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★Active Solid Girls 統合ナンバー：EA-ATT18501NA（NA-E111） |
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朝陽市が“変質”してから、４日目の朝を迎えた。
朝陽中央駅前には警察車両が集結し、物々しい空気に包まれている。
低気圧が近づいているのか、空はどんよりと曇り、見ようによっては不吉にも見える。
今日は９月１日……本当なら今日から２学期が始まるのだが、市内は全て休校している。
４日前に起きた“石化異変”が引き起こした孤立が、まだ解消されていないからだ。
学校はその代わりに、被災者達を収容する避難所となっている。
今日はその孤立を解消するための、大規模な作戦を開始する大事な日となる。
駅前にある“前線司令部”の総指揮を取るのは、機動隊長の前畑だ。
因みに朝陽中央駅は現在使われていない……街が孤立して以来、電車も運休状態である。
「お早う御座います、パドル殿」
「お早う御座います、準備は大丈夫ですか？」
“宇宙人”の支援者、パドルとライカも駅前ロータリーに到着していた。
２人は昨日までずっと、ここから１ｋｍ南にある朝陽中央公園で“復旧作業”をしていた。
“石化異変”に巻き込まれた市民を、ひたすら復元し続けていたのである。
その数６００名以上……ただしこれは現時点で判明した石化被害者の数に過ぎず、
警察の捜索が１００％終わったわけではないため、最終的には更に増える可能性もある。
朝陽市の中心部を包囲するように、幅１００ｍを超える“石化ベルト”が存在し、
概ね直径４ｋｍほどのリングを描くように分布することが分かっている。
このベルトの内側にあるものは、それが有機物である限り“石化”されてしまうため、
朝陽市は外部の地域に、物理的な支援を募ることが出来ない状態なのだ。
「大丈夫だと思います……ただ初めての事態なので、確証は出来ないですがね。
妨害があった時のために、ＥＭＰガンも用意はしました」
金属の怪人――メタロードに通用すると考えられる唯一の武器がＥＭＰガンである。
暴徒鎮圧用のネットガンの弾頭を、放電弾に切り替えたものだ。
本来なら電撃の威力を上げるために、コードをつけることが望ましいのだが、
樹脂製のコードは“石化ベルト内”では使い物にならないため、
特殊なスタンガンに使う強力なバッテリーを、大型のネット砲弾に埋め込んでいる。
実はこれ……廃棄されたメドゥアスのラボで押収した“戦利品”だった。
メタロードが暴走した可能性を考慮し、開発していた非常用アイテムだったようだ。
（現にメタロード試作１号体に当たるアイガーは１度暴走しかけている）
もちろん１時的に相手の動きを鈍らせる程度の効果しか期待できないため、
１時退避後、ショットガンなどの重火器を使う際の“足止め”を狙ったものである。
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ＡＣＴＩＶＥ ＳＯＬＩＤ ＧＩＲＬＳ
★ 第１１章 純化主義対共生主義 ★
第１話 石化リング破断作戦
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「そう言えば、外部との連絡が付いたと聞いたのですけど、本当ですか？」
これは大川だ……石化異変に巻き込まれた不運な報道リポーターである。
孤立状態が解消するまで、朝陽市警と情報協定を結んでいる。
「この駅前通の東にあるベルト境界で、“対岸”からの発光信号を受けました。
ベルトの幅は広くても２００ｍくらいなので、目抜き通りなら対岸が見えるんです。
おかげで朝陽市の外側でも、異変に対する規制線が張られていることが分かりました」
「良かった……それじゃあ、２次災害は最小限に抑えられそうですね」
「多分、異変前に起きた“核爆発”で、外側の警察も動き出したのでしょう。
信号のやり取りを繰り返して、自衛隊に災害派遣要請が出されたことも分かりました。
妨害のリスクを考えても、自衛隊とは早急に合流したいですね」
「話にゃ聞いてたが……日本の警察や自衛隊は優秀だな……こんな非常識な事件でも、
右往左往しないで出来ることを考えられるってのはクールだぜ」
こっちはアイガーだ……彼も今や、孤立解消作戦の変え難い戦力である。
ホルス亡き今、秘密結社メドゥアスの“内実”を知る、事実上唯一の協力者であり、
同時に石化ベルト内で最大限の抑止力を発揮できる能力の持ち主でもある。
