇して離脱する、直ちに応援を要請、直ちに応援を――」
直撃を免れた轟鯨２号機だったが……パイロットが応援要請を伝え終わる前に、機体が火を噴いた。
地上にいた兵士は、デスザウラーが背中からミサイルを発射し、２号機のエンジンを撃ち抜いたのを見た。
バランスを崩した２号機が回転しながら高度を下げ、大観覧車の脇をかすめて東京湾に突っ込んで行く。
２号機が噴く黒煙が、大観覧車の視界をセピア色に染め上げた。
「あわわわわ……」
「も……もうなんなのよ〜〜〜〜！！」
呆然としていたのは兵士だけではない……安室姉弟も、突如目の前で勃発した“戦火”に圧倒されていた。
煙で霞む風景の奥で、怪獣のような黒い塊が金属的な咆哮を上げる。
荷電粒子砲の連射こそできないが、デスザウラーは他にもミサイルや小型ビームガンを装備しており、
その火力は“歩く戦艦”と呼んでも何ら遜色はない。
１番目立つ標的をあっさりと仕留めたデスザウラーは、そのままの勢いで無差別爆撃を開始した。
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『江戸川区に新たな機械獣が出現、移送作業中だった轟鯨１号機と２号機が撃墜されました！』
立川基地の防衛特調は、通信兵のそんな緊迫した声で一挙に緊張した。
「何ということだ……くそっ、嫌な予感ほどよく当たる！」
ガタン、と席から立ち上がるや否や、黒木が珍しく吐き捨てるように言い放った。
“怪獣戦線”でのクールな素振りが有名な男だが、実は誰よりも熱い内面を持っている。
数ｋｍほど離れた監視カメラに、黒煙を噴き上げる湾岸部と、その中で動く黒い塊が捉えられている。
それを見た富谷は目を疑った……“熱線”を吐く黒い“怪獣”と言えば――
「ゴジラ！？……ま、まさか！？」
『ゴジラではありません、形状は似ていますが身長は20ｍほど、ミサイルなどで武装しています！』
「20ｍか……しかしメカゴジラみたいなもんだよな、それにしても轟鯨を１発で落とすなんて！」
「昨日の今日だ……あの機械獣も、昨日の４脚獣型と“同類”なのかも知れん」
「……そう言えば、ちょうどあの４脚獣型の移送計画に合わせるように現れましたね？」
「何かの妨害行為か……すぐにＧフォースにサンダーバードの派遣を――」
そこまで言いかけた富谷を、しかし黒木は遮った。
「いや、サンダーバードでは火力が足りない、スーパーガルーダの方が使えると私は思う」
「メーサーキャノンを使うわけですか？」
「ビーム兵器では不十分かも知れない……ミサイルも積んでいった方が良いだろう。
確か“スパイラルワインダー”は防衛隊とＧフォースの両方が使える装備だったはずだ」
「そうなると室長、かなり本格的な迎撃作戦になりますが――」
権藤が緊張した面持ちで言った、その直後だった。
『○○区に新たな機械獣が出現したようです！』
『○○区に新たな機械獣、しかも複数です、すぐに応援を！』
思わず、驚愕の表情で顔を見合わせる黒木たち。
ゴジラに似た機械獣――デスザウラーの“宣戦布告”で、紛争事態の可能性は覚悟しつつあったが、
通信機から飛び込んでくる兵士達の報告は、それを上回る事態が起きていることを予感させるに十分だった。
「ちょっと待て……くそっ、どうなってるんだ！？」
「まるで波状攻撃だ……どうもこの街を、滅ぼしたくてたまらない奴らがいるようだな」
「総司令部に伝えてください……“防衛出動”の準備を。 どうやら、覚悟を決める時が来たようです」
心なしか青ざめた表情を浮かべて、黒木はそう言った。
その目は目の前に置かれたモニターを凝視している……視線を追った佐津間たちも顔がこわばる。
東京の上空に、黒い怪鳥のような無気味な群れが飛来していた――まるでＢ29の編隊のように。
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さてもこちらは上野公園。
冬水や冬雪たちが呆然とした表情で見上げているのは、直立した２脚歩行型のロボットだ。
