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★Ｐｒｏｊｅｃｔ Ａｐｏｃａｌｙｐｓｅ 黙示計画 統合ナンバー：EC-X20501（CMS2130722C） |
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7月21日夜、アメリカ西海岸、サンディエゴ。
昨日まで美しい夜景が広がっていたこの街は今、明かりではなく立ち上る炎により赤に染め上がっていた。
夜の摩天楼の上を、大きな骨組みのような翼を持った約10機の翼竜型ゾイド、
“サラマンダー”の編隊が我が物顔で飛び周っている。
スカイラインを形成する目立つビルの多くは、サラマンダーが放ったミサイルの直撃によって炎上しており、
地上には崩れたビルの瓦礫や残骸が降り注ぎ、市民達は頭を抱えながらただただ逃げ惑っている。
間もなく米空軍のＦ-35A航空部隊が迎撃に出たのだが、そのサラマンダーの周りを飛び交う中型翼竜型ゾイド、
“ストームソーダー”のマッハ３を超える卓越した機動性能の前には、自慢の新鋭機もまるで無力だった。
サラマンダー達はミサイルを撃ち尽くしてもなお攻撃の手を緩めることなく、
腹部のバルカンや翼のビーム砲を地上に向けて容赦無い爆撃を加え、見る見るうちに瓦礫の山を量産していく。
それはまさに――絨毯爆撃と言うべき光景であった。
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フランス西部、ナンテール。
古風な町並みと開発が進んだ近代的な都市が同居するこの地の大通りを、
全長50m近い巨大な雷竜のような真っ赤なゾイド“セイスモサウルス”が悠然と歩いている。
もちろん、ただ歩いているわけではない……進路上の建物はほぼ例外なく攻撃対象となり破壊されていた。
さらにセイスモサウルスの周りには、本機を護衛する複数の“ブロックス”型ゾイド、
“レーザーストーム”“シザーストーム”“スティルアーマー”が犇めいており、
その姿はさながら要塞そのものが移動しているようだ。
既に地上部隊はブロックス軍団との戦闘で無残な敗退を喫し、
フランス空軍の航空部隊はというと、いくらミサイルをセイスモサウルスに向けて放っても、
セイスモの首と尻尾の関節にある十数基ものレーザー砲に全て撃ち落とされ、
次には今度は自分達がセイスモのレーザー砲だけでなく、ブロックス軍団のガトリング砲やレールガンなど、
対空砲火の嵐に晒され、戦線を維持することさえ困難な状況であった。
するとセイスモサウルスが突然首と尻尾をピンと伸ばし口を大きく開け、
それから数秒後、その口から一条の光が解き放たれた。
これこそセイスモサウルスの最強兵器“超集束荷電粒子砲「ゼネバス砲」”だ。
デスザウラーの荷電粒子砲ほどの破壊力はないが、収束されたエネルギーはぎりぎりまで減衰する事はなく、
数百メートル先の標的にまで攻撃が届くという代物である。
その光はまるで鞭のように、セイスモの首の動きに合わせて眼の前にある建造物をなぎ払い、
光線を受けた建物はその部分が綺麗にカットされて、失敗しただるま落としのように崩れ落ちていった。
今のセイスモサウルスに立ちはだかることができるものは何１つ、存在し得ない。
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ＰＲＯＪＥＣＴ ＡＰＯＣＡＬＹＰＳＥ
プロジェクト・アポカリプス 黙示計画
★ 第８章 機械獣大進撃 ★
2013年7月22日―世界・異界機械獣紛争其の３
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タイトル――もとい、日付を越えたばかりのロシア中部、ノヴォシビルスク。
近代ロシアの象徴の１つであるこの都市にも、謎のゾイド軍団による破壊の嵐が吹き荒れていた。
中隊ほどの数の巨大象型ゾイド“エレファンダー”が都市部のど真ん中で、
その長い鼻を振り回しながら吠え猛っている。
ここでも現場周辺の建物はゾイドの砲撃により１部が破壊あるいは倒壊しているなど大きな被害が出ており、
陸戦を得意とするロシア軍の反撃によって撃破されたものも僅かながらあるようだが、
それ以上にロシア軍側の損害の方が大きく、包囲しているはずの戦車隊も、
その重量感から想像もつかないスピードで接近してきたエレファンダーの長い鼻にひっくり返されたり、
あるいは全身に装備された砲塔群から来る砲撃力によって粉砕されたりと、とても有利とは言えなかった。
ロシア軍の大口径榴弾砲部隊の攻撃も、エレファンダーの重装甲に阻まれ中々致命傷が与えられず、
攻撃力の差という点でも、戦車５〜１０台でようやくエレファンダー１機分という所で、
ロシア軍にとって状況の打開には更なる援軍を待つ他なかった。
１部の軍幹部は、ゾイドたちを人里離れた平原地帯に誘導し、核ミサイルで殲滅する方法まで考えたが、
「誰がゾイドたちを誘導できるのか」の異論に答えられる戦術家はいなかった。
敵は明らかに都市の破壊を意図している……侵入を許した時点で、核の選択肢は手遅れだったのである。
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オーストラリア南部、メルボルン。
豪州の主要都市であるメルボルンに現れたのは、ウミサソリ型ゾイド“デススティンガー”であった。
地中から突如出現したデススティンガーによってメルボルンの町も大混乱に陥り、
デススティンガーもまた尻尾の砲塔や巨大な鋏を使っては、目の前の建造物を手当たり次第に破壊していく。
時には自ら壊した建物に崩落に巻き込まれてしまっても、まるでダメージを負う事無く、