「ほー、お前にしちゃ、随分と褒めるな？」
「勘違いすんな、冷静な評価だ……正しく評価しなきゃチームワークは成立しねぇだろ」
「なるほど、確かにそうだ」
そこで前畑は、朝陽市の地図を広げてブリーフィングを始めた。
手に持って使うためコンパクトな地図だが、石化ベルトの分布がマッピングされている。
「あとこの２日間の、観測気球やドローンを使った上空からの映像で、
“石化ベルト”の幅の膨らみに、ある程度規則性があることも分かってきました。
大きく膨らんでいるのは１３ヶ所あり、全て木立の中です」
「ふむ……恐らくそこが、“サークル”の増幅装置の設置場所だな。
１番の“最寄り”はこの通りの北東部か……まずはそこから切り開いて行くか。
最初は俺とライカとアイガーと、３人で仕掛けた方が良いだろうな」
パドルが立案した“先遣隊案”に、前畑は少し怪訝な表情を浮かべる。
「３人で、ですか？ お言葉ですが、我々も装備があれば、協力できると思うのですが」
「相手が俺みたいなメタロードだけなら、あんたたちでもどうにかなると思うが、
もしもメタドッグが１体でも生き残ってたら、えらいことになるぜ？」
「うーん……あの金属の野獣ですか……」
アイガーの指摘に、前畑は腕を組んで思わず黙り込んだ。
３日前に実施した廃棄ラボの再調査で、前畑はメタドッグに遭遇している。
既にパドルが“熱線”で撃破した後の“遺骸”だが、クマより大きな金属の体を持ち、
全身から生えた鋭いトゲや爪から、生きていれば脅威だったことは窺い知れる。
現に“対戦”したパドル自身、本気を出さなければ止められなかったのだ。
パドルを苦戦させたような相手を、警察組織だけで抑止できると考えるのは楽観だろう。
「勘違いすんなよ隊長さん、別に役に立たないって言ってるわけじゃねぇ。
だが“兵站”を確保できる陣地がなけりゃ、あんたたちの組織力は活かせねぇはずだ」
「アイガーが言う通りです、妨害が確認された時、すぐに安全を取って後退し、
装備の拡充や自衛隊への応援を要請できる体勢を整えられる環境を整備すべきです」
「そのためにも、まずは１つ目のコレを、無力化しないといけないわけよねぇ」
ライカがそう言って、前畑が広げる地図の１角をトントン、と指で突いた。
「そういうことだな……行けるんだったら、すぐにでも始めよう」
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「さぁて……今日から忙しくなるわよぉ！」
中央公園で、腕をまくって声を上げたのは明美だ。
事実上、今回の“異変”でボランティア支援チームの主導権を握っている。
「パドルさんやライカさんが、支援できないわけですもんね。
市役所の職員さんはいるけど、事情が分かる範囲はあたしたちで出来ないと」
明美に呼応するのは翔子だ……被災２日目こそ両親のいる自宅に戻ったが、
３日目から再び公園に戻り、夜間以外はここで過ごしている。
今朝も先ほど、自宅から１人自転車をこいで、ここまでやってきた。
もちろん――眞希や春海、瞳など、御馴染みのメンバーも再集結している。
春海やエミと面識のある滋、明美と知り合いの雪子の顔もあれば、
エミと仲良くなった涼子と知り合いである、天野姉弟も駆けつけてきている。
（えーっと……俺たちも戦力になるはずだよね？）
こちらはユウだ……横にはカオル、そして３日前に仲間に加わったヒカルがいる。
「もちろんよユウ君、でもあたしたちは君らの通訳でもあるわけだからね」
「通訳なら、あたしやヒカル君、アンジーさんでも出来ますよ」
そしてこちらはスミレである……この３日で、随分と会話が自然になった。
「分かってるよ、スミレちゃんたちの活躍、頼りにしてるから！」
「そう言えば、確か被害者も５００人以上いるらしいですから……状況によっては、
通訳が要らないケースもあるんじゃないですか？」
瞳の言葉に、明美や翔子、春海などが頷く。
「そうなのよね……ルイさんやユウ君たちとの距離がぐっと近づいたって意味じゃ、
今回の事件も、得るものがあったわけで……皮肉よねぇ」
苦笑する翔子……隣で眞希も吊られて苦笑した。
「あの……それで、何から始めたら良いんですかね？」
控え目にぼそり、と呟いたのは滋だ……雑談ばかりしていても仕方ないからだ。
遊ぶためではなく、災害支援ボランティアに来ているのだから。
「地震や台風で家が壊れたわけじゃないからね……まずは備蓄物資を運ぶのと、
家に帰れない人たちのテントを張るのを手伝って欲しいかな？」
明美はそう言った。