肉食恐竜を思わせるが、背筋はゴジラのようにぴんと立ち上がっている。
湾岸で猛爆中のデスザウラーにどこか似ていて、シルバーの装甲に覆われているが、身長は半分ほどだ。
ゾイドの分類が分かるイズキたちなら――それがアロザウラーと呼ばれる中型ゾイドだと気付いただろう。
「みんな、急いで避難するわよ！」
深雪の声に冬雪達は我に帰り、避難誘導の係員に従って、他の客と共に動物園の避難用非常口に向かった。
ただ一番近い西門前の不忍通にアロザウラーが立っているため、少し離れた非常口を使わねばならない。
１方のアロザウラーはというと、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回していたが、
そのアロザウラーのキャノピーに覆われたコクピット内の通信機に、また“謎の声”が響き渡る。
『おいヴォルミラック！ 目標はそこから北東にある“博物館”だ！ ヴォイスバクターから聞いただろ。
ぼーっとしてないで、さっさと“例のもの”を確保しろ！！』
アロザウラーの無人のコクピット内で、誰のことか“ヴォルミラック”と呼ぶその通信が入るや、
やおらアロザウラーは西門を押し潰しながら、園内に侵入してきた。
間もなく西園から離れようとした彼女達は、その光景を目の当たりにする。
「ちょっ！？ アイツ入ってきたわよ！！」
「本当！？ あれっ、冬水は……？」
アロザウラーは園の敷地に入ると、そのままのしのしと園内を突き進む。
その先には大きな鳥籠、鳥達はピーピー喚きながらただその中で跳び回るだけ。
人は逃げられても檻の中の動物達は逃げる事はできない。
もしこのままアロザウラーが園を突っ切ればその進路上にある檻は全て壊され、中の動物達もタダでは済まない。
いざアロザウラーがその檻に近づいたその時。
「――待って恐竜さん！」
１人の少女がそのアロザウラーの前に現れ、両腕を広げて檻を守るように立ちはだかった。
アロザウラーの方もそんな彼女に気づいたのか、足を上げたままその動きを止め、
なおかつ見下ろすように足元の少女に顔を向けている。
「ちょっ、冬水！？ 何やってるんだよ！！」
「あらーーーーっ！？ ちょっとちょっと冬水ちゃん、見当たらないと思ったら！」
アロザウラーの進路を塞いだのは、まさに冬水だった。
「ちょっと冬水……これはさすがに不味いよ！？」
「あぁっ、踏み潰されちゃいますよっ！！」
「まさか……彼女はここの動物を守ろうと……！？」
冬雪のリボンと髪の間に隠れるように、玄武が呟く。
冬水が元々は人間ではなく、アヤカシの１種であったことを彼らは知っている。
朗らかな性格で知られる冬水だが、まさかこんな行動に出るとは。
小さな赤いハトのような神獣――朱雀も夏月の髪の隙間から顔を出す。
「ちょっと意外ですねぇ、あの子がこんな行動に出るなんて……というか４凶獣は何やってるんです！？」
「……何やってるも何も、なんにも出来ねぇだろ俺らは！」
「おーい冬水ぃ、勘弁してくれよぉ！」
冬水のカバンの中で、朱雀の愚痴に愚痴を返す４凶獣の面々。
“フラグ”の予感は見事に当たったが――まさか自分たちがその最前線に立つことになろうとは。
アロザウラーはゾイドとしては余り巨大な方ではないが、もしその足が彼女に振り下ろされればまず命はない。
それを分かっているのか分かっていないのか、冬水はその場を動こうとしない。
「ダメだよ恐竜さん、みんな死んじゃうよ！ 良い子だから、あっちに行こう？」
「……あぁもうしょうがない！！ もくかど――」
「待って夏月！ あの恐竜、何だか様子が変だよ……？」
見かねた夏月が“変身”しようと言霊を唱えかける。
が、冬雪は相手がピクリとも動こうとしない事に気づき、それを制止した。
アロザウラーはしばらく静止していたが、そのまま先に進む事無く足を戻すと、
なんとＵターンしてまた歩き出し、再び壊した門から道路に出て、どこかへと行ってしまった。
「な……なんだったんでしょう？」