瓦礫の中からすぐに飛び出しては同じ事を繰り返す。
より巨大な高層ビルに対しては尻尾の高出力荷電粒子砲を下から上に向けて放ち、
まるでハサミで紙を切るかのようにビルを真っ２つにしてしまう……既に街のスカイラインは変わっている。
その後もデススティンガーは、まるで貪欲な虫が餌となる草花を喰らうかのように、
あらゆるものを無差別かつ徹底的に破壊しながら進撃を続ける。
もちろんオーストラリア軍も黙ってはいない……緊急にかき集めた戦車や戦闘機を一斉に差し向けるが、
しかしデススティンガーは怯むどころか、新たな獲物を見つけた事を喜ぶかのような、
耳障りな金切り音を上げながら敵軍に向かって突き進んでいった。
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イギリスの首都ロンドン。
ウェストミンスター宮殿のそばに聳えるビッグベンの時計塔の傍らに、蒼い２足の竜が立っていた。
それはドラゴン型ブロックスゾイド“マトリクスドラゴン”であった。
マトリクスドラゴンはそのまま飛び立つと、低空飛行で建物の間をすり抜けるように飛び回り、
その衝撃波でビルの窓ガラスは弾け、地上のものも竜巻に巻き込まれたかのように吹き飛ばされていく。
間もなく英国空軍の戦闘機が飛来し、マトリクスドラゴンにミサイルを発射した。
すると突然――マトリクスドラゴンが積み木を崩したかのようにバラバラに砕け散ったのである。
標的を見失ったミサイルは明後日の方向へと飛んでいくしかない。
戦闘機のパイロット達は相手が自爆したのかと思ったが、それも束の間の“余興”だった。
砕けたマトリクスドラゴンのパーツは 落下しながら別々に再結合し、
“レオブレイズ”“ウネンラギア”“ナイトワイズ”“モサスレッジ”という４機のゾイドとなって、
無傷のまま、新たな破壊活動を開始したのである。
ブロックスはその名の通り、ユニット化されたパーツが合体変形を行うことが出来るのだ。
レオブレイズとウネンラギアはというと街中を高速で疾駆しながら、
四肢の爪や機関銃で進路上にある車やら屋台やらを乱暴に破壊していき、
モサスレッジは手当たり次第に河に停めてあった船を魚雷や尻尾の鋸で次々と沈め、
ナイトワイズは単機ながらも戦闘機隊を相手にその機動性で彼等を引っ掻き回す……まるで遊ぶように。
世界初の近代化を成し遂げた英国が誇る軍も、こんなトリッキーな敵の奇襲攻撃など、
想定できるはずもなかった……そうしている間に、混乱は収拾不能な方向へと突き進んで行ったのである。
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朝の中国河北省・天津市。
ここでの状況はある意味で「もっと悲惨なもの」であった。
出撃した人民解放軍１個大隊は、たったの１機のゾイドの手により５分足らずで沈黙させられたのだ。
その相手とは背部にドラム缶のような高エネルギー機関がせり出したようなボディを持つ大型ライオン型ゾイド、
“エナジーライガー”であり、このエナジーライガーの瞬間時速600km超もの機動性能の前に、
同地の地上軍の戦力はまるで歯が立たず、瞬く間に壊滅に追いやられたのだ。
時速600kmというのはライガーゼロの３倍……上海リニアよりも速い「地上のジェット機」である。
地上軍がこの「脚の生えたリニアモーターカー」に太刀打ちできるはずがない……中国以外でも同じだ。
エナジーライガーの破壊活動と戦闘の余波で既に周辺にも大きな被害が出ており、
都市のあちらこちらか黒い煙と赤い炎が吹き出し、空を汚している。
地上軍だけでなく、航空部隊も良いところを見せられていなかった。
中国軍にも超音速戦闘機はあるが、ターゲットは地上を縦横無尽に駆け回っているのだ。
かつて遭遇したことのない「走るジェット機」をどうやったら仕留めることが出来るというのか。
しかもこれだけのスピードで走っていると、跳躍もライガーゼロの数倍に及ぶ理屈で、
低空飛行していた戦闘機の何機かは何と、ジャンプしたエナジーライガーの餌食となって撃墜されたのだ。
またエナジーライガーには滑空用の翼もある……手が付けられないとはまさにこのことである。
目ぼしい標的を悉く破壊せしめたエナジーライガーは、その視線を北京方向に定めつつあった。
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再び日本。
先刻政府が発表した防衛出動決定に従って、海上防衛隊の駆逐艦や巡洋艦が戦闘準備を整えつつあった。
真っ先に港を出たのは横須賀の艦隊である……ただし今回、標的は東京湾岸で暴れているのだが。
日本防衛のための兵器を本土、それも首都の方に向けねばならないとは皮肉だ。
既に艦載ヘリが先行し、対艦ミサイル照準用のレーザーを、湾岸のゾイドたちに照射している。
「ＳＳＭ用意、目標・新宿および江戸川区の機械獣」
「全艦、ミサイル発射準備完了！」
「よし、撃――」
「！！ 本艦に急速に接近してくる物体を多数確認！ 速度約60ノット！！」
「なにっ？ 魚雷か！？」
「いえこれは……」
いざ艦隊が攻撃に入ろうとした瞬間、艦のソナーに急接近してくる30機ほどの機影が確認された。
魚雷かと思われたが、機影のサイズは魚雷よりも大きい。
「アスロック準備！！ ……てえ！！」
今度は対潜用のミサイルが次々と艦から放たれると海中に潜り、そのまま機影団に向けて突き進む。
アスロックと敵機の距離が次第に詰められ、遂に着弾……したかと思いきや、
アスロックは爆発する事無く、あろう事か標的をすり抜けてしまった。
……いや厳密に言えば「すり抜けた」のではなく、「躱された」のである。
その直後に海面からエイ型ゾイド“シンカー”が飛び出した。