今日で“被災”から４日目になるが、石化ベルト内に家があり、
“帰宅難民”と化している市民が数千人もいる……公民館や講堂も開放しているが、
プライバシーを確保しながら休めるテントが、ベターな環境だと言える。
本来なら仮設住宅でも設置したいところであるが、そういう物資は全て市外であり、
パドルたちが石化ベルトに穴を開けない限り、持ち込むことが出来ない。
また“孤立解消作戦”が上手く行っても、石化波動を受けた民家はすぐには住めない。
倒壊こそしていないが、有機物の建材が全て変質しているため、
大規模なリフォームが必要であると考えられている。
構造材などは石化しているため、返って頑丈になっている可能性もあるが、
壁紙やフローリングや絨毯も“石化”し、柔らかさは皆無になっているはずなのだ。
（そう言えば……うちの家もあれから変な状態になりましたね。
ベッドや絨毯が凍ったみたいにパリパリになっちゃって……あの時は不思議でした）
エミの家もその石化ベルト内にある……そして母の恵子とはまだ、再会できていない。
無事だろうとは思うが、そのベルトの所為で、母もまた帰宅できないのだ。
「石化ベルトが復旧したら、被災した民家のリフォームとかもきっと本格化するから、
その場合も、あたしたちの出来ることはたくさんあるはずよ。
ううん、出来るだけ参加シーンを増やして、みんなに馴染んでもらわなきゃ。
ルイさんたちと当たり前のように過ごす風景を、あたしは目標にしたいの」
（明美さん……嬉しいこと言ってくれるなぁ、泣けるわぁ……涙出ないけど）
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朝陽市中央駅前ロータリーから、約１マイルほど東に離れた通りで光が煌いた。
光の中心にいるのはパドルだ……レモン色の肌と長い耳が形成されていく。
これが“宇宙人”パドルの真の姿だ……元々人間に似てはいるが、人間そのものではない。
ファンタジーに出てくる“異人”エルフを、筋肉質にしたようにも見える。
その横でライカも本来の姿を開放した……こちらもパドルに似た黄色い肌と長い耳だが、
パドルよりも肌の彩度は強く、海を思わせる真っ青な髪の毛が印象的だ。
そして２人とも、その体が淡い光を放射しているように見える。
見守っていた前畑の部下で、機動隊の副隊長である武井栄吉が唖然とした表情を浮かべる。
当然彼は、２人の本来の姿をこれまで見たことはない。
「……隊長から話には聞いてましたが……凄いですね」
「すいませんね、驚かせて……けどこの状態でないと、ベルト内で実力を発揮できないので」
「“金属形態”も頑丈さでは負けてないけど、スペックで言えばこっちよね。
これでメドゥアスに再会しても、『さぁどっからでもかかって来なさい』って言えるわ♪」
「ホント次から次に“ネタ”が出てくるなお前らは……底が知れないってこういうことか」
さすがのアイガーも苦笑いを浮かべる……自分も“金属の怪人”と化してしばらく経つが、
この２人の“宇宙人”の能力の“裾野の広さ”に少々、付いていけないらしい。
「“対岸”からも注目を浴びてるわね……仕方ないけど」
そう言って、ライカが視線を“石化ベルト”の対岸へと向けた。
２人がいる場所からほんの数ｍほど先から、街を孤立させている石化ベルト領域に入るが、
その更に１５０ｍほど先で、警察車両の赤ランプが明るく点滅している。
そしてその赤ランプのすぐ横で、警官らしき数名の人影が、明らかにこっちを見ている。
まるで手品のような２人の“変身”に、さぞや戸惑っていることだろう。
「このベルトを開放すれば、そのまま向こうと合流することになるからな。
それじゃあ行くぞ……武井副隊長、この“前線基地”の監視はお任せして良いですね？」
「もちろんです……ご武運を！」
武井の激励を背中に受けて、３人の“異人戦士”がベルトの中に踏み込んだ。
ほんの１歩“警戒線”を越えるだけで、明らかに周囲の空気が変わることが分かる。
晩夏にもかかわらず、空気が空間ごと凍りつくような、異様な緊迫感だ。
道路も水を撒いたような光沢を放つ……アスファルトの有機成分が変質しているのだ。
「嫌な感覚ねコレ……それに、常に力を解放させてないとまともに行動できないなんて」
「オーラでしっかりガードしてなきゃ、体が無事でも服が変質するからな」
「オーラのガードは俺も訓練で経験があるが……こいつは桁違いだな。
そういう訓練の経験がなきゃ、どれだけ凄いのか、誰も実感できないのが勿体ねぇぜ」
「まぁ実感してもらう必要もないさ、所詮は有事オプションだからな」