「と、とにかく避難しなきゃ、冬水ちゃん、早くこっちに！」
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再び、デスザウラーの無差別爆撃に翻弄される江戸川区。
兵士たちの周囲には今や、戦災のような光景が広がりつつあった。
無差別爆撃で炎上する民家や倉庫や工場……薬品でもあったのか、とりわけ工場の火災は酷い。
コンクリート製のビルも捻れるように倒壊している……デスザウラーがその“剛腕”で押し潰した残骸だ。
辺り１面に土煙と埃と、黒煙が充満している……夜景が美しかった湾岸が、地獄と化してしまった。
「早く増援の要請を！ もうどこでもいい、あのバケモノを早く止めなければ！」
絞り出すように訴える指揮官……だが。
「そ、それが……今東京のあちこちで、正体不明の機械獣が暴れているという連絡が……！」
「何だと！？ ここだけではないのか！？ ――おいお前っ！」
「……はぇっ、俺！？」
目の色を変えた指揮官は、攻めあぐねたように移送するはずだった青年――イズキに言葉を振った。
「あのロボット怪獣はお前が乗っていた奴と同じものじゃないのか！？ 誰が乗っているんだ！？」
「そりゃあれも俺のライガーゼロも同じゾイドだけど、何で出て来たのか誰が乗ってんのかは知らねーよ！
俺の知り合いにもあんなのに乗ってた奴はいねぇ！！ ウソじゃねえってば――」
――ドォンッ！！
防衛隊員の追及にイズキが反論した直後、すぐ至近距離で大きな爆発音が響いた。
ライガーゼロを置いていた広場に面した建物が爆撃されたらしく、黒煙と火柱を噴き上げる。
高温の爆風を破片もろとも間近で食らう形になり、周囲の隊員たちから思わず悲鳴が上がった。
先ほどの機械獣――デスザウラーが今度はこちらを狙ったのか、と思われたが。
「うわぁっ！？」
「――くっ、今度は我々が標的か！？」
「違います、隊長、空を！」
隊員の声に隊長らしき男が空を見上げて――硬直した。
「な……何だアレは！？」
黒い影が次々と飛来し――低空を高速で横切っていく。
航空機ではない……コウモリをロボット状に整形したような奇妙な兵器だ。
イズキには見覚えがあった……コウモリを模したゾイドの１種“ザバット”である。
両翼の翼端に高出力レーザーを装備し、腹には爆弾を抱えた漆黒の爆撃機だ。
腹に応えるような爆発音が連鎖する……どうやらこのコウモリたちも無差別爆撃に加担しているらしい。
遠くで消防隊が出動したのか、サイレンが響いている――あたかも、空襲警報のように。
警察署の周囲の住民もパニック状態に陥り、署の駐車場の周りは騒然とした空気に包まれている。
警察職員と防衛隊員が手分けして避難誘導を行っているが、パニックで十分に手が回らないようにも見える。
それどころか――ザバットたちはそんな非戦闘員達をも、標的にし始めた。
悲鳴と怒号が交錯し、大きな爆発音と共に、避難誘導中だったらしきパトカーが火を噴いて横転する。
「くっそ〜…… はっ、俺のライガーゼロ！！」
「あっ、おま……待て ――わっ！？」
イズキは爆撃の際に、隊員の気が逸れた隙をついて走り出した。
隊員は静止しようとしたが、ザバットの無差別爆撃に翻弄されているうちに、取り逃がしてしまう。
イズキはそのまま逃げ惑う群集を掻き分け、広場に置かれているライガーゼロの下へ。
爆撃の衝撃でブルーシートを固定したポールは倒れており、シートがゼロを覆い隠すように被さっていた。
イズキはシートの中に入って機体の状態を見てみたが、幸い特に異常は見られない。
「ふぅ〜、良かった。俺のゼロは無事か」
イズキはシートの中から外の状況を伺い、近くにザバットの編隊とデスザウラーがいない事を確認すると、
ライガーゼロの搭乗システムを作動させ、頭を下げたライガーゼロのコクピットに乗り込む。
機体は屈ませてあるが、頭部だけシートの外に出し、周りの状況がわかるようセンサー範囲も全開にする。