「て……敵だと！？」
シンカーはトビウオのように海中と海上を交互に渡りながら、猛スピードで艦隊に突っ込んできた。
艦隊も迎撃態勢を取ろうとしたが、シンカーの方が攻撃を開始し、両翼の魚雷を艦隊に向けて発射した。
「回避行動！！」
「速い――間に合いません！！」
艦隊のうちの幾つかの艦に魚雷が命中、凄まじい水柱が上がる。
「◯◯、△△および××被弾！！」
「くっ、戦闘、航行に問題は！」
一方のシンカー達はそれでもなお、残った艦隊に向かって突っ込んでくる。
しかし、艦隊側も手をこまねいているワケではない。
「各艦、対怪獣用広域爆雷装填完了！」
「よし、アスロック２射目発射！」
再びアスロックが解き放たれる。
今度もアスロックはシンカーの群れに迫るが、ほぼ直線的な動きしかできないアスロックでは、
文字通り魚のように泳ぎまわるシンカーを捕える事はできない。
しかし彼等には、“対怪獣海戦”で培った彼等なりの戦法というものがある。
「今だ！ 全基を手動で爆破！」
アスロックは標的の群れに最接近した所で全て手動で爆破され、大きな水しぶきがあちこちに上がる。
もともとこれは爆破の際の水中で生まれる衝撃で、海を泳ぐ怪獣の目をくらませたり、
あるいはダメージを与えるというものだが、どうやらある程度は効いたようで、
ソナーディスプレイに写っていた機影の内の幾つかが、爆発と共にロストしたのを確認した。
が、シンカーの破片が交じる水の壁から、まだ数多く生き残ったシンカーが次々と飛び出してきた。
しかも今度は潜航と跳躍の繰り返しではない、海鳥の如く海面ぎりぎりの高度を滑空してくる。
「何！？ あれは空も飛べるのか！？ 対空戦闘用意！ ＣＩＷＳ起動、対空ミサイル用意！！」
各艦から今度は機関銃や艦載砲、メーサーガンの嵐がシンカーに浴びせられる。
だがあるものは再び水に潜り、あるものは高度を上げてそれを躱し、ビーム砲で艦隊に攻撃を加えていく。
その光景はさながらかつての太平洋戦争の海戦のようで、海面には小さな水しぶきが、
空では黒い爆発が花火のように広がっていく――東京湾のど真ん中で。
対空ミサイルを撃てば海に潜られて躱され、逆に魚雷を放っても空に逃げられては意味が無く、
そして半生物ならでは機動性能と見た目以上の頑強さを持つシンカーに艦隊は翻弄されっぱなしだ。
すでに何機かの撃墜には成功しているが、次第に数で勝るシンカーに押されて行き、
また１隻の巡洋艦がビーム砲の猛爆を浴びて浸水、低速になりながら戦場を離脱していく。
水深の浅い東京湾では沈没こそないが、最初に魚雷を食らった駆逐艦は座礁したようになっていた。
陸戦支援の切り札となるはずだった海上防衛隊であったが、
こうなってはもはや支援どころではなく、目の前の脅威に手一杯になってしまった。
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防衛特調が“戦争事態”を確信し総司令部と合流した頃――江戸川区の現場にて。
煙を噴いた最後の戦闘機が、東京湾に墜落していく光景を眺めながら、イズキは溜息を吐いた。
「……あ〜あ、やられちゃったよ。これじゃまだまだ出られそうにないな……」
この状況でもイズキのライガーゼロは伏せたまま動かない。
イズキ自身は事態が落ち着いたら、さっさとトンズラしようという魂胆だったのだが……
「そんな焦るなよ。今の俺達じゃ逃げる事も出来ねえんだぞ」
尤も一方のライガーゼロは、動きたくてしょうがない様子だ。
操縦レバーからも、そんなゾイドの苛ついた感情がイズキの中にピリピリと流れ込んで来る。
こんな窮屈な姿勢でいるのもあるが、何より殺気むき出しで近くをうろうろする、
デスザウラーやザバットの群れに過敏に反応しているのだ。
しかし、今のライガーゼロは通常装甲すら無い素体状態――言うなれば“丸腰”。
しかも相手は今だ、惑星Ｚｉ最強クラスのゾイドと言われている、あのデスザウラーだ。
文字通りティラノサウルスとライオンの力関係であり、まともに張り合って到底勝てる相手ではない。
そんなデスザウラーだったが、ふと――数百ｍほど先にある建造物に首を向ける。
それは海を望む場所にそびえ立っている、現在安室姉弟が乗っているあの大観覧車であった。
デスザウラーはそんな大観覧車を新たな破壊対象に定めたのか、ゆっくり方向を変えて海の方へ進んでいく。
大観覧車は停止している……先刻のザバットと航空隊の空中戦の際に、流れ弾を受けて故障したらしい。
誤爆を恐れて弾数を絞った戦闘機部隊ではなく、間違いなくザバットのレーザーの所為だろう。
その黒い爆撃者は、今もなお上空から光の雨を降らせ続けている……まさに空襲のように。
「デスザウラーのヤツ、今度はあそこを狙う気か？ ――ん……待てよ！？」
ふとイズキがメインウィンドウに映る観覧車をよく見ると、停止したゴンドラの中に動くものが見える。
何かと思ってモニターをズームアップして、初めてイズキはそれが“人”であることが分かった。
唯や零児だけではない……逃げたくても逃げられない、何十人もの客が閉じ込められているのだ。
「ちょ……ちょっと姉ちゃん、あいつこっちに来たよ？」
「そ……そんな事言ったって……この観覧車動かないのよ！」
デスザウラーは観覧車と自身の間にある首都高湾岸線の高架に、脚の鋭いクローを引っ掛ける。
そのまま――蹴破るように橋桁を捻じ曲げ、斜め前方に押し出す。
高架上に敷かれた路面のアスファルトがバリバリと砕け飛び、真昼の空に激しい火花が散った。
問答無用の進撃を続ける破壊者を止めようとするものはいない――今のところは。
「……だあぁあぁぁ、もぉ！！ 行くぞライガーゼロ！！」
イズキは一気にライガーゼロの操縦桿を倒し、機体を発進させる。