“石化波動”が自分たちの“間合い”にまとわり付いてくる違和感を覚えながら、
３人は今は無人になっている民家の横から、林の中に踏み込んでいく。
パドルとライカの２人は、“霊気のフィールド”で自分自身を包み込んでガードを固め、
アイガーはグラスファイバー製のスーツで波動の悪影響を最小限に抑えている。
この無機繊維のスーツ、彼がメタロイド化した時に、組織から支給された特別製らしい。
……もっとも最初に着ていたものは“核爆発”で破損し、今着ているのは“予備”なのだが。
足元の雑草はガラス細工のような光沢を放ち、足を乗せると霜柱を踏んだように砕ける。
細かい破片が氷片のように舞い、ますます季節感を麻痺させる――くどいが今は晩夏だ。
１方やや大きい雑草は砕けず、まるで針金のような硬さを見せることもある。
「雑草ってのは、踏まれても根が生きてたら再生するけれど……これじゃ無理そうね。
あいつらの革命ってやつは、自然にも全く配慮しないようね」
「世界を書き換えようとしたくらいだ、自然保護なんて端から眼中にないだろうよ」
周囲の樹木もやはりガラス細工の質感を漂わせ、ひっそりと静まり返っている。
この時間帯なら本来は小鳥のさえずりやセミの鳴き声が聞こえるはずだが、
そういった“生物音”は皆無だ……本来“生命溢れる”林の中にいるにも関わらず、
ここは余りにも無機質で、荒涼とした“異世界”と化しているのだ。
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中央公園は今や“テント村”の様相を呈しつつあった。
市内にいる数千人という帰宅難民の、半数ほどがこの中央公園で復旧を待っており、
彼らが寝泊りするテント群のため、まさに“難民キャンプ”と化していた。
その１角で、今まさに鉱物娘たちが新たなテントを組み立てている。
陽光を吸収するような黒っぽい体の持ち主はサヤだ……その後ろにはパルがいる。
ブラックオパールを思わせるサヤとは対照的に、パルは真珠に似た光沢ある桜色であり、
その２人が並んでいると、色のコントラストが強烈な印象を与える。
「ＯＫ、それじゃサヤさん、パルさん、思いっきり引っ張って！」
（パルさん行きますよ、そーれ！）
（はい、よいしょ！）
鉱物娘は人間よりも体重が重い……物理的には人間サイズの石像に他ならないからだ。
真珠に似た組成のパルは比較的軽量であるが、それでも９０ｋｇ以上あり、
完全に鉱物化しているサヤの体重は優に１５０ｋｇを越える。
そのため２人で平均的な大人４人分の“応力”を開放できるのだ。
ここにはいないが、“黄金娘”コナに至っては、５００ｋｇ以上と推測されている。
純金ではないが、その体内には実際に、相当量の金を含有しているようだ。
ジュリやキナやシノにもこれは当てはまり、“金属娘”はいずれも体重２００ｋｇを越す。
今パドルやライカと“合同任務”中のアイガーも、コナに匹敵する“重量級”だ。
テントの骨組みを組み上げる作業にも、鉱物娘が関わっている。
見た目こそ華奢な少女達だが、その質量も相まって実は皆多かれ少なかれ、結構力がある。
自分自身の耐久性をオーバーしない質量相手なら、問題なく作業が可能であるため、
大人でも重いと感じる、数十ｋｇ相当の荷物をしばしば、軽々と担いで歩く。
多少無茶をしたところで、彼女達には“傷める筋肉”もないのだ。
骨組みの上に被せるキャンパス製の屋根を張るのに、
鉱物娘２人が体重をかけて紐を引っ張るため、その応力もそれなりに大きく、
華奢な少女と甘く見ていたら、大の大人であっても簡単に引っ張り負けてしまうのだ。
このため彼女達の応力に耐える要請でも、鉱物娘の“アンカー”が要るのである。
彼女達の応力に対抗するには、相撲取り並みのカウンターウェイトが必要になる理屈だ。
先ほどサヤとパルに声をかけたのは翔子であるが、ロープを思いっきり引っ張る２人から、
対角線に当たる位置を中心に、マリとルミがアンカー代わりに待機していた。
鉱物娘の多くは、自分が動く上ではかなり制約がなくなっているが、
まだ普通の人間相手には、どういう力加減をしたら良いか分からない者が実は多い。
ルイ、エミ、サラの“３人娘”以外は、活性化されてから１ヶ月ほどしか経っておらず、
多くは自分の力加減をマスターできる段階には到達できていないのである。
（えぇと、こんな感じで良い？ もう少し引っ張ろうか？）
「ううん、もう十分じゃないかな……頑張りすぎると破れちゃうかも？」
そしてそんな鉱物娘たちの“ボランティア活動”を、多くの市民が眺めている。
ロープを引っ張る黒と白（厳密には桜色）の鉱物娘、それをフォローする青と緑の鉱物娘。