さらに念のためゼロのメインシステムも起動させておいて、いざとなればすぐに動けるようにもしておいた。
「ふうぅ……ったくこの国の治安局は何やってんだよ―― ん、また何か接近してきた？」
イズキが爆音を聞いて空を見上げると、銀色の航空機群が西から高速で飛来するのが見えた。
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三度上野公園也。
皆がようやく動物園を出て、公園の入口近くに戻ると、そこでも既に大混乱が起こっていた。
公園のアチコチでは人々は悲鳴と絶叫を上げながら逃げ惑う人々で溢れ返っており、
数百人を越す大きな人の波が出口に向かって流れている。
しかも空を見上げれば、南方遠くに煙のような黒い雲が幾つも上がっており、
遥か彼方からも砲撃音や破砕音が響いてくるのも分かった。
それは過去に報道番組などで見たことがある、紛争地の風景そのままだ……ここは東京のはずなのに。
……まぁ、９日前の“怪獣事件”を知る者なら、こうした事態は“２度目”でもあったが。
「何？ 何が起こっているの？」
「解りませんが、どうやら騒動はここだけでは無いようですね……」
「母さん！ 秋綺達とは連絡取れた！？」
「それが……携帯が通じないの」
深雪が持っている携帯電話は、それ自体は自分のものだが、サイトＧでプログラムが更新されており、
緊急時に優先的につながる仕様にされていた――はずだったのだが。
彼女達はまさか、ここら一帯に“ジャミング”つまり妨害電波が仕掛けられている事には気付いていない。
避難指示を通達する警報の発令時にはつながったが、その後全く連絡が途絶えてしまった。
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・
・
――当の秋綺達はというと、路上の片隅でしゃがみ込んで、ただただ辺りの様子を伺っていた。
激しい人の流れに飲み込まれると、返って迷ってしまう恐れがあるとの、ライカのアドバイスである。
「さすが東京ね……着いた時は意外と少ないって思ってたけど、湧いてくるものねぇ」
その時、近づいてくる高い金切り音に気づいてふと空を見上げると――何かが空を横切った。
同じく空を見た秋綺達にもそれは一瞬だが目に入った。
だが――
「！？ 何だ今の？ 飛行機……じゃねえよな……」
「足……がついてたような……」
自分たちの目が確かならば、さっき横切った飛行物体には翼だけでなく、
“足”のようなものが付いていたように見えたのだ。
形状も普通の飛行機というより、まるで“翼竜”のような奇妙な形状に見えた。
そしてその時――ライカは“同志”からの緊急思念通信を受け取っていた。
（ライカ、こちらアリシェイル……今の座標を教えて！）
（はいはいこちらライカ……公園の北口近くにいるわ、人の流れが多すぎてねぇ……何か分かった？）
（湾岸部で昨日の事件と似た機械獣の大出現が起きたみたい……それだけじゃないわ。
ディスヴェリオンの工作員が潜入しているみたい、機械獣は彼らが意図的に転送した疑いがあると思う。
隊長から出動指令が出たから、ファルレーンがそのうち合流するはずよ）
（……やっぱりか、ゲート開放みたいな感覚があったから、まさかと思ってたのよ――ちょっと待って）
常人には聞こえない“通信”の最中――ライカはふと、南東の空を凝視した。
小さなヘリコプターが１機、公園の上を不規則に旋回している。
秋綺や春花もすぐ、それに気付いた。
「あれ……マスコミのヘリでしょうか？」
「特ダネを掴んで飛んできたんじゃないか……気楽なもんだぜ、こっちはパニック寸前なのに」
（……アリシェイル、そこから公園の上空は見える？ ――怪しいヘリが１機飛んでるわ）
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「目標を目視確認、これより攻撃を加えます！」
『こちらファルコン１了解、周囲に何か飛んでいる、十分に警戒せよ』