逃げられない人々が、クモの巣にかかった蝶のように餌食になるのはさすがに見たくないからだ。
ライガーゼロは自分にかかっていたブルーシートを振り払うと、
凄まじい瞬発力で飛び出し、そのまま軽々と湾岸線を飛び越えて葛西臨海公園内に突入、
そして瞬く間にデスザウラーの前に立ちはだかった――衝撃で公園のタイルの破片が空中に巻き上げられる。
「――あっ、姉ちゃん！！ あれさっき見た奴だよ！！」
「ええっ！ あれまで動き出したの！？ もういい加減にしてよ！！」
デスザウラーは突如現れたライガーゼロを前に歩みを止める。
一方のライガーゼロも、そんなデスザウラーを威嚇するように低い唸り声を上げている。
とは言え、先にも書いたように、今のライガーゼロでデスザウラーと闘うのは相当に危険だ。
さらにイズキ達が今日まで経験してきた“競技としてのバトル”ではなく、
今回は完全に“命を賭けた戦争”さながらのバトルになるだろう。
ライガーゼロはおろか、それに乗る自分の命すら危険なこの状況、操縦桿を握るイズキの手に汗が浮き出る。
遊びで済まないことは分かっている、けれど傍観するのはイズキの性分ではないのだ。
目の前で死人が出るような状況を黙って眺めているような性分なら、ゾイド乗りにはならなかっただろう。
自ら厄介ごとに絡むのはごめんだし、どちらかと言えば軽い性格だが、冷血漢ではないのだ。
そしてライガーゼロ自身も恐らくは――パートナーのその性格をよく分かっていた。
見た目こそロボットだが、ゾイドは自意識を持った生命体であり、パートナーとの相性も大切な要素である。
だからイズキと共に闘って来れたし、今また新たな戦線に立ち向かおうとしているのである。
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上野公園北部・寛永寺。
冬雪と夏月はこの寺院を囲む通りをただただ、無我夢中で走っている。
そしてオスプレイから変形したディスヴェリオンの大型工作員レイラックは、
街路樹や電線を巨大なローター・カッターで切り裂きながら、遊ぶかのように２人を追い回していた。
「はっ！！ 追いかけっこはそんなに楽しいか！？ えぇ！？」
「はぁはぁ……まだ追ってくるよぉ……」
「……こ、これじゃ変身もできない」
やがて２人はさらに門を曲がり、山手線と常盤線が見える道へと飛び出す。
と同時にその道の遥か先に、確かに見覚えのある顔ぶれが２人の視界に入った。
そしてそれは向こうも同じであった。
「あっ……あれは！？」
「冬雪ちゃん！！ 夏月ちゃんですか！？」
「碓氷！ 無事だったか――」
その道は丁度上野駅からまっすぐ通じる道であり、春花達と冬雪達はようやく再会する事が出来た。
しかしそれは春花達もまた、冬雪達を追い立てるレイラックともかち合ってしまう事を意味する。
２人はいきなり視界に飛び込んできた巨大ロボットに思わず足を止める。
「おいおい、何だよありゃあ！！」
「今度は動物型じゃなくて人型ですか、もう意味不明ですっ！」
「みんな！！ 逃げて！！ 早く！！」
ただただ唖然とする２人に向かって、夏月が逃げるように叫ぶ。
だが、レイラックはさらに増えた獲物に対してニヤリと笑うように目を細めると、
腕のローターを変形させ、ブラスターキャノンを展開させた。
「はっ……あぶ――」
それに気づいた秋綺であったが時既に遅く、直後レイラックのブラスターが火を噴く。
轟音と共に火柱が立ち上り、路面が粉々に砕け、その破片と土煙が爆風と共に拡散していく。
「「――うわぁっ！！？ ……あれ？」」
さすがに死を覚悟した少女たちだったが――間もなく、自分たちが無傷であることを知った。
そしてその時、少女たちを仕留めたと思っていたレイラックのセンサーに、新たな反応が現れる。
「………………ん？ 何だ、この反応は――」
薄れていく土煙の中で、レイラックに向かって手をかざす青い髪の女性――ライカが立っていた。
既に“神族形態”を発動しており、黄色い肌の顔の横には長い耳が伸びている。
「ほんっと、遠慮も礼儀もないのねアンタ……」
「なっ……俺のブラスターを、止めたっていうのか、この女はぁ――！？」
「ら……ライカ、さん？」
「あなたたちは先に駅の方に行ってなさい、あたしはこのバカを黙らせてから行くから」
「えぇっ……で、でもコイツ、メチャクチャですよ！？」
「そうみたいねぇ……でも心配しないで」
にこり、と笑うライカ――間もなく、オートバイのエンジン音が響き渡った。
通りの向こうから赤いバイクが走ってきたかと思うと――目の前でいきなり“変形”を始めた。
そう――オーディアンの偵察員、アリシェイルである。
オートバイに擬態しているため身長は２ｍ余りしかないが、機動性の高さで勝負するタイプだ。
「ちぃっ――オーディアンか！」
「アリシェイル、ここは良いわ、この子達を誘導して駅に向かって！」
「分かった……みんな、私は味方よ、付いてきて！」
「クソが……逃がすと思うｋ――」
レイラックがそこまで言った次の瞬間――がつん、という大きな衝撃を足元に受ける。
もんどりうって背中から倒れ込むレイラック……巻き込まれた寛永寺の外塀がガラガラと崩れ落ちる。
そしてピンク色のスポーツカーが、その足元を派手なドリフト走行で駆け抜けていく。
更にその直後、このスポーツカーもまた身長４ｍほどのスレンダーなロボットに変形したのである。
「うわっ……つ、次々に！？」
「ファルレーン、ナイスタイミング！」
「ヒュー、あんたよく間に合ったわね……交通ルール守ってきたの？」
「そんなこと言っていられる状況じゃないですから！」
「……分かるけど、さっぱりしてるわねぇいつもながらｗ」
立ち上がるレイラックの前に、ライカとファルレーンが立ち塞がる形になった。