“石化少女”たちの活躍は、常識をはるかに超えたシーンと言えるが、
しかしそうした光景を、この公園に集まった市民は４日前から見てきたことも確かだ。
最初はただただ、非常識な光景に好奇と戸惑いの感情を撒き散らすしか出来なかったが、
４日も経って、その光景に彼らなりに“慣れてきた”ところもあるようだ。
鉱物娘たちの“心の声”を、聞き取れる“キャリア”たちも今や少なくない。
自分もまた１時的にとはいえ、石化されるという非常識な経験をしたこともあって、
目の前でアクティブに行動する“元人間”の少女たちに、何らかの共感を覚えているのだ。
そのため、可能なら彼女達を支援したいと考える人も、徐々に増えつつあった。
（ふぅ……このくらいでしょうか？ えぇと、ガムテープはどこでしたっけ――）
「――はい、これで良いですか？」
今――マリの緑色の手にテープを渡した、高校生ぐらいの青年もそうだったのだろう。
メガネをかけた理知的な顔つきだ……レンズの奥の光彩は緑色に染まっている。
実は彼には、マリと同じ属性＝マラカイト系の“石化経験”があった。
（えっあっ……あ、ありがとう御座います）
「頑張ってくださいね、足りないものがあったらいつでも言ってください」
戸惑いがちに笑みを浮かべるマリに、青年はそう言ってにこやかな表情を返した。
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１方――パドルたちが石化ベルト内に踏み込んでから、１０分ほどが経過した。
石化波動の影響で静まり返った雑木林は、緩い傾斜で少しずつ標高を上げていく。
恐らくはこのまま……旧奥沢村のある丘陵地帯へと続いているのだろう。
“石化した雑木林”の中は、うっすらと鼠色のモヤが立ち込めている。
小さい雑草や枯葉などが石化した後に砕け、細かい粉塵となっているようだ。
そして枝の隙間から差し込む光が乱反射し、異世界のような雰囲気を強調している。
化石のようになった樹木の根元には、石化したセミが何匹か落ちていた。
人間の被害者がそうだったように、石化したセミの色合いも複数で、皮肉にも美しい。
「パドルが頑張ってなかったら……朝陽市全体がこうなってたのよね……」
「……多分な、まぁ市街地と森林はまた風景が違うが」
「そういやお前ら、宇宙人なんだろ？ 宇宙のどこかにゃ、あるんじゃねぇのか、
こういう無機質なモンばっかりの星がよ」
「……そうねぇ、あるといえばあるわね……でもこういう風景じゃないわ」
「無機物の生態系を持つ星も確かにあるが、自然発生的にそういう環境になった場合と、
人為的に変質させた場合は、違った風景になるってことさ」
「……そんなモンかねぇ」
いまいちピンとこない表情で、宇宙人２人の後から“金属怪人”アイガーが付いていく。
――と、その時だった。
出し抜けに視界が開け、奇妙な光沢を放つ大岩が、３人の前に出現した。
形こそ岩のようだが、巨大な鉱物の塊のようで、明らかに場違いな存在感がある。
そして周囲を良く見ると、明らかに小さな樹木を伐採しただろう、手入れの跡があった。
「……随分と中途半端な偽装ね」
「まぁ、普通の人間はわざわざ、ここまで入ったりしないんだろうよ」
「怪しさ全開だなこりゃ……ってことは、こいつがその増幅装置ってわけか？」
「だな……集中して見てみろ、鉱物の岩のように見えるが、半透明で中に別の物体がある」
確かにその通りだった……光の反射具合でパッと見では気付かないが、
よく目を凝らせば巨岩は半透明であり、中に金属箱のような物体の影が見えている。
「ビンゴじゃねぇか、ならさっさとこいつを叩き壊しちまおうぜ？」
「おいちょっと待てアイガー、少しくらい警戒しろ！」
「確かに無防備だがよ、奇襲攻撃の気配もないじゃねぇか、何も問題ない――」
そう言ってアイガーが巨岩に触れた瞬間――おもむろに巨岩が閃光を放った。
「何だこりゃ―― っっ！？ ――がっ、ぁぐっ！？」
そして閃光に弾かれるかのように、アイガーのメタリックな体が地面に倒れ込む。
全身を痙攣させるそのリアクションはちょうど――ラボで強力な電撃を受けた時と同じだ。
「くっはっ……畜生、ＥＭＰ発生装置か……嫌らしいモン仕込みやがって！」
「つまり、この岩自体が放電装置になってるのね……確かにこれじゃ普通の人間はもちろん、
金属怪人が裏切っても簡単には手が出せないわけよねぇ」
「良く考えたシステムじゃないか……もっとも、それが効かない相手もいるわけだがな」
言うや、パドルは右手にオレンジ色の光を宿した。