デスザウラーが暴れる江戸川区の上空に、10数機の軍用ジェット機が姿を現した。
うち２機は全長30ｍを越す大型機――Ｇフォースの対獣爆撃機スーパーガルーダである。
本来は２基の集束メーサーキャノンが主兵装だが、今回は更に空対地ミサイルを余分に積んでいる。
その周囲に展開するのは、航空防衛隊が保有するＦ１６ＭＪ戦闘機とＦ１８ＭＪ戦闘爆撃機だ。
スーパーガルーダの護衛のために派遣されたものだが、こちらもミサイルを積んでおり、
これによって目標に一斉に“飽和攻撃”を行うことを意図している。
積んでいるのは陸上防衛隊のスパイラルクラッシャーと同じ仕様を持つ徹甲ミサイル、
スパイラルワインダーである……先端がドリルになっており、怪獣の皮膚などを抉る効果がある。
デスザウラーをロックオンしたスーパーガルーダは、すぐさま攻撃を開始した。
メーサーキャノンの下部に増設したウェポンラックを解放し、スパイラルワインダーを展開する。
左右に並んだ４発を同時に発射できる……２機で８発を同時に撃てるわけだ。
「脚の付け根を狙え……頭部はコクピットがあるかも知れん――発射！」
間もなく２機から放った８発のスパイラルワインダーが、前後左右からデスザウラーの脚部に着弾した。
オレンジ色の閃光が煌き、轟音と共に赤黒い煙が噴き上がってデスザウラーの上半身を覆い隠す。
ゴジラ級の相手でなければ、この８発で大方の勝負は付く――はずだったのだが。
「目標に――損傷……なし。 繰り返します、目標に損傷なし！」
しかし、煙が晴れたデスザウラーの脚部には、何と装甲面に軽い凹みがある程度だった。
歩行速度も変わっておらず、ダメージを受けたようには見えない。
「……まさか！？ １発で戦車を木端微塵に出来る兵器だぞ、８発あれば駆逐艦だって沈むはずだ！
えぇい、ならもう１度だ……１６発食らえば、何らかの効果はあるはず！」
旋回したスーパーガルーダが、ドリフト走行のように水平回転しつつ、再度スパイラルワインダーを発射する。
垂直離着陸できるスーパーガルーダ特有の攻撃態勢だ……再びデスザウラーを閃光と黒煙が覆った。
大観覧車の安室姉弟にも、その迎撃シーンが見えていた……唯は思わず、自分の頬をつねる。
「す……スゲェ、映画みたい」
「ショーじゃ……ないよね……夢かな？ ――あいたた、夢じゃない」
だが間もなく――その攻撃が徒労であったことを、兵士達は思い知らされる。
「目標に、損傷なし……信じられません、ゴジラだってもう少し傷つくはずですが」
デスザウラーのもう１つの脅威――それがこの“撃たれ強さ”であった。
敵戦隊を１閃で壊滅させる荷電粒子砲を効率的に稼動させるために、必然的に重装甲になった結果でもある。
自分の放射する熱で自分が融けてしまっては、兵器にならないからだ。
その防御力は結果的に、敵ゾイドの大半の打撃力を無効化できるレベルに到達した。
「メカゴジラじゃあるまいし……あの装甲はＮＴ１でも練り込んでるのか！？」
この世界の住人には信じられないことだろうが……デスザウラーには“戦艦砲”すら効かないのである。
惑星Ｚｉ屈指の火力を誇る、“ウルトラザウルス”の360ミリウルトラキャノンを弾き返した実績もあるのだ。
今ここでそのことを知っているのは……それこそ“Ｚｉ出身”のイズキくらいであっただろうが。
「……おいおい、あの程度の攻撃じゃ通用するわけねえだろ〜」
「くそっ、まだだ、援護してくれ、こうなったらありったけのミサイルをぶち込んでやる！」
「りょ……りょうか……うわっ！？」
だが――援護の戦闘機部隊のミサイル攻撃は、背後から強襲してきた“敵”によって阻まれた。
デスザウラーの爆撃に加担していた黒いコウモリ――ザバットである。
「くっ、さっきの奴らか――各機散開！！」
東京湾岸部の上空で、激しいドッグファイトが始まった。
機動力では１見、ザバットと戦闘機群は互角に見える……Ｆ１６もＦ１８も超音速で飛べるからだ。
しかし、ザバットの挙動はパイロット達の経験値を越えていた。