「舐めんな……小娘２人如きで、止められるレイラック様じゃねぇぞ！！」
「それはこっちのセリフだけどね……あんたのレベルじゃまぁ、理解できないでしょうね」
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突如出現したデスザウラーと、巻き込まれたライガーゼロが対峙する葛西公園。
防衛隊を蹴散らしたデスザウラーの猛攻を横目に息を潜めていたイズキとライガーゼロだったが、
葛西公園の大観覧車に閉じ込められた観光客を守るため、決死の覚悟で参戦したのである。
最初に仕掛けたのはデスザウラーだった。
頭部と腹部に仕込まれたビーム砲が閃光を放ち、ライガーゼロを射程に捉えるが、
ライガーゼロもこれを、まさに獣のような動きで回避する。
ライガーゼロはその勢いのままデスザウラーの脇を抜けるように駆け出し、
デスザウラーはそんなライガーゼロを追おうと方向を変え、ゼロを視界に入れる度に攻撃を繰り返す。
一方、ライガーゼロは機関銃の如く放たれるビームと次々と上がる爆発の嵐を掻い潜り、
公園内の木々や街灯もなぎ倒しながら、デスザウラーの猛攻の中を走り抜ける。
デスザウラーは今や完全にライガーゼロを標的と見定めたのか、観覧車からは視線を背け、
ライガーゼロを追うようにしてゆっくりと歩き出した。
「あの白いの、僕らを守ってくれてるみたいだよ？」
「どう見ても……アトラクションじゃないわよね？」
「さっき軍人みたいな人がいたし……軍の新兵器なのかな？ 凄ぇ凄ぇ」
目の前で繰り広げられる機械獣同士の激しい戦闘を、いつしか零児は窓にかじりつくようにして見ている。
本来ならそれどころではない、命も危険な状況だったはずだが……
（やっぱこっちに食いつきやがった。けどどうする？ 今のライガーゼロじゃとてもあいつにゃ敵わねえぞ）
今のライガーゼロには、顎の牙“レーザーファング”と、四肢の爪“レーザークロー”しか武器はない。
一応背面にレーザーガンが付いているが、窃盗犯などへの威嚇用でまるで使い物にならない。
これだけの装備でデスザウラーの重装甲にどこまで太刀打ちできるかはわからず、
しかも装甲すらほとんど無いこの状態では、一発でも攻撃を食らえばそれだけで致命傷になりかねない。
今できる最大限の事といえば……とにかく逃げまくる事、
治安局かあるいは軍がもう一度援軍を寄越して来るまで、少なくともアイツの気を引かねばならない。
戦闘以外でデスザウラーの気を止めておくため、次にイズキが取った行動は――
「おい！ デスザウラーのパイロット！！ お前こんな事していいと思っているのか！？
こういうゾイドを使ってのテロ行為は重罪なんだぞ！！」
取り合えず――イズキたちが普通に使用している、共通通信回線を開いての交渉だった。
「今なら……いやもう遅いかもだけど間に合う！！ 今すぐこんな無益な戦いはやめようぜ！！ なっ？」
だが――デスザウラーは全く応じない。
それもそのはず……本来パイロットが乗っているはずのデスザウラーのコクピットは空。
つまりこの伝説のゾイドは今、無人で暴れ回っているのだ。
そうとは知らずイズキはと言うと、テンプレ的な謳い文句で語りかけ続けていたのだが……
動きを止めたライガーゼロに対し、デスザウラーは背部のファンから空気中のエネルギーを吸収し始め、
先ほど轟鯨１号機を撃墜した、あの大口径荷電粒子砲の発射準備に入った。
「故郷の両親だって悲しんで…… あれ？」
演説ぶって一方的に話していたイズキが気がついた時には、既にデスザウラーは発射体勢を整えていた。
口腔内で煌く死の閃光が、ライガーゼロをロックオンする。
「――おわあああぁぁぁっ！！？」
ライガーゼロはそれをすんでの所で躱した――大気ごと抉るような熱線が、すぐ横をかすめて行く。
装甲がほとんど無い分、瞬発力と反応性を最大限まで発揮できるのが救いとなった。
それでも高熱の奔流がライガーゼロの外装を溶かし、白い煙が湧いている。
公園緑地の端から防波堤にかけ、荷電粒子砲が抉った跡が、赤熱する楕円形のクレーターと化している。
熱線がかすった樹木には火がつき、吹き飛ばされた街灯の残骸がぐにゃりと融け崩れていた。
「くっそ、人の話聞く気ねえってのかよ……」
マグマが海に到達したかのような白煙を上げるテトラポットを横目に、イズキは額の冷や汗をぬぐった。
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その頃、東京都日野市金芽台・グリーンベルト公園の１角。
「はぁはぁはぁ……」
「ゼェゼェゼェ……」
２人の小学生、中嶋カズヤと難波哲朗は超々窮地に立たされていた。
２人は今、公園にある公衆トイレの中の１番奥の男性用個室で、息を潜めて隠れている。
夏場の公衆トイレは臭いがきついが、そんなことを言っていられる状況ではない。
「……もう行ったか？」
「さ……さぁ」
「ちょい見てきいや」
「い……嫌だよ！ 何で僕が！？ だったら難波が見に行けばいいだろ！？」
「何言うとんねん！ 将来総理大臣になるワイに何かあったらどうするんや！！」
「どういう理屈だよそれ！！ とにかく嫌なものは嫌だ！！」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜っ ……金田の野郎１人だけ逃げおってかんに〜 ホンマ教師失格やわ……」
何故２人がこんな状況に置かれているのか。
そして何に追われているのか――時間はほんの少し遡る。
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30分ほど前のことである。
２人は市立金芽台小学校の動物小屋で、ウサギやニワトリを飼う小屋の掃除を行っていた。