そのまま巨岩に掌を当てる……再び岩が明滅するが、パドルはお構いなしに押し付ける。
自分で熱線を放てるようなこの宇宙人には、電撃など大した効果ではないのだ。
数秒の後、巨岩は赤熱し、掌がずぶずぶと岩の中にめり込んだ。
自らの霊気を熱放射に変え、岩を焼き切るつもりらしい。
実はこの技……第１ラボでの戦闘時、セラフィの胴体を貫通した時にも使っていたりする。
あの時は今回とは比較にならない急激な“開放”で、一気にぶち抜いたが。
「……お前の手はガスバーナーかよ」
「必要ならガスバーナー以上の熱を発生できるぜ、何なら食らってみるか？」
「冗談じゃねぇ……チートな能力ばっかり見せ付けやがって」
アイガーは今日何度目かの、溜息をつくような素振りを見せた――息はしないのだが。
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更に数分が経過した。
放電機能を持った巨岩は半分以上が“解体”され、中の装置が暴露されている。
黒光りする金属の直方体だ……最初コンピュータサーバのような物体に見えたのだが、
外側の“岩”を切り崩して出てきたのは、ほとんど継ぎ目がない奇妙なインゴットだった。
「……どう見ても、この星の技術で作ったモノじゃないわね、コレ」
「こいつと似たようなやつを、見たことがあるぜ？」
パドルとライカの後ろで“解体作業”を見ていたアイガーが言った。
少し前まで電撃を食らった影響で片膝を付いていたが、もう回復したようである。
「組織があのセンターに置いていった、中性子爆弾の中枢部に良く似ている。
ホルスが処理を諦めたやつさ……センターで使わなかったらどこで使う気だったんだか」
「……なるほどな、つまり“魔修羅”譲りの魔導式制御装置か」
「メドゥアスは魔修羅の軍属技術者だから、こういうの作れても何の不思議もないわねぇ」
アイガーの“聞いたことのない単語”で２人が会話する。
しかしアイガーはこれまでの経験から、何の話なのか何となく分かっているらしい。
「……そのマジュラってのが、ゼロが元いた魔界の国かよ？」
「あぁそうだ、人間界どころか宇宙まで覇を唱えようとする軍事国家でね」
「ところでパドル、これどうするつもり？ ……あたしもこれ解体する自信はないわよ。
だって魔修羅の軍事機密の塊みたいなもんじゃない」
「基本はアトラスやタイランタの“波動増幅デバイス”と同じだよ。
ザイノファイバーを波動伝導素子にした、立体位相回路の中心にメタ・クォーツがある。
表面に見えている模様が増幅器で、その内側に核の保護回路があるんだろう」
雄弁に語るパドルを横目に、ライカは苦笑するような素振りを見せる。
「……そういう技術者顔負けの知識あるのに、どうしてディガス行ったのか不思議だわ」
「色々と恩があってね……それにディガスだから、活かせる知識も結構多いんだよ」
そう言いながら、パドルはその魔方陣のような淡く光る“増幅器”に手を当てた。
「“意識潜入処理”するつもり？ こういうのって確か“属性反動弁”あるもんじゃないの？」
「あるだろうな……こじ開けるしかないだろう、俺もカリオロイドみたいな器用さはない」
「そうやってまた自分を痛めつけるのねあんたは……何のために３人いると思ってんのよ？」
ライカはそう言って、自らはパドルの背中に手を当てる……ちょうど、背骨を掴むように。
「霊力ガードの固さじゃ、レイオシスもラトリアンに負けていないつもりよ？
あんたの霊力で反動弁開放のカバーが難しそうなら、いつでもあたしに投げなさい」
「おい、今３人いるって言ったよな……俺に出来ることもあるんだろ？」
「奇襲攻撃にしっかり備えてて、あたしたちが処理を開始したら、周りに気が配れないわ。
意識潜入処理中は、肉体的にはほとんど無防備になるの。
もし肉体に直接攻撃を受けたら処理は失敗、そのままあたしたちはここで石像になるわ」
「……なるほどな、そりゃあ確かに、俺の責任は重大だ」
アイガーはそう言って、サイバーナイフを起動させた。
このチート宇宙人が戦闘参加できないなら、まさに自分が最後の砦になるからだ。
「それじゃあ始めましょ。 ルイちゃんたちが待っているわ」
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三度朝陽中央公園。
そのほぼ中央にあるグランドでは、即席の“バスケットボール大会”が行われていた。
テント設営を放置して遊んでいるわけではない……これも「必要なこと」なのだ。
被災者の運動不足解消と、鉱物娘たちとの交流を兼ねたイベントである。