加速性能では互角だったかも知れないが、小回りにおいて決定的な格差があった。
ザバットはいわば、自在に変形する可変翼を装備した戦闘機……しかもゾイドは厳密には生命体。
野獣の本能を最大限に引き出した猛禽のような挙動に、食らい付ける航空機など地球には存在しない。
１機また１機、ザバットの正確無比なカウンターを受け、戦闘不能にされていく戦闘機群。
ある機体は切り返し際にエンジンをレーザーで撃ち抜かれ、ある機体はすれ違いざまに翼を切り裂かれ。
加えて言えば防衛隊のパイロットに“誤爆”は許されない……眼下には守るべき市民が住む街があるのだ。
遠慮ない無差別爆撃を繰り返すザバットたちとは、置かれた状況が全く違っていた。
スーパーガルーダが“逆援護”を仕掛けてメーサーキャノンを放ち、数機のザバットを撃墜せしめたが、
それはデスザウラーに「隙を見せる」ことを意味していた。
横槍を挟むように撃たれたデスザウラーのビームガンで、スーパーガルーダのエンジンが無情の火を噴く。
がくんと失速したスーパーガルーダに、ダメ押しのようにザバットのレーザーが降り注いだ。
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再び上野の国立博物館。
「……なんか、人気がないわね。秋綺たち、もう移動したんじゃない？」
「うーん、やっぱりそうかなぁ……」
観光客が避難し、がらんとした博物館の正門前で、建物を眺めているのは夏月と冬雪である。
深雪や三四郎たちを上野駅の駅前広場に待機させ、２人で秋綺たちを探しに来たのだ。
中学生２人で危ないといえば危ないが、「いざとなれば何とかなる」漠然とした自信があったらしい。
「ねぇ冬雪、やっぱり駅に戻った方が良くない？ あのライカって人もそうするんじゃ」
「その方がいいかな……？」
電波障害の影響もあって、２人は秋綺たちがライカに連れられて、公園の北にいることをまだ知らない。
２人が半ば諦めて、踵を返しかけた時である。
けたたましいローター音が上から降り注ぎ、凄まじい突風が博物館前の２人に襲いかかる。
両者が上を見上げると、そこには３機の全く違う機種のローター機が、博物館広場のすぐ上空で滞空していた。
うち１機はＴＶでよく話題になる、テイルトローター輸送機“オスプレイ”の形をしている。
「わっ……！！ ヘ、ヘリコプター？」
「救助に来てくれたのね！！」
ようやく来てくれた人間の乗り物に冬雪達は安堵する。
だが――この３機のコクピットは無人であり、
その誰もいないコクピットの通信機では聞き手も居ないのに声が響き出し、しかも会話まで始めた。
「ぶーん。ここに“カリオスパーク”の手がかりがあるんだぶーん？ さっさと回収しておうち帰りたいぶーん」
「何だ……？ ヴォルミラックめ、まだ来ていないのか。奴がこの建物からアークスを追い払う算段だったはず。
まぁ、この様子だとその必要はなかったようだな」
「……いや、下を見ろ。まだアークスが２匹残ってるぜ。へっ……それじゃあ――」
その直後、突然オスプレイの胴体が空中でバキバキと裂けたかと思うと、それから手が伸び足が伸び、
なんと身長10数ｍもの人型のロボットに変形したではないか。
「「 ―― い っ ！？ 」」
面食らったのも無理はない……この２人、いや“メイデンズ組”はまだ「オートロン未経験」なのだ。
そしてこの３機の航空機こそ、オートロンの過激派“ディスヴェリオン”の擬態だったのである。
オスプレイに化けていたのはレイラック、小型ステルスヘリはバルザス、
そしてさっきからぶんぶん言ってる旧式ヘリはヴェレーノという名のオートロンであった。
いざ変形を終えたレイラックは乱暴に地面に降り立つと、
赤い目が光る頭部を少し下に向け、突然の事に腰を抜かす冬雪達を見やる。
「ふん……どーせオーディアンもアークスのチャチな軍隊もしばらくは来やしねぇし、
それにあのゾイドとかいうのにばっかアークス掃除させるのもつまらねぇ。
こいつらくらい俺の手でやらせてもらうぜ！！」