毎年夏休みに児童が率先して行う作業であり、この日は２人がこの担当だったのだ。
愚痴りながら作業するカズヤに、脳内高校教師“一也”が小言を挟む。
「うあ〜、疲れた〜 ってゆーか何でこんな時に動物小屋の掃除なんて……」
（何言ってるんだ。しっかりやれよ、動物だって生きているんだ。
どんな状況だろうときちんと世話するのが、それを飼う人間の義務というものだろうが）
「え〜……だったらしたい人がすればいいのに……くそ〜なんで今年に限ってうちのクラスなんだよ〜」
「なぁカズヤ……お前最近独り言増えてへんか？」
「あ……いや御免」
「おらおら、無駄口叩いてないでさっさと済まさんか！！」
「「は〜い……（だったら手伝えやコノヤロウ）」」
２人が金田の叱責に愚痴りながらも清掃を進めていると、
今まで小屋の隅でおとなしくしていたウサギやニワトリ達が突然騒ぎ始めた。
ウサギは小屋中をせわしなく走りだし、ニワトリの方はばさばさと羽を広げながら喚き出す。
「ちょ……ちょ、何？ 何なの！？」
「な、何や、大人しくしいや！！ もうすぐ終わりやっちゅーんに！！」
「お……おい、どうした！？」
２人と金田が何事かと慌てていると、
今まで晴れていた空が俄に曇りだし、空の色自体が微妙に変色し始めたのだ。
――そしてこの“異変”はジーラ達のいるサイトＧでも即座に観測された。
管理人室に置かれた“銀河社会製”のコンピュータから警報が鳴り響き、
この時施設に居た全員が、警報音を聞いてそのコンピュータの前に集まって来た。
ジーラら竜王メンバーだけでなく、管理人を勤めるパドルや、加賀たち艦娘組、茜ら陸自娘組もいる。
「……また妙な事件が起きたようだな」
「ふ〜〜〜ん、このアンノウンってやつ？」
「気が休まる暇がないですね……ほぼ毎日、警報鳴ってません？」
「せっかく平和だと思ってたのに……」
空間異常を示す警報はすぐに収まり、部屋をしばしの静寂が包む。
その時、立川基地司令部とつながる通信傍受システムに、信じられない連絡が飛び込んできた。
『こ、こちら○○！！ ××区に正体不明の機械獣が出現！！』
『△△！ 正体不明の敵の攻撃を受けている！！ 直ちに支援を要請する！！』
「何だって機械獣？ 一昨日確かあったよな……またなんか出て暴れてんのかよ！？
……ってパドルさん？ 偉くガチな顔ッスけど」
呆れたような表情で突っ込むジーラの横で、パドルの表情が見る見るうちに険しくなっていく。
見つめるディスプレイには、“アンノウン（正体不明）”の文字列が急激に増えていった。
「……えっちょっ、どうなってるんだコレ？」
「おいおい、こいつはマズいんじゃないのか！？」
「首都圏一帯じゃないですか……これまでとは違いますよね！？」
「確か今朝、冬雪君たちが上野観光に行きましたよね……これ巻き込まれてるんじゃ！？」
はい、巻き込まれておりますorz
動揺する面々の中で、パドルが慌しそうに席を立ち上がった。
「ちょっと基地に行ってくる……ここは任せても良いか？」
「えっ！？ あ、あぁ、大丈夫だと思います」
「済まんな……もし大事になりそうなら建物の中にいるんだ、ここは簡単には落ちない」
そう言うと、パドルは早足で管理人室を出ていった。
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そして――こちらは国連太平洋軍の石巻軍港。
軍港の司令部で、緊急臨時ニュースをかじりつくように見るのは豊田と有賀、そして金剛姉妹である。
東京を突然襲った正体不明の機械獣――ゾイドによる同時多発襲撃テロ。
液晶テレビの画面の向こうで、黒煙を上げる首都と、コウモリのように乱舞するザバットの影が見える。
「……なんだありゃ、ラドンにも似てるが……こんな大群で……」
「金剛君、キミが先日指摘した“深海棲艦”の偵察ドローンの話と似てはいないかね？」
豊田の言葉に、しかし金剛は戸惑うような表情でかぶりを振った。
金剛は自分たちの“宿敵”である深海棲艦の脅威について、先日豊田に進言していたのだ。
「違うと思いマス……ヲ級の偵察機は手に乗るサイズなのデ、こんなに大きくは……」
「ラドンにしては小さいですしねぇ……しかも良く見えないが、ロボットのようにも見える」
「あぁ、東京の街が……加賀さんたちは無事でしょうか？」
映像を見ながら、榛名が不安そうな表情で呟いた――その直後であった。
『報告します、仙台湾に正体不明の船影を複数確認しました！』
緊迫した女性の声が無線機から響いてきた――恐らくは解析班主任の高宮だろう。
司令部の緊張が一気に臨戦態勢まで引き上げられる。
「なんだって……いきなり仙台湾か！？ 外洋の索敵情報は入ってきていないぞ！」
『私達も困惑しています……ですが、突然レーダーとソナーに反応が出たので……』
「もしかシテ……深海棲艦カモ！？」
「どういうことだね？」
「あ、えぇと、深海棲艦は人工的に生成した“渦潮”で、突然固有海域に出現するパターンがあるんです。
なので艦隊の移動を読みづらく、初期に制海権を奪われた原因の１つになったんですよ」
榛名がフォローする……やや気が小さいところがあるが、彼女も“戦艦娘”の１人なのだ。
『先ほどレーダー基地に収納しているヴェルトロを発進させました、間もなく映像が入るかと思います！』
高宮が海岸付近のレーダー基地に収納していた、無人偵察機ヴェルトロを発進させたと語った。
小型で航続距離の長いヴェルトロは、こうして観測基地に収納して使うことも多いのだ。
そして間もなく――石巻軍港司令部の作戦司令用モニタに、ヴェルトロが撮影した映像が入ってきた。
「何だありゃ……まるでサメみたいだ」
映像に映っていたのは、10数機ほどのシュモクザメやシーラカンスを思わせる“半潜水艇”だった。