朝陽市が被災した初日――４日前から、こういうアクティブな交流が何度も行われた。
最初はキャッチボールのようなコミュニケーションから始めて、
少しずつ本格化・多様化し、今では“運動部経験者”が何人も参加している。
当然プレイのレベルも上がり、素人には難易度が高くなるわけだが。
（――よっしゃ、決まった！）
ガッツポーズをして、音にならない歓声を上げたのはユウだ。
今し方“３ポイント”つまり、遠距離からのシュートを決めて見せたのである。
元男児の経歴を持つ“アメジスト娘”が見せたパフォーマンスに、周囲がどよめく。
石化した元人間が駆け回るだけでも驚異なのに、現役の“高校運動部男子”を交わして、
高さ３ｍ以上あるバスケットゴールにボールを投げ入れて見せたのだから。
ユウに交わされた少年は呆然とした表情を浮かべる。
被害者でもあるユウに対する“遠慮”は確かにあった……これは止むを得ないだろう。
そしてユウは、その遠慮は不要であることを、自らの行動で証明したのだ。
（うわ、ユウ君すごっ……やっぱ素質あるんだろうなぁ）
ルイも感嘆するような表情を浮かべた……因みに今は対戦チームのメンバーになっている。
こちらはこちらで、実は既にノーマルだが何度かシュートを決めていたりもする。
動き回りながら指示を出し合わなければスピーディーなプレイは出来ないため、
今回参加している“選手”は全員がキャリアで、数日前に石化した経験を持っている。
今ユウに交わされた少年も、２日前まで石化リングの内側で、石像と化したまま立っていた。
朝陽市が変質した“あの瞬間”から、４０時間以上も石化状態を強いられたことになる。
そしてこの他にコナとジュリが参加している……バスケットボールの“定員”は５名なので、
今は競技者の４０％が鉱物娘で占められていることになるわけだ。
間もなくユウと同じチームになったコナが、ノリノリでユウとハイタッチを交わした。
大袈裟に手を高く上げて、やや小柄なユウの手が届かない“弄り”まで入れて。
（ひょ～ナイッシュー、ユウ君カッコいいぞ♪）
（ちょっ、コナさん高いって！）
（さぁ皆さん切替えましょう、まだまだ５点差ですから！）
普段大人しいジュリも、言葉遣いこそ丁寧だが非常に積極的だ。
コナほど長身ではないが、ジュリもやや背が高く、実は筋肉質な体形を持っており、
メタロイド化を強いられる前は“運動部出身”だったことを示唆している。
ジュリどころかルイ自身も、博美や雪子の記憶によれば“そうだった”可能性が高いようだ。
心の声で檄を飛ばすジュラルミンカラーの“金属娘”に、青年たちが歓声を上げる。
ルイもジュリに合わせて、更にテンションを引き上げた。
（みんな何も遠慮しなくて良いからね、この試合勝ちに行こうよ！）
再び「おぉおぉ～！」と体育会系青少年たちが気勢を上げる。
ルイたちは“人外”だが、元人間であるし、何よりも“可愛い少女達”でもあるのだ。
成長期の青少年たちが“燃える”のも“萌える”のも、ごく自然な反応である。
そしてそんな光景を眺める“観客”の中にも、今や何人もの鉱物娘が混ざっていた。
まるで何ヶ月も前から知人だったように、同じ空気を共有し合っている。
鉱物娘たちは苦労を知るので、人間側が受け入れさえすれば心を開くのも早いし、
ここにいる“人間たち”の多くも、今や鉱物娘たちの境遇の、少なくとも１部を理解できる。
その１角で、柔らかい笑みを浮かべる、こちらもやはり鉱物娘――が２人。
（良い雰囲気ね……不思議な光景だけど、暖かい。――カオル君は、どう思う？）
（もちろん、同感だよ……色々あったけど、今は凄く充実してるかも）
お互いの顔を見合って、再び微笑を交わすのはカオルとミキ。
ミキが“人間時代”の記憶を取り戻したのは――３日ほど前のことだった。
それ以来２人は、かつて幼馴染だった思い出を再び、共有できる関係に戻っている。
今やお互いに、あの頃とは全く違う姿だが……その境遇に苦悩する時期は、過ぎたようだ。
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パドルら３人が石化ベルトに踏み込んでから、３０分ほどが経過した。
石化ベルトの“最前線”に待機する、朝陽市警機動隊副隊長の武井は、
ベルトの“対岸”にいる市外の警察官たちと、今も発光信号で情報交換し続けていた。
発光信号という“断片的な言葉”によるコミュニケーションで制約もあるが、
それでもお互いの現場情報が、徐々に明らかになってきている。
例えば石化ベルトの外側近くでも、強制的に石化された被害者が複数確認されているとか。