レイラックは両腕からオスプレイの巨大なプロペラ部分のみを展開、さらにそれを回転させる。
それは直径10ｍ以上もある、馬鹿でかい扇風機のような武器になっていた。
そしてそれを有ろうことか、冬雪と夏月目掛けて直接叩きつけようとしたのだ。
「うわっうわああああぁぁっ！！」
「きゃああああっ！！」
間一髪で避ける２人。
凄まじい金属音と破砕音と共に、
２人がいた地面はまるで巨大なトラクターに掛けられたかのように、破片と土埃を上げて砕け散る。
もちろん――こんなシロモノに直撃されたら、人体など跡形もなくなってしまうだろう。
「な……何なんだよもお！！」
「……ナニモンよアンタ！！ 新手のアヤカシ！？」
だが、レイラックはそんな夏月の言葉など意に介さず、さらに腕をふりあげて２人に襲いかかろうとする。
しかし、腰を抜かしたかと思われていた冬雪と夏月は、
レイラックが腕を上げた瞬間に素早く立ち上がると、一目散に公園の出口に向かって駆け出した。
この手の事態に慣れかけてる所為か、これまでの経験の賜物か、本人達も意外に思うほど迅速な反応だった。
「変なアヤカシにロボット恐竜……そして今度は変形するヘリコプターなんてどうなってんのさぁ！！」
「いいから早く逃げるの！！」
「ほうら逃げろ逃げろムシケラめ！」
レイラックはそんな２人を追うようにのしのしと歩き始めた。
まるでわざと逃がそうとするように、あえてゆっくりと２人を追いかける。
もっともそれは、２人をじわじわ狩り出そうというというレイラックの悪意から来るものだ。
「ヴォルミラックといい、貴様といい……勝手にしろ。ヴェレーノ、我々はさっさと任務を済ませるぞ」
レイラックを見送ったステルスヘリ――バルザスは、建物の側面に移動すると、
いきなり機関銃を乱射し、外壁をバラバラに吹き飛ばす。
その場所はさっきまで秋綺達が居た古代文化遺産のブースだった。
「ぶーん♪ ヴェレーノ・トランスフォ〜ムッ！」
今度は旧式ヘリの方がロボットへと変形する。
擬態していたメカの関係かレイラックよりも小柄で、頭部にはハチの複眼のような眼を持っている。
変形を終えたヴェレーノは早速その壊れた外壁に腕を突っ込み、中の展示品を漁り始める。
「う〜ん、どれかな〜？」
「急げ！！ モタモタしているとスレームスキュレードにどやされるぞ！」
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江戸川区の“テロ現場”の指揮に当たっている立川基地の防衛特調。
モニターの向こうで“最後の１機”が撃墜された瞬間、防衛特調本会議室は沈黙に包まれた。
「……全滅、だと……」
かろうじて、そう言ったのは権藤だった……“戦友”を失った富谷と尾形は唇を噛んで俯いている。
防衛大学校から航空防衛隊に行った“同期の桜”が何人かいたはずだからだ。
墜落前に脱出した隊員はいただろうが、レーザーの雨の中でどれだけ生き延びられただろう。
昨日から情報共有のため、防衛特調に参加している“陸自娘”の市ヶ谷愛も、悲痛な表情をしている。
元いた世界で“戦災”を経験している彼女だが、まさか異世界でも同じ事態に遭遇するとは。
10機ほどの航空隊とは言え“全滅”という事態は尋常なことではない……いや、それだけではないだろう。
本会議室には、次々に“被害報告”が入ってくる。
今のところ、無差別爆撃と言っても、東京大空襲のようなスケールで展開されているわけではなく、
“戦場”は東京全体で見れば局地的なものだ……中心部が火の海になった、先の怪獣事件ほど酷くはない。
だが、「効果的な対策が見当たらない」という意味では、あの時と何も変わりはしない。
市民の死傷者もすでに100人単位で出ている……良い対策が取られない限り、この数はどこまでも増えていく。
この事件が意図的な攻撃なら、軍が無力である限り、いずれは日本中が同じ災厄を背負うことだろう。
首謀者の宣戦布告のような情報も入ってきていない……つまり「降伏することも出来ない」のだ。