金剛や榛名も、驚いた表情を浮かべる。
「Ｗｈａｔ！？」
「何でしょうあれ……深海棲艦じゃないです！」
その正体が海戦仕様ゾイド、“ハンマーヘッド”と“ウォディック”であることを、まだ彼らは知り得ない。
そしてその直後――ハンマーヘッドから閃光が走ったかと思うと、ヴェルトロの映像が消えた。
『ヴェルトロ、ロストしました……司令部、これはまさか……』
「攻撃を受けたように見えましたね……もしも撃墜されたのだとすれば」
「東京で起きている事態と、もしかしたら同じ勢力の攻撃かも知れんな……隊員を戦闘配置に付かせろ。
既に防衛出動は決まっている、後は出来ることをやるだけだ、そうだろう諸君？」
司令官の“出動命令”に、司令部にいる全員の表情が引き締まったのは言うまでもない。
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再び寛永寺近くの“戦場”。
アリシェイルの護衛で上野駅に向かう冬雪たちの前に、ライカとファルレーンが立っている。
向き合うのはさっきまで冬雪たちを追っていた、ディスヴェリオンの工作員レイラック。
「せっかくの楽しみをふいにしてくれた礼……貴様らの命で償わせてやるぜ！」
「最悪の性格ねコイツ……ねぇファルレーン、前からこんなキャラ？」
「そうですねライカ捜査官、レイラックは俗に言う“ドＳ”で有名なんですよ」
「ぐちぐち言ってんじゃねぇ、もう１度これを食らいやがれ！」
そう言い放ち、レイラックは再度ブラスターキャノンの砲口を向ける。
２人が身構えた次の瞬間、レイラックは突然大きく腕を振り、駅の方に向かってブラスターを撃った！
「あっ……この卑怯者！！」
「なぁーーーんちゃってぇ、俺様が２度も同じことをすると思ったかヴォケ！
貴様らが守ろうとしたちっぽけな命、今度こそ木端微塵――デヘボグファッ！？」
嘲笑うように言ったレイラックだが――言い切る前に前のめりにつんのめって倒れ込んだ。
冬雪たちが向かっている上野駅に向かって撃ったはずの、ブラスターの火球に“直撃”されたのである。
人間たちを甚振るレベルの出力であったことが幸いし、大破は免れたようだが。
「うぐぐ……畜生、どうなってやがるっ！？」
「残念だったわねぇ、武器に嫌われたみたいよアンタ？」
「……もしかして今の、ライカ捜査官が？」
「あ、やっぱりバレた？」
テヘペロ、と舌を出すライカ……何と彼女は、レイラックが撃ったブラスターの軌道を捻じ曲げたのである。
これもまた、神族と形容される、彼女の種族が持っている能力の応用だ。
出力次第では防ぎ切れなかった可能性があるが、低出力なら問題はなかった。
「あたしも――アトラス連合広域捜査官のスキルを舐めてもらいたくはないからね」
そう言って、ライカはマルチセイバーを起動した……ジャガン戦でも見せたあの半円形の武器だ。
「レイラック、あんたはもう終わりだわ、私たちオーディアンを動かし、ライカ捜査官にも追い詰められた！」
「……ふん、勘違いするな小娘共めが、俺様は無計画に動いてるわけじゃねぇぜ！
――ヴォイスバクター、増援をこの座標に寄越せ！」
レイラックはそう言って、空に向かって叫んだ。
その直後――新たな“空間の歪み”を、ライカは察知した。
「今度は何をするつもり……？」
するとついさっき公園の上空で春花たちが見た“足の生えた飛行機”が、今度はライカたちの頭上を通過した。
しかも今度は１機だけではなく、十数機もの編隊だったのである。
さらにその“飛行機”群は全機、下に何か“大きなもの”をぶら下げており、
それを彼女達のちょうど真上に来ると同時にパージしはじめる。
直後にひび割れた道路上に、たくさんの新たな機械仕掛けの怪物達が、次々と舞い降りた。
それは全高７ｍほどのカマキリ型ゾイド“ディマンティス”の群れであった。
その数約10機と少しだろうか。
ライカが感じた空間の歪みは、このゾイドを新たに“ピンポイント転送”した時のものらしい。
「……そう言えば増援って言ってたわね、ついさっき」
「分が悪いと思ったらすぐに援軍に頼るのね？」
「黙れ小娘共め、これが戦術というやつだ、遊びは終わりだと思え！」
レイラックが吠えると同時に、数機のディマンティスがライカとファルレーンに向かってきた。
両腕に人の身長よりも長い鎌を装備し、胴体にはバルカン砲が搭載されている。
「さて、どうしますライカ捜査官……こいつらどうも、遠隔操作で動いてるようですよ」
「そうねぇ……取り合えず黙らせるしかないんじゃない？」
「……ですよね」
溜息をつくような素振りを見せながら――ファルレーンも腕に仕込んだタキオンニードルガンを展開する。
そのリアクションとほぼ同時に、ディマンティスが大口径のバルカン砲を撃ち始めた。
しかしその弾丸はライカの目の前で、次々に急制動をかけて停止する。
「念動か……どうやらてめぇもサイキックらしいな？」
「サイキックらしいなって、今頃気付いたの？ 反転したブラスター食らってるくせに鈍いわねぇ」
「ぐっ……い、いちいちうるせぇんだよ！！ 俺もまだ戦えるんだぜ！」
「当然じゃない、そのぐらい――」
機械的な歯軋りのような音を立てて、横から飛び掛ってきたレイラックに、ライカは大きく腕を振った。
と同時に、ライカの目の前で静止していた数百発の弾丸が、散弾のようにレイラックを襲う。
実際の射撃ほどの速度は出ていないが、レイラックの足を止めるには十分だった。
関節の隙間に弾丸が入り込みでもすれば、活動に支障が出てしまう……オートロンは繊細なのだ。
「ぬぉっ……セコイ手を使いやがって！」
「資源はちゃんとリサイクルしなきゃダメでしょ、これが戦術って言うのよ」
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再び、東京の白金台。