規制線が確立するまでに、警官やレスキュー隊員も何人も被災しているとか。
このうちこの大通り沿いにいた消防隊員はベルト内で強制石化され、
朝陽市側からやってきた石化キャリアの警官と、アイガーに保護されることになっている。
隊員は中央公園でパドルによって復元された後、朝陽署の対策会議に加わっている。
そんな情報交換の横で武井の部下が、呟くような言葉を出した。
「パドル殿たちは大丈夫でしょうかね副隊長……もうすぐ３０分が経ちますけど」
「大丈夫だと信じたいな……確認したくても、今の我々には難しいし」
その時だった。
やおら道路脇の休耕畑から、野良猫が１匹飛び出した。
そのまま、ベルトがある方に向かって駆けて行く……見れば追われるネズミが１匹。
「あっ……そっちの方向は……」
だが――野良猫とネズミは、武井たちから数十ｍ離れても、石化変異を起こさなかった。
それを見た武井はハッとして、おもむろにパイプ椅子に置いたクッションを掴み、
石化ベルトがあるはずの方向に向かって、フリスビーの要領で投げた。
軽いながらも揚力を得たクッションが、クルクルと回りながら飛び、
１～２秒ほどの滞空時間を経て、路面にパサッと落下した――柔らかいままで。
「あれっ？ ――ちょっ、副隊長、何する気ですか！？」
そしてそれを見届けた武井は、今度は自ら、ずかずかとベルトの中に踏み込んでいく。
だが――市外から来た消防隊員の時のように、強制石化されることはなかった。
武井は部下から１０ｍほど離れた路上で、自分の状態を確認するように色々触った後、
部下の方向を向いて、よく聞こえる大きな声で叫んだ。
「見たか……開放された、開放されたぞ、ベルトに穴が開いたんだ！！」
見守っていた部下の隊員たちから、歓声とも動揺とも取れる声が上がる。
「ほっ……本当ですか、副隊長！？」
「俺の姿を見たら分かるだろう……石像になっているように見えるか？
さっきの野良猫とネズミはどうだ、置物に変わり果てているか？」
自信たっぷりに武井が指差した先では、猫が口をもぐもぐさせていた。
……合掌。
「まぁ、まだ１部だけなんだろう……どこまで開放されたのかも俺には分からん。
左右に何ｍか行ったら、もしかしたら石像にされちまうかも知れん。
だが少なくともこの場所は、さっきまであった石化の効果を失ったんだ！」
「やった……本当に開放されたんだ、凄い！」
「あっ、副隊長、あれを！」
そして別の部下が指差して言った木立の奥がガサガサと音を立て、人影が姿を現す。
人のようで人でない黄色い肌の２人組と、メタリックな怪人。
もちろんそれはパドルとライカと、そしてアイガーの姿であった。
再び武井ら警官たちから、大きな歓声が上がった。
「おぉ……やりましたねパドル殿、ありがとう御座います！」
「まだ始まったばかりですよ武井副隊長、回復がどこまで有効かも確認しないと。
特に南側は油断できません、今後も気をつけてください」
「承知しております……では“紙吹雪作戦”を早急に開始しましょう。
それが終われば、待ち望んだ市外の救援部隊を受け入れることが出来ます！」
“紙吹雪作戦”とは、石化効果の範囲を確定させるために、ライカが提案したものだ。
非生物の有機物を散布することで、石化波動の影響圏を確認できるからだ。
花弁のように舞う紙吹雪が凍りついたように変化し、落下した場所がその境界線になる。
そのために、シュレッダーで細切れにした古紙が選ばれた。
普段は事務書類を処分した産業廃棄物でしかないものが、今回は街の救世主となるのだ。
この“仕事”は生物ではない有機物にしか、出来ないことなのである。
「よしみんな始めるぞ、何万人もの市民が待っている！」
「「おぉおぉぉおぉ！！」」
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| （第１１章第２話へ続く） |
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【Meking Memo／設定補記】
2017～2018年頃に草稿を作成したエピソード。
停滞していた９～10章が完結し、ようやく11章が始まった（苦笑）
章のタイトルから分かるように、「メタロイドによる支配」と「メタロイドとの共生」のせめぎ合いがテーマになっている。
“非常識な”朝陽市事件を経て、少なくない一般人が鉱物娘の存在を認識し、共生に踏み出していくが、
メドゥアスの残党がこれを阻止すべく、妨害工作を行うのが主な筋書きになっている。
ある意味では、パドルたちが“抵抗軍”だった第１部と逆のパターンと言えるかも知れない。 |