「室長……指示を……まだここで終わるわけには！」
搾り出すようにそう言った権藤だが、黒木は数秒後、意外な言葉を口にした。
「いえ、権藤２佐……ここまでです」
「――特佐っ！？」
「なっ、何言ってるんですかっ！？」
黒木が呟くように言った言葉に、尾形も富谷も耳を疑った。
尤も……黒木は決して、諦めの言葉を口にしたわけではなかった。
「“防衛特調にできるのはここまで”だ。残念だが、我々に敵を止められない以上、本隊に任せるしかない」
黒木の言葉に――尾形と富谷は思わず、はっとした表情を浮かべる。
そう……防衛特調はあくまでも初動組織、本格戦闘が確実な場合には、本隊に権限を委譲する決まりである。
先の“増援依頼”決議の際に、合同庁舎の非常事態対策本部も“防衛出動”の勧告を内閣に出していた。
「先ほど、海上防衛隊の艦隊が出撃準備を整えたようです……防衛出動の閣議決定も数分後に出るでしょう。
だが我々の仕事はまだあります……本隊が効率的に動けるよう、我々が掴んだ情報を整理せねばなりません」
しかもＧフォースやその母体である国連軍の情報によれば、どうも今回の事態、日本だけではないようだ。
Ｇ７に関わる主要国の多くで、日本と同様に「謎の機械獣による襲撃テロ」が起きていたのである。
「この事件はどうも日本だけではない……国連軍のパウエル大佐も、アメリカで同様の事件を確認したそうです。
つまりこれはもはや“有事”であり、集団的自衛権の発動が必要とされる事態なのです」
「集団的自衛権……つまり、これはもう“事件”ではなく――」
「そうです――これは“戦争”なのです」
黒木の表情は先ほどの苦渋に満ちたものではなく、すでに新たな緊張感に満ちている。
「モニターを総司令部につないでください、これより防衛特調は本隊と合流します！」
数分後――黒木が“予言”した通り、内閣官房室が緊急記者会見で、防衛出動の閣議決定を宣言した。
それは日本中に“臨時ニュース”として伝えられたが、それを見ることができた者は、実は多くなかった。
何故なら“有事”は既に東京だけでなく――日本中に拡大しつつあったためである。
後に“７・２２”とも呼ばれる“１日戦争”が今――勃発した。
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| （８章３話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2011〜2012年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ただし旧ＯＷ企画とは登場人物に変更があるため、ＰＡシリーズでは細部のプロットに修正を加えている。
特に大きく修正したのは上野公園のパートであり、旧企画のキャラクターの１部が“白紙化”されたことで、
関係者の枠（戦力）が空いたため、ライカをはめ込み、オートロンのアリシェイルも加えている。
冬水がヴォルミラックを止めるシーンも、元は別のキャラの行動だったりする。
１方、“敵性ゾイド紛争”の先陣をデスザウラーが担うのは、旧企画からG-maが希望した展開である（笑）
イズキの愛機であるライガーゼロを含めて、多くのゾイドはアニメ化されたシリーズ以降に登場したものだが、
G-maにとってゾイドとは、デスザウラーやウルトラザウルスが登場する“バトルストーリー時代”の印象が強い。
そのため“悪役ゾイド”の定番は、バーサークフューラーよりもデスザウラーを推すのである（笑）
また「手札が尽きた」防衛特調が総司令部に合流するシーン自体は旧企画から変わっていないが、
その過程で防衛出動の閣議決定がなされる展開は追加したものである。
この時点で焦点が「テロ対策」ではなく「紛争処理」に切り替わったことをハッキリさせたかったためだ。
『シン・ゴジラ』で自衛隊がゴジラに立ち向かう過程で防衛出動の決議がなされたシーンもモチーフである。 |