いきなりの警報にアッシュとセイナも困惑していた。
さらに何処からとも無く“第１種緊急警戒警報”なるものが発令されたというアナウンスが走り、
この地区指定のシェルターへと待避するよう呼びかけられ始めた。
すると路上を歩いていた人達ははっと動きを止め、一斉に決められた方角に逃げ出した始めたではないか。
「な……何だ？ 何が起こったんだ？」
「さ……さぁ？」
「おい、あんたら！！ ぼさっとしてないで早く逃げた方がいいぞ」
すると１人の作業員らしき男性が、２人にも避難するよう呼びかけてきた。
アッシュの方も一体何事かとその人に問いかける。
「あのっ、一体何が起こったのですか！？」
「怪獣だよ怪獣！ “第１種緊急警戒態勢”が発令されたって事は近くに怪獣が出たって事だよ！！」
「か……かいじゅう？ なんですかそれ――」
そこにズシンという鈍い音と振動が当たりに響き渡り、
２人が音がした方へ目を向けると、ビルとビルの間から何かの頭らしきものが覗くのが見えた。
その直後、そのビルを力任せに突き崩してその“何か”が現れる。
そしてそれは、２人にとって“見覚えのあるもの”だった。
「ゴジュラス！？ やはりこの国にもゾイドが居たのか！？」
そこにいたのはゾイドの中でも最も有名な機種の１つである、肉食恐竜型巨大ゾイド“ゴジュラス”だった。
今までこの街では小型ゾイドの気配すら感じなかったのに、
ここに来て何の前触れもなく、このゴジュラスが目の前に現れたのだ。
ゴジュラスが現れた途端、市道を走っていた車達は次々と急停車し、その弾みで玉突き事故があちこちで発生、
そのドライバー達も悲鳴や絶叫を上げながら車を乗り捨てて一目散に逃げ出して行く。
一方のゴジュラスも崩れたビルの残骸をかき分けながら市道に出たかと思いきや、
突如腹部にあるマシンガンを乱射し、目の前にある道路、車、建物を無差別に破壊しはじめた。
「うわあっ！！ な、何だ！？ 暴走しているのか！？」
ゾイドは半機半生の生体兵器であり、もし無人でも何らかの理由でコアだけが起動した場合は、
そのゾイドが勝手に動き出す事も稀にある……原始的だが、彼らにも意思があるからだ。
さらに火器管制を司るコンバットシステムにロックが掛かってなければ、
ゾイドの方が装備された武器を何かの弾みで使用してしまうという事も理屈の上ではあり得る。
だが――このゴジュラスはただの暴走ではなく“意図して”建造物を攻撃しているのは一目瞭然であった。
「まさか……ゾイドを使ったテロか！？」
「隊長！ 上を！！」
セイナに促されてアッシュが空を見上げると、
そこには黒いコウモリ型ゾイドの“ザバット”の編隊が飛んでいるのが見えた。
一瞬治安局の鎮圧部隊かと思いきや、次の瞬間にはザバット達もレーザー砲と投下爆弾で、
ゴジュラスと同じように街を無差別に破壊し始めたのである。
路傍には爆発の衝撃でひっくり返った車や根本から折られた電柱と地に落ちた電線、
そして割れたガラスやコンクリート片も散乱し、一部の建物では既に火災も発生し黒煙を噴いている。
「……どういう事だ！？ なぜあんなにゾイドが……」
「と、とにかくここから離れましょう！！」
２人は暴れ狂うゴジュラスから離れようと奴の反対方向へ走り出す。
すると間もなく、この国の治安維持組織のものと思しき戦闘機の編隊と装甲車の部隊が現れ、
悠然と進撃するゴジュラスの前に次々と立ちはだかった。
しかし、これに最も驚いたのはアッシュ達だった。
ただの飛行機と装甲車でゾイドに挑もうなど、彼らにしてみればとても効果的とは思えなかったからだ。
ゾイドを知る彼らの“常識”では、ゾイド戦には同じゾイドを使うのが当たり前である。
案の定――装甲車は機関砲で応戦するも、ゴジュラスの巨体にほとんど無力に翻弄されていた。
戦闘機群は上空からミサイルを放つも、余り効果があるようには見えない。
葛西公園で暴れているデスザウラーほどではないが、ゴジュラスも撃たれ強さには定評があるのだ。
「一体この国の軍は何をやっているんだ？ ゾイドにあんな兵器の攻撃が通用すると思っているのか？」
「まさか……この国にはゾイドが配備されていないなんて事は……」
まだここが惑星Ｚｉではないと知らない２人には、
これだけの大都市に防衛用のゾイドが存在しないという事が信じられず、
“格下の敵”をあっさりと蹴散らして去っていくゴジュラス達を見送る事しか出来なかった。
「……取り合えず、一度私達も自分のゾイドの所へ戻ろう。どっちにしろここに居てもしょうがない」
こうしてアッシュとセイナは、自分達のゾイドが隠してある林に向かった……。
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| （８章４話） |
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【Meking Memo／設定補記】
2011〜2012年頃に飛石武氏が投稿したエピソードを監修・再編したもの。
ただし旧ＯＷ企画とは登場人物に変更があるため、ＰＡシリーズでは細部のプロットに修正を加えている。
特に大きく修正したのは上野公園のパートであり、旧企画のキャラクターの１部が“白紙化”されたことで、
関係者の枠（戦力）が空いたため、ライカをはめ込み、オートロンのアリシェイルやファルレーンも加えている。
更にＰＡシリーズに入ってから“参戦”した版権キャラクター群の１つ、艦娘たちを物語に加えている。
金芽台のサイトＧに厄介になっている加賀たちではなく、石巻軍港に滞在している金剛たちの方が今回は主役だ。
艦これキャラの参加が決まってから、“艦娘ＶＳゾイド”もやってみたかったカードだったのである（笑） |
